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てきすとぽい杯について
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各夜のお題
第17回 募集要項
第17回 審査結果
入賞作品紹介
《大賞》
『百鬼夜行の客商売』 みお
《入賞》 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『ヘッセ』 犬子蓮木
『高速道路』 粟田柚香
『集合住宅』 粟田柚香
『シーサイド・ヒル』 大沢愛
『ルーインズ』 大沢愛
『スタティック』 大沢愛
『クリスタル・ムーン』 大沢愛
〈候補作品〉 ※得票順/シリーズ作品は並べて掲載
『The Friendly Ghost』 碧
『The Not-Friendly City』 碧
『創造主の箱庭』 kenrow
『生々しさ』 フィンディル
『幽霊アカウント』 muomuo
『男死病』 muomuo
『名無しの少年』 muomuo
『絆』 muomuo
『そうやって大人になっていく―丁稚安吉の場合』 志菜
『せやせや』 せせせ
『曲り角奇譚』 茶屋
『幽霊屋敷に住むものは』 永坂暖日
『便利な家』 ◆BNSK.80yf2
『助手席の彼女』 永坂暖日
『できごころ』 しゃん@にゃん革
『幽霊屋敷の浴室』 山田佳江
『桜屋敷』 茶屋
『幽霊の生業』 豆ヒヨコ
『幽霊船』 小伏史央
『幽霊屋敷の記憶』 三和すい
『記憶喪失になった俺が大学受験に挑むのだ』 ひこ・ひこたろう
『館長さん』 晴海まどか
『怪談は幽霊屋敷で』 松浦徹郎
『幽霊空き家』 永坂暖日
『九朗右衛門事件帳』 茶屋
『幽霊屋敷の一件』 碓氷穣
『歌声』 茶屋
『ぼくがいまよみたいしょうせつてきすとぽいばーじょん』 ひやとい
『歴史の勉強』 しゃん@にゃん革
『新幹線の中で』 ひこ・ひこたろう
『ぼくとお屋敷』 犬子蓮木
『紅白歌合戦の舞台に俺は立ったのだが』 ひこ・ひこたろう
『幽霊屋敷から出て来たのは古切手』 ひこ・ひこたろう
『大学祭』 ひやとい
『薔薇の香り』 げん@姐さん
『Haunted Horizon』 木野目理兵衛
〈集計外作品〉 ※投稿順
『柿のお供え』 高田@小説垢
『僕がオトコノコを止めた理由』 文才無い魔女
『変な旅』 鳥居三三
〈関連作品〉
関連作品のご紹介
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『生々しさ』 フィンディル

