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(四)

 ミスティンキルとウィムリーフ、そして“自由なる者”イーツシュレウは、空をさらに昇った。
 この空にある尋常ならざる澱んだ空間に、吸い込まれやしないかと懸念したものの、目前にある不可思議な物体に対する好奇心の方が勝った。

 無色透明な立方体の平面は鏡面のようになめらかで歪みひとつ無い。まるでフィレイクあたりの老練の硝子職人が、長い歳月を投じて仕上げたかのような出来映えだ。その立方体の周囲をイーツシュレウがふわふわと浮遊し、ミスティンキルとウィムリーフは、立方体を間に挟んで対峙する格好となった。
 ミスティンキルが恐る恐る上空を見上げると、もとから存在しなかったかのように、あの異質な空間はいつの間にか跡形もなく消え去っていた。
 そうして、いよいよ彼らは、澄み切った立方体の中核部を見据える。

 この物体の中心から真っ先に目に飛び込んでくるのは――深紅、金、褐色という色のイメージだった。彩度の異なるこの三色は、二人の網膜に強く焼き付いた。目を閉じても残像として残るほどに、鮮明に。

 まず、深紅。
 ユクツェルノイレがまとっているローブの色。
 深い赤一色に染め上げられた魔導師のローブは、ドゥロームの正装――炎を象った意匠が前面部に縫い込まれている赤い長衣――に似ているようでいて実はそうではない。ドゥロームの正装とは違い、あの深紅の衣には刺繍や意匠がいっさい施されていないのだ。唯一きらりと光るものがあるのを除けば。
 月の光を受けて銀色に煌めく“それ”は、小さな紋章だった。両襟《りょうえり》すその周囲に小石ほどの大きさの紋章が十三個ずつ取り巻き、そして右胸部にこぶし大のものが一つ縫われている。合わせて二十七個。見たこともない奇妙きわまりない文字が、それぞれの紋章の中心に据えられ、その周りを細微な螺旋文様の紋章が編み紡がれているのだった。
 装束の色と紋章の数が示す事柄はただ一つ。つまり、この横たわる男は、かつての魔導学の全盛期において最高位の魔導師であった、という証だ。

 そして、金色。
 夕暮れ時の茜さす空と同色に染まった大地の中にあって、黄金に波打つ麦穂を想起させる――そのような色。
 この魔導師がアリューザ・ガルドにいた時分は、その長い金髪が深紅のローブによってさらに際だって美しく映えていたことだろう。
 だが今や髪はくすみ、ほつれてしまっており、黄金色が本来持ちうる美しさを台無しにしてしまっている。加えてところどころに白髪が見え隠れしている。
 これらは彼の老いの兆しを示すものではない。彼や他の魔導師達が、魔導をこの地に封じるに至るまでの間に経験したであろう辛苦の数々を刻むものなのだ。

 魔法が全盛の時代だったというのに、それまで長年まで研究してきた魔導学の膨大な知識をすべて禁じてしまうことについて、時の権力階級層の人間達や、魔法貴族達からの反発はさぞや大きいものであっただろう。それまでの自分達が権力のよりどころにしていた“力”そのものを使えなくしてしまうというのだから。結果として当時の魔術師達の主張が受け入れられ、『魔導の公使は危険である』として魔導を行使するすべは封印された。
 これまでのミスティンキルとウィムリーフには、“陰謀”という名を持つ人間の暗い側面によってどれほどの無垢な血が流されていったか、どれほどの苦痛に耐え忍んだのか――人間の歴史が遺した傷というものに対しておよそ想像もつかなかったし思考すらもしなかった。でも、今は痛みの一片を切実に感じ取ることが出来る。この魔導師の白髪のほんの一房からすらも。

 褐色。
 それはユクツェルノイレの肌の色。
 ミスティンキルの日焼けした肌に比べると、若干明るい色をしているようだが、まるで死人の肌のような冷たさをも感じる。
 彼が金髪であることと併せて察するに、この大いなる魔導師は、バイラルの氏族の中でもラクーマットびとに属するのだろう。金髪と、青もしくは緑の瞳を持つ褐色人。ミスティンキルが西方大陸《エヴェルク》を旅していた時分、ファグディワイス王国の領土内でとくによく見かけた氏族だ。
 ファグディワイスは、ミスティンキルの故郷ラディキア群島と国家規模での交易が盛んである。たとえバイラル以外の種族、龍人(ドゥローム)であっても他のバイラルと同様に、旅先の人々は迎え入れてくれたのをミスティンキルは思い出す。当時、全ての物事に対して斜に構えていた自分でさえも受け入れてくれたのだ。

 ユクツェルノイレは、立方体の中で仰向けの姿勢を崩さず、微動だにせず横たわる。八百年弱という期間、彼はずっとそのままの姿勢で留まっていたのだ。
 無精ひげともいえる短いあごひげを蓄えた彼のかんばせからは、表情というものが消え去っており、まるで深い眠りに引き込まれて戻れなくなってしまったかのように、彼の両の目は固く閉じられている。
 魔導師の齢はバイラルにして三十半ば、といったところであろうか。短命なバイラル族の社会にあっては、世代の中心的存在となって人々の生活を支える、そんな年齢といえる。
 だがユクツェルノイレにとって、“社会”という認識、“時間”という概念は、もはやなんの意味をもなさないものなのだろう。おそらくは魔導が封印されてからこのかた、八百年弱もの長きに渡り、ユクツェルノイレは他の世界から完全に隔絶されていたのだから。魔力を制御するという重責をたったひとりで背負い込み、時折語りかけてくるのはイーツシュレウの声だけ。ユクツェルノイレひとりが存在する孤立した世界では、何事も移ろうことも、起こることもありえず……ただただ長大な歳月のみが緩慢に過ぎ去っていったのだ。
 八百年! なんと気の遠くなる歳月であろうか。


◆◆◆◆


 小さなディトゥア神は、あぐらをかいた姿勢のままふわふわと飛び回り、ミスティンキルのところまでやって来た。
「久しいなあ、ユクト。そちらはどう? 変わりはないか?」
 彼はそう言って立方体の表面を軽く二回ノックした。さも嬉しそうな表情を浮かべながら友人の姿を見やっている。
 こうして端から見ると、大きな薄墨色の瞳を輝かせているこの神の仕草は、ひとりの純朴な少年のそれと全く変わらない。ミスティンキルはまた、ぽん、と彼の頭をはたいたが、今度はにらまれることはなかった。
――「……相も変わらず。特に変わりませんよ、イーツシュレウ。私の“存在”という定義そのものが変化したということ以外はね。……あなたが見ている肉体には、すでに私の精神は宿っておりません。あれは半ば死んでいると言っても差し支えないでしょう。魔導を封じたあの最後の時から、バイラルにとってはあまりに長すぎる時を経て、この核の中でいつしか私の精神は肉体から離れゆき……この“封印核”そのものと一体となったのです。今の私は“封印核”に宿った“意識”そのものに他ならないと考えていただきたい」――
 太く毅然とした男の声が、立方体の全方位から響く。その声は先ほどまで、重厚な蓋越しに聞いていたくぐもった声と違い、まったく鮮明なものとなっていた。声そのものからは、魔導師が持つ生来の気品が伝わってくる。
 
