打ち切りを経験して……
Q:打ち切りを経験して。
【ヒカル】
これは聞いていいのか、分からないのですが……聞いちゃいます!
先生は自身の漫画が打ち切られると分かったときはどのような心境でしたか?
【樹崎】
うーん。僕は担当さんが「打ち切りだなぁ」って諦めモードに入ってるのに、ムカついてしまいましたね(笑)
作品が終わることは決まったけど僕は諦める気がなくて、最終回まで逆転があるだろと思っていたんです。簡単に諦めんなよ!……とは思っていたんです。
【ヒカル】
樹崎先生の著書『10年メシ』の中で読んだのですが、全11話の中で7話目ぐらいに打ち切りが決まったんですよね。そこから、さらに気合出して漫画を描いたら人気が上がっていったんですよね?
【樹崎】
はい、人気は上がりましたし僕も諦める気がなくて……全11回の11回目(最終回)を描いてたら、担当さんが締切を1日早くしてきてね。その理由が自分の休暇のために締切を早めたってことが後々、明らかになってね(笑)
それ知ったときは僕は凄く怒ってね(笑)最終回のために凄く頑張ってたので余計に。なので『ハードラック』の最終回付近はかなり描き込んでいます。まぁその他の部分で、その担当さんは凄く頑張ってくれたので特に遺恨はないですが(笑)。
編集さんと漫画家では頑張るベクトルもフィールドも違うんですよね。でも当時はそう思えなくてね(笑)
【ヒカル】
先生的には「あぁ、駄目か」と落ち込むのではなく、そこから自分を追い込んで作品を描いていったんですね。
【樹崎】
人より多少ハートが強いからか、逆境に強いタイプなのか(笑)そういう状況に燃えるんで。むしろ僕は人気があると分かってるたら、「今度は違う事やってみよう」とか、ろくなことを考えないんで(笑)
【ヒカル】
連載が長くなる(上手くいく)と、気持ちが逸れたりもしますか?
【樹崎】
上手くいくと、気持ちが逸れることもあるかもですね。まぁ人によると思う。僕はそういうところが駄目な人間なので(笑)
マガジンで連載ネームしてるとき、僕が担当さんに言われたことで「樹崎くんは攻めのシーンは上手いけど、守りのシーンは凄い苦手だよね」ってのがあるんです(笑)
自分でもそのとおりだと思いました。攻めのシーン、主人公が怒りに燃えたり、アクションしたり、感情が爆発する格好良いシーンは確かに自分でも気合が入って上手く描けてると思うんです。そうじゃない逆のシーン、主人公がウジウジしたり、鬱々している守りのシーンは結構おざなりに描いていたんです。
【ヒカル】
言われて、改めて問題に直面したわけですね。
【樹崎】
それは言われるまで気がつかなくて、「だって守りのシーンはそういうもんじゃないの?」とか思っていたんです。でも作家として、技術としてそれでは駄目だなと思い、それをそのままでというわけにはいかないんで考えて……それ以後は、そういうシーンも攻めにいくことにしたんです。
担当さんから「そういうキャラがウジウジしている場面ですら、読者にそういうシーンをもっと読みたいと思わせることができるはずだ」って言われてね。それに納得して、今ではどんなシーンを描く際にもそれを描くのに最大限の必要な情報を盛り込むことを自分のテーマにしていますね。前向きでないシーンすら前向きに描くという……。
【ヒカル】
先生も段階を踏んで、編集さんからの助言も得て、成長していったのですね……。
【樹崎】
こういうことを若い頃から理解できていたら苦労はないんだけどねぇ(笑)
【ヒカル】
でも若いときは若いときで、自分の力を過信しすぎてしまうこともありますし難しいですよね。
【樹崎】
昔は技術はなかったけど、今は技術があるから若い子に教えるの楽しいんで。個人的には教えるのに向いてる性格だなぁとは思います。講師するのも楽しいので。
【ヒカル】
けれど、90年代に連載を持った作家さんで打ち切りを経験した多くの方は、もうどこで何をしてるか分からない人も多いですよね。個人的にもうあの人の作品は読めないのかと思うと、淋しいです。
