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各夜のお題
第17回 募集要項
第17回 審査結果
入賞作品紹介
《大賞》
『百鬼夜行の客商売』 みお
《入賞》 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『ヘッセ』 犬子蓮木
『高速道路』 粟田柚香
『集合住宅』 粟田柚香
『シーサイド・ヒル』 大沢愛
『ルーインズ』 大沢愛
『スタティック』 大沢愛
『クリスタル・ムーン』 大沢愛
〈候補作品〉 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『The Friendly Ghost』 碧
『The Not-Friendly City』 碧
『創造主の箱庭』 kenrow
『生々しさ』 フィンディル
『幽霊アカウント』 muomuo
『男死病』 muomuo
『名無しの少年』 muomuo
『絆』 muomuo
『そうやって大人になっていく―丁稚安吉の場合』 志菜
『せやせや』 せせせ
『曲り角奇譚』 茶屋
『幽霊屋敷に住むものは』 永坂暖日
『便利な家』 ◆BNSK.80yf2
『助手席の彼女』 永坂暖日
『できごころ』 しゃん@にゃん革
『幽霊屋敷の浴室』 山田佳江
『桜屋敷』 茶屋
『幽霊の生業』 豆ヒヨコ
『幽霊船』 小伏史央
『幽霊屋敷の記憶』 三和すい
『記憶喪失になった俺が大学受験に挑むのだ』 ひこ・ひこたろう
『館長さん』 晴海まどか
『怪談は幽霊屋敷で』 松浦徹郎
『幽霊空き家』 永坂暖日
『九朗右衛門事件帳』 茶屋
『幽霊屋敷の一件』 碓氷穣
『歌声』 茶屋
『ぼくがいまよみたいしょうせつてきすとぽいばーじょん』 ひやとい
『歴史の勉強』 しゃん@にゃん革
『新幹線の中で』 ひこ・ひこたろう
『ぼくとお屋敷』 犬子蓮木
『紅白歌合戦の舞台に俺は立ったのだが』 ひこ・ひこたろう
『幽霊屋敷から出て来たのは古切手』 ひこ・ひこたろう
『大学祭』 ひやとい
『薔薇の香り』 げん@姐さん
『Haunted Horizon』 木野目理兵衛
〈集計外作品〉 ※投稿順
『柿のお供え』 高田@小説垢
『僕がオトコノコを止めた理由』 文才無い魔女
『変な旅』 鳥居三三
〈関連作品〉
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『幽霊船』 小伏史央

連載/第一、三、四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:30
最終更新 : 2014.05.06 23:41
総文字数 : 2570字

獲得☆3.500


《君こそ真のSF作家賞》
幽霊船
小伏史央


   (1)

 R-667Dはクオリアを有するアンドロイドである。彼は宇宙船を独りで操縦していた。
 すると、彼は寂れた宇宙船の死骸を見つけた。その船はまるで幽霊屋敷のように、宇宙塵にまぎれて存在感をなくしている。彼がこの船を発見したのも、偶然によるものだった。
 彼はめぼしいものがあれば回収、または通達することを主人に言い渡されている。見た目は不気味で、寂れているが、大きさはなかなかのものだった。なにか掘り出し物があるかもしれない。

 迷ってしまった。船のなかは妨害電波が駆け巡っており、彼は自身のクオリアだけをもとにして船内を進むより仕方なかったのだ。
 兄弟たちに救援信号を送ってみるも、彼らにちゃんと届くかはわからなかった。

 どれくらい歩いただろう。出口はもちろん、金になるものもひとつ見つからない。
 しかし幽霊は見つかった。男の子の幽霊だ。
 幽霊とは、人間の恐怖や不安などのクオリアが大脳皮質と結合してもたらされる現象のことだ。幽霊はときに人間のクオリアに干渉することで対象を傷付けることができる。ここはおとなしくしていたほうがいいだろう。彼は幽霊を視界から外すよう努力して歩いた。

