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【人物表】

【人物表】

立場、性質、外見的特長を示す 原作よりの抜粋も含む

 

【主要人物】 

ジョバンニ 父の不在の間も母を看護したり働いたりと忙しないが幼少期はカムパネルラとともに幸せに過ごしていた

謙虚で真面目 ザネリや級友のからかいに反論したり列車でかおるとカムパネルラに嫉妬したりと激しい気性も宿す 大切なものを守ろうとするあまり頑固になりやすい ちぢれた毛で髪でも服でもオレンジ色のものを身につけている 人を深く愛しているが上手に人をわかるのは苦手 その純真さが内心ではカムパネルラには魅力にうつる

 

カムパネルラ ジョバンニの友人 聡明な気質 ジョバンニの忙しいのを気にしてあまり話さないようになってしまったが心では気にしている カムパネルラは最初死を自覚していないが旅のさなか徐々に自覚する 

またジョバンニといつまでも共にいられないことは最初から知っている くせのない髪 服には必ず青色のものを身につけている 母を早くに亡くしたのは自分のせいだと思い込んでおり父の愛を得るために懸命に勉強している また誰にでも平等に接するのもそのため 内心では母を渇望している

 

ジョバンニの父 動物工場の技師 動物工場は家畜や種の保存のための工場 原作では漁師だが遠いところで懸命に働く人として同じように描く やさしくセロのような声 カムパネルラの父とは長い付き合いの親友 仕事の面でもかかわりがある

ジョバンニの母 遠くの星で働く父を心配し病気がち やさしい気性で常にジョバンニを気にかけている 

 

カムパネルラの父 ジョバンニの父の昔からの友人 人のために尽くすが怜悧な印象でそれが伝わりにくい また息子を愛してもいるが家長としての責任感がそれをうわまわる

カムパネルラの母 作中には登場しないがカムパネルラを生んだことで体を悪くして入れ替わるように亡くなっている 青じろい尖ったあご 黒い服 博士 

 

先生 カムパネルラたちの学校の先生 生徒らを愛しておりカムパネルラもジョバンニも気にかけている だが少し鈍感

 

ザネリ ジョバンニを嫌っているわけではないがカムパネルラとジョバンニの仲がもどかしく、また気に入らない ついあれこれ意地悪をする 闊達な性格で級友には人気がある カムパネルラには自覚的にジョバンニには無自覚にその真面目な彼らに対する劣等感を抱いている

 

鳥捕り 少年らにどこへいくのかを問いどこから来たのかを問う人物 少年らはどこへいくかはっきりしていたけれど、この第三者にどこからきたのかといわれるともうわからなくなってしまい自信を失う しかしその自信のなさにより二人の境や距離感も失われる またしきりに鳥を食べるよう他者にすすめる「より与えるためにより捕る人」でもある 茶いろの木綿の外套 袖や襟が少し擦り切れている 白い帆布の袋を二つ両肩に掛けている 赤髭のせなかのかがんだ人

 

燈台看守 燈台守は死者の魂を見守る人 ここでは時折すばる、真理を眺める人としても描かれる 穏やか 尖った帽子で大きな鍵を腰に下げている 

 

青年 姉と弟らを任された家庭教師 親元へつれていこうとタイタンの港を出発するが事故に遭い苦悩を味わう 黒い洋服をきちんと着たせいの高い青年

姉 かおる まだ生への執着があり素直で元気 十二ばかりの眼の茶いろな可愛らしい女の子 純真さのあまりにジョバンニと争ったり嫉妬を植えつけてしまう

弟 タダシ つやつやした黒い髪の六つばかりの男の子 死の自覚は終始ない 自分と生命の区別がつかないほど幼い 赤いジャケットのぼたんは外れている

 

【姉弟について】

最初稿から第四稿に至るまで人数が定まらない

最後稿には「二番目の女の子」の記述があるが登場場面はない

ここでは省略し かおるという少女ひとりに委ねる

 

 

●下記は主要でない人々 原作より外見的特徴と考えられる気質を示す

 