【樹崎】
悲惨なことになっている人も多いとも聞くけどね。当時は横の繋がりがなかった時代だから、行方をくらますとその後、どうなっているかなんて分からないんだよね。ジャンプの人は沢山生き残ってると思うんですけど。
【ヒカル】
読者からすると、たまに生存報告と言いますか。漫画の道を止めても、軽い絵だけでも見せてくれると嬉しいんです……。
【樹崎】
どうなってるか分からないですよね。
【ヒカル】
『奇面組』の新沢先生も長い間、姿が見えなかったんですが、Jコミで作品が公開されているのを見ると、「あぁどこかでお元気なんだな」って安心しました(笑)
【樹崎】
新沢先生は腰、ヘルニアかな、何かをやっちゃって、漫画が描けなくなったらしいので……。
佐藤正先生(代表作:『燃える!お兄さん』も全然聞かないですね。
【ヒカル】
Jコミで一応、作品公開はされていましたけど……ジャンプからいなくなった後は作家活動聞かないですね。Jコミで作品を公開しているということは、赤松先生と何らかの形で連絡取っているのかなぁとは思うんですけど。そこは僕には分からないところなので。
今でこそ、ジャンプ作家さんが他誌で連載を持つことも増えましたけど、90年代はそういうのは少なかったですよね。ジャンプでヒット作を出しても、他所で連載持つ人は昔は少なかったといいますか。
【樹崎】
佐藤先生が描かなくなった時代だと、横の繋がりもなかったし……当時の人からしたらジャンプで描いていた人が他所で描くのは落ちぶれ感(?)に近いものを感じていたのかもしれませんね。勿論、今はそんなことはないですよ。
モチベーションの問題でジャンプで描いていた人が、他所で漫画を描くというのはやはり難しいとは思うんですよね。僕もジャンプでもう一度描きたいと思ったのは、ジャンプで描くことほどに他誌の連載は燃え上がらないんです。けれど、後にアフターヌーンで連載を持てたのは素直に嬉しかった。アフターヌーンはジャンプとは対極にある漫画雑誌なのである意味頂点だったし……アフターヌーンと両方に連載したジャンプ作家は、僕と星野之宣先生ぐらいだけだ(他にもいたかもしれないですが)……っていう喜びがね。
【ヒカル】
ジャンプとはまるで毛色が違う雑誌ですよね。
【樹崎】
ジャンプが売れる面白い漫画だとすれば、アフターヌーンは売れるとか関係なく面白い漫画を載せていた。今は路線変更があってどうかは分からないですけどね。
僕が載ったときは、そういう雑誌だったので、そんなとこで描かせてもらえると分かったときは凄く嬉しかったですね。燃えて描いていました。
【ヒカル】
そういったとこで描けるのは作家として成長というか、実力が認められたみたいな評価の表れでもありますよね。
【樹崎】
そうですね。でも『ゾンビメン』が人気あったとも聞いていたけど、まぁ色々あって……なかなかうまくはいかないもんです。
必ずまた続き描きますけどね。
デジタルについて
Q:デジタル作品・作画について
【ヒカル】
先生はデジタル作画についてはどのようにお考えですか?中にはデジタルに関して否定的な方も多いですが(やっぱりアナログが1番と言い切る方もいます)、先生の意見を聞いてみたいです。
【樹崎】
まぁ言っちゃうと、新しい絵の具ですよね。まだデジタルという絵の具の使い方をマスターできてない人が多いだけで、何の疑問もなく使うべきだし……、もっと絵の具の使い方を工夫しようよというわけです。
【ヒカル】
先生的には使いこなせたら問題はない。そんな感じでしょうか?
線の具合とかはアナログ固有のものがあるとは思いますが……。
【樹崎】
いや、デジタルでも手書きとほぼ同じことはできますよ。ただ、デジタル一式を揃える初期費もかかりますから新人さんにとって大変だとは思いますけどね。昔は紙とペンがあれば、一攫千金の雰囲気がありましたけどね。
【ヒカル】
先生的にはデジタル推奨ということでしょうか?
