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-屋上-(刹奈)

この状況を小説にしたらどういう文章で表わされるのだろうか。

 

青い空、春の風がささやく学校の屋上。

校庭で遊んでる男子の声やボールの弾む音、教室の窓が開いているのか女子の笑い声が聞こえる。

第一校舎という古い校舎の使われなくなった屋上のフェンスに寄りかかってたそがれているのは私。

 

なんてそんなさわやかな感じになるだろうか。

高校生活も二年目に入り、世の中が言う華のセブンティーンが到来した。

だがどうだ。世の中のみんながみんな、華のとかそんな輝かしい学生生活を送っているとは言えない。

現に私は人生に失望した。それから二年が経っている。

失望した人間が輝かしい生活を送れるわけがないのだ。

誰に言うものでもなく、ただ一人時間の暇つぶしにここにやってきたようなものだ。

早く私を殺してくれる人が現れないだろうか。

そんなことを毎日頭の中で唱えている。

 

「アイタ!」

と同じタイミングのころ、ガシャンと大きな音がした。

驚いて振り向くと、そこには座りこんでいる男子生徒がいた。

ミディアムというのか、少し長い黒のストレートな髪の毛。

前髪が目にかかっているけど、暗い印象をうけない明るい表情。こっちを見て照れ笑いしている。

「いやー、足滑っちゃったよ。どうやってこの中入ってんの、刹奈ちゃん」

男子生徒は立ち上がってお尻パンパンと払うと、こっちに向かって歩いてきた。

…ていうか。

「なんで名前知ってんの」

「え!だって俺ら同じクラスじゃん!」

いたっけこんなやつ。

黙って男子生徒を見ていると、彼は大笑いを始めた。

「ぶっはははは!ガチで知らなかったやつだ」

何がそんなに面白いかわからない私はただ彼を見つめるしかなかった。

そんな彼の手首に目が行った。

あ、このリストバンド…。

「夏フェスのリストバンド」

「お、知ってる?まさか刹奈ちゃんも行ったことある?」

「中学の時だけど」

「マジ?なんのバンド好きなの!」

子犬のような表情だ。

「結構いろいろ好き…ってかあんた誰」

「あれ?名前言ってなかったっけ?」

私がさっき寄りかかっていたフェンスに今度は彼が寄りかかった。

「上村歩。よろしくね、真仲刹奈ちゃん」

この状況を小説にしたらどういう文章で表わされるのだろうか。

突然現れた同じクラスという男子とこの使われなくなった屋上で出会ったのが始まりだった。

始まり…?私の頭の中は何か始めようとしているのだろうか。

なんでもいいや。死ぬまでの暇つぶしを頭に思い描いて、時間が早く過ぎればいい。

 

さっき屋上で出会った歩とは一緒には教室に戻ってこなかった。

あの後、「じゃ俺は保健室寄ってから戻るわ」と予鈴のチャイムが鳴ってからだらだらと歩いて行った。

教室に入ってすぐに目に入る光景。

三人の女グループが一人の女の子をいじめている。

こんな少女漫画のような光景が現実の世界でリアルに再現されているとは。

また今日も派手にやっているが、私には大通りを走る車の騒音と同じように聞こえるので、哀れな感情や怒りとかそんな感情はない。

ただこの後一つだけ煩わしいと思うシーンが待っているのはいつものことだから予想付いている。

 

教室の前から私を見つけたロリータ要素を混ぜ合わせた容姿をしている女子生徒がこちらに向かってきた。

今日もニコニコとそして跳ねるように歩いている姿にため息が出る。

「刹奈!昼休みいつもどこにいるの?あちこち探しちゃったじゃん!」

「内緒」

「えー、ずるーい!」

彼女の名前は関原乃奈美。一人称はのん。

私は窓側の自分の席に着席すると、前の席に自分の席ではないのに乃奈美は座った。

アニメの女の子のような高い声でまたおしゃべりし始めた。

特に耳を傾けるわけでもなく、窓の向こうを見ていると「あいた」という乃奈美の声に反応した。

「乃奈美うっせーんだよ」

私の机の上には見知らぬ筆箱。

顔をあげると乃奈美が頭をさすっていた。

まさかこれが乃奈美の頭に飛んできたというのだろうか。

 

