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てきすとぽい杯について
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各夜のお題
第17回 募集要項
第17回 審査結果
入賞作品紹介
《大賞》
『百鬼夜行の客商売』 みお
《入賞》 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『ヘッセ』 犬子蓮木
『高速道路』 粟田柚香
『集合住宅』 粟田柚香
『シーサイド・ヒル』 大沢愛
『ルーインズ』 大沢愛
『スタティック』 大沢愛
『クリスタル・ムーン』 大沢愛
〈候補作品〉 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『The Friendly Ghost』 碧
『The Not-Friendly City』 碧
『創造主の箱庭』 kenrow
『生々しさ』 フィンディル
『幽霊アカウント』 muomuo
『男死病』 muomuo
『名無しの少年』 muomuo
『絆』 muomuo
『そうやって大人になっていく―丁稚安吉の場合』 志菜
『せやせや』 せせせ
『曲り角奇譚』 茶屋
『幽霊屋敷に住むものは』 永坂暖日
『便利な家』 ◆BNSK.80yf2
『助手席の彼女』 永坂暖日
『できごころ』 しゃん@にゃん革
『幽霊屋敷の浴室』 山田佳江
『桜屋敷』 茶屋
『幽霊の生業』 豆ヒヨコ
『幽霊船』 小伏史央
『幽霊屋敷の記憶』 三和すい
『記憶喪失になった俺が大学受験に挑むのだ』 ひこ・ひこたろう
『館長さん』 晴海まどか
『怪談は幽霊屋敷で』 松浦徹郎
『幽霊空き家』 永坂暖日
『九朗右衛門事件帳』 茶屋
『幽霊屋敷の一件』 碓氷穣
『歌声』 茶屋
『ぼくがいまよみたいしょうせつてきすとぽいばーじょん』 ひやとい
『歴史の勉強』 しゃん@にゃん革
『新幹線の中で』 ひこ・ひこたろう
『ぼくとお屋敷』 犬子蓮木
『紅白歌合戦の舞台に俺は立ったのだが』 ひこ・ひこたろう
『幽霊屋敷から出て来たのは古切手』 ひこ・ひこたろう
『大学祭』 ひやとい
『薔薇の香り』 げん@姐さん
『Haunted Horizon』 木野目理兵衛
〈集計外作品〉 ※投稿順
『柿のお供え』 高田@小説垢
『僕がオトコノコを止めた理由』 文才無い魔女
『変な旅』 鳥居三三
〈関連作品〉
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『桜屋敷』 茶屋

第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:18
総文字数 : 1634字

獲得☆3.615
 きっと少女がいた。
 ずっと昔、
 もしくは、
 遠い未来。
 少女はどこかの時間に属し、確かに存在していた。

「そこで何をしてるの?」
 少女はそうあなたに問いかけてくる。
「外を、見ていたんだ」
 あなたはそう答え、窓の外に視線を移す。そこには川が流れ、それにそって桜並木がある。
「散ってしまったから」
 あなたの声は少し淋しげだ。
「あんなに満開だったのにね」
「散ってしまうと、何だかとても」
「来年も咲くよ」
「……」
「来年もまた見れるよ」
 来年というその言葉。その概念。
 今のあなたとは大きく隔たった何か。
 来年も桜を見ることができるのだろうかと、あなたは思うのだった。

 葉が散っていく。
 桜はますます貧相で寂しげだ。花を散らせた時とは大違いで、華やかさは全くない。
 一年のうちの一時の美しさのためだけにあちこちに植えられる桜。
 ひとときの幻の木。僅かな夢の亡骸。
「どうしたの?ため息なんかついて」
「もうすぐ、冬だなと思ってさ」
 そう言ってあなたはまたため息をつくと、少女はおかしそうに笑った。
「そんなに冬が嫌い?」
「勿論。寒いからね」
「ふーん。あなたがそんなこと気にするとは思わなかった」
 少女は不思議そうに首を傾げる。
 そう。あなたは寒いのが苦手だ。今も、昔も、これからも。