 そして“封印核”――誰がそう名付けたのか、もはや定かではないが、その立方体の中には人の手では制御しきれないものが封じられている。
 すなわち、当時の魔導師達が費やした労力と蓄えた知恵、そして増大させた魔力。
 それらが無数の小さなしゃぼん玉の中と、封印核の中に充満している空気に、全て凝縮されているのだ。
 たとえミスティンキル本人の意識下では気が付かなくとも、また言葉では表現できずとも、その圧倒的な様に対して、赤目を持つ炎の司の冴えきった感覚は戦慄に震えていたのだ。

「ユクツェルノイレ――そう! 昔……なんかの本で見たことがあるわ、その名前」
 ウィムリーフが額に指をあてて思い出そうとしながら言った。彼女は相変わらず、ミスティンキルから“封印核”をとおして真向かいにいる。
「ええと、たしか……“魔導の暴走”を食い止めるために、魔導師たちの筆頭に立っていた大魔導師だったはず。……それで、そのあと“宵闇の公子”レオズスがアリューザ・ガルドに君臨したときにいつの間にか行方不明になったとか……」
――「君の明瞭な記憶のとおりだよ、翼の民の娘。まさに私のことだ」

 そこでミスティンキルが言葉を挟んだ。
「ちょっと待ってくれ。……それじゃあ、『暁の来復をもたらした者達の勲《いさおし》』に唄われてる、ええと……
  『……デルネアはかの剣を見いだし“澱み《よどみ》”より還り来たるも、“まったき聖数を刻む導師”デイムヴィンは遂に戻ることあたわず……』
 というようにある、その“デイムヴィン”ってのが、あんたのことなんだな?」
 ミスティンキルは両手と顔を立方体の表面にぴたりと押しつけ、ほんの数ラク先に横たわる魔導師の肉体に問いかけた。
 そしてユクツェルノイレは肯定した。
――「そう。私のことだよ。ユクツェルノイレ・セーマ・デイムヴィン。これが私の真名」――
 そう発せられる言葉と共に、立方体の表面が振動するのがミスティンキルには分かる。

 『暁の来復をもたらした者達の勲』には三人の人間の名が高らかに謡われている。つまり、“竜殺しの”デルネア、“預幻師”クシュンラーナ、そして、森の民エシアルル族でありながらも、卓越した才能と魔力を有する“礎の操者”ウェインディル。
 レオズスを打ち破った三者を讃える勲の中にあって、ほんの数節のみ触れられている名前が“デイムヴィン”である。“まったき聖数を刻む導師”とも呼ばれた彼は、ウェインディルの師であり友であったのだ。
――「私は魔導学の隆盛と暴走、さらにはレオズスの脅威を目の当たりにしてきた。そして魔導学の終焉と……さらに加えて言うならば、時を超えた今この時、まさに起ころうとしている魔導の復活をも……か」――
――「……そう。私の人生は、つねに魔導とともにあった。帳を降ろすこの時に至るまで、な……」――
 大魔導師は感傷的に言った。そして言葉をさらに紡ぐ。
――「もはや限られた時間しかないが、レオズスが出現してから今までに、私が経験した出来事について語らせて欲しい。いや……継承する者には是非とも聞いてもらいたいのだ」――


◆◆◆◆


 こうしてユクツェルノイレは、自らの体験を語り始めた。
――「“宵闇の公子”レオズス。彼は“混沌”に魅入られて己を失った、忌まわしくも哀しいディトゥア神だった。レオズスがアリューザ・ガルドに驚異をもたらす存在となり果ててしまったゆえに、人間達は彼を打ち倒すしかなかった。だが、一介の人間ごときが――たとえ魔導師であっても、神に対抗できる技などを身につけているはずもない。アズニール王朝生え抜きの精鋭騎士団ですらレオズスに軽くあしらわれ、彼の操る恐るべき“混沌”の欠片によって抹消されたのだ」――
――「我々四名は密かに古い文献を読みあさり、ついに神を倒す手段を見つけた。唯一レオズスを倒しうるという剣を見いだすために、私と剣士デルネアは“閉塞されし澱み”という禍々しい世界に入り込んだのだ。あの世界はとてつもなく強力な力場によって支配されていた。暗黒とひどい臭気と重苦しい空気が常に我々を苛んだ。そして、いくつものおぞましい情景、狂気とも言える超常の空間や、身の毛もよだつような異形の生き物達を常に目にしつつ、それでも正気をなんとか保ちつつ、為すべきことを為すために突き進んでいった。……が、あろう事か私は遂にその空間の異常性に魅せられ、精神が保てなくなってしまった……。しかも我が友をも狂気に巻き込もうとたくらんだが、勇敢なデルネアはそれを拒んだ」――

 ユクツェルノイレの声がやや震えてきている。それは悲しみという感情のあらわれに他ならない。何とか押し隠そうとしているのが痛切に伝わってくる。
――「こともあろうか、デルネアと私は正面きって戦うことになってしまった! これは悲劇としか言いようがない!」――
――「痛ましい戦いの果てにデルネアが勝った。……その後、デルネアが“名もなき剣”を手に入れアリューザ・ガルドに帰還し、ついに三人によってレオズスが倒されたということ。そしてその後の彼らの顛末については、そこにいる我が小さな友人――イーツシュレウから聞き及んでいる。……我ら四者は皆、大きな悲しみを受けるようにと宿命づけられていたのだろうか……? それとも人智を越えた何かを得るためには、それ相当の代償が必要だというのか……?」――
 封印の核全体を振動させ、魔導師の声が響いた。音の余韻がひどく哀しげに聞こえ、耳に残った。

 しばし経ってユクツェルノイレは、その後の自身のことについて語った。
――「私はデルネアと違い、戻ることが叶わなかった。……いや、狂人と成り果てた私は、もとの世界へ戻ることを拒んだのだ。澱みの空間にある超常的な力に魅入られ、それら全てを我が手にしたいという欲望に駆られてしまったために……。デルネアと刃を交えた後の記憶は定かではないが、しばらくして私はようやく自身を取り戻した。が、もはや時はすでに遅かった。……私は自分自身に呪詛を吐いた。取り返しのつかないことをしてしまったのだから」――
――「かつての自分を完全に取り戻すために、そしてアリューザ・ガルドへ帰還するために、私は澱みの空間から何とか抜け出し、何年もの間に渡って諸次元をさまよい歩いた。……ある世界では人々は私を神のごとく畏れ敬い、またあるところでは異端者として蔑み嫌われ、独房に繋がれたこともあった。なぜか私は老いることがなくなっていた。まるで千年を生きるエシアルル達のように、三十半ばの姿のままであり続けたのだ。」――
――「アリューザ・ガルドへ帰還してみれば、すでに五年の月日が流れていた。レオズスは倒されたもののアズニール王朝は崩壊し、諸勢力が勃興していた。アリューザ・ガルド全土に戦乱の嵐が吹き荒れていたのだ。私は、デルネア達三人に会おうと願ったが、混乱に包まれた世界の情勢によって拒まれた。乱世にあっては、たとえ山一つ越えることですら命を賭する必要があったのだ。結局彼らには会えずじまいだった。そして、私には私なりに魔導師の長たる者として、やらなければならないことがあった。つまり、魔導のすべをいずこかへ封印することだ」――

 ユクツェルノイレはさらに、自分たち魔導師が直面した受難の数々を語り続けた。だが、ついに月の世界に赴き、魔導を封印する儀式を執り行うことが出来たのだ。月に行った魔導師達の人数は十名たらず。そして封印に際しては彼らの魂そのものを奉じるしかなかったのだ。彼らの命と引き替えに、あの空間が形成され、また封印核が出来上がったのだった。そしてもっとも魔力を有していたユクツェルノイレが、封印核の中心に入り、封印を守り続けてきたのだ。
 その封印が時を経た今、ミスティンキル達によって解放されようとしている。
 魔導の復活。それは、アリューザ・ガルドにおいて新しい時代を招来するものなのだろうか?


