地政学的要因でガソリン高騰

 中東情勢の悪化などを受けてガソリン価格の上昇が続いている。資源エネルギー庁が7月2日に発表した全国のレギュラーガソリンの平均価格(6月30日)は、前週より1円高い168.4円と10週連続で上昇し、5年9か月ぶりの高値だ。

 ガソリン価格は2008年8月に1リットルあたり185.1円の史上最高値を記録した。現在は2008年9月下旬以来の水準で、1年前と比べ約17円、2年前と比べ約29円値上がりした。イラクでは、油田周辺で軍と過激派組織の戦闘が続いている。リビアなどの情勢も不安定で、原油価格は当面、高値で推移すると予想される。

 このように、日本が戦争を放棄していても、原油価格は地政学的要因で上下する。戦争はしなくても他国の武力行使によってガソリン代は上がるわけだ。現在、東シナ海では中国とベトナムや日本がぶつかっている。もしここで何かあれば日本のタンカーは通行できず、あっという間に日本はエネルギー危機に陥る。



 自国のタンカーは安全に日本に送り届けなければならない。安倍内閣が7月1日夕、他国への攻撃に自衛隊が反撃する集団的自衛権の行使を認めるために、憲法解釈を変える閣議決定をしたのは、当然の決断といえよう。

 一方、日本は石油依存社会から脱却したいところだが、原発は動かず、新エネルギーにはまだ十分な科学技術はない。しかし、その可能性は日々探求されている。

 次世代のエネルギーとして期待されているのが、水素だ。水素は地球に大量に存在する水を分解することで得ることができる。しかし、水の分解はそれほど簡単ではない。今回、理化学研究所環境資源科学研究センターは、植物の光合成をヒントに、中性の水を分解して電子を取り出す「人工マンガン触媒」の開発に成功した。


 水から電子取り出すマンガン触媒開発

 水分子は自然界に最も豊富に存在する電子源の1つで、水素や有機燃料の製造を担う重要な化学資源になる。自然界では、植物などがマンガンを含む酵素で水から電子を獲得し、その電子を用いて、光合成で二酸化炭素から炭水化物を作り出している。植物の水を分解する酵素の構造をまねて、水から電子を効率よく引き抜く人工マンガン触媒の開発が進められてきた。この人工マンガン触媒は、強酸や強アルカリの環境では水から電子を引き抜けるが、中性の環境では活性が大きく低下する弱点があった。

 研究グループはまず、中性の環境で生体マンガン酵素と人工マンガン触媒の活性の違いを詳しく調べた。その結果、水が分解する過程(2H2O → O2 + 4e- +4H+)で、生体マンガン酵素では、電子とプロトンが同時に移動するのに対し、人工マンガン触媒では、電子がプロトンよりも先に移動することを突き止めた。

 そこで、プロトン受容能力が大きい塩基の利用を思い立った。人工マンガン触媒を電極に使う反応で、塩基を水に添加して、電子とプロトンの移動タイミングを調整した。塩基として各種ピリジンで比較した。このうち、ガンマ・コリジンがプロトンを引き抜く能力が最も高かった。ガンマ・コリジンを水に加えると、中性環境(pH=7.5)での水分解活性は15倍も増え、強いアルカリ環境で得られる値の60%にまで達し、中性の水から電子を取り出すマンガン触媒として十分な活性を確かめた。

 今回の成果は、豊富に存在する中性のクリーンな水を電子源として、安価なマンガンを触媒に使う低環境負荷の燃料製造に道を開くものと期待される。研究グループの中村龍平チームリーダーは「ピリジン自体が酸化分解されるので、安定性に問題があり、実用化はまだ難しい。しかし、われわれの研究で、中性の水でも電子源として利用できる可能性を示した。この反応の仕組みは、ほかの触媒にも応用できるだろう」と話している。(サイエンスポータル 2014年7月3日)


 生命に不可欠な元素「マンガン(Mn)」

 25番元素マンガン(Mn)は、あらゆる生物種にとって不可欠な元素である。Mnは、ミトコンドリアに局在する酵素マンガンスーパーオキシドジムスターゼ(Mn-SOD)の構成成分であり、細胞毒性を示す遊離基(フリーラジカル)の1つ、スーパーオキシドアニオン(超酸化物陰イオン;O2−)を過酸化水素(H2O2)へと不均化することで、こうした有害な活性酸素種から細胞を守る重要な役割を果たしている。他にも、Mnはグルコース代謝やビタミンB1の利用、RNAの作用などに関与するさまざまな酵素に含まれている。

