目次
- 目次
目次
てきすとぽい杯について
てきすとぽい杯について
各夜のお題
第17回 募集要項
第17回 審査結果
入賞作品紹介
《大賞》
『百鬼夜行の客商売』 みお
《入賞》 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『ヘッセ』 犬子蓮木
『高速道路』 粟田柚香
『集合住宅』 粟田柚香
『シーサイド・ヒル』 大沢愛
『ルーインズ』 大沢愛
『スタティック』 大沢愛
『クリスタル・ムーン』 大沢愛
〈候補作品〉 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『The Friendly Ghost』 碧
『The Not-Friendly City』 碧
『創造主の箱庭』 kenrow
『生々しさ』 フィンディル
『幽霊アカウント』 muomuo
『男死病』 muomuo
『名無しの少年』 muomuo
『絆』 muomuo
『そうやって大人になっていく―丁稚安吉の場合』 志菜
『せやせや』 せせせ
『曲り角奇譚』 茶屋
『幽霊屋敷に住むものは』 永坂暖日
『便利な家』 ◆BNSK.80yf2
『助手席の彼女』 永坂暖日
『できごころ』 しゃん@にゃん革
『幽霊屋敷の浴室』 山田佳江
『桜屋敷』 茶屋
『幽霊の生業』 豆ヒヨコ
『幽霊船』 小伏史央
『幽霊屋敷の記憶』 三和すい
『記憶喪失になった俺が大学受験に挑むのだ』 ひこ・ひこたろう
『館長さん』 晴海まどか
『怪談は幽霊屋敷で』 松浦徹郎
『幽霊空き家』 永坂暖日
『九朗右衛門事件帳』 茶屋
『幽霊屋敷の一件』 碓氷穣
『歌声』 茶屋
『ぼくがいまよみたいしょうせつてきすとぽいばーじょん』 ひやとい
『歴史の勉強』 しゃん@にゃん革
『新幹線の中で』 ひこ・ひこたろう
『ぼくとお屋敷』 犬子蓮木
『紅白歌合戦の舞台に俺は立ったのだが』 ひこ・ひこたろう
『幽霊屋敷から出て来たのは古切手』 ひこ・ひこたろう
『大学祭』 ひやとい
『薔薇の香り』 げん@姐さん
『Haunted Horizon』 木野目理兵衛
〈集計外作品〉 ※投稿順
『柿のお供え』 高田@小説垢
『僕がオトコノコを止めた理由』 文才無い魔女
『変な旅』 鳥居三三
〈関連作品〉
関連作品のご紹介
終わりに
終わりに
- 奥付
てきすとぽい広告
奥付

閉じる


<<最初から読む

29 / 57ページ

『できごころ』 しゃん@にゃん革

第四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.06 23:36
総文字数 : 780字

獲得☆3.625


《愛のいじり小説ただいま開催中賞》
できごころ
しゃん@にゃん革


 進撃の巨人は、森の中を逃げ回っていた。
 さらなる巨人が現れ、捕食されていたのだ。
「しかし、あれは巨人なのだろうか」
 偵察隊のアジノ・ソトは、その異様な姿に言葉を失った。
 アジノ・ソトの目に映ったのは、こんな姿の巨人だったのだ。

   ( ゚.゚) .。o
    川    
    川    
    川    
    川    
    川    
    川    
    川    
    川    
    川    
    川    
木 木 川 木 木

