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てきすとぽい杯について
てきすとぽい杯について
各夜のお題
第17回 募集要項
第17回 審査結果
入賞作品紹介
《大賞》
『百鬼夜行の客商売』 みお
《入賞》 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『ヘッセ』 犬子蓮木
『高速道路』 粟田柚香
『集合住宅』 粟田柚香
『シーサイド・ヒル』 大沢愛
『ルーインズ』 大沢愛
『スタティック』 大沢愛
『クリスタル・ムーン』 大沢愛
〈候補作品〉 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『The Friendly Ghost』 碧
『The Not-Friendly City』 碧
『創造主の箱庭』 kenrow
『生々しさ』 フィンディル
『幽霊アカウント』 muomuo
『男死病』 muomuo
『名無しの少年』 muomuo
『絆』 muomuo
『そうやって大人になっていく―丁稚安吉の場合』 志菜
『せやせや』 せせせ
『曲り角奇譚』 茶屋
『幽霊屋敷に住むものは』 永坂暖日
『便利な家』 ◆BNSK.80yf2
『助手席の彼女』 永坂暖日
『できごころ』 しゃん@にゃん革
『幽霊屋敷の浴室』 山田佳江
『桜屋敷』 茶屋
『幽霊の生業』 豆ヒヨコ
『幽霊船』 小伏史央
『幽霊屋敷の記憶』 三和すい
『記憶喪失になった俺が大学受験に挑むのだ』 ひこ・ひこたろう
『館長さん』 晴海まどか
『怪談は幽霊屋敷で』 松浦徹郎
『幽霊空き家』 永坂暖日
『九朗右衛門事件帳』 茶屋
『幽霊屋敷の一件』 碓氷穣
『歌声』 茶屋
『ぼくがいまよみたいしょうせつてきすとぽいばーじょん』 ひやとい
『歴史の勉強』 しゃん@にゃん革
『新幹線の中で』 ひこ・ひこたろう
『ぼくとお屋敷』 犬子蓮木
『紅白歌合戦の舞台に俺は立ったのだが』 ひこ・ひこたろう
『幽霊屋敷から出て来たのは古切手』 ひこ・ひこたろう
『大学祭』 ひやとい
『薔薇の香り』 げん@姐さん
『Haunted Horizon』 木野目理兵衛
〈集計外作品〉 ※投稿順
『柿のお供え』 高田@小説垢
『僕がオトコノコを止めた理由』 文才無い魔女
『変な旅』 鳥居三三
〈関連作品〉
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『せやせや』 せせせ

第四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.06 23:44
総文字数 : 1927字

獲得☆3.778
 せやな、というのは便利な言葉だ。反応に困った時、図星を突かれた時、猫が可愛い時、この言葉を使えば簡単に場を切り抜けることが可能だからだ。
 そう思わない?

「せやな」

 またせやなで返された。こいつはせやな、しか言えないのか。せやな、というのは卑怯な言葉だ。反応に困らせても、図星を突いても、猫が可愛くても、この言葉を使われたら相手に簡単に場を切り抜けられてしまうからだ。

「さっきまでせやな褒めてたのに何で唐突にせやなディスってるの」

 せっ、せやな。
 でもお兄さん仕方ないと思う。だってせやなって便利すぎるんだもん。便利だよね、せやな。反応に困る時、以下略。

「俺にとってはまさに今が反応に困る時だけどな」

 いかにも困った表情で言うな。

「何で幽霊屋敷で幽霊とせやな談義してるんだ」

 ……せ、せやな。
 ご存知の通りここは幽霊屋敷だ。そして僕もまた幽霊である。その事実は認めよう。でも、でもさ、幽霊だってたまにはせやな談義したくなるもんじゃん?

「せやろか……」

 せやで。幽霊だってせやな談義したくなるんやで! この地下室で死んで幾千年、千年も生きてないけど、ずっと暇だったんだよ? 暇で暇で死にそうになってたんだよ? かっこ古典的表現。幾年の時を一人○×ゲームで潰しただろうか。でも、ついに! ついに話し相手が現れてくれた! これで思う存分せやな談義が出来る!

