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立ち上がれプレーリー

 一度でいいから一人きりで動物園に行きたいと思っていたのだ。一度だけでいいわな。有給休暇をとってさ。昼間からアルコールを舐めながら、ふわりふわりと広い敷地を歩き回る。季節で言えば、肌寒くなってきた秋頃がいい。陽が高くなるにつれて多少汗ばむくらいが調度いい。

 閑散とした動物園。退屈そうに寝そべるライオンとかさ。獣臭に顔をしかめながら齧るアメリカンドックとかさ。

 そして、俺はサル山の猿たちに声をかける。

「おはよう」

 一匹くらい振り返りはしないものか。俺は声のトーンをあげる。

「おっはよぉ」

 二匹の猿が俺を見た。いえぇい、俺の勝ち。

 スーツの内ポケットにはスキットル。そいつを取り出して安物のバーボンを一口含む。そんなスタイルがいいだろう。シラケた動物園に相応しいだろう。草臥れたスーツ。襟元の汚れたYシャツ。ネクタイは締めない。俺のためだけにとった休暇なのだ。日常とは少しでも離れたことをしたいだろう。一度もしたことがないことをしたいだろう。バーボンを舐めながらさ、退屈な動物たちと話がしたいじゃない。

「しっかし、おまえは本っ当に可愛いな」

 レッサーパンダには参る。俺はスキットルを握ったまま両手をあげた。

「おっ手上げぇ」

 毛の物としての完成度が高すぎる。

 基本的に毛のない動物は好まない。そして、最後に見たのはプレーリードッグ。

「おまえも可愛いな」

 アルコールが回ってきた俺は気兼ねなく声を上げる。

「可っ愛いなぁ」

 しかし、何かがおかしい。

「ほら、立て立て」

 結果から言えば俺の勘違いだった。

 いくら待っても立ち上がりやしない。それに随分まるまるして可愛いじゃないか。形状としてはイタチに近いものと思っていた。スッと背筋を伸ばせばほっそりするものかしら。直立不動でキョロキョロ首だけ回す姿を待ち続けたが、いつまで経っても四つ足で忙しなく動き回り、時折、穴に潜る。

 

 

「それって、ミーアキャットじゃないッスか」

 そう教えられたのは、後の同行営業で話のネタが尽きた時のことだ。沈黙を破るべく、プレーリードッグの話を持ち出せば、後輩社員に勘違いを一蹴された。

 プレーリーなドッグとミーアなキャット。

「犬猫は一対のものとして認識してるんだな」

「プレーリードッグは鼠ッスよ」

 他人の間違いを指摘することが生き甲斐なのだろう。

 

 

 束の間の休日、俺はバーボンを舐めながら柵にもたれている。

「ほら、立て立て」

 目尻を垂らしながら一体どれほど待ち続けたろうか。


彼女の列車、彼女の駅

 優に二メートルは超えようという女が、体を折りながら列車に乗り込んできた。

 彼女は俺の前に立つと、吊革に掴まって首を垂らす。そして、シートに座る俺を見下ろす格好になった。かすかな緊張感。毎朝のことだ。なにも彼女が俺に好意を抱いているわけではない。あと二駅すれば、俺はシートを明け渡して列車を下りる。彼女はそれを知っているのだ。その巨体をシートに沈めるため、彼女は今日も俺の前に立つ。

 それに気づいた俺は、いつしか使命感を抱くようになった。彼女のためにシートを確保しなくてはならない。奇しくも俺の家は始発駅を最寄りとしていた。シートの確保は比較的容易であるが、かといって必ず座れるとは限らない。俺はその確度を上げるため発車二〇分も前からホームに立つようになった。彼女が乗り込むであろう車両の、その乗車位置の脇に立つこと一五分。列車を三本見送り、ようやく乗車位置の先頭に立つ。

 そして、彼女の列車が現れると、俺はいつもと同じシートに腰を下ろした。ただし、毎日の座る位置は少しずつ違う。ちょっとした遊びだよ。列車が彼女の駅に到着すれば、彼女は前屈みにドアをくぐる。すると、真っ先に俺を捜すことになるだろう。目を合わせるなんてことはない。微かに首を振りながら俺を探す彼女の気配を感じている。

