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莫迦にしたわけじゃないけど

「莫迦にしたわけじゃないけど」

 そんなことを言われても、こっちはまるでそんな気はしていなかった。

 あれは莫迦にされたと捕らえるべき内容だったろうか。俺が鈍感すぎるのか。彼女がやたらと気にし過ぎる質なのか。酷く気難しい男と過ごしていた過去があるとかさ。何を言っても「莫迦にしてんのか」って、聞いてくる面倒な男なの。

「今日、夕飯どうする?」

「莫迦にしてんのか」

「私、酔っちゃったみたい」

「莫迦にしてんのか」

「おまえのカーチャン出臍」

「莫迦にしてんのか」

 その男と過ごすようになって以来、文末に「莫迦にしたわけじゃないけど」を付けないと安心して喋れなくなったのだ。

「今日、夕飯どうする?莫迦にしたわけじゃないけど」

「私、酔っちゃったみたい。莫迦にしたわけじゃないけど」

「おまえのカーチャン出臍。莫迦にしたわけじゃないけど」

 ふと、不安になる。俺はもしかして莫迦にされているのではないか。こっちが鈍感なだけではなかろうか。酷く気難しい男のほうが正しい反応なのではないかとすら思えてくる。

「今日、夕飯どうする?莫迦にしたわけじゃないけど」

「莫迦にしてんのか」

「私、酔っちゃったみたい。莫迦にしたわけじゃないけど」

「莫迦にしてんのか」

「おまえのカーチャン出臍。莫迦にしたわけじゃないけど」

「莫迦にしてんのか」

 卵が先か、鶏が先か。彼女のそのいつでもニコニコしているところとかさ。睫毛がやたらとカールしているところとかさ。その辺も問題かも知れないよ。やたらと血色のいい頬紅とかさ。なんとなく酷く気難しい男の気持ちが分からんこともない。

 君の形がなんだかヒトを莫迦にしているよね。

 一通りの物思いを終えた後、俺はハンマーを振り上げる。

「煙草の一箱くらい給料日まで待ってよ」

 そう彼女は俺に言ったのだ。

「莫迦にしたわけじゃないけど」

 出来の悪い作り話に、俺は自分の頭にハンマーを振り下ろして舌を出した。


奥付



Puzzzle文集7


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著者 : puzzzle
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