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てきすとぽい杯について
てきすとぽい杯について
各夜のお題
第17回 募集要項
第17回 審査結果
入賞作品紹介
《大賞》
『百鬼夜行の客商売』 みお
《入賞》 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『ヘッセ』 犬子蓮木
『高速道路』 粟田柚香
『集合住宅』 粟田柚香
『シーサイド・ヒル』 大沢愛
『ルーインズ』 大沢愛
『スタティック』 大沢愛
『クリスタル・ムーン』 大沢愛
〈候補作品〉 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『The Friendly Ghost』 碧
『The Not-Friendly City』 碧
『創造主の箱庭』 kenrow
『生々しさ』 フィンディル
『幽霊アカウント』 muomuo
『男死病』 muomuo
『名無しの少年』 muomuo
『絆』 muomuo
『そうやって大人になっていく―丁稚安吉の場合』 志菜
『せやせや』 せせせ
『曲り角奇譚』 茶屋
『幽霊屋敷に住むものは』 永坂暖日
『便利な家』 ◆BNSK.80yf2
『助手席の彼女』 永坂暖日
『できごころ』 しゃん@にゃん革
『幽霊屋敷の浴室』 山田佳江
『桜屋敷』 茶屋
『幽霊の生業』 豆ヒヨコ
『幽霊船』 小伏史央
『幽霊屋敷の記憶』 三和すい
『記憶喪失になった俺が大学受験に挑むのだ』 ひこ・ひこたろう
『館長さん』 晴海まどか
『怪談は幽霊屋敷で』 松浦徹郎
『幽霊空き家』 永坂暖日
『九朗右衛門事件帳』 茶屋
『幽霊屋敷の一件』 碓氷穣
『歌声』 茶屋
『ぼくがいまよみたいしょうせつてきすとぽいばーじょん』 ひやとい
『歴史の勉強』 しゃん@にゃん革
『新幹線の中で』 ひこ・ひこたろう
『ぼくとお屋敷』 犬子蓮木
『紅白歌合戦の舞台に俺は立ったのだが』 ひこ・ひこたろう
『幽霊屋敷から出て来たのは古切手』 ひこ・ひこたろう
『大学祭』 ひやとい
『薔薇の香り』 げん@姐さん
『Haunted Horizon』 木野目理兵衛
〈集計外作品〉 ※投稿順
『柿のお供え』 高田@小説垢
『僕がオトコノコを止めた理由』 文才無い魔女
『変な旅』 鳥居三三
〈関連作品〉
関連作品のご紹介
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『ぼくがいまよみたいしょうせつてきすとぽいばーじょん』 ひやとい

