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目次

 

女心をわし掴みにする方法


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1.女心をわし掴みにする方法
2.盗聴
3.今夜は星が綺麗です
4.偽名・尾田
5.裏切りの果て
6.竜巻
7.会いたい人がいるなら会いに行きなさい
8.会いたい人がいたって会いに行けない
9.二十年目の絆
10.携帯電話

著者 : たなかひまわり
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/tanahima2327/profile


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1.女心をわし掴みにする方法

これまで何度、痛い目に遭ってきたことか。

 

「田中君がいてくれて良かった!」

 

とか、

 

「田中君ってホント頼りになる!」

 

とか、

 

「田中君と一緒にいると楽しい!」

 

と、俺に関わった女の子達は口々にそう言う。

 

しかも、ものすごく嬉しそうな顔で、腕やら腹にぎゅっと抱き付いてきたりして。

 

俺のことが好きなのかと思うではないか。

 

普通そうだろ。好きでもない男に触ったりしないよな。

 

嫌いな男には絶対に触らないと雑誌に書いてあったし。

 

だから、ありがたく「好き」って気持ちに応えようとしたんだ。

 

 

それなのに。

 

いざ食事に誘うと「その日は先約があるからごめんなさい」。

 

マニュアルでもあるのか?

 

皆、口を揃えて同じことを言うよな。

 

いつ誘ってもそうだ。

 

「その日はナントカちゃんと買い物に行くからダメで、そっちの日は実家に顔出さないと怒られちゃうから……」

 

どれだけスケジュールが埋まってんだよ。

 

芸能人じゃあるまいし。

 

思わせ振りもいい加減にしてくれ。

 

純情な男心がボロボロだぜ。

 

 

 

つい昨日のことだ。

 

逆のパターンは有りな事に気づいてしまった。

 

成功している奴を見つけてしまったのだ。

 

やり方はこうだ。

 

 

ターゲットを見つけたら、本人ではなく共通の知人達に「あの子が好き」と言いまくる。

 

「あの子のこういうところがいいんだ」と、本人のいないところで具体的に褒める。

 

何度も何度も、一年間は言い続ける。

 

回りまわって本人の耳に届くようにする。

 

重いと引かれるので、本気と冗談の間くらいのテンションで言う。

 

その子が俺を意識し始め、態度が軟化してきたら脈ありと踏む。

 

でも、こちらから告白はしない。

 

馴れ馴れしい態度も絶対に取らない。

 

 

一年経って何も進展がなかったら、別のターゲットに変える。

 

心変わりがしたような、したわけじゃないような曖昧な態度を取る。

 

付き合っていた訳ではないので罪はないだろう。

 

追っかけていたアイドルに飽きて、違うアイドルに乗り換えた程度の話だ。

 

 

前の女の子は一方的に好かれることで優越感を抱いていたのに、俺の興味の対象が自分ではなくなったことで焦りを感じ始める。

 

好きでも何でもなかったはずの俺のことが、気になって仕方がなくなる。

 

俺を別の女に取られるのが嫌で、居てもたってもいられなくなる。

 

彼女から告白してくる……。

 

Winner 俺。

 

 

好きだと言われると悪い気はしないという心理と、押してダメなら引いてみろの原理を応用した例だ。

 

奴はこの方法で何年もの間、美女という美女の心をわし掴みにし、彼女達を思い通りに操っている。

 

奴は地位も名誉も持っているが、きっとそんなの関係ない。

 

俺は極貧だが、きっとそれも関係ない。

 

俺の良さをわかってくれる女性は必ずいる。

 

俺は土建屋だがきっとどこかに女性はいる。

 

必ず見つけ出す。

 

行動あるのみ。

 

ミッション開始だ。

 

 

       完


2.盗聴

太田はいつになく苛立っていた。

 

約束の時間を過ぎていたせいか。

 

ホテルの最上階。

 

私を迎え入れるや否や、太田は部屋の入り口で乱暴に服を脱がせた。

 

 

 首筋を這う唇を感覚で追いながら、私は嫌な予感に苛まれていた。

 

 テーブルの脇にはジュラルミンケース。

 

 取引の際に使われる太田の私物だ。

 

 何が入っているんだろう……。

 

 視線の先に気づいた太田は、阻むように私をベッドに運ぶ。

 

 見られては困るとでもいうように、私に覆いかぶさった。

 

 

乳首を口に含み、執拗に舌で転がす。

 

保っていた私の理性は途切れ、肌が湿り気を帯びながら震える。

 

