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はじめに

 このテキストは、2013年3月に水曜社より刊行された『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート2』掲載の「総合評価指標Wins Above Replacement(WAR)の考え方と算出方法」(岡田友輔・蛭川皓平)を電子化したものです。アメリカで注目を浴びるセイバーメトリクスの重要指標Wins Above Replacement(WAR)のコンセプトの解説と、合同会社DELTAによるWARのNPB対応についての検討内容をまとめています。

 2014年4月に発売された『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート3』(水曜社刊)では、このテキストで基礎を構築したNPB版WARの、精度向上に向けた改修について解説しています。このテキスト最後の部分で挙げている課題についても「パークファクター補正」「NPBに適した守備位置補正」「UZRの守備位置内リーグ平均値をゼロにするための補正」「走塁評価」などについては着手・検討していますので、NPB版WAR構築の最新事情について関心のある方は、ぜひ、ご購読をおすすめします。

『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート3』 

水曜社刊 岡田友輔他著 B5判並製 200頁 本体 2,000 円 + 税 978-4-88065-340-2 C0075

水曜社ウェブサイト http://www.bookdom.net/suiyosha/1400yomim/1458saber3.html

Amazon http://www.amazon.co.jp/dp/4880653403


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最終更新日 : 2014-04-02 20:15:16

WARの概要

 本書の巻頭には「WAR(Wins Above Replacement)」という指標の数字が掲載されている。WARとは選手個人の総合的な貢献度を示す指標で、ある意味セイバーメトリクスにおける評価指標の最終到達点とも言えるものである。WARはアメリカでは既に算出・公開され親しまれているが、日本ではこれまではっきりした形で公開されたことはなかった。

 しかし、WARは非常に重要な指標で、これから活躍の場面は増えていくことが予想される。これまでは紹介されることが少なかったが、この機会にコンセプトを説明してみたい。

 結論から言えば、WARは打撃・走塁・守備・投球などあらゆるプレーによる貢献度を総合的に評価し、最終的に選手がどれだけ「チームの勝利を増やしたか」を評価する指標である。これまでも打撃や守備に関する個別の評価基準はさまざまなものが存在していたが、WARはそれらを統合していることが最大の特徴と言える。要するに、ひとつの数字で対象の選手の貢献の総量を知ることができるのである。打撃が得意な選手と守備が得意な選手を比較することもできるし、能力が高いが出場機会の少ない選手と、能力は平凡だが出場機会が多い選手どちらの貢献度が高いかも比較できる。

 Wins Above Replacement(勝利数代替水準対比)という名前が表す通り、WARの数字は同じ出場機会をその選手が故障などによって失われた場合に出て来る「代替選手」が出場する場合と比較して、どれだけチームの勝利数を増やしたかという意味になる。WARが2.0の野手なら、その選手が出場する場合と最低限のコストで確保できる野手(代替選手)が出場する場合とを比較すると、前者のほうがチームの勝利数が2つ増えるという評価を意味する。

 WARは代替水準との比較という共通する考え方によって野手にも投手にも適用できる。そのため結果として、あらゆる選手をひとつの数字で比較することが可能になるというわけだ。貢献度の評価において、客観的にデータから評価できることを漏れなく考慮するように設計されており、この意味で究極の評価指標と言える(実際には、現状では課題も多く存在する)。

 ここからはWARの考え方と計算構造を詳細に見ていくが、基礎的な説明や技術的な議論になる部分も多く、既にご存知の内容があるかもしれない。また指標を目安として使用する上では技術的な部分を全て理解しなければならないわけではない。必要に応じて読み飛ばしてほしい。使用にあたってのポイントについては、最後の活用方法や注意点の項に記述している。そこから読み始めるのもよいかもしれない。