第三夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.05 23:00
総文字数 : 1960字

獲得☆3.300
 あさめがさめるとぼくはおふとんからでた。
「あさごはんたべなさい。」
 おかあさんによばれたのでいった。
 てーぶるにはごはんとおみそしる。
 あとはさらだのついたはむえっぐがあった。
 おいしそうだったのでぼくはさっそくたべた。
 むしゃむしゃむしゃ。
「もっとゆっくりかんでたべなさい!」
 はやくたべてたらおこられた。
 だっておいしいんだもん。
 おいしいものははやくたべたい。
 でもおかあさんはだめだっていう。
 いやだなあ。
 はやくたべてもおこられないくに。
 そんなくにがあったらいいなあとおもった。
 ごはんをたべおわるとはをみがいた。
 はみがきこがあまくておいしかった。
 おいしくてついかおをあらうのをわすれそうになった。
「かおもあらいなさい!」
 ぼくはまたおこられたのでかおをあらった。
「ほらはやくきがえてがっこうにいってきなさい。」
 ぼくはめんどうだったけどぎがえた。
 そしてらんどせるをしょった。
「もうはちじですよ。ちこくするからはやくいきなさい」
 ぼくはおかあさんにせかされていえをでた。
 おそらをみあげたらはれだった。
 はれたひはがっこうをやすみたいなあ。
 ぼくはそうおもった。
 でもいかないとおかあさんにおこられる。
 ぼくはしかたなくあるいた。
 とことことこ。
 とことことこ。
 ああやすみたいのに。
 いやだなあ。
 でもおかあさんにはさからえない。
 ぼくのおかあさんはこわい。
 こないだもおとうさんをなげとばしていた。
 そのくせいけめんのひとにはよわそうにみせる。
 おとなってずるいなあとおもった。
 でもさからえない。
 さからったらぼくもなげとばされるかもしれない。
 どうしよう。
 かんがえていたらおしっこがもれそうになった。
 もらすとはずかしい。
 ぼくはかべにおしっこをした。
 ああすっきりした。
 うんよくだれもいなかった。
 ぼくはまたあるきだした。
 するとまたおかあさんのことをおもいだした。
 こわいおかあさん。
 ずるいおかあさん。
 そういえばこんなこともあった。
 おかあさんといっしょにかいものにいったとき。
 れじでおつりがちがうといって。
 おかあさんはおみせじゅうにきこえるこえでどなっていた。
 そんな大金でもないのに。
 こえもきんきんしてこわかった。
 そらはあいかわらずはれてて。
 たまにおいしそうなくもがながれてく。
 こわいおかあさんからにげだしたいなあ。
 でもおいしいごはんがたべられなくなっちゃう。
 がっこうもわけのわからないことばかりだ。
 じゅぎょうのおはなしもわからなかった。
 せんせいはこわくないけど。
 いつもにやにやしててきもちわるい。
 みんなともなかよくできない。
 なにかはなしかけてくるんだけど。
 ぼくはごほんがよみたいんだ。
 じゃましないでほしい。
 むつかしいごほんじゃないよ。
 あんぱんまんとかそういうごほん。
 そういうのをずっとよみたいんだ。
 みんなはまんがとかげーむとかしてるけど。
 ぼくはそういうのにがて。
 でもごほんはむつかしくないし。
 めろんぱんなちゃんだってかわいいし。
 そんなことをかんがえたら。
 がっこうってなんでいってるんだろう。
 なんでかなあ?
 でもこわいのでぼくはがっこうにいった。
 そうしたらせんせいがぼくにおこった。
「こんなじかんにくるこはあなたくらいですよ!」
 いろんなことをかんがえてたら。
 とけいみたらもうおひるすぎだった。
 せんせいにきゅうしょくはまだたべられるかきいた。
「あなたみたいなこにたべさせるきゅうしょくはないですよ!」
 きゅうしょくがたべられないなんて。
 かなしかった。
 そのときぴんとおもった。
 そうか。
 ぼくはがっこうへきゅうしょくをたべにきてる。
 そのかわりつらくてつまんないことにたえてる。
 だからがっこうにいくのか。
 まあがっこうなんてきゅうしょくがなかったら幽霊屋敷といっしょだし。
 がっこうにいくりゆうがわかってうれしかった。
 でもおかあさんがおひるもつくってくれたら.
 がっこういかなくてすむのになあ。
 そうか。
 おとなはずるいから。
 おかあさんはくうたらしたいから。
 わざとぼくをせかしてはやくがっこうにいかせて。
 そのあいだぐうたらしてるんだ。
 ますますおとなってずるいなあとおもった。
 でもきょうはきゅうしょくがない。
 じゃあもうつらいことにたえなくていいんだ。
 ぼくはいろいろとわかったのでがっこうからでた。
 そしていえにかえった。
 するとおかあさんはいなかった。
 ぼくはきがらくになった。
 このままばんごはんまで。
 おかあさんかえってこなければいいなあ。
 きがらくになるとおなかがすいた。
 そうだしょくぱんがある。
 ぼくはとだなからしょくぱんをとってたべた。
 むしゃむしゃむしゃ。
 おいしいなあ。
 れいぞうこにこーらもあったのでのんだ。
 ごくごくごく。
 おいしいなあ。
 ああきもちいい。
 すっかりいいきぶんになったぼくはごほんをひらいた。
 あははあはは。
 かいけつぞろりっておもしろいなあ。
 わらったらなんだかつかれた。
 つかれたのでそのままねた。

