目次
登場人物
登場人物
【プロローグ】
プロローグ
【第一部 ナツミ】
【第一部 ナツミ】のあらすじ
第1章 郡上八幡
1 美人女将の観光案内
2 出会い
3 哀しい妄想
4 郡上おどりの夜
5 旅館の部屋で
6 告白
第2章 汐留と横浜
1 天使のカウンセリング
2 他人行儀
3 バケモノ退治
第3章 雄蛇ヶ池
1 テンシのいざない
2 別れ
3 愛にあふれる世界
【第二部 マヒル】
【第二部 マヒル】のあらすじ
第1章 麗宝学園
1 もうひとりの女(ひと)
2 あのときのように
3 下心
4 マンションの秘密
5 キス
6 恋人同士
第2章 心霊研究クラブ
1 女のまなざし
2 お姉ちゃん
3 開かずの間
第3章 幽霊マンション
1 会えてよかった
2 もうひとつの選択肢
【第三部 麗宝祭】
【第三部 麗宝祭】のあらすじ
第1章 殲滅
1 奇妙な使命感
2 胸騒ぎ
3 放課後のワナ
4 お見送り
第2章 餌食
1 さまよう少女の魂
2 アジトへ
3 決行前夜
第3章 降霊術
1 集ったものたち
2 叶えられた願い
3 魂の帰還
4 天使との再会
【エピローグ】
エピローグ
参考文献
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『天使の街〜ハルカ〜』のご案内
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6 告白

 朝、目が覚めると、ナツミの姿はすでになかった。ナツミの寝ていた布団は、部屋の隅にきちんと畳まれていた。私を起こさないように細心の注意を払ってくれたのだろう。その気遣いが心に沁みた。

 昨日のことは夢だとしか思えなかった。部屋に現れた天使。そして、ナツミとのキス……。

 朝食の時間になり、フユミさんが料理を運んできた。昨夜、夕食を持ってきてくれたのはナツミだったのに……。私があんなことをしてしまったから、顔を合わせづらいのかな……。ナツミは、もう私と会いたくないのかもしれない。

 お昼前には、旅館を発たなければならない。それは、ナツミとも別れることを意味する。

 ──そんなの嫌だ。

 私のなかで焦燥感が高まる。なんとかしないといけない。でも、どうすればいいの? 他人の気持ちを自由にできるはずはないのに……。

 

 

 玄関のところまでやってくると、イスに腰かけ、本を読んでいる人がいた。

 ナツミだ。ブックカバーの赤色が目に飛びこんでくる。

 ん? あの川にいた少女もおなじものを持っていなかったっけ? でも、いまはそんなことはどうでもいい。

 会いたかったはずなのに、動揺してしまう。話しかけていいのかな? ナツミは私が近づいているのに気づいているの? 気づいたら、去ってしまうの?

 無意識のうちに、歩幅を狭めていた。結果を先延ばしにしたいという欲求が働いた。

 ナツミが本から目を離した。私に気づいた? ナツミが私のほうを見る。

「おはよう」ナツミがあいさつをする。屈託のない笑顔。ぎこちなさは微塵も感じられない。少なくとも私との関係は壊れていないのだと思う。

「おはよう……」嬉しいはずなのに、沈んだ声になってしまった。

「今日も観光するんでしょ?」

「うん、そのつもりだけど……」

 楽しめそうもない。ここで旅館をあとにして、ナツミにさよならを言ってしまったら、そのあとは、ただ悶々としながら過ごすしかないのでは……。

「今日は、郡上八幡城に行こうよ」ナツミが笑顔のまま言った。

「え? 今日も案内してくれるの?」

「うん。無理にとは言わないけど……」

 どうする? ナツミと少しでも長くいられるのなら、こんな幸運はない。でも、それこそ重要な結論を先延ばしにするだけかもしれない。そのぶん、悲しみが深くなるだけなのでは……。

 返事ができず考えこんでいると、「じゃあ、待ってて」と言って、ナツミはどこかに消えてしまった。

「あ……」また孤独感がわきあがってきた。

 受付でフユミさんにお金を払いおわっても、ナツミはもどってこなかった。

 ナツミの座っていた場所に、赤いブックカバーがかけられた本が置きっぱなしになっていた。

 どんな本を読んでいるのか興味がわいた。でも、勝手に見るのはよくない。そんな良心よりも、好奇心のほうが勝った。

 一瞬の躊躇ののち、本を手にとった。

 

『テンシが貴女を愛の世界へ導く本 S・タカコ/著』

 

 本の表紙にはそう書かれていた。

 天使? ナツミはこの本に影響されて、あんな考えを持ってしまったの?