 裕福な家に生まれたアジノ・ソトは、少年の頃から大金を持ち歩き、さまざまな土地を旅していた。
 星の数ほどの珍しいものを目にし、自然が創り出した奇怪な景観にしばしば息を呑み込んだ。
 確かに、人智を超えた存在がこの世にはあるのだと思う。
 が、新たに現れた巨人は、あまりにも想像を超えていた。
 あれでは、まるでくらげ。
 今まで自分たちを捕食してきた巨人をたいらげながら、しょうせつかけえええ、がいしゅつはゆるさああああん、と不可解な雄叫びをあげている。
 人類の天敵たちを触手でからめとり、とぼけた顔で貪り食う様は怒れる神にも見えたが、一方では無邪気な悪魔のようでもある。
「なあ、あいつ一体どこから来たんだ?」
 背後から聞こえた声に、首を振る。しかし、どこか懐かしい想いが湧いてくるのは何故だろう。
 あれは西を旅した時だったか、とアジノ・ソトは少年時代の記憶を振り返った。
 巨人たちに蹂躙され、幽霊屋敷と化した豪族の家を気まぐれで探検したことがある。
 かつてテキスポと呼ばれたその街は文教都市と知られ、数多の文学を生み出してきたという。
 当時のことを完全に思い出し、アジノ・ソトは戦慄した。
 幽霊屋敷の地下室の壁に描かれた、土着神の姿。
 その威厳とはほど遠いフォルムを見て、幼かったアジノ・ソトはつい悪戯書きをしてしまったのだ。
「ま、まさか、俺を追いかけてきて? やばい逃げないといけないのは、こっちのほうだ」
 悲鳴を上げて背を向けたアジノ・ソトに、五本の触手が迫っていた。
 その先端には、稚拙な絵や意味のない記号が無数に描かれている。

『幽霊屋敷の浴室』 山田佳江

第四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.06 23:44
総文字数 : 1068字

獲得☆3.625
 幽霊屋敷というとだれもが頭に思い描くような、そういったいわゆる古い洋館で、僕とおばあちゃんは向い合って夕食をとっていた。
 ここはずいぶんと昔に栄えた港町で、古い建物がいくつも残されている。おばあちゃんの住む家も、そのうちの一つだ。
「日記は書けたの?」
「5月4日と、5月5日の分は書けたよ。今日の分はまだ」
 ポテトサラダを小皿に取り分けながら、おばあちゃんは静かな声で僕に尋ねる。
 連休中に小学校から出されたのは『ゴールデンウィークのできごとを日記に書く』という宿題だった。

 5月4日(くもり)
 おとうさんとおかあさんは仕事を休めないので、おばあちゃんのうちに泊まりにきました。
 5月5日(雨)
 おばあちゃんが、がめの葉もちを作ってくれました。かしわの葉でつつむのがかしわもちだけど、この地方では、がめの葉でつつむのだとおばあちゃんが教えてくれました。

 そんな感じで、僕の日記はたいしたイベントも無く連休を終えようとしている。
 僕はこの家のことが嫌いではなかった。くすんだ壁紙の模様も、分厚く重いカーテンも、ひんやりと湿っぽい匂いも、好ましく思う。気に入らないのは簡易水洗のトイレが流れにくいことくらいだ。
「今日の日記に書くことが無いのね」
「ポテトサラダのことを書くよ。おばあちゃんの作るポテトサラダにはみかんの缶詰が入っています。って」
 僕は箸でみかんを皿の端に寄せて、ポテトサラダを食べる。そんな僕を見て、おばあちゃんは上品に微笑む。
「浴室のタイルを見てみなさい」
「タイル?」

 静かな昼食を終えて、僕は浴室を覗いてみる。バスタブの水は抜かれ、綺麗に掃除されていた。古い浴室のタイルは一枚一枚が教科書くらいの大きなもので、いくつかひび割れているものもある。修理しようにも、これほど大きなタイルはあまり手に入らないのだと、おばあちゃんは言っていた。
「これ、なんだろう……」
 茶色いマーブル模様のタイルに、昨日は気づかなかった印がつけられている。右上の隅に、数字の『2』を横にしたような文字。
 僕は浴室の中を見渡す。よく見ると、隅に数字の書かれたタイルがいくつもある。その数字は縦になったりよこになったりしているけれど。
 シャンプーや石鹸の置かれている棚を移動させる。『9』と記されたタイルがそこにある。マーブル模様の中央に、大金でも入っていそうな布袋のイラストが描かれている。

「おばあちゃん、カメラある!?」
 リビングに駆け込む僕に、おばあちゃんはポラロイドカメラを差し出す。最初から用意されていたみたいだった。
 僕は大急ぎで写真を撮る。もうすぐ父と母が迎えに来るのだ。