◆◆◆◆


――「さて……魔導の封印を解く前に、再び見てほしい。あの姿を」――
 ユクツェルノイレの声は、アリューザ・ガルドの姿を見るように、とミスティンキルとウィムリーフに促した。
 それは真珠の塔の頂から見ることのできる、アリューザ・ガルドの全貌であった。頂上が平らとなった逆さつららのようにも見えるあの世界は、相も変わらず色あせた様を見せている。
――「魔力を開放すれば、アリューザ・ガルドの色は元に戻る。だが、開放した魔力を制御するべき者が必要だ。私はその任を……君達二人に託したい」――
 魔導師の声は朗々と響いた。
「……おれたちが?! その、つまり……魔法使いになれっていうのか?!」
 ユクツェルノイレの言葉にミスティンキルは困惑した。
炎の司の試練と、さらに龍化の資格を得る事に対しては、彼なりに覚悟は決めてアリューザ・ガルドから転移した。龍王イリリエンによって魔導が今回の件の発端だと聞かされたときは、心のどこかでまだ見ぬ魔導に対する憧憬の念、自分の力にしたいというかすかな欲望はあった。だが、事ここにおいて、まさか本当に自分が魔法使いになろうとは、思いもよらなかったのだ。封じられた魔力を開放して世界に色がよみがえりさえすれば、そこで自分達の使命は終わるものとばかり思っていた。使命を下した龍王イリリエンは知っていたのだろうか? 赤い魔力をうちに秘めた自分が魔導の継承者になるということを。

「じゃあ、ユクツェルノイレさん。もしあたしたちが継承を拒んだら、どうなさるつもりなのですか?」
 ウィムリーフが問いかけた。
 ややあって声が響く。
――「私の個人的な思いとしては、魔導の継承は君達にこそ委ねたいのだ。現世《うつしよ》において、君達ほどの魔力を備えた者など居ない。……ウェインディルはアリューザ・ガルドに戻っているようだが、もはやかつての力を失って老いており、また彼の弟子もまだ本来の資質を発揮するには至っていない。……だが、もし君達が魔導の継承を拒んでもそれはそれで構わない。ウェインディルと彼の弟子にその任を委ねたいと思う。魔力に乏しい彼らにとってやや重責やもしれないが」――
――「しかし、少なくとも魔導の解放と色の復活については君達の力が必要だ。元々君らはそれを果たすために、ここ月の界へ来たのだろうから」――

 しばし間をおいてミスティンキルは言った。
「けれども、だ。……面白そうでもあるな。魔導、か!」
 彼の赤目がきらりと光る。“力”をどん欲に求める生来の気質が再びちろりと炎をあげたのだ。
「炎の司であること以外に取り立てて特技のない、一介の漁師のおれが大魔法使いになれるってのか? しかも、そこらでやっている、見せ物のようなちんけな“まじない”じゃない。本物の魔法を使いこなせるっていうのか? 一体どうすればいい? 俺は文字がろくに読めないし、もちろん魔法の呪文のうちのひとつだって知らない」
――「アリューザ・ガルドでウェインディルを見いだせ。彼らの住まいはあえて私からは言わない。……魔導に関しては彼だけが大いなる導き手となるだろう。だが心せよ! 彼と会うまでは決して……決して自身の多大な力に酔いしれるでない。膨大な力は諸刃の剣であるというのが世の常なのだからな」――
 それは、エツェントゥー老から、そして龍王イリリエンから何度と無く聞いた、多大な力に対しての心構え。ミスティンキルとウィムリーフは共にうなずき、聞き入れた。

 そしていよいよ大魔導師は宣告した。
――「もういいだろう。私はもはや語るべきことを全て語った。……魔導を解放することにしよう。君達の有する魔力を全て解き放ち、この“封印核”を打ち砕くのだ!」




(五)

 ――全魔力をもってして“封印核”を打ち砕け――
 そのユクツェルノイレの言葉を聞いて、すぐにウィムリーフが言葉を返した。
「わかりました。でも、それでいいんでしょうか? 他に方法は……ないんですか?」
 ウィムリーフが躊躇している理由。それはミスティンキルにも分かった。ユクツェルノイレの意識は“封印核”と同一化している。という事は、この目の前にある立方体を粉々にしてしまえば、大魔導師の肉体はおそらく失われてしまうだろう。そうなった時、彼の意識は――魂はどうなってしまうのか。それは一つしか考えられない。ミスティンキルは、“封印核”全体を見やるようにして訊いた。
「そうだ。ウィムの言うとおりだ。ぶっ壊しちまう? ……そんなことをしたらあんたの体はどうなる? 今、おれたちとしゃべっているのがあんたの意識だとしたら、それはどこに行ってしまうんだ?」

――「あれにある私の肉体は失われるだろう。そして、私の意識の向かう先はただひとつ」――
 ユクツェルノイレは答えた。
――「死者の世界、“幽想の界(サダノス)”」――
 ユクツェルノイレの声は妙に穏やかだった。自分が死に至ることがあたかも宿命であることを、むしろ望んで享受するかのように聞こえる。
――「あの身体に再び魂を宿らせることが出来ないものか、私とて考えなかったわけではない。……だが結局のところ方法はただ一つしかなかったのだ。……君達はアリューザ・ガルドの色を取り戻すためにここまでやって来たのだろう? だとすればためらう理由は何もない。君達の魔力を開放してくれ。私も核の内部から同調する」――
「でも……!」
 ウィムリーフの言葉を制止するかのように、封印核はぼうっと赤い輝きを帯びた。
――「気遣ってくれてありがとう。だが私の命数はすでに尽きているべきものなのだ。……今の私は摂理に反した存在。『奇っ怪な運命』とやらに翻弄されたまま生きながらえているにすぎない。バイラルは君達長命種と違い、百の齢を迎えられることなどほぼあり得ない。たいていはその前に老衰して死に至るものなのだ。もし君達がほんとうに私のことを考えてくれているというのならば、なおのこと――魔力全てをぶつけるのだ。その時となってようやく呪縛から解放され、私は穏やかに“幽想の界(サダノス)”に赴けるというものだから」――
 地上に生きる者として当然しかるべくして訪れるのが死。だが今までの彼には死ぬことが許されなかった。魔導の封印を守るという使命を担っていたから。しかし魔導を解放するとき初めて、彼は全てのしがらみから解き放たれる。そう。死こそがユクツェルノイレの望む全てであった。