【樹崎】
工夫さえすれば、デジタルの方が優れた絵の具だと思いますので、紙にこだわるのは……紙に慣れている、もしくは時間がなくてデジタルにできない人以外はデジタルでもいいと思いますよ。使わないのはもったいないので。
【ヒカル】
なるほど。
【樹崎】
アナログの良い価値としては原稿が手元に残るって点なんですが、正直キャリアが長いベテランの家では原稿は邪魔になりますからね。昔はデータで原稿管理できなかったですけど、今はデジタルでの整理は楽ですから。
僕も正直、原稿が邪魔なので売っぱらいたいんですよ(笑)
【ヒカル】
場所をとるし保存状態も考えないといけないし、没原稿でさえ溜まっていきますもんね……。
【樹崎】
それを自分の子孫に渡されても迷惑なだけでしょ?(笑)多くのベテランは今そう考えているわけです。
昔の僕は手塚治虫先生や、ちばてつや先生と自分が並ぶと思っていたから原稿を自分の魂と思っていたけど……そんな日は来ないので(笑)
つまり先生としては電子書籍などのデジタル方面をどんどん推奨しているわけですね。
【樹崎】
電子書籍は世界進出のために必要だし……世界に出ないと、もう日本の漫画は落ちぶれる一方なので。
電子ならではの漫画の見せ方があって、さらに漫画は進化できると思うんです。進化しないと漫画は子供も読まなくなってきてるし、少子化もありますし……読まれないということは漫画という分野が他の文化に負けてきているというわけだから電子で新しいことをしないと。紙で描いて、紙で読むのが漫画だと思っていたら過去の文化として落ちぶれてしまう。
【ヒカル】
そこで先生たちはDomixなどで新しいデジタルの方向性を探っているのですね。
【樹崎】
Domixっていうのは可能性全肯定の何でもありの電子書籍で、表現を限定した言い方ではないですよ。今は映像にこだわってますけど、アプリとして売れるならアプリでも問題ないです。本当はデジタル作品にも紙のように、ページをめくる感覚を入れたいです。そこに音楽もあり、エフェクトもあり、アニメもありを盛り込めば、もっと面白くなるはずです。まぁいつの日か必然的にそうなると思いますので。
【ヒカル】
世界中で電子書籍の流れ自体はできてきていますもんね。
あとは成長するのを待つといいますか。
【樹崎】
あとはいつできるか。その方向性がどうなっていくのかが問われるだけですね。縦スクロールでの作品公開する方がデータは少ないので、縦スクロールでの作品公開になるかなとも思うんですが……、横にページをめくる開き効果感覚も面白いし、このあたりは長い時間をかけて分かっていく感じですね。
【ヒカル】
まだまだ模索段階なんですね。電子書籍が本格化し始めたのも、ここ2~3年ですもんね。
電子コミックスを読んだことはあるんですが、作品ごとに縦スクロールだったり横スクロールだったりバラバラですよね。かつ倍率などで見えにくいコマもあったり、標準の設定を定めにくいところは確かにありますよね。
Domixなどもまだまだ苦労している点はありますか?
【樹崎】
まぁ苦労はしてますけど、楽しいという感情が先にあるので苦ではないですね。紙に漫画描くより楽しいね。手塚治虫先生や石ノ森章太郎先生が寝ずに漫画を描いた気持ちが、近年分かったんです。新雪を踏む楽しさが、あまりに楽しいんです。
新しいジャンルに挑戦するクリエイティブさが楽しくてね、寝る時間も惜しいんです。いい年してこんな無茶してたら早死しちゃうなとも思うけど(笑)
【ヒカル】
先生は近頃はどれくらい1日で活動してらっしゃるんですか?
