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洋画部門

グランド・ブダペスト・ホテル

グランド・ブダペスト・ホテル

2014年6月11日鑑賞

贅沢「B級」テイストを当ホテルで

 

ウェス・アンダーソン監督は、劇場で映画を観慣れた映画ファンにとっては、ちょっと癖のある絵が、やけに気になる監督さんではあります。

僕は以前「ダージリン急行」を鑑賞したのみ。前作「ムーンライズ・キングダム」も気になっていたけど、見逃してしまった。

さて本作の舞台は、上品なヨーロッパ型のホテル。そのインテリアの質感や、色使い、心憎い上質な雰囲気が気に入れば、この映画を、もう半分以上楽しんだ様なものと言えます。

ストーリーは当初、登場人物が多くて、ぼんやり観てると、置いてけぼりを食ってしまいそうです。

「グランド・ブダペスト・ホテル」にやってきた一人の小説家。彼はこのホテルの常連客である、老人と出会います。その老人は、かつてこのホテルにベルボーイとして勤めていた人物でした。老人は後に、数奇な運命を辿り、このホテルのオーナーとなります。この老人が語る、グランド・ブダペスト・ホテルにまつわる殺人事件と、莫大な遺産相続。映画はこの老人の話を、小説家が聞き取ってゆく、と言う形で進行します。

この作品、監督の趣味と言うか、癖がよく出てますねぇ。例えばキャメラ。今、多くの監督が使う手持ちカメラは、一切使いませんね。それにスクリーンに映る映像を「美的」に作り込もう、構成しよう、とする姿勢が見えます。キャメラワークも、固定キャメラを90°パンして、人物の動きやストーリーの流れを表すショットが印象的です。色彩の鮮やかさ、カット割りの切れの良さ、ウェス・アンダーソン監督の映像センスは、やはり並の才能じゃない、ひとつ飛び抜けているなぁ、と思わせます。後半、ソリに載って雪山を突っ走るシーンがありますが、あえてチープな感じに仕上げてB級感を出してみたり、映画の中にさまざまな仕掛けを作りこむ、遊び心がありますね。

映画を作る側としては、もう現場が面白くてしょうがない。俳優達も楽しんで演技出来ているようです。それをストレートに作品に仕上げると、俗に言うB級作品独特の面白さになる訳です。

ただし、こういう作品を楽しめるのは、いろんな監督の映画を見慣れた映画マニアの場合。

えてして、こういう作品の場合、

「分かる人だけ分かればいい」という趣味の映画になりがちです。

あくまで僕個人の感想として「本作は万人受けする作品か?」と問われれば、やはりこたえは「ノー」と答えざるをえないんですね。

癖のある監督作品を楽しむには、鑑賞する側にも、それなりの「ストライクゾーンの広さ」が必要になるわけですね。

本作は「カネのかかった」メジャー作品でもあります。俳優陣もビル・マーレイ、ジェイド・ロウ、エイドリアン・ブロディ等など、そうそうたる面々。

マニアックな趣味と、興行成績を配慮した、一般受けする映画作り。その相反する部分を、どのように折り合いを付けてゆくのか?

本作はそのあたり、実に絶妙なバランス感覚で作られた作品と言えます。この作風が続けてゆけるのか?

ウェス・アンダーソン監督、これからが正念場とも言えますね。

 

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆

配役 ☆☆☆☆

演出 ☆☆☆☆

美術 ☆☆☆☆☆

音楽 ☆☆☆☆

総合評価 ☆☆☆

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作品データ

監督   ウェス・アンダーソン

主演   レイフ・ファインズ、F・マーレイ・エイブラハム

製作   2013年 イギリス、ドイツ

上映時間 100分

予告編映像はこちら

https://www.youtube.com/watch?v=xlgZQpYGnow

 

 


ノア 約束の舟

ノア 約束の舟

2014年6月20日鑑賞

箱舟を本当に必要とした者は?

