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α回路(立ち読み専用ページ)

α回路(立ち読み専用ページ)          逢樹広都

 

 

 ハラエ博士の一生涯の大傑作が、“あんね”と言う機械であることは間違いなかった。少女の形をしたその機械は、木に登って蟻を捕まえたり、足を引っ掛けてこけたハラエ博士に「まあ、八回目。いっそ家の中全部動く歩道にしたらどう?」と冗談を言える程度には、知能も運動能力も備えた高性能機械だった。すばらしい大発明だと言っても良い。

 

 首都で発表でもすれば、ハラエ博士には莫大な富と、名声が手に入るだろう。だが、博士にはそのつもりはない。

 

 博士は、自分の作った大切な機械たちと、自分の家で平和に暮らせれば、それで幸せだったのだ。

 

 製作年数を八年もかけたそのすばらしい機械“あんね”を、ハラエ博士はとても誇らしく思っているし、特に大切に思っていた。

 

 

 

 例えば“あんね”に「このボールを持ってご覧」と言うと、人間そっくりの動きでボールを受け取り、まるで人間がするように片眉を上げて、

 

 「これだけ?命令が簡単すぎて不満を感じるわ」

 

 と言う。

 その声といい、表情といい、人間にしか見えない。

 

 だから、一年、二年と、その機械“あんね”と一緒に暮らすうち、ハラエ博士はいつしか、自分の作った“あんね”が本当の人間のような気がしてきたのだった。

 

 「私の大切な“あんね”、君はきっと、本当は人間なんだろうね。だとしたら、なんて素敵な女性なんだろう!」

 

 ハラエ博士は、“あんね”が機械であることをすっかり忘れ、”あんね“のことを愛してしまっていた。

 

 「美しいあんね、どうか私と結婚してもらえないだろうか。」

 

 一方“あんね”はハラエ博士の作った機械のため、博士に逆らうはずがない。博士の言うことを聞くようにインプットされているのである。

 

 “あんね”は機械だから、博士のことを別に愛してはいなかったが、ハラエ博士が結婚してくれと言ったため、「分かったわ、じゃあ結婚しましょう」と、あっさり結婚してしまったのであった。

 

 

 

 かくして、人間と機械の夫婦生活が始まった。

 

 近所の人々は、いつも機械ばっかり相手にする変わり者の博士を、「変人でどじな愛すべき博士」だと思っていたため、博士に若いお嫁さんが出来たことをとても喜び、お祝いものを沢山持ってきてくれた。

 

 ハラエ博士は“あんね”が機械ということを忘れていたため、申し訳ない気持ちにはならなかった。“あんね”ももちろん、気にしなかった。近所の人たちも、まさか人間にしか見えない可愛らしい奥さんが、機械だとは夢にも思わなかったのである。

 

 

 

 新婚生活が始まり、ハラエ博士は幸せの絶頂だった。

 

 一方の“あんね”はというと、別にハラエ博士を愛してはいなかったため、別に幸せではなかった。

 

 いや、“あんね”は博士を愛していた。しかしそれは博士が「僕を愛してくれ」と言ったため。命令に従ったのだ。実際のところ、“あんね”は博士を愛していなかった。”あんね“は幸せではなかったが、別に不幸せでもなかった。

 

 

 

 ただ“あんね”には気になっていることがあった。

 

 

 

 もう一人の“あんね”のことである。

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 ハラエ博士の一生涯の大傑作が、“あんね”という機械であることは間違いなかった。

 

ハラエ博士は“あんね”を愛していたが、同様に、今までに自分が作った他の機械たちのことも、とても大切に思っていた。

 

博士は大傑作”あんね“を作った少し後に、簡単な機械を一つ作っていた。

 

それを最後に、機械作りをやめてしまっていたので、その機械はハラエ博士の作った最後の機械ということになる。

 

ハラエ博士は、大傑作“あんね”の復習のつもりで、“あんね”にそっくりな機械を作ろうと考えていた。

 

博士は“あんね”にインプットしたプログラムを、極めて簡単な数式に書き直し、その機械に入力していった。

 

なので、その“あんね”は本物の“あんね”より少しだけ頭が悪くなった。部品にも、安いものが使われた。

 

本物の“あんね”の肌には、柔らかくて温かい、人間の肌そっくりの材料を使ったが、その“あんね”には、世界一丈夫な金属の材料を使った。

 

なので、本物の“あんね”はまるで人間そっくりで、その本物の“あんね”に顔はそっくりにも関わらず、その“あんね”は一目で機械だと分かる見た目になった。

 

近所のおばさんがニコニコと言ったのだ。

 

「まあ。まるであんねちゃんが機械になったみたいね。」

 

ハラエ博士は、その機械の“あんね”に言った。

 

「おぉ、お前はとても丈夫な機械になったよ。ちょっとやそっとのミサイルでも壊れないだろう。どうか、いざと言う時は、私の大切な家、大切な機械たち、そして何より、私の大切な“あんね”と私を守ってくれるね。」

 

ハラエ博士は、二台目の“あんね”には、家の用心棒になってもらおうと考えていた。

 

処理スピードの遅い部品を使っていたため、その機械はすぐには答えることが出来なかったが、きっちり三秒後に、

 

「かしこまりました、ハラエ博士」

 

と答えた。

 

出来た機械はどこからどう見ても“あんね”にそっくり。

 

ただし作ったばっかりの”あんね“は、硬くて冷たい金属の肌をしており、しゃべり方も機械じみていた。そこが大きな違いだった。

 

また、二台目のあんねは処理スピードが少し遅く、動きも、一台目のように軽やかに飛び跳ねたりは出来なかった。

 

さらにもう一つ、二台目の“あんね”には一台目の“あんね”と違うところがあった。

 

 

 

「α回路」である。


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