【樹崎】
まぁ電子関連とかの仕事がないときは普通に7時間くらい寝たりもしますけど、電子関連などで仕事してるときは3時間くらいの睡眠ですね。
もうすぐ半世紀くらい生きてるのに、そんなことをしてたら早死しちゃうなとも思うんですけど……まぁ体に問題はないので(笑)
【ヒカル】
楽しい仕事のときは時間は一瞬で過ぎちゃいますもんね。
【樹崎】
ホントにそれなんだよね(笑)
深夜に「あぁ、もう1日終わりだ。寝るの勿体無い」って渋々寝ます。そんで翌朝、「あっ、やらなきゃ」ってすぐに作業に向かいますね。新しい表現に挑むのは楽しいので。
声優さんと漫画の可能性
Q:声優さんと漫画の可能性
【ヒカル】
Domixなどでは漫画に声を当てたりもしていますが、声優さんを起用することについては苦労はありましたか?
【樹崎】
最初は僕も声に関しては知識がないから、専門学校の声優さんのたまごさんに声をつけてもらってるんだけど、声の良し悪しが分からなかった。勉強中の学生さんだから、云わばまだまだ素人なんですけど……その中でも優秀な子の声を生で聞くと「おっ、いいんじゃない?」と思ってしまうわけなんです。加えて、あんまり良く思えない演技でも「この子はこの子なりに考えて演技したのかもしれない」と思って、口出ししにくかったんですね(笑)
そのうち、こちらも回数を重ねると「あぁ、こいつら考えて演技してないな……」というのが理解できるようになりましたけどね。
【ヒカル】
見分けがつくようになってきたのですね。
【樹崎】
二十歳前後の子供ですから・・・そんなに深くは考えてないので、こちらから演出は教えてあげないと駄目ですね。
作品に声を当てるなら、その作品の作者さんを呼んで……こっちからドンドン作品に秘められた深い部分を話してあげるようにしています。作者さんの心の根っこの部分を声優さんに話してもらって、声優さんに演技してもらうようにしているんです。その上で1人1人のキャラや作品が言わんとしていることを理解してもらうのが大事ですよね。
役者さんは自分の役に入り込めばオッケーとかんがえていて……でも、役者さんが役に入って演じるのは僕は当然のことだと考えていて、その先にある演出で何が求めらていて、どんな演技を必要とされているかまで……こちらとしては求めたいわけです。
そこの部分を作者さんや僕から直接語って解決しようとしています。Domixの中での演技はアマチュアも多いので、プロの声優さんには勝ててない部分も多いんですけど、他のアテレコ作品よりかはそういう意味で魂込めてやっているので……その魂の部分では勝ってるんじゃないかなと思ってます。事務所に受かってプロになる子も次々出てますしね。
【ヒカル】
個人製作のアテレコ作品はネット上にもありますけど、Domixが行っているような長い尺(15分以上)の作品はそうそう見かけないですね。
どんどん成長していく分野だと思います。何より、声を当てるということは違う言語での作品制作が可能になりますもんね。
【樹崎】
あとは本丸の世界戦略ですね。
韓国版の製作は決まってるので、達成できると思います。他の国だと文字を変えたり、色々な問題がありますね。これからどうやって解消するか……悩ましいところなんです。
基本、海外では文字を読む方向も違って、漫画の文法変更を余儀なくされるので悩ましい問題ではあるんですよ。映画のように漫画に字幕をつける案もあって、そういう案を出してくれる企業とかに限って原稿料、使用料とかが高いんですよ(笑)もう悪魔の囁きですよね(笑)
それでは漫画として面白さがなくなるのでお断りしたんですけど、でもそこで高い使用量を得れたら活動は楽になるし、資金源も増えるし……(笑)
まあ継続して技術的なことも含めた話し合いで妥協案を模索中です。
【ヒカル】
そういった葛藤があるんですね。使用料が高ければ、それだけ運営は楽にはなりますもんね。
【樹崎】
けれど目先の利益には飛びつかないようにはしています。負けないように(笑)
【ヒカル】
本質の面白さを求めて、(電子上での)漫画を進化させていくわけですね。翻訳だとか言葉の問題は難しいですよね。
【樹崎】
ソフトも充実してきてます。音声についても、もっと進化できると思っています。アニメとかは制作スタイルが決まってしまっていて常識に捕らわれていると思うので・・・もっと常識を壊して作品作りを作ろうとは思いますし、もっと少人数で低予算でも良いものができると思うので。それによって、どの漫画にも声を当てることができれば、声優さんの仕事が増えますからね。
【ヒカル】
1つのジャンルが盛り上がると、連鎖して違う職業の方のお仕事も増えますよね。
【樹崎】
今、声優さんのお仕事少ないんですよ。上の人がどかないから、新しい声優さんに仕事が回らないんですよ。なにに志望者は山のようにいる・・・そんな状態なんです。そこを打破したい。
才能ある子を引っ張りだしたい!