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最終更新日 : 2014-04-02 04:20:52

選手評価の基礎

 まずは野手のWARを前提に、最もわかりやすい打撃の部分を説明する。それにあたって根本的な選手評価の考え方からおさらいをする。

 はじめに確認しなければならないのは、選手「個人」の評価を目的とすること、そして野球の目的は勝利を目指すことという2点である。選手評価指標として当たり前の前提だと感じるかもしれないが、一般的な野球の数字はこの当たり前を反映していない。打点は打席の選手の働きもさることながら、どれだけ走者がいる状況で打席が回ってきたかに大きく左右される数字であり、個人の評価には適さない。また打率はスタンダードな評価であり、表彰の対象にもなっているが、打率の高低とチームの勝率との関連は弱い。

 打席に入ったときの走者の数に左右されるなどの不公平を排除して、打者個人を評価するためには、四球、死球、単打、二塁打、三塁打、本塁打などのその選手の働きによって生じる打席の結果を用いるべきである。厳密に言えば、打席に入ったときの状況によって安打が出やすい、四球が出やすいなどの有利不利は存在するかもしれないが、打点のように直接的に左右される数字より影響は少ないし、統計を見ると走者状況による打撃結果の偏りはそれほど大きくない。また、打席数がある程度増えれば、各打者は様々な状況に遭遇し、その違いは平均化されていくことになる。このように、個人の責任範囲で生じた結果を選別することによって、まずは2つのポイントのうち個人評価を目指すという部分に対処する。

 次に考えなければならないのは、野球は勝利を目指すという点である。勝利が野球にとっての成果である以上、選手の貢献度はどれだけ勝利に貢献したかによって測定されなければならない。ただ単に四球や安打の多さを見ても、それがどう勝利に関わっているかがわからなければ選手の勝利への貢献度は評価できない。

 ただ、いきなりプレーと勝利を関連付けようとしても、そのままでは関係性が把握しにくいそのため、「勝利の増加」に貢献する要素を「得点の増加」と「失点の減少」に分ける。勝敗はチームの得点と失点によって決まる。勝利を増やすには得点を増やすか失点を減らすしかない。打撃や走塁であれば得点を増やすことが目的だし、守備や投球であれば失点を減らすことが目的になる。

 打撃に関して言えば打撃における各プレー(結果)が得点とどう関係しているかを明らかにすればいい。ここで登場するキーワードが「得点期待値」である。得点期待値は野球の状況をアウトカウントと走者状況に基づいて24に分け、それぞれの局面についてその状況から平均的にどれだけの得点数が見込まれるかを算出したものだ。

 アウトカウントは「ノーアウト」「1アウト」「2アウト」の3つの場合があり、そのアウトカウントごとに「走者なし」「一塁」「二塁」「三塁」「一二塁」「一三塁」「二三塁」「満塁」の8つの走者状況があり得る。合計すれば3×8=24の状況があるというわけである。

 参考としてトム・タンゴらによる著作『THE BOOK Playing the Percentages in Baseball』から得点期待値表の例を掲載する。


 得点期待値表のノーアウトの列、走者なしの行を見ると、イニング開始の時点から終了までの間に平均してどれだけの得点が見込めるかがわかる。その状況が出現してから、無得点に終わる場合もあれば1点取れる場合もあり、場合によっては5点取れることもあるが、それら実際に起こった全てのケースについて平均すると.555点になることが表されている。

 そして走者が一塁に出た状況になると、そこから平均的に見込まれる点数は.953になる。ある打者が無死走者なしから四球を選んで出塁したとして、チームの戦力や環境が平均的だった場合を仮定すると、得点の見込みが差分の約.398点(.953−.555)だけ増えたことを意味する。

 逆にアウトになってしまうと、得点の見込みは約.297点に減少する。これは、打つ前は出塁する可能性もアウトになる可能性もあり平均的には約.555点を見込んでいたがアウトになったことにより見込みが減った、すなわち平均的な打者が打つ場合と比較して得点(の見込み)を約.257点(.555−.297)だけ減少させたことを示している。

 このように得点期待値を用いると、発生した出来事の価値を、客観的に明らかな「アウト」「走者状況」という判断要素と過去の統計に基づいて評価することができる。価値が意味のある単位で客観的に決まる、ということが重要だ。プレーの価値とは結局のところ、それによって走者が出たりアウトが増えるといった形で局面が変化し、得点の見込みが変化する(結果として勝利の増減に影響を与える)ことにある。プレー前後の得点期待値の変化によってそのプレーの価値を計るという原理は、WARに含まれる要素全体に共通する。