 そしてなにごともなく素通りする。さらに出口がみつかった。
 なんだやはりは単なる幽霊屋敷か。収穫はなかったが、主人や兄弟たちへの土産話にはなるだろう。
 彼は出口に停まらせていた、自分が乗ってきた船にのりこむ。
 船は寂れて、稼働しなかった。


 
   (2)

 R-667CとR-667Bはクオリアを有するアンドロイドである。彼らは宇宙船を二人で操縦していた。うり二つの顔をした双子の彼らは、二人でいたほうがよく働くということで、主人から二人で動くよう言いつけられていたのだ。
 すると、彼らは寂れた宇宙船を見つけた。その船はまるで幽霊屋敷のように、宇宙塵にまぎれて存在感を失くしている。しかしそれはたぐい稀な巨大さを誇っていた。
 こんなに大きいのだ。きっと金目になるものが見つかるだろう。都合のいいことにこれは幽霊船だ。中身を拾って勝手に持っていっても、誰も文句は言うまい。彼らは自身らが大金に囲まれている想像をした。
「どうだ。素晴らしいな」CはBに、自分の想像したイメージを送信して言った。
「ふむ。確かに素晴らしい。しかし考えてみろ。金に囲まれるのはおれたちではないだろう」
「そうだ。主人だ」
 Cが送ったイメージに描かれている大金が、札束ではなく金貨であったのならば、Bもまた無意味に気分を良くし、こんな現実的なことは言わなかったことだろう。同一のイメージをもとにしているのに演算結果には差異が出る。それは両者ともに別々のクオリアを有しているからだった。
「ともかく入ってみようじゃないか」
「そうだな。それがいい」
 入口を見つけ、船を停める。

 迷ってしまった。Bは壁を伝って、おぼろな足取りで出口を探す。Cともはぐれてしまった。Bは歩く。船のなかにめぼしいものなどひとつも転がってはいなかった。誰か先に来た人がすべて持っていったのかもしれない。まったくなんということだ。
 廊下の向こうに、人影を見つけた。おお、Cか。声をかけるも、反応が返ってこない。Bは不思議に思いながらもそこへ歩いて行った。
 その人は幽霊だった。男の子の幽霊だ。幽霊とはクオリアと大脳皮質が結合して現れる現象のことだ。アンドロイドに大脳皮質はないが、それに準ずるCPUが勝手に干渉されているのだろう。こういう場合はスルーするのが鉄則だが、Cは男の子に攻撃することを選択した。クオリアを有するアンドロイドは、このようにしてマニュアルから外れた行動をおこすことができる。ちなみに幽霊は人間ではないので、傷つけたところでロボット三原則の第一条に反することはない。
 Cは幽霊を内蔵レーザーで焼き切った。幽霊に穴が開いた。
 幽霊が倒れる間際にレーザーを跳ね返してきた。レーザーはCの体を直撃し、貫いた。
 Cは倒れた。
 倒れた幽霊が、実はBであることにも、つまりその男の子の姿というのがCとうり二つのBの姿であることにも気づかずに。
 彼らは機能停止した。


 
   (3)