 少女はいない。
 少なくとも、今、目の前には。
 桜も咲いていない。

 青い葉からは強い生命力を感じる。
 植えたばかりの頃はいかにも元気のなさそうに葉がへたっていたので、萎れてしまうのではないとあなたは心配していた。
 けれどもそんな心配を他所に、桜はしっかりと根を張り始め天に向かう決意をしたようだ。
 少女は今日も桜に水を与えている。
 彼女はとても楽しそうに笑っている。
 多分彼女は未来を見ているのだろう。未来の桜を。未来に花咲く桜を。
 少女はあなたに言う。
 いつか桜が咲いたら一緒に見ましょう、と。
 そう、いつか。
 いつか桜が咲くのだろうが。
 ただ、それがいつなのか。来年なのか、明日なのか、それとも昨日なのか、あなたには検討もつかない。

 あなたは家鳴りで目を覚ます。
 大きな音だった。今にもこの屋敷が崩れてしまうのではないのかと思うほどに。
 夢の中で少女は廊下をわたってあなたに会いに来ようとしていた。
 夢とわかっていても、あなたは廊下を確認せずにはおれなかった。
 勿論そこには闇と静寂しかなかった。
 そして、窓の外に目をやってもまだ桜は咲いていない。

 あなたは川沿いを見る。
 とても殺風景だ。
「いかがしました?」
「何もないんだね」
 少女は問いかけ、あなたは答える。
「そうですね。なんとも殺風景ですね」
「桜でも植えればいいんじゃないかな」
「桜ですか?」
「そう、桜。あそこにはとても似合うような気がする」
 少女は俯いている。
 泣いているかもしれない、とあなたは思う。
「僕は見れなくともいいんだ。誰かが、それを見て楽しめれば。あまりにもこの風景は殺風景すぎるよ」
 もう、春だ。
 春には桜がいい。
 そう思いながら、あなたは水を口に含み眠る。

 少女はあなたを見て悲鳴をあげる。
 そして、あなたに背を向ける。
 あなたは追いかけようとするが、やめた。
 窓の外に目をやる。
 悲鳴を聞いた外の子らも逃げていく様子だった。
 屋敷はもう古い。
 訪れるものがここを幽霊屋敷と呼んでいることをあなたは悲しく思っている。

 夏。屋敷はまだ新しい。
 花火が見え、聞こえる。光の後に、音がやってくる。
 あなたは窓からそれを眺めている。
「ほら、花火だよ」
 少女はあなたに答えるかのようにかすかに微笑んだ。
「花火……」
 あなたは何故だかとても悲しい。
 光が明滅するたびに、少女の顔が照らしだされる。もう彼女は目をつむり、寝ている。
 あなたは静かに泣く。
 来年の桜は見れそうもない。

 屋敷はとてもとても長い時代を生きてきた。
 屋敷はとてもとても長い時間桜を見守ってきた。
 そして屋敷には、少女がいた。
 きっと少女がいた。
 ずっと昔、
 もしくは、
 遠い未来。
 少女はどこかの時間に属し、確かに存在していた。
 だが、今、この時は少女はいない。
 あなたもいない。
 ただ、桜だけが咲いている。

『幽霊の生業』 豆ヒヨコ

第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:28
最終更新 : 2014.05.03 23:44
総文字数 : 2143字

獲得☆3.545
斉藤くんがわたしたちの家をノックしたのは、真夏の暑い昼下がり、午後三時ごろだった。
のり子さんは、と言ったきり口をつぐんだ。当惑したわたしの表情を見て、すぐに姉の留守を悟ったらしかった。「グァムへ旅行中ですけれど」と答えると、ああー…と息を吐いて大きく目線を落とした。それから勇気を振り絞るように訴えた。
「ビール瓶を持ってきてくれたらなあ、と言われたんです。昨日。『缶じゃなくて瓶、一ケースね』って。うちで冷やして、楽しく飲んじゃいましょうよって。出かけるなんて、ぜんぜん聞いてなかったんですけど」
その声にはすがるような悲しみがあった。でもわたしは同情できなくて、ハアとだけ答えた。
あかるい黄色のケースは昼下がりの日光をマットに照り返していて、つめ込まれた茶色の瓶たちはいよいよ温もりを持ち始めていて、お酒を飲めないわたしは「持って帰ってください」と冷酷に言った。ふっと目を上げた彼の表情は、かっこいいとまでは言わずとも真摯な懇願に満ちていて、ちょっといいなとも思ったが、やはりわたしは「持って帰ってください」と再び言った。そして付け加えた。
「姉は受け取らないと思います。言われたことを鵜呑みにしない、気位の高い天邪鬼ばかり愛してますもの」