【街の人】

ケンタウル祭の街の子ら 親もあり幸福な子ら 新しい折りのついた着物で祭りを楽しむ 

級友ら ザネリやカムパネルラの友人 白いシャツ 制服 

会計係り だぶだぶの白いシャツを着た人 厳しそうな人

三番目のテーブルの係りの人 初老 まじめでやさしそうな人

牧場のおばあさん 牧場が国柱会 日蓮の教えを請う場とすれば賢治は最初そこで働くことを拒まれる その役割を示す人 病気がある

牧場の人 白い太いずぼんをはいた人 闊達な雰囲気

 

【列車の人】

祈る旅人たち 修道院の服 きもののひだを垂れている 宗派の特定されないような独自のシンプルなものが望ましい それぞれ黒いバイブル 水晶の数珠 ロザリオなどをもつ

尼さん せいの高い、黒いかつぎをした人 まん円な緑の瞳 カムパネルラの母の面影を宿す

車掌 赤い帽子 せいの高い 厳しい雰囲気 

老人 トウモロコシ畑の働き手 ひどい労働で目を悪くしている 農業に苦労している 「老人のような声」はジョバンニを銀河において導く声として原作に登場するが「導くもの」はこの脚本では割愛し農業に苦労する人としての役割を与えた

農家の娘ら 農業がうまくいかないと昔の人たちは娘を手放すしかなかった その比喩としてトウモロコシとして描かれる 「畑のへり」参照

 

【鉄道の行路沿いで出会う人】

大学士 この場ではブルカニロ博士の特徴も併せ持ち、また言葉も一部博士と同じことを話す せいの高い人、ひどい近眼鏡 長靴 

信号手 わたり鳥を学校の生徒らになぞらえ それを導く人ととらえる そのためどこか教師のような格好

童子ら 完成度の高い「双子の星」より劇中劇の人物として登場 清廉で人よりも神様に近い 

 


暗闇
ぼんやりとした焦点のすばる
星星をめぐってやがて銀河系 太陽系 木星がうつる
タイタン 人工の海と大地があり 地上へとおりていく視点
小さな町 そこに工場がある

工場の事務所
通信機に向き合う男の背中 ジョバンニの父 顔は見えない
通信機の向こう ひどく途切れがちなカムパネルラの父の声 「いい実験だった」
ジョバンニの父「ああ、これで大丈夫」
カムパネルラの父 「つらかったろう」
ジョバンニ父 「ああでも、ここではプレシオスもくっきり見える」
カムパネルラ父 少し笑う「もう僕は3つか4つかしか見えない」
ジョバンニ父 「僕もだ。けどくっきり見えるんだ。ああ。明日には帰る支度だ」
カムパネルラ父 「そうか。ではおやすみ」
回線が途切れ 画面は暗転

タイタン(木星の衛星)
気圏外に静止軌道衛星 そのカーボンリールをずっと真下にたどるとある箇所で途切れている しばらく真空がつづき気圏の層のうちへ
カムパネルらの声 ひとりごとのようにささやくように
「ジョバンニ。君には見えない」
危険のうち 更に下方 メタンの海に近いところ 千切れてしまいたわんで落ちていくリールと 落下するばかりのスペースシップ まるで玩具のように

海面
どんどん落下するスペースシップ ついに海へ 高い波が生じる 船が沈む
その地点から無数の時計草がわいてくる

海の下
メタンと泥の海 沈没して行くシップに無数の時計草の蔦が絡んでいる 衝撃をやわらげるかのようにどんどん繁殖して覆いきる

海面
その水面から花と光が浮いてくる 光は最初ぼんやりしているがやがてレンズの焦点があうようにして形が得られる カササギと鷺 鷺の純白の羽が画面いっぱいに 純白は光になる 