 

 ある日、俺は思い立ち、有給休暇を取得した。それにもかかわらず、いつものように家を出る。いつものように二〇分も前から列車を待ち、いつもの車両に乗り込む。そして、その日はシートの端、入り口に一番近い場所へ腰を下ろした。列車が発車するとともに胸の高鳴りを覚えた。

 彼女の駅に到着すれば、いつもの異様に大きな人影。彼女はその小さな乗車口に不満を言うでもなく、ラーメン屋の暖簾を割るように乗り込んできた。彼女は入り口すぐに俺を見つけ、乗車して二歩でその前に立つ。そして、いつものように吊革を掴んで俺を見下ろした。俺は俯いたままほくそ笑み、そして小声で呟く。

 「今日は下りないよ」

 二駅先にたどり着いても、俺は下りない。そうと決めていたのだ。

 シートに座る俺。その前に立つ彼女。二駅分を列車に揺られ、俺から彼女へシートが渡される。それが俺と彼女の全てだ。碌に目を合わせたこともない。まして声など聞いたこともない。毎朝、二〇分も前から駅に立ってシートを確保していることなど、彼女は知る由もない。この関係が壊れたとき、彼女は何を思うだろうか?身長は優に二メートルは超えようという女。俺を見下ろしながらかすかな緊張感を与える女。だから、俺はこんなことをするのだろう。

 ところで、彼女は毎朝俺を見下ろしながら何を思うのだろう。あと二駅、首を折りながら立っていれば座れるわ。考えているのはその一点だけだろうか。いつも見下ろされている彼は何を思っているかしら。気になったことだってあるだろう。まさか、毎朝大女に見下ろされている男がその存在に気づいていないとは思わないだろう。

 お互いがその存在に気づいていながら一言も口をきかない。それは異様な状況とも言える。毎朝目の前にいるのなら、笑顔で会釈の一つも交わすべきだろう。

「いつもすみません」

「いえいえお気になさらず」

 なんて挨拶があってもいい。いつもすみません。そうだろう。そんな一言があっても悪くはないぞ。俺は彼女のため、毎朝、発車二〇分も前からホームに立つ。彼女が乗り込むであろう車両の、その乗車位置の脇に立つこと一五分。列車を三本見送り、ようやく乗車位置の先頭に立つ。そして、彼女の列車が現れると、俺はいつもと同じシートに腰を下ろすのだ。

「でも、勝手にやってるんでしょう?」

 彼女の声が聞こえた気がした。

「わざと違うところに座ったりして、どんな趣味してるわけ?」

 聞いたこともない彼女の声がせせら笑う。俺は下唇を噛んで眉間に力を込めた。

 車内アナウンスが流れ、列車が減速をはじめた。俺は決して譲らないという意思表示をすべく、腕を組んでシートの背もたれに倒れ込む。その拍子に上目遣いに彼女を見た。彼女は首を垂らしたまま瞳を閉じ、湿った眉を震わせている。刹那、腹の底から使命感がこみ上げた。俺は反射的に立ち上がり、両手を斜め下へシャンと伸ばしていた。

「どうぞっ」

 彼女は長い睫毛の割に細いその瞳を潤ませていた。

「いつもすみません」

 そして、首を垂らしたままちょこんと膝を折る。

「いえっ」

 その大女の仕草がとても可憐で、俺は列車が停車してドアが開くなり小走りにホームへ飛び出していた。

 列車が滑り出すと、シートに横並びになる乗客のうち彼女がひときわ大きい。その目には安堵の表情、それを見届ける俺に目を向けることもなく、彼女は揺られて消えた。

 俺は己の愚かさを恥じ、結果的に使命を果たせたことにホッとする。ゆっくりと息を吐き出して辺りを見回すと、そこは見慣れぬ光景が。

 「あ」

 そこはいつもより一つ手前の駅だった。

 