【ヒカル】
僕もそこは何とかしたいと思っています。僕の友人でも声優志望がいるんですけど、何せ仕事がないらしくて……そこが個人的に歯がゆいんです。
【樹崎】
声優さんと漫画家さんはもっと近い関係になれると思います。漫画空間で、いくつか番組をしているのは漫画家と声優を近づけるという目的もあるんですよ。漫画空間の宣伝もありますけどね。
【ヒカル】
漫画空間でも色々な試行錯誤を?
この前、19歳の女の子が番組してるのをチラッとみました。
【樹崎】
してますよ~。19歳の子は、17歳のときに主役してるんで演技力はあるんですが……それとMCの才能があるかどうかは別なんですよね(笑)今後の修行に期待してますが。
【ヒカル】
鈴木さんや守屋さんは慣れていますよね。
【樹崎】
鈴木さんはキャリアもありますし、もう脚本家としても1流なので、安心して見てますね。その1流の演出術を漫画について語るときも番組内でもっと語ってもらってもいいんだけど……そこはこちら(漫画家)へのリスペクトの関係でなかなか言えないのかなぁとは思います。
【ヒカル】
鈴木さんや守屋さんは場馴れしていて、MCもこなせますけど。なかなか全ての人がそううまくMCはできないですよね。
【樹崎】
他の子は声は出せてもMCが苦手だったり……まぁそれも才能ですよね、MCをこなすのも。面白いことを言わなきゃいけないし、わかりやすいキャラもいる。単に上手に喋るだけではないんですよね。
【ヒカル】
そこを伸ばさないと難しいですね。
先生としてはネット関係で、漫画業界を盛り上げていこうっていうのが当面の目標ですか?
【樹崎】
そうですね。ネットラジオも姉っくすもDomixの宣伝媒体に近いので、基本は電子書籍中心での活動ですね。そこにできる限り、力を入れたいですね。ネットラジオは特に人とのつながりが広がるので楽しいです。
【ヒカル】
樋口大輔先生(代表作:『ホイッスル!』)の回や、新條まゆ先生の回などは見ていたのですが面白かったですし、めっちゃ盛り上がっていましたよね。
【樹崎】
うん。人の集まり方が凄かったね。もうちょっと深いところまで作者さんと会話をしたいけど、顔出しで生放送だし……なかなか簡単にはできないよね。姉っくすとかの前に(カメラが回ってないところで)、お話しした内容の方がずっと濃ゆかったりします。
【ヒカル】
作家さんの担当さんとの兼ね合いがありますもんね……。けっこう凄い作家さんが出演しってますよね。にわのまこと先生はリアルタイムで見たことがあるので、感動しました。
【樹崎】
ジャンプ作家はそうそう人前には出なかったですからね。
規制について考える
Q:規制条例についての議論
【ヒカル】
樹崎先生と言えば、僕が思い当たるのは先生が自身のホームページ上でも公開している「規制条例への反対声明」ですね。規制条例に関してはここから先はどうなると思いますか?既にコンビニから徐々に18禁の本は消えていってますよね。
【樹崎】
規制があった方が作家は燃えると思うんです。なので実のところ、そこまで規制には反対派ではないんです。ただ僕は単に規制を仕掛けようとしている人たちの心根が嫌いでね(笑)
【ヒカル】
「文学なら(エロも)大丈夫」という猪瀬元知事の発言などが該当するのでしょうか?