本鈴が鳴り、先生が入ってくるといじめ三人組は自分の席へ戻って行った。

乃奈美も苦笑いを浮かべ、自分の席へ戻って行った。

 

 

授業終了のチャイムがなり、今日も暇つぶしが終わったと頭で思っていた時だった。

そういえば歩がいない。

昼休みの終わり際に確か保健室に寄ってから戻ると言ったはず。

知らない間に帰ってしまったのだろうか。教室で一度も姿を見なかったけど。

ホームルームも終わり鞄を持って教室を出た時だった。

「お前今までどこにいたんだ」

その声に反応し、振り返った。

そこには先生に怒られている歩の姿があった。

「体調悪かったんで、保健室で休んでました」

「その言い訳、俺が担任もったときから何回も聞いてるぞ。そんなに頻繁に調子悪くなるんなら…」

「あ、刹奈ちゃん!」

名前を呼ばれてはっとした。

「おい、上村。まだ話終わってないぞ!」

「病院行けっていいたいんだろ。もう何回も聞いた!じゃ、さよならー」

先生は歩をもう一度止めようと試みたが、歩はもう用が終わったようにこちらに向かって歩いてきた。

なぜだかわからないけど、私はそのまま逃げるように歩きだした。

「え、ちょっと!刹奈ちゃん露骨に逃げないでよ」

ていうかなんでついてきてるんだろうか。

無視して歩いていると目の前に立たれた。

「ねぇってば!」

「何」

目が合い、そのまま私は離せなかった。

「このあと暇してない?」

「…してない」

目をそらしてそのまま歩の隣を通り過ぎた。

後ろで「じゃあ、また明日ー!」との声にも返事をせずにそのまま階段を下りた。

 

 

二年前をきっかけに感情を殺すかのように、何も考えない日々を続けてきた。

だから今、一瞬にして湧きあがった感情についていけず頭の思考回路がショートしているような気がした。

なぜ、今日も歩が屋上に、しかも私より先にいるんだ。

「あ、刹奈ちゃん!待ってたよ!」

なぜ私に待ち人がいるんだ。

その前に同じクラスなのに今日初めて会うことがまず疑問だ。

「あんたいつからいた?」

「二限」

朝からいないことは確かだったか。

二限は体育、三限は選択授業で会わないとして、四限は普通に歴史の授業だったはず。

そこまで考えたが、電源ボタンを押したかのように考えるのをやめた。

「刹奈ちゃんいつも昼休みはここにいるんだねぇ」

私もこの場から離れればいいものの、ここ以外にどこに行っていいかわからず結局動けないままでいる。

そのせいで歩に話しかけれられる。

黙って突っ立ってると、歩がこちらに近づいてきた。

「な、なに」

「これ知ってる?」

そう言って見せてきたのは昨日とは違うリストバンド。

そこに書いてあるのはバンドの名前とライブのタイトルだった。

「紫?知ってるけど」

「マジ!?俺このバンド好きなんだよ。もしかして刹奈ちゃんも?」

「…うん」

また疑問が生まれた。

このバンドって…。

「紫のボーカルかっこよすぎだよなー」

あ、そこか。

特に深くは考えず、なぜか少し歩といることに慣れてきている自分にも特に何も思わずにその場を過ごした。

 

来る日来る日、なぜかそこに歩がいた。

ずっと私だけの居場所だったのに。

「ほれ」

屋上について歩の姿を見るなり、歩が何か投げてきた。

受け取るとラップで巻かれたコッペパン。学校の売店で売ってるやつだ。

「なに」

「あげる」

ニカッと笑うのはいつものことで、まさに青春学園ドラマに出てくる俳優のよう。

その表情を見てため息が出た。

「俺に向かってため息吐かないでよ」

そう言って笑う歩。

「だって毎日いんだもん」

そういうとまたニカッと歩は笑った。

「だって刹奈ちゃんが毎日いんだもん」

「何それ。気持ち悪」

「ひどい!」

ふっと笑いがこぼれた。

「あ!笑った顔初めて見た!」

指さして言いうもんだから恥ずかしくなって横を向いた。

自分が笑うとか…。

でも今確かにそこには笑うような感情があった。

自分でも久しぶり過ぎてそれが確かなものだと気づくのに時間がかかったけど。

 

 


この本の内容は以上です。


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