愛はズボン

しおりをつける

 お、「I was born」。

 ブックオフで購入した一冊にあんたが引用されていた。俺の頭にこびりついて離れないウスバカゲロウの下りはあんたの一節だったんだ。

 ウスバカゲロウには口がない。正確に言えば、全く退化して食物を摂るに適しない。それを知ったのは理科室の顕微鏡ではなく、国語の教科書だった。何も食わない。ただ連鎖を絶やさぬために成虫になる。

 だって、それが生命じゃん。

 その潔さは受け入れがたい。気味が悪い。「I was born」をはじめて読み聞かされたのは小学生だった。体の中に沢山の卵を抱えながら飲まず食わず。非道いよ。トラウマだよ。

 散文詩に呑み込まれた俺は薄馬鹿下郎に変態する。

 坊主頭を寄せ合う二人の大きな目玉が拡大鏡に映し出された。卵だけは腹の中にぎっしり充満していてほっそりした胸の方にまで及んでいる。内から外から俺を襲う圧迫感。全く退化して機能しない口をモゴモゴ動かし不満をたれる。ゆっくりと呼吸する。エネルギーの消費は極力抑えたい。

 息をつく。グルコースが代謝され、アデノシン三リン酸が放出される。成虫になってからこれまで絶食を続けてきたのだ。糖質なんかはすぐに枯渇した。すでに筋肉の分解がはじまっている。糖新生からエネルギーを得なければ活きていられない。俺は痩せ細る。活きる為に痩せ細る。息する度に痩せ細る。

 天上からは飽きもせず俺を見下ろす巨大な目玉。涙で潤んだそれは白黒のコントラストが美しいじゃない。幼虫だった頃を思い返し、勇ましい顎を突き上げる。小僧の目玉くらい一突きにしてえぐり出してやれるのに。

 新鮮な目玉をエネルギーに変えて羽を広げる。そんな想像には及ばず、俺の腹には無数の目玉。小僧の黒目が動くに合わせて腹の中の目玉たちがぐるりと回った。

「淋しい光りの粒々だったね。」

 小僧の声が響く。俺は全く退化して機能しない口をモゴモゴ動かす。全て俺であれと願う。俺の腹を引き裂いて飛び出す無数の俺。俺の殻を破って生まれる俺地獄。高床式の社殿の床下なんかに穴を掘って顎を突き出す俺地獄。足を滑らせた俺を捕らえてエネルギーを蓄える。ついに変態した俺は再び顕微鏡の上。目まぐるしく繰り返される俺の生き死に。

「せつなげだね」

 全く退化して機能しないこの口で、最大限の欠伸でもしてみせようか。

 

 

「I was born」吉野弘より


キッズ嗚呼オーライ

「親父死ぬかも」

 親父が癌になった。直径一ミリの塊を内視鏡で摘めば治るんだって。それなのに俺は言ったんだ。だって、キムチが得意げに言うからさ。

「俺の親父さぁ、三メートルくらいのとこから落っこちて、骨やっちゃったんだよ」

 両手で頭を庇ったら手首の骨がバラバラになったんだって。頭蓋骨にもひびが入ったんだって。

「知ってるか?骨折したらプレートを腕に差し込んでネジで止めるんだってよ。なんか手術後もスゲェ痛いらしいよ。くっついたら抜き取るらしいんだけど、それも痛いらしいよ」

 なんだよそれ。プレートを突っ込んでネジで止めるなんて、そんなのありかよ。俺は顔をしかめながらキムチの顔をのぞき込む。それでも、あいつは口をへの字に結んでスマホの画面にせわしなく指を滑らせる。