斉藤くんは電車で来たという。ケースを担がせた帰路はさすがに気の毒で、わたしは車を出してあげることにする。
カーポートに停めておいた深緑色のミラジーノを指さす。わたしの車だ。縁石に平行に、まったくズレずに駐車されたミラの横には、ごく類似した色合いのBMW・MINIクーパーが双子のように停止している。これは姉の車だ。仕様も利便性も、その価値も大きくかけ離れた、でもどこか似た美しさを持つ二台。きれいずきなわたしたち姉妹は、所有する車を各々でぴかぴかに磨き上げている。まるで競うように汚れを除き、まんべんなくワックスをかける。
「助かります」
ごく短く礼を言い、斉藤くんは助手席に乗り込んでシートベルトを締めた。
エンジンが小さく高まったところで、わたしはアクセルを踏み頃合いよくハンドルを切った。ぐるりと最小限の円を描くよう、緑の軽自動車を走らせた。難なく公道へ出る。茶色の瓶同士がぶつかる響きを背後に聞きながら、わたしは何の気なしに言った。
「わたしと姉さん、すっぴんの顔はほぼ同じなの」
斉藤くんはああ…と無意味に、しかしまんざら無関心でもない様子で相槌をうった。わたしは続けた。
「不思議なんだけれど、同じ顔で性質もどこか似ているのに、おつきあいする男性はぜんぜん違うのよ。ほら、ふたりで一軒家をシェアしている状態だから、ときどき彼女が男を連れ込むところに出会うわけね。いつも、いつもいつもいっつもサラリーマンなの。スーツなんて着てなくてもわかる。神経質そうなポロシャツの着方とか、磨きたてられた黒縁メガネとか、妙に清潔な髪型なんかでピンとくるわ。……だから、あなたが訪ねてきた時はすこし驚いたかな」
「どうしてですか」
「えーと、……とっても若々しいから」
正直に言えば、彼は若々しいというより『とっつぁん坊や』だった。
白くぽちゃぽちゃとした頬に刈り込んだ髪、筋肉のない腕にはアウトドアを嫌うもやしっ子精神が感じられた。襟ぐりの伸びたTシャツが、ぴりっとしない印象を確固たるものにしていた。姉は本当に節操がない。絶対好きなはずはないのに、どうして思わせぶりな言葉を吐くのだろう。その労力が意味不明だ、引っ掛ける際も引き剥がす際も。
「俺、サラリーマンですよ」
斉藤くんがぽつりとつぶやいた。
ちらりと見やると、彼はフロントガラスを見つめたまま、割に繊細そうな指でボディバッグの金具をいじりまわしていた。
「サラリーマンに、なったんです。のり子さんに出会って」
ハハハそうなんですか、と笑ってみる。笑う以外にどうしようがある。
「好きなんです、好きなんです。どうしようもなく好きなんです。でも何をしてあげられるかわからなくて、僕は救われるばかりで。そしたらビール瓶がほしいって言うから張り切っちゃったんです」
「なるほど、一ダースも」
茶化すつもりで合いの手を入れたが、返事はなかった。
泣かれたらどうしよう、などとわたしは思う。姉を慕う男たちはピュアな輩ばかりで、それを慰めてばかりいるうちに、わたしは恋愛を通り越してふんだんな母性を抱えてしまう。いったい何人の未熟な、考えなしな、素朴な男たちの母親代わりを務めてきたことだろう。すこし力を込めて、わたしは言う。
「姉は帰ってこないわ。彼女に似た、わたしという幽霊がいるだけ。ただの幽霊屋敷よ」
斉藤くんはまたあの目をして、今度はフフフと笑う。
「幽霊だってほしい時がありますよ、一番知ってるでしょう?」
心のどこかが押しつぶされ、わたしはスイッチを押して窓を開ける。
恐ろしいほどの熱気と、耳をつんざくセミの声が届く。彼らとわたしは、きっと似ているのだ。姉にはなれない、本当の愛を得られない。信号機は黄色に瞬いた刹那、赤いつぶつぶを載せた円へと変わる。ふつふつと額に浮かぶ汗を拭ううち、アクセルを踏み込んで世界を壊してしまいたくなる。
彼と添い遂げたところで後悔しない気がしたし、斉藤くんもそれでいい、と思ってくれそうな気がしてしまうのだ。

『幽霊船』 小伏史央

連載/第一、三、四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:30
最終更新 : 2014.05.06 23:41
総文字数 : 2570字

獲得☆3.500


《君こそ真のSF作家賞》
幽霊船
小伏史央


   (1)

