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一之章

一之章(1)

「やれやれ、三日も夜通いできなかったからな。藤香とうかのやつ、怒ってなきゃいいけど」
 緋衣紫道あけごろもしどは、土塀に挟まれるようにしてそびえ立つ、年季の入った木戸の前に立っていた。
 黒い総髪にそこそこ整った顔立ち、俊敏そうな体格に緋色の狩衣ひいろのかりぎぬと、そこまで見れば立派な青年武官なのだが、ヨレた狩衣を着てちょっぴり情けない表情をしていては、諸々台無しといえなくもない。
 紫道しどは意を決したように、木戸をゆっくりと押し開ける。
「とうっ!」
 開けた瞬間、安っぽい掛け声とともに、紫道の目の前に足袋たびを履いた生足が頭上から降ってきた。
「うっうわぁ」
 ぱしっ
 紫道は、とっさに両手で額スレスレまで迫っていた足袋の足首を掴んで、踵落としのどたま直撃を免れる。
「び、びっくりしたぁ! 何やってんだよ、藤香」
 踵落としの張本人は、脚をおよそ一二〇度ほどおっぴろげたままの姿勢で、きょとんとしている。
「あら、そろそろ来る頃だと思って、こうやって入り口まで来て待っててあげたんじゃない。
 もぅ、私ったら恋する乙女のカガミってやつよね」
 菖蒲あやめ色を基調とした小袖袴こそでばかまに身を包んだ、紫道と年の頃同じぐらいの女性は、さも当然のように言ってのける。
「いや待て、普通の恋する乙女は踵落としやらないだろ、多分。
 おとなしく待ってられんのかい」
「何よ、三日間もすっぽかしたくせによく言うわ。
 早く入ってちょうだい、母上来るとうるさいから」
 藤香は、紫道の手から足をふりほどくようにすると、くるっと屋敷の方へと振り向く。
 どこからともなく、ほーぅっ、という木菟みみづくの鳴き声が聞こえてきていた。

 


「それにしてもヨレた格好ねー。もっとピシッ! としてこようとか思わなかった……」
 藤香は一瞬考え、
「……あたりが、まあ紫道の紫道たる所以ゆえんよね」
「なんだよそりゃ」
 紫道は、箸でつまんだレンコンの煮付けを、ひょいっと口の中に放り込む。うまい。
 まだ何も食べてない、と藤香に言ったところ「こんな刻限に食べると太るわよ」といいつつも、少し面白そうな表情をして奥に下がり、お膳に適当に並べて部屋までもってきた。
 藤香お手製かどうかは不明だが、直感的に聞いてやらない方がいいような気がしたので、紫道は何食わぬ顔をして食っている。
「んー……敢えて言うなら無頓着むとんちゃくでガザツな子?」
「言いたい放題だな。まあそれが藤香の藤香たる所以だな」
「あら、それはどーいうことかしら?」
 紫道は最後に茶碗に残った米をはくりっ、と一口。
「んぐっ……敢えて言うなら図々しくて遠慮無し」
「……人の家のお膳を、さも当然のように平らげときながらよく言うわ。
 あと、ちゃんと御飯は噛んでから飲み込みなさい。
 ほら、膝とか米粒こぼしてるし」
 藤香は、紫道の膝についた米粒をひょいひょい拾い始める。
「いちいち小言が多いな……お前は俺の女房か」
 紫道の言葉に、藤香はさも当然のように、
「後々そうなるつもりよ?」
 藤香は紫道の顔を見上げて、にっこりと笑ったのだった。

 