ある惑星
ある惑星の気圏を超える鷺たち たくさん飛んでくる


島には燈台 燈台から空を観測する男 それは燈台看守 燈台守は海を見守っている 同時にそこは天上でもある 男はすばるを見守っている はっと瞬きする 
首に提げた双眼鏡のレンズを多数の黒い影が燈台の光をよぎっていく ばさばさと羽の影 顔をレンズから離してじっとみあげる 双眼鏡の絞りをあわせる
レンズに鳥がくっきりうつる
カムパネルラの声「どうしても、皆に感じられるよう、先生の教えるよう、あれらのものが、ただの白いミルクであるとは、そのようにはみえない。
がらんとした冷いとこだとは思われない」
「そう感じる」
鷺 ひるがえって燈台の真上から下へ透明につきぬけて入ってくる

鷺の視点
星めぐりの唄とともに(タイトルまで唄がつづく)
灯台の床 階下の燈台守の寝室 その下の階の台所 床下には蠍 地中をつきぬける 
海に入る 海は深くなる 海はタイタンの人工の海そのもの 落ちて沈んだシップがすっかり時計草にくるまれている シップの外壁を内部へもぐる まだ息がありながら沈む人たちが固く抱き合ったり泣き叫んだり祈ったりしている 
更に外壁をぬけて海溝 地中 そして暗転 
カムパネルラの声「けれど、そう感じるだけで、けして云いはしないだろう」
闇には光がともりはじめる それは星 
星は無数に増えていく それは銀河 銀河が広がる 純白に明るく染まる 
その明かりは質感を得ていきドーム型の天井とそれから提げられた電燈 電燈の下は書斎

書斎
どっしりとした樫の机や本棚・ソファで落ち着いた雰囲気
ジョバンニとカムパネルラのいるあたりには魔法瓶 スケッチブック 父親の硝子戸棚から取り出してきた鉱石(硝子ケースに入っている) おもちゃのセロ ハーモニカ 絵の具 アルコールの汽車 レールはないが そこには先頭車両だけが置いてある トロッコ電車のような素朴な形状でそれがやがて彼らの乗り合わせる列車と同じ 部屋に時計はあってはならない
棚にはカムパネルラの母の遺影 暗いのではなく明るい笑顔や幼いカムパネルラを抱きしめている自然な姿
ジョバンニとカムパネルラが本を読んでいる姿 俯瞰
まだ彼らは幼いがそれは同時に「現在」のジョバンニとカムパネルラの心象風景
過去でありながら永遠
カムパネルラの声「けして云いはしないだろう。だから僕と旅したことも云わない。そうだね」
二人 仲睦まじく一冊の大きな本を広げている(はっきりとした色鮮やかな本。対比的に風景はミルクのように靄のように懐かしく褪色した風景で回想、過去における銀河という現在と未来の出来事を予感させる。またその本は私たちのいる現代でもある)
そっと互いの顔をみつめほほえむ それから立って望遠鏡を覗き込む
レンズにはすばる 
書斎の窓の向こう 赤く熟した烏瓜のつたのからむ二本の杉が夜に映えている
唄がふっとやむ タイトルが重なる


[銀河鉄道の夜]


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1■ 1 午後の授業
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居住ドーム遠景 (遠い未来の地球)

ジョバンニの部屋
ある裏町の小さなアパートの一室。素朴な木の机と椅子。机には父親の送ってきた鉱石がごろごろ転がっているが本や勉強道具はない。しまわれている。
部屋はほのぐらい。窓から光がさしこんでくる。靄がかかったような朝の光。窓辺から寝台の俯瞰。眠っていたジョバンニがまばたきする。少年が眼を覚ますと画面がくっきりとなる。
ジョバンニ 誰かに呼ばれたような感じに身を起こす。
寝台をおりて窓辺を覗き込む。路地に人の往来はまだない。ほっと息をついて、時計をみる。朝五時頃。

アパートの玄関
扉のそばには木の空箱に紫いろのケールやアスパラガス。小さな二つの窓には日覆い。三つならんだ入口の一番左側の部屋がジョバンニと母親の部屋。
ジョバンニ 眠っている母親に気遣いながら、そっと部屋から出てくる。顔をあげる。

ドーム 
透明で自然の空とかわりないが異様にいつでも澄んでいる。虹がいつでも映りこんでおり条件によって移動する 朝焼けの頃は地上付近がいやに赤い 天頂に近いほどくっきり青く対比がはっきりしてる