 R-667Dはクオリアを有するアンドロイドである。彼は宇宙船を独りで操縦していた。
 すると、彼は寂れた宇宙船の死骸を見つけた。その船はまるで幽霊屋敷のように、宇宙塵にまぎれて存在感をなくしている。彼がこの船を発見したのも、偶然によるものだった。
 彼はめぼしいものがあれば回収、または通達することを主人に言い渡されている。見た目は不気味で、寂れているが、大きさはなかなかのものだった。なにか掘り出し物があるかもしれない。

 迷ってしまった。船のなかは妨害電波が駆け巡っており、彼は自身のクオリアだけをもとにして船内を進むより仕方なかったのだ。
 兄弟たちに救援信号を送ってみるも、彼らにちゃんと届くかはわからなかった。

 どれくらい歩いただろう。出口はもちろん、金になるものもひとつ見つからない。
 しかし幽霊は見つかった。男の子の幽霊だ。
 幽霊とは、人間の恐怖や不安などのクオリアが大脳皮質と結合してもたらされる現象のことだ。幽霊はときに人間のクオリアに干渉することで対象を傷付けることができる。ここはおとなしくしていたほうがいいだろう。彼は幽霊を視界から外すよう努力して歩いた。

 そしてなにごともなく素通りする。さらに出口がみつかった。
 なんだやはりは単なる幽霊屋敷か。収穫はなかったが、主人や兄弟たちへの土産話にはなるだろう。
 彼は出口に停まらせていた、自分が乗ってきた船にのりこむ。
 船は寂れて、稼働しなかった。


 
   (2)

 R-667CとR-667Bはクオリアを有するアンドロイドである。彼らは宇宙船を二人で操縦していた。うり二つの顔をした双子の彼らは、二人でいたほうがよく働くということで、主人から二人で動くよう言いつけられていたのだ。
 すると、彼らは寂れた宇宙船を見つけた。その船はまるで幽霊屋敷のように、宇宙塵にまぎれて存在感を失くしている。しかしそれはたぐい稀な巨大さを誇っていた。
 こんなに大きいのだ。きっと金目になるものが見つかるだろう。都合のいいことにこれは幽霊船だ。中身を拾って勝手に持っていっても、誰も文句は言うまい。彼らは自身らが大金に囲まれている想像をした。
「どうだ。素晴らしいな」CはBに、自分の想像したイメージを送信して言った。
「ふむ。確かに素晴らしい。しかし考えてみろ。金に囲まれるのはおれたちではないだろう」
「そうだ。主人だ」
 Cが送ったイメージに描かれている大金が、札束ではなく金貨であったのならば、Bもまた無意味に気分を良くし、こんな現実的なことは言わなかったことだろう。同一のイメージをもとにしているのに演算結果には差異が出る。それは両者ともに別々のクオリアを有しているからだった。
「ともかく入ってみようじゃないか」
「そうだな。それがいい」
 入口を見つけ、船を停める。

 迷ってしまった。Bは壁を伝って、おぼろな足取りで出口を探す。Cともはぐれてしまった。Bは歩く。船のなかにめぼしいものなどひとつも転がってはいなかった。誰か先に来た人がすべて持っていったのかもしれない。まったくなんということだ。
 廊下の向こうに、人影を見つけた。おお、Cか。声をかけるも、反応が返ってこない。Bは不思議に思いながらもそこへ歩いて行った。
 その人は幽霊だった。男の子の幽霊だ。幽霊とはクオリアと大脳皮質が結合して現れる現象のことだ。アンドロイドに大脳皮質はないが、それに準ずるCPUが勝手に干渉されているのだろう。こういう場合はスルーするのが鉄則だが、Cは男の子に攻撃することを選択した。クオリアを有するアンドロイドは、このようにしてマニュアルから外れた行動をおこすことができる。ちなみに幽霊は人間ではないので、傷つけたところでロボット三原則の第一条に反することはない。
 Cは幽霊を内蔵レーザーで焼き切った。幽霊に穴が開いた。
 幽霊が倒れる間際にレーザーを跳ね返してきた。レーザーはCの体を直撃し、貫いた。
 Cは倒れた。
 倒れた幽霊が、実はBであることにも、つまりその男の子の姿というのがCとうり二つのBの姿であることにも気づかずに。
 彼らは機能停止した。


 
   (3)

