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てきすとぽい杯について
てきすとぽい杯について
各夜のお題
第17回 募集要項
第17回 審査結果
入賞作品紹介
《大賞》
『百鬼夜行の客商売』 みお
《入賞》 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『ヘッセ』 犬子蓮木
『高速道路』 粟田柚香
『集合住宅』 粟田柚香
『シーサイド・ヒル』 大沢愛
『ルーインズ』 大沢愛
『スタティック』 大沢愛
『クリスタル・ムーン』 大沢愛
〈候補作品〉 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『The Friendly Ghost』 碧
『The Not-Friendly City』 碧
『創造主の箱庭』 kenrow
『生々しさ』 フィンディル
『幽霊アカウント』 muomuo
『男死病』 muomuo
『名無しの少年』 muomuo
『絆』 muomuo
『そうやって大人になっていく―丁稚安吉の場合』 志菜
『せやせや』 せせせ
『曲り角奇譚』 茶屋
『幽霊屋敷に住むものは』 永坂暖日
『便利な家』 ◆BNSK.80yf2
『助手席の彼女』 永坂暖日
『できごころ』 しゃん@にゃん革
『幽霊屋敷の浴室』 山田佳江
『桜屋敷』 茶屋
『幽霊の生業』 豆ヒヨコ
『幽霊船』 小伏史央
『幽霊屋敷の記憶』 三和すい
『記憶喪失になった俺が大学受験に挑むのだ』 ひこ・ひこたろう
『館長さん』 晴海まどか
『怪談は幽霊屋敷で』 松浦徹郎
『幽霊空き家』 永坂暖日
『九朗右衛門事件帳』 茶屋
『幽霊屋敷の一件』 碓氷穣
『歌声』 茶屋
『ぼくがいまよみたいしょうせつてきすとぽいばーじょん』 ひやとい
『歴史の勉強』 しゃん@にゃん革
『新幹線の中で』 ひこ・ひこたろう
『ぼくとお屋敷』 犬子蓮木
『紅白歌合戦の舞台に俺は立ったのだが』 ひこ・ひこたろう
『幽霊屋敷から出て来たのは古切手』 ひこ・ひこたろう
『大学祭』 ひやとい
『薔薇の香り』 げん@姐さん
『Haunted Horizon』 木野目理兵衛
〈集計外作品〉 ※投稿順
『柿のお供え』 高田@小説垢
『僕がオトコノコを止めた理由』 文才無い魔女
『変な旅』 鳥居三三
〈関連作品〉
関連作品のご紹介
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『幽霊屋敷から出て来たのは古切手』 ひこ・ひこたろう

