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 明姫の背に回したユンの手に力が入った。
「済まない。領議政は臣下とはいえ、私の伯父だ。その伯父がそなたの大切な家族を奪った。私がそなたの素性を知っていると言えなかったのは、私が王であることもむろん関係している。ただ、それだけではない。そなたの大切なものを奪い尽くした領議政の甥であるという立場が心苦しくて言い出せなかった。そういう理由もあったんだ」
 ユンが堪りかねたように言う。
「私が謝ってどうにかなるものではないが、本当に済まないことをした。そなたの両親や弟、そして多くの使用人があの火事で生命を落とした。明姫、いつか、そなたと二人で明姫の両親の墓に参ろう。妻の両親であれば、私にとっても義理の父母になる人たちだ。せめて墓に詣でて詫びたい。私は義父上と義母上に約束するつもりだ。明姫を一生妻として大切にします、もう哀しませるようなことはけしてしないと誓うよ」
 済まない。ユンは繰り返し、頭を下げた。
「止めてください。国王さまがそのように何度も頭を下げてはいけません」
 瞳を潤ませて言う明姫に、ユンは微笑む。
「国王であろうと、自分が正しくないと自覚したときは潔く謝らねばならない。それは男としてというよりは人間として当たり前のことだ」
 この男は何というひとなのだろう。国王という至高の立場にありながら、自らの非を潔く認め、自分などのような者にも躊躇いなく頭を下げて謝罪する。
 もしかしたら、自分が愛した彼こそがこの国に光をもたらす聖君と呼ばれる人なのかもしれない。この時、明姫ははっきりと思った。
 この男の傍で、私はこれからの人生を生きてゆくのだ。ユンが国王であろうとなかろうと、そんなことはどうでも良い。ただ自分の心が求めるままに彼を愛する。彼が自分をただ一人の想い人だと言ってくれるように、私もまた彼を生涯の想い人と思い定めて彼に寄り添って歩いていこう。
 もう、二度と彼の傍を離れない。いや、たとえ離れたとしても、明姫は何度でも彼に恋をするだろう。何度生まれ変わり、どこで彼に巡り会っても、きっと彼に恋をする。そう確信できた。
 ユンとふと視線が合う。見惚れるほど艶然とした笑みを浮かべた彼の瞳に、欲望の焔が灯るのを明姫を見た。褥に再び押し倒され眼を閉じた明姫の上にユンの筋肉質の身体がのしかかってきた。
 静かな空間にあえかな声が響く。時を忘れて烈しく求め合う二人の身体を障子窓から差し込む夕陽が照らし蜜色に染めている。
 部屋の外では、桜草が傾き始めた春の陽の中で静かに花開いていた。

 〝朝鮮王朝史〟は今に語る。直宗大王の御世、偉大なる王に熱愛された妃あり。その名は和嬪(ファビン)蘇氏という。

 国中の民草から国の父と崇められた不世出の聖君の時代に繰り広げられた、後宮の物語はまだまだ続く。直宗大王と和嬪蘇氏の話は何も王朝史に書き残されているだけではない。これから、その歴史書に書き記されるこのとなかった、もう一つの歴史をゆっくりと語っていくことにしよう。
 
                                             (了)


桜草
 花言葉―【運命を拓く】
 その他は希望、可愛い、少女の愛、初恋、少年時代の希望、憧れ、青春の歓び、青春の始まりと苦しみ、若い時代と苦悩、幼いときの哀しみ、私を信じよ、愛情。

タンザナイト
 石言葉―道しるべ、柔軟性、自立心。誇り高き人。高貴。冷静。空想。正しい判断を下す能力を与えてくれる効果あり。和名は灰簾石。十二月の誕生石。
   ※なお、この石は一九六七年、タンザニアで発見されました。したがって、この作品で描かれている年代に朝鮮に存在していません。私が作中で使いたかったので、使用しました。
 また、本作品は朝鮮王朝時代の韓国をモデルした歴史ファンタジー物語(架空)です。朝鮮王朝時代を参考に描いてはおりますが、あくまでも作者の想像で描いた国が舞台となっていますので、実際の朝鮮王朝時代の韓国と異なる部分もございます。ご理解お願いします。

 

 


☆ ご覧の皆様へお知らせ

  この度は拙い作品をご覧いただき、ありがとうございます。
 たくさんの作品の中から後宮悲歌を読んでくださり、本当に心からお礼を申し上げます。
 もし、この続きを読みたいと思って下さったときは、どうぞ上記の方にお越し下さい。
http://kanno-novel.jp/viewstory/index/1348/?guid=ON
    
http://novelist.jp/member.php?id=36772
 
 この後、明姫は激動の歴史の中でユンとともに生きることになります。
 完結作品は、やがて明姫とユンが結ばれ、明姫が国王の最高位の側室となり生涯を終えるところまで描きます。
 どうぞよろしくお願いします。 作者 ☆

 


あとがき~ブログより抜粋~


 あとがきに代えて
  ~ブログより抜粋~

 皆様、おはようございます。
 ここのところ、創作ネタが多く、恐縮です
 最新作を書き出す前、私がテーマとして考えたのは、歴史の中の真実
 でした。現在、伝わっている歴史では語られていないこと、歴史の闇、時代の底に沈んでいった真実、そんなもの書きたいと思いました。
 洋の東西を問わず、そういった語られていない真実は必ず、どこ国にもあるものです。
 この話はたぶん、去年まだ、このブログを始めたばかりの時期に書いた記事と内容が重複すると思うのですが、よかったら、聞いてくださいね。