第四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.06 23:42
総文字数 : 2034字

獲得☆3.875
 二人に一人は「は?」と聞き返す。私の勤め先は幽霊屋敷である。
 しかし詳しく説明すればすぐに納得される。何のことはない、テーマパークのお化け屋敷のお化け役である。接客業と言えるのかどうか分からないが、実際の業務内容は地味である。開園から閉園までの間、来る人来る人を驚かして怖がらせる。ただそれだけ。数日もやってみると他の仕事と大して変わらないことに気付く。このお化けの仕事を続けていて大金持ちになることはまぁないだろうが、私は何だかんだでこのお化けライフを楽しんでいる。
 最近悩みがある。先日、お化け仲間にこう言われた。「貴女のパフォーマンスには生々しさが足りない」と。ばぁー! と驚かすだけの行為を「パフォーマンス」と名付けるお化け仲間のプロ意識も印象深かったが、私は迷った。生々しさだと? 言わんとすることは分かる。わざとらしいホラー映画はあまり面白くない。逆にリアリティのあるホラー映画はしばらくトイレに行けなくなる。お化けの仕事をしていて恥ずかしいことではあるが。悩んでいるのは、どうすればこの生々しさが出せるのか、ということである。お化け屋敷でお化けが出来ることなんて高が知れている。暗闇で姿をきちんと見せられない上に、私の姿を見た人はすぐに走って逃げてしまうのである。そんな制限の中でいかにして「生々しさ」を表現すれば良いのだろうか。表情なのか? いやでも暗闇だ、大して見えやしない。手の動きか? 生々しい手の動きって何だ。格好か? いやこのお化けの衣装は支給されている。カツラではなくて地毛を伸ばせば良いのか? 邪魔になるから嫌だ。私は迷った。
 だが駄目出しをされたにも関わらず何も研鑽しないというわけにはいかないのだ。私も私の仕事にそれなりに誇りを持っている。お化けとして生きていくことを親に誓ったあの日。親にはすごく微妙な顔をされた。微妙過ぎて反対もされなかった。
 そのようなことを考えつつ私は家路につく。夕暮れ、辺りは薄暗い。細い路地を歩き、見上げる。私の家はボロアパートだ。お化け役で大金持ちにはなれないのである。このアパートは幽霊屋敷とは言えないが、幽霊屋敷に近い。と言うのも、「出る」という噂があるのだ。どうやら昔男の子が誤って二階から落下して死んだとかどうとかで。しかし私は今まで見たことがない。恐らくただの噂だろう。そう思ってアパートの外階段を上がり、通路を歩き、自分の部屋のドアを開け、
 居た。部屋の奥のカーテン、そこが少し膨らんでいる。私は全身の血管が凍って沸騰するのを感じた。窓を開けていないのにカーテンが揺らめく。全身から汗が噴き出る。カーテンの下の隙間から青白い足が少しだけ見える。震えが止まらない。背丈は子供の身長程。間違いない、件の男の子だ。私の脳はその答えを弾き出すのを最後にシャットダウンする。どうしようという問いにも答えない。逃げないと、という要望を脚に届けない。異常な量の腋汗が胴を伝って下へと落ちていく。カーテンの膨らみは動かない。絶対に動かないで。でもこのままは地獄。
 と、瞳が水を求めて瞬きをせがむ。もう一分は目を開けたままなのではなかろうか。でも瞬きをした後に男の子が目の前まで迫ってきたらと考えると怖過ぎて出来ない。カーテンの膨らみはそのままだ。下から覗く青白い足も動かない。ああ瞬きしたい。瞳が駄々をこねる。もう少し我慢して! あの男の子が居なくなって! ああ瞬きしたい! 駄目駄目瞬きしちゃいます絶対に動かないでねボクー!
 瞬きをした私の先、カーテンの膨らみは消えていた。足もない。ああ、私の願いを聞き入れて消えてくれたのかありがとうとまで思った私ははたと気付く。このパターンってもしかして、私の真後ろに立っているのではないか。私は叫ぶ用意をしてゆっくりと振り向く。しかしそこにも、居なかった。そのままの勢いで私は天井、床、部屋の隅々まで確かめるがあの男の子はどこかへと消え去っていた。その場に崩れ落ちる。渇きの限界で私の頬を流れる大粒の涙、弁が決壊したのかべちゃべちゃの腋。吐き出した溜息が臭かった。
 こういう時に転がり込めるアテのない私は、その日一睡もすることが出来なかった。出てきてくれたら大声で叫んで逃げ出すことも出来る。しかし、あれから男の子は現れない。現れないせいで、部屋を飛び出すに飛び出せない。恐怖と緊張に心臓を締めつけられたまま朝を迎える。間違いなく人生で一番の恐怖体験だ。そして朝日の差し込む中、私は知る。これが「生々しさ」なのだと。
 お化け役の私はお化けに遭遇し、一日休暇を取った。そして出勤日。私は自信に満ち溢れていた。当然だろう、私は本物のお化けに「生々しさ」をレクチャーしてもらったのだ。これ以上のパフォーマンスはない。恐怖に苛まれたあの日は私を成長させてくれた。本当の「生々しさ」とは何なのか、見せ付けてやろうではないか。そうして私は衣装に身を包んだ。
 一週間後、私はクビになった。その理由は「職務怠慢」だった。