『桜屋敷』 茶屋

第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:18
総文字数 : 1634字

獲得☆3.615
 きっと少女がいた。
 ずっと昔、
 もしくは、
 遠い未来。
 少女はどこかの時間に属し、確かに存在していた。

「そこで何をしてるの?」
 少女はそうあなたに問いかけてくる。
「外を、見ていたんだ」
 あなたはそう答え、窓の外に視線を移す。そこには川が流れ、それにそって桜並木がある。
「散ってしまったから」
 あなたの声は少し淋しげだ。
「あんなに満開だったのにね」
「散ってしまうと、何だかとても」
「来年も咲くよ」
「……」
「来年もまた見れるよ」
 来年というその言葉。その概念。
 今のあなたとは大きく隔たった何か。
 来年も桜を見ることができるのだろうかと、あなたは思うのだった。

 葉が散っていく。
 桜はますます貧相で寂しげだ。花を散らせた時とは大違いで、華やかさは全くない。
 一年のうちの一時の美しさのためだけにあちこちに植えられる桜。
 ひとときの幻の木。僅かな夢の亡骸。
「どうしたの?ため息なんかついて」
「もうすぐ、冬だなと思ってさ」
 そう言ってあなたはまたため息をつくと、少女はおかしそうに笑った。
「そんなに冬が嫌い?」
「勿論。寒いからね」
「ふーん。あなたがそんなこと気にするとは思わなかった」
 少女は不思議そうに首を傾げる。
 そう。あなたは寒いのが苦手だ。今も、昔も、これからも。

 少女はいない。
 少なくとも、今、目の前には。
 桜も咲いていない。

 青い葉からは強い生命力を感じる。
 植えたばかりの頃はいかにも元気のなさそうに葉がへたっていたので、萎れてしまうのではないとあなたは心配していた。
 けれどもそんな心配を他所に、桜はしっかりと根を張り始め天に向かう決意をしたようだ。
 少女は今日も桜に水を与えている。
 彼女はとても楽しそうに笑っている。
 多分彼女は未来を見ているのだろう。未来の桜を。未来に花咲く桜を。
 少女はあなたに言う。
 いつか桜が咲いたら一緒に見ましょう、と。
 そう、いつか。
 いつか桜が咲くのだろうが。
 ただ、それがいつなのか。来年なのか、明日なのか、それとも昨日なのか、あなたには検討もつかない。

 あなたは家鳴りで目を覚ます。
 大きな音だった。今にもこの屋敷が崩れてしまうのではないのかと思うほどに。
 夢の中で少女は廊下をわたってあなたに会いに来ようとしていた。
 夢とわかっていても、あなたは廊下を確認せずにはおれなかった。
 勿論そこには闇と静寂しかなかった。
 そして、窓の外に目をやってもまだ桜は咲いていない。

 あなたは川沿いを見る。
 とても殺風景だ。
「いかがしました?」
「何もないんだね」
 少女は問いかけ、あなたは答える。
「そうですね。なんとも殺風景ですね」
「桜でも植えればいいんじゃないかな」
「桜ですか?」
「そう、桜。あそこにはとても似合うような気がする」
 少女は俯いている。
 泣いているかもしれない、とあなたは思う。
「僕は見れなくともいいんだ。誰かが、それを見て楽しめれば。あまりにもこの風景は殺風景すぎるよ」
 もう、春だ。
 春には桜がいい。
 そう思いながら、あなたは水を口に含み眠る。

 少女はあなたを見て悲鳴をあげる。
 そして、あなたに背を向ける。
 あなたは追いかけようとするが、やめた。
 窓の外に目をやる。
 悲鳴を聞いた外の子らも逃げていく様子だった。
 屋敷はもう古い。
 訪れるものがここを幽霊屋敷と呼んでいることをあなたは悲しく思っている。

 夏。屋敷はまだ新しい。
 花火が見え、聞こえる。光の後に、音がやってくる。
 あなたは窓からそれを眺めている。
「ほら、花火だよ」
 少女はあなたに答えるかのようにかすかに微笑んだ。
「花火……」
 あなたは何故だかとても悲しい。
 光が明滅するたびに、少女の顔が照らしだされる。もう彼女は目をつむり、寝ている。
 あなたは静かに泣く。
 来年の桜は見れそうもない。

 屋敷はとてもとても長い時代を生きてきた。
 屋敷はとてもとても長い時間桜を見守ってきた。
 そして屋敷には、少女がいた。
 きっと少女がいた。
 ずっと昔、
 もしくは、
 遠い未来。
 少女はどこかの時間に属し、確かに存在していた。
 だが、今、この時は少女はいない。
 あなたもいない。
 ただ、桜だけが咲いている。