カムパネルラの家
大きな洋風の邸宅。洋館。門の前にジョバンニの自転車がとまる。

門の前
ジョバンニ 肌寒さを感じながらも自転車をとめる 郵便受けに新聞をつっこむ さっさと自転車にまたがっていってしまおうとするが 思いなおして そっと門の向こうを覗く 家中まだしぃんとしている
飼い犬のザウエル(箒のようなしっぽ)ドアの前の平らな石段の上にいる ジョバンニをみつけるとしっぽをふってやってくる 
首輪をしているが鎖はついておらず カムパネルラがわざと外してある(ジョバンニがくるのを知っていてジョバンニのためにそうしている。ただしジョバンニはそのことを知らない)

街角 
ジョバンニの自転車についてくるザウエル 一人と一匹でしばらく家々に配達 
ジョバンニ ある角にさしかかったところで自転車をとめておりる ザウエルの鼻面を撫でてやる「ありがとう、もうお戻り」
ザウエル 理解して静かに戻っていく
それを見送るジョバンニの背は少しさみしげ

燈台(天上)
とうもろこし畑の向こうにある海岸 燈台はそこにあるがそこは天上の海岸 燈台に寄せる水は透き通って限りもない 燈台の突き出た見張り台 欄干に机 その上に双眼鏡は置かれている 
燈台看守 海 空を見守ってぶらぶら立ったり欄干にもたれたりしている   
彼のみつめる空も海もやがてレンズのなかにこもる
そのレンズをひっつかむ手のひら

準備室
生が机上のレンズをひっつかむ手 レンズをもって退出 そこは理科準備室 色色の標本が飾られている戸棚がうつる ジョバンニの父が宇宙輸送で送ってきたほかの星の工場でつくりだされる絶滅した種族の珍しいもの かにの甲羅 となかいの角 月の砂の砂時計 岩へき 生き物の歯や爪 骨 標本など
  
教室
大きな広い講堂で天井は高く教会のよう 古い建物で黒板があるがほとんど使われない 星座図のグラフィックのスクリーンが下げられている 生徒は制服 天井真っ暗になる 中央は白くけぶった銀帯のように明かりが残る 
先生「ではそういうふうに川だといわれたり、ミルクの流れたあとだといわれたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かわかりますか」レンズを掲げる 下から蛍光ポインタで光をあてると星座の映像がレンズのなかの素材から励起 天井に投射される
 天井の白い河に色色の星座が映える仕掛け 先生のポインタの動くに従い銀河鉄道の行路上の星座が天の川付近に続々と映し出される
カムパネルラ 手をあげると四五人がつづけて手をあげる
ジョバンニ ねむたげな眼でぼんやり手をあげようとする まばたきする

カムパネルラの父の書斎(追憶)
ロアーデスクに無造作に広がった雑誌 銀河が掲載されている しかしその写真もぼんやりとする

教室
ジョバンニ まばたきして 急いで手をさげる
先生 「ジョバンニさん。わかっているのでしょう」
ジョバンニ 勢いよく立ち上がる
生徒たち 皆手をおろす
ジョバンニ 答えられず俯いてしまう
ザネリ 前の席からふりかえる ジョバンニを見て意地悪くわらう
ジョバンニ 動けず顔を上げられなくなる 
先生 首を傾げ 信頼しながら「大きな望遠鏡で銀河をよっく調べると銀河はおおかた何でしょう」

書斎(追憶)
デスクの上の雑誌 その少し離れたところに膝をついて座っている男の子の踵

教室
ジョバンニ やはり黙っている
先生 困ってしまい 不思議そうにジョバンニをみつめる 眼をカムパネルラに向ける「ではカムパネルラさん」
カムパネルラ 立ち上がるが それきり黙る
先生 意外そうにしばらくカムパネルラを凝視 二人を見比べ咳払い「はい、よし。座りなさい」
二人 着席
生 天井を仰ぐ ポインタを置く「このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡で見ますと、それはそれはたくさんの小さな星に見えます。ジョバンニさんそうでしょう。あなたのお父さんはその小さな星のひとつを利用した動物養育地区の技師です」さとすようにやさしく語りかける
ジョバンニ 何度かうなずく だんだんと眼のなかには涙がいっぱいになるがこぼさないよう震えながらまっすぐ上の銀河を仰ぐ 白いあまの川の映像