『幽霊アカウント』 muomuo

連作/第一夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.03 23:43
総文字数 : 1415字

獲得☆3.667
「では、こちらのアカウントを抹消いたします。よろしいですね?」
「ああ、いいから早くやってくれ」
「では……」
 生来、お役所仕事ってやつは俺の肌には全く合わねぇんだが、これで最後だと思えば気も楽だった。
 世界的な人口爆発とともに、すべての市民に固有のアカウントが割り当てられるようになって二十数年。非合法に位置情報を収集されたり、買い物の履歴を盗み見られたりといったプライバシー侵害型の犯罪に巻き込まれたときや、逆によからぬ輩が悪事を企んだりするときに注目されるようになったのが、アカウントの抹消による一時的な市民権の放棄だった。
 アカウントを抹消されると法律上は死人と同じ扱いになり、法的な義務だけでなく保護も失われるため、すべてを自分で解決していかなければならなくなる。犯罪の温床として警戒もされるから、表だって手を差し伸べてくれるようなやつはいない。アカウントを削除した時点で、犯罪者になったように白い目が迎えられるだけなのだ。
 そういう、生きながら死者のようになったアウトローな人間たちは、だいたいが追跡困難になり、アングラに潜って生活することになる。一生、もしくは何らかの方法で新しいアカウントが得られるまでの間、通称「幽霊屋敷」と呼ばれるアカウント抹消者たちの巣窟に集うこととなるのが関の山ってわけだ。
「ご愁傷様です。よい来世を」
 感情のない声だ。こいつらは俺たちが別のアカウントを手に入れるまで人間として扱う義務がないもんだから、それこそ幽霊のように精気も真心もない態度で送り出す。――来世? 俺たちが再び人間扱いされる日なんて、あるかどうかも分からない「来世」と同じってことだろう。

 俺は、いくつか当たりをつけていた「幽霊屋敷」への仲介者に早速連絡をとった。市民を勤め上げた年数に応じて“退職金”が出るもんだから、それに群がりビジネスに勤しむ市民様も多いのだ。
「……おう、さっき死んできたからよ。例の件、頼むぜ。ああ、じゃ……」
 プチッ……と切った携帯電話も、やっこさんから前もって渡されていたものだ。自分名義のものは、もうこの世には何ひとつない。俺は、束の間の開放感をとっくに忘れ去り、これから去来する未知の生活への茫漠たる不安と必死に戦い始めていた。
 そもそも俺は、これから向かう「幽霊屋敷」ってやつの正体も知らされちゃいない。一説によるとただのマグロ漁船じゃないかって噂まであるくらいだが、この、情報がすべてを支配するご時世に正体が知れないってのが只事じゃないもんだから、実際に厄介になるまでは触れないでおこうと普通の人間なら敬遠するのが当然だったんだ。……だが、ついに逃げられない状況になっちまった。やはり地下施設かどこかに、文字通り潜ることになるのだと思う。俺は正に、この世を名残惜しむ死出への旅人のような心持ちで、役所の外を見渡した。
 ス……とその時、見慣れた前籠をつけた自転車が通り過ぎて行った。子どもを乗せているようにも見えたのは錯覚に違いない。反射的に顔を逸らしてしまっていたから、本当のところは分からないが……。
「麗華……」
 俺は、おそらくこれが今生の別れになるであろう女の名前を呟いた。……やはり、隣町程度ではダメだった。この手続きを決行するのなら見知らぬ土地のほうがもっと思い切りよく旅立てた。仲介人の言っていたとおりということか。
「お待たせしました」
 振り向くと、今度は過剰なまでの笑顔が俺を待ち構えていた。


第二夜エントリー 『男死病』 に続く

『男死病』 muomuo

連作/第二夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.04 23:43
総文字数 : 1672字