 Mnは人体に必要な元素ではあるものの、必要量が非常に少ない(成人1人当たりの平均存在量はわずか約12 mg)ため、必須元素として認められるようになったのは1950年代になってからだった。日常摂取量は平均4 mgだが、これでも十分過ぎる量である。Mnは数多くの食物に含まれており、シリアルやナッツから多く摂取できる。また、フランスの珍味エスカルゴやビーツなどには特に豊富に含まれている。しかし一方で、Mnはダストやヒュームの形で多く吸入すると精神に異常を来すことが知られている。実際、マンガン鉱の採掘労働者はかつて、不随意的な笑いや叫び、攻撃性、妄想、幻覚を伴う「マンガン錯乱」の症状に苦しんでいた。

 冒頭で述べたMn-SODの細胞を守る能力は、1950年代に、放射線抵抗性細菌Deinococcus radioduransで証明された。この細菌は、強力な放射線を照射した食肉の中でも生き残ることができるのだが、この能力は、D. radioduransが鉄(Fe)よりもMnを優先して蓄積する性質を持つことや、豊富なMnを利用して、放射線照射で生じた膨大な数のO2−を破壊することに起因する。こうしたMnの働きにより、細胞のDNA修復機構は機能し続け、細胞はなんとか生き延びることができるのである。


 軟マンガン鉱(二酸化マンガン)

 Mnは、元素として単離されるずっと以前から、軟マンガン鉱(二酸化マンガン;MnO2)という黒色鉱石として知られていた。今から3万年以上前にフランスのラスコー洞窟で描かれた壁画には、このMnO2が黒色顔料として使われていたのだ。また、79年のポンペイ壊滅時に命を落とした古代ローマの博物学者、大プリニウスは、著書『博物誌』でガラス職人が無色透明なガラスを得るために黒い粉を使用していたことを記しているが、この粉がMnO2であることはほぼ確実である。MnO2はこの他にも、黒色顔料として陶器にも使われていた。

 マンガン鉱石はまた、地球の多様性の数千年にわたる変化の証拠を提供している。4億~18億年前の堆積岩中にマンガンがほとんど存在しないことから、海中酸素濃度が低かった時代が存在することが分かったのだ。

 最も一般的なマンガン鉱石は軟マンガン鉱で、その採掘量は毎年約2,500万トンに上る。だが、こうした陸地の鉱床が掘り尽くされることになれば、海底のマンガン団塊(マンガンノジュール)の利用が余儀なくされるだろう。

 1872~1876年、世界の海洋でさまざまな科学調査を行った英国の海洋調査船チャレンジャー号は、海底から円錐型の奇妙な黒い塊を複数採取し、持ち帰った。分析の結果、これらの塊の主成分はMnであり、サメの歯を核としてその周りに形成していることが判明した(サメの歯は海底で長く存続可能な数少ない生物由来物質である)。この塊がマンガン団塊で、北東太平洋を中心に海底の広範囲に散在しており、その量は推定1兆(1012)トンともいわれている。


 多様なマンガン利用法

 生命とマンガンは密接に関わっており、Feが欠乏した海域では、海洋珪藻はMnに頼って生きている。このように微生物がMnに引き寄せられる性質は、現在銅(Cu)や金(Au)で行われているような、微生物を利用した低品位鉱からの金属抽出に利用できる可能性があり、将来的にはMn資源開発の新たな基盤になるかもしれない。

 Mnは単体ではもろ過ぎて使えないため、採掘されたマンガン鉱石の95%は合金に加工されている。その主なものが鋼鉄で、強度や加工特性、耐摩耗性を向上させるために約1%量のMnが添加される。また、Mnを約13%含む「高マンガン鋼」という合金もある。高マンガン鋼は強度が極めて高く、鉄道線路や土木機械、金庫、軍用ヘルメット、ライフル銃の銃身、刑務所の鉄格子などに広く使われている。この特殊鋼を発明した英国シェフィールドの冶金学者Robert Hadfieldは、1883年に24歳の若さで特許を取得。この合金は、発明者にちなんで今でもハッドフィールド鋼(Hadfield steel)と呼ばれている。

 Mnは化合物としても広く利用されている。例えば、Mn(IV)のMnO2はゴム用添加剤や工業用触媒に、Mn(II)の酸化マンガン(MnO)はマンガン欠乏土壌用の肥料に、またMn(VII)の過マンガン酸カリウム(KMnO4)は廃ガスや廃水から有機不純物を除去する目的で用いられている。このKMnO4は実に鮮やかな紫色を呈するが、この特徴的な色でさえ、我々の生活にとって、また地球の一部として欠くことのできないMnの重要な役割を考えれば、些細な特徴でしかないだろう。(Nature Chemistry)


参考 Nature Chemistry(2013年11月号) 守護元素・マンガン サイエンスポータル: 水から電子を取り出す「人工マンガン触媒」を開発



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