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用語集 3
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国人衆達のその時
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国人衆達のその時 18
大友家の後継者達
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珠姫誘拐事件顛末
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反撃準備
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博多沸騰
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ある若武者の渡海
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国人衆達のその時 6

南蛮人襲来から六日後 博多 中洲遊郭

 

 珠姫謀反の第一報に激しく反応したのは、彼女の恩恵をたっぷりと受けていた商都博多であった。

「大友の証文を売るで!」

「こっちもや!八掛けで売るで!」

「待ってくれ!うちは七掛けで売るからうちのを先に買ってくれ!!」

 南蛮人の府内攻撃時、その最初の一報が『珠姫謀反』であった事から、大友および大友勢力の証文は豪快に叩き売られたのだった。

 その誤報が収まって南蛮人の攻撃であると分かり、一時は持ち直したと思った相場は太刀洗合戦の敗北で謀反鎮圧に時間がかかると判断され、底が抜けたように叩き落ちた。

 最安値で五掛けの割引が行われていたのだから、市場というのは正直なものである。

 ここ数日の乱高下に一夜にして長者になった者がいれば、博多湾に身投げした者もいる。

 このあたりの熱狂感は昔も今も変わらない。

 中洲遊郭を差配する島井茂勝は、平常心を装いながら銭という戦場の中で博打を張り続けていた。

「大丈夫だ。

大友家証文の買い取りは続けろ。

あの姫様、絶対これを読んでやがったな」

 商人というのは全額投資をしない。

 戦国という激変する情勢を常に横目で見ながら、相手側にも手を通しておくのが一流の商人というもの。

 珠姫はそれを知り抜いていたからこそ、島井茂勝にこんな事を先に伝えていたのである。

「私に何かあったら、竜造寺家と島津家の証文を買いあさりなさい。

ちょっとした小遣い程度にはなるはずよ」

 それは、太刀洗合戦とこの時点はまた博多に届いていない戸神尾合戦という二つの合戦にて、彼に大友家証文の損失の一部を埋める程度の利益をもたらしたのだった。

「しかし、これ以上の買い取りはこちらの持ち出しに……」

 番頭の躊躇いを島井茂勝が叱る。

「どあほ!

神屋が大友の証文を買いあさっているならば、こちらも付き合わないと向こうに全部持っていかれるぞ!」

 神屋紹策(かみや しょうさく)。

 石見銀山の銀流通に関与し、昔は大内家の今は毛利家の御用商人をやっている博多随一の大富豪が、この狂乱の大友家証文相場で動いた。


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国人衆達のその時 7

 第一報が飛び込んだ門司では、大暴落した大友家証文を底値で全て買いあさり、博多でも同じ事をやっていたのである。

 大友家御用商人としてこれを座視する訳にはいかない。

 門司を作った男として博多の長者番付に乗った島井茂勝だが、財力では神屋紹策に遠く及ばない。

 番頭が危惧したとおり、既に大友家証文で多大な含み損を抱えている現状で、更なる買占めは島井茂勝自身の破産に繋がりかねなかったのだ。

「南蛮人の次は毛利か。

悪い事は重なっておきやがる」

 島井茂勝はこの一連の流れが毛利の謀略である事は気づいていた。

 南蛮人襲来あたりは完全に濡れ衣なのだが、太刀洗合戦で毛利家と繋がっているらしい竜造寺の勝利が伝わると、筑前を中心に動揺が一気に広がってしまっていたのだから仕方がない。

 番頭と入れ違いに入ってきたのは、筑前を荒らした海賊、火山神九郎(かざん じんくろう)の下で働いている吉井荊娯(よしい けいご)。

 この中洲遊郭を守る御社衆の侍大将の一人ではあるが、本業が海賊な為に鎧はつけていない。

「原田だが怪しい動きを隠そうともしない。

 どうする?

