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バースデイ・イヴ~天使はキミを利用し、そして愛した~


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白い服の男
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事件
 待っていたはずの言葉
背中を押すもの
 夢への階段

著者 : たなかひまわり
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速達1

今日は月曜日。樋口涼子の勤める書店の定休日だ。そんな朝、涼子は油断した。

 

「お母さん! 起きないの? 七時半だよ!」

 

部屋との温度差が十五度はありそうな温かい布団の中で、涼子は小学三年の娘、七海に叩き起こされた。七海は涼子が二十歳の時に産んだ子だ。

 

「え?」

 

 布団の中で体をくるりと反転させ、涼子は枕元に置いてある目覚ましを見た。スヌーズにしてあるはずの時計がオフになっている。

 

「あたし、止めてないからね」

 

 責められる前に七海は予防線を張った。

 

涼子はうつ伏せのまま、生意気な娘を横目で見上げた。そして、時間を遡った。

 

就寝前、自分で時計をセットしたのは覚えている。七海には、何回鳴ろうが、うるさかろうが、絶対に止めるなと言ってある。七海はふざけたことを滅多にしない。だから、スイッチを止めたのは自分なのだ。今朝の事は全く記憶にないが、それしか考えられない。

 

 

昨夜、涼子は肉体的に疲労しているもののなかなか寝付けずにいた。涼子は時々そのような状態に陥る。

 

両 親を早くに亡くし、一人っ子で身寄りのない涼子は、母子家庭で気を張る毎日の中、謂れのない不安と心細さに襲われる事があった。大きな一戸建ての窓から洩 れる灯りを見ると尚更だ。その家々の主婦達はそれぞれに悩みを抱えていたとしても、頼もしい力に守られて生活している。病で倒れても食べる事にはきっと困 らない。

 

涼子にも頼ろうと思えば頼れる相手はいるのだが、これといった用事でもない限り、自分からの連絡は極力避けている。

 

その相手は仕事や家族、友人に対して、自分を犠牲にしてまでも尽力する人なので、自由な時間をほとんど持たない。涼子に対しても同じだ。涼子がSOSを出すと、無理をしてでも時間を割こうとする。

 

それを身近に見て知っている涼子は、自分が甘えるわけにはいかないと凍えそうな心を自分で温める。

 

涼子が人に甘えないのはその相手のせいだけではない。今の涼子は過去に受けた傷や離婚の際に出来た鎧のような自立心を身に纏っている。

 

一人で生きる……頑ななまでに貫こうとしている決意が根底にある。弱い自分を一度でも出したら、ボロボロと崩れ落ちそうで怖いのだ。

 

もう一人、決意を揺るがないものにさせている存在がいる。七海だ。彼女の中には涼子の元夫、つまり七海の父親が今でも変わらず心の中に強く根付いている。

 

まだ三人家族だった頃、「家族は宝」と口癖のように言っている彼女から、両親の揃った家庭というものを奪ってはいけないと何度も離婚を思い留まった。それでもある事をきっかけに結婚生活を維持していく事が限界だと感じ、涼子の決断で家族という形を解消した。


速達2

離婚に対して後悔は全くないと言い切れるが、その傍らで七海の宝物を壊してしまった罪悪感がずっと消えずにいる。テレビなどに父親と母親の笑顔に包まれた子ども達が映し出され、その子が描いた絵……家族が横一列に並び、手を繋いで微笑んでいる絵を見たりすると、日頃封印していた感情が湧き上がり、胸が張り裂けそうになる。

 

涼子も本当は温かい家庭を作りたかった。疲れて帰ってくるお父さんを娘と一緒に出迎え、温かい食卓を家族三人で囲み、休みの日にはドライブしたりキャンプしたり……。誕生日やバレンタインには、お父さんをどうやって喜ばせようかと娘とサプライズを考える。毎日、会話と笑顔の耐えない家庭を作りたかったのだ。

 

でも、出来なかった。涼子は家庭を修復することに疲れてしまい、あれ以上自分を犠牲にすることが出来なかった。

 

周囲に我慢が足りないと言われようと、自分を押し殺すことに途方もない無理を感じた。だからあの日、心の中で七海に謝りながら、理想の家庭像からそっと手を放した。

 

まだ二十代の涼子には、結婚に抱いていた夢に向けて一からやり直すことが可能かもしれない。だが、七海にとって父親は一人しかいない。彼女は涼子の再婚を望んではいない。

 

娘に両親の別離という悲しい結末を味合わせてしまった以上、涼子は母親としての自分が最優先だった。自分が幸せになったとしても、七海に空虚感が残るのでは意味がない。

 

それでも昨夜のような心持ちの日は、ついつい携帯を開く回数が増える。

 

声が聞きたい。

 

そう思って着信履歴に残った相手の名前を表示させる。同時に0時を過ぎた携帯の時計を見る。躊躇う気持ちが心を占め、発信ボタンが押せなくなる。

 

せめてメールをしようかとも思うのだが、返信を期待する自分に疲れてしまうのがわかっている。ため息と共に携帯を閉じる。でも、こんな時くらい甘えてもいいのではないか。涼子は再び携帯を開く。でも……。その繰り返しだった。

 

呼吸しているのか、ため息をついているのかわからないくらい落ち込むと、涼子は本を読み、気持ちの安定を図る。

 

涼子にとって読書は精神安定剤だった。主人公に自分を投影させ、現実逃避をする。どっぷりと物語の中に入り込むと、読後、現実に戻って来た時にすっかり切り替えの出来ている自分がいた。

 

昨日読んだ本は大学生の女の子が主人公で、好きだと意識し始めた幼馴染みを事故で亡くしてしまうところから物語が始まっている。

 

