閉じる


試し読みできます

リライト

 ずっと一人だった。気が付けばひとりでいる。誰かといても、街を歩いていても、群衆の中孤独に涙する。誰も私孤独だと教えないで欲しい。誰からも憐れみなんてうけたくない。可哀そうだと気付いてしまうから。本当は可哀そうなのだと心のどこかで悟っている、知っている。だからこそ、指摘されるのが何よりも怖い。怖いのだ。心に蓋をしていれば、傷つくことなんてない。

 

 自分の気持ちを表現することが苦手で、これといった友達を作らずに生きてきた。学校大嫌いだった。集団行動なんてしたくもなかった。陰で悪口を言われているのはわかっている。それでもおべっかを使ってまでどこかのグループに属すなんてまっぴらごめんだ。それだけは避けたかった。学校に行くのは、時間の無駄だと信じている。行ったところで今後の人生に役立つことなどひとつもない。

 

 こんな性格だからか、学校のグループ分けでは、いつでも厄介者。それぞれリーダーが一人ひとり指名をして、グループを決める時でも、最後まで残るのは私だ。そして、どのグループが私を拾うかで必ずもめる。

 

 運悪く私をとらなくてはならなくなったリーダーは言う。

 

「あああ、厄介者ひいちゃった」

 

 頭を抱えている。いかにも困った顔を作って、露骨に嫌なそぶりをみせる。そうだよ。私は厄介者だよ。残念だったね。ご愁傷様。

 

「ありがたく思えよ。お前を入れてやったんだから」

 

 決まりきったように捨て台詞を吐く。早く年をとりたい、その思いで頭がいっぱいだった。学校から去りたい。早くこのまま消えてしまいたい。蒸発する水みたいに。

 

 そんなこんなで義務教育をなんとか終え、行きつく先はどこでもない、この家だった。高校にも行く気なんかない。その方がお金がかからなくて、両親は安心するはずだ。口では高校くらい行かないとと言うけれど、内心ではどうせ続かないのに入学金を支払うなんて無駄だと思っているに違いない。その証拠に高校の話をしてきたのは、一度だけ進路相談の形式上言ったぐらいだ。

 

 先生はとりあえず高校を勧める。これも形だけの話で心の底から心配している訳ではない。親も一緒になって高校、高校とお経のように唱えている。こんなときには、黙秘権が一番効果的だ。だんまりを決め込んで、何を言われようが、泣かれようが、もう知らんふりをする。

 

 その甲斐あってか、私の進路は宙ぶらりんのまま卒業の日を迎える運びになった。誰も泣かない卒業式だった。泣きまねをする子はいたが、心から泣いてなどいない。みんなと別れて寂しいよぉと口では言っていても本心ではない。たぶん、きっと、そうだ。そんな気がする。学校で学んだこと、それは忍耐力、だけだった。

 

 家にいてもやることない。親はあきらめているのだろう。何も言ってこない。家の手伝いをしなくても、文句を言われることもない。とりあえず家にいて、日々何もしない毎日。家にいれば、誰からもバカにされることもなく、問題が降り注いでくることもない。とりあえずは。

 

 やりたいこと、夢中になれること、そのうち見つかるのだろう。家から笑いが消え、私の話題はタブーになった。それでもこの家から離れることができないでいる。

 

 私は間違っているのだろうか。いや、私は間違ってなどいない。おかしいのは、周りの環境だ。環境のせいで、私は家にいるしかない人間となった。私を認めない周囲の人間は、馬鹿ばっかり。そうだ。他の人間が馬鹿なのだ。そうに違いない。

 

 

 人間? 私は人間か? いや、人間じゃないのかもしれない。じゃあ何だ。きっと、私みたいなのを寄生虫と呼ぶのだろう。絶対に。

 

 母親は手伝えとも言わない。私のことをあきらめているはずだ心の片隅で思う、頼む私に期待しないでくれといっても今の私に何を求め、何を期待できると言うのだろう。

 

「何もないな」

 

 私のつぶやきに母親がびくっとした。

 

「ごめんね、おかずが少なかった?」

 

 いつだってそう、まるで腫れものにでも触るよう。母親が背中を丸めて台所に立つ。心なしか泣いているように見える。そう、家をこんな風にしたのは私のせいだ。私がいけない。不幸の元凶は私だ。そして何よりもいけないのは、あいつら。私を馬鹿にしつづけ、嘲笑してきたあいつら。私から尊厳を奪い、この家に押しやったあいつらだ。

 

「お前さえいなければ、このクラスは楽しいのにな」

 

 あいつらのお決まりのセリフが頭に響く。私さえいなければ、迷惑を誰にもかけることがない。そんな考えが頭をよぎっていく。ダメだ、ダメだ。そんな弱気なことでは。ダメだ。自分で自分にカツをいれる。私はそんなに弱い人間ではない。ただ世間に受け入れてもらえないだけだ。自分を理解できない周囲が悪い。すべての根源は、そこにある。

 

 どこかに自分を受け入れてもらえる場所があって、そこに行けばきっともっと自由に生きられるのかもしれない。じゃあ、そんな場所はどこにある。見つからない。未だに。その答えを聞いたことすらない。あるのかもしれないし、ないのかもしれない。そんな自分だけの場所。心が落ち着いて、安らかに過ごせる場所。

 

 どこか、ここじゃない、どこか遠い場所。きっとこの家にいれば、どこからか啓示みたいに降ってくるのだろう。いつの日か、この家からサヨナラする日がやってくるはず

 

 それまでの間、この家から離れられない。

  

 ベッドにもぐりこみ目を閉じる。眠っているのか、気を失っているのか、はっきりしないまま朝を迎える。夢なんか見ない。夢の見方わからないから、夢をみることなんかない。

 


試し読みはここまでです。続きは購入後にお読みいただけます。

この本は有料です。閲覧するには購入する必要があります。
購入するにはしてください。
有料本の購入に関しては、こちらのマニュアルをご確認ください。
販売価格350円(税込)

読者登録

佐藤祐実さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について