 紫道が藤香の家に夜通いしているのは、小さい頃は隣家りんかだということと、気が合うから程度の理由だったのだが、お互い、最近はどうも特別な感情が芽生えているのも事実なようだった。
 桔梗林ききょうりん家という、都でも屈指の式神しきがみ使いの家の長女なんぞをやっている藤香と、二流止まりとはいえ武官の紫道の緋衣あけごろも家では、世間的な家格にこそ極端な差はなかったものの、諸々のキョーイクのシツ、というやつが段違い。
 何かにつけて有職故実ゆうそくこじつに詳しい藤香のところへ雑談に行くのが、紫道にとってここ数年の年中行事と化していた。
「……とすると、朱鳥の都を空に浮かべたのは藤香、お前のご先祖かよ」
「そういうことよ。都の中央に内裏だいりがあるでしょ? あそこの地中深くに、大地を天に浮かせる力を持たせた、特製の式神≪紅飛鳥≫べにあすかを埋めたって話よ」
「窒息するだろ埋めたら」
「人間の理屈は通じないわよ……周囲にそんな屁理屈言ったってね……位階は上げてもらえないわよっ、と」
 暗いしとみの向こうから聞こえる紫道の声に、藤香は行灯の明かりの下で、縫い針と格闘しつつ答える。
 あまりにほつれがひどい紫道の狩衣にあきれた藤香は、「明日までに私が少し何とかしてあげる」といって、紫道から狩衣を追い剥ぎ同然に脱がせ、只今夜なべの真っ最中。
 紫道は、藤香の裁縫欲の生け贄として、素直に一泊する羽目と相成あいなった。
「……ところで紫道さま?」
「……なんだよ」
 藤香がそういう風に呼ぶときは、大抵機嫌がよろしくない。
「何で三日間も夜通いすっぽかしたのか、きりきり白状してなかったわね?
 内容によっては容赦しないけど、白状しないともっと容赦しないわよ。
 もちろん嘘八百は論外」
 藤香は、口を細かく動かし、何かの呪法を唱えている。
「げっ……アレを出すとか」
「……我の声に応えて出でよ、金の吉将きっしょう、月光の守護者、永翔雲藍璃えいしょううんあいり!」
 藤香の声に応えて、空気が揺らいだかと思った瞬間、仰向けに寝ていた紫道の頭上に光の帯が集まり、具現化して少女の姿になると、いきなり紫道に馬乗り体勢となって上から見下ろす。
「藤香……フツーに白状するから、コイツ何とかならないか」
「えええええええ 緋衣の紫道様、おひさなのにそれはつれないよぉ」
 永翔雲藍璃と呼ばれた長い黒髪の少女は、大声を上げると紫道の首を絞め始める。
「ぐげげげげ! ぐるじい! ぐるじい!」
藍璃あいりやめなさい。それに声も大きいわよ」
 藤香の落ち着き払った声に、藍璃は紫道の首から手を離し、馬乗り体勢へと戻る。
「藍璃が呼ばれたってコトは、まぁた緋衣の紫道様は藤香様を怒らせたんだ? 色男だねぇこのこの」
 面白そうに言う藍璃を、紫道が見たのはこれで六度目ぐらいか。
 永翔雲藍璃は人間ではない。藤香が契約を交わした高位の式神、少女の姿をした十二天将太陰じゅうにてんしょうたいいんの化身、金の吉将・永翔雲藍璃。
 ……とまあ肩書きはエラそうなのだが、どうひいき目で見ても、人間以上の力のくせに精神年齢が低い藤香の妹にしか見えない、というのが紫道の見解である。
「三日も来れなかったのは、数日前に起きた、璃寛原りかんばら家の長男が襲われた件の調べだ。
 飲まず食わずで大変だったんだぞ」
 紫道は蔀の向こうにいる藤香に、神妙に答える。
 神妙にしないと、腹の上に乗っかっている妹風式神爆弾に締め上げられるのは目に見えていた。
「璃寛原家……桔梗林家と同じ、式神使いの家ね」
 藤香は、さっきまでとはやや様子が違う静かな声で答える。
「外傷はないが、意識が全くない。命に別状はないが昏睡状態というやつだ。
 どうやって昏睡にさせたのか、方法も不明。盗難物はないから物盗りじゃなさそうだ。
 ちなみに使役する式神は、あっけなく滅していたようだぜ」
 自分の上に乗っかっている藍璃を見上げて紫道は言う。もちろん冷やかし。
「マヌケな式神だねぇ。やっぱ、藍璃みたいに強くて賢くてスバラシイ式神でないと役に立たないと言うことだね、うんうん」
 ……藍璃あほな子を冷やかそうと考えた俺がバカだった、と紫道は少し後悔。まあ一応機嫌はとったからよしとはするが。
「まだ下手人げしゅにんは捕まらないわけ?」
「まあな……しかし、俺が一番気になるのは」
「何で式神使いの家の者を敢えて狙ったのか、ね」
 紫道の疑問に、藤香はよどみなく答える。
「無難なところで個人的な怨恨……とかじゃなさそうね。それなら、昏睡させるなんてまどろっこしいテはとらずに、バッサリ殺してるでしょうし。
 もっとも、そのセンで調べて行き詰まってなかったら、紫道が悩んだりはしないはずだし」
「……わからねぇな、ホントに」
「……そうね、式神使いの家の者が他人に狙われるのは、恐らく都が出来て以来前例がないわ。
 何せ、桔梗林、璃寛原、楊梅院あせんいん紫苑寺しおんじ蘇芳山すおうざんの式神使い五家は、式神≪紅飛鳥≫をお祭りする存在よ……朱鳥の都の人々から、尊敬はされても恨みをもたれるいわれはないはずよ。ウーン、狙いは何かしら」
 藤香が考えても答えは出ないなら仕方ない。が、都始まって以来、先例のないことなのは分かった。
 紫道は納得して眠りにつこうとしたが、大きな問題が残っている。
「ところで藤香、寝たいからコイツどけてくれないか」
 恨めしそうな紫道の視線の先には、いつの間にか馬乗りになったまま、器用にイビキかいて熟睡している、藍璃の姿があるのだった。