「よっしゃ、七コンボっ」

 公園のベンチで背中を丸めながら小さな画面に目を向ける。自分の親父の災難を何でもないように話しやがる。その姿がなんだか得意げに見えたんだ。

「親父死ぬかも」

 キムチは途端に手を止めて、俺に振り返る。一〇秒もすればスマホの画面は真っ暗になった。それでもキムチは口を半開きにしながら目を泳がせている。

「ごめん」

 俺は沈黙に耐えかね口を割った。

「ごめん」

 キムチは繰り返す。下手な冗談かと思って歯を見せると、キムチは眉間にしわを寄せた。

「ごめん」

 俺は下唇を噛む。

「いいんだ。ただ、なんて言っていいんだか」

 キムチは上唇を器用に噛んだ。すると、いいタイミングでマメが駆けてきた。滑り台を滑り降りてチョワーとか言いながら。

「マメちゃんは知ってるの?」

 俺は大きく頭を振って、突進してくるマメを受け止める。

「お腹空いた?」

 そう尋ねれば、答えは決まっている。マメは大きく首を垂れた。

「そろそろ帰ろうか」

「バイバイ」

 マメがキムチに小さな手を振る。俺は誰に目を合わせることもなく、マメの手を引いた。

 だって、キムチが悪いだろう。あんな平気な顔で自分の親の不幸自慢をしておいて。なんで、俺の親父の話であんな顔するんだよ。なんで、急にいいいヤツみたいな顔しやがって。なんで、公園でゲームばっかりしているヤツが。なんでだよ。

「兄兄、痛い痛い」

 手をピンと伸ばしたまま俺に引きずられているマメが情けない声を上げた。

「ごめん」

 俺は歩みを緩めマメの手を離す。その小さな手は直ぐに俺の手を握り返してきた。俺はその手を振り払い。親指を突き立てて握り直す。そして、俺は親指でマメの親指を押さえ込んだ。

「イチニサンシゴロクナナハシキュジュッ」

「急にズルいぃ」

 頬を赤くしたマメから笑みがこぼれた。自然と俺も笑顔になる。小さな親指は笑顔の発射ボタン。

「今度は競走だよ」

 俺の返答を待たずして、マメは駆け出す。俺は大きく頭を振るって三つ数えてからその背中を追いかけた。


同期会

 初めてここにやって来た時、俺たち同期組は男女四人四人の八人だった。でも、女たちは一人消え、二人消え、ついに残ったのは男四人。

 最後に同期で席を囲んだのは、四人目の女が消える直前だった。薄ぼんやりと輝く女は、世界に不満を撒き散らしながら消えていった。こういうことがあるととても残念だよ。目が眩むくらいの満面の笑みで世界を見切ったように飛び出して欲しいと願う。でも、そんなヤツは滅多にいない。女四人は皆何かしらの不満や苦しみを抱えて消えていった。

 そんなことが続いてから、俺は能面を被ったようになって、笑うことも怒りを露わにすることも極力控えるようになった。

 そんな俺が心の底から笑えたよ。

「未来はガタガタゴーじゃねぇだろう。なんかシュイーンみたいなことにならんの?」

 久しぶりに同期会をしようなんてことになったきっかけは、偶然ホヘトと出くわしたことだった。

 その日、俺は希少種の一二番を連れてラボに向かっていた。俺たちはもう絶滅が決定しているわけだが、やたらとY遺伝子が強いようで、増えはしないが絶滅が危惧される立場にはなかった。

 カロリーメイトをかじりながらメトロに乗り込むと、ウィダーインを啜るあいつが運転席に座っていた。それを見つけたのは一二番だった。運転席を指さして彼女は言った。

「イロハニの同期の方じゃないですか?」

「本当だ。よく分かったね」

 なんて言ってはみたものの、分からないはずがない。活発なプロリフェレーションとアポトーシスを繰り返す俺たちの細胞は常に入れ替わっている。全身からフツフツと音を立て、表皮は波を打ったように蠢いている。動的平衡が保たれた、こんな種族は俺たちくらいしかいない。俺はこの惨めな運命に苦笑いを浮かべた。

「イロハニも笑うんですね」

「笑った訳じゃない」

 俺が眉を顰めると、一二番は目を細めた。随分と綺麗な笑みを浮かべる娘だ。続いて、一二番は運転席に目を向け、断りもなく指先で空気に波を立てた。その波動は真っ直ぐに運転席へ届き、窓ガラスを打った。運転席と言ってもメトロは自動運転だ。ホヘトは正常に動作しているかどうか見守るだけ。長生き以外に特長ない俺たちには碌な仕事が割り振られなかった。