 コンビニ。そうだあれはコンビニだ。R-667Aは蹲りながら自分が記録している場景を思い浮かべた。地球を発つ前日、主人は彼をコンビニに連れて行ってくれた。宇宙開発機構のコンビニには、いろいろと珍しいものが売られており、主人は強力な妨害電波を発する機器を彼に買ってくれた。これで弟たちによ、イタズラしてやれよ。主人はこどもっぽく笑っていた。
 そうだ。これはただのイタズラだったのだ。Aは深い悔恨を感じながらふたつの壊れた機械人形を見つめる。二人の弟は見るも無残な姿で、暗闇と鉄錆に混ざっていた。
 クオリアというが、それは単に演算処理中に複数の重ね合わせ状態を作り出し、認識パターン、行動パターンを確率化させているにすぎない。妨害電波を送ることでアンドロイドの見る世界は、簡単にゆがめることができた。兄弟の姿をまったく知らない顔の幽霊に錯覚させることも、小さな自分の船を巨大な幽霊船に見せることも造作のないことだった。
 もうこんなことがあってはならない。彼はふと、まだR-667Dが来ていないことに気が付き、立ち上がった。妨害電波を早く止めて、せめて一番下の弟だけでも守ってやらねばならない。
 しかしあの機器はどこにあるのだろう。
 彼もまた、クオリアの持ち主だった。
 明るいはずの船内は、暗い。
 向こうから歩いてくる人影があった。弟のDだろう。しかし幽霊にしか見えない。もし双子たちのように攻撃してきたら、どうすることもできない。
 賢明なDは、素通りすることを決めたようだ。彼は弟に話しかけようとしたが、そうしたら攻撃されるだろうと思いとどまり、立ちすくむ。
 向こうから驚嘆の声が聞こえた。自分の船がこの短時間で寂れてしまったと錯覚している。
 そのうちクオリアが大脳皮質だけでなく宇宙空間に充満している暗黒エネルギーと結合して、この宇宙船は本当に幽霊船になるだろう。
 そして我々はそのころには主観と客観の区別も付けることなく、アンドロイドのくせに人間の幽霊のように、来訪者を待ち続けることになるのだろう。
 そのとき我々は何者になるのだろう。彼にはわからなかった。そしていつまでもわかる日は訪れない。
 誰かの船がやってきた。

(プロローグ・了)   

『幽霊屋敷の記憶』 三和すい

第一、二、三、四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:43
最終更新 : 2014.05.06 23:39
総文字数 : 3176字