書斎(追憶)
男の子の踵 それは膝立ちで本棚のある方を見ている幼いジョバンニ 本棚の前には幼いカムパネルラ 大きな硝子扉のはめ込まれた本棚
ムパネルラ その硝子戸をそろそろとひらく 大きな図鑑を引っ張り出そうとする だが色色の本に挟まっていて 子供の手ではなかなか容易に引っ張り出せない ジョバンニ 何をするのかと見ていたが理解して立ち上がる そばにいって その本の脇の何冊かをひっぱりだしてあげる
カムパネルラ にっこりする 
二人 その大きな一冊を隙間からとりだす 机から離れた絨毯のうえに無邪気に本をひらく ぎんが というところをひろげる 真っ黒なページいっぱいに白い点々のある美しい写真が映える 二人はおもいおもいに寝転んでそれを眺める
書斎の窓 烏瓜の蔦のからむ二本の杉 二人を見守っているよう

教室
ジョバンニ 涙に気づいて慌てて目元を拭う 
先生 「もしもこの天の川がほんとうに川だと考えるなら、その一つ一つの小さな星はみんなその川の底の砂や砂利の粒にもあたります。あるいは雄大なミルクの流れと考えるなら、そのミルクの川はより天の川に近い姿です」

軌道エレベータ待合室(タイタン)
軌道エレベータは最新鋭の技術の搬送機 そのための人工島がある だが建物は地球から運ばれた古い貴重な建物を生かし再生利用している そのため待合室もレンガか石造りで素朴な雰囲気
少年 大きなトランクを大事そうに抱えている 足をぶらぶらしている 
きちんとした洋装
隣にはやはり小さな姉がいる
姉 父親の写真の入ったロケットを眺めている 古風だが小さくて愛らしいデザイン 時折誰か待っているというふうにあたりを見回す
先生の声「つまり星はみんな、ミルクのなかに細かく浮かんでいる油の球です。そんなら何がその川の水にあたるか、それは真空です。真空とは光をある速さで伝えるもので、太陽や地球や木星もやっぱりそのなかに浮かんでいるのです」
青年 静止軌道エレベーターの搭乗手続きを終え 向こうからやってくる 二人に笑顔で近づいてきて話しかける 両手を差し出す
弟 トランクを渡す 青年がトランクを受け取ったあと 青年のあいたほうの手に自分がしがみつく 
青年 弟を抱えるようにしながら歩き出す 
姉 その少し後ろをついて歩きはじめる
搬送機 スペースシップの登場通路へ入っていく ここからは現代にも見られるような無機質な造り

通路
青年ら通路の列に並んでいる
 なにげなく窓の向こうを見る 光景に先生の声が重なる「つまりは私どもも天の川の水のなかに棲んでいるわけです。そしてその天の川の水のなかから四方を見ると、ちょうど水が深いほど青く見えるように、天の川の底の深く遠いところほど星がたくさんあつまって見え、したがって白くぼんやり見えるのです。この模型をごらんなさい」
輝く宇宙港 スペースシップがリールにかかり垂直に上向いている 向こうはメタンの海でまっくらな海岸線 メタンの海のぶつぶつした質感がやがて中にたくさん光る砂のつぶの入った大きな両面の凸レンズになる

