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打撃指標wOBA

 打撃の評価はここまでの計算で済むのだが、実際のWARの算出においては一度wOBA(Weighted On-Base Average)という指標を算出して利用する。wOBAはそれ自体が打撃の評価に用いられる有用な指標であり、wOBAを理解することとWARとの関係を把握しておくことは重要なため、wOBAの成り立ちについても触れておく。

 wOBAは、打者がどれだけ得点の増加に貢献する打撃をしているかという意味でのパフォーマンスを「率」の形で端的に評価するために存在する指標である。四球や安打の数に得点価値を掛け合わせて求めたLWTSの数字そのままでは貢献の「量」を表しており、打席数の違う選手同士を端的に比較することができない。

 打席数をそろえたいだけならLWTSの数字を打席数で割ればいいのだが、wOBAはより簡便に扱えるようにするため「スケールを出塁率にそろえる」という工夫を施している。なじみのある数字と同じようなスケールの数値であれば、目にした数字が優秀なものかそうでないかがわかりやすい。

 LWTSを出塁率のように見せるためには、まずマイナスの価値として数えられているアウト(凡打と三振)を式から除外する必要がある。といってもそのまま除外すれば評価のバランスが崩れてしまうため、プラスの価値を持つ項目をアウトと比較する形にする。例えば、+0.47の価値である単打は-0.30の価値であるアウトと比較すれば+0.77の価値であることになる。このように、アウトにマイナスを与えていない出塁率[(安打+四死球)÷打席]と見かけ上の形式をそろえる。

 しかし得点価値(係数)をアウトとの差に変えて打席数で割るだけでは、MLBで求める平均値は約.300になる。出塁率の平均は約.330であるためギャップが生じることになる。出塁率を基準としてよりわかりやすくするため、平均値が出塁率と同じになるように全体を1.15倍する。こうすると、一般的に使用されるwOBAの式が出てくる。

wOBA=(0.72×非故意四球+0.75×死球+0.90×単打+0.92×失策出塁+1.24×二塁打+1.56×三塁打+1.95×本塁打)÷打席 ※分母の打席からは目的に応じて犠打や故意四球を除外する

 こうしてできあがった指標がwOBAである。アウトをゼロにしたり全体を1.15倍したりする補正は結果として出てくる数字の見かけを変えるためだけのもので、最終的な優劣の評価には影響を及ぼさない。.330あたりを平均としたレートスタッツ(率の形で表される指標)として便利に使うことができる。.350なら打席を有効に使う打者だし.310なら平均的な打者を起用する場合に比べて少し得点を減らす打者だとわかる。

 wOBAからどれだけ得点を増減したかの量を逆に求める場合には、wOBA算出過程を戻していくことになる。すなわちwOBAからリーグ平均wOBAを引くことでアウトをゼロとする数字ではなく平均をゼロとする数字に戻し、スケールを直すために1.15で割る。最後に打席数を掛ければ、LWTSでシンプルに求めた「同じ打席数を平均的な打者が打つ場合に比べてどれだけチームの得点を増やしたか又は減らしたか」の数字になる。一般的にはこの数字をwRAA(Weighted Runs Above Average)と呼ぶ。

wRAA=(wOBA−リーグ平均wOBA)÷1.15×打席

 このwRAAがWARにおける打撃の評価である。繰り返しになるが、これは個人の打者の責任範囲の項目を絞り込み、その範囲でどれだけ得点の増加に貢献する働きをしたかを得点期待値に基づいて評価したもの。端的にはその打者がどれだけ得点を増やしたかを表す。

 打者のwOBAが.360、リーグ平均が.330、打席数が500なら、その打者は(.360−.300)÷1.15×500=13.0という計算で平均的な打者に比べて得点を13点ほど増やしたと評価される。なお、このwOBAの式における得点価値などの数字はMLBのデータから求められたものであり、本書ではNPBのデータから計算し直したものを使用している。

wOBA(NPB版)=(0.69×(四球−故意四球)+0.73×死球+0.87×単打+1.29×二塁打+1.74×三塁打+2.07×本塁打)÷(打数+四球−故意四球+死球+犠飛)

wRAA(NPB版)=(wOBA−リーグ平均wOBA)÷1.24×打席


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最終更新日 : 2014-04-02 04:50:29

走塁評価

 走塁についても、関連するプレーに得点価値を掛け合わせる方法によって評価を行うことができる。走塁に関連するプレーで局面の変化として客観的に計測できるのは、盗塁の成功や失敗、さらには二塁走者としてシングルヒットで生還した回数などだ。アメリカでは走者としてヒットの間に進んだ塁の数などの詳細を評価に取り込んでいるが、本書におけるWARではまだそこまでの段階に至っておらず、盗塁だけを対象としている。盗塁の得点価値は成功が+0.18、失敗が−0.32である。成功20、失敗5の選手であれば