獲得☆3.500
 ミートボールを食べながら、僕は大きな館を見上げた。
「これが、その幽霊屋敷?」
 電車に乗ること二時間。駅から車で一時間。ようやく着いた山の麓で車を降りて歩くことさらに三十分。こんなところに人が住んでいるのかと思うような山の中に、その屋敷はあった。
 かなり古そうだけど、荒れた感じはしない。今も誰かが住んでいそうな雰囲気だ。けど、実際には長いこと誰も住んでいないらしい。
「立派な屋敷だね」
「そうだろう。なかなかの掘り出し物だったよ」
 依頼人である不動産屋さんは、僕の隣でお茶を飲みながら自慢げに言った。
 学校の遠足よりも長い距離を移動し、僕も不動産屋さんもお腹がペコペコだった。僕の母さんが作ってくれたお弁当を二人で食べながら、不動産屋さんから詳しい話を聞く。
 不動産屋さんがこの屋敷を見つけたのは三ヶ月前。この辺の土地を持っていた地主さんが亡くなり、売りに出されたいくつかの山を見回っている時だった。近くの村で聞いてもそんな屋敷があったのかと首を傾げられ、役所とかで調べてみても持ち主どころか屋敷の存在さえ記載されていなかった。
 造りから少なくとも二百年以上前に建てられた屋敷は、壊してしまうには惜しいほど状態が良く、改装して売り出すつもりだと不動産屋さんは言っていた。
 こんな山の中にある屋敷を買う人がいるのかなと不思議に思って聞いてみると、この一帯の道路や鉄道を整備してリゾート地にする計画があって、この屋敷は別荘や小さな旅館にするにはちょうどいいらしい。僕には忍者屋敷とかに改造した方がお客さんがいっぱい来ると思うけど。
 問題が見つかったのは、改装を始めてすぐのことだった。
 屋敷の中に幽霊が出るというのだ。
 言い出したのは、改装業者のほぼ全員。
 最初は、何かを見たわけではなかった。作業中に楽しそうな話し声や笑い声が聞こえてきたり、パタパタと子供たちが走り回るような足音が聞こえてきたり、朝と夕方に厨房から料理のおいしそうな匂いが漂ってきたりと、誰かがいる気配がするだけ。
 恐くはないが気味が悪い。
 そう言って手を引いた職人さんたちが何人かいたけれど、残った人たちで作業は進められた。
 そのうち、いるはずのない人の姿を見る職人さんが出てきた。
 足音が聞こえたと思ってふり返ると、着物姿の子供が廊下の角を曲がっていく後ろ姿を見たり、和室の前の横を通り過ぎた時、視界の隅に布団で寝ている老人の姿が見えたので驚いて覗き込んだら誰もいなかったり、忘れ物をしたので夕方屋敷に戻ってみたら、大広間で婚礼が行われていたのを見たり。
 そして、さらに不思議な現象が起きるようになった。
 改装したはずの場所が、次の日になると元の状態に戻ってしまうのだ。
 恐いのを我慢して作業していた職人さんたちも、これにはさすがにお手上げ。みんな作業をやめて帰ってしまった。
 屋敷の改装が進まないどころか最初の状態に戻ってしまい、幽霊が出ると噂も出始め、不動産屋さんは慌てて僕の家に「幽霊を祓ってほしい」と依頼してきた。
 あいにくと両親だけでなく兄さんも姉さんも他の仕事を抱えていて、手が空いているのは僕しかいなかった。不動産屋さんは小学生の僕を見て不満そうにしていたけど、祓うだけなら僕一人で十分だというのが父さんの判断だった。
「ところで、その幽霊は何か悪いことをしたの? 例えば誰かケガをしたとか病気になったとか」
 僕の質問に、不動産屋さんは「いや」と首を横に振った。
「そういう話は聞いていないな」
「じゃあ、このままでもいいんじゃない? 幽霊屋敷って、おもしろいと思うけど」
「大金を出してこの辺一帯を買い占めたんだぞ! 変な噂が広がって万が一リゾート計画がなくなったらどうしてくれるんだ!」
 不動産屋さんは顔を真っ赤にして怒鳴った。
 仕方なく、僕はお弁当箱を片付けると除霊の準備を始めた。
