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国人衆達のその時
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国人衆達のその時 10
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大友家の後継者達
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珠姫誘拐事件顛末
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反撃準備
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博多沸騰
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国人衆達のその時 1

国人衆達のその時

 

 南蛮人攻撃から六日目 筑前国古処山城

 

 大友義鎮は生まれながらの大名である。

 大友珠にいたっては、生まれは姫で記憶ははるか未来の人間である。

 という事は、上から目線なのはある意味仕方がないものだろう。

 だが、国人衆から成り上がって中国地方一の大大名に成り上がった毛利元就は、その用心深さから国人衆の時を忘れる事はなかった。

 それは、彼が仕掛けた謀略の多くに現れるが、その謀略は毛利家が生き残る為に同じ身内や国人衆に仕掛けたものが基礎となっている。

 そんな仕掛けが大友義鎮と珠姫の父娘に炸裂するはずだったのである。

 南蛮人が府内に襲撃するなんて毛利元就にも読めなかったのは酷というものだろう。

 

「田原殿!

 府内の詳細はどうなっておる!

 こちらの早馬にも『姫様謀反!府内が焼かれた!』と届いたが!!」

 珠姫によって筑前国古処山城に転封された田原親宏に田原家家臣と共に詰め寄ったのは、千手城主

千手宗元(せんて むねもと)

 国人衆が大名の動向で旗を変える場合、一番多かったのが近隣にて一番大きい勢力と行動を共にする。

 千手宗元の場合、親毛利だった秋月家からの寝返りで毛利につける訳もなく、何かあった時の為にと転封された田原親宏を寄親にするを望んだのであった。

 田原親宏も転封先でのトラブルを解決させる為に地場国人衆を取り込む必要に駆られていた

 そのため、千手宗元を寄子にする事を了承し領内の治安改善に一役買ったのである

 この寄親・寄子というのは親子に擬制して結ばれた主従関係で、そのまま軍事における指揮系統にも繋がる為に各大名が積極的に取り入れている政策なのだが、はるか未来の珠姫からすればこの制度ヤのつく自由業にしか見えないので戸惑ったというのは笑い話。

 まあ、あながち間違っていないから困る。

「こちらにも早馬が届いた。

 謀反ではない。

 繰り返す。

 姫様の謀反ではない」

 田原親宏の言葉千手宗元を含めた家臣達が理解するのに今しばらくの時間を要した。


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国人衆達のその時 2

 そして、理解した後皆一様に疑問が顔に浮かぶ。

「では、誰が府内を焼いたのだ?」

 皆を代表する形で千手宗元が尋ねる。

 このあたり、田原家において彼の気の使われ方が分かるというもの。

「南蛮人らしい。

 これは、お屋形様よりの文、こちらが姫様よりの文。

 同じ事が書かれている」

 田原家重臣の如法寺親並にょうほうじ ちかなみ)が田原親宏から受け取った二つの文を広間の床に置き、家臣と千手宗元が食い入るようにその書状の花押を見つめる。

 千手宗元は珠姫への内応の時に彼女の書状をもらっていたから、その花押に見覚えがあった。

「たしかにこれは姫様の花押。

 謀反というのは間違いだったか」

 安堵の息を吐いて千手宗元は床に座る。

 筑前と豊前には既に毛利の手の者によって広く流布されて流言があった。

 その内容は、

「珠姫が毛利の御曹司こと毛利元鎮との情交に溺れて毛利に内通。

 珠姫が謀反を起こした時、毛利は珠姫を支援する」

という、また微妙に本当くさいものだったのである。

 困った事に、珠姫が毛利元鎮に溺れているというまぎれもない事実がこの流言を本当臭くしている訳で。

 そして、筑前・豊前は元々大内家領国だった事もあり、その大内家と九州において対立していた大友家に対してあまり良い感情を持っている国人衆は多くなかったのである。

「養父上。

 遅くなりました」

 恵利暢尭(えり のぶたか)と共に遅れてきた若君を見て、一同一瞬顔が固まる。

 田原親貫(たばる ちかつら)。

 本当の父親は豊前国小三岳城主長野祐盛(ながの すけもり)で、彼もまた養子で彼の父親は秋月文種(あきづき ふみたね)という大友家にとっての謀反人に連なる出である。

 秋月騒乱時に、秋月領の大半を領有する事となった田原親宏に

「領内安定の為に、人質として猶子を取ってみては?」

なんていらぬ事をほざいたのは、その時点ではまだ毛利家側に内通していた高橋鑑種(現一万田鑑種)だったりするのだから、毛利の諜略はかなり深い所にまで浸透していたのがわかろうというもの。


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国人衆達のその時 3

 もちろん、何かあったら彼を旗頭に謀反を勃発させる気満々だったのは言うまでもないが、秋月家の血族を領内に保護した事によって旧秋月家の家臣達が沈静化したのだから、どっちに転んでも得という仕掛けを作るあたり、後で知った珠姫が、