獲得☆3.500


第一夜エントリー 『幽霊アカウント』 続編
男死病
muomuo


 むかしむかしある惑星に、とても科学技術の進歩した文明がありました。
 ある朝、一人の貧しい漁師が出航中に水葬となり、生きて帰らないと分かったことを知った村長の息子が、村一番の美人と名高いその妻のもとを訪れて、恵まれた日々の暮らしを保証するだけの大金と引き換えに再婚を迫りました。目の見えない一人娘を抱えて途方に暮れていた妻でしたが、それでも夫の帰りを待とうと申し出を断り続けるのでした。
 しかし、やがてその惑星全体を覆い尽くすほどの勢いで、恐ろしい奇病が流行ります。それは、脇腹が割けて少し出血したかと思うと、なぜか息苦しくなって口をパクパクさせているうちに死に至るという、男ばかりが死んでいく謎の病でした。感染率と致死率が高すぎて、世の男たちが次々に死んでいくものですから、バイオテロだの戦争布告だのといった疑心暗鬼に囚われる暇もなく、むしろ世界は一つにまとまって危機に立ち向かうことになる……はずでした。ところが、ひょんなことから事態は急転します。この病に罹ったと知ったある青年が、絶望のあまり橋の上から川に身を投げたところ、水の中では苦しくならずに生き続けられることに気づいたのです。そう、実はそれは、呼吸器官が変成し、エラ呼吸に代わってしまうという奇妙な症状の病気だったのでした。
 このことが分かってからというものの、男女は陸と水中とに分かれて暮らすようになります。まるで王子に恋い焦がれる人魚姫のように、世の男たちは無残にも家族や恋人と引き裂かれていきました。どうしても陸に上がりたい。また人間として生きていきたい。……その願いを叶えたのはしかし魔女ではなく、世界中の女性科学者たちが苦労して見出した研究の成果でした。とても高価ではありましたが、呼吸や血液の循環を補って陸上生活ができるようにしてくれる器具が発明されたのです。ですから結果としては、男と女というよりも、お金持ちと貧乏人とが分かれて暮らす世の中になっていったのでした。金持ちの男だけは、歴史上類を見ないほど大規模な陸のハーレムのなかで人生を謳歌する一方、貧乏な男たちは水中からただただ妬み嫉みを募らせて眺めているばかりです。やがて当然のように治安の悪いところがそこここに生まれ、池や川に住み着いた不逞の輩に女性が襲われる事件が多くなっていきました。
 そんなある時のこと、一人の少女が川に近づいて恐々と海辺の方を眺めておりました。あの妻の一人娘です。決して海に近づいてはいけないと言われていたにもかかわらず、潮の臭いや遠くの潮騒が懐かしくてどうしても気になっているうちに、ふらふらと近寄っていってしまったのです。それというのも、痺れを切らした村長の息子が母親に再婚を強く迫る場面にいたたまれなくなったからでした。
「我慢できるのはせいぜいあとひと月だ。それまでにあの子が僕に懐かないようなら施設に預けてでもいい、僕と結婚してもらうよ。借金を肩代わりするにも限度というものがあるからね」
 ……声が違うもん。匂いが違うもん。少女は何度もつぶやき、想い返します。
「あの人はお父さんじゃない。ねえ、お父さんはどこにいったの?」
 母親は優しく答えました。
「遠いところに行ったのよ」
 ……もう、お母さんはいつもそればっかり!
 少女が何度目かに強くそう思ったときでした。ザバッ……と音がしたかと思うと、恐ろしい形相の男が瞬く間に少女を抱きかかえ、声も上げずに海に引きずり込んでいく、……寸前のことでした。海中から現れたかと思うと、屈強な体と鮮やかな格闘術で、彼女が襲われそうになったところを助けた人がありました。陸上では声も出せないその人は、名前も名乗らず帰っていきました。

            ◆

「はい、おしまい」
 選ぶ童話を間違えたことを、どうせ意味は分からないだろうと高を括ったことを後悔しながら、坂上麗華は絵本を本棚に戻した。案の定、一人娘は問いかける。
「ねえ、パパはどこにいったの?」
「遠いところよ」
 残された夫の書置きをまたポケットから取り出して、それだけ言うのだった。

