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 二人のパーティ結成祝賀会、ということで、どこか宴会場はないかと探してみたところ、この村はそんなに広くもなく、冒険者の宿兼酒場は、最初にチェリーとライラックが入った店のみだった。
 チェリーはライラックのマントを引っ張り、『あっちの屋台の焼串は美味しそうだね!』『こっちで綺麗な花が売ってるよ!』とグルグル歩きながら店を探し、ライラックもそのパワーに圧倒されて渋々着いてきていたが、元の店に戻ってくる頃には、すっかり夕方になっていた。
 村中を歩き回ったチェリーは酔いも醒めたため、気絶させて放置してきたタコ…禿坊主のことを思い出して、顔を青くする。

「ね、ねぇライ…、私、今からお店にまた行ったら、お店のご主人に怒られるかなぁ…?」

 店の入り口まで来てから、ライラックの背中に隠れるようにして、チェリーが細々と言った。

「……まあ、普通に怒られるんじゃないか。…ところで、ライって何」
「え? だって、名前が『ライラック』でしょ? だから、『ライ』って呼ぶね」
「……別にいいけど」

 チェリーが怒られようが、なんと呼ぼうがどうでもいい、とでも言いたげにライラックは小さくため息をついて、酒場のドアを開けた。
 村の中央では祭りのクライマックスのイベントを行っているせいか、店の中は夕食前だというのに、意外と客が少ない。
 酒場の主人は「いらっしゃ~い」という言葉を投げながら、二人の方を振り向いた。
 その途端……

「おきゃくさああああああああああああん!!!! お待ちしておりましたよぉおおぉおおぉお!!!!」

 小太りでちょび髭を蓄えた、小さなくりくりお目目のおじさん主人が、ライラックに一直線に飛んできて、ヒシッとその両手を握りしめた。

「な、何?」

 尋常じゃない主人に引き、ライラックは一歩後ずさる。
 その拍子に、チェリーの足を踏んだ。

「いたあああああい!!!!」

 後ろから聞こえた奇声に、主人はライラックの後ろを覗き込む。

「ああ! 御嬢さんもご一緒でしたか!!!!ささ、中に入って!!!」

 そういう主人に、二人は半ば強引に、店内に引きずり込まれた。


************


 無理やり椅子に座らされた二人の前のテーブルには、頼んでもいないのに、次から次へと料理や酒やデザートが運ばれてくる。
 呆然とそれを見つめていた二人だが、先に口を開いたのはライラックだった。

「…おい、これは何の真似だ」

 忙しそうに料理を運ぶ主人を睨みながら言う。
 その眼力に負けないよう、主人は小さなお目目を精一杯細くしながら、ニヤッと不敵な笑みを浮かべて、空いている椅子に座った。

「……実はですね。お二人さんが、昼時に倒していったタコ…いや、禿坊主。さてどうしたものかと思っていたところ、なんと!」

 そこで机をバァン!と叩く。なみなみと注がれていた飲み物が、チェリーとライラックにぶっかかった。
 気にせず、主人が唾を飛ばしながら叫ぶ。

「なぁんと! お尋ね者の一人だったんですよっ!!!! ほら、そこの壁にかかっている賞金首のチラシ! そいつですそいつ!!!」

 顔を真っ赤にしてチラシを指をさす主人に、ライラックはマントで顔を拭きながら言った。

「……よかったな、それなら警備兵呼んで、賞金でも貰えたんだろ」
「ちがうんですっっっ!!!!! それがっ!!!! お縄を巻く前に!!! 逃げられちゃったんですぅぅぅう!!!!!!」

 よほど悔しいのか、主人はどこからともなく取り出した白いハンカチを噛みしめながら、キィィと歯ぎしりをした。
 未だに状況が把握しきれず、ぽかーんと座っているチェリーをチラリと見た後、ライラックは小さくため息をつきながら、主人に言った。