 ホヘトが振り返る。俺は微笑みもせず軽く手を挙げた。あいつは少しばかり目を見開いて俺たちを手招いた。ぼんやり立ち尽くしていると、一二番は再び波を起こす。俺の背中に衝撃が走り、滑るように運転席へ飛んでいった。

 ホヘトは窓を開けて肘をかける。

「久しぶりじゃないか、イロハニ。なんだよそのシュイーンな動き」

「あいつのせいだ」

 蠢くホヘトの顔から目を背けて顎を一二番に向けると、一二番は得意げに微笑みながら指先を突き上げていた。

 アンマリチカラヲツカイスギルナヨ

 声にはせず口だけを動かす。いつも言っていることだ。一二番は舌を出して指先を引っ込めた。

「しっかし、もう二一世紀だって言うのにこの列車はないよな。未だにガタガタゴーだ」

 考えてみればイロハニと会うのは二〇世紀以来だ。

「二一世紀って言えば、タイヤのない車がシュイーンのはずだったよな」

「今みたいな力を使えばいいんだろうが」

「希少種の力をあてにしても、直ぐに絶えるだけだ」

「悲しいねぇ」

 長生きしか能力のない俺たちとどっちが悲しいか。言いかけた言葉を呑み込む。最近、湿った言葉を選びがちだ。

 不意に視線を落とせば、すぐ側で一二番が見上げていた。

「私、一二番」

 そう言ってホヘトに手を伸ばす。あいつは口元を歪めて意地悪く答えた。

「今度は俺を吹っ飛ばす気か?」

「まさか」

 綺麗に笑う一二番の手を、ホヘトがキツく握った。蠢く手から一二番に高い熱を伝える。

「ねぇ、イロハニ。あなたとてもいい顔してるわ。たまには同期で集まったらいいじゃない」

 すぐさまホヘトが答える。

「いいね。同期会か」

 それからの展開は早かった。すぐに一二番が店を予約して、俺たち同期にシグナルを送ったのだ。

「便利なもんだ」

 だから、すぐに絶えるんだよ。

 希少種をラボに届け、僅かな賃金を得ると、俺は一二番指定の居酒屋へ向かった。暖簾を割ると、既にホヘトが忙しなく箸を動かしながら杯を傾けていた。

「よう早いな」

「腹が減って死にそうだったんでな」

「死ぬ前に喰ってくれ」

 つならない冗談ではない。活発な動的平衡を保つ俺たちは喰い続けなくてはならない。つまらない現実だ。

 間もなく、チリヌルとオワカが現れた。恐る恐る店内をのぞき込む二人は、俺たちを見つけるなり直ぐに肩を落とした。

「なんだよ。お前等か」

「なんだよってのはなんだよ。不満か?」

「随分可愛らしい声で信号が届いたもんだからな」

 俺が鼻を鳴らすと、ホヘトは言った。

「一二番って可愛くねぇか?」

「なんだい。おまえ外人が好きなのか」

「こいつ希少種のボディーガードしてるんだよ」

「そんなことしてるのか。大したもんだ」

「大したことはない。さぁ、頼むぞ。呑んで喰って活きるぞ」

「現実的なこというなぁ」

「今日は呑むよ」

「宵越しの金は持たないってか」

「死ぬぞ」

 乾いた笑いが響く。

「ホヘトは何してんのよ?」

「メトロの運転士だよ」

「ガタガタゴーの見張りだろ」

「未来はガタガタゴーじゃねぇだろう。なんかシュイーンみたいなことにならんの?」

 繰り返される日中と同じ話題。俺は堪えきれず声を上げて笑った。ホヘトは肩を持ち上げ、チリヌルとオワカは目を見合わせて首を傾げる。

「よし呑むぞぉ」

 俺は声を荒らげた。そして、宵越しの金は持たぬと決めた。

 



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