 ~ 幽霊屋敷に行ってくる。大丈夫だ。探すな ~


第三夜エントリー 『名無しの少年』 に続く

『名無しの少年』 muomuo

連作/第三夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.05 23:44
総文字数 : 2050字

獲得☆3.833


第一、二夜エントリー 『幽霊アカウント』 『男死病』 続編
名無しの少年
muomuo


 タクシーに見えなくもない車に一人乗るよう仲介人に促されて向かったのは、とある街の旅館だった。現金なら偽名臭くても問題なく泊まれるからという事情らしいが、それは俺たち「幽霊」のためというより、仲介人たちの保身にとって都合がいいということだろう。宿台帳に記入して通された部屋にしばらく待機してから、俺はあらかじめ教えられていた部屋に向かった。
「やあ、お疲れさまでした」
 あいかわらず癪に障る口調で出迎えたので、俺は一瞥くれてやってから一応の礼を言うことにした。
「……いろいろ世話になるな。だが、別々に入る必要があったのか?」
「何事も慎重に行動しませんとね」
「しかし少なくとも、もう俺を追ってこられる者はいないだろ?」
 ぷっ……と、仲介人の男は少し大げさに吹き出して嗤う。
「もしそうなのでしたら、こんなところに寄り道はしていません。すぐに例の場所、“幽霊屋敷”にお連れしますよ」
「どういうことだ?」
 少しあからさまに警戒の色を見せて威嚇する。罠だったということか……?
「はは、そうピリピリなさらないで。ちゃんとご説明いたしますとも。まずは……お座りください」
 そう言って座布団を差し出した物腰を見るに、少なくとも今ここで襲ったりする気もないようだ。どっかと腰をおろすと、俺は手荷物を脇に固めて置いた。
「……昔流行ったオレオレ詐欺ですが」
「あ?」
「被害額も大きく、裏社会では大金が乱れ飛びましたよね? ……振り込め詐欺とも言ったかな?」
「ああ……それが?」
「あの手の犯罪は、出し子と呼ばれる下っ端をいくら捕まえても根本的な解決にならなかった。……しかし一言『今どこにいるの?』と、位置情報の提供そして照合を臭わせる……それだけのことが定着するなかで、瞬く間に衰退していったわけですよね?」
「……らしな」
 奴の言うとおり、市民総アカウント制度にも一面のメリットがあったことは確かだ。こんな身の上になってなけりゃ、もう少し手離しで認めてやっただろうよ。
「そうだとするならば!」
 男は、やおら芝居がかった調子で立ち上がり、こちらを値踏みするような眼差しで舐め回してから、続けた。
「そんなに便利なツールを手に入れたお役人さんが、わざわざ自分たちの武器を投げ捨てるような真似をすると、本当にお思いですか? ……アカウントを抹消することで位置情報がつかめなくなるのは、色々と不都合が大きいんですよ?」
 ……ちっ、やはり俺とお役人とじゃあ気質がまるで違うようだな。
「実は……抹消されていない?」
「その通り!」
 場の雰囲気には全くそぐわぬ感情を隠しもせず、男は嬉々として言った。やはりいけすかない野郎だ。
「ネットワークから一時的に退避させられるだけです。いわば休眠状態ですね。世間的には伏せられていますが、実際はダミーのアカウントと紐つけられて、追跡され続けているんですよ。ひとたび捜査機関が出張ってくれば、そのダミーが誰なのかという情報はすぐに取り出されてしまいます」
 男はそう言いながら、座椅子に隠れて見えなかった小物入れのような袋の綴じ紐の部分に指を引っかけると、俺の目の前に掲げてみせた。
「ですから……彼なんです」
「彼……?」
「いまトイレに行っているところですがね、……大丈夫。決して目立つようなことはできない子ですから」
 ……束の間の静寂。意味が分からず口も挟めないでいると、ス……と音もなく襖が開くなり、小さな男の子が部屋に入ってきた。愛想も何もない。小学生くらいにありがちなキャラクターもので着飾り、服装や身なりで判断するからには普通だが、一目でどこかが異様な少年と分かる。和室ということもあり、座敷童と紹介されても不思議でない。この俺が不覚にも気圧されかけたほど、何か悲壮な佇まいを帯びている。
「そう、この子ですよ」
 少年は奴には目もくれず、ただじっ……と俺を見つめて立っている。
「この世には、もともと<名無し>の子どもがたくさんいるんです。彼らの<名無しのアカウント>は特別で、<ダミーのアカウント>と同じ階層で管理されているんです。ですから……」
 先ほどの小物入れを開いて小さな器具を取り出したかと思うと、
「二つのアカウントは交換できる。……この子と、アカウントの交換を行っていただきます」
「……何だと?」