 リュックにいっぱいに詰めてきたペンギンの小さな置物を、屋敷を取り囲むように置いていく。
「それは、幽霊を祓う道具なのか?」
 不動産屋さんが聞いてきたので僕はうなずいた。
「お祖母ちゃんからもらった道具なんだ。ほら、かわいいでしょう?」
 手のひらサイズのペンギンは、僕のお気に入りの道具だ。全部手作りで、ちょっとずつポーズが違っている。首を少しかたむけたり、つぶらな目で見上げたり、小さな翼を広げたりする姿はどれもかわいくて、僕は見ているだけで幸せな気分になってくる。
 だけど、ペンギンの置物を差し出すと、不動産屋さんは顔をしかめて後ずさった。
「そうか? 私には何だか不気味に感じるが……」
 その答えに、僕はやっぱりと思うと同時に、少しだけ感心した。
 長い間ずっと大切に使われ続けた道具には魂が宿ると言われている。
 このペンギンの置物たちは、僕のお祖母ちゃんがずっと除霊に使っていた道具だ。百年にはまだまだ届かないけれど、しまったはずの場所から時々いなくなるペンギンもいる。そのうち歩く僕の後をヨチヨチとついてきてくれないかなぁと期待している。
 魂が宿るにはまだまだ時間はかかりそうだけど、何かを宿し始めている置物は、そこそこ霊感がある人には不気味に感じるらしい。
 ――多くの人はね、自分と違う存在を恐れ、排除しようとするものなのよ。
 前にお祖母ちゃんがさびしそうに言ったことがある。
 この不動産屋さんもそうなのかもしれない。
 自分とは違う存在だから、何も悪いことをしていない幽霊を消し去りたいのかもしれない。
 僕は屋敷の周りにペンギンの置物を並べ終えると、不動産屋さんに聞いてみた。
「本当にここにいる霊を祓ってもいいの?」
「ああ。もちろんだ」
「でも、何も悪いことはしていないんでしょう?」
「していなくても、死んだ人間の魂が屋敷の中をさまよっているだけで気味が悪い」
 存在していることが悪いという言葉にちょっぴり悲しくなる。そして同時に、不動産屋さんがいろいろ勘違いしていることに僕は気づいた。
「幽霊は、死んだ人の魂じゃないよ」
 これは僕の家族みんなが感じていることだ。たまに本物の魂がさまよっていることもあるけれど、ほとんどは違う。
「幽霊はね、残された強い想いなんだよ」
「想い、だと?」
 うん、と僕はうなずく。
「死ぬ時にすごい恐いと思ったり、こうしたかったとか大きな未練があったりすると、その想いがその場に焼き付いてしまうんだって。あと、生きている人の想いが幽霊みたいになることもあるんだよ」
「生き霊というやつか。ん? つまり、この屋敷に出る幽霊は生き霊で、ライバル会社の奴が私に嫌がらせをしたいと思っているのか?」
「違うよ。ここに残っているのは死んだモノの想いだよ」
 そう。『彼』の魂は、もうこの世に存在していない。僕にはそう感じられる。
「たぶん、恐かったんだろうね」
「死ぬことがか?」
「死んで、覚えているモノが誰もいなくなることが」
 この場所は、あたたかい気配に包み込まれている。
 きっとこの屋敷に住んでいた人たちは代々幸せだったのだろう。楽しかった、うれしかった、そんな想いがこの場所に染み込んでいる。
「過去が忘れ去られてしまうのが恐かった。だから、幸せだった頃の想いが、記憶が、ここには残っていた……」
 僕は不動産屋さんの顔を見た。
「あなたは、それを消してしまうの?」
「当然だ」
 不動産屋さんはきっぱりと言った。
「ここはもうすぐリゾート地として生まれ変わるんだ。過去など関係ない! さあ、さっさと除霊してくれ!」
 依頼人である不動産屋さんがそう言うのなら仕方がない。僕は渋々は呪文を唱え始めた。
「ユタオカ ウイト シ レキコラインノモ ヤコジ シキ……」
 僕の言葉に、ペンギンの置物たちがいっせいに淡く輝き始めた。