第三夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.05 23:25
総文字数 : 1187字

獲得☆3.000
「おじさんの家には大金があるはずなんだ」と同級生の中村くんが言った。
「あんな幽霊屋敷に?」僕は半信半疑で聞き返す。
 そのおじさんとやらは、浮気がバレて女の人と一緒にどこかに逃げたらしい。残された奥さんは預貯金を処分し、実家に帰ってしまった。残ったのは廃墟と化した洋風な館だけだった。
「もし宝物を見つけたら、半分あげるから、一緒に探してよ」
「宝物って何だよ?」
「わかんないけど、あるんだよ。宝物が」
 しかし、こんな田舎にも手癖の悪い連中はいるらしく、テレビや冷蔵庫、布団に衣類、はてはトイレの電球までもがすでに盗まれており、家の中は荒れ放題だった。この上、何の宝物があるというのであろう。
 昼間だというのに、薄暗い部屋の中をあちこち歩き回る。何となく怖い気持ちが先立ってはいたものの、何十年も前の古いガラクタを目にすると、昔の世界にやってきたようで、ちょっとだけ楽しい。
「はあ、やっぱり宝物なんてなさそうだね」
 中村くんだって、まさかここまで散らかっているとは思わなかったのか、完全に諦めモードだった。僕はそんな中村くんの落胆振りが見ていられなくて、口から出まかせを言った。
「ほら、ごらん、あの壺。あれなんか、鑑定団に出したら、高い鑑定結果が出そうだよ」
「はぁ……」中村くんは溜息をついた。「あれはお父さんが骨董屋で一番安かったのを選んで買って、おじさんにプレゼントしたもんさ。高いわけないよ」
「何だ、そうなのか」残念に思いつつも壺に近づいた僕は、ついその中を覗き込んだ。
 おや、何かある。
 中村くんを呼んで壺をひっくり返してみると、中には切手の束があった。額面は10円とか5円とかで、消印はないけれど単色の雑な印刷だ。こんなもんだって金券ショップに持っていけば、アイスクリーム代ぐらいにはなるかもしれない。
 そう思って、僕たちは金券ショップに切手を持って行った。しかし、店のおじさんは、「子供は無理だよ。お父さんか、お母さんを連れて来なさい」と取り合ってくれない。
 仕方がないので、切手は約束通り山分けし、僕はそれを大切に保存しておいた。
 それから二十年が経った。東京オリンピックが決まった時、僕はその時の切手のことを思い出した。なぜなら、その切手は東京オリンピックの記念切手だったからである。本当に単色刷りの貧相な切手なのであるが……。
 ネットで検索し、その値段を調べてみると、森永のアイスじゃなくて、ハーゲンダッツのアイスが買える程度の値段にはなっていた。おい、日本政府、もっと品薄にするとか考えなかったのかよ! 希少価値なんて全然ないじゃないか。まったくもう……。
 しかし、東京オリンピックって1964年じゃなかったっけ? 切手には1940年とか書いてあるものも混在しているんだが。まあ、印刷ミスなら印刷ミスでマニアもいるらしいので、今度切手屋さんに持っていって鑑定してもらう価値はありそうだ。

『大学祭』 ひやとい

第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:04
最終更新 : 2014.05.03 23:16
総文字数 : 919字

獲得☆2.923
 小学校高学年の時、家からは遠かったが、後に学校から出入り禁止通達が出るほどの人気駄菓子店だった近くに短期大学があった。まるで今で言う専門学校のような狭い土地にあった学校であったが、小さい頃から美少年の誉れが高かく、もちろん当たり前のようにその駄菓子屋に友達と主に通っていたから、駄菓子屋通いのついでに気安く短大をふらつき、そしてカワユスな(古い)女子短大生と仲良くなるのは、もう必然に近いものだった。
 なので大学祭シーズンになるとレッセフェールが如く(意味がわからない)出入ってみたわけだったが、当時そんなことをする小学生はあまりいなかった上に美少年の誉れが高かったので非常に可愛がられ、あんなことやこんなことを……まあ今回の趣旨とは離れるのでこのくらいにしておく。
 で、大学祭といっても大したことはできないので、喫茶店とか美術部の展示とかそういうものが主だったが(スーパーフリーなどという発想のないおおらかな時代だった)、そこには当然幽霊屋敷めいた催し物もあるわけだ。
 大げさなものではない。その当時よくあったように、任意の教室を暗くして脅かすだけのものだ。
 当時小学生だったので、入るなり、いきなりへいへいピッチャービビってるー(早坂あきよと香坂みゆきのBIBIではないので為念)的なことになり、しかも怖がりなので、つい脅かしてきた男子短大生(当時は短大に男子がいるのは当たり前のことだった)に力の限りパンチを食らわし、「いってぇー」という叫び声を背中で感じながら脱兎のごとく逃げ出したものだった。悪いことをしたなあと今だから思うのだが、ドジでマヌケでアホな勉強の出来ない小学生にしかるべき常識的な判断は望むべくもなかったのである。その時の人殴っちゃってごめんなさいね。
 で、結局その大学祭を期に、ビビりでヘタレな小学生はそれきり大学に行くことはなかったのだが、そこでたまたま買ったど根性ガエル第12巻へのへの箱の巻を学校に持っていった際、クラスメイトにチクられて先生に没収されたことは、30数年経ってもちょっとだけ腹立たしい思い出として残っているのである。
 もし会うことがあったらネチネチとネタにして話そうかと思っているのは密かな楽しみである。