『歴史の勉強』 しゃん@にゃん革

第三夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.05 23:43
総文字数 : 1300字

獲得☆3.250
 雨が一日中降り続いたその日、北川正義は一歩も外へは出なかった。
 冷蔵庫もなく、食べ物を買い置きするほどの金もなく、けれども途轍もない空腹に襲われていたが、壁の向こうでは天気が荒れ狂っていた。
 傘はないし、水道も使えない。正義がいたのは、静かな住宅街の一角にある廃屋だ。屋根のある場所を見つけただけでもありがたいと思う。五月だというのに、気温は十五度を下回っていた。旅行カバンに入れたシャツを重ね着しても、うっすらと肌寒い。
 派遣社員として働いていた家電量販店が半年前に閉店し、代わりの仕事も見つからないまま過ごすうちに、ついに家賃も払えず部屋を出た。
 実家とは折り合いが悪く、帰ることはおろか、金を借りるのも容易ではない。もしかしたら、だれのものとも知れぬこの家が死に場所になるかもしれないと思う。まだ二十六だけども、どうせ死ぬのならはやいほうがいい。蜘蛛の巣が張られた壁に囲まれながら、正義はそんな気持ちに支配されていた。
 そうしてペットボトルに溜めた雨水で空腹をしのぎ、やがて日没を迎えると、暗くなった部屋の真ん中にほのかな明かりが現れた。
「お、お? なんだ、これは。人魂か?」
 壁際まで後ずさりすると、嫌な予感が頭をよぎった。
 この家は、どうして廃屋なのか。考えてみれば、五日前から正義が寝床にしているのに、近隣の住人は見て見ぬふりをしているようだった。
「あ、突然ごめんね。人魂じゃないから、大丈夫。歴史の勉強なんだよね」
 明かりの中から姿を見せたのは、いささか風変わりな服を着た一人の少年だった。
「お、お? お前、誰だ? この家に住んでいた坊主の霊魂か?」
 声を震わせながら尋ねる。少年は澄ました顔で微笑んでいた。
「だから歴史の勉強だよ。近頃、お金っていうシステムを人間が使っていたって習ったから。大金なんて言葉があった時代を調べようと思ったんだけどさ。よく分からないのは、お金を持っていない人なんだよね。教科書には、所有しているお金の額が生死に影響するってあったんだけど。どうやら、嘘だったみたいね。ちゃんと生きてるじゃん。住んでいる家は、ちょっとみすぼらしそうだけど」
 まったく大袈裟な表記だな、と言うと少年は大人びた仕草で肩をすくめた。そりゃそうだよね、お金の額で生死が決まるなんて野蛮だし。独り言なのか話しかけているのか、男の子らしい無邪気さに、むしろ背筋が寒くなる。
「ちょ、ちょっと待て。お前、いつの時代から訪れた? 俺も連れていってくれ。教科書に書かれていることは嘘じゃないんだよ」
 正義の訴えが耳に入らなかったのか、少年の姿はすでに消えていた。
 耳に残ったのは野蛮という言葉。絶望が正義の全身に満ちていく。人間は所詮、原人の頃と進化していないのだろうか。そう考えると、世の中のあらゆる欺瞞を許してもいいような気持ちが湧いてきた。
 金がない自分を追い出した大家も、我が強いだけの両親も、根本的には何百万年も前の野蛮な祖先と変わりない。
 少年が立っていた畳の上をなぞり、正義は静かに瞼を伏せた。
 なるほど、これが人間というものだったのか。
 雨が上がっていた。正義は幽霊屋敷を後にすると、数少ない友人が住む町へと歩き出した。