 そして一時間後。
 目の前に現れた空き地に、不動産屋さんは茫然と立ちつくしていた。
「や、屋敷はどこにいったんだ?」
「祓ったよ」
「は?」
「だから、僕は依頼どおり祓ったよ。幽霊の『屋敷』をね」

『記憶喪失になった俺が大学受験に挑むのだ』 ひこ・ひこたろう

第二夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.04 23:40
総文字数 : 2436字

獲得☆3.500
 気がついた時、ハクいスケが俺の顔を覗き込んでいた。「ハクい」とは「可愛い」、「スケ」は「女子」とでも置き換えてくれればいいだろう。遠い昔、親父が子供の頃に読んでいた漫画で使われていた表現だ。俺はその漫画を一度しか読んだことがないのだが、主人公の女子大生たちが学園祭で模擬店「セーラー服喫茶『幽霊屋敷』」を運営し、思いがけない売れ行きで大金をつかむ、という内容だった。主人公の山崎あかねは弁護士を目指す法学部の一年生、その仲間である……。おっと、いけない。話が脱線したようだ。「ハクいスケ」の話に戻さなくっちゃ。
「よかった、気づいたのね。お兄ちゃん」とスケが言う。
「お兄ちゃん? 何を言っているんだ、スケさん」
「お兄ちゃん、私がわからないの? まあ、しょうがないか。おっかさん、じゃなくて、お母さん呼んでくるね」とスケは俺に言い、「スケさんなんて呼ぶから、調子狂っちゃう」などとつぶやきながら、部屋を出て行った。
 あの口調、確かに俺の妹である由樹美に似てなくもないが、そもそもあんな顔だったっけ? それにどう見たって、高校生。俺より年上じゃないか。いや、そもそも俺はなんでこんな病院みたいな部屋で横になっているのだろう?
「よかった、真一。ようやく意識が回復したのね」と部屋に入るや否や、母が泣きながら俺に駆け寄ってくる。真一は俺の名前だし、目の前にいるのは間違いなく俺の母親だ。俺は何だか安心した。
「意識が回復って、俺、寝てたの? どれくらい?」
「交通事故にあって三日間、意識が戻らなかったのよ。お医者さんは『必ず回復する』って約束してくれたんだけど、お母さんは心配で、心配で……」
「たった三日?」
 俺にはもっと時間が経っているような気がするのだが、気のせいだろうか。ふと、部屋の中を見回しカレンダを探してみる。カレンダは窓側にある棚の上、テレビの横にあり、そこには「2014年」と書かれてある。
「母さん」と俺は言った「3年経ってないか?」
「えっ?」
「俺、確か高校受験で必死に勉強していて……。あっ、その制服!」
 俺は妹によく似たスケさんの着ていた制服を指差した。
「俺が行きたかった本町高校の制服じゃないか」
「お兄ちゃん……」さっきまで冷静だったスケさんが、今では母親以上に取り乱している。
 ここで俺は自分の頭を整理してみた。どうやら俺は事故に遭い、三日間意識を失っていた。しかし、俺自身には3年間経過したとしか思えない。もし、スケさんが妹の由樹美だとすれば、二つ違いで中一だった彼女は、現在高一になっているはずだ。
「なあ、由樹美。俺って本町高校の三年生か?」
「何言ってるの、当たり前じゃない!」
「大学とか、目指してる?」
「うん」
「志望校ってわかる?」
「阪大医学部」
「嘘だ!」
「嘘じゃないよ。あんなに必死に勉強してたじゃない」
 信じられない。本町高校に入学するのに必死だった俺が、今では阪大の、しかも医学部を目指しているだなんて……。
 いや、しかし。
 その時、俺の頭の中には電車が耳元で走るかのような轟音が鳴り響き、これまで勉強してきた内容が怒涛のようにイメージとして繰り出されてきたのであった。中学レベルではない、微分積分やアルカリ土類金属、コンデンサの並列式などの内容が、くっきりと脳のあちこちに刻み込まれるかのように。
 今まで一度しか目にしたことがない漫画の内容までもが、鮮明に思い出される。とにかく、書籍状のもの、文字や数式で書かれた記憶のすべてが、きっちり脳に収まっている感じなのである。
「怪我の功名」とは、まさにこのことだ。俺はこの言葉を、小学館の学習雑誌の付録「なぜなに慣用句」で読んで覚えたのだ。そう、そこまで容易に思い出されるのであった。
 自分がどんな高校生活を送っていたのかも、どんな事故に遭ったのかも思い出せない。この三年間に考えたこと、感じたことの一切が自分の記憶の中にはない。しかし、自分が読んだ本、勉強した中身だけは確実に思い出すことが可能だった。
 これならいける! 阪大医学部なら、余裕で突破できるはずだ。
 退院した俺はろくに学校にも行かず、自宅で勉強を続けた。学んだ内容は面白いように頭の中に入っていく。試しに新聞や電話帳を覚えようとしても、これまたするすると記憶できるのだ。
 そんなある日、家にお見舞いの同級生が訪れた。聞けば俺の彼女らしく、同じ学校とあって学年の違う妹ともよく遊んでいたとのこと。
「元気な顔を見れてよかった」と彼女は言う。
 こちらとしては、それがどうした、って感じなのだが。
「受験、頑張ってね。きっと合格するよ」
 当たり前じゃないか。
「合格したら、またUSJに遊びに行こうね!」
 知るか、そんなもん。
 彼女が帰った後も、俺はひたすら勉強を続けた。
 そして、受験の日が訪れた。共通テストの自己採点もばっちりで、もう合格は十中八九手にしてようなものである、何しろ、俺は大学で使われる数学の教科書もマスターしていたし、英単語だって電子辞書並みに覚えている。
 二日目、最後の試験は英語だった。
 俺は問題にざっと目を通し、勝利を確信した。こんなのは楽勝だ。しかし、どうしたことだろう。この期に及んで俺は解答用紙に書くべき自分の名前を忘れてしまったのだ。受験票には「真一」とあるが、はたしてこれは自分の名前なのだろうか。
 焦りながらも俺は問題だけは解いていった。取り立てて難しいとも思えない。これまで模試や問題集でやってきたのと同じレベルの内容だ。大丈夫、俺は絶対合格できる。だけど、俺の名前は何だ? 真一でいいのか。答案用紙の名前欄に、真一とさえ書けば、俺は合格できるのか。
 その時、ふと俺は誰かの声を聞いたような気がした。
「真一」とその声は俺の名を呼ぶ。そんなお前は誰なのだ? 「真一」と、同じ声が、今度ははしゃいだような口調で言う。「真一、合格したら……」。そうだ、この声はあの子の声だ!
 俺は名前の欄に「真一」と書き込んだ。もう二度と戻らない、楽しかった高校での日々を思い出しながら。

