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注意点

 WARについては混乱が出やすい点がいくつかあるため、最後にWARに関する注意点を挙げておく。

1. 過去の貢献度を示す

 WARは選手個人の過去のパフォーマンスを測定する性格の指標である。「真の能力」の類を表すことや、未来の予測をすることを目指すものではない。このため、ある年WARが飛びぬけて高くてもそれはたまたま調子が良かっただけであり次の年はWARが低いということもあり得る。これは1年間の打率が高くても、それが必ずしも将来を保証するわけではないのと同様の話である。ただし環境による有利・不利を最大限除外して各選手を平等に比較するように設計されているため、長期的にはWARの数字には選手の実力が反映されることになる。また、あるときWARが高い選手は他の期間でも高いという相関関係はある。

2. 構成要素ごとに測定の信頼度は異なる

 一般的に打撃指標は選手ごとに安定している。だが、守備指標は同じ選手でも年ごとにばらつきが大きいなど測定の信頼度が劣るとされている。このように、WARを構成する評価指標は全て同じように信頼が置けるわけではない。このため、例えば同じWAR 3.0でも「打撃評価が高く守備評価が低い選手」と「打撃評価が低く守備評価が高い選手」では、前者のほうが選手のパフォーマンスが高い(あるいはパフォーマンスによって実際にチームの勝利数が増えた)ことについて強い自信が持てる。もちろん、守備指標は打撃指標に比べればやや信頼性が低いとされるだけで、設計は合理的なもので一概に不確かなものというわけではない。またリプレイスメント・レベルの設定や守備位置補正など数字も、ある程度の期間をとって計算された一般的な数値である。本来「代替水準の選手は平均的な選手に比べてどれだけ劣るか」といった部分などは選手層の厚さなどリーグの事情によっても異なるはずで、WARがそれらをどれだけ反映できるかについては限界もある。

3. マイナスの数字が出る場合もある

 WARは置き換えが可能な水準をゼロとして評価を行うため、マイナスのWARが記録された選手については、理論的には控えの選手と取り替えてしまったほうがよかったことになる。しかし、だからといってWARがマイナスだった選手は直ちに存在価値がないということにはならない。WARは真の能力を表すものではないから、サンプルサイズ(出場量)が少ない場合にはたまたまマイナスが出てしまう場合もあるということである。極端に言えば、リプレイスメント・レベルの選手でも5打数あれば1本はヒットを打つことが見込まれるため、5打数無安打の出場をした選手はリプレイスメント・レベル以下と判断される。しかし一流の打者であってもそのような試合が続くことはないとは言えず、実力があってもたまたまWARがマイナスになってしまうことはある。すなわちマイナスのWARは指標構築上の欠陥でもなければ直ちに選手の実力がリプレイスメント・レベル以下であることを示すものでもない。

 4. 現在のところ、WARに定まった計算方法はない

 WARはリプレイスメント・レベルと対比させた選手の総合的な貢献度を示す指標という意味の一般的な用語として用いられており、アメリカでは異なる研究機関がそれぞれ独自のWARを公開している。現在のところWARに絶対的な計算方法はなく、ここでの算出は複数あるものの1つの方法であることに注意していただきたい。今後も常にアップデートの可能性があるものである。ただし、WARである限り、それぞれの基本的な考え方や枠組みについては共通している。


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最終更新日 : 2014-04-02 04:59:29

今後の改修点とデータ取得

 ここまでWARの考え方と算出方法について説明してきたが、ここからはWAR算出における現在の問題点と改善点についてである。

 先述の通り、現在DELTAで算出したWARは、アメリカで算出されているWAR(Fangraphs)を参考にしており、今後はよりNPBの現状に即したWARに改修することが必要になる。

 その中で最初にデータ取得について触れたい。主に守備評価(UZRの算出)をするために、2012年は打球のコース・距離・打球性質などを計測してきた。打球性質ではゴロ・フライ・ライナーに加え“フライナー”を採用している。これはフライの基準が余りにも広く、ポップフライとライナーに近いフライ打球でも同じ分類に区分けされるのを嫌ったためだ。

 フライナーの概念は野球の守備評価手法についての考察をまとめた『Fielding Bible』でおなじみのBaseball info Solutions社も採用しているがそれに倣った形となる。今季はフライナーの分類を加えたことで、外野手のレンジ評価が実像に近づいたのは間違いないだろう。

 今後さらなる守備評価の向上には、ハングタイムの計測は欠かせない。2013年シーズンからはデータの集計を検討している。打球の滞空時間を取得することで、UZRをはじめゾーン評価の精度の向上が期待できるからである。

 具体的には滞空時間を計測することで、打球の強さなどの揺らぎの影響を排除することが可能になる。また、データ取得の客観性を高めることで、今回は一部手のつけられなかった走塁や併殺奪取能力に加え、外野手の肩の強さなどをより詳しく分析・評価することが可能になるだろう。現状のデータ取得は、守備評価をする初期段階であることは否めない。少しでもアメリカの評価方法に近づけるようデータ取得では改善を続けていく。

 WARの改修については次のような点を課題として捉えている。「wOBA(及びFIP?)の係数を“統一球環境”でつくり直すか」「パークファクター補正を行うか」「NPBに適した守備位置補正」「UZRの守備位置内リーグ平均値がゼロになるように補正するか」「救援投手のRARにレバレッジを与えるか」「NPBのリプレイスメント・レベルの定義と算出方法」「走塁評価・捕手の守備評価」

 いずれもWARの精度を上げ、よりNPBとの親和性が高いものにするためには避けて通れないものだ。有識者と議論を行いながら検討していきたい。


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最終更新日 : 2014-04-02 05:00:54

この本の内容は以上です。


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