『幽霊の生業』 豆ヒヨコ

第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:28
最終更新 : 2014.05.03 23:44
総文字数 : 2143字

獲得☆3.545
斉藤くんがわたしたちの家をノックしたのは、真夏の暑い昼下がり、午後三時ごろだった。
のり子さんは、と言ったきり口をつぐんだ。当惑したわたしの表情を見て、すぐに姉の留守を悟ったらしかった。「グァムへ旅行中ですけれど」と答えると、ああー…と息を吐いて大きく目線を落とした。それから勇気を振り絞るように訴えた。
「ビール瓶を持ってきてくれたらなあ、と言われたんです。昨日。『缶じゃなくて瓶、一ケースね』って。うちで冷やして、楽しく飲んじゃいましょうよって。出かけるなんて、ぜんぜん聞いてなかったんですけど」
その声にはすがるような悲しみがあった。でもわたしは同情できなくて、ハアとだけ答えた。
あかるい黄色のケースは昼下がりの日光をマットに照り返していて、つめ込まれた茶色の瓶たちはいよいよ温もりを持ち始めていて、お酒を飲めないわたしは「持って帰ってください」と冷酷に言った。ふっと目を上げた彼の表情は、かっこいいとまでは言わずとも真摯な懇願に満ちていて、ちょっといいなとも思ったが、やはりわたしは「持って帰ってください」と再び言った。そして付け加えた。
「姉は受け取らないと思います。言われたことを鵜呑みにしない、気位の高い天邪鬼ばかり愛してますもの」

斉藤くんは電車で来たという。ケースを担がせた帰路はさすがに気の毒で、わたしは車を出してあげることにする。
カーポートに停めておいた深緑色のミラジーノを指さす。わたしの車だ。縁石に平行に、まったくズレずに駐車されたミラの横には、ごく類似した色合いのBMW・MINIクーパーが双子のように停止している。これは姉の車だ。仕様も利便性も、その価値も大きくかけ離れた、でもどこか似た美しさを持つ二台。きれいずきなわたしたち姉妹は、所有する車を各々でぴかぴかに磨き上げている。まるで競うように汚れを除き、まんべんなくワックスをかける。
「助かります」
ごく短く礼を言い、斉藤くんは助手席に乗り込んでシートベルトを締めた。
エンジンが小さく高まったところで、わたしはアクセルを踏み頃合いよくハンドルを切った。ぐるりと最小限の円を描くよう、緑の軽自動車を走らせた。難なく公道へ出る。茶色の瓶同士がぶつかる響きを背後に聞きながら、わたしは何の気なしに言った。
「わたしと姉さん、すっぴんの顔はほぼ同じなの」
斉藤くんはああ…と無意味に、しかしまんざら無関心でもない様子で相槌をうった。わたしは続けた。
「不思議なんだけれど、同じ顔で性質もどこか似ているのに、おつきあいする男性はぜんぜん違うのよ。ほら、ふたりで一軒家をシェアしている状態だから、ときどき彼女が男を連れ込むところに出会うわけね。いつも、いつもいつもいっつもサラリーマンなの。スーツなんて着てなくてもわかる。神経質そうなポロシャツの着方とか、磨きたてられた黒縁メガネとか、妙に清潔な髪型なんかでピンとくるわ。……だから、あなたが訪ねてきた時はすこし驚いたかな」
「どうしてですか」
「えーと、……とっても若々しいから」
正直に言えば、彼は若々しいというより『とっつぁん坊や』だった。
白くぽちゃぽちゃとした頬に刈り込んだ髪、筋肉のない腕にはアウトドアを嫌うもやしっ子精神が感じられた。襟ぐりの伸びたTシャツが、ぴりっとしない印象を確固たるものにしていた。姉は本当に節操がない。絶対好きなはずはないのに、どうして思わせぶりな言葉を吐くのだろう。その労力が意味不明だ、引っ掛ける際も引き剥がす際も。
「俺、サラリーマンですよ」
斉藤くんがぽつりとつぶやいた。
ちらりと見やると、彼はフロントガラスを見つめたまま、割に繊細そうな指でボディバッグの金具をいじりまわしていた。
「サラリーマンに、なったんです。のり子さんに出会って」
ハハハそうなんですか、と笑ってみる。笑う以外にどうしようがある。
「好きなんです、好きなんです。どうしようもなく好きなんです。でも何をしてあげられるかわからなくて、僕は救われるばかりで。そしたらビール瓶がほしいって言うから張り切っちゃったんです」
「なるほど、一ダースも」
茶化すつもりで合いの手を入れたが、返事はなかった。
泣かれたらどうしよう、などとわたしは思う。姉を慕う男たちはピュアな輩ばかりで、それを慰めてばかりいるうちに、わたしは恋愛を通り越してふんだんな母性を抱えてしまう。いったい何人の未熟な、考えなしな、素朴な男たちの母親代わりを務めてきたことだろう。すこし力を込めて、わたしは言う。
「姉は帰ってこないわ。彼女に似た、わたしという幽霊がいるだけ。ただの幽霊屋敷よ」
斉藤くんはまたあの目をして、今度はフフフと笑う。
「幽霊だってほしい時がありますよ、一番知ってるでしょう?」
心のどこかが押しつぶされ、わたしはスイッチを押して窓を開ける。
恐ろしいほどの熱気と、耳をつんざくセミの声が届く。彼らとわたしは、きっと似ているのだ。姉にはなれない、本当の愛を得られない。信号機は黄色に瞬いた刹那、赤いつぶつぶを載せた円へと変わる。ふつふつと額に浮かぶ汗を拭ううち、アクセルを踏み込んで世界を壊してしまいたくなる。
彼と添い遂げたところで後悔しない気がしたし、斉藤くんもそれでいい、と思ってくれそうな気がしてしまうのだ。