 太田は私の大腿に手を置き、徐々に敏感な部分を捉えていく。

 

 私が抑えていた息を多様に漏らすと、太田は潤いに満ちた場所に自分のものを沈めた。

 

 

 まどろみの中、ドアがノックされた。

 

 太田はドアスコープで相手を確認した後、その人物を中に入れた。

 

「見られてないだろうな」

 

「ああ」

 

その人物は、同じ型のジュラルミンケースを持っていた。

 

太田の肩越しに、シーツに包まったままの私を見つける。

 

「摩由美さん、お久しぶりです」

 

 清水だ。太田の部下で彼よりも一回り若い。

 

乱れた形跡をいち早く見つけ、大きな鼻息を漏らした。

 

私は清水を一睨みし、立ち上がりざまにシーツをまとって浴室に向かった。

 

 

シャワーを浴びている間に太田はいなくなっていた。

 

その代り、清水がソファーでグラスに注いだビールを勢いよく煽っている。

 

「太田は?」

 

 清水に問うも、私の質問に答えようとしない。

 

「軽く扱われたもんだな」

 

清水は私の腕を掴み、強引に膝に乗せた。

 

バスローブ姿の私の胸を弄る。

 

彼とは昔、心を通わせたこともある仲だった。

 

 

「どういう意味よ」

 

 私は清水のグラスを取り上げる。

 

「売られたってことだよ。摩由美も俺も」

 

 清水はそう言うと、私を抱き上げてベッドに放り投げた。

 

 持っていたグラスが毛足の長い絨毯に転がる。

 

「最後の晩餐、楽しむか」

 

 清水は私の両足首を掴み、大きく広げながら顔を埋めた。

 

 静まったばかりの膨らみが、再び疼きだす。

 

 

 元々生きることに執着を持たない清水だった。

 

だが、今日はやけに暗い影を漂わせている。

 

荒げた息遣いから彼の哀傷が伝わり、私は抵抗することが出来ない。

 

 清水は私をうつ伏せにして、背後から何度も突き上げた。

 

 

「ねえ、どういうこと?」

 

 ベッドの淵に座り、タバコに火をつけた清水にもう一度訊いた。

 

「税関を巻き込んで、何回かに分けて薬を密輸したんだ。太田がさっき持ち帰ったケースに薬が入ってる。最後に密輸したのが拳銃で、やらせ押収させるためのもの。税関への見返りってわけね。これから俺がそれを取りに行くんだよ」

 

「捕まりに行くってこと?」

 

「そう。出所後に組を一つくれるらしいけど。摩由美は出所前の俺への報酬だってさ。このあと口封じに太田の取引先に売られるんだ」

 

 

 盗聴でもしていたかのように、説明が終わると同時にノックする音がした。

 

 出所前の報酬を邪魔しないようにするためか。

 

 やられた……。

 

 すべてを悟った私を、スーツを着た数人の男達が取り囲んだ。

 

 大きなキャリーバックが足元に見える。

 

 

 男の一人が布に浸した薬品を私に嗅がせた。

 

「何年も先の報酬なんかいらねーよな」

 

 清水が呟く。

 

 遠のいていく意識の向こうで、清水はサイレンサー付き拳銃で自分の心臓を打ち抜いた。

 

        完


3.今夜は星が綺麗です

「知ってる? 夏目漱石が英語の先生をしている時に、『I Love you』を『月が綺麗ですね』って訳したって。二葉亭四迷は『死んでもいいわ』だよ。それをさ、今でも遠回しに告る言葉として使う人がいるらしいけど、よっぽど『これから愛してるって言いますよ』って雰囲気醸し出してないと厳しいよね。文学に精通している人同士だったら通じるかもしれないけど、急に『月が綺麗ですね』って言われてもねぇ。わかんないわ」

 

 友達の冴子がネットの記事を茶化しながら言った。

 

 確かに、日常生活で普通に夜空を見上げていて、唐突に「月が綺麗だね」と言われても、見たまま「そうだね」と返してしまうだろうし、夏目漱石を知っていても、この瞬間にはきっと「うん、綺麗」としか答えられない。逆に、即座に夏目漱石を思い出し、「ありがとう」などと答えてしまい、相手が単純に月の話をしただけだった赤っ恥もいいところだ。

 

「うん、伝わらないよね」

 

 そんな言葉のやり取りをする予定がない私は、それ以上夏目漱石に気に留めることはなかった。

 

 