一之章(2)

 紫道しどを泊めてから数日後。
 綺麗な茜色あかねいろに染まった、朱鳥の都の通りを、藤香とうか藍璃あいりはどこへ向かうともなく歩いていた。
「藤香様も物好きだねぇ、こんな夕暮れ時に」
 藤香の横を歩く藍璃は、前を向いたまま嬉々とした表情で言う。
 碁盤目状になっている都の通りの中でも、裏通りではないが、さほど人通りの多い通りでもない道である。
 家の近所で散歩しているだけ、といえばそれまでだが、藍璃と話すわけでもなく藤香は無言。周囲への目配せを怠らない。
「物騒な下手人が出るのは、大抵夕暮れ時か夜と決まってるのよ」
 藍璃の言葉に応え、ようやく口を開いた藤香からは、あまり穏やかではない言葉が飛び出した。藤香は話を続ける。
「式神使い五家の人間が狙われているなら、遅かれ早かれ下手人とのご面会は避けられないわ。この通りはよく使うし、私もこの辺の土地勘もある。こっちから打って出る方が私は好きなのよ。
 だから、いざという時はアテにしてるわよ藍璃」
「藍璃は、アテにしてもらってもいいよ藤香様。
 式神使い五家は、木・火・土・金・水の五行の力をつかさどるっていうのに、璃寛原の土の式神ときたら、ずいぶんダラしのないことだったねぇ」
 脳天気な調子で言っているようだが、藍璃の語気にはどことなく鋭いものが混じっている。
「……そいつホントに狙ってたんだねぇ、藤香様のこと。
 どうやら来たみたい」
 藤香と藍璃は足を止める。二人の先には、尋常ならざる気配を隠そうともしない人影が、仁王像のごとく通りの真ん中に陣取っていた。
「私達に何かご用かしら?」
 立ち止まった藤香は、右手をさりげなく後ろに回しながら問いかける。
 空五倍色うつぶしいろの狩衣に身を包んでいることからして、男であろうか。そして、黒い鬼面で顔をすっぽり覆っている。その凍てついた鬼の形相には、神楽かぐらで見られるようなおごそかさは微塵も感じられない。
 黒い鬼面の男は無言のまま、懐から灰色のとつ字型をした須恵器すえき、いわゆる長頸瓶ちょうけいへいを取り出すと、ゆっくりと傍らの地面に置いた。
 何の意味があるのか、藤香にも藍璃にも判りかねたが、いずれにせよ友好的ではなさそうなことは確かである。
 すると突然、目の前にいた黒い鬼面の男が消えた。
「……えっ」
「藤香様、右!」
 藍璃の声に反応して右手を向くと、とっさに藤香は後ろに回していた右手を、振り上げるように一閃させる。
 ビュッ!
 鋭く引き裂かれた空気の悲鳴とともに、黒い鬼面の男が藤香の二歩ほど間合いを取った所に現れる。
 藤香は、白色の御札のようなものを、人差し指と中指で挟むようにして持っている。術で呪をかけられた御札は、刀をも切り裂くほどの鋭い切れ味をもつ。
「とっておきの符術≪増長刃≫ぞうちょうじんだったのに……」
 数歩下がって悔しがる藤香。手応えはなかったことからして、寸前のところでかわされたらしい。
 黒い鬼面の男が藤香に迫ろうとするが、しかし急に立ち止まって後ろに下がる。その刹那、黒い鬼面の男がそれまで立っていた場所に、高速で飛来した瓦が、けたたましい音を立てて地面で砕けた。