 コンビニ。そうだあれはコンビニだ。R-667Aは蹲りながら自分が記録している場景を思い浮かべた。地球を発つ前日、主人は彼をコンビニに連れて行ってくれた。宇宙開発機構のコンビニには、いろいろと珍しいものが売られており、主人は強力な妨害電波を発する機器を彼に買ってくれた。これで弟たちによ、イタズラしてやれよ。主人はこどもっぽく笑っていた。
 そうだ。これはただのイタズラだったのだ。Aは深い悔恨を感じながらふたつの壊れた機械人形を見つめる。二人の弟は見るも無残な姿で、暗闇と鉄錆に混ざっていた。
 クオリアというが、それは単に演算処理中に複数の重ね合わせ状態を作り出し、認識パターン、行動パターンを確率化させているにすぎない。妨害電波を送ることでアンドロイドの見る世界は、簡単にゆがめることができた。兄弟の姿をまったく知らない顔の幽霊に錯覚させることも、小さな自分の船を巨大な幽霊船に見せることも造作のないことだった。
 もうこんなことがあってはならない。彼はふと、まだR-667Dが来ていないことに気が付き、立ち上がった。妨害電波を早く止めて、せめて一番下の弟だけでも守ってやらねばならない。
 しかしあの機器はどこにあるのだろう。
 彼もまた、クオリアの持ち主だった。
 明るいはずの船内は、暗い。
 向こうから歩いてくる人影があった。弟のDだろう。しかし幽霊にしか見えない。もし双子たちのように攻撃してきたら、どうすることもできない。
 賢明なDは、素通りすることを決めたようだ。彼は弟に話しかけようとしたが、そうしたら攻撃されるだろうと思いとどまり、立ちすくむ。
 向こうから驚嘆の声が聞こえた。自分の船がこの短時間で寂れてしまったと錯覚している。
 そのうちクオリアが大脳皮質だけでなく宇宙空間に充満している暗黒エネルギーと結合して、この宇宙船は本当に幽霊船になるだろう。
 そして我々はそのころには主観と客観の区別も付けることなく、アンドロイドのくせに人間の幽霊のように、来訪者を待ち続けることになるのだろう。
 そのとき我々は何者になるのだろう。彼にはわからなかった。そしていつまでもわかる日は訪れない。
 誰かの船がやってきた。

(プロローグ・了)   

『幽霊屋敷の記憶』 三和すい

第一、二、三、四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:43
最終更新 : 2014.05.06 23:39
総文字数 : 3176字