 男の説明は不快だった。そんな立場の子どもたちが現実に……それも、どれだけいるというのだろうか。俺は今この時からあの子として生きていく。“幽霊屋敷”に向かう。そしてあの子は、代わりにこの俺として、どこか別の場所に連れられていく……らしい。
 アカウントの交換とやらが終わったらしく、少年が挨拶もせずに外に出る。どこか我が子の後ろ姿にも重なる気がする想いを必死に押し殺しながら、敢えて自分のこれからの生活に対する不安のほうを大きくしてやろうと言い聞かせながら、俺は黙って少年の背を見送った。
「あの子は、やっと幸せの国で暮らせます。きっとあなたに感謝して、笑顔で眠れるようにもなれますよ」
 男が一言、そう付け加えるのを聞きながら。


第四夜エントリー 『絆』 に続く

『絆』 muomuo

連作/第四夜エントリー
投稿時刻 : 2014.05.06 23:44
総文字数 : 2459字

獲得☆3.667


第一、二、三夜エントリー 『幽霊アカウント』 『男死病』 『名無しの少年』 続編
muomuo


 muted boy. 無理やり物言わぬ存在に変えられた、この社会にいないはずの少年とのアカウント交換。いわばセキュリティ・ホールを衝いたやり口で、俺はついにこの社会から自分の存在を消した。寂れた旅館を後にして向かうのが、いよいよ“幽霊屋敷”というわけだ。思えばここまでは、短いようで長い道のりだった。頼み込まれて連帯保証人になっていた実の父親に裏切られ、自分がすべての債務を被せられていると知ったのは僅か三週間ほど前のこと。法律のことなんて何も分からない、学のない小市民として普通の抵抗を繰り返しているうちに、あっという間に窮地に立たされたのだ。
 早死にしたお袋は一財産を遺してくれたはずだが、親父自身が多くの知人の連帯保証人になったため消え失せていた。どうにもならなくて俺を出汁にしたらしいが、おかげで俺は妻との離婚を余儀なくされ、娘とも引き離されることになった。……今どこにいるのか知らないが、どうせ消えるなら、俺を巻き込む前に消えてくれてもよかった……考えまいとしても、その思いは何度も浮かんできた。