「まだまだ終わらないよ」
 声の主は藍璃。彼女の周りには、筒状の丸瓦が十数枚ほど、ふよふよと頭上を浮遊している。その辺の家のものらしい。
「いけ!」
 虚空に浮く丸瓦は、藍璃の掛け声と共に、それまでと一変して目にも映らぬほどの速さで黒い鬼面の男に迫りゆく。
 ごぅっ!
 しかし、黒い鬼面の男はわずかに宙へ跳んで、丸瓦の弾丸をうまくよけてみせた。
「よけた」
「かかった」
 藤香の驚愕の声と、藍璃の勝ち誇った声が交錯する。一旦かわされた丸瓦の弾丸は、ぐっと急上昇して黒い鬼面の男の頭上まで旋回、こんどは丸瓦の雨となって黒い鬼面の男に降り注ぐ!
 黒い鬼面の男の体は宙へと浮いたまま。よけることはできない。
 ずどどどどっ!
 くぐもった鈍い音とともに、丸瓦の雨は、黒い鬼面の男の背中へ次々と直撃、うつ伏せになった体は地面へとしたたかに打ちつけられる。
「ざっとこんなものだねぇ。えっへん」
 藍璃は大してありもしない胸を張ってちょっぴり自慢げ。
 しかし黒い鬼面の男は、丸瓦の破片の中からむくりと立ち上がると、両手で狩衣についた土をパンパンと払い、何事もなかったかのように藤香達へと向き直る。
「……全っ然効いてないみたいよ、藍璃」
「普通の人間の体じゃ、あり得ないよ藤香様。まさか」
 藍璃の動揺の声を遮るようにして、黒い鬼面の男は藤香の目の前まで瞬時に間合いを詰める。まるで、虚空を転移してきたかのような……音の奏でる空気の振動さえも見える藍璃の目にさえ、全く映らぬほどの速さ。
 どっ!
「うぐっ……!」
 黒い鬼面の男は、藤香の腹部に当て身を一撃。体の丈夫さは普通の女性と大差ない藤香には、ひとたまりもない。
「藤香様 よくも!」
 藍璃は左袖から、符術≪増長刃≫をかけた御札を取り出すと、軽く飛び上がり頭上から黒い鬼面の男に斬りかかる。
 ぱしっ!
「」
 しかし黒い鬼面の男は、藍璃の振り下ろされる右手首を易々と掴むと、力いっぱい握る。
「ぐあああああ!」
 ゴキゴキと手首の骨が粉砕される音は、藍璃の苦悶の声にかき消された。高位式神の骨を砕くなど、もはや人間技ではない。
 黒い鬼面の男は、そのまま頭上で藍璃の体をブンブンと振り回し、土塀へと放り投げた。
 どごぉんっ!
 あっさり砕ける土塀。気こそ失っていなかったが、藍璃は土塀の残骸にもたれるようにしてぐったりしている。
 藤香の体を抱えた黒い鬼面の男は、長頸瓶のところまで戻ると、瓶の口を藤香の口にくわえさせると、不気味な声で呪を唱え始める。
 しばらくして、藤香は目を見開き、体をビクン、ビクンと震えさせたかと思うと、再び目を閉じて体をぐったりさせる。
 藤香の口から長頸瓶を抜くと、黒い鬼面の男は瓶の口に丸めた紙らしき物を詰め、死んだように動かない藤香の体を地面に置いて、ふっと消えるように立ち去った。
「藤香……様……ごめん……なさい……」
 一部始終を見ていた藍璃は、力のない泣きそうな声を漏らすと、気を失う。
 土塀の砕ける音に反応したのか、人々が現れるのは、それからさらにしばらくしてのことだった。