「……魔導の封印が解けたら、イーツシュレウはここから去る。もともとはイシールキア(ディトゥア神族の長)から、魔導の封印を見守る旨を受けて、もう長いこと月にいたのだからな。その必要が無くなったら……これからは“自由なる者”として、各地をぶらぶらと渡り歩こうと思う」
 イーツシュレウは淡々と言ったあと、目を伏せた。神にも人間に対する情というものはあるのだ。今の彼は懸命に悲しみを抑え込もうとしているように、ミスティンキルには見えた。
「いずれはこうなることになるものと予想は出来ていたから、だからユクト……長きに渡る辛苦を乗り越えたのだから、その分も含めて“幽想の界(サダノス)”で安らかに過ごしてしかるべきだ。イーツシュレウは君に幸あれと願う。そなたは良き友であった」
 感情を押し殺したまま、イーツシュレウは語った。

――「ありがとう。イーツシュレウ。……そして人よ。魔導のことをよろしく頼む。この後、忌むべき事が起きぬよう、再び封印が為されないよう――魔法が常に人にとって良き存在たらんことを願う」――
――「では、魔力を解放するのだ。二人とも目を閉じて……呼吸を大きく繰り返し……そうだ。他のことは何も考えなくていい。自分の深層に存在している力を体外へと出すように、想像するのだ」――
 ユクツェルノイレの言葉どおり、二人は目を閉じて意識を集中させた。今もミスティンキルの身体全体を赤い魔力の膜が取り囲んでいるが、それが徐々に大きく強く膨張していくのが感じとれる。
――「いいぞ。そのまま力を強めていって……私が“開封のことば”を唱えよう。……<アーディ>!」――
 そして――。
 それがユクツェルノイレの最期の言葉となった。


◆◆◆◆


 ミスティンキルは目を閉じる。心の中を無にして、ゆっくり、天上を仰ぐ姿勢をとる。
 まぶたに映るのは暗黒ではなく、月の光のイメージだ。白銀が白々と映えていた。
 やがて網膜に、自分の魔力――まったき赤がぼんやりと浮かび上がり、じわじわと白銀を打ち消してゆく。
(魔力よ……おれの力……。おもてに出てこい……)
 仰いだままの姿勢で大きく呼吸をひとつ、ふたつ。……みっつ。
 まぶたの裏側に映る赤は徐々に鮮明に色を写しだし、同時にミスティンキルの心をも高揚させていく。ミスティンキル自身も、自分を取り囲む赤い魔力がさらに力を増しているのが分かった。
 おもむろに両手を水平にかざす。掌から魔力を放出させるような情景をミスティンキルは頭の中で描いた。

 そして――
……<アーディ!>
 ユクツェルノイレによって“開封のことば”が放たれると共に、ミスティンキルは仰いでいたこうべを戻し、かっと両の目を見開く。深紅の両目は今や、ぎらぎらと輝いていた。
「出ろ!」
 ミスティンキルがそう叫ぶと同時に、彼の身体に絡まっていた赤い魔力の薄絹は霧散し、瞬時に両の手に集まる。さらに、彼自身の内部に存在する膨大な力もまた、掌の一点に集まった。
 龍《ドゥール・サウベレーン》の放つ業火のように、両の手から勢いよく赤い魔力が放たれ、“封印核”の半分を覆い包む。彼の想いによって肥大した赤い力は、炎のような象形となった。それは、ミスティンキルが炎の司であるためだろう。火が氷を溶かすように、赤の魔力によって徐々に立方体の表面が溶けていく。

 その反対側で、ウィムリーフもまた魔力を解き放っていた。彼女は両手をぴたりと“封印核”の表面に押し当て、青い魔力を放出させる。彼女の掌を中心として、風にたなびく水のように波紋が幾重にも広がり、立方体を崩していく。
 双方の魔力が重なる部分では、赤と青が螺旋状に絡み合い、核の外周に見事な円環を形成させた。

 黒い翼の持ち主が真っ赤な魔力を“封印核”に叩きつけ、その反対側では白い羽根の持ち主によって青い魔力が放たれ、“封印核”を振動させている。各々の髪の色、つまり黒と銀は、魔力を発動した本人の色を受けて、妖しくも華麗に色づく。
 そして彼らの魔力がぶつかり、融合する中心部では縦の輪が創られ、有機的にうごめきながら廻り、同時に赤・青・紫と色を変化させながら煌めいている。
 この時、月に住む様々な種類の精霊達は、真珠の塔を覆い尽くす鮮やかな色を見て、一様にこう思ったに違いない。
 ――美しい――と。

 “自由なる者”イーツシュレウもまた、同様に感じ入っていた。だが、惚けてばかりもいられない。彼自身はこの儀式そのものに干渉することは出来ないが、もし悪しき力が芽生えた場合はそれを断ち切るよう、心構えをしていた。また同時に、月からアリューザ・ガルドへ繋がる“次元の門”を招来しようとしていた。

 やがて、ぴしり、という音と共に、“封印核”の表面の至るところに亀裂が走った。
 その様はまるで、湖上に張られた分厚い氷が強大な力を受けて割れていくよう。がらがらという大きな音が立方体から響くたびに亀裂は広まっていく。もう少しの時間で“封印核”が割れるのは確実であると思われた。

 だが、いくらミスティンキルが膨大な魔力を有するといっても、人間である以上、体内にある魔力は無尽蔵ではない。ミスティンキルは、自身から放出されている魔力がそろそろ枯渇しそうなことが感じ取れた。
 ウィムリーフもまた同様。彼女はすでに魔力を出し絞ってしまったのだろうか、それまで彼女を覆っていた青い魔力の膜すら消え去ってしまっていた。普通の人間であれば――また並の術使いであってすら、いつ倒れてしまってもおかしくない状態なのだろうが、冒険家を名乗る彼女の強い意志がウィムリーフの身体を何とか支えていた。肩で荒く息をしながらも、そのまなざしは相変わらず真摯だった。
「……だいじょうぶよ。ミスト」
 彼女の言葉を聞いて安心したミスティンキルは、これが最後とばかりに体内に残存しているだろう魔力を全て解き放つよう、自分の中で思い描いた。
「……よし。行けぇ!」
 かけ声と共に、紅蓮の魔力が“封印核”の中心に向けて放たれた。

 ミスティンキルの魔力が“封印核”に触れると同時に、内部にあるユクツェルノイレの身体からも大魔導師が有する魔力が放射状にほとばしった。ユクツェルノイレの持つ赤い魔力が立方体内部の壁にぶち当たると、それらはいくつもの奇妙な文字と化していくのであった。
 “呪紋”。
 魔法をかじったことのある者であれば、その名前くらいは聞いたことがあるだろう。かつての魔導師達が用いていたそのすべは、魔力をさらに増幅させ、術の効果を最大限に発揮させるものだ。
 外から受ける魔力と、内側から放たれた呪紋。その二つの衝撃によって、ついに“封印核”は砕け散った。