『幽霊船』 小伏史央

連載/第一、三、四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:30
最終更新 : 2014.05.06 23:41
総文字数 : 2570字

獲得☆3.500


《君こそ真のSF作家賞》
幽霊船
小伏史央


   (1)

 R-667Dはクオリアを有するアンドロイドである。彼は宇宙船を独りで操縦していた。
 すると、彼は寂れた宇宙船の死骸を見つけた。その船はまるで幽霊屋敷のように、宇宙塵にまぎれて存在感をなくしている。彼がこの船を発見したのも、偶然によるものだった。
 彼はめぼしいものがあれば回収、または通達することを主人に言い渡されている。見た目は不気味で、寂れているが、大きさはなかなかのものだった。なにか掘り出し物があるかもしれない。

 迷ってしまった。船のなかは妨害電波が駆け巡っており、彼は自身のクオリアだけをもとにして船内を進むより仕方なかったのだ。
 兄弟たちに救援信号を送ってみるも、彼らにちゃんと届くかはわからなかった。

 どれくらい歩いただろう。出口はもちろん、金になるものもひとつ見つからない。
 しかし幽霊は見つかった。男の子の幽霊だ。
 幽霊とは、人間の恐怖や不安などのクオリアが大脳皮質と結合してもたらされる現象のことだ。幽霊はときに人間のクオリアに干渉することで対象を傷付けることができる。ここはおとなしくしていたほうがいいだろう。彼は幽霊を視界から外すよう努力して歩いた。

 そしてなにごともなく素通りする。さらに出口がみつかった。
 なんだやはりは単なる幽霊屋敷か。収穫はなかったが、主人や兄弟たちへの土産話にはなるだろう。
 彼は出口に停まらせていた、自分が乗ってきた船にのりこむ。
 船は寂れて、稼働しなかった。


 
   (2)

 R-667CとR-667Bはクオリアを有するアンドロイドである。彼らは宇宙船を二人で操縦していた。うり二つの顔をした双子の彼らは、二人でいたほうがよく働くということで、主人から二人で動くよう言いつけられていたのだ。
 すると、彼らは寂れた宇宙船を見つけた。その船はまるで幽霊屋敷のように、宇宙塵にまぎれて存在感を失くしている。しかしそれはたぐい稀な巨大さを誇っていた。
 こんなに大きいのだ。きっと金目になるものが見つかるだろう。都合のいいことにこれは幽霊船だ。中身を拾って勝手に持っていっても、誰も文句は言うまい。彼らは自身らが大金に囲まれている想像をした。
「どうだ。素晴らしいな」CはBに、自分の想像したイメージを送信して言った。
「ふむ。確かに素晴らしい。しかし考えてみろ。金に囲まれるのはおれたちではないだろう」
「そうだ。主人だ」
 Cが送ったイメージに描かれている大金が、札束ではなく金貨であったのならば、Bもまた無意味に気分を良くし、こんな現実的なことは言わなかったことだろう。同一のイメージをもとにしているのに演算結果には差異が出る。それは両者ともに別々のクオリアを有しているからだった。
「ともかく入ってみようじゃないか」
「そうだな。それがいい」
 入口を見つけ、船を停める。