『新幹線の中で』 ひこ・ひこたろう

第四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.06 23:19
総文字数 : 1295字

獲得☆3.143
 広島に向かう新幹線の中で、
「あっ、切符がない!」とパパがうろたえ始めた。
「どうしたの、さっきまであったでしょう」とママが不機嫌そうにつぶやく。
「自動改札はバラバラに通過して、それからパパに預けたのは覚えている。それが私が切符を見た最後」こんな時にも姉ちゃんは冷静だ。
「パパのポケットに穴が開いていて、そこから落ちたんじゃない?」僕も何か言おうとして、そう口走ったが、
「そんなわけないでしょ!」と一斉に突っ込まれる。
 通路でこんな会話を交わしてもらちは明かない。早く自分たちの指定席に座らなければ……。しかし、切符を無くしてしまった以上、どこの席かはわからない。たぶん16号車、というのは合っていると思うのだ。だって、駅に着いた時から、「16号車だからホームの端まで歩くわよ」とママに言われたから。何の証拠にもなりはしないが、あらかじめ切符を見たママの頭の片隅には「16」という文字が刻まれていたに違いないのだ。
 四人分だけ並びで空いた席も見当たらず、所在無く立ち尽くしていると新神戸から修学旅行とおぼしき女子高生軍団が乗ってきた。
「先生、指定席がふさがってます」
「ああ、予約ミスだろう。修学旅行のデータをオンライン予約のデータベースに載せる時、夜間バッチの処理で人為的なミスが起こったんだろうな」
「ねえ、先生。座りたいんですけど」
「こういう場合、岡山で臨時便に乗って、そこから広島だ。旅行会社の人に交渉してもらおう」
「いいなあ」そのやり取りを聞いていた僕は思わず呟いた。「まるで大金持ち」
「えっ、何でなん?」と一人の女子高生が僕に尋ねる。
 実はかくかくしかじかと、僕は事情を説明する。
「幽霊屋敷」「きりん」「はい、しりとり終わり!」
 向こうの方では立ったままゲームに興じる元気な女子高生がいる。
「ねえ、座りたい?」と訊かれ、僕は素直に頷く。
「じゃあ、岡山の新幹線に一緒に乗ろうな」
「えっ?」
「修学旅行の余興で服とか化粧とか用意してあるから、家族みんなで女子高生にしてあげるわ」
 そんなわけで僕たち一家は女子高生に変装し、岡山からの臨時便に乗り移ることができた。しかし、問題は広島駅の改札を抜けることである。
 みんなで考え込んでいると、添乗員がやって来て、「私にまかせろ!」と言う。
「よろしくお願いします」とパパとママが頭を下げると、添乗員は携帯で電話をかけ、
「広島駅の改札から駅員を排除しろ、さもなくば……」と言い始めた。
 何じゃ、そりゃ? そんなことをしたら添乗員さんは捕まってしまうだろうに。
「何か、国土交通省から業務停止させられそうなんだよね」と添乗員がふてくされて言う。この人、今話題のJTBの人か?
「だったら、その前に人助けのひとつでもしたいでしょ」
「ようわからんけど、拍手な」と扇動され、僕も女子高生たちと一緒に拍手した。
 広島駅に着くと、僕たちはホームに溢れた出迎えの人たちに大歓迎された。もちろん、改札も余裕で通り抜けることができた。しかし、添乗員さんは手錠をはめられ、パトカーに乗せられ連れて行かれた。
 あれから二十年の歳月が過ぎた。添乗員が何を電話で言ったのか、今でも僕には想像がつかない。