 そして“封印核”内部にあった無数のしゃぼん玉は、はかなくも次々と割れゆき――その内に封じ込められていた膨大な魔力がいよいよ外に放たれようとしていた。


◆◆◆◆


 魔力のこもったしゃぼん玉は、ひとつ割れるたびに轟音を放ち、周囲の空気をも震わせる。解き放たれた魔力の大きさは圧倒的なものであった。小さな玉に凝縮されていた魔力は爆発と共に膨張し、ミスティンキル達に襲いかかるのであった。
 ミスティンキルら三人はその衝撃のたびに何とか堪え忍ぶのだが、内包していた魔力をすでに完全に失ったユクツェルノイレはそうではなかった。真紅のローブは千切れ、彼の肉体は、やわな石膏のようにぼろぼろと崩れ去っていった。だが、不思議と“悲しい”という感情は芽生えなかった。

 なおも迫りくる強力な魔力に抗おうと、ミスティンキルは腕を胸の前で十字に構え、守りの姿勢をとった。衝撃のいくらかはしのげるものの、それでも彼に向かってくる力の量は絶大なものであった。
 しゃぼん玉が割れて、轟音と共に色の帯が出現する。ひとつ、またひとつと……。

 そのうちにミスティンキルは、自分の身体に何かが起こっているのを知った。先ほど放出しきってしまい全く失われたはずの魔力が、今や再び自身の体内にみなぎっているのを感じる。それは、解放された色の帯――魔力の本質が、彼に与えたものだった。
 数々の色の帯が彼に与えたのはそれだけではない。いつしかミスティンキルは、今まで聞いたこともないような言語が大量に自分の体内に入り込み、頭から足の先に至るまで、ぐるぐると循環するのを感じていた。ミスティンキルには解することが出来ない言葉であったが、おそらくは太古に存在した“力”を持つ言語のうちのいずれかなのだろう。
 ミスティンキルは抗うのを止め、魔力の渦に流されるままになろうと決意した。すると魔力を帯びた色達は一斉にミスティンキルの周囲を取り囲み、彼にさらなる膨大な情報をもたらす。それは、魔導を扱うすべであり、呪文であった。並の人間であればその情報量のあまりの多さに仰天して卒倒したか、はたまた衝撃に耐えきれず、心身を破壊されて死んでしまったかもしれないが、魔法使いとして卓越した素質を生来持っているミスティンキルは、それら全てをあるがままに飲み込んだ。
(入ってくる……これが魔導、というやつか。分かるぞ、こいつは……この力はすごいもんだ!)

 多彩に組み合わされゆく魔力の帯に取り囲まれ、ミスティンキルの視界からはウィムリーフやイーツシュレウの姿が見えなくなってしまっていた。二人が無事であることは感覚的に掴み取れる。だが、唯一失われたものがあるのを知った。
 つまり、ユクツェルノイレはすでにここにはいないということ。彼の気配は失われ、おそらくは“幽想の界(サダノス)”へと旅立っていったのだろう。

 ミスティンキルの意識が次第にぼやけていく。彼の中を突きぬけた様々な色の帯は、そのまま真っ直ぐにアリューザ・ガルドへと向かっていった。幾重にも渡る色の帯がこうして解放されゆくことで、“原始の色”の流れは本来あるべき姿に戻るのだ。そして森羅万象あらゆるものが、今までどおりの色に彩られることだろう。
 アリューザ・ガルドに色が戻る。
 ミスティンキルは確かな達成感を味わいつつ、意識を失っていくのだった。

気が付けば煌々と照る月を見ていた。

 時は深夜。
 おそらく、ずっと前から天上を見上げていたのだろう。ようやく我に返ったミスティンキルは仰向けになったまま、ほうっと息をついた。真っ白な吐息が立ち上り、そしてはかなく消える。
(……帰ってきた、のか?)
 ミスティンキルはがばりと跳ね起きると両の目をこすり、周囲の景色を見た。夜目を利かせると、二本の柱がそばに立っているのが薄ぼんやりと見えるが、ここは以前自分達が炎の界に赴いた場所と同じ場所なのだろうか。アリューザ・ガルドに無事還ってきたというのだろうか?
 いや、そもそも自分は本当に炎の界に行き、さらに月まで行ってきたのだろうか。実は、あれらは全て、自分の夢の中での出来事だったのではないだろうか?

 様々な疑念が頭の中に浮かび上がるが、それらは全て一瞬でかき消えた。
 彼は背中に翼を得たのを察知したからだ。
 およそ絵空事としか思えない奇妙な出来事の数々が、彼が夢の中で見た空想ではなく、現実に起こった――いや、自分達が“起こした”出来事であるということを確信した。
 彼の翼は、アリューザ・ガルドでは目視は出来ないが、それはやはり龍の翼に似た形をしているのだろう。そうして、飛ぶようにと念ずれば、たぶん空高く舞い上がることが出来るだろう。ウィムリーフのように。
 そして、炎を象徴する魔力が自分の体内に渦巻いている。
 ミスティンキルは炎の司になったのだ。しかも、きわめて力の強い司に。彼が望めば、そう遠くない未来に司の長の頂点に立つことすら可能だろう。自由奔放な今のミスティンキルはおよそ望むはずもないだろうが。

 さらに炎の司の資格だけではない。魔法の頂点といえるもの、“魔導”をも彼は習得していた。
 今までの自分では知るはずもない膨大な知識が、頭の中に全て入っている。それは魔導に関するありとあらゆる知識だ。目くらましのような簡単な術。占いや儀式の行い方。そして――人間一人ではとても制御しきれないほどのすさまじい威力を持つ、破壊の魔法すらをも彼は得ていた。これらはミスティンキルが生まれながらに持っていたものではない。全てユクツェルノイレと、“封印核”内部の多種多様な“原始の色”の帯から受け継いだものだ。

 人の手によって為された魔導の封印は今再び人の手によって解かれ、解封に携わったミスティンキルは、魔導のすべを知り、かつ行使できる者となった。ユクツェルノイレの言葉のとおりならば、ウィムリーフもまた同様の力を得ているはずだ。
『魔導の継承はミスティンキル“達”に託したい』
 とユクツェルノイレは言っていたから。
 その時、冷たい風が彼の体をなでた。ミスティンキルはぶるりと身震いした。春とはいえども、やはりエマク丘陵から南部イグィニデ山系にかけて、デュンサアル一帯の高原地方の夜は底冷えがするものだ。

 時はアズニール暦にして一一九七年、春の初め。
 かつての封印から七百年以上という、人の子にとっては長すぎる時を経て、魔導のすべはここに復活した。
 魔導を身に得た彼らが、これから辿る道はどのようなものになるのだろうか? それは龍王やユクツェルノイレですら分からないこと。すべては、ミスティンキル達が切り開いていくものなのだ。
『ウェインディルを見いだせ』
 ユクツェルノイレはそのように言った。もう一人の大魔導師を見つけろ、と。
 魔導を極めた、“まったき聖数を刻む導師”ユクツェルノイレの助言に虚偽はないだろう。だが、それよりも前に、自分達にはやらなければならないことがある。冒険書の編纂だ。