獲得☆3.500
 ミートボールを食べながら、僕は大きな館を見上げた。
「これが、その幽霊屋敷?」
 電車に乗ること二時間。駅から車で一時間。ようやく着いた山の麓で車を降りて歩くことさらに三十分。こんなところに人が住んでいるのかと思うような山の中に、その屋敷はあった。
 かなり古そうだけど、荒れた感じはしない。今も誰かが住んでいそうな雰囲気だ。けど、実際には長いこと誰も住んでいないらしい。
「立派な屋敷だね」
「そうだろう。なかなかの掘り出し物だったよ」
 依頼人である不動産屋さんは、僕の隣でお茶を飲みながら自慢げに言った。
 学校の遠足よりも長い距離を移動し、僕も不動産屋さんもお腹がペコペコだった。僕の母さんが作ってくれたお弁当を二人で食べながら、不動産屋さんから詳しい話を聞く。
 不動産屋さんがこの屋敷を見つけたのは三ヶ月前。この辺の土地を持っていた地主さんが亡くなり、売りに出されたいくつかの山を見回っている時だった。近くの村で聞いてもそんな屋敷があったのかと首を傾げられ、役所とかで調べてみても持ち主どころか屋敷の存在さえ記載されていなかった。
 造りから少なくとも二百年以上前に建てられた屋敷は、壊してしまうには惜しいほど状態が良く、改装して売り出すつもりだと不動産屋さんは言っていた。
 こんな山の中にある屋敷を買う人がいるのかなと不思議に思って聞いてみると、この一帯の道路や鉄道を整備してリゾート地にする計画があって、この屋敷は別荘や小さな旅館にするにはちょうどいいらしい。僕には忍者屋敷とかに改造した方がお客さんがいっぱい来ると思うけど。
 問題が見つかったのは、改装を始めてすぐのことだった。
 屋敷の中に幽霊が出るというのだ。
 言い出したのは、改装業者のほぼ全員。
 最初は、何かを見たわけではなかった。作業中に楽しそうな話し声や笑い声が聞こえてきたり、パタパタと子供たちが走り回るような足音が聞こえてきたり、朝と夕方に厨房から料理のおいしそうな匂いが漂ってきたりと、誰かがいる気配がするだけ。
 恐くはないが気味が悪い。
 そう言って手を引いた職人さんたちが何人かいたけれど、残った人たちで作業は進められた。
 そのうち、いるはずのない人の姿を見る職人さんが出てきた。
 足音が聞こえたと思ってふり返ると、着物姿の子供が廊下の角を曲がっていく後ろ姿を見たり、和室の前の横を通り過ぎた時、視界の隅に布団で寝ている老人の姿が見えたので驚いて覗き込んだら誰もいなかったり、忘れ物をしたので夕方屋敷に戻ってみたら、大広間で婚礼が行われていたのを見たり。
 そして、さらに不思議な現象が起きるようになった。
 改装したはずの場所が、次の日になると元の状態に戻ってしまうのだ。
 恐いのを我慢して作業していた職人さんたちも、これにはさすがにお手上げ。みんな作業をやめて帰ってしまった。
 屋敷の改装が進まないどころか最初の状態に戻ってしまい、幽霊が出ると噂も出始め、不動産屋さんは慌てて僕の家に「幽霊を祓ってほしい」と依頼してきた。
 あいにくと両親だけでなく兄さんも姉さんも他の仕事を抱えていて、手が空いているのは僕しかいなかった。不動産屋さんは小学生の僕を見て不満そうにしていたけど、祓うだけなら僕一人で十分だというのが父さんの判断だった。
「ところで、その幽霊は何か悪いことをしたの? 例えば誰かケガをしたとか病気になったとか」
 僕の質問に、不動産屋さんは「いや」と首を横に振った。
「そういう話は聞いていないな」
「じゃあ、このままでもいいんじゃない? 幽霊屋敷って、おもしろいと思うけど」
「大金を出してこの辺一帯を買い占めたんだぞ! 変な噂が広がって万が一リゾート計画がなくなったらどうしてくれるんだ!」
 不動産屋さんは顔を真っ赤にして怒鳴った。
 仕方なく、僕はお弁当箱を片付けると除霊の準備を始めた。