0.18×20−0.32×5=2.0

が盗塁によって増やした得点となる。


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最終更新日 : 2014-04-02 04:52:00

守備の評価UZR

 守備はこれまで数字による客観的な評価が難しいとされてきた分野である。野手がどれだけアウトを獲得したかはわかっても、その対象となる機会の数(近くに打球が飛んできた数)を推定する手段が存在しなかったことがその主な理由である。

 しかし映像データを用いてどこにどれだけ打球が飛んだかを直接的に計測するZR(Zone Rating)及びその応用版としてのUZR(Ultimate Zone Rating)の登場によって、かなり筋の通った形で合理的に数値評価が行えるようになった。UZRはWARの構成要素としてだけでなく、単独でもこれまで主観的にしか語られてこなかった守備の部分に客観的な評価の光を当てる極めて有意義な指標である。

 守備に関して言えば、野手個人の仕事は近くに飛んできた打球をできるだけ多くアウトにすることや、送球によって走者の進塁を防ぐことだろう。これらの働きに得点期待値をベースにした得点価値を掛け合わせることで、個人が守備でどれだけ失点を防いだかが評価できる。

 ZRは守備位置の周辺に一定の責任範囲を決めて、そこに飛んできた打球のうち、どれだけをアウトにしたか、その程度で守備者を評価する指標である。例えば周辺に飛んできた打球のうち70%をアウトにする遊撃手と80%をアウトにする遊撃手とでは、後者のほうが優秀な働きをしたと評価することができる。

 ZRはわかりやすい上に有効な指標だが、一定の範囲に含まれる打球を全て同じように扱うところに問題がある。近くに飛んできた打球といっても、定位置から2歩のところに緩く飛んできたゴロとある程度離れたところに鋭く飛んできたゴロとでは難易度が全く違う。ZRそのままで評価すると、たまたま簡単な打球が多かった選手が有利になってしまう。

 こういった問題に対処し、より詳細な評価を行うのがUZRである。UZRは全ての打球を均一に扱うのではなく、打球の種類・位置・速度からプレーごとに理論的な価値を算出して評価する。各種のプレーに得点価値を掛け合わせて評価するのは打撃のLWTSと同様だが、守備のプレー1つひとつを細かく見てプレーごとにプラス/マイナスの評価を与える点が特徴的だ。

 難易度を算出する基礎となるのはグラウンドを細かく区分したゾーンである。UZRではまずグラウンドを多数のゾーンに分割し、それぞれのゾーンにどれだけどんな打球が飛んだかを集計する。例えばFの方向に距離6だけ飛んだ速度の速いフライ、といったように打球の種類、位置、速度ごとに細かく分類されていく。

 各ゾーンに対してプレーの価値を計算する材料は、その打球が「平均的にどれだけアウトになるか」と「どれだけ得点価値を持っているか」である。例えば三遊間に飛んだある種類のゴロは、リーグ全体のデータを見ると50%の割合で遊撃手に、10%の割合で三塁手によってアウトにされるとする。すなわちこの打球は通常60%の割合でいずれかの守備者によってアウトにされる。

 このとき遊撃手がこの打球をアウトにしたなら、60%(アウトの期待値では0.6)だった確率を100%(アウト数1)にしたということで差分の0.4アウトをプラス評価として遊撃手に与える。先述した各プレーの得点価値を用いてヒットなら0.45点、アウトなら−0.27点の価値があると見なすと、ヒットになる打球をアウトにすることには差し引き0.72点の価値があることになる。0.72点の価値があるアウトを0.4個稼いだのだから、遊撃手は得点の意味では0.72と0.4の積である0.288点だけこのプレーによって失点を防いだことになる。これがUZRによる当該プレーに対するプラス評価である。

 元々三塁手にも10%はアウトを成立させる見込みがあったが、遊撃手がアウトを成立されたからといって三塁手がマイナス評価を受けるわけではないことに注意してほしい。これは「打球の奪い合い」による評価の歪みを少なくするための計算上の工夫で、近くを守る守備者の能力によって各人の評価が左右されないようになっている。外野への緩いフライなどを考えてもこの方式は重要である。