「……大体分かった。……で、どうしろと」

 その言葉に、主人の顔は一変してパアッと明るく輝き、小さな目をキラキラさせながら、椅子に座りなおしてライラックの方に向き直った。

「実は、警備兵が後を追いかけて、ねぐらを掴んだんですよ~! ……ですが、相手は盗賊団の一味らしいし、なにせ、今は村のお祭りの際中じゃないですか! ……何分、人手が足りないんですよぉ~!」
「人手が、じゃなくて、警備兵がだろ」
「ええっ! ですから、冒険者様に依頼して、『盗賊退治』をお願いしたいんです!」
「別に只の通りすがりの賞金首だったら、捕まえて金にしようとせずに、放っておけばいいだろ?」

 こぼれて半分になった葡萄酒を一気に飲み干しながら、ライラックは呆れ顔で主人に言葉を投げた。
 睨まれた主人は、しゅんと小さくなりながら、消え去りそうな声で言葉を続けた。

「……実は……、その盗賊に………、お祭りのクライマックスで使う秘宝も盗まれてしまったらしくて……」
「ええええええええええええ!!!!!」

 主人の声に驚いたのは、チェリーだった。

「お祭りのクライマックスって……あと数時間しかないじゃないですか!!!!」
「そ、そうなんですよぉ~~!!! なんとか取り戻さないといけないんですが……どうやら、今この村にいる冒険者様たちは、あなた方しかいないみたいで……」

 チェリーの驚きようにさらに小さくなりながら、主人は言った。
 そう、村の祭りのクライマックスは、秘宝を使って毎年盛大に盛り上げていた。
 それが盗まれてしまったのだから、大至急取り戻さなければいけない。
 しかし、村の警備兵だけでは、人数も少なく戦闘能力もない。そのため、盗賊を退治しに行くことが出来ないから、冒険者である二人に退治を依頼したい。そう言われたのだ。
 ライラックは、そんなことだろうと思ったと呟きながら、出された料理を断りもなく口にした。
 チェリーは、何が何だかわからず、アタフタ慌てるばかりだ。

「た、大変じゃない! ライ、食べてる場合じゃないよ! 秘宝取り返しに行かないと!」
「……まあ待て。俺たちには関係のない話だろ?」
「そんな…! 困ってる人を見捨てておけないじゃない!」

 チェリーが喚くのもお構いなしに、ライラックは主人の方を見て、鶏肉を噛みちぎりながら言った。

「……賞金首の報酬は全額いただく。それに依頼料上乗せだ。いいな?」
「は、はいい! もちろん、お食事代も宿泊代もいただきません、全額タダです! し、しかしどうしても時間までには秘宝を……っ!!!」
「……だそうだ、どうするんだ?」

 不意に、ライラックに意見を聞かれ、チェリーは慌てた。

「え、え、なに?」
「……だから。食事代と宿代をタダにしてくれる上に、賞金首の報酬も全額貰える代わりに、秘宝を取り戻してきてほしいんだそうだ。お前が決めろ」
「……え? あ、ああ! もちろん、取り戻しに行きます!!!まっかせといて!!!」

 やっと理解できたチェリーは、酒場の主人にニッコリ笑ってピースサインを出した。
 主人は、笑顔で両手を広げながら言った。

「ありがとうございます!!! ありがとうございます!!! じゃあ、仕事の依頼の前払いってことで、こちらの料理をどうぞ!!!!……ってあれ?」

 テーブルの上に置かれていた料理は、既にライラックによって半分近く食べつくされていた。

「ずるーい! ライ、私の分もとっといてよねー!」
「早い者勝ちだ」
「ムキー! こっちにあるスィーツは、全部私のだからね!!!」

 二人で食糧の奪い合いをする光景を見て、主人はこっそり冷や汗を拭いた。

「……この二人に依頼して、大丈夫なんだろうか……?」


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最終更新日 : 2014-08-30 14:24:53

この本の内容は以上です。


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