 打者の具体的な評価もこの原理を応用する。前述した個人評価という考え方で考えると、使える数字は四球、死球、単打、二塁打、三塁打、本塁打という打席の結果であった。これらにどれだけの価値があるかを知るには、これらのプレーが発生する前後で得点期待値がどのように変化しているかを調べればいい。同じ四球でも1アウト一塁で発生する場合もあれば2アウト三塁で発生する場合もあり様々だが、全てのケースで生じた得点期待値の変化を集計して平均をとると、四球は平均的にチームの得点を0.323点増加させるものであることがわかる。同じ集計を対象とする項目全てについて行えば、選手のプレーがどれだけ得点を増減させるかが判明する。それがすなわち各プレーの得点の意味での価値を示す。『THE BOOK』によれば、各イベントの得点価値は表2のようになる。

 得点価値を使って打者を評価するには、判明した得点価値を単純に打者の成績に掛け合わせればいい。

平均に対する得点増減=0.323×非故意四球+0.352×死球+0.475×単打+0.776×二塁打+1.070×三塁打+1.397×本塁打−0.299×凡打−0.301×三振

 上記の式が意味するのは、打者の働きによって得点の平均的な見込みがどれだけ増減したかである。打者の評価という考えに寄せて表現すれば「同じ打席数を平均的な打者が打つ場合に比べて、どれだけチームの得点を増やしたかまたは減らしたか」となる。平均的な打者ならこの数値はゼロになり、平均を上回る打者ならプラス、下回る打者ならマイナスが記録される。数値が+5なら得点の見込みを平均に比べて5点増やしたことになる。

 このようにプレーに一定の得点価値を与える評価方法はLWTS(Linear Weights System)と呼ばれる。LWTSは得点期待値の観念から派生する非常に強力な評価原理である。

 LWTS方式でプレーの価値を計測していくと、実際に迎えた局面による有利不利を排除して、全ての打者を平均的な環境に置いたと仮定した評価が行える。二塁打を打っても、走者がいなければ実際には点は入らない。だが、たまたま満塁だったら3点が記録される。LWTSはそうした実際の局面には左右されない、プレーによる平均的な得点増加を算出する。こうして求めた数字により、打者の責任の範囲内の成績を、勝利に繋がる意味のある単位で評価を行うことができる。

 以降では走塁や守備も見ていくが、得点期待値はそこでも登場する。得点期待値は打撃に限らず野球におけるあらゆる出来事の価値を計る度量衡となるもので、分析の基礎として極めて重要な概念である。得点期待値をうまく活用していくことによって様々な指標が構築される。なお得点期待値は実際に野球を行った結果こうなるという数字であり、対象とするリーグやシーズンが異なれば数字が変わることに注意が必要だ。得点期待値が変われば、当然導き出される得点価値の数字も変わる。得点期待値や得点価値は絶対的に定まった数字ではなく、リーグごとに変化するものである。


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最終更新日 : 2014-04-02 15:06:09

打撃指標wOBA

 打撃の評価はここまでの計算で済むのだが、実際のWARの算出においては一度wOBA(Weighted On-Base Average)という指標を算出して利用する。wOBAはそれ自体が打撃の評価に用いられる有用な指標であり、wOBAを理解することとWARとの関係を把握しておくことは重要なため、wOBAの成り立ちについても触れておく。

 wOBAは、打者がどれだけ得点の増加に貢献する打撃をしているかという意味でのパフォーマンスを「率」の形で端的に評価するために存在する指標である。四球や安打の数に得点価値を掛け合わせて求めたLWTSの数字そのままでは貢献の「量」を表しており、打席数の違う選手同士を端的に比較することができない。

 打席数をそろえたいだけならLWTSの数字を打席数で割ればいいのだが、wOBAはより簡便に扱えるようにするため「スケールを出塁率にそろえる」という工夫を施している。なじみのある数字と同じようなスケールの数値であれば、目にした数字が優秀なものかそうでないかがわかりやすい。