『薔薇の香り』 げん@姐さん

第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:24
総文字数 : 987字

獲得☆2.909
町の外れの竹やぶの先
そこに、その屋敷はあるという。
とても大きな、赤い煉瓦の素敵な屋敷。
庭師が手塩にかけて育てた薔薇が其処此処に咲き誇り、
中に入れば毛足の長い深紅の絨毯にシャンデリアの煌めきが落ちる。

そこに、あなたがいる。

ある時は本の香りに圧倒される書斎のソファで、オットーを語り合い

ある時は白い東屋で朝露の光る薔薇を見ながら庭師の話を聞いて、紅茶を愉しみ

ある時は大きな暖炉の前でマントルピースの上の写真を見ながら家族の話を聞き

ある時は広くて持て余しているという食堂で、ばあやが腕によりをかけたフルコースに舌鼓を打ち

ある時はあなたのくれたドレスを着てボールルームで二人きりのダンスパーティーをしてみたり

ある時はメイドとともにあなたが好きだというお菓子を焼いてみたり

ある時はあなたに寄り添って空の星の物語を聞いて夜を過ごした

そのどれもが、すてきな時間で、私はほんとうに幸せで仕方ない。
いつ、どうして、私が竹やぶの先のお屋敷を見つけたのかは覚えていない。
確かなのは、はじめて会ったその日からあなたは優しくて、 それは今も変わらないということだけ。


けれど、私がそう言うと、皆が奇妙な顔をする。
頭がいかれているんじゃないかなどと、暴言を吐き捨てる人までいる。

あそこは幽霊屋敷だという。
元は地主の住む大屋敷だったが、没落して街を捨てたのだと。

屋敷内の数々の調度品を狙い、不届者が何人も侵入しようと試みた。

だが手入れする者を失った竹やぶは、来るものを拒むようにその幹を太く伸ばし続け、
辛うじてその竹やぶを抜けた者も、同じように主を失った薔薇の蔦が縦横無尽に絡みつく錆びた門扉にその足を阻まれる。
その先の煉瓦の屋敷は窓ガラスやステンドグラスが割れて見る影も無い。


次第に屋敷の、割れた窓ガラスの先に、人影を見たと噂する者があらわれた。

そうやって人影を見た者は、街に戻ってすぐは何ともないのだが、徐々に精神に異常を来たして自ら命を絶ってしまう。
今となってはあの屋敷に近づこうとする命知らずは一人も居なかった。

この街では、屋敷は呪われた幽霊屋敷と呼ばれる
以前の栄華は見る影も無い荒れ果てた屋敷だという。
目を覚ましてくれと、さめざめと泣く母を振り切り、今日も私はそこへ行く。

幽霊屋敷…?
どんなところだって構わない。
竹やぶのその先、ほら、薔薇の香りがするでしょう?

