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放浪列車

(鉄道の伝説)

 

 

 

 ホルスコ駅を慌ただしい動きが支配していた。クリスマス前の、仕事が数日間休みになる、夢に見た時期だった。プラットフォームは乗降客でごった返していた。女たちの興奮した顔がちらちらし、帽子の色とりどりのリボンがうねり、旅行用ショールがまだらを成していた。こちらでは洗練された紳士の細身のシルクハットが人混みを押し分け、あちらでは司祭の平服が黒々としていた。そちらのアーケードの下では群衆越しに軍人たちの革製上衣<コレット>が青ずんで見え、その横では労働者たちの作業着が灰色に見えていた。

 豊かな生命が沸きたち、駅の狭過ぎる枠には収まりきらず、音を立ててその縁の外にあふれ出していた。混沌とした乗客らの声、ポーターの呼び声、甲高い警笛、噴き出す蒸気の音が溶け合い、めくるめくシンフォニーになると、その中でみずからは失われ、小さくなり、耳が聞こえなくなった我を、強大な自然力の波にゆだねた。持ち上げ、揺り動かし、意識を失わせてくれるように……。

 駅員たちは集中的に働いていた。ひっきりなしに喧騒の中そこここに運行管理員の赤い制帽が突き出ては指示を出し、線路から不注意な人をどけ、発車時の列車に鋭く注意深い目を配る。車掌らは休みなく動き回り、神経質な足取りで車両の長い列を走り抜ける。

信号手たち—駅のパイロット—は短く、警笛のように円滑な指示—離陸の合図—を実行していた。すべてがきびきびとした分秒刻みのテンポで進み、全員の目が反射的に上の方にある時計の二つの白い盤面で時間を確かめていた。

 にもかかわらず落ち着いた見物人ならば、脇に立って少し観察すれば、上辺の秩序とは相反する印象を覚えるだろう。

 あたかも何かが、規則や伝統で標準化された活動経過に忍び込んだかのようだった。何か得体のしれない、とはいえ重大な障害が、通常の規則正しい動きの前に立ちはだかっていた。

 それは人々の並はずれて神経質な仕種や、落ち着きのない目の動き、何かを待っている顔の表情でわかった。これまで申し分なかった躰のなかで何かが壊れたのだ。何か不健康で恐ろしい流れが百回分岐する動脈を循環し、半分無意識の閃光のなか、表面にしみ出した。

 鉄道員らの熱意は、優れた機構にこっそり入り込んだ密かな困惑に打ち克とうとする明らかな欲求を特徴づけていた。いらだたしい悪夢を直ちに窒息させ、自動性を夢見る仕事の秩序を保ち、骨は折れるがしかし安全な機能バランスを保つために、だれもが二倍三倍の努力をした。


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奥付

 

放浪列車

(鉄道の伝説)


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著者:ステファン・グラビンスキ
訳者・表紙写真&デザイン:芝田文乃
訳者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/ayanos-pl/profile

表紙写真:リヴィウ駅

2006年にウクライナのリヴィウ駅で撮影した写真を加工しました。

折衷様式のリヴィウ駅舎は20世紀初頭の貴重な歴史的建築物。

駅構内ホールのアーチ型屋根や手すりにも当時の面影が残ります。

 

 

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