 朝鮮王朝時代一の暗君、要するにバカ殿さまといわれる燕山君ヨンサングンという

 王様、この王様の母は尹ユン氏といいます。
 名前はユン・ソファ。漢字では素花と表記し白い花を意味します。
 とても可愛らしい名前ですね。
 しかし、名前とは裏腹に、ユン氏は  悪女であったといわれています。
  成宗ソンジョンという王様のお妃でした。
 最初は側室として入内しましたが、最後には中殿チュンジョンと呼ばれる
 王妃にまで上り詰めたのです。
 元々派手好きな性格であったらしいのですが、特に王妃になってからは
 専横が目立ちました。自分の衣装を作るのに金を湯水のように使う、
 王様が他の側室を寵愛すれば、嫉妬を露骨にして、ついには王様と喧嘩になりその頬をひっかいたりした。

 普通の夫婦なら、夫の浮気で喧嘩して、奥さんが旦那さんの頬をひっかくなんて、 別にたいしたことではありません。でも、相手は夫とはいえ国王なのです。
 いわゆる尊い身体に傷を付けるなどは当時は考えられないことでした。
 とにかく、あんなこんなが重なり、あまりに目に余るふるまいが多いというので、ついには王様にも愛想をつかされ、最後は毒薬を賜るーつまり、自害を命じられるという最悪の事態にまでなりました。

 いつかご紹介した張嬉嬪チャンヒビンと同じですね。でも、ヒビンは朝鮮三大悪女に数えられますが、ユン氏はその中には入っていません。
 何故か? あまり朝鮮史には詳しくない私には判らないことですが、
 たぶん、ヒビンは当時の王妃はじめ、様々な人を呪ったり陥れたりしました。
 そのめには手段を選ばないようなところがあった。
 しかし、ユン氏は単に嫉妬深かったり派手好きだったというたけで、
 彼女が他人を陥れたり、そのために画策したとか呪詛したという話はあまり聞きません。その点が大きくちがってていのではないでしょうか。
 とはいえ、ヒビンは王妃から降格されてしまいましたが、それでもヒンという王妃に準ずる側室としては最高位の位階にとどまっています。一方、
 ユン氏は降格どころか、廃されてしまい、妃としての位階は剥奪されたままです。
 このユン氏の生涯を描いたのが名作王と私です。
 ユン氏が少女時代、まだ即位する前であった王様と出会うところから始まり、毒杯を賜って死ぬ辺りまでを描いています。
 ☆左側がオ・マンソク演じる内官チョソン。真ん中がコ・ジュンウォン
演じる王様。右手がク・ヘソンのユン氏です。
 私はこのドラマでコ・ジュンウォンさんを知りました。こんなイケメンの王様を主人公の女の子の相手役にして書きたい! と思ったのも大きいです。
 またク・ヘソンの雰囲気は今、見ている王女の男に出てくる主役の女の子に似ているような気がします。☆

 このドラマでは、今でも悪女と伝えられているユン氏を真反対から見た描き方をしており、実は数々陰謀によって陥れられ、結果として悪女の汚名を着せられたという設定です。
 現実として、ユン氏か悪女ではなかったという陰謀説もあるらしいですが、
 これは歴史の中では、あくまでも定説てはなく傍説として語られているに
 すぎないようです。
 このドラマではユン氏だけではなく、彼女を一途に慕い続けた内官(宦官)
 チョソンもまた、もう一人の主役として登場します。
 番組の終わりに、チョソンと先輩の宦官が二人で話しているシーンがあります。

 後世の人はお妃さま-ユン氏ーを悪女だというだろう。
 だが、お妃さまと同じ時代に生きた私たちは、お妃さまが陥れられて
 悪女に仕立て上げられたのだと知っている。私たちだけが真実を
 知っているんだ。そして、歴史というのは、そういうものなんだ。
 それはそれで良いではないか

 王と私は悪女と今伝えられている女性を前向きで誠実に生きようとした女性ー真逆から捉えた作品でした。彼女に対する制作者の共感と哀惜が感じられる傑作だったと思います。
 また、歴史というものについての定義というか、とらえ方も大変よく現れていました。
 私がまだ韓国時代劇を見始めてまもない頃だったというのもありますが、
 これも以前ご紹介したドラマ妖婦 チャン・ヒビンとともに
 その後の私に大きな影響を与えてくれたドラマでした。
 私が韓流小説を書いてみたい思う直接のきっかけとなり、また、歴史観にも少なくない影響を受けた名作です。
 確か、韓流時代劇を見始めて、チャン・ヒビンと王と私が最初と二番目くらいに見たものではないかと記憶しています。
 歴史はそれ自体が壮大なドラマです。
 ましてや、表に出ていない、今に語り継がれていない裏側にも
 興味深い事実や出来事はたくさんあると思います。
 それをどんな形で再生し、息吹を吹き込んで新たな物語として今の
―後世に生きる人たちに伝えるかというのが歴史を取り扱った
 作品(ドラマ・小説あらゆるものを含めた)の役割ではないかと考えます。
 私の最新作は架空の物語ではあるけれど、そういう正史には語らられなかった真実を語るという形で話が進んでいく予定です。
 王と私を見てから三年になりますが、いまだにあの作品は私に大きな
 影響を与え続けているのだなと、最近になって改めて感じた次第です。

 

2013/01/24

 


奥付

☆ 最後までご覧いただきまして、ありがとうございます。心よりお礼申し上げます。 ☆

【2014-04-13】後宮悲歌~何度でも、あなたに恋をする~⑥


http://p.booklog.jp/book/84723


著者 : megumi33
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/megumi33/profile


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この本の内容は以上です。


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