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邦画部門

WOOD JOB!(ウッジョブ)〜神去なあなあ日常〜

WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~

2014年5月10日鑑賞

負の遺産を抱えた僕たちが思う事

 

矢口監督作品を観ると、いつも「ああ、そういう手があったか!!」と驚かされる。そして映画の可能性なんて、まだまだあるんだよ、と教えてくれるような気がする。

今回、矢口監督が眼を付けたのはなんと「林業」

はっきりいって「そんなもん、映画になるんかいな?」と誰もが思う。半信半疑で公開初日、劇場で鑑賞した。

結果。

文句なし! おもしろい!! ちゃんと、映画になってる! 

だけではない。お恥ずかしながら、最後は感動のあまり、涙腺がユルユルになり涙が流れた。

最初は林業など、全く本気で取り組むつもりなどなかった主人公、勇気(染谷将太)だが、林業研修を進めるうち、少しずつではあるが、「木と向き合う事」になじんでゆく。

矢口監督作品を追っかけている人は本作を観てすぐ察するだろう。「ウォーターボーイズ」や「スウィングガールズ」のあのパターン。

はじめは全くやる気がない主人公。だけど、あるひとつの物事に出会い、「しかたなく」「巻き込まれ」最後には「自ら進んで」それをやり遂げる。人間として成長し、人生のステップをひとつ上がる。

矢口監督作品は皆、鑑賞した後、とてもすっきりと後味が良い。

僕は、この映画の主人公と全く同じような体験を、現在進行形で継続中だ。友人が、この映画に出て来るような過疎の山村で、「小さな家」を手作りしているのである。僕も”しょうがなく、巻き込まれて、いやいやながら”作業を手伝うハメになった。まるでこれは矢口映画のパターンそのものである。

彼の車に乗って高速道をすっ飛ばし、やがて険しい山間部に入る。道路は木々が覆い被さり、昼なお暗い。たどり着いた先はもう、本作の舞台と同じ、”ど田舎”としか言いようが無かった。電車はおろか、バスも走ってない。コンビニはふた山超したところにしかない。携帯はかろうじて繋がった。しかし、WiFiの電波は届かない。僕のケータイではネットにつなげられなかった。

車から降りた僕は、里山と里山が重なり合う、その風景に圧倒された。なにより目の前に広がるのは「直線」が一切存在しない世界なのだ。僕の身体に染み付いた遠近法はまやかしだった。僕の感覚はクラクラし始めた。

都会暮らしは、全て人工的な直線で囲まれた世界だ。中毒のように使っているパソコンも人工的な平面である。この集落で暮らす事は、里山の複雑な曲線が創る、多様な造形のハーモニーの元で暮らす事なのだ。

友人がつぶやく

「ここ、鹿がよう出るんや」

友人が作っている家の、となりのおばちゃんの話では

「山には猿も出るし、熊も出るんやでぇ」という。

 

更には、この映画にもあるが、僕の友人は作業中、マムシにかまれ、一週間入院した。実際に里山に暮らす事は、都会人が思うほど生易しくはない。決して、生半可な気持ちで出来ない。当然向き不向きはあると思う。しかし、僕はこの過疎の山村に何度か通ううち、いろんな発見をした。

作業中、寝泊まりさせてもらう、隣の古民家。そこに薪ストーブがある。

試しに僕は火をつけさせてもらった。都会人の僕は薪に火をつける事が出来なかった。

愕然とした。しかし、大きな発見があった。

木と言うのは貴重な財産だ。燃やせばエネルギーになる。お湯を沸かし、料理をし、部屋を暖めることができる。もちろん、建築の材料となり、食器になり、家具となる。その大切な木が、この集落の山間部では間伐されておらず、倒木が至る所にほったらかしにされているのだ。いわば、エネルギー、財産のカタマリが、そこら中に手つかずのままゴロゴロころがっているのである。そして僕らは海の向こうから、高いお金を払って油を買い求め、それで電気を作り、ケータイやパソコンを使う。僕たちはそれを当たり前だと思って利用している。

ちょっと立ち止まって考えれば、こんなおかしな事は無いのだ。

僕は「この集落をなんとかできないか」とまで考えるようになった。

僕たち都会人は、今再び、里山での暮らし方を再発見しようとしている。

ただ、矢口監督は「この映画で林業の啓蒙をやりたかった訳ではない」と述べている。今回、矢口監督は「林業」という題材、その「リアルな姿」に純粋な興味を持ち、映画の素材として使いたかったのだろう。林業という「テーマ」は矢口監督の腕にかかれば、エンターテイメント映画として成立する事を証明したのだ。

自分の二世代前、おじいちゃん達が育てた木を、平成の現代に”恵み”として有り難くいただくこと。主人公の勇気は気づいたのだ。林業は木を切り倒す事だけではない。木を植え、育て、そして次の世代ではなく、もっと先の世代にバトンタッチをする事なのだと。

何万年後まで保存しなければならない「負の遺産」をかかえてしまった21世紀、ニッポンの僕たちは、22世紀、いや、もっと先に何を受け渡すことができるのだろう。それを今考えてみてもいいのではないだろうか?

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆☆

配役 ☆☆☆☆☆

演出 ☆☆☆☆☆

美術 ☆☆☆☆

音楽 ☆☆☆☆

総合評価 ☆☆☆☆

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作品データ

監督   矢口史靖

主演   染谷将太、長澤まさみ、伊藤英明

製作   2014年 

上映時間 116分

予告編映像はこちら

 

https://www.youtube.com/watch?v=czlmoufvB8U