「せやな談義しかすることないの……」

 …………せやな。お兄さんせやな談義しかすること無い。だってそれ以外に話題無いし……。最近の流行とか、ずっと地下に篭ってたから何も分からないし……。

「せやか……」

 せやで……。……あっ、そうだ、せっかく僕に会いに来てくれたんだから芸でも見せてあげるよ。嬉しいだろ? 嬉しいって言え。呪い殺すぞ。

「せやな」

 一番! 僕! 幽体離脱します!

「あ、予想ついたからやらなくていいです」

 えーなんで。予想つけるなボケ。祝い殺すぞ?

「そんなに古くもないけど、でも確実に古いからちょっと反応に困りますね」

 すぐ反応に困るなこいつ。まあいいや、でもお兄さん急に君が来たからびっくりしちゃった。せっかく幽霊になったんだし、どうせならあたまはみぎ、からだはひだり、次は本庄早稲田、お前の母ちゃんカームフレックス! とかやって驚かせたかったのに。

「意味が分からない」

 それで、どうして君はここに来たの? ちょっとここは関係者以外立ち入り禁止なんだけど。出待ちとかされたら困るんだけど。あっいっけね、幽霊だからすぐに考えてることが飛んでいってしまう。幽霊だけに! 上手いこと言ってしまった。僕を讃え敬え!

「せ、せやな。いや、だって、先輩が、ここの地下室に大金が眠ってるらしいって」

 あー。そういう噂あるよね。僕の子供の頃もあったよ。あの頃は若かった。今では私はお兄さん。あげられるものは無いから呪うね。まあでも僕が死んだのも君と同い年ぐらいの時だったんだけどね。

「えっ」

 懐かしいなぁ、そういや僕もそんなこと言われてこの幽霊屋敷に忍び込んだんだっけなぁ。確かある日突然、大宇宙幹総統からの電波が僕に、近所の幽霊屋敷の地下室に忍び込んで来いって指示を出してきたんだっけなぁ……。懐かしい。

「え、だい、いやそんなことはどうでもいい、まさか」

 でもあったのは何の変哲も無い木箱の山だけ。ただの倉庫だったんだよね。でも、扉が外からしか開けられなあッ

「……あ、え、え、ちょ、俺」

 …………。飴ちゃん食べる?

「……」

 ……! 死んでる……。

「死んでねぇよ! え、マジかよ、クソ、は? え? 閉じ込められてんの俺? おい、は、クソッ、おい、開けよ!」

 おお、男の子がドアをガンガン蹴る殴るしている。でも多分それ意味無いと思うなぁ、だってそのドア、アコスタークロスウォールで出来てるもん。何だよアコスタークロスウォールって。防音材だよ。映画館かよ。
 僕も同じことを何度もやったよ。でも、ついには出られなかったんだ。その結果が海の藻屑です。海じゃないね。藻屑でもないね。言わば土の木屑ですよ……。

「っ、そうだ、携帯…………嘘だろ……。じゃあ、俺、一生、このまま、?」

 そうだよー。一生というか、なんというか、まあ、……短い一生だったね。後先少ない人生だけど、老後の楽しみでも見つけなよ。閉じ込められ後の楽しみか。例えばせやな談義とか。せやか談義でも可。

「…………はは……」

 鈍い笑みを漏らしたってどうやったって無理なものは無理ですよ。笑うだけで救いが来るんなら大笑いしとるわ。でも地下室で高笑いとか怖いじゃん?
 うん。
 まあ、ご愁傷様、というか……。まだ死んでないけど。

