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計算手順

 以上が野手のWARの考え方と算出方法である。実際にどういった過程でWARが算出されるのか、計算方法に架空の数値例を当てはめてみよう。

 まず打撃は「600打席でwOBA.350(リーグ平均.330)」であれば

(0.350−0.330)÷1.15×600=10.4

 となる。走塁は盗塁成功20、失敗5の選手であれば

0.18×20−0.32×5=2.0

 守備はUZRによるが、シーズンを通じて三塁と右翼を半々で出場してそれぞれのUZRが-1.0と+4.0だった場合、守備評価そのものは-3.0、補正値は三塁手の補正値である+2.5の半分(+1.25)と右翼手の補正値である-7.5の半分(-3.75)の合計で-2.5と計算される。守備の働きと補正値を合わせた利得は  

3.0−2.5=0.5

である。ここまでで打撃・走塁・守備(補正値)の数値が求められ、平均的な野手が出場する場合に比べて稼いだ利得の合計は

10.4+2.0+0.5=12.9

となった。そしてここにリプレイスメント・レベルの選手を出場させなかったことによる利得を加算する。リーグ平均wOBAを.330と仮定しているから

(.330−0.88×.330)÷1.15×600=20.1

と計算される。最後に平均に比べて上回った貢献値の12.9と平均とリプレイスメント・レベルの差である20.1を足した33.0が、この選手が「同じ出場機会をリプレイスメント・レベルの野手が出場する場合と比べ改善させたチームの得失点差」として求められる。

 WARの計算上、最終的には得点数で計算されているこの数値を勝利数に計算するが、その方法は何得点で1勝が稼げるかを示すRPW(Runs Per Win)という数字で割るというもの。RPWは対象とするリーグの平均得点によって異なるが、一般的には10前後の数字である。33.0をこの10で割った3.3がWARの最終値となる。

 仮に計算例の選手のパフォーマンスが完全に平均的であった場合、平均と比較する部分の数値は全てゼロとなるため、リプレイスメント・レベルと比較した部分だけが残り、WARは2.0となる。このことから平均的な選手がフルシーズン出場した場合のWARはだいたい2.0くらいであることがわかり、WARを見るときのひとつの目安と考えることができる。


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最終更新日 : 2014-04-02 04:54:01

投手のWAR計算

 投手に関してもLWTSの方法を応用して評価を行うが、まず問題になるのは、どこまでが投手個人の責任範囲かという問題である。

 三振・四死球・本塁打の3項目に関しては守備側の野手が介入する余地がなく、守りの誰かに責任を与えるとすれば投手に与えることになる。問題は、バットに当たってグラウンド上に飛んだヒットや凡打である。

 優秀な投手は被安打が少ないと一般的には考えられているが、本塁打以外のフェア打球がアウトになるか否かに関しては、統計的には投手ごとの一貫性がほとんどない。ある年奪三振率が高い投手は次の年も高い傾向があるのに対して、フェア打球がアウトになる割合に関してはそういった傾向がほぼ認められない。

 これはすなわち、投手ごとに「ヒットを少なくする」能力はほとんど存在せず、被安打の多さは運や守備によるものであることを意味している。また何より、実際に打球を処理してアウトを成立させるのは野手である。計算上も、守備による安打の阻止はUZRの形で既に考慮している。ここでまた投手の被安打の少なさを評価すると、評価の体系として被安打の部分をダブルカウントすることにもなってしまう。

 突き詰めれば(被本塁打以外の)被安打に関しては投手の責任と守備の責任が混在するものである。完全に明確な取り扱いはできないと考えられ、その中でどのように対処するかは議論の余地もあると思われる。だが本書のWARでは奪三振・与四死球・被本塁打の3項目によって投手を評価することとしている。このような形式はトム・タンゴが開発したFIP(Fielding Independent Pitching)という指標に倣ったものである。

 実際の計算としては、投手の責任範囲を奪三振・与四死球・被本塁打の3項目と定め、打撃について行ったのと同じように、得点期待値に基づき機会あたりの失点の多さを評価する式を構築する。便宜上四球と死球はまとめている。

投球回あたりの失点の多さ(平均に対して)=(0.30×四死球+0.46×単打+0.75×二塁打+1.03×三塁打+1.40×本塁打−0.27×アウト)÷投球回

 プレーの得点価値の値が打撃で用いたものと異なるが、先述したように得点期待値や得点価値はリーグによって変わるものであり、こちらのほうが発表されているFIPの式に沿っているため便宜上こちらを使う。