教室
先生 「天の川の形はちょうどこんななのです」
面の凸レンズを掲げる 透過されずとも硝子の気泡 や砂粒のような励起素材が浮いており星のよう 励起されない光源に変えてポインタをあてながら「このいちいちの光のつぶがみんな太陽と同じようにじぶんで光っている星と考えます。私たちの太陽がほぼこの中ごろから少し右にそれたところにあって、地球がその近くにあるとします」
ジョバンニ 少し斜め前にカムパネルラの背があるため どんな表情をしているかわからない けれど時折そちらを見るようにしながら先生の話を聞いている
生「みなさんは夜にこのレンズの中を見まわすとします。こっちの方はレンズが薄いのでわずかの光る粒、つまり星しか見えないでしょう。こっちやこっちの方はガラスが厚いので、光る粒つまり星がたくさん見え、その遠いのはぼうっと白く見えるという、これがつまり銀河の説なのです」生徒たちを見まわす「そんならこのレンズの大きさがどれくらいか、またその中のさまざまの星についてはもう時間ですから、この次の理科の時間にお話します」ポインタをしまう
「今日はその銀河のお祭りですからみなさんは外へでてよくそらをごらんなさい」
ザネリ あたりをみまわし もうそわそわとカムパネルラに話しかけている
ジョバンニ 祭の相談だとわかるがうつむく
先生 にっこり笑う「ではここまで。道具をおしまいなさい」
教室中 生徒たちの端末の機械を閉じる音が響く
生徒たち きちんと立って礼 めいめいに退出
ザネリ カムパネルラの腕をとりすぐ出ようと促す
ジョバンニ そちらを見ることができないで もくもくと帰り支度をする
カムパネルラ ジョバンニを振り向いて見つめるがジョバンニは気づかず ザネリに急かされ一緒に出る
ジョバンニ ようやく顔をあげ出て行く二人を見送る


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2■ 2 活版所
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学校の門(校舎側)
門の手前 校庭の隅に桜の木 木は青々と夏
同じ組の七、八人とカムパネルラ 星祭の相談
カムパネルラ ジョバンニに気づき顔をあげる
ジョバンニ 気づかずに どしどし通り過ぎる
級友たち 顔をよせあいひそひお話しながら見送る

門(外側)
ジョバンニ 門を出てからふりかえる カムパネルラは皆との話に戻っている とぼとぼ歩いていく


市街地は長崎のように異国を感じさせる古く明るく綺麗な町並 坂が多く石畳もある 上げ下げ窓の家々が色色に飾られている いちいの葉の玉 ひのきの枝 屋根屋根の間に五色の旗(緑白青赤黄)が素朴にはためく 軒先はいっぱいのまだ暗い豆電球 ランタン くりぬかれた烏瓜
ジョバンニ とぼとぼと眼もくれず歩いていく

活版所
木造の小さな活版所 事務所と工房だけの素朴な造り古いが綺麗に掃除、手入れされている まわりは芝生 シロツメクサ 
この空間のこの時代は電子書籍が主流だが活版印刷も推奨され計画的に復興 たいそうな労働なので働き手が少ない 
ジョバンニ 活版所にはいる

入り口
広い間口の上がり口の脇に計算台 古めかしい樫の机 
会計係 だぶだぶの白いシャツを着た人 ジョバンニがおじぎをすると 荷物の戸棚の鍵を渡してくれる 
ジョバンニ 靴を脱いで上る

廊下 
突き当たりの大きな扉の手前に鍵つきのそれぞれ鍵のついた棚 
ジョバンニ 棚の戸をひとつあける 鞄をいれる 鞄からめがねを取り出してかける 錠をしてポケットにしまいこむ

作業場 室内
入り口から高いテーブルが続いて並んでいる 
テーブルの後ろには木の戸棚が整然と設えられ 戸棚には書類が色色の紙や書籍が棚ごとに入っている 書類は綺麗にまとめられていたり ばらばらだったり 仕分けする当番の性格ごとに様子が違う 棚の前には各々の当番机 普段は当番が休みでからの机のが多い  
電燈は煌々としており輪転器がまわっている
図書館に並ぶ本棚のように室内には背の低い棚が並ぶ
布きれで頭をしぼった人 帽子をかぶった人など読んだり数えたり それぞれに働いている 青い胸あてをした人がキラキラ星の鼻歌を唄っている
大きな扉をあけてジョバンニが入ってくる

テーブル
三番目のテーブルの係りの人 真面目そうな老人 書類を机上で整理している その人の戸棚はいちばんぎっしりと書類がつまっているが綺麗に整頓されている
ジョバンニ その人の前へ行きおじぎ
係り しばらく棚をさがしてから「これだけ拾っていけるかね」と一枚の紙切れを渡す