 一方この三遊間への打球がヒットになってしまった場合、遊撃手と三塁手の両方にマイナス評価が与えられる。まずチームとして見ればこの打球で通常0.6アウトを獲得できるはずだった。それがヒットが生まれると得られるのは0アウト。0.6アウトの損となる。そして、50%が遊撃手に期待されることから0.6アウトの損失の83%(50%÷60%)は遊撃手の責任である。残りの17%(10%÷60%)は三塁手の責任になる。

 遊撃手はアウト数では0.6に0.83を乗じた0.5のマイナスであり、これに得点価値0.72を掛け合わせた0.36が得点の単位でのマイナス評価になる。三塁手も同じように、チームとした失った0.6アウトの17%を責任として被り、0.072点のマイナス評価となる。これがUZRのマイナス評価である。

 このような方式で、UZRは打球の分類ごとにアウトの見込みと得点の価値を算出しそれに基づいて選手の各守備プレーを評価するものだ。一般的にどれだけアウトが見込まれるかという平均的な水準を比較対象とする。そのため、選手ごとにプラス評価・マイナス評価を集計したUZRの値は「同じ出場機会を同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べて、どれだけ失点を防いだか」という意味の数字になる。

 打球の難易度を詳細に考慮していることや、被安打の損失も一般的な責任に応じてシェアしていることなど、守備の評価として説得力のある指標と言える。いくら技術論のレベルでうまいと表現される野手でも、他の守備者がアウトにできる打球をヒットにしていれば意味がない。

 計算方法からわかるように、UZRはただ単にアウトを取った、ヒットを許したという結果ではなくそのプレーの価値を評価している点が大事なところだ。同じアウトの成立でも、通常95%アウトになるような打球なら、選手に与えられるプラスは非常に小さく、逆に普通10%しかアウトにならない難しい打球をアウトにすれば大きなプラスが与えられる。プレーそれぞれの価値を厳密に評価することによって、守備の価値を突き詰めて表現している。

 なお、UZRは内野手を評価する際にはゴロの打球のみを対象としている。内野フライはほとんど100%アウトになるものであり、計算に含めてもたまたま誰のところに飛んできたかによって評価が歪む結果になるだけと判断されるためである。他方、外野手ではフライとライナーが対象になる。

 また、外野手に関してはアームレーティングと呼ばれる選手の肩の強さによる「進塁抑止」効果の評価も打球の処理とは別に行っている。一般的には外野手はホームを狙う走者を送球で刺す「補殺」によって肩の力を発揮するが、肩の強い外野手の貢献はヒットで進塁を狙う走者を警戒させて塁に留まらせるという要素もある。これは決して数字に表れない要素ではなく、得点期待値の差と平均的な割合から計測可能である。

 具体的には、走者一塁でライト前ヒットが出たとき、走者が右翼手の肩を警戒して二塁に留まった場合、一三塁の得点期待値になる可能性があったところを一二塁の得点期待値に抑えたことになる。この期待値の差分が失点抑止効果だ。通常一定の割合で三塁に進まれてしまうとすれば、その割合と得点価値を掛け合わせた分が進塁を抑止させた外野手の貢献値である。外野手の肩で結果が分かれる局面についての進塁抑止効果(補殺によるアウト獲得も含む)を集計したものがアームレーティングである。

 捕手についてはUZRによる打球処理ベースの評価はなじまないため、盗塁阻止の数字を基礎として評価を行っている。

 なお、今回のUZR評価に関しては12球団通しての評価となっている。これはリーグでの評価では同ポジションの比較対象選手の数が限られる点を考慮したためである。全体のサンプル数を優先したことでリーグ間で守備力に差のあるレフト及びライトの評価は、他のポジションより数字が極端に出てしまっている。これは注意していただきたい点である。


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最終更新日 : 2014-04-02 04:26:55

守備位置補正

 UZRによる守備の評価は、あくまで同じ守備位置の選手の中での比較である。異なる守備位置の選手を比較することを目的としていない。WARは最終的には異なる守備位置の選手同士の比較も目指すため、異なる守備位置のUZR同士をうまく比較するための調整が必要になる。それが守備位置補正である。