「……」

 でも安心しなよ。
 僕の時はずっと一人っきりだったけど、今度は二人だから多分暇しないよ。

「…………せやな」

 ……。
 せやで。

『曲り角奇譚』 茶屋

第四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.06 23:39
総文字数 : 2384字

獲得☆3.750


第一、二、三夜エントリー 『桜屋敷』 『九朗右衛門事件帳』 『歌声』 関連作品
曲り角奇譚
茶屋


 直前の話である。
 女子高生は走っていて、曲がり角に差し掛かっていた。当然、パンを咥えている。
 さらに直前の話である。
 女子高生は慌てて家を出ている。当然、パンを咥えていたのでいってきますのあいさつはかなり不明瞭に聞こえる。
 そのまた直前の話では、パジャマから制服に慌てて着替えており、またまたその直前は夢の中である。
 それ以上さかのぼると夢の話しかしようがない。
 これ以上さかのぼる気はないし、一気に最初の地点まで戻って今度は話を時系列順に進めようと思うが、興味のある方は夢の内容を本人に聞いてみればよい。
 さて、直後の話である。
 女子高生は衝撃を受けて吹っ飛んで、それ以上の飛距離を食パンが吹っ飛んだ。
 彼女がぶつかったのはおっさんである。
 屈強な、中年の男(*イケメンではない)である。
「大丈夫か」
 と言った男(*イケメンではない)のことを彼女は汚いものでも見るような眼で見る。
 明らかに侮蔑の含まれる視線である。
 男の差し出す手を無視して立ち上がった女子高生は男(*イケメンではない)から視線をそらすと、学校のほうへと歩き出す。
「いやちょっと待てって」
 振り返った彼女の目には今度は敵意が宿っている。
「丁度良かった預言の巫女、つまり君を探していたんだ」
 それを聞いた彼女の顔はみるみるうちに青ざめていき、男(*イケメンではない)のことを警戒しつつも後ずさる。
「待て待て、俺は怪しいものじゃない。俺は君を救うために来」
 少女の鞄が男(*イケメンではない)の顔面にヒットした。
 少女は必死に逃げる。先ほど以上の猛スピードだ。もはやパンという彼女の呼吸を妨げるものはないから本来の力を発揮できるのだ。
 
 直前の話である。
 女子高生は走っていて、曲がり角に差し掛かっていた。残念ながら、パンを咥えていないが怪しげな中年の男(*イケメンではない)から逃げている。
 そしてその直後、少女は何かとぶつかる。
 今度は彼女のほうは転びもせず、ぶつかったほうが転がっている。
 そこには涙目になった男の子(*将来はきっとイケメンだ)がいた。
 痛そうに擦りむいた膝小僧に息を吹きかけている。
「大丈夫?」
 彼女が声をかけると、男の子(*間違いない)はきっと彼女のことを睨み付ける。
「くそ。せんてをとられた」
 彼女は手を差し伸べるが、男の子(*というかこのままでもいい)はそれを払いのける。
 だが、それら一連の行動は彼女にとってとても「来る」ものがあったらしく、彼女は思わず男のことを抱きしめてしまう。
「持ち帰ってもいいですか?誘拐してもいいですか?」
「くそ!はなせ!はなせ!」
 男の子(*女子高生の好みである)は必死にもがくが、抜け出せないでいる。
「やっと、追いついた……って貴様!いつの間に」
 男(*イケメンではない)がだらだら汗を流し息をきらせながら追いつくと驚愕したように男の子のことを指さす。
「きさまはひかりのかけらをつぎしもの!」
 女子高生はしばらく少年の感触を堪能していたが、やがて五月蠅そうに振り向いて殺意を込めた目で中年の男(*イケメンではない)を見る。
「離れなさい!そいつは危険だ!」
 すると彼女はごめんねと少年に一声かけると、立ち上がり男(*イケメンではない)のほうへ近づいていく。
 ― 回し蹴り一閃。
「もう大丈夫だよ!怖い変態は片づけたからね!」
 少年を振り返って抱きつこうとするものの、背後でまた気配があった。
「なんで……俺は君を助けようと」
 男はまた立ち上がって来たのだ。彼女は面倒くさそうに、しぶといな……と呟く。
「よくわからんがてこじゅっているようだな」
 少年のほうからも何やら一陣の風が巻き起こる。
 何だか偉そうで小難しい言葉づかいながらところどころ舌足らずなのも女子高生にとっても胸キュンポイントだ。
 少年の背後が急に暗がりが広がりそこに三つの扉が現れる。
「それが貴様の能力、幽霊屋敷(Ghost house)というわけか……」
「そうだこれがわがのうりょく!いでよ」
 ぎぃっと不気味な音が立ち、三人の人間の姿が現れる。
「さくらやしきのあるじ!おおがねくろうえもん!こわれうたのしょうねん!」
 桜屋敷の主、大金九朗右衛門、壊歌の少年、であっているのだろうかと女子高生は思う。
 よくわからないが、姿を現した三人は一斉にイケメンではなく汗臭くてうざい中年の男に襲い掛かっている。
 一人は桜吹雪を操っており、桜の花びら一枚一枚が刃物のような役割を果たしているらしく男のイケメンでもない顔や肌を切り裂いている。刀をもった侍風の男は素早い身のこなしで男に切りかかり、口を開けて歌っている少年は衝撃はのようなものを男にぶつけている。
 男は苦戦しているようだ。
 いいぞもっとやれ。
 だが、その時、男の全身が光に包まれた。
「鎧纏!」
 叫び声とともに光は男のシルエットを作り出し、男は鎧に覆われた。
 鎧の男は三人の攻撃をものともせず高速で風を切る。唸りを上げる拳や蹴りで次々と敵を痛めつけ、それらを地面に伏していく。
「まだ、能力を使いこなせていないようだ少年」
 男の子は悔しそうに鎧の男を睨み付ける。
「今回は見逃してやる。首領に伝えるがいい。お前らの野望はこの俺が絶対に阻止してみ」
 鎧の首がまがった。首を曲げたのは女子高生の飛び膝蹴りである。
「怖かったね。もう大丈夫だよ。私が守ってあげるから」
 女子高生の背後で鎧の男が膝から崩れ落ちた。
 差し出された手を少年は握る。
 ただし、少年の顔は恐怖に歪んでいる。