一合戦するか?」

 筑前高祖城を本拠に近隣を統治している原田了栄(はらだ りょうえい)は、肥前国村中城城主竜造寺隆信、筑前蔦ケ岳城城主宗像氏貞(むなかたうじさだ)と共に、

「珠姫の謀反に賛同する」

として、南蛮人の府内襲撃直後から兵を動かしていた。

原田了栄はこの面子で一番博多に近かった事もあって島井茂勝に使者を送って、

「姫様の命である。

我らを中洲遊郭に入れ、博多を守るべし!」

と恫喝されたばかりだったりする。

 これを島井茂勝がはねつけられたのも、中洲遊郭が那珂川の中にあって周囲を水で囲まれ、中洲遊郭そのものが城砦化されていた上に、ならず者の御社衆が千人ほど詰めていたというのが大きい。

吉井荊娯の言葉に島井茂勝は首を横に振った。

「あの連中率いて、勝てると?」

「水の上なら自信があるが、丘の上相手だと無理だな」

 そもそも御社衆というのは、夜盗や山賊相手のならず者達を飼い慣らす為に作られた側面があり、戦力として珠姫自身がまったく期待していない。


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国人衆達のその時 8

 とはいえ、城に篭らせて飛び道具を持たせたらそれなりに脅威なので、原田了栄の恫喝をはねつけた時にただ飯を食わせ続けたかいがあったと思わずにはいられなかったのだが。

 更に、吉井荊娯率いる海賊連中にも問題があった。

 海の上での戦いがメインだったので、軽装備どころか鎧をつけない連中も多く、まともにぶつかったら勝てる訳がない。

「原田が高祖城に集めた兵は数百。

篭っている限りは手出ししないと思う。

臼杵殿の後詰も期待できよう」

 博多奉行の臼杵鑑速は、その業務の為に博多の西にある糸島半島一帯に領地を持っていた。

 現在は臼杵鑑速が大友家の外交全般を取り仕切る為に府内に常駐するので、筑前柑子岳城をはじめとした糸島半島の臼杵領の管理は弟である臼杵鎮続(うすき しげつぐ)が行っている。

 彼は明確な大友側の人間で吉井荊娯の上司である火山神九郎がここで水軍衆の再建を行っている関係から、後詰を頼んだら出てきてくれるだろう。

「という事は、立花の兵がこっちにやってきた時が見切り時か」

 吉井荊娯の言葉に、島井茂勝が部屋の中なのに東の方を見て呟く。

 立花家。

 博多の東一帯を領有し、西大友とまで呼ばれた大友一門でありながら、反大友傾向を強めている家で、神屋紹策を通じて毛利側の接触も確認されているこの家が謀反に走った場合、博多そのものが戦場になりかねない。