 これらの項目のうちボールインプレー(BIP)である単打・二塁打・三塁打・凡打(アウト)の結果は投手にまつわるものではない。投手の評価にあたっては、個別の結果は無視し全ての投手にそれぞれが一定の割合で生じたものと見込むことになる。この処理によって、全ての投手を「平均的な守備をバックに投げた場合」という平等な条件で評価することができる。

 具体的な計算は、単打・二塁打・三塁打・凡打それぞれの得点価値を割合に応じて加重平均する。そうすると-0.04となり、BIP=単打・二塁打・三塁打・凡打(アウト)の合計に一律でこの得点価値を乗じる。すると式は次のように書き直される。

守備から独立した投球回あたりの失点の多さ(平均に対して)=(0.30×四死球+1.40×本塁打−0.27×三振−0.04×BIP)÷投球回

 これで、守備から独立した形で投球回あたりにどれだけ失点する投手かを評価する式になる。平均的な投手ならゼロとなり、プラスなら失点の多い劣った投手、マイナスなら失点の少ない優れた投手になる。この状態でも実質的には評価として成立するのだが、数字の感覚としてはなじみがない。そこで打撃においてwOBAが数字の見た目を出塁率に合わせることでわかりやすくなったように、投手の評価も防御率に合わせる。

 防御率に合わせるためにはまず、1投球回あたりになっている数字を9投球回あたりにするため全体を9倍する。そして平均をゼロとしたプラスマイナスの数字になっているため、最後に平均防御率を足すことで9回あたりの自責点の形にする。

守備から独立した防御率=(0.30×四死球+1.40×本塁打−0.27×三振−0.04×BIP)×9÷投球回+リーグ平均防御率

 9回あたりの失点が平均的な投手より0.50少ない投手がいたとして、平均防御率が4.00であれば、その投手の評価は3.50になる。

 ここで評価は結局、三振・四死球・本塁打の3つだけによって決まるのだから、計算を簡便する意味でBIPの項を式から除く。BIPの得点価値-0.04をその他の項目から引いて、BIPに対する得点価値の形式にする。

守備から独立した防御率=(0.34×四死球+1.44×本塁打−0.23×三振)×9÷投球回+リーグ平均防御率

 さらに得点価値に乗算している「×9」も、全ての選手について同じ計算をするだけである。これを得点価値に掛け合わせてしまう。

守備から独立した防御率=(3.06×四死球+12.96×本塁打−2.07×三振)÷投球回+リーグ平均防御率

 ところでこの計算では、投手がBIPで防げる失点をゼロとした関係上、数字が防御率より大きくなってしまうため、最後に定数でその分を減算して調整する。この定数を-1.00、平均防御率を4.20とすれば、最終的な式は以下になる。

守備から独立した防御率=(3.06×四死球+12.96×本塁打−2.07×三振)÷投球回+4.20−1.00

 最後に影響が少ない小数点以下の部分を四捨五入して定数の部分をまとめれば一般的に流通しているFIPの式ができあがる。

守備から独立した防御率(FIP)=(3×四死球+13×本塁打−2×三振)÷投球回+3.20

 計算の手順を細かく見ていくと、やや複雑にも思えるかもしれない。だが最終的な式はシンプルな形になる。内容としても、投手個人の責任範囲を奪三振・与四球・被本塁打に絞り、それらの項目をLWTSで評価するというわかりやすいものである。結果的な選手個人のパフォーマンスがどう勝利に影響したかを評価するため、責任範囲の項目に得点価値を与えるという指標の成り立ちとしては、打者のwOBAとも共通しているので、統一的に理解することができる。

 上で求めたFIPの式は防御率4.20が基準となっているが、リーグ平均防御率は年によっても異なる。実際にはその部分は調整しながら使うことになる。また、故意四球を対象外として扱う場合も多い。

 本書掲載のWARの計算にあたっては、FIPの考え方をベースとして、防御率ではなく失点率のスケールで評価を行っている。

FIP(失点率スケール)={3×(四球−故意四球+死球)+13×本塁打−2×三振}÷投球回+補正値 ※補正値(値はリーグ全体の値を用いる)=失点率−(3×(四球−故意四球+死球)+13×本塁打−2×三振)÷投球回

 こうして計算される数字が、失点率の意味でどれだけ優秀かを表す。防御率ではなく失点率を使うのは、最終的に勝敗を決定する要素として意味のある数字は自責点ではなく失点であり、また守備の影響に関しては失策という記録とは違う形で分けて扱っているからである。