 LWTSを出塁率のように見せるためには、まずマイナスの価値として数えられているアウト(凡打と三振)を式から除外する必要がある。といってもそのまま除外すれば評価のバランスが崩れてしまうため、プラスの価値を持つ項目をアウトと比較する形にする。例えば、+0.47の価値である単打は-0.30の価値であるアウトと比較すれば+0.77の価値であることになる。このように、アウトにマイナスを与えていない出塁率[(安打+四死球)÷打席]と見かけ上の形式をそろえる。

 しかし得点価値(係数)をアウトとの差に変えて打席数で割るだけでは、MLBで求める平均値は約.300になる。出塁率の平均は約.330であるためギャップが生じることになる。出塁率を基準としてよりわかりやすくするため、平均値が出塁率と同じになるように全体を1.15倍する。こうすると、一般的に使用されるwOBAの式が出てくる。

wOBA=(0.72×非故意四球+0.75×死球+0.90×単打+0.92×失策出塁+1.24×二塁打+1.56×三塁打+1.95×本塁打)÷打席 ※分母の打席からは目的に応じて犠打や故意四球を除外する

 こうしてできあがった指標がwOBAである。アウトをゼロにしたり全体を1.15倍したりする補正は結果として出てくる数字の見かけを変えるためだけのもので、最終的な優劣の評価には影響を及ぼさない。.330あたりを平均としたレートスタッツ(率の形で表される指標)として便利に使うことができる。.350なら打席を有効に使う打者だし.310なら平均的な打者を起用する場合に比べて少し得点を減らす打者だとわかる。

 wOBAからどれだけ得点を増減したかの量を逆に求める場合には、wOBA算出過程を戻していくことになる。すなわちwOBAからリーグ平均wOBAを引くことでアウトをゼロとする数字ではなく平均をゼロとする数字に戻し、スケールを直すために1.15で割る。最後に打席数を掛ければ、LWTSでシンプルに求めた「同じ打席数を平均的な打者が打つ場合に比べてどれだけチームの得点を増やしたか又は減らしたか」の数字になる。一般的にはこの数字をwRAA(Weighted Runs Above Average)と呼ぶ。

wRAA=(wOBA−リーグ平均wOBA)÷1.15×打席

 このwRAAがWARにおける打撃の評価である。繰り返しになるが、これは個人の打者の責任範囲の項目を絞り込み、その範囲でどれだけ得点の増加に貢献する働きをしたかを得点期待値に基づいて評価したもの。端的にはその打者がどれだけ得点を増やしたかを表す。

 打者のwOBAが.360、リーグ平均が.330、打席数が500なら、その打者は(.360−.300)÷1.15×500=13.0という計算で平均的な打者に比べて得点を13点ほど増やしたと評価される。なお、このwOBAの式における得点価値などの数字はMLBのデータから求められたものであり、本書ではNPBのデータから計算し直したものを使用している。

wOBA(NPB版)=(0.69×(四球−故意四球)+0.73×死球+0.87×単打+1.29×二塁打+1.74×三塁打+2.07×本塁打)÷(打数+四球−故意四球+死球+犠飛)

wRAA(NPB版)=(wOBA−リーグ平均wOBA)÷1.24×打席


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最終更新日 : 2014-04-02 04:50:29

走塁評価

 走塁についても、関連するプレーに得点価値を掛け合わせる方法によって評価を行うことができる。走塁に関連するプレーで局面の変化として客観的に計測できるのは、盗塁の成功や失敗、さらには二塁走者としてシングルヒットで生還した回数などだ。アメリカでは走者としてヒットの間に進んだ塁の数などの詳細を評価に取り込んでいるが、本書におけるWARではまだそこまでの段階に至っておらず、盗塁だけを対象としている。盗塁の得点価値は成功が+0.18、失敗が−0.32である。成功20、失敗5の選手であれば

0.18×20−0.32×5=2.0

が盗塁によって増やした得点となる。


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最終更新日 : 2014-04-02 04:52:00


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