 ところが、予定は突然やってくる。夜、私が片想いしている相手からメールが届いた。友達付き合いが長すぎて、艶めかしい話に発展しないジレンマの元である彼が、久しぶりにメールを送って来た。

 

 ただ一行、こう記してある。

 

『今夜は星が綺麗だよ』

 

 月ではなく、星だった。夏目漱石を冴子と語った直後の綺麗シリーズ。この文面通りに受け取るべきか、それとも星と月をアレンジしての愛の告白か。私は得意の即返ができなくなった。

 

 とりあえず夜空を見上げる。街の外灯に邪魔されつつあるが、冬の澄んだ空気を通り抜け、大小たくさんの星が綺麗に瞬いている。

 

 うーん……。

 

 彼は冗談が好きな人だ。愛の告白とまではいかなくても、好意を示したい表れかもしれない。そうだ、だから月ではなく星なのだ。私が読書好きなのも知っている。決まりではないか。

 

 私はそう結論づけ、どうやって返信するかを考えた。文学的に告られたのだから、文学的に答えたい。かと言って、「ありがとう、死んでもいいわ」と打って、彼が二葉亭四迷まで知らなかったらドン引きされる。「ホントだね、星が綺麗」では芸がない。「そういうことは会ってる時に言って」では、付き合ってもいないのに上から過ぎる。

 

 どうしよう……。

 

 頭を抱えていると、再度メールが来た。

 

『もうすぐ月食が終わるね』

 

 月だけど、月食。欠けている月……不吉だ。いや、月食が終わるのだから、欠けていたけど復活しようとしている状態か。だから、欠けていた愛が復活しようとしていることを言っているのかもしれない。それとも恋人までいっていないから中途半端という意味の月食で、それが終わるということは友達からの卒業ということか。そうか、それだ。

 

 私は自己解決して返信に取り掛かる。友達止まりに焦れているのもいい加減飽きた。夏目漱石論を考えあぐねているうちに、どうにでもなれ的な気持ちも湧き上がって来た。伝わるか伝わらないか、的外れか外れてないかは別として、この際だから無難な言葉に精一杯の気持ちを込めて文字を打つ。

 

『月食が終わったら、月はもっと綺麗になるよ』

 

                完


4.偽名・尾田

 ジムで汗を流した帰りのことだった。

 

 雨の中、通りにあるベンチに腰掛けて放心している男がいた。

 

 全身ずぶ濡れになっている。

 

 今日の降りは弱いので、半日くらいそこにいるのかもしれない。

 

 リストラか、失恋か。はたまた借金でも抱えてしまったか。

 

 関わったところで他人の俺が解決できるとは思えない。

 

 困っている人を見るとつい手を差し伸べたくなるが、中途半端に助けて状況を悪化させた過去がある。

 

 相手の為にも良くない。

 

 病気で倒れそうになっている訳でもなさそうだ。

 

 申し訳ない……。

 

 俺は心の中で謝罪し、急いでいる振りをして通り過ぎようとした。

 

 すると、突然後ろから腕をがっつり掴まれた。

 

 驚いて振り返る。ベンチに座っていた男だ。見上げるほどに大きい。

 

 男は物凄い形相で「明日があると思うな」と言った。

 

「ちょ、ちょっと、放せよ」

 

 振り解こうとするも、手錠の如く手を腕にめり込ませてくる。

 

「動くな」

 

 男は掴んだ腕を引き寄せ、羽交い絞めしてきた。

 

「何すんだよ」

 

 必死の抵抗も、本降りになってきた雨にかき消される。

 

「明日はないんだ」

 

 男は繰り返す。

 

 殺されると思った。

 

 自分がいかに平和ボケしていたかを悟る。

 

 努力と忍耐を積み重ねていけば、明るい将来が待っていると思っていた。

 

 欲しいものはいつか必ずつかみ取ると信じていた。

 

 それなのに、人生は呆気なく幕を閉じる。

 

 人間は数分、いや数秒後の予知もできない。

 

 この事態を予知できていれば、まだ生き延びられたのに。

 

 まだ、やりたいことがあったのに。

 

 この男の言う通りだ。

 

 愚かだった。

 

「本当だ。明日なんか、ないんだな」

 

 力を抜き、未来を諦めた。

 

 すると、男が言った。

 

「だから、今この時を大事にするんだ…………それにしてもいい匂い、男の汗の匂いって素敵よね。私も同じジムに通っているのよ。ほら、わかる? 鍛え上げたこの体」

 

 男は抱き付いたままコートの前をはだけ、いきり立つブツを俺の尻に押し当てた。

 

                     完



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