 ここからWARへの変換に進む。WARがリプレイスメント・レベルとの対比によって貢献度を求める指標であることから、失点率スケールのFIPを使って同じ投球回をリプレイスメント・レベルの投手が投げる場合に比べ、どれだけ失点を防いだかを計算する。なお、この計算は先発投手と救援投手別々に行う。先発と救援でリプレイスメント・レベルの失点率が異なるからである。一般的には「短いイニングに力を集中できる」などの理由から同じ投手でも救援登板のほうが失点は少なくなる。今回は過去のデータに基づき先発投手のリプレイスメント・レベルは失点率がリーグ平均の1.39倍、救援は1.34倍と定義している。先発投手がリプレイスメント・レベルに比べて防いだ失点は次の式で計算できる。

先発投手がリプレイスメント・レベルに比べて防いだ失点={1.39×リーグ平均失点率−FIP(失点率スケール)}÷9×投球回

 これをRPWで割れば得点数を勝利数に変換でき、WARが計算できる。仮にリーグ平均失点率を3.50、FIPに基づく失点率を2.80、投球回を140とすれば防ぐ失点は32.1点(WAR 3.2)となる。失点率がリーグ平均と同一なら21.2点(WAR 2.1)である。救援投手についても、リプレイスメント・レベルを計算する係数を変えるだけで同じ計算を行う。

 WARの計算構造から言えば、投手がチームに貢献する方法は「失点を少なくする」「多くの投球回を投げる」のいずれかである。さらにFIPの考え方に基づけば自身の責任範囲で失点を減らす手段は三振を奪う、四死球を与えない、本塁打を与えない、の3つとなる。


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最終更新日 : 2014-04-02 15:08:06

活用方法

 WARは様々な要素を合理的に統合して、複数の選手を同じ土俵で比較したい場合に効果的である。同じ打撃力でも守備力が異なる選手は打撃指標だけを見て比較していては、正当な評価ができない。出場の多さや守備位置によってもチームにとっての価値は異なる。

 場面によって様々な指標が存在するからそれで構わない−−そういう考え方もあるかもしれないが、WARを用いることでデータとセイバーメトリクスの原理から見て、合理的に各種の数字を統合した場合の結果を得ることができる。異なる数字を比較・統合する道筋が根拠に基づいた手続きになるということである。

 例えば、次のような2人の選手の比較を考えてみる。新聞の成績欄に載るような数字だけでは得られる情報は少ない。

A(一塁手):打席500 打率.250 本塁打30 打点90

B(遊撃手):打席300 打率.330 本塁打10 打点40

 これを見るだけでは、どちらの選手がチームにとって貢献しているかは明確でない。四球や二塁打、盗塁の数なども考慮しないとより詳細にどれだけチームの得点に貢献しているかはわからないし、守備の評価も必要である。また、出場量も守備位置も異なる。このあたりをうまく調整して評価を行う必要があるわけだが、WARの基礎となるwOBAやUZRは合理的に攻守の働きを得点化するものであるし、出場量や守備位置の違いについてもWARは過去の統計データに基づいた客観的な補正値を与える。もちろん実際の計算では、ある程度割り切った仮定は避けられない。そのため算出されるWARの数字が全ての事情を適切に考慮した完全無欠なものとは決して言えないが、選手の総合的な価値についてのおおまかな目安とするには有効で、納得しやすい指標であると言えるだろう。


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最終更新日 : 2014-04-02 04:36:29

注意点

 WARについては混乱が出やすい点がいくつかあるため、最後にWARに関する注意点を挙げておく。

1. 過去の貢献度を示す

 WARは選手個人の過去のパフォーマンスを測定する性格の指標である。「真の能力」の類を表すことや、未来の予測をすることを目指すものではない。このため、ある年WARが飛びぬけて高くてもそれはたまたま調子が良かっただけであり次の年はWARが低いということもあり得る。これは1年間の打率が高くても、それが必ずしも将来を保証するわけではないのと同様の話である。ただし環境による有利・不利を最大限除外して各選手を平等に比較するように設計されているため、長期的にはWARの数字には選手の実力が反映されることになる。また、あるときWARが高い選手は他の期間でも高いという相関関係はある。