 くしゃみの音がひとつ。
 見ると、ミスティンキルのすぐ傍らではウィムリーフが寝入っていた。体を丸めて膝を抱え、寒さに耐えながらも、彼女はまだ眠りから覚めることはなかった。ミスティンキルはかがみ込み、柔らかな感触のする彼女の髪の一房をなでる。ドゥローム達の居住地域に入る前に、ウィムリーフは黒く髪を染めていたのだが、別世界での冒険を経ているうちにいつの間にか染料が落ちてしまっていたようだ。やはりウィムリーフには銀色の髪こそ一番似合う。

 ミスティンキルは自分が羽織っていた上衣を脱ぎ、彼女にかけてやった。ドゥロームの衣。それは月の世界の湖でずぶ濡れになり、真珠の塔の頂上で脱ぎ捨てたはずの衣だったが、どうやらイーツシュレウが気を利かせてくれたものらしい。あの小公子は言葉どおり、アリューザ・ガルドへ帰還するにあたって服を乾かしてくれていたのだ。
 赤い衣の中から、蝶ほどの大きさの妖精が一人、もぞりとはい出てきた。白銀に輝く小柄な彼――もしくは彼女は、ミスティンキルにぺこりと頭を下げると、空高く、月へと向かって舞い上がっていった。
(月の妖精か……しかしまあ、今までいろんな連中と会ったもんだ)
 龍王イリリエンと蒼龍の戦士アザスタン、炎の界の龍達。そして“自由なる者”ディトゥア神のイーツシュレウと魔導師ユクツェルノイレ。
 彼らの姿が頭をよぎる。バイラルが一生を遂げたとしても、これだけの力を持つ者達と会うことなどまずあり得ない。自分達は実に貴重な体験をしたのだ。

「まあ、ひと月かふた月か分かんねえけど、当分はお前の書く冒険書とやらの手伝いをせにゃならねえんだろうな。……しかしよくやったよ、おれたちは。自分のことを自分でほめちゃあ世話ねえが……ありがとうな、ウィム」
 その率直な言葉は、ウィムリーフが起きているときであれば彼は声に出すことが出来なかっただろう。そうして自分も彼女の傍らに横たわり、そっと背中からウィムリーフを抱きしめた。恋人の体から伝わってくる心地よい温かさと匂いが、なんだかとても懐かしいもののように思え、ミスティンキルの心を落ち着かせていく。

 風が再び舞う。土の匂いや木々のざわめきが、ミスティンキルの感覚を優しくなでる。
 アリューザ・ガルド。物質が確固として存在するこの世界に、無事帰還を果たしたことを、確かに感じ取ることが出来る。
 自分が生きていく世界は他でもない、アリューザ・ガルドだ。自分の過去には思い出したくもない色々なことがあったにせよ、“ここ”こそが一番いたい場所なのだ。はじめて、彼は実直に嬉しくなり、首を星空に向けた。
 澄み切った天上。“炎の界”に転移した昨晩と変わらず、空には数限りない星々が瞬いていたが、なかでも月の姿はやはり別格だった。一昼夜を経て今夜は満月。月は真円を象り、空の周囲にあるであろう星達の姿を、白銀の輝きでもって消し去ってしまう。
 あの遠く離れた次元にある世界、月の世界に今し方まで自分達がいて、アリューザ・ガルドを見ていたのだ!
 にわかには信じがたい出来事が多々起こり、そして帰還を果たしたことについて、あらためてミスティンキルは途方もない達成感を覚えた。

 やがてゆっくりと、睡魔が彼を襲う。彼自身はもっとウィムリーフのぬくもりを感じていたかったが、極度の疲労と眠気に打ち勝つことはついに出来なかった。否応なく、ミスティンキルは眠りの縁へと再び落ちていった――。


◆◆◆◆


 とりとめのない夢を見ながらも、自分の名前が呼ばれているのを意識したミスティンキルは、浅い眠りからゆっくりと覚醒していった。
 もそりと上半身を起こし、二、三度首を振る。両腕を突き上げ大きく伸びをしてから、彼は目を開けた。
 すでに周囲は明るくなっているようだ。朝か、それとも昼か……などとのんきに構えていたミスティンキルの表情は次の瞬間一変した。
 彼のすぐ目前に、ごつごつした異様な“なにか”があったのだ!

 巨大な青い岩。その岩の一部が割れ、亀裂が上下に開いていくと、その奥からは黒めのうのように真っ黒な眼球が現れた。そして、その中央にある白い瞳孔が、ぎろりとミスティンキルを凝視する。
 およそ予想だに出来ない光景を目の当たりにして彼は瞬時に目が醒め、恐怖のあまり腰砕けのまま二歩三歩後ずさる。いつの間にか彼の体にかけられていた赤い上衣をぎゅっと握りしめる。
 あんぐりと開けたままの口がようやく閉じ、何とかかたことの言葉を発音した。
「ドゥ、ドゥ……龍《ドゥール・サウベレーン》?!」

 そう。彼の目の前には龍がいたのだ! 龍は、顔をこちらに向けた姿勢で臥していた。顔の大きさだけでも、ミスティンキルの身長を遥かに凌駕するほどの巨龍だ。幼い龍はともかく、これほど成長した龍が人の前に姿を現すことなど滅多にないことだが――。
(危ねえ!)
 そのようにミスティンキルが思った瞬間、彼の手元にはいくつもの火球が出現し、それらは矢のように龍めがけて飛んでいった。突如出現した真っ赤な火の玉は、明らかに魔法の力によるものだ。
 龍を目の前にして、本能的に危険を察知したミスティンキルは、威嚇のためでなく倒すという明確な意志のもと、とっさに攻撃の魔法を発動させたのだ――が、龍が首を一振りしただけで、それら全ての火球はあっけなく打ち消されてしまった。

【……龍の力を見くびるでない。そもそも、だ。魔法というものは、たやすく用いるべきものなのか? それは違うだろう】
 蒼龍の声がミスティンキルの頭に直接響いた。どうやらこの龍は敵意を持っていないらしい事が分かる。
 ふしゅるる、と音を立てて、龍は熱い鼻息を吹き出した。ちろちろとした炎がちらつくそれは、龍にとってのため息だったようだ。が、それでさえ人の身体を焼くには十分だ。ミスティンキルはさらに退いた。
【姿は変われど、わしだと見破れないようでは……いくら魔導の知識を得たと言っても、やはりお前は若い。浅はかで直情的……愚かだな。赤目の龍人】
 金色の角を持った青い体躯の龍の声はそう響いた。
「あんた、まさか……アザスタンか?」
 ミスティンキルが言うやいなや、龍は目を細めると次には天に向かって大きく吼え――姿を変えた。
 白い装束をまとい、二振りの剣を腰に下げた龍戦士の姿に。
「その、まさかというやつだ」
 アザスタンは腕を組み、ミスティンキルと対峙するとアズニール語で返答した。
「だがお前とは違い、ウィムリーフは大したものだったぞ。わしのことをきちんと理解していた。たとえわしが龍の姿をとっていたとしてもな」
「……うるせえなぁ」
 ぼさぼさになった頭髪をぼりぼりと掻きながら立ち上がると、きまりが悪そうにミスティンキルは返答した。