 リュックにいっぱいに詰めてきたペンギンの小さな置物を、屋敷を取り囲むように置いていく。
「それは、幽霊を祓う道具なのか?」
 不動産屋さんが聞いてきたので僕はうなずいた。
「お祖母ちゃんからもらった道具なんだ。ほら、かわいいでしょう?」
 手のひらサイズのペンギンは、僕のお気に入りの道具だ。全部手作りで、ちょっとずつポーズが違っている。首を少しかたむけたり、つぶらな目で見上げたり、小さな翼を広げたりする姿はどれもかわいくて、僕は見ているだけで幸せな気分になってくる。
 だけど、ペンギンの置物を差し出すと、不動産屋さんは顔をしかめて後ずさった。
「そうか? 私には何だか不気味に感じるが……」
 その答えに、僕はやっぱりと思うと同時に、少しだけ感心した。
 長い間ずっと大切に使われ続けた道具には魂が宿ると言われている。
 このペンギンの置物たちは、僕のお祖母ちゃんがずっと除霊に使っていた道具だ。百年にはまだまだ届かないけれど、しまったはずの場所から時々いなくなるペンギンもいる。そのうち歩く僕の後をヨチヨチとついてきてくれないかなぁと期待している。
 魂が宿るにはまだまだ時間はかかりそうだけど、何かを宿し始めている置物は、そこそこ霊感がある人には不気味に感じるらしい。
 ――多くの人はね、自分と違う存在を恐れ、排除しようとするものなのよ。
 前にお祖母ちゃんがさびしそうに言ったことがある。
 この不動産屋さんもそうなのかもしれない。
 自分とは違う存在だから、何も悪いことをしていない幽霊を消し去りたいのかもしれない。
 僕は屋敷の周りにペンギンの置物を並べ終えると、不動産屋さんに聞いてみた。
「本当にここにいる霊を祓ってもいいの?」
「ああ。もちろんだ」
「でも、何も悪いことはしていないんでしょう?」
「していなくても、死んだ人間の魂が屋敷の中をさまよっているだけで気味が悪い」
 存在していることが悪いという言葉にちょっぴり悲しくなる。そして同時に、不動産屋さんがいろいろ勘違いしていることに僕は気づいた。
「幽霊は、死んだ人の魂じゃないよ」
 これは僕の家族みんなが感じていることだ。たまに本物の魂がさまよっていることもあるけれど、ほとんどは違う。
「幽霊はね、残された強い想いなんだよ」
「想い、だと?」
 うん、と僕はうなずく。
「死ぬ時にすごい恐いと思ったり、こうしたかったとか大きな未練があったりすると、その想いがその場に焼き付いてしまうんだって。あと、生きている人の想いが幽霊みたいになることもあるんだよ」
「生き霊というやつか。ん? つまり、この屋敷に出る幽霊は生き霊で、ライバル会社の奴が私に嫌がらせをしたいと思っているのか?」
「違うよ。ここに残っているのは死んだモノの想いだよ」
 そう。『彼』の魂は、もうこの世に存在していない。僕にはそう感じられる。
「たぶん、恐かったんだろうね」
「死ぬことがか?」
「死んで、覚えているモノが誰もいなくなることが」
 この場所は、あたたかい気配に包み込まれている。
 きっとこの屋敷に住んでいた人たちは代々幸せだったのだろう。楽しかった、うれしかった、そんな想いがこの場所に染み込んでいる。
「過去が忘れ去られてしまうのが恐かった。だから、幸せだった頃の想いが、記憶が、ここには残っていた……」
 僕は不動産屋さんの顔を見た。
「あなたは、それを消してしまうの?」
「当然だ」
 不動産屋さんはきっぱりと言った。
「ここはもうすぐリゾート地として生まれ変わるんだ。過去など関係ない! さあ、さっさと除霊してくれ!」
 依頼人である不動産屋さんがそう言うのなら仕方がない。僕は渋々は呪文を唱え始めた。
「ユタオカ ウイト シ レキコラインノモ ヤコジ シキ……」
 僕の言葉に、ペンギンの置物たちがいっせいに淡く輝き始めた。