2. 構成要素ごとに測定の信頼度は異なる

 一般的に打撃指標は選手ごとに安定している。だが、守備指標は同じ選手でも年ごとにばらつきが大きいなど測定の信頼度が劣るとされている。このように、WARを構成する評価指標は全て同じように信頼が置けるわけではない。このため、例えば同じWAR 3.0でも「打撃評価が高く守備評価が低い選手」と「打撃評価が低く守備評価が高い選手」では、前者のほうが選手のパフォーマンスが高い(あるいはパフォーマンスによって実際にチームの勝利数が増えた)ことについて強い自信が持てる。もちろん、守備指標は打撃指標に比べればやや信頼性が低いとされるだけで、設計は合理的なもので一概に不確かなものというわけではない。またリプレイスメント・レベルの設定や守備位置補正など数字も、ある程度の期間をとって計算された一般的な数値である。本来「代替水準の選手は平均的な選手に比べてどれだけ劣るか」といった部分などは選手層の厚さなどリーグの事情によっても異なるはずで、WARがそれらをどれだけ反映できるかについては限界もある。

3. マイナスの数字が出る場合もある

 WARは置き換えが可能な水準をゼロとして評価を行うため、マイナスのWARが記録された選手については、理論的には控えの選手と取り替えてしまったほうがよかったことになる。しかし、だからといってWARがマイナスだった選手は直ちに存在価値がないということにはならない。WARは真の能力を表すものではないから、サンプルサイズ(出場量)が少ない場合にはたまたまマイナスが出てしまう場合もあるということである。極端に言えば、リプレイスメント・レベルの選手でも5打数あれば1本はヒットを打つことが見込まれるため、5打数無安打の出場をした選手はリプレイスメント・レベル以下と判断される。しかし一流の打者であってもそのような試合が続くことはないとは言えず、実力があってもたまたまWARがマイナスになってしまうことはある。すなわちマイナスのWARは指標構築上の欠陥でもなければ直ちに選手の実力がリプレイスメント・レベル以下であることを示すものでもない。

 4. 現在のところ、WARに定まった計算方法はない

 WARはリプレイスメント・レベルと対比させた選手の総合的な貢献度を示す指標という意味の一般的な用語として用いられており、アメリカでは異なる研究機関がそれぞれ独自のWARを公開している。現在のところWARに絶対的な計算方法はなく、ここでの算出は複数あるものの1つの方法であることに注意していただきたい。今後も常にアップデートの可能性があるものである。ただし、WARである限り、それぞれの基本的な考え方や枠組みについては共通している。


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最終更新日 : 2014-04-02 04:59:29

今後の改修点とデータ取得

 ここまでWARの考え方と算出方法について説明してきたが、ここからはWAR算出における現在の問題点と改善点についてである。

 先述の通り、現在DELTAで算出したWARは、アメリカで算出されているWAR(Fangraphs)を参考にしており、今後はよりNPBの現状に即したWARに改修することが必要になる。

 その中で最初にデータ取得について触れたい。主に守備評価(UZRの算出)をするために、2012年は打球のコース・距離・打球性質などを計測してきた。打球性質ではゴロ・フライ・ライナーに加え“フライナー”を採用している。これはフライの基準が余りにも広く、ポップフライとライナーに近いフライ打球でも同じ分類に区分けされるのを嫌ったためだ。

 フライナーの概念は野球の守備評価手法についての考察をまとめた『Fielding Bible』でおなじみのBaseball info Solutions社も採用しているがそれに倣った形となる。今季はフライナーの分類を加えたことで、外野手のレンジ評価が実像に近づいたのは間違いないだろう。

 今後さらなる守備評価の向上には、ハングタイムの計測は欠かせない。2013年シーズンからはデータの集計を検討している。打球の滞空時間を取得することで、UZRをはじめゾーン評価の精度の向上が期待できるからである。

 具体的には滞空時間を計測することで、打球の強さなどの揺らぎの影響を排除することが可能になる。また、データ取得の客観性を高めることで、今回は一部手のつけられなかった走塁や併殺奪取能力に加え、外野手の肩の強さなどをより詳しく分析・評価することが可能になるだろう。現状のデータ取得は、守備評価をする初期段階であることは否めない。少しでもアメリカの評価方法に近づけるようデータ取得では改善を続けていく。

 WARの改修については次のような点を課題として捉えている。「wOBA(及びFIP?)の係数を“統一球環境”でつくり直すか」「パークファクター補正を行うか」「NPBに適した守備位置補正」「UZRの守備位置内リーグ平均値がゼロになるように補正するか」「救援投手のRARにレバレッジを与えるか」「NPBのリプレイスメント・レベルの定義と算出方法」「走塁評価・捕手の守備評価」

 いずれもWARの精度を上げ、よりNPBとの親和性が高いものにするためには避けて通れないものだ。有識者と議論を行いながら検討していきたい。


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最終更新日 : 2014-04-02 05:00:54

この本の内容は以上です。


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