「これは始まりの物語で、出会いの物語だよ」
「始まり?」
「そう。ここから始まったんだ。世界を総べた覇王・預言の巫女と幽霊屋敷の能力を持った少年の覇道の物語はね」
「ふーん。光の欠片を継し者はどうなったの?」
「ああ、彼はね、ここから精神を蝕みはじめて、そのあと色々あって魔王になってしまったんだよ」
「可愛そうに」
「本当に。イケメンだったらこうはなっていなかったかもしれないねぇ」

『幽霊屋敷に住むものは』 永坂暖日

第二夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.04 23:44
総文字数 : 898字

獲得☆3.700
 坂の上には、とっくの昔に住む人のなくなったちょっと大きな家がある。管理する人もいない家はあっという間に荒れ果てて、幽霊屋敷と評判だ――という。
 ちゃんと住人がいるのに、失敬な。
 我が家を指さして幽霊屋敷だと言う人々とは、生物としてのありようが違うだけだ。
 わたしの目には度胸試しだといって学校帰りに忍び込んでくる子供たちの姿は見えるし、彼らに触れることもできる。わたしの声も、彼らの耳には届いている。現に、

「そろそろ塾に行く時間じゃないかい?」

 強がって先頭を歩く男の子の肩を叩き耳元でそう言ってあげると、ひゃあと叫び声を上げて、みんなで転げるように逃げていくのだ。
 そんなことを繰り返していたら、何やらものものしい機材を抱えたおとなたちがやって来た。
 なんだろうと二階の窓から眺めているうち、どうやら彼らは我が家を取材しに来たテレビ関係者だと分かった。幽霊屋敷という噂を聞き付けたのだろう。都会から遠い、こんな片田舎にご苦労なことである。
 わたしが、家に土足で上がり込む主に子供たちにしょっちゅう声をかけたりしているから、幽霊がいる、という証言はたくさんあるだろう。
 でも、度胸試しで乗り込んできた子供と、重たそうなテレビカメラやマイクを持ったおとなたちは違う。わたしは黙って、おとなたちがどうするのか観察した。
 彼らは数日粘っていたが、わたしがじっと黙っているので、当然ながら彼らの期待するようなことは何も起きない。そのうち、いちばん偉いと思われる男が「大金をかけて来たのにどうしてくれる」と怒り始めた。そうは言っても、こればかりは部下たちにもどうしようもないので困惑するしかないようだ。
 それでもかれらは更に数日粘り、とうとう諦めて引き上げていった。
 たいそうなお金をかけたであろうに残念だったね、と思いながら、わたしは彼らの観察記録の仕上げに取りかかる。今夜中に、上司に報告できそうだ。
 一息つこうと、わたしは荒れた庭に出て空を仰いだ。まばらに輝く星の一つ、よく目をこらさなければ見えないその一つが、わたしの故郷。
 地球人の生態を観察するため、わたしはこの地域に派遣された、彼らから見ればいわゆる『宇宙人』なのだ。