 

 

苦悩する人物像を映画で描かせたら、おそらくダーレン・アロノフスキー監督の右に出る人はいないでしょう。「レスラー」では、家庭崩壊し、娘にはコケにされ、それでもまだ、リングに立ち続ける中年プロレスラーの悲哀を描ききりました。スーパーのアルバイトでポテトサラダを売る中年おやじの姿に、僕は心の中で泣きましたよ。

「ブラックスワン」では、バレエと言う芸術の奥深さ、罪深さを感じました。自分が演じる役に、真摯に取り組むバレリーナ。役にのめり込み過ぎ、遂には人格崩壊寸前まで追い込まれるその姿を、ナタリーポートマンが演じきりました。人間心理の奥底に釣り糸を垂らして、何が釣り上がるのか? 「醜悪」なものの中にキラリと光る「美」を見いだしたり、一見、無垢で純白で清楚な姿が、その背中を見せたとき、どす黒い鳥に変身する姿を描いてみたりする、アロノフスキー監督。そのひとが、遂に超大作を手がける。テーマはノアの方舟伝説。

一体どんな風に、アロノフスキー監督が、超大作を料理するのか?

いやが上にも期待は高まりますね。

いそいそと劇場へ。上映が始まりました。

なんと、ものの10分ほどで僕は爆睡状態。結局半分以上眠ってたかなぁ~。

神のお告げを聴いた主人公ノア(ラッセル・クロウ)彼はやがて来る大洪水から、地球上のあらゆる種の命を守るため「箱船」を作り始めます。ノアの妻や息子、養女、それに動物達を乗せた箱船。その箱船をうばおうと、ノアの宿敵が襲いかかって来るのでした……。と言う訳で、こういう作品、超大作大好きのリドリー・スコット監督あたりが手がけた方が良さそうに思うんですが。本作を半分寝ながら観る限り、アロノフスキー監督の持ち味は、ほぼ、一切と言っていいぐらい出し切れていません。

元ネタが神話、伝説のたぐい。おまけにアメリカ流の善悪ハッキリ主義の弊害などもありまして、八百万(やおよろず)の神様がいらっしゃる、という「あいまいな雰囲気」の中で育ってきた、日本人の僕としては、物語に全然、深みや味わいを感じないんですね。元々ノア自身、善悪をはっきりさせるキャラだったんですが、物語もラストに近づくと「愛」とか「情」とか言うものを知り、それを「善悪」より高い次元に置くべきだと思うように……。まあ、監督はそういう風に一応収拾を付けたいらしいのですね。

このお話はもしかすると、あの東日本大震災3:11をモチーフにしたのかも? と思わせるところがあります。

「原子の力さえ、手のひらの上で自在に操れるのだ」という人間の思い上がりへの警告だと、とれなくもない。

それならば、実際に被害に遭われた人々、命を奪われた人々は、最も立場の弱い人たちであった訳で。思い上がった「エラい人たち」は安全地帯にいて、誰一人被害に遭ってないわけです。

おまけに、こともあろうか「”欠陥”原子力湯沸かし器」を外国へ売りつけようと言うのだから、事実は映画なんかより、想像以上に、はるかに、はるかに、グロテスクなのです。

本作の中で描かれる、神の怒りに触れた?と思われる人間たちが、小さな虫けらのように大量殺戮されてゆくシーンは、監督としてどういう心境で描いたのでしょう?

本当に悪いヤツは箱舟なんか使う必要も無く、大洪水を高みの見物ぐらいに感じてるでしょう。

なんとも、疑問と不満ばかりがつのる、不完全燃焼な作品なのでありました。

 

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆

配役 ☆☆☆☆

演出 ☆☆☆

美術 ☆☆☆☆

音楽 ☆☆☆

総合評価 ☆☆☆

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作品データ

監督   ダーレン・アロノフスキー

主演   ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー

製作   2012年 アメリカ

上映時間 138分

予告編映像はこちら

https://www.youtube.com/watch?v=OU3vwBBYtZk

 

 


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