 今度は同じ車に乗り込むと、アカウント交換も済んで警戒を解いたのか、道すがら仲介人の男が色々と内幕を明かしを始めた。
「さっきの少年ですがね、実は彼、“幽霊屋敷”から来たとも言えるんですよ」
 “座敷牢の私生児”……それが、さっき男から聞かされた少年の正体だった。人口爆発の時代となって、無計画な出産や育児放棄などがどんどん重罪になっていくなか、始末に困った子どもが人知れず匿われて一生を終えることになっているというのだ。時代を遡ったかのような眩暈を覚えるが、どうやらそれが現実のようだ。しかし、ごく普通の家庭にそんな真似はできるはずもない。大金に物を言わせて無茶するのは、成金セレブと揶揄される類の金持ちと昔から相場が決まっている。それで、話はつながった。
「つまり“幽霊屋敷”ってのは、セレブ成金が作り上げた秘密の別荘か何かってことか」
「まあ、そんなところですかねぇ。私は……要塞と表現しておりますが」
 ……要塞か。あながち的外れでもないのだろう。今の世の中でこれだけ内情の分からない、鉄壁の情報統制が可能な場所だ。私生児にせよアカウント抹消者にせよ、何人も囲い込んで十分な生活をさせるだけでも相当な金がかかるってのに……。
「大抵は彼ら自身の子どもだけでなく、他人から預かった私生児も暮らしていますけどね。彼らが外に出られるチャンスは、あなたのような人とトレードされることだけなんですよ」
 吐き気がした。家族も人生もあったものじゃない。少年たちとその親は、アカウントだけでつながっているにすぎないということか。
「……その先の話も、知りたいんだが」
 虫唾の走る種明かしはもうたくさんだ。俺は話を先に進めるよう促した。
「いま俺が<名無しのアカウント>を持っていて、成金野郎の子どもという扱いになったのは分かった。だが、そこから先は? 俺はどうやったら新しいアカウントを手に入れられるんだ?」
 すると男は、なぜか声を落としてこう続けた。
「……それは知らないほうがいいかもしれませんね」
「何だと!? 何故だ、どういう意味だ?」
「……いつになるか分からないからですよ。十年、二十年……いや、もっとかな」
「なっ……!」
 景色が暗転する。なんとか、何か喋らなければ、闇に呑み込まれていきそうだ。
 おいおい、聞いてないぞ……今さら聞かされて納得できる話でもないだろう。多少は覚悟してたとはいえ、そんなに時間がかかるものなのか……?

 しかしその恐怖は、ある悲劇によって唐突に終わりを告げることになる。
「……はい、私です」
 しばらく続いた重い静寂を、男の携帯電話が破ったあとのことだった。
「な、なんですって!? 本当ですか……?」
 男が車を止めさせる。細々と指示を出した後でようやく呟いたのは、思いもかけない言葉だった。
「極めて例外的なことですが……あなた、帰れますよ。たった今、あなたは新たなアカウントを手に入れました」

 …………。
 それは、つい数時間前に別れたはずの、あの少年の死を告げる電話だった。原因は交通事故だという。記録上、死んだのは俺ということになるはずだが、死体さえ始末してしまえばそれはもう調べようがない。俺が予め受けていた検査の際にでも、細工の準備は進められていたのだろう。そして逆に見るなら、私生児本人が死亡してしまい、一番の証拠が抹消されてしまうことで、セレブたちとの関係を示すのは<名無しのアカウント>ただ一つという状況になった。あとは、正規のアカウントに戻すべく、裏口から働きかけるだけということらしいのだ。……つまり、俺がアカウントを得るまでの時間と、少年の余生とがリンクしていたということである。
「てめぇ、最初からあの子を犠牲にするつもりだったのか!?」
 問い詰める俺に、男は珍しく言い淀み、苦しそうに小さく呟いた。
「……違う」

「では、こちらのアカウントを登録いたします。よろしいですね?」
「ああ、いいから早くやってくれ」
「では……」
 あの役人は、俺の顔も名前も憶えてないのか、何ら疑う様子もなく手続きを進めている。
「覚えていたとしても証拠がないですし、問題にできないんですよ」
 仲介人の男が言ったとおり、他人の空似か、整形のせいだとでも思って処理したのかもしれない。今さらどうでもいいことだったが。

 そして俺は、家族のもとに向かった。
 アカウントが違う。名前が違う。それが何ほどのことだろう。俺はいま、あの子のおかげで、あの子が手に入れられなかった家族の温もりを取り戻そうとしているのだ。問題がすべて解決したわけではないが、それは問題じゃないんだ。一番大きな問題はそんなことじゃないんだと改めて分かったことが、俺にとって一番大きな、これからの財産になる。そして、見慣れた玄関のドアを開け……、
「ただいま、有紀」
 娘が声を確認する。匂いを確認する。
「パパ……?」
 ……ああ。ありがたい。やはり俺たち家族の絆は、アカウントでつながってたわけじゃない。

<了>   


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