「だいたい、あんたは龍王の側近じゃなかったのか? それがなんだって、こんなとこにいるんだよ?」
「わしとて本意ではないのだがな。龍王様から命じられて仕方なくではあるが、しばらくの間お前達と行動を共にする」
 アザスタンは少々嘘をついたが、それが見破られることはなかった。
「……おれは嫌だぜ、そんなの」
 ミスティンキルは不満そうに口をとがらせた。彼にとって今のアザスタンの存在は、二人の間に割り入ってくる野暮な邪魔者としか思えない。
「そんなことを言っていいのか? もしわしがここでデ・イグに還ってしまったらお前達、大変なことになるぞ。デュンサアルの人間達を説き伏せられるか、お前が?」
「……。あれだけ騒いでみせれば仕方ねえか……」
 ミスティンキルは舌打ちをした。
 自らの行動が招いた結果とはいえ、後先考えずにあれだけの大騒ぎをやってのけてしまったのだ。いくら司の長のエツェントゥーの口利きがあるとはいえ、何事もなくデュンサアルに戻れるとはとうてい思えない。よそ者のしでかした粗野な振る舞いに対して、敵意にも似た反感を抱く者も多々いるだろう。
 おそらく今頃、デュンサアルでは前代未聞の不祥事に蜂の巣をついたような大騒ぎになっているに違いない。下手をすれば、炎の司の長達が警備兵を引き連れてここまでやってくるかもしれない。そうなったとき掟破りの自分達は犯罪者として裁きにかけられるだろう。その先どうなるのかは分からないが、少なくともよくない結果がもたらされるのはミスティンキルにも分かった。

 ――だが、龍王から遣わされた龍がその場にいたとなれば、どうか?
 ここにいるアザスタンが
【彼らは龍王の命を受け、為すべきことを為し遂げたのだ。だからアリューザ・ガルドに再び色が戻ったのだ】
 とでも宣告をすれば?
 間違いなく状況は一変するだろう。むしろ逆に自分達は、龍王に選ばれた者としてデュンサアルの龍人達から好待遇を受けるかもしれない。ならば、と、ミスティンキルはアザスタンの介入を渋々受け入れた。
「ちっ……。俺としちゃあ不本意だが、どうやらあんたと一緒に行くほかなさそうだな、龍殿!」
「まあ、そういうことだ。しばらくしたら、こちら側からデュンサアルに向かうとするぞ。さしもの長達も肝を冷やすだろうがな!」
 アザスタンはのどの奥で笑った。これから起こるだろう数々の物事を予想し、楽しんでいるようだ。


◆◆◆◆


「そうだ。ウィムはどこに行っちまったんだ?」
「ミストが寝ている間にちょっと飛んでみて、デュンサアルの様子を眺めてきたのよ。……おはよう、ねぼすけさん。もう、おてんとうさまも高いわよ!」
 その時ウィムリーフが真後ろからミスティンキルの背中を軽く小突いた。彼女の口調から察するに、ミスティンキルの様子にややあきれているようだ。
「あ? ……ああ、おはよう……」
「まったく……。この期に及んで真剣みに欠けてるのよねぇ、あんたは! ほら、ちゃっちゃと服を着て! ……あ、そうだ。それでね、アザスタン。いい加減なんかしらの行動を起こさないと、あたし達本当にまずいことになるわよ!」
 ウィムリーフは半ば惚けたままの相棒を叱咤した後すたすたと歩き、竜頭の戦士に向かって言った。
「ついにドゥローム達が動いたか」
「そう! 二人のドゥロームが指揮を執ってるようでね。そのあとに武器を持った兵士達が続いているわ。もう、山道に続く吊り橋を渡り終えてるから……あの連中が翼を使って飛んでくるとしたら、すぐにでもここに来ちゃうわよ!」
 彼女の口調は、きわめて真摯だ。やや焦る気持ちが表に出ているが。
 対するミスティンキルは、
「へぇ。よくそんなことが分かったなあ」 などと、のんきな口を返す。
「……!!」
 ぷちん。
 もし彼女から音がしたとするならば、まさしくこんな感じだろう。
 状況が逼迫してるときに限っては、たいていの場合ウィムリーフの堪忍袋の緒のほうが切れやすいのだ。
「さっきも言ったでしょう! あんたが! のうのうと寝てる間に! あたしが! 用心に用心を重ねて! 様子を見に飛んでいったの!」
 一言区切るたびに、ウィムリーフは人差し指でミスティンキルの胸部を強めに突く。
「たっ。そんなに怒るなっての! ……ま、そいつはそうと、兵士を指揮してる二人ってのはだいたい想像がつくな。執念深い奴らだ」
 こうなった時のウィムリーフには逆らわない方が得策であることを知っているミスティンキルは、ただ悪態をついた。
 そして考えた。
 自分達に明確な敵意を持っている司と言えば、二人しか思い当たらない。最初にミスティンキルを侮辱した長――マイゼークと、まんまと吊り橋を突破された守人――マイゼークの息子、ジェオーレに違いないだろう、と。
「……で? アザスタンさんよ。おれは連中をゆうに追っ払える魔法を身につけてるわけだけれど、そんなことは出来ねえんだろう? だったらどうするんだ?」

 アザスタンは鼻で笑って――次におのが背に得ている翼を広げて空高く舞い上がった。
「ふん。悪知恵の働きそうなお前のことだから、わしがどうするのかおおよそ見当がついているだろうに。……まあ、彼らを殺すわけにいかんだろう? だから“彼らが絶対に納得する方法”というものを実行してやろう。それは、魔法なぞを発動させるより、ある意味痛快なものになるだろうな!」
 アザスタンは再び吼え、巨大な龍の姿に戻った。
「ウィム。飛ぶぞ! お偉いさんがわざわざここまで出向く手間を省いてやろうぜ」
 ミスティンキルは相棒に向かって不敵に笑った。“絶対に納得する方法”によって、あの二人の司が顔色をなくすのを見るのが、今から楽しみでしかたない。
【なればだ。二人ともわしの後に続け。龍王様と相対した勇敢なる者、そして魔導の継承者よ!】
 アザスタンはそういうなり巨大な翼を広げ、一路デュンサアルの麓を目指して飛んでいった。
 ウィムリーフは“彼らが絶対に納得する方法”とは何なのか、的を射ていない様子でありながらも、飛び上がり、蒼龍の後に続いていく。
 ミスティンキルは――物質界で滑空するのは生まれて初めてとなる。勢いよく身体が宙に放り出されたかと思うと、あらぬ方向に飛んだり、落ちそうになったり。いろいろと滑稽な姿をさらして四苦八苦を繰り返しつつ、なんとか二者の後に続いていく。やがて見かねたウィムリーフが彼の手を取り、翼を使った飛び方というものを教えていくのだった。


 アリューザ・ガルドに帰還した二人と、炎の界から転移した龍は、こうしてドゥロームの聖地デュンサアル山を後にした。


◆◆◆◆


 ミスティンキル達がマイゼーク達と対峙しようとしている、その同じ刻。
 東南の地デュンサアルから遙か離れたこの場所においても、魔導復活の物語に関係するであろう人物が動こうとしていた。