いろいろな後悔に苛まされている彼女を、死んだ彼はネットを通じて交信し、自分の得意な油絵を描かせる。彼女の親友、親、彼の恩師など、温かい人物達にも支えられ、彼女がようやく立ち直れそうになった時、最期のお別れに彼が姿を現す……というお話だ。

 

伝えたい言葉は、躊躇っているうちに伝えられなくなる。

 

それを痛感させられながら、涼子は最後のページまで一気に読まずにはいられなかった。ようやく瞼が重くなって寝入ってからの三時間、涼子は熟睡したらしい。毎日のように見る夢すら見なかった。


速達3

寝坊した涼子が寝室から出ていくと、七海は既に着替えていて、自分で焼いた食パンを居間で食べていた。寝室と居間は壁一枚で隔たれた隣同士の部屋だ。

 

「ごめんねぇ……」

 

 居間の入り口に立ち、涼子は情けない声を出した。

 

本来やるべきことはしっかりやらないと気が済まない性格だ。特に母親としての自覚を欠く行為には必要以上に自分を叩く癖がある。故に、朝からやらかした失敗に酷く落ち込んだ。

 

「いいよ。それより今日、お母さん仕事休みだよね? 私が学校から帰ってくるまで買い物行くの待っててくれる? 買いたいものがあるから」

 

 最後の一欠けらの食パンをコーヒー牛乳で流し込みながら七海が言った。

 

「買いたいものって?」

 

 涼子に嫌な予感が過ぎる。

 

「算数のノートと消しゴムとシール」

 

 そう言うと七海は、歯と歯茎を剥き出しにしてニヤッと笑った。

 

 涼子は娘の不敵な笑みを斜に構えた姿勢で睨みつけながら考えた。ノートがなくなりそうなのは二、三日前に見て知っている。消しゴムも小さくなって使いづらそうにしていたので新しいのが欲しいのだろう。しかし、だ。

 

「シールって何よ」

 

いい気になっている娘に対し、涼子は腕を組んで応戦する体制を取った。

 

「今日のご褒美。自分で起きてパン焼いたんだからね」

 

 七海は立ち上がると、涼しい顔で空になったパン皿とカップを流しに運んだ。完全に自分が優位であることを悟っている。

 

ますます気分を害しながら、涼子もコーヒーを入れる為に娘の後に付いた。流しのすぐ横にある食器棚からインスタントの瓶を取り出す。蓋を開け、コーヒーの粉をスプーンで一杯。砂糖を入れるか迷う。

 

「いいでしょ? どうしても欲しいのがあるんだ」

 

 七海はトイレに移動しながら交渉を続ける。

 

「この前、買ってあげたばかりじゃない」

 

 結局砂糖は入れずに、涼子はカップに電気ポットのお湯を注いだ。七海の発言にはちょっと渋ってみる。形勢不利だが安易に物を買い与えるのは持論に反している。

 

「そういうこと言っていいの? 今度、仕事の日でも起こさないよ?」

 

 七海はトイレのドアの隙間から顔を覗かせ、涼子の弱みを突いてきた。どちらが母親だかわからない。

 

「もう寝坊しないし」

 

 涼子は口先でぼそぼそと反論する。


速達4

「わかんないじゃん。一学期に一回は必ず寝坊するくせに」

 

 トイレから出てきた七海は涼子に強く指摘した。

 

 その通りだった。疲れが溜まってくる月末の定休日に、今回のような無茶をすると寝過ごしてしまう。前回は七海も起きなかった為、彼女を遅刻させてしまった。連絡なしに登校していないことを心配した担任からの電話で飛び起きたのだ。

 

「今回だけだからね」

 

 涼子は負けを認めた。決して、起こしてもらえないことを懸念したわけではない。心の中で断固、抵抗する。口に出しては言えないが。

 

「やったぁ」

 

 七海はそう叫ぶと再び居間に戻り、勉強机にかけてあるランドセルを大きく半回転させて背負った。

 

「忘れ物ない? 給食の白衣は持った?」

 

涼子は母親としての威厳を保とうと語気を荒げて聞いた。が、七海は我関せずだ。ランドセルをカタカタ鳴らしながら玄関まで歩いてきて、ニタニタ笑いながら靴を履いた。

 

「いってきまーす!」

 

七海は勢い勇んで出て行った。その背中は勝利の喜びに満ちている。

 

涼子は玄関の扉を開けたまま娘がアパートの角を曲がるまで見送り、扉を閉めながら大きく息を吐いた。朝からテンションが下がる。

 

シールの値段などたかが知れているが、それでも余計な出費には変わらない。いや、出費よりこの気の弛みが問題だ。気を引き締めなければ……。そんなことを考えながら、涼子は鬱々としたものを解消する為に家中のカバーを洗う事にした。

 

ツイていないと感じた日、涼子は部屋中を磨く。今日のように寝坊はするわ、娘には言われっぱなしになるわで自分のペースが乱れまくりの時、掃除せずにはいられなくなる。部屋の乱れや汚れは心の乱れや汚れに通じると信じているからだ。

 

調理台に置いたままだったコーヒーを一気に飲み干すと、涼子は布団やクッション、便座カバーに至るまで、カバーというカバーすべてを引き剥がした。家中とはいっても、2Kのアパートで七海と二人暮しでのことなので、量はたかが知れている。

 

 

夫とは七海が二歳の時に別れた。

 

夫は金遣いが荒く、毎晩飲み歩いたり、パチンコや競馬に異常なほどの執着を見せていた。

 

結婚前、週に一回会い、良いところだけを見て過ごしていただけの頃には気付かなかった事実だ。涼子は同棲の必然性を切に感じたのだが、時は既に遅し、現実に失望しながらも七海を片親にしたくない一心で家庭を守っていた。



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