 迷ってしまった。Bは壁を伝って、おぼろな足取りで出口を探す。Cともはぐれてしまった。Bは歩く。船のなかにめぼしいものなどひとつも転がってはいなかった。誰か先に来た人がすべて持っていったのかもしれない。まったくなんということだ。
 廊下の向こうに、人影を見つけた。おお、Cか。声をかけるも、反応が返ってこない。Bは不思議に思いながらもそこへ歩いて行った。
 その人は幽霊だった。男の子の幽霊だ。幽霊とはクオリアと大脳皮質が結合して現れる現象のことだ。アンドロイドに大脳皮質はないが、それに準ずるCPUが勝手に干渉されているのだろう。こういう場合はスルーするのが鉄則だが、Cは男の子に攻撃することを選択した。クオリアを有するアンドロイドは、このようにしてマニュアルから外れた行動をおこすことができる。ちなみに幽霊は人間ではないので、傷つけたところでロボット三原則の第一条に反することはない。
 Cは幽霊を内蔵レーザーで焼き切った。幽霊に穴が開いた。
 幽霊が倒れる間際にレーザーを跳ね返してきた。レーザーはCの体を直撃し、貫いた。
 Cは倒れた。
 倒れた幽霊が、実はBであることにも、つまりその男の子の姿というのがCとうり二つのBの姿であることにも気づかずに。
 彼らは機能停止した。


 
   (3)

 コンビニ。そうだあれはコンビニだ。R-667Aは蹲りながら自分が記録している場景を思い浮かべた。地球を発つ前日、主人は彼をコンビニに連れて行ってくれた。宇宙開発機構のコンビニには、いろいろと珍しいものが売られており、主人は強力な妨害電波を発する機器を彼に買ってくれた。これで弟たちによ、イタズラしてやれよ。主人はこどもっぽく笑っていた。
 そうだ。これはただのイタズラだったのだ。Aは深い悔恨を感じながらふたつの壊れた機械人形を見つめる。二人の弟は見るも無残な姿で、暗闇と鉄錆に混ざっていた。
 クオリアというが、それは単に演算処理中に複数の重ね合わせ状態を作り出し、認識パターン、行動パターンを確率化させているにすぎない。妨害電波を送ることでアンドロイドの見る世界は、簡単にゆがめることができた。兄弟の姿をまったく知らない顔の幽霊に錯覚させることも、小さな自分の船を巨大な幽霊船に見せることも造作のないことだった。
 もうこんなことがあってはならない。彼はふと、まだR-667Dが来ていないことに気が付き、立ち上がった。妨害電波を早く止めて、せめて一番下の弟だけでも守ってやらねばならない。
 しかしあの機器はどこにあるのだろう。
 彼もまた、クオリアの持ち主だった。
 明るいはずの船内は、暗い。
 向こうから歩いてくる人影があった。弟のDだろう。しかし幽霊にしか見えない。もし双子たちのように攻撃してきたら、どうすることもできない。
 賢明なDは、素通りすることを決めたようだ。彼は弟に話しかけようとしたが、そうしたら攻撃されるだろうと思いとどまり、立ちすくむ。
 向こうから驚嘆の声が聞こえた。自分の船がこの短時間で寂れてしまったと錯覚している。
 そのうちクオリアが大脳皮質だけでなく宇宙空間に充満している暗黒エネルギーと結合して、この宇宙船は本当に幽霊船になるだろう。
 そして我々はそのころには主観と客観の区別も付けることなく、アンドロイドのくせに人間の幽霊のように、来訪者を待ち続けることになるのだろう。
 そのとき我々は何者になるのだろう。彼にはわからなかった。そしていつまでもわかる日は訪れない。
 誰かの船がやってきた。

(プロローグ・了)   


読者登録

てきすとぽいさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について