 それだけは避けないといけなかった。

「毛利家が立花を取り込んだ場合、攻められるのはここだぞ」

 大友家の筑前統治は筑前方分として田北鑑重が赴任すると、麓に太宰府がある宝満城に移行していた。

 結果、博多に信頼できる大友側拠点というのが、博多に隣接するこの中洲遊郭しかない。

 そして、珠姫の統治の関係から、中洲は自治都市形態を取っている博多の一部ではないと明言している。

 おまけに、南蛮人襲来の為に田北鑑重は豊後に帰還、そのタイミングを突かれて竜造寺に太刀洗合戦を仕掛けられて敗北してしまった。

 つまり、攻められない理由がない。

「臼杵家の後詰前提で篭城できるか?」

「やれと言われるならしよう。

だが、兵糧が持つのか?」

 島井茂勝の質問に、吉井荊娯は質問にて答えた。


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国人衆達のその時 9

 東に博多、北は海、残る南と西は川と四方を水に囲まれた中洲は、建物の城郭化もあって攻めるには手間がかかる。

 だが、近隣の不安定さからどれだけ篭城すればいいのか予測がつかず、兵糧が足りないかもしれないという不安をぬぐいきる事ができない。

 そして、騒乱時の常だが、現物(つまり米などの兵糧になりうる食料)相場は早くも上昇し続けている。

 このような状況で立花家が中洲遊郭を攻めた時、後詰に来た臼杵家の兵に原田家が横槍を入れられた場合、中洲遊郭を守りきれない可能性がある。

「畜生。

 宗像のせいで姫様の所に早船を送れぬ。

 陸路は竜造寺の勝ちが轟いているからなおの事怪しい……」

 島井茂勝が畿内より送られた書状の束を掴みうめく。

 風雲急を告げる九州情勢と同じぐらい、畿内情勢が切迫してきていたからだ。

 畿内情勢の主役となったのは、越前朝倉家、能登畠山家、越後上杉家で、これらの家は二つのキーワードで繋がっている。

 足利義輝と一向一揆である。

 京から越後に逃れた足利義輝は越後御所として上杉輝虎の元で政治的行動もせず、上野箕輪城長野業盛(ながの なりもり)配下の上泉信綱(かみいずみ のぶつな)と剣の勝負を楽しみのどかに過ごしていた。

 とはいえ、最上級の権威が転がり込んできた上杉家はこの権威を生かそうと試み、それ以上に義輝より諱までもらった上杉輝虎自身が、

「流浪の公方を御所に帰す事こそ我が義」

 と、燃えてしまい、関東ではなく北陸にその侵略経路を向けたのだった。

 北陸を支配する一向一揆の本拠加賀と接する一向一揆不倶戴天の敵である越前朝倉家は、それを知ると、

「公方様が上洛するなら、安全な陸路で。

 一揆勢を叩くなら、我等も加勢する次第」

 と協力を約束。

 更に、一向一揆と親しい家臣団に手を焼いていた能登畠山家の畠山義綱(はたけやま よしつな)もこれに同調。

 越前・越後・能登という三方同時攻撃に一向一揆勢は各所で寸断され、組織的抵抗ができずに追い詰められていたのだった。

 なお、この一向一揆攻撃の大義が上杉主張の『足利義輝帰還』であったが為に、それに同調した朝倉家の下で庇護されていた足利義昭がひっそりと織田家に走っていたりするのだが、そこまでは島井茂勝の耳には届いていない。


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国人衆達のその時 10

 そして、今の公方様として京に居る足利義栄(あしかが よしひで)と彼を擁立した三好家は、かつての足利義輝と同じ立場に追い込まれつつあった。

 この北陸勢が一致結束して足利義輝を擁して上洛した場合、真っ先に滅ぼされるのが彼らだったからだ。

 彼らは京周辺の大名へ支持を求めるが、心労から背中に腫物を患っていた義栄はそれが悪化。

 病の床に伏せてしまっていた。

 更に間の悪いことに、三好家家中にてお家騒動が勃発。

 この失態の責任を三好三人衆に取らせることを名目に、家中の掌握を狙った三好家当主三好義継(みよし よしつぐ)が三好三人衆によって監禁されてしまう。

 このまま足利義栄が亡くなってしまうと京に将軍が居ない事態となり、その為に幕府が出した証文はただの紙に戻るほどに叩き売られていたのだった。

 そして、畿内を勢力圏に持ち、将軍家の証文の裏書になっていた三好家の証文は堺でも流通しており、堺商人は少なくない打撃を受け、その余波はこの博多にまで響いていたのである。

 まぁ、南蛮人襲撃と『珠姫謀反』の衝撃に比べれば小さいというのが、畿内と九州の距離を現しているのかもしれない。

 叱られて出て行った番頭が手紙を持って戻ってきたのはそんな時だった。

「旦那様。

 神屋様より便りが。

 『持っている大友家証文を銀支払いで全て買い取りたい』

と」

 番頭が告げる手紙の内容に、島井茂勝がしばらく言葉に詰まる。

 資金繰りにはまだ余裕がある。

 神屋相手の大友家証文買い取り競争は、これから持ち出しという危険な橋を渡る所だったからだ。

 ここで損切りしてしまえるならば、この大混乱の後でも島井茂勝は豪商の一人として商売を続ける事ができるだろう。

 彼が富を築いた門司は毛利勢力圏との最前線。

 珠姫の狙い通り、毛利は門司を攻めないのか?

 今居る中洲遊郭は立花と原田の兵から守れるのか?

 守る為にはどれぐらいの兵糧が必要なのか?

 その兵糧を買う為の元手をどこから出せばいい?

 いくつかの質問が島井茂勝の中で渦巻き、彼の中で言葉となってため息と共にそれを吐き出した。



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