『ぼくとお屋敷』 犬子蓮木

第三夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.05 23:39
総文字数 : 3027字

獲得☆3.125
 ぼくはこのお屋敷に住んでいる。大きなお屋敷でいつもキラキラしていて、住んでいる人も働いている人も大勢が動いているこのお屋敷で、誰にも認識されずに住んでいる。
 つまりは幽霊ってことなんだろう。
 このお屋敷は元はぼくのお父さんが持っていたもので、ぼくも今、住んでいる人たちみたいに、豪勢な暮らしをしていた。毎晩、おいしいごはんを食べて、笑って、お手伝いさんをからかって遊んだりしていた記憶がある。
 だけど、そんなぼくの一生はとても短かった。
 名前もよくわからない病気になって、ベッドから出ることもできず、そして死んでしまった。死んだ後と言えば、ぼくはすぐ今みたいな幽霊になっていたのだけど、お父さんもお母さんも執事もメイドもぼくには気付いてくれないし、それから数年して、お父さん達はどこかに引っ越してしまった。
 ぼくをおいて。
 そうしてこのお屋敷に新しい家族が入って、出て、入ってを繰り返し、いまの家族が暮らしているというわけだった。お父さんとお母さんとお嬢様とその弟、それから執事とメイドとコックさんやたくさんの人たち。
 もう、認識してもらえない悲しさも忘れて、なんでものぞき見できる楽しさにも飽きたというぼくにとって、この幽霊という状態がなんのためにあるのかはまったくわからなくなっていた。
 死んでしまいたい。
 もう死んでいるけど。
 成仏とかいうんだろうか。
 意識がなくなるか、せめて話ができるような相手のいるところに行きたいなと思う。天国とか、なんかもう地獄でもいいやって。
 屋敷の一室で、椅子に座っていた執事のおじいさんが涙を流していた。メイドさんやお嬢さんが泣いていることはよくあるけど、このベテランの執事さん泣くなんて今まで見たことがなかったので、ぼくは驚きながらおじいさんを見ていた。
「どうすればいい……」執事が呟いた。
 おじいさんは何かになやんでいるようだった。手に持っていた紙になにか書いてあるようなので、ぼくはそれをどうにかして読んでいった。
 誘拐。孫。お嬢様。命。警察。
 執事のおじいさんは頭を抱え込んでいる。全部を読めたわけではないけれど、おじいさんはどうやら孫を誘拐されたらしい。そして、その孫を無事返す代わりに、このお屋敷のお嬢様を誘拐することを手伝えと脅されているようだった。そうして、犯人は、お嬢様に対する身代金として、大金を要求するのだろう。
 ぼくはそのお嬢様のことをどちらかと言えば嫌いだった。かわいいらしいところがなにかイヤで。
 でも、どうにかしてあげたい気持ちもある。誘拐は悪いことだ。だから、たとえばぼくが幽霊としての力を駆使して、犯人を脅かすとかなんかして事件を解決したりすればいいお話になるだろう。
 だけど、それはできない。
 ぼくは現実にはなにも干渉できないんだ。
 なにか物を動かすことも、声を出して驚かすこともできない。ぼくにできるのはただ知ること、考えること、そして祈ること。それだけなのだ。
 執事のおじいさんは、何かを心に決めてしまったらしい。部屋をでて、別の部屋に向かう。行き先は電話のある部屋でもないし、主人のいる部屋でもないようで、お嬢様の部屋に向かっている。
 警察に連絡するのでもなく、主人に話すのでもなく、つまりはそういうことなのだろう。
「お嬢様、失礼致します」
 ドアの外でノック。さっきまでの泣いていた様子はどこにも見あたらない。これも今までの経験からできることなんだろうか。ドアが開き、中からでてきた子に笑いかけたその顔が、ぼくにはとても恐ろしく冷たく感じられた。しょうがない。だけど、なんで、苦悶が見ることができないのだろうと。
 執事のおじいさんは嘘をついて、駐車場へと連れて行く。執事の前を進む、ピンク色のスカートがかわいかった。ぼくの嫌いなスカートだけど、いまそんな気持ちよりも悲しさが強い。車に乗せて、どこかへ行くつもりだろうか。
 にげて、と思った。
 声には出さない。もう何年も声なんて出していない。ぼくの声は誰にも聞こえなくて、ぼくの耳にしか入らないのならば声を出す必要がない。さけぶような思いも、そんな習慣のせいで、ただ思うだけになってしまう。
 駐車場。執事のおじいさんはいつも通りのやさしい動きで、車のドアをあけた。スカートが一瞬ふわっとなって、それから後部座席で落ち着いた。
 ぼくはまずい、と思った。
 ここで生まれてここで死んだぼくは、この屋敷からでることのできない幽霊なのだ。もちろん、ついて行ったってなにもできない。ぼくがここにいたって、誰も気付かないし、ここが幽霊屋敷だなんて思うことすらしない。ぼくはただのやじうまだとわかっている。知りたいという欲求だけで、うわさ話が好きなメイドさんたちとかわらない。
 車が動き出す。大きな庭をゆっくりと走り、門の方へ。ぼくはまだ車の中にいられる。だけど、もうすぐ置いていかれる。お父さんとお母さんの乗った車が、ぼくを残してこの屋敷から出て行ったときのように。
 行かないで、と思った。
 そのとき、声が聞こえた。
「ぼくをどこに連れて行くつもり?」無邪気な笑い声。
 お嬢様? 違う。執事もそれに気付いたらしい。車が止まった。
「お姉ちゃんだと思った? 違うよ、僕だよ」
 俯いていた少年がなんにも知らずにほほえんだ。車に乗っていたのは、お嬢様の弟でこのお屋敷の跡継ぎの少年だった。
 執事のおじいさんは運転席で震えていた。その普段とは違う様子に少年もなにかに気付いたらしい。
「ごめんなさい。お姉ちゃんと服を交換して遊んでたの。怒らないで……」
 執事は涙をこぼしていた。それを少年に見えないようにぬぐって、ふりかえって微笑んだ。
「怒りませんよ。お屋敷に戻りましょう。こちらこそ申し訳ございません。お嬢様をお連れするお約束自体が私の勘違いでございました」
 車が庭の噴水をまわって駐車場へと引き返していった。
 その後、執事のおじいさんは主人に事情を話し、お屋敷は大騒ぎとなった。それでもやってきたおまわりさん達がちゃんと働いてくれて、執事のお孫さんも無事、救出されたようだった。
 結局、ぼくはなにもできなくて、ただ事件がはじまって終わるのを眺めていることしかできなかった。事件のあと、ふらふらとお屋敷で遊んでいたぼくは、あの執事とお嬢様が話しているところを目撃した。
「どうして正直に話すことにしたのですか? 戻ってきて、わたしを連れて行ってもよかったでしょう」
「……そうですね。ただ、私はじぶんに幻滅したのです。いくら服装が変わっていたとはいえ、仕えるべきお嬢様とご子息を間違えるなどという大きな失態をおかした自分自身に」
「そう」お嬢様は微笑んだ。「よくわかりません」
 やっぱりこのお嬢様はバカで、あまり好きになれない。ちょっとだけ誘拐されちゃえばよかったのにとか思った。いや、それは嘘。そうしておこう。
 そんな嫌いなお嬢様でも、ぼくが気になっていたことを聞いてくれたのでよしとしよう、と思う。
 この執事のおじいさんが、どうして思いとどまったのか。それはずっと気になっていたんだ。はたから見れば冷静ですごい怖かったけど、中身はやっぱり動揺してたんだなってぼくは安心した。
 こんなことがあるから幽霊ってのいいかなと思う。
 それにさ、やっぱり男と女を間違えるなんて失礼だよね。ぼくも生きていたときはよく間違えられたんだ。いくらスカートをはくのがイヤだったからって、男の子と間違えるなんて失礼しちゃうよね。
 いまでもスカートなんてはかないけどさ。