『館長さん』 晴海まどか

第二夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.04 23:17
総文字数 : 1794字

獲得☆3.455
 小さな町の片隅にある、そんなに小さくない古いお屋敷。幽霊屋敷だなんて噂が絶えないそのお屋敷を改造して、僕はおばけ屋敷を営業している。
 小さな町だし、当然住民も多くない。どれくらいお客さんが来るのか、さっぱりわからない状態で営業を始めたんだけど。本物の廃墟を改造したかいもあって、ものすごく怖いって評判が遠い町まで広まった。僕の顔も青白くて生きてる人間に見えない、少ない髪の毛が不気味、なんていうのも、おばけ屋敷の営業っていう面から見たらよかったらしい。おかげで、夏には連日行列ができるほどの大繁盛。みんな悲鳴を上げて、最後はにこにこしながら、あー怖かった、って言いながら帰っていく。ありがたいかぎり。
 大人も子どもも、楽しく怖がってくれたら本当に嬉しい。暇つぶしくらいのつもりでおばけ屋敷を始めた僕だったけど、それがこんなにも嬉しいだなんて思ってもみなくて。僕は今、本当に幸せだと思う。

 おばけ屋敷の経営も軌道に乗ってきた、そんなある日のことだった。
 おばけ屋敷に入るのを楽しみに並んでいる行列に、二人の男が割り込んできた。
 彼らは、自らを『トレジャーハンター』と名乗った。
 この屋敷には、大金が眠っているから探させろと言う。
 こんな奴らを屋敷の中に入れるなんて、考えただけで呪い殺してやりたい気分になった。男たちのせいで、並んでいた子どもたちのわくわくした顔が曇ってしまったのを僕は知っていたからだ。
 けど、屋敷の中に入りたいという人を断る理由はない。ちゃんと列に並んで、入館料を払うことを条件に僕は男たちの入館を許可した。

 日が沈んで入館待ちの列もなくなって、あとは閉館して掃除をするだけ、という段になって。男たちが出てきていないことに気がついた。
 まだ屋敷の中を探索してるのかと思ったらうんざりした。そんな大金なんてありはしないのに。
 このまま放っておくわけにもいかないし。僕は渋々、屋敷の中を探すことにした。
 暗い館の中に、お客さーん……、なんて自分の弱々しい声が響いた。僕の声は、顔に劣らず生気が足りないといつも言われる。ドラキュラみたいだとか。確かに、僕はお日さまの光は苦手だけど。にんにくはどうなんだろう。食べたことがないからよくわからない。
 屋敷は二階建てで長方形の形をしている。部屋がたくさん並んでいて、お客さんにはそこを自由に探索してもらう形を取っている。
 一階と二階が吹き抜けになっている階段ホール。ここには、この館の主の肖像画が飾られている。暗い中で見ると、この画は本当に怖い、らしい。ここはこの屋敷一番の悲鳴スポットになったのは予想外だった。
 赤いカーペットの敷かれたそこを覗いた。あ、と思わず声を上げてしまう。
 トレジャーハンターのお二人が、苦悶の表情を浮かべて倒れていた。