私にとって、そこはあなたに会える場所。

『Haunted Horizon』 木野目理兵衛

第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:43
総文字数 : 1195字

獲得☆2.700
 その現象が何時頃から始まったのか、はっきり知る者は居なかった――より正確に言えば、そもそも“者”自体が殆ど残っていない訳だから、当然と言えば当然だが。
 逆に言えば、だからこそ始まった現象と言えなくも無い――意地汚く残骸を晒す構造物が時折ひょっこり顔を出している以外は、塵芥と金屑に覆われた荒野が何処までも広がる荒野に復興の兆し等有りはせず、生き残った人々の誰もが熟練の探索者として日々の糧を探し、廻り、掘り起こす――それが、そんなものが日常面をして蔓延していれば、何も知らぬまま眠りに付いた者達をむざむざ起こす気になんてなる筈が無く――いいや、いやいや、人目なんぞ絶えて久しいのだから、もっと素直に腹を割ってしまえ。そんな生活で巡り会いたいのは、お目に掛かりたいのは、疲弊した御頭にも理解出来る揺るぎ無い価値であり、長く退屈な労働に見合うだけの正当な報酬であり――衣食住。並びの程は如何様に、だけれど、まぁつまりは、そういう事だ。“物”と変えても良いかもしれないが。
 そう、だからこそ、だ。
 幽霊屋敷――いいや、いやいや、幽霊が居る屋敷の事では無い、等というのは言うまでも無かろうが念には念を、幽霊なる屋敷、或いは、屋敷なる幽霊――より正確に言えば、屋敷に限らない構造物が、有り得る筈も無い損害具合、即ち、何一つ傷付いていない具合と、時折を頭から外した形でひょっこり顔を出し始めたのは、まぁだからこそに違いない。
 時節としても丁度良い頃合いだろう――災厄の日、火と変えても良い未曾有の大異変が起きて、多分恐らく十数年余り。過去が熟し、都合良く実り出したとて、何が悪かろう。
それがもし仮に違ったとしても悪かったとしても――実物はとうの昔に灰になっているであろう安葉巻の紫煙が、毒の香りも香ばしく、ゆらりと立ち昇る――生き残った人々のその多く、その一人であるウィリアム・キャニングにとっては、何の問題も無かった。
 よしんば、最初の疑問すら、だ――何処までも広がる荒野を当て所無く歩き、歩き、彷徨い歩いた末に目の前に聳え建っていた高層集合住宅。その壁面の頼もしげに黒い色艶が、一歩また一歩と両脚へと応える廊下の、階段の堅牢さが、誰彼がしっかりと暮らしている風なのに、誰一人として暮らしていない部屋部家が、今、この瞬間、確かに有ると感じられるならば、何時の、そして何処の、更には何故かの解答等必要無い。
 幽き葉巻――仮定としての――を幽き煙に、幽き灰に――いいや、いやいや、もう呼ぶまい――変えながら、ウィルはそう朧気に思案する――恨みがましい視線が、傍らに横たわり、もう二度と起きる事の無い、と半ば証明されている競争者の死体から向けられるのを華麗に無視しつつ、流れる様に向かうのは、安らぐ程に大きい冷蔵庫のその中身、そこから想定出来る今日の晩飯の題目であり――喉元を伝う肉汁に、彼はごくりと生唾を飲み干した。

『柿のお供え』 高田@小説垢

連載/第一、二、三、四夜エントリー
※お題不足を制限時間後に修正

投稿時刻 : 2014.05.03 23:43
最終更新 : 2014.05.07 01:51
総文字数 : 5270字

獲得☆3.571
 私の家の隣は、幽霊屋敷だ。埃がかった窓や、強い風がふくたびに木が軋む音がするので、気がつけば誰かが幽霊屋敷と呼ぶようになっていた。その屋敷には広い庭があり、柿の木が植えられていた。幼い頃は忍び込んで柿を食べていた。今ではもう、そんなことはしていない。夏になると草刈りのチェーンソーの音がして、ああ隣かと毎年思っていた。なぜ、寂れた屋敷をそのままにしているのだろうか。

 秋の肌寒い空気を感じ、隣の幽霊屋敷の柿を思い出した。柿の甘い味が脳裏に蘇り、奥から唾液が出てくる。食べたい。私は身軽な軽装をして、自宅の塀を登った。感覚は忘れていなかったようだ。あの頃より大きくなった身体は、むしろ侵入しやすいとさえ思った。地面に着地して、柿のあった場所へ向かう。
 柿の木は変わらずにあった。たまに塀を越えた枝から柿が川にボトンと落ちているのを見て、誰も食べないなら私が食べると子どもらしい傲慢さで忍び込んだ記憶が蘇る。そして決まり事も思い出した。柿を取ったなら、一つはお供え。もう一つは屋敷のお猫様に。残りは私のものという決まり事だった。

 私が初めて忍び込んだ日のことが蘇る。柿を取った時、ギッギッと木の軋む音が屋敷からしたのだ。その音は不気味で、とっさに玄関の入り口にお供えのように柿を残して離れた。すると気味の悪い音がおさまったのだ。私はそのことで、屋敷に何か住みついていると予想していた。幽霊屋敷と呼ばれるだけあって、不気味に感じた。
 翌日私が確認しに行くと、柿は玄関から消えていた。お供え物をしていれば大丈夫ということなのだろう。安心して帰ろうとした時、屋敷の開いたままにされている窓から黒猫がするりと出てきた。ンナァと甘えるように鳴いて、玄関に丸まる。もしやと思い、まずお供え用の柿を置き、黒猫の前にも柿を置くと満足そうに目を細めてンナァと鳴いた。それから決まり事になったのだ。