<了>   

『紅白歌合戦の舞台に俺は立ったのだが』 ひこ・ひこたろう

第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:23
総文字数 : 1379字

獲得☆3.083
 芥川賞を受賞したので、もっと引っ張りだこになるかと思いきや、ブログやツイッターで馬鹿なことばかり書いていることがバレてしまい、桜を見る会や園遊会には呼ばれずじまいだった。それでも、アイドル好きを隠さなかったことが功を奏したのか、年末の紅白には特別審査員として招かれることとなった。「森保まどかがHKTを卒業するまで、ボクも恋愛禁止です!」などとGoogle+に書いたりしたのだが、求愛とは受け止められず、単なる冗談だと理解されたようなのである。俺みたいな危険人物を森保まどかの半径100m以内に接近遭遇させるとは、NHKもいい度胸だ。そんなことを思いながら、審査員席の片隅に陣取る。右には女優の北川景子が、そして左には横綱・鶴竜がいる。美人とデブに挟まれたチビの太ったおっさんである俺は、幽霊屋敷から直行したかのような魔女のコスプレで登場し、かなり目立っている。
「高山さん、その格好は?」と紅組キャプテンの指原莉乃が訊くので、俺は機嫌よく
「プチMなので、マゾ(魔女)の格好で来ました」とボケてみた。

 おや? 何だ、この会場の雰囲気は……。

 指原莉乃は俺の返事もろくに聞かず、あらぬ方向を向いている。完全なシカトだ。困ったもんだ。こんなことになるくらいなら、紅組キャプテンなんて、綾瀬はるかに続投させればよかったのだ。
 しかし、俺がすべっただけにしては、様子がおかしい。スタッフも駆け回っている。ただならぬ気配を察した俺が、
「あのう……」と口を開きかけた時、
「どなたかお客様の中に、東李苑の代役としてEscapeのキーボードを演奏できる方はいらっしゃいませんか?」と指原が切羽詰った表情で会場に問いかけた。
 三秒ほど待ったが、会場はざわめくばかりで手を挙げる者がいない。仕方なく、俺が手を挙げた。しかし、審査員である以上、SKE48としてステージに立つわけにはいくまい。どうせ、却下されるだろう。
 ところが、である。
「じゃあ、お願いします」とスタッフに促され、俺はステージに向かった。
「あのう、審査は?」
「そんなの、どうでもいいです」
 どうでもいいのか? まあ、そうだろうけど。

 俺は中途半端なのは嫌いなので、コスプレにも気合が入っている。スカートを穿いたのは当然のこと、股の間には空飛ぶ箒がしっかり挟んである。といっても、この箒の柄には小さな穴が開いており、その小さな穴には俺の小さなナニが突っ込まれているのだ。そう、俺は加齢のせいもあって小便が近く、紅白の長丁場には耐えられない。そこで工夫を凝らし、こうして特殊なおまるを製作して持参したというわけだ。
 股の間の箒をぶらぶらさせながら、階段を上り、キーボードの前に立つ。そして、俺の指が奏でるヴィヴァーチェを合図に、SKE48の「Escape」は始まった。激しく踊るSKE48の後ろで、股間の箒を揺らしながら乗りに乗ってキーボードを演奏する俺。俺はセックスと掃除は苦手だが、言い訳と楽器の演奏だけはプロ級なのだ。
 そして、演奏は終わった。観客の悲鳴にも似た叫びに俺たちは包まれる。感動的な一瞬だ。汗はびっしょりだが、この達成感が心地いい。みんなに手を振って、おじぎをする俺。
 だが、おじぎをした俺が見たのは、自分の足元に落ちた箒だった。これでスカートがずれ落ちたりでもしていたら洒落にならん、と思いつつ、俺は自分の腰に手をやった。


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