 


「藤香……」
 自室の布団の上で眠ったままの藤香の顔を、傍らで紫道は暗澹とした気分で見つめていた。
 藤香が襲われた翌朝、藤香と藍璃が倒れた姿で見つかったとの知らせを受けて、紫道は大急ぎで桔梗林家に駆けつけたのである。
 医師によると、外傷は腹部の打撲だけで命に別状はないのだが、何故か気を失ったまま意識が戻らない。こればっかりは原因が判らずお手上げ、とのことだった。
 ちなみに藍璃は、並の式神だったらとっくに滅しているほどの重傷らしいが、こちらも何とか生きている。
「……必ず目を覚ましてやるからな。少しの間休んでてくれよ」
 紫道は藤香の耳元まで寄ってささやきながら、彼女の左手を両手で握った。柔らかい指先の所々にある、小さな傷の感触。先日狩衣のほつれを直そうとしたとき、誤って針を刺した痕であることは、紫道もよく知っている。藤香は裁縫が得意ではないのだ。
 ……どんな奴かはこれから見つけるが、とりあえず捕縛などせず冥土に送りつけてやる。
 決意を込めて部屋から出た紫道は、縁側でうずくまったままの藍璃に声を掛ける。
「藍璃、教えてくれ。藤香とお前を酷い目に遭わせた奴は、いったい何者だ?」
「うえ……うぐ……ひっくっ……」
 しかし、泣きっぱなしの藍璃は溶けて無くなりそうなほどにぐずぐずで、まともに受け答えが出来ない。
「何も出来なかったのは俺も同じだ。お前は命がけで十分に戦ってくれた。
 それよりも、命が助かったんだから、今はそいつに一発しっぺ返しを食らわすのが先決だ……」
 藍璃はようやく顔を上げる。目も真っ赤で人前に出られるような顔ではなかったが。
「……ひっ……あいつは……黒い鬼面の男は、恐らく人じゃないよ……」
「人じゃない……なら、式神か?」
 紫道の問いかけに、しかし藍璃は首を横に振る。
「純粋な式神の気配でもなかったよ……でも」
「でも?」
 藍璃は何とか縁側から立ち上がる。布で吊した右手が痛々しい。今度はしっかりと紫道を見上げる藍璃。
「純粋な人とも式神とも違う、違和感を覚える気配だったよ。
 あるいは、妖怪の一種かも」
 藍璃にも正体は判りかねる存在のようだった。
「いずれにせよ、厄介そうな奴であることと、他の三家の連中も危ないことは確かだ。
 手がかりはない以上、とりあえずは式神使い三家に赴くことからだ……付いてこれるか? 本当の主ではない俺だが」
「そうしても、藤香様も許してくれると思うよ。
 黒い鬼面のあいつに、やられっぱなしなわけにもいかないし」
 藍璃は、力強く頷いたのだった。