『便利な家』 ◆BNSK.80yf2

第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:28
総文字数 : 599字

獲得☆3.667
 おいらの家はハイテクさ。
 見た目はちょいと古いがね、中身はどこより進んでる。
 まずは玄関、自動で開くし、人が入れば勝手に閉まる、鍵までかかるすぐれもの。
 電燈切れても心配無用、消えないろうそく、枯れない油、常にゆらゆら灯が揺れる。
 エアコン? そんなの必要ないよ、一晩過ごせば分かるはず。
 真夏だろうと背筋はぞくぞく、真冬だろうと冷や汗たらり。
 BGMの種類もたっぷり。カラスの鳴き声、狼の遠吠え、柱時計の軋む音。
 お次は二階だ、足元に気を付け、おいらの後ろをついてきな。
 あっちが書斎で、こっちが客間、おっとそっちは寝室だ。気軽に覗いてもらっちゃ困る。
 飯が食いたきゃベルを鳴らしな。大食堂にごちそうが並ぶ。
 花を愛でたきゃ庭に出な。菊に百合に黒い薔薇。
 窓には寄るなよ、危ないぜ、割れたガラスが撒いてある。なぁに、ただの泥棒よけさ。
 朝が早い? それなら任せろ、完備してるぜ、モーニングコール。
 寝ているあんたの胸の上、おもりを乗せて起こしてくれる。
 ペットが欲しい? コウモリがいるぜ。
 テレビはどこだ? 鏡を見ろよ。
 こんな良い家、他にはあるまい。あんたも分かってくれるだろう?
 でも現実は残酷さ、幽霊屋敷とあだ名され、買い手が一向につきゃしねぇ。
 幽霊? そんなの馬鹿げた話だ。ただの噂に決まっているさ。

 でもな、おいらは気付いちまった。
 そうさ、我が家は幽霊屋敷。残念だけど真実だ。
 証拠にこいつを見てくれよ。
……おいらに足が無いだろう?