 そして今、記憶に従ってお供え用とお猫様用に柿を玄関に並べた。懐かしの黒猫が柿の匂いにつられたのか、ひょいと窓から出てきた。久しぶりに見ると猫が小さく見えた。私が大きくなった証拠だろう。昔は触れなかった猫に触れたくなって手をのばすと、猫は素直に撫でさせてくれた。おとなしい猫のようだ。毛並みを楽しんでいると、またギッギッと不気味な木の軋む音がする。もう帰れという意味だろうか。私は幽霊屋敷を後にした。


 彼女が帰ってからしばらくして、屋敷のドアが開く。屋敷から出てきた何かは、足元の柿と柿の前でご満悦な顔をして丸まっている黒猫を見て、あの子が来たのかと呟いた。そう呟いた何かは、玄関の影になっていてよく分からないが人の姿をしており、浴衣を着てどこか浮世離れしていた。影から少し踏み出すことで、肌が青白く、生気をまったく感じない青年だと分かる。彼は柿を手に取る。強く柿を握って、何かを諦めたかのように自嘲的に笑った。彼はドアを開いたまま、黒猫を屋敷へ招き入れた。こうして今日も柿が消費される。



 翌日も幽霊屋敷の敷地に侵入する。久しぶりに柿をお供えしたので、ちゃんと柿がなくなっているか確認したいと思ったからだ。塀を乗り越えて、柿を取ってから石畳を辿る。改めて思うのは、この屋敷の庭は広いということだ。石畳を辿れば玄関に着くのだが、歩きながら家主はどれほどの大金持ちだろうかと想いを馳せる。古びた西洋屋敷でありながら、細部の造りが凝っていた。

 柿をお供え用とお猫様用に用意して玄関に向かうと、初めて見る光景があった。知らない男がお猫様を膝に乗せて、撫でているのだ。彼は私の土を踏みしめる音に気づき、顔を上げた。そして私の手の中にあるものに気づき、何か納得したような顔をした。

「君は、よく柿のために忍び込んでくる子だね」
「そんなことないです」

 思わず反射的に否定するが、彼の目が私の両手の柿にそそがれていて、居心地が悪い。背に柿を隠した。

「……そうです。ごめんなさい」
「素直だね。この子と同じだ」

 彼はクスクスと笑って、慈しむように黒猫を撫でた。猫をよく知っているらしい。人が住むような屋敷には見えないが、屋敷の主なのだろうか。肌の色は青白く、浴衣から覗く手足でやせ細っている印象がある。療養中なのかもしれないと考えた。

「この猫はいつの間にか住み着いていたんだ。食い意地がはってるから、君がくる時間に合わせてちゃんと来るだろう」

 まったくその通りだった。黒猫をじっと見つめると、ニャアと鳴いてお座りした。柿の催促だ。そのつぶらな瞳に、仕方ないなと柿を前に置いた。猫はありがとうとでも言うかのように足にまとわりつき、柿に噛みつく。それとは別に玄関へ一つ柿を置いて、彼にも柿を差し出した。

「あぁ、柿は一つでいいよ。だからその手にあるやつは君が食べるといい」

 彼は玄関に置かれた柿を拾い上げた。彼が柿を食べていたのかもしれない。私はこくりと頷いて、柿をしまった。

「よかったら、明日もまたおいで。この子も僕も喜ぶから」

 彼の儚げな笑みに、分かったと言葉を返した。浴衣から覗く彼の細い手足に、彼はそんなに長くないのかもしれないと思った。見送る二人を背に、玄関先で別れる。明日は柿以外のものも持って行こうか。初めてそう思った。