 だれかが小走りに近づいてくる音がしたので、あわてて本を元にもどした。

 

 

 旅館の玄関を出ると、空気が少しひんやりとした。さわやかな朝だった。

 フユミさんと大女将さんが見送りに出てきてくれた。私はお礼を言いながら、お辞儀をして、旅館をあとにした。ナツミという予定外のパートナーを伴いながら……。

 

 

 郡上八幡城をめざして、山道をのぼっていく。昨日、天使の祠まで行くのにとおった道だ。

 昨日は道中に会話はなかった。いまもひとことふたこと他愛もないことを話すだけで、言葉数は少ない。ふだんの運動不足と寝不足がたたったのか、ちょっと歩いただけでも息があがってしまったので、おしゃべりをする余裕がなかったのも事実。でも、ナツミとの間にまだわだかまりがあったのかもしれない……。

 天使のことを話題にする気はなかった。あまり愉快な会話にはならないという予感がある。

 昨晩のキスのことを謝ったほうがいいかな、と一瞬考える。「怒ってない」というナツミの言葉は、本心なのか、私を気遣ってくれたのか、それとも、気まずさを取りのぞくための方便なのか……。

 予想していたより早く郡上八幡城にたどりついた。

 ふたりで天守閣まで黙々とのぼった。ここから郡上八幡の街が一望できる。

「この街はね、魚の形をしてるんだよ」

「へ〜」さすがにこの高さから見ても、魚には見えない。でも、東西に横長に広がる街だということはよくわかった。

「あ、ごめん」ナツミがそう言うと、おもむろに〈電話〉を取り出した。バイブの振動する音が聞こえている。ナツミが画面に表示された発信者をたしかめる。

「ごめん。いい?」ナツミが申し訳なさそうにたずねる。

「うん……」私はうなずいた。

 ナツミとの会話をさえぎられたのが気にいらないわけじゃない。いま私の気が晴れないのは、ナツミの電話の相手がだれなのか、猛烈に知りたかったから。

「やだ、ダメ、仕事中だよ」

 ナツミの少し弾んだ声が聞こえる。楽しそう。ナツミの幸せそうな表情を見るのは悪い気がしないけど、同時に疎外感も覚える。

「ごめんね」ナツミが〈電話〉をしまいながら言う。通話時間は1分にも満たなかったはずだから、私に遠慮してくれたのはまちがいない。でも、「仕事中」という単語に引っかかった。

 ──たしかに正しいよね。ナツミにとってこれは仕事なんだから……。

 ナツミにわからないよう息を大きく吸いこんだ。

「ねえ、ナツミ、私と付きあってくれない?」私は前置きなしに切り出した。

「……」ナツミは私の顔をじっと見つめたまま、しばらく沈黙していた。

 私にとっては無限とも思える時間が流れた。

「……わたし、もう付きあっている人いるから……」

 うん、わかってた。そうだと思ってた。だから、ほんとうに付きあってもらえるとは思ってなかった。でも、そのことをちゃんとたしかめずに、東京に帰れなかったから。

「ありがとう」私は虚勢を張りながら言った。「きっぱり断ってくれて」

「わたしも、マヨのことは好き。美人だし、優しいし、こんな素敵な人はいないと思う。でも、ふたりの人と 同時に付きあうのは、どっちも傷つけることに──」

「いいよ、ナツミ。平気だから」私は明るさを装って言った。いや、心に巣くっていたモヤモヤがとれて、なぜかさわやかな風が私のなかに吹いていた。

「さ、行こう」私はナツミをうながした。

 

 

 列車が到着するまで、20分ほど時間があった。私たちは駅舎のイスに腰をおろした。

「これ……」ナツミがバッグからなにかを取り出した。あの天使の祠で見た、和紙でつくられた人形だった。

「これって……?」

「まだ〈テンシ〉の魂を封じこめていない人形。よかったら記念に……」

「ありがとう。大事にする」その人形をナツミだと思って……。

 列車を待つ人たちがホームのほうへ向かいはじめた。

「じゃあ、私行くね」立ちあがりながら、ナツミのほうを見ると、ナツミの目が潤んでいた。そして、一筋の涙が頬を伝う。

「ナツミ……」そうつぶやきかけたとき、ナツミが突然私に飛びついてきた。

唇が私の頬にあたる。

「さよなら……」耳元でそうささやくと、ナツミは駅舎を出ていってしまった。

 私はその場に呆然と立ち尽くしていた。

 列車の近づく音がする。その音で我に返る。

「おねえさん、早く! 出発しちゃうよ」駅員さんが私に声をかける。

「あ……すみません」

 ホームに出ると小豆色の2両編成の列車が止まっていた。

 走って乗車口に滑りこむ。車両の中央付近の席に座ると、列車が汽笛を鳴らし、動きだした。

 郡上八幡の街から徐々に離れていく。

 窓から見える木の緑や水の青は、私の目には白黒の映画を見ているようだった。

 ナツミにわたされた人形を取り出した。風景ではなく手元のそれをしばらく眺めていた。

 私の乗った長良川鉄道がゆっくりと、ゆっくりと走る。

 夢見がちな女を、じっくりと、日常の世界へと引きもどすために──。


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奥付

 

天使の街〜マヨ〜

2014年5月25日 1.0版 発行
 
著者
夜見野レイ
 
キャラクターデザイン・イラスト
ミナセ
 
校閲
鷗来堂
 
出版者
米田政行
 
発行所
ぎゃふん工房 
mail@gyahunkoubou.com
 
©2014 YAMINO Rei/GYAHUN Koubou
 
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