机の下 
係りの足元 いくつかの平たい函がバスケットのなかに並んでいる ジョバンニの手が一つの小さな平たい函をとりだす

作業場
ジョバンニ 隅の棚の前へしゃがみこむ じっと虫のように目を近づける 小さなピンセットで活字を次から次と器用だが慎重な仕草で拾いはじめる
青い胸当ての人 鼻歌をやめる ジョバンニの後ろを通りすがり「よう、虫めがね君、おはよう」
近くの四、五人の人たち 声もたてず冷たくわらう
ジョバンニ 少し肩をゆらすが唇をかみ締めて何もいわない 彼らはただかわいそうな人たちで自分もそうだと思っている 眼を拭いながら活字をひろう
函にコトコトと活字を箱にいれる音がだんだんひびく 
その音は良い真新しい靴底が綺麗な広い廊下の床を歩いて響く足音と重なる

エレベータの搭乗口 通路(タイタン)
少年の靴 真新しい靴を履いた弟があるいていく それをつれた青年が歩く あとから少女が歩いていく
弟 無邪気に安心しきって青年を見上げる 
青年 にっこり見下ろす 少女を振り返って笑みを向ける 
姉 ほほえみを返す 二人についてスペースシップに乗り込む 災害の前だが彼らに不安も予兆も一切ない

スペースシップ内部
快適なシート それぞれきちんとした身なりの人たちが座ったり荷物を整理している
青年ら 席を探し当てて 荷物を座席の上のボックスに仕舞いこむ 姉と弟は青年をはさんで並んで座る
シップ内にライトが点じられる 通路を搭乗員が点検しながら往来する ざわざわしていたあたりの人たちもすっかり席に座る

軌道エレベータ 管制室
いが最新鋭の設備の揃った一室 壁はガラス張り 向こうに空港がみえる 作業机が並ぶ 中央はタイタンの空を模した半球 そこに隕石などの往来を示す光が点滅する 中央にエレベータの軌道を示す線 半球は静な漆黒だがその線の付近に隕石の接近を示す光の明滅 隕石の信号 管制室の人たち ざわざわと集まってくる 確認する だがその明滅がふっと消え しばらくあらわれなくなる 目で確認し隕石はいつものことだと笑いあいみんな半球の前からすっかり離れる
誰も見なくなった漆黒の半球 間をおかずにまた赤と青が明滅する だんだん線に近づく

タイタン(気圏の外)
静止衛星 カーボンリール そこへ静かに飛来する隕石 ゆっくり確実にリールに近づく 今にも接触しようというとき 真空に響くはずのない時計の鐘の音が六回大きく鳴りひびく 

作業場(活版所)
大きな時計 六時の鐘をならす 
ジョバンニ はっとして立ち時計を見る すっかり汗がにじんでいる 額の汗をぬぐう 函をみつめると九割がたうまっている またしゃがみなおす しばらくまた拾ったり箱にいれたり手を動かす
ようやく立ち上がる 平たい函を紙きれと引き合せる

テーブル
ジョバンニ 係りの人の前に立ちその人が作業から顔をあげるのを待つ 
係りの人 最初気づかないが顔を上げる 
ジョバンニ 函と紙切れを差し出す
係り 丹念にながめ微かにうなずく
ジョバンニ おじぎをする 

通路 
扉をあけ ジョバンニが出て来る 戸棚の錠をひらいて眼鏡をしまう 鞄を取り出す

計算台 
白服を着た人 しきりに何か計算している ジョバンニが出て来るのを見ると引き出しをひらく 少年が机へ来るとだまって小さな銀貨を渡す
ジョバンニ さっと笑顔をかがやかせ 威勢よくおじぎをする

活版所入り口
ジョバンニが扉から出てあとはもう元気に走っていく

パン屋
ジョバンニ 元気よく口笛を吹きながら入る(星めぐりの唄)しばらくすると、パンの塊を一つと角砂糖の入った紙袋を抱えて出て来ると一目散に走り去る



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