「あれは取り込んで正解だったわ……」

と苦笑したのは別の話。

 とはいえ、珠姫に秋月家復興を直談判した恵利暢尭を即座に田原親貫の付き人につけるあたり、繰り返すが田原親宏という老人も決して無能ではない。

 それは、恵利暢尭を入れた事で先に起こった大刀洗合戦にて彼と彼が率いる秋月旧臣達が、大友軍の完全崩壊を救って見せた事で実証されたのである。

「まぁ、聞け。

 南蛮人が府内を焼こうが、お屋形様姫様の仲が割れておらぬ。

 毛利が攻め込んでも勝てるとは思えぬ」

 一気に場の空気が凍り、恵利暢尭は田原親貫を庇う様な形で一歩前に出る。

 千手宗元や恵利暢尭などの秋月旧臣の元には、

「姫様の謀反を支援する」

という大義名分の元、数家の家が大友家に叛旗を翻す報告が届いており、それを身の潔白の証として田原親宏に届けたばかりだったのである。

 まして、太刀洗合戦にて珠姫の謀反に賛同するという旗印を掲げて竜造寺家が大友軍を破ったばかりなので、近隣国人衆の動揺は分かろうというもの。

 もし、この謀反に呼応していたら、千手宗元と恵利暢尭、田原親貫の三人はこの世にいなかっただろう。

 そんな空気を緩めたのは、その空気を作った田原親宏本人だった。

「安心せい。

その程度で討つのならば、我が家はとうの昔に滅んでおるわ。

ましてや、太刀洗での功績は賞する事はあれど、罰するほどお屋形様は愚かではない」

 大友宗家から警戒され続け、冷遇され続けた田原家当主はそれぐらいのゆとりが無ければ大友一門随一の領地と権勢を維持できない。

「とはいえ、南蛮人を叩くにせよ毛利の手が伸びるのは必定。

何か手を打つ必要があるのでは?」

如法寺親並がさらりと会話に加わり話をリードする。

そんな芸当ができるから、田原家の重臣としてこの場にいられるのだ。

「香春岳城の吉弘殿。今は高橋殿だったか。

彼が動いておる。

後詰と城番を頼んできおった」

 大友家武闘派一族吉弘家の次男坊という血筋である高橋鎮理は、南蛮人の府内襲撃報告が入ったその夜には動かせる手勢五百を率いて宇佐に向かったのである。


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国人衆達のその時 4

 この突進は『珠姫謀反!』の虚報に揺れ動く豊前国中に一気に広がり、とりあえず姫様についておけばいいやという保身の空気を作り出す事に成功。

対毛利最前線である豊前馬ヶ岳城にその日の深夜に着いて休憩を取ると城代飯田鎮敦(いいだ しげあつ)と情報交換を行い、大友家門司奉行の浦上宗鉄(うらかみ そうてつ)あてに情報収集を頼むとその日朝には出発。

昼には豊前国箕島城に到着。

怪しい動きを見せていた城主杉隆重(すぎ たかしげ)に無言の圧力をかけて、宇留津城主の賀来惟重(がく これしげ)に早馬を飛ばして豊前中部に影響力を保持する城井宇都宮一族の動向を確認。

ここで連れてきた兵を置いて高橋鎮理は供回りのみで一気に宇佐に駆け、兵は宇佐から来た水軍衆の船が回収し翌日に到着という異例の速さで豊前国を走破して見せたのである。

 豊前国の動揺が沈静化したのは、この走破に国人衆達が度肝を抜かれたのと、恩と利によって珠姫に頭が上がらない城井宇都宮一族が即座に宇佐に駆けつけたというのが大きい。

 で、ここで問題となるのは空城に近い香春岳城である。

 対毛利の最前線は豊前松山城や豊前馬ヶ岳城があるので、それほど急ぐ必要はない。

 にも拘らず、高橋鎮理が後詰を頼んだ理由は、豊前国で毛利家と開戦した場合における大友家同紋衆の大将を求めたからに他ならない。

 宇佐にいた豊前方分の田原親賢は宇佐防衛の為に前線に出せないし、田原の名あれど血は奈多の人間であり、彦山川合戦にて失態を見せているので国人衆が従うか怪しい所がある。

 だが、大友宗家から警戒され冷遇されようとも田原家は立派な大友一門であり、田原親賢の本家筋にあたり、筑前に五万石を超える大身なのだった。

 何かあった時の旗頭としてこれほど頼れるものは無い。

「あの若造は何かあった時の大将ぐらいにしか考えておらんのだろうが、甘いな」

 それで終われる年を田原親宏はとうの昔に過ぎている。

 彼は自分の求められている立ち位置を明確なまでに理解していたからこその言葉。

 つまり、珠姫の代理人――毛利から見て豊前守護代――という立ち居地を。

 太刀洗合戦で手勢を出したのは、近かったというのと日田鎮台田北鑑重の要請に従ったのが大きい。

 筑前の戦いは彼が仕切るという明確な指揮系統ができているので、こっちも兵を出しやすかったのだ。

 だが、豊前は珠姫のお膝元なだけあって、その珠姫が居ないと誰の指揮に従えばいいか分からない。

 だから田原親宏が出張るのならば、豊後から動けなくなった珠姫が喜んで追認するという所までこの老人は読みきっていたのである。

 これほどの栄誉と信頼があるだろうか。



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