 そして一時間後。
 目の前に現れた空き地に、不動産屋さんは茫然と立ちつくしていた。
「や、屋敷はどこにいったんだ?」
「祓ったよ」
「は?」
「だから、僕は依頼どおり祓ったよ。幽霊の『屋敷』をね」

『記憶喪失になった俺が大学受験に挑むのだ』 ひこ・ひこたろう

第二夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.04 23:40
総文字数 : 2436字

獲得☆3.500
 気がついた時、ハクいスケが俺の顔を覗き込んでいた。「ハクい」とは「可愛い」、「スケ」は「女子」とでも置き換えてくれればいいだろう。遠い昔、親父が子供の頃に読んでいた漫画で使われていた表現だ。俺はその漫画を一度しか読んだことがないのだが、主人公の女子大生たちが学園祭で模擬店「セーラー服喫茶『幽霊屋敷』」を運営し、思いがけない売れ行きで大金をつかむ、という内容だった。主人公の山崎あかねは弁護士を目指す法学部の一年生、その仲間である……。おっと、いけない。話が脱線したようだ。「ハクいスケ」の話に戻さなくっちゃ。
「よかった、気づいたのね。お兄ちゃん」とスケが言う。
「お兄ちゃん? 何を言っているんだ、スケさん」
「お兄ちゃん、私がわからないの? まあ、しょうがないか。おっかさん、じゃなくて、お母さん呼んでくるね」とスケは俺に言い、「スケさんなんて呼ぶから、調子狂っちゃう」などとつぶやきながら、部屋を出て行った。
 あの口調、確かに俺の妹である由樹美に似てなくもないが、そもそもあんな顔だったっけ? それにどう見たって、高校生。俺より年上じゃないか。いや、そもそも俺はなんでこんな病院みたいな部屋で横になっているのだろう?
「よかった、真一。ようやく意識が回復したのね」と部屋に入るや否や、母が泣きながら俺に駆け寄ってくる。真一は俺の名前だし、目の前にいるのは間違いなく俺の母親だ。俺は何だか安心した。
「意識が回復って、俺、寝てたの? どれくらい?」
「交通事故にあって三日間、意識が戻らなかったのよ。お医者さんは『必ず回復する』って約束してくれたんだけど、お母さんは心配で、心配で……」
「たった三日?」
 俺にはもっと時間が経っているような気がするのだが、気のせいだろうか。ふと、部屋の中を見回しカレンダを探してみる。カレンダは窓側にある棚の上、テレビの横にあり、そこには「2014年」と書かれてある。
「母さん」と俺は言った「3年経ってないか?」
「えっ?」
「俺、確か高校受験で必死に勉強していて……。あっ、その制服!」
 俺は妹によく似たスケさんの着ていた制服を指差した。
「俺が行きたかった本町高校の制服じゃないか」
「お兄ちゃん……」さっきまで冷静だったスケさんが、今では母親以上に取り乱している。
 ここで俺は自分の頭を整理してみた。どうやら俺は事故に遭い、三日間意識を失っていた。しかし、俺自身には3年間経過したとしか思えない。もし、スケさんが妹の由樹美だとすれば、二つ違いで中一だった彼女は、現在高一になっているはずだ。
「なあ、由樹美。俺って本町高校の三年生か?」
「何言ってるの、当たり前じゃない!」
「大学とか、目指してる?」
「うん」
「志望校ってわかる?」
「阪大医学部」
「嘘だ!」
「嘘じゃないよ。あんなに必死に勉強してたじゃない」
 信じられない。本町高校に入学するのに必死だった俺が、今では阪大の、しかも医学部を目指しているだなんて……。
 いや、しかし。
 その時、俺の頭の中には電車が耳元で走るかのような轟音が鳴り響き、これまで勉強してきた内容が怒涛のようにイメージとして繰り出されてきたのであった。中学レベルではない、微分積分やアルカリ土類金属、コンデンサの並列式などの内容が、くっきりと脳のあちこちに刻み込まれるかのように。
 今まで一度しか目にしたことがない漫画の内容までもが、鮮明に思い出される。とにかく、書籍状のもの、文字や数式で書かれた記憶のすべてが、きっちり脳に収まっている感じなのである。
「怪我の功名」とは、まさにこのことだ。俺はこの言葉を、小学館の学習雑誌の付録「なぜなに慣用句」で読んで覚えたのだ。そう、そこまで容易に思い出されるのであった。
 自分がどんな高校生活を送っていたのかも、どんな事故に遭ったのかも思い出せない。この三年間に考えたこと、感じたことの一切が自分の記憶の中にはない。しかし、自分が読んだ本、勉強した中身だけは確実に思い出すことが可能だった。
 これならいける! 阪大医学部なら、余裕で突破できるはずだ。
 退院した俺はろくに学校にも行かず、自宅で勉強を続けた。学んだ内容は面白いように頭の中に入っていく。試しに新聞や電話帳を覚えようとしても、これまたするすると記憶できるのだ。
 そんなある日、家にお見舞いの同級生が訪れた。聞けば俺の彼女らしく、同じ学校とあって学年の違う妹ともよく遊んでいたとのこと。
「元気な顔を見れてよかった」と彼女は言う。
 こちらとしては、それがどうした、って感じなのだが。
「受験、頑張ってね。きっと合格するよ」
 当たり前じゃないか。
「合格したら、またUSJに遊びに行こうね!」
 知るか、そんなもん。
 彼女が帰った後も、俺はひたすら勉強を続けた。
 そして、受験の日が訪れた。共通テストの自己採点もばっちりで、もう合格は十中八九手にしてようなものである、何しろ、俺は大学で使われる数学の教科書もマスターしていたし、英単語だって電子辞書並みに覚えている。
 二日目、最後の試験は英語だった。
 俺は問題にざっと目を通し、勝利を確信した。こんなのは楽勝だ。しかし、どうしたことだろう。この期に及んで俺は解答用紙に書くべき自分の名前を忘れてしまったのだ。受験票には「真一」とあるが、はたしてこれは自分の名前なのだろうか。
 焦りながらも俺は問題だけは解いていった。取り立てて難しいとも思えない。これまで模試や問題集でやってきたのと同じレベルの内容だ。大丈夫、俺は絶対合格できる。だけど、俺の名前は何だ? 真一でいいのか。答案用紙の名前欄に、真一とさえ書けば、俺は合格できるのか。
 その時、ふと俺は誰かの声を聞いたような気がした。
「真一」とその声は俺の名を呼ぶ。そんなお前は誰なのだ? 「真一」と、同じ声が、今度ははしゃいだような口調で言う。「真一、合格したら……」。そうだ、この声はあの子の声だ!
 俺は名前の欄に「真一」と書き込んだ。もう二度と戻らない、楽しかった高校での日々を思い出しながら。


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