 次の日が来た。隣の幽霊屋敷への塀を越えるのも、手慣れてきた。ふと、塀に座ったまま屋敷全体を見渡す。毎年夏には草刈りの手が入るが、秋には草が茂ってしまう。この屋敷の管理と維持だけでどれくらいの大金が必要になるか考えて、気が遠くなった。気を取り直して、柿の木の元に向かう。

 柿の木に近づいていくと、「とりゃ! とりゃ!」と何か男の子の声がした。柿を取ろうとしているらしい。男の子は諦めずにジャンプを繰り返すが、届かない。あまりに必死だったので、思わず取ってあげようかと声をかけた。男の子は私を目にして、大きい声を出した。

「柿女!」

 びしっと指を指された。まさかそんな風に呼ばれるとは思わなかった。

「あっ、せい様に人を指差しちゃいけませんって言われたんだった。柿女さん、ごめんなさい」
「いいよ」

 何だか謝られているような気がしないが、素直なのでいいとしよう。男の子は動きやすそうな服を着ていた。

「柿女さんは柿を取りにきたんですか?」
「うん。その……私、秋穂って言うんだ。柿女はやめてくれるかな」
「秋穂さんって言うんだ! 分かりました!」

 この子、凄く素直だ。

「せい様が柿を食べたいって言うから、取りに来たんです。でも、手が届かなくて。秋穂さん、取ってもらっていいですか?」

 最近の子は木登りしないのかなと思いながら、腕を伸ばしてもいだ柿を彼に渡した。いつもの分も一緒に確保する。

「ありがとうございます。せい様は毎年秋になるとここに療養に来るんですよ。大切な思い出があると言われていました。年々気が沈みがちでしたが、数日前から明るくなられました。秋穂さんのおかげだと思います」

 ここでようやく、せい様はあの男性だと気づく。彼は私が忘れていた秋も、静かに待っていたのだろう。手に持った柿を重く感じた。それから二人して玄関に着いた。彼は私と男の子を見て、「ああ、会ったのか」と呟く。

「見てください、秋穂さんに柿を取ってもらいました」
「そう。よかったね」

 柿を受け取って、男の子をえらいえらいと撫でる。そして私の手の中の柿をじっと見た。まだ柿がほしいのか。だが、先ほどの会話を思い出して気まずい。私は彼の目を見ないようにしながら、柿を渡した。彼は手を伸ばして柿ではなく、私の手を掴んで「秋穂さん」と呼ぶ。そうだ。私たちはお互いに名前を知らなかったのだ。

「せいさん……で合ってる?」
「ああ、その子から聞いたんだね。静かって書いて、静って言うんだ。僕はあの子が名前を呼ぶまで君の名前を知らなかったよ。おかしいものだね」
「うん、何だか変な感じ。それでその、黒猫にも柿をあげたいから手を離してもらっていいかな」

 彼は病的なほどに白い肌を朱に染めて、バッと手を離した。彼の触れていた場所の感覚が残って妙に落ち着かない。そんな自分を隠したくて、平静を装って黒猫に柿をあげた。お猫様は遅いと言わんばかりにンナァと鳴く。ごめん、お猫様。

 その後、私は逃げるようにして帰った。私が薄情にも幽霊屋敷のことを忘れていた時も、彼は待っていたのだ。胸がずしりと重みを感じた。そして、彼が触れた時にあった胸の変なざわつきがふいに蘇って、恥ずかしくなった。いくら病弱で細い腕をしていても、私より大きい手だった。そこまで記憶がぶり返して、振り切るように眠りについた。



 タイムランを覗いてみると、友人が『家に帰った~』と呟いていた。私は彼女に『お帰り~』とリプライを送って、自分も『ただいま』と呟いた。幽霊屋敷のことを忘れていた期間で、私はツイッターを初めていた。友人との付き合いで始めたのだが、今では性に合っている。日記は三日も続かなかっただけにおかしい。幽霊屋敷の彼はツイッターなんてやっていなさそうだ。大金持ちのような気品があるから、携帯は持っているかもしれない。いや、むしろお坊ちゃまだからこそ、持っていないのかもしれない。今日も隣の幽霊屋敷に忍び込む。柿の木の元に、また男の子がいた。

