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不思議の森

もう……駄目だ……
狩人が森のなかで迷ってから、5日が過ぎた。
3日目で食糧がなくなり、川の水でしのいでいたが、森の出口を探してさ迷ううちに、水辺からも遠ざかり、喉もカラカラに渇いていた。
さらに、木の根で躓き、足をひねってしまったらしい。
もう、一歩も動くことができない。
狩人は、その場に倒れ、意識を失った……。


気がつくと、そこはベッドの上だった。
顔を巡らせると、ベッドの脇のテーブルには、温かい食べ物が用意されている。
上半身を起こしてみれば、身体は綺麗な寝間着に着替えてあり、足の怪我は治療されていた。

「あ、気がつきましたか?」

声のほうをみると、長い若草色の髪の少女が、スープを運んで来ていた。

「ここは私の家です。貴方が森のなかで倒れていたから、勝手ながらお連れいたしました。怪我が治るまで、ゆっくりしていってくださいね。」

そういうと、少女は微笑んで、食事を差し出した。
狩人は、最初は訝しんだが、ただでさえ森の中で死にそうだったところを、助けてもらった身なのだ。遠慮せずに料理を平らげた。
料理はとても美味しかった。


それから数日間、怪我が治るまで、狩人は少女の小屋で過ごした。
どうやら、少女はこんな森の奥の小屋に一人で暮らしているらしい。

「昔は兄も住んでいたんですけど……、今は、別のところで頑張っているんです」

少女は、兄のことを照れ臭そうに話した。
どうやら、狩人が使っていたベッドや寝間着は、兄の物だったようだ。

 


一週間がすぎ、足も動くようになったので、狩人は少女に、翌朝発つことを告げた。

「わかりました。どうぞ、お気をつけてお帰りくださいね。おやすみなさい……」

翌朝、狩人が目を覚ますと、そこはベッドの上ではなかった。
森の木々に囲まれた、四つ葉のクローバーの咲く広場のなかに、狩人は横たわっていた。
しかし周りをみると、自分の荷物はすぐそばにあったし、少女が作ったらしい弁当包みや、水袋もあった。
それから不思議なことに、森の出口へまるで木々が導いてくれるように、道がまっすぐに開けていた。
その道を辿ると、半日ほどで森の外へ出ることができた。
しかし、後ろを振り返っても、今辿ってきた道は見見つけることができなかった。

 


町にもどり、宿屋につくと、狩人は宿屋の主人に森での出来事を話した。
すると、宿屋の主人は言った。

「お客さん、森の奥の小屋に行ったんだね。あそこの娘さん、去年の秋に亡くなったんだよ……」

狩人が目を見開いて言葉を失っていると、宿屋の主人は続けた。

「娘さん、死んだあとも、森で困っている旅人がいると、今でもいろいろ助けてくれるらしいよ。でも、お客さん、運が良かったね…。」

どういうことだ、と狩人が問いかけると、宿屋の主人は声を潜めて言った。

「……娘さん、旅人には優しいけど、森の動物を殺したり、森の木を切ったりする奴等には容赦しないのさ。……よく、森の前に、密猟者や伐採者の、首のない死体が転がっているらしい。」

そういうと、宿屋の主人は、狩人の首を見ながら、舌なめずりをした。

「……お客さんが、一匹でも森の野うさぎを狩っていたら、今頃森の前に首なしの死体になってたのは、あんただったのかもね……」


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最終更新日 : 2014-07-05 12:41:39

この本の内容は以上です。


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