 暖炉のある部屋でひとり、安楽椅子にもたれかかって茶の香りを楽しんでいたその老人は、周囲の空間に異変が生じたのを察知した。案の定、彼のすぐ横の空間の一部が黒く染まり、細かな電光がその周囲を覆う。
 だがその異変は、この老人にとっては驚くに値しないこと。“彼”が次元を越えて出現する兆候だ。老人は茶を一口含むと、ゆっくりと香りを楽しんだ。
「……無事に帰ったか」
 白髪の老人は、まなじりにしわを寄せて友人の帰還を喜んだ。
 空間の闇の中からひとり、細身の青年が姿を現した。

「どうも。意外とすんなり話が通りましたよ。いや、思ったより話せるお方だったようでねえ」
 老人の友――癖のある金髪が映える青年は、相も変わらず穏やかな口調でそう返答し、円卓脇の椅子に腰掛けた。老人は青年と向き合った。
「……ああ、今日はいい天気だ。こんな日はあのニレの木のもとでタールでも弾きたくなるな」
 青年は窓の外の景色を眺め、楽器を弾く仕草を見せる。その口調はさわやかなものだった。昨日デ・イグへと旅立つときは、やや緊張の色が見えていたというのに、今は全くそれを感じさせない。
「うん。よかった。無事に“色”が戻ったようですね。ほら、離れの館を見てください。昨日まで病気のように褪せていたツタが、見事に緑の色を取り戻していますよ」
 青年はにこやかに微笑むと、卓にあった瓶を手に取ると、手元のカップに茶を注いだ。

「今朝未明に色の流れは本来あるべき摂理に戻ったのだよ。だが、それと同時に、魔導も復活した……これは間違いないのか?」
 老人が身を乗り出して訊く。
「ええ、あなたの言ったとおりでしたね。色が褪せていった――これは魔導と深い関わりがあるものであり、当世において最も優れた魔力を持つ者が事態の収拾にあたるだろう。しかしそれはあなたやあの子ではない……ってことがね。事にあたったのは全く別の人間です。その人間がこれから運命を切り開くのか、それとも弄ばれるのか――それはその個人の行動いかんによって変わってきてしまいますが」
「なるほど。だが、私の存命中にその者が現れたのは幸いだ」
 老人は目を閉じると大きく息を吐いて、言った。安堵という名の穏やかな空気が彼ら二人を取り囲む。とりあえず、事は成就したのだからよしとするべきだろう。老人は続けて言った。
「魔導の力は諸刃の剣。しかるべき者が扱うべきだ。運命に弄ばれるような意志の弱い者に魔導を任せておく訳にはいかない――“魔導の暴走”の再来だけは避けねばならないからな」
 彼の持つカップが震えているのは、彼自身が恐れをなし、震えているからだ。“魔導の暴走”を知る、数少ない者の一人だから。

「これは早々にも旅立たなければならないでしょうね。デ・イグの王イリリエンが言うには、“彼ら”はドゥロームの聖地、デュンサアルにいるっていうんですから」
「デュンサアル……あまりにも遠いな。“ここ”からもっとも離れている場所ではないか……。私が出向くには少々厳しいものがあるが、やむを得ぬか。魔導を解き放った者に会いに行かねばならぬ」
「いや。ここは僕が行きましょう。あなたにとってはあまりにも長旅になる。必ず、身体に障ることでしょう。あなたはここで待っていてください」
 老人はしばし考え込んだ。そして口を開く。
「……失礼だが、君は魔導についての知識はほとんど持ち合わせていないはずだ。君がデュンサアルまで転移するのはそう時間がかからないだろうが、帰路はどうする? その地にいる魔導の継承者は、人間だ。君と同じ道を通って私の館までたどり着くことなど出来ないだろう。そうすると帰りは……陸路と海路あわせて……少なくとも三ヶ月以上の時が必要だと思うのだが、もしその間に、かの者それと知らず身勝手に強力な魔導を発動させてしまったとき、君ひとりで抑え込めるか? やはり私が……」

 青年は、カップを卓に置いて答えた。
「いえ、むしろ帰路の方が安心できます。彼らと一緒に龍がついていますからね。龍の翼だったらここまで辿り着くのにそう時間はかからないはず、です。……というより問題はやっぱり往路ですねぇ。僕ひとりで行ってもいいんだけれども……あなたの言うとおりだ。魔導を持つ者に対してどう対処すればいいのか、正直分かりません。……エリスは今どこに?」
「エリスメアはアルトツァーンの王都、ガレン・デュイルにいる。あの娘を連れて行くのか?」
「はい。あなたと“彼ら”以外に魔導を知る者といえば、あの子しかいないでしょう。まだ腕の方は確かではないかもしれないけれども、僕にとって大きな支えになることは間違いない。出来ればエリスと合流した後にデュンサアルへ向かいたいのですが、よろしいですか?」
「それは私の決めることではないだろう。エリスメアは君の娘だ」
「そしてあなたの弟子でもある」
「……それはそうだが……。私が行かないとなると、彼女が君と共に行動するのがもっとも望ましいだろう。それに、彼女自身の魔法修行になるのは間違いないから……分かったよ。我が弟子を付き添わせるとしよう。よろしく頼む」
「分かりました。……しかし僕らの運命っていうやつも、やっぱり数奇なものなんですねぇ。魔導と切っても切れない関係にある、とはね。……もう少しのんびりとさせてくれても良さそうなものを……このぶんじゃあ、万が一、冥王が復活したときにも、真っ先にかり出されそうだな、僕は」
 青年は苦笑して答えた。


 こうして、いにしえより魔導と深い繋がりのある者達も、また動き出した。
 魔導の復活。それはアリューザ・ガルドの諸国家や一般人にとっては何ら興味を引く事項ではないだろう。
 だが、魔法使いにとっては違う。魔導封印後も、一部の魔法はこれまで細々と受け継がれていた。威力の弱いそれらは“まじない”とか“術“などと呼称されていた。そこに突如、魔導の継承者が現れたのだ。その者は魔導を行使するに相応しい魔力と、手段を持っている。しかし、自然界の摂理や魔導の発動原理の知識となると全く無知だ。

 復活した魔導は――そしてミスティンキルは、アリューザ・ガルドにおいて、この後どのような物語を紡いでいくことになるのだろうか?
 それを知る者は誰一人としていない。
 もし予言に精通した魔導師が現世におり、このあとの筋道を語ったとしても、いざその局面に実際に立ったとき、予言がすべて現実のものになるかどうかは定かではないのだ。
 人間達の行動いかんによって、未来とはどのようにも変化していくなのものだから。


◆◆◆◆


 ……。

 ソシテ……。

 ヨウヤク“私”ハ目覚メタ……。

 ソウ。

 ……望ンデイタ時ガ、遂ニ来タノダ……!




  赤のミスティンキル ~アリューザ・ガルド“魔導復活編”~
    第一部 <完>

奥付



『赤のミスティンキル』 ~アリューザ・ガルド 魔導復活編~ 第一部


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著者 : 大気杜弥
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