 例えば遊撃手の守備は一般的に難易度が高く、能力の高い選手が集まっているため「平均的な遊撃手」の守備は「平均的な野手」が遊撃を守る場合に比べてチームの失点を減らす。貢献は大きなものとなる。その「減らしている分の失点」を「平均的な野手」と比較する場合には出場による価値として評価する必要がある。1年間の出場に対しての各守備位置の補正値は表3のようになっている。

 この数字は、守備指標の比較と集計によって求められる。仮に遊撃と三塁を両方守った選手がUZRのような数字で遊撃では−3、三塁では+3だったとするなら、同じ守備力の選手が2つの守備位置で6点の差を出していることから、遊撃手のUZR±0は三塁手のUZR±0に比べて6点分価値が高いのではないかと考える。1人の選手だけから結論を出すことはできないが、このような比較を全ての守備位置について膨大なサンプルを対象に行うと表に示したような補正値が出てくる。なお、本書のWARではMLBについて算出された数値にNPBに合わせた若干の調整(二塁手の数値を上げるなど)をして使用した。


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最終更新日 : 2014-04-02 04:27:46

リプレイスメント・レベル

 ここまで打撃・走塁・守備・守備位置と各要素について評価を説明してきたが、これらの評価はいずれも「リーグ平均」との対比で表現されていた。しかし選手の価値を比較する基準としてリーグ平均は有効なものなのだろうか。

 平均値は確かに数理的には明確で扱いやすく、指標を構築する上でのモノサシとしては大活躍する。しかし現実の野球の事情を考えると、チームはリーグ平均レベルの選手を好きなだけ用意できるわけではない。またレギュラー選手がリーグ平均と比べマイナス評価の選手だったとしても、その選手が故障し控えの選手が出てくる場合に比べれば、まだチームにとっての悪影響は小さい、というケースも多いはずである。というより、そう考えられるからこそ選手は出場機会を与えられていると言える。平均を基準にすると、平均的な能力の選手はどれだけ出場しても評価がゼロにしかならず、平均的な選手でも「出場することがチームにとって利益になる」というチーム運営の実態が反映されない。

 ここで登場するのが選手を平均ではなく「リプレイスメント・レベル」と比較するというアイデアである。リプレイスメント・レベルとは出場しているレギュラーが故障などによって失われた場合、ほぼ確実に使用することができる代替手段の能力水準のことだ。一般的には「最小のコストで得られる選手に期待される働きの水準」と定義される。出場している選手がいなくなったとき、代わりに出てくるのはリーグ平均の選手ではなく控えの選手なのだから、選手の価値・貢献度を評価するにあたって評価基準をリプレイスメント・レベルにすることは現実に即している。もちろん細かいことを言えば控えのレベルもチームによって異なる。だが控えの層の厚さで評価が変わるという不公平を避けるため、一般的なリプレイスメント・レベルを定めてそれを基準にする。

 おおまかなリプレイスメント・レベルの概念で揉めることは少ないが、、はっきりした答えはなく、詳細な定義となると研究者の数だけ定義が存在すると言えるほどである。本書のWARで用いるリプレイスメント・レベルはあまり議論を複雑にせず、過去のNPBについて各守備位置で最も出場が多い選手をレギュラー、残りを控えとした場合の控えの選手の成績を集計したものとしている。こうして集計すると、控えのレベルのwOBAはリーグ平均の0.88倍となる。これが数字的な意味でのリプレイスメント・レベルの定義である。やはり控えの選手の成績はリーグ平均よりも劣るものとなっている。

 リーグ平均と比較してきた打撃・走塁・守備の評価をリプレイスメント・レベルと比較した評価に直すために、平均とリプレイスメント・レベルとの差を評価に加算する。

打撃における「平均的」「リプレイスメント・レベル」両選手の差=(リーグ平均wOBA−0.88×リーグ平均wOBA)÷1.15×打席

 この数字は600打席では約20点になり、平均的な打者とリプレイスメント・レベルの打者との差はフルシーズンで約20点であるとわかる。

 選手個別の働きの差は個別の各項目の評価で考慮されている。ここでの「20点」は、出場機会の多さに応じた「リプレイスメント・レベルの選手を出場させなかったことによる利得」だけがカウントされている。すなわち単純に打席数に比例する数字となり、リプレイスメント・レベルを評価基準に用いるということは、実際的には出場機会の多さ(頑健さ)を積極的に評価することを意味する。なお、過去の研究からリプレイスメント・レベルの選手は守備・走塁に関しては平均的と考えられているため、計算上は打撃の部分だけを考慮する。


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最終更新日 : 2014-04-02 15:07:14


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