 二人の男たちは心臓発作で死んでいた。
 休日には子どもを連れてよくおばけ屋敷に来てくれる、町のお巡りさんに少し事情を訊かれたりもしたけど、男たちの死に不自然なところはなかったし、病死ということで事件は片づいた。おばけ屋敷がよっぽど怖かったのかもしれませんねぇ、なんて不謹慎だけど僕とお巡りさんは少し笑ったりしてしまった。ごめんなさい、ご冥福をお祈りします。
 こんな事件があったんじゃ、お客さんも減ってしまうかな、と僕は不安に思ったのだけれども。実際は逆で、本当に人が死んだらしい、なんて噂が広まっておばけ屋敷はますます繁盛した。迷惑でしかなかったあの男たちも、こんな形でおばけ屋敷に貢献するだなんて思ってもみなかっただろうな。邪見に思って悪かったよ。
 おばけ屋敷は怖い。でもみんな、怖いから楽しい。みんなが楽しんでくれるのが嬉しくて、僕はますます怖がってもらえるように、屋敷の飾りつけを工夫する。演出をがんばる。
 そういう楽しいがわからない奴は、ほんと、死ねばいいと思う。

 怖さが半減しないように注意しながら、閉館後のおばけ屋敷を、僕は今日もせっせと掃除する。
 階段ホールにさしかかり、ほうきを動かす手を止めた。かざりのように蜘蛛の巣がかかった肖像画を見上げ、僕はさみしくなった自分の髪を指に絡めた。
 一五〇年前は、僕ももう少しハンサムだった。でも、あの頃は人間なんて大嫌いで、そんな僕をみんなは嫌っていた。
 この肖像画を見ても、みんな、これが僕だって気づかない。生きていた頃の画の方が怖がられてるなんて、人生、ほんと分からないもんだ。

『怪談は幽霊屋敷で』 松浦徹郎

第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:29
最終更新 : 2014.05.03 23:30
総文字数 : 722字

獲得☆3.417
俺、こういう場所に来るの結構楽しみなんだ。
夕陽が気持ち悪いくらいにぎらぎらしていて、そのくせまったく人の気配がなくて。
誰のものでもないアパートなんてあり得ないから、きっと所有者はいるんだろうけどさ。でも、入居者はひとりもいない。板張りの廊下とか、あちこちすり切れている畳とかが、昭和って感じだろ?
今日は、二階の部屋も探検してみようかな。聞いた話だと、部屋の真ん中にぽつんと黒電話がおいてあるとか。しかも、午前零時で鳴り出すっていうんだ。時代錯誤な怪談だけど、ここにいるとあながち嘘って笑い飛ばすのもどうかなって気分になる。
そう、ここは異空間って感じがする場所だから。

黒電話!
私、そういうの大好きなの。昭和レトロ? うん、そんな感じかな。
是非、私のコレクションに加えたい。聞いた話だと、このうち捨てられたボロアパートの二階にあるとか……。ちょっと怖い感じのするところだけど、今はまだ明るいし、それに幽霊なんて所詮嘘だし。いくしかないでしょ? 電話を取りに行くなら今でしょ?
この階段、抜け落ちたりしないよね? 大丈夫だよね??

二階は三部屋か……。
っと、電話があるっていうのは、確か真ん中の部屋だったな。
202号室だ。
ん? 人影??
まさか、な。

あったー!
これよ、これ。黒電話。プッシュじゃなくて、ダイアル式なの!!
あれ? 今、廊下に誰かいたような……。

先客なのか?
開けるべきなのか?
ひょっとして……。いや、まさかな。
どこぞの物好きに決まっている。なら驚かせてやるか。
それっ!

廊下、絶対誰かいるよね??
確かめなきゃ。幽霊って思うから、そう見えちゃうんだよ。
本当に確かめれば、嘘だってわかるはず。
それっ!



……。
なんだ、無人か。

……。
ほら、やっぱり気のせいじゃない。


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