『助手席の彼女』 永坂暖日

第四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.06 23:28
総文字数 : 3701字

獲得☆3.625
 何度目になるだろうか、これで。カーブににさしかかる直前、左足でクラッチを踏み込んでギアを四速から三速に落とし、カーブを抜ける直前に、またクラッチを踏み込んで三速から四速に戻す。
 つづら折りのようにカーブが続いているからギアチェンジが頻繁で、左足はずっとクラッチペダルに置いたままだ。ずっと上り坂でカーブもなかなかきつく、スピードも出せない。対向車がないからずっとヘッドライトはずっとハイビームで、右を照らせば剥き出しの山肌、左を照らせばすぐそこに白いがガードレール、その向こうはうっそうとした森だ。
 繁華街から車を走らせてほんの三十分。街中はずいぶんと都会めいてきたようにも見えるが、山地は住宅地のすぐそこに迫っていて、少し足を踏み入れたらあっという間に人里から隔離された風景になる。
「ずいぶん辺鄙なところに住んでるんだね」
 左にハンドルを切るついでに、助手席に座る女をちらりと見た。彼女はまっすぐに前を見つめている。
「ええ。おかげで、街に出るのはいつも苦労するの」
「いつもは、どうやって街まで?」
 彼が女と知り合ったのはつい数時間前、大型ショッピングモールの駐車場でのことだ。買い物を済ませた彼は、広い駐車場を歩いている途中、ぼんやりと歩いている彼女を見つけた。
 バッグも何も持たず、車や連れを探している様子もなく、黄昏の中で見たその横顔が男の好みとこれ以上にないほど合っていたので、声をかけた。
 家に帰りたいけれど財布も何も忘れてきたので困っている、と言う割には困った顔はしておらず、また奇妙なことを言うなと思ったものの、真正面から見るとますます男の好みの顔をしていると分かったので、なら夕食に付き合ったら家まで送ると約束をして、今に至っている。
 携帯も忘れたという彼女は、電話番号もど忘れしてしまったという。さすがにそれはありえなくないかと思ったが、せっかく出会った好みの女である。家まで送れば携帯もあるから、そこで番号を交換すればいい。
「いつもは、通りかかった人に乗せてもらって街に下りるわ。でも、その人が帰りも乗せてくれるとは限らないから」
「送ってくれそうな人を探してた訳か。車は、持ってないの」
 こんな辺鄙なところに住んでいたら、必需品ではないだろうか。そうでなくとも、街中はにぎわっているとはいえ、大都市のように交通網は発達していないから、車を持っている人は多い。
「免許がないし、お金もなくて」
 しばらく話をしていて気が付いたが、彼女は表情に乏しい。しかし今の声だけは、少しはにかんでいたように聞こえた。
「俺も、金がないから今はこんな中古車だよ」
 欲しい国産車はあるが、どこかから大金が転がり込んでこないかぎり、高嶺の花だ。
 助手席の女も、世間的には高嶺の花である。しかし、ダメ元で声をかけて家に送るところまでこぎ着けたから、案外手に入る花なのかもしれないと密かに期待していた。
 対向車もなく、民家もほとんど見かけず、車はどんどん山の奥へと入っていく。さすがに遠すぎやしないかと男が怪訝に思い始めた頃、右に曲がる細い道が見えて、そこを曲がってくれと女が言った。
 ウインカーを出して、ギアを二速に落としてハンドルを右へ。アスファルトはすぐに舗装されていない砂利道に変わり、左右からは背の高い竹林が迫っていた。
 本当にこんなところに民家があるのかと思っていたら、存外すぐに家が見えてきた。
「……でかいね」
「土地だけはあるからね」
 日本風の、大きな家である。山奥に、それはぽっかりと現れたように建っていた。その一角だけが開かれていて、竹垣に囲まれている。見たところ正面には駐車場はないが、転回するのに十分な広さはあったからそこで車を止めた。
「送ってくれて、ありがとう」
 そう言ってドアを開けようとする彼女の右腕を、とっさに掴んだ。そのまま家に上がったら、もう戻ってこなさそうだと思ったのだ。
「ここまで送ってきたんだ、電話番号くらい教えてくれよ」
「……じゃあ、携帯を取ってくるから、ここで待ってて」
 返事をするまでに少々間はあったものの、彼女は言った。家に上げてくれと言うのはさすがに図々しいし、本当に戻ってくるんだろうなと疑うのも感じが悪いので、男は分かったといってすぐに手を離した。
 ライトを消しているから当然のごとく真っ暗で、エンジンを止めているから不気味なほど静かだ。スマホをいじりながら女が戻ってくるのを待っていたが、一向に姿を見せない。女が家に入ってどれくらい経ったのかと時計を見て、既に二十分経過していると知った。
 やはり高嶺の花は高嶺の花のままだったのか。しかし、こんな山奥まで送ったのだから、番号を教えるくらいしてもいいだろう。
 そんな不満を抱えたまま何気なく家を見て、どこの窓にも明かりがないことに、男は気が付いた。
 まさか、寝たのか。
 人を待たせておいて――待たせる理由を作ったのは男自身ではあるが――先に寝るとはいくら何でも非常識だろう。
 諦めて帰ろう。とんだ骨折り損だ。
 ギアがニュートラルになっているのを確認して、クラッチとブレーキを同時に踏み込み、エンジンキーを回す。ライトはハイビームになっているが、戻すのが面倒だったのでそのままにして方向転換しようとハンドルを右に回す。エンジン音に、タイヤが砂利を踏みつぶす音が重なる。当たりが静かだから家の中まで聞こえているかもしれない。電話番号さえ忘れるような彼女だ。男のこともうっかり忘れていたと、慌てて飛び出してくるようなことはないだろうか、という儚い希望が胸をよぎる。
 しかし、一瞬ライトに照らされた家から誰かが飛び出してくる気配は微塵もなく――ハンドルを切る男の手が止まる。
「……え?」
 ヘッドライトに煌々と照らされていたのは、一軒の古い家屋だった。さっき見た時と違って、誰かが住んでいる様子などまるでなさそうな、荒れ果てた家だった。瓦は所々落ちていて、雨戸もない窓もあり、障子に貼られた和紙はすべて破れている。さっき女が入っていくところを見ていた時はちゃんとしていたはずの門は、片方の扉がなく、もう片方もちょうつがいが外れかかっている。
 背筋がぞっとした。
 男は大慌て手ハンドルを切って方向転換すると、アクセルを踏み込んだ。しかし、慌てすぎたせいでクラッチから足を離すタイミングが合わずにエンストする。気ばかり急いてエンジンをかけ直すのにも手間取ったが、なんとか車が動き出すと、カーステレオのボリュームを耳が痛くなるくらいに大きくした。
 バックミラーもサイドミラーも、恐ろしくてのぞく気になれなかった。