「秋穂さん、こんにちは! 今日は自分で登って取ってみたんです。どうですか!?」
「そうなんだ、えらいね」
「はい! 冬になったら屋敷は取り壊しになりますから、それまでには自分で取りたかったんです」
「今、なんて?」

 男の子はしまったというような顔をしていたが、私は笑顔で再び問いかける。身長差があるためか、男の子がビクッと身体を震わせた。

「今、なんて?」
「そのっ、本当はせい様に言ってはいけないよと言われていたんです! だから勘弁して下さい!」
「でも、もう私聞いちゃったけどなぁ。だから結局のところは同じだよね? 詳しく話してくれるかな?」

 男の子はすでに取った柿を三つ私に渡して、柿の木にもたれた。表情が暗い。私も柿の木にもたれる。

「先程も言いましたが、この屋敷は冬に取り壊しするんです。元々、内と外で屋敷にガタがきていますから。今更維持するための資金を投入するよりはと、旦那様が判断されました。それを止めていたのはせい様です。せい様は毎年秋の療養を楽しみにされていたのです。今度こそ“柿の子”に会いたいと言われていました。そんな願いから引き伸ばしされていたのですが、今年が最後だと旦那様に言われました。せい様は――」

 ザッと土を踏みしめる音がして、腕に黒猫を抱えた静が現れた。彼は動揺するように目を伏せる。彼の気持ちの不安定さに落ち着かないと思ったのか、黒猫はどこかへ駆けていった。

「僕の話をしていたんだね。秋穂さんには言っちゃ駄目だと言っていただろう」
「うう……、すいません」
「仕方ないね。残りは僕が話そう」

 隣に彼が並んだ。嫌な予感がして、落ち着かない。気を紛らわせるために、彼に柿を渡す。彼はありがとうと苦笑して、かぶりついた。そんなワイルドな食べ方をするなんて、今まで知らなかった。

「屋敷が取り壊しだって聞いたよね。僕は君に会えるまではと引き伸ばしてきた。君が来ない日も、待ってた。忘れてしまったんだろうなと思うこともあったよ。君には君の世界がある。仕方ない。そうは思っていても、最後にどうしても会いたかったんだ。僕は会ったこともない君に恋をしていた。窓越しに後ろ姿は見たことがあるんだけどね」

 柿を置くとき、ギッギッと不気味な軋む音がしていたのは彼が歩く音だったのかもしれない。そして、彼の言った恋という言葉に困惑する。戸惑いを隠すように柿を食べた。

「屋敷も限界だったけれど、僕の身体もここに来るのは限界が来ていてね。だから、父は取り壊しを進めようとしているんだ。それまでに君がこの屋敷の思い出を思い出して、また来てくれることを祈ってた。神様っているのかもしれないね」
「病気で?」
「そう病気。冬から長期入院が必要なんだ。お金も必要になる。この敷地は売られると思うよ」
「どこに入院するの?」
「まさか、来てくれるの?」

 私は頷いた。屋敷が潰れたら、ここで関係は終わりだと思っている彼に腹が立った。だから、私は次こそ忘れない。必ず病院にお見舞いに行く。私の決意がみなぎる目を見て、彼はふっと笑った。

「ありがとう。駅近くの病院だよ」
「分かった。絶対お見舞い行くから。柿を持ってね」
「さすがに冬は季節外れだよ」

 そう言いながらも、彼は先程とは違って、明るく笑った。お腹を抱えてクスクスと笑っている。

「黒猫なんだけど、秋穂さんの家で飼ってもらってもいいかな。よかったら、君にお願いしたくて」
「うん。私もこの屋敷の猫だからこそ、飼いたい」
「よかった。それで、告白の返事は聞いてもいいのかな」

 晴れやかな顔で、からかうように見てきている。私は分からないと正直に答えた。すると彼は「じゃあ、これから頑張らないとね」と言った。そんな空気が心地よくて、彼に恋をするだろう未来を予感した。私達の秋は続く。


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