 後日、こんな話を聞いた。
 山の奥、国道から分かれた舗装もされていない道路の突き当たりに、今はもう誰も住まなくなった廃屋がある。山奥にもかかわらずその廃屋は大きくて、しかし山に飲み込まれつつあるから迫力は満点。幽霊屋敷として評判で、肝試しに行く若者が少なくない。
 人魂のようなものを見たとか、白い人影みたいなものを見たとか、帰る時にバックミラーを見たら知らぬ人が映っていたとか――その幽霊屋敷にまつわる怪異の類いは枚挙に暇がない。しかし、そこが幽霊屋敷と呼ばれるようになった理由は、別にあった。
 家に送って欲しいと言う若い女を車に乗せ、彼女の案内に従って走らせると山奥の大きな家にたどり着く。女を送り届けた直後は、大きいけれど何の変哲もない家なのに、いざ帰ろうとする時にふと見ると、荒れ果てた廃屋になっているのだという。彼女を送った者(たいていは男だ)はそれで慌てて車を走らせ逃げていく。慌てすぎて、途中のカーブで曲がりきれずに事故を起こした者もいるらしい。
 幸い、男は事故を起こすことなく家に帰り着いた。だけど、確かに人の住んでいる様子のあった家が、我が目を疑いたくなるほど荒れた姿に変わっていたのを見た時の不気味さは、まだ忘れられない。妙な下心は当分持たぬようにしよう、と珍しく反省もした。
 女は――好みの顔をしていると思ったあの女は、男なのだという。
 女装の趣味があった少年で、しかしそれを両親に理解されることのないまま死んだらしい。少年の秘められた趣味が両親に発覚して以来、坂道を転がり落ちるように家庭内の雰囲気は悪くなり、まるでそれに合わせるかのように父親のやっている事業もうまくいかなくなった。
 とうとう一家心中するしかなくなって、最期だからと皆きちんとした格好になったのだが、少年はその時女装をした。自分でいちばん綺麗だと思ったのが、その格好だった。しかし、少年の趣味を理解していない両親はこの期に及んでと激怒し、少年を無理矢理着替えさせよとして取っ組み合いをしているうち、少年は死んでしまった。息子を殺してしまった両親は結局死にきれずに出頭して、家は人手に渡った。しかし、殺人現場となった家で場所も辺鄙ということで買い手が付かず、次第に荒れ果てていったのだという。
 もう二度と両親が帰ってこなくても、あそこが少年の家。だから、街へ下りては誰かを捕まえて送ってもらうのだ。街へ行く時も、同じように誰かを捕まえるのだそうだ。
 彼は今日も、車に乗せてくれる人を探しているのだろう。


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