今、猪瀬さん大変なことになってますけど……。
【樹崎】
そこが特にということはないですが、あぁいうところは本当にムカつきますね(笑)
「ざまぁみろ」と思ってます(笑)
【ヒカル】
猪瀬さんに関しては実際悪いことをしましたからね……。
あんだけ色々言うてたのに、自分がそういうことをしてると……まぁそういう評価になりますよね。
【樹崎】
そういう人ですよね。行動に表れたというか。
うーん。政治をする人も最初の頃は正しい志であったはずだろうに……こうなってしまうんだね。多くの人の支持を得るには、多くの人が言ってる方に合わせる方が楽ですからね。石原慎太郎さんもそうだった。
【ヒカル】
マイノリティー側の意見保護が大事かもしれませんね。マイノリティーな立場を否定するということは、政治家が声明を上げて述べるところの「差別撤廃」とは相反しますもんね。
【樹崎】
石原慎太郎さんなんて差別ばかりでしたよ……、けれど石原さんを慕う高齢層にはそれが受けますから。お年寄りも困ったものです(笑)
若者が選挙に行けばこれも解決するとは思うんですが、若者は選挙に行かないですもん。……とか言いつつ、僕らが若い時も若者は選挙にさほど参加してなかったから全然責められない(笑)
【ヒカル】
僕は多少、規制はあっても良いかなという意見なんです。エロはあっても良いんですけど、小学1年生にエロ本見せつけるのは気が引けますし(笑)
日本の学生は理解があるので、中学生になればエロに関しても自己責任で何とかなると思うんですよね。
【樹崎】
僕は小学生の頃から、『デビルマン』読んでましたけどね(笑)
敵や子供の首がスパーーーンって飛んだり過激な表現はありましたし、セリフも過激な作品でしたね。「人間こそ悪魔だ」ってセリフやテーマがね(笑)
【ヒカル】
今だったり完全に規制が入りますよね。でも、『デビルマン』を読んで犯罪を犯した人も聞かないので規制することはないと思うんですけどね。
【樹崎】
僕はそういう作品を小学生時代に読めて良かったと思ってますよ。人間の本質について考えることができました。そういうものを読まないで生きている方が僕としては恐いですね。
常識を疑わない人間は簡単に操作されますからね。
規制する側はそうしたイエスマンを増やしたいわけですね。
【ヒカル】
過激な作品を読むことでしか得られない知識もありますもんね。そこは教科書みたいな作品には真似できない個性ですから。
僕も高校生ぐらいのときにジョージ秋山先生の『銭ゲバ』が復刻したので読んだんです。あの作品には考えさせられるところが沢山ありました。でも連載してからずっと規制されていた漫画なので、この漫画が規制されていたのは勿体無いと感じましたね。
【樹崎】
僕はほとんど規制はすることはないと思います。
子育て経験ある人にはいくらか分かる話をしますね。子供の好き嫌いをなくすには食卓に色んなメニューを出さなきゃいけないんですね。食べなくてもあきらめずに食卓に並べる……そうすると個人差があれど、いつの間にか色んなモノを食べるようになるんです。
子供のうちは自分に必要なものを見分ける能力があるんです。子供は自分の体に必要なものを美味しいと感じるので、自分で選別して食べていくんです。それを続けていくと好き嫌いはなくなるはずなんです。
【ヒカル】
なるほど。
【樹崎】
そこで「何で食べないんや!」と無理やり押し込むと駄目です。僕はされましたけど(笑)
すると、一生の好き嫌いが起こるんです。そういうことが規制をすることによって起こると思うんです。子供は自分に必要なものを選別する能力を持っているんで……。子供にはそれだけの力があります。「これはエロいから、暴力的だから」と規制をすることには凄く危険なことだと思います。
【ヒカル】
少なくとも……文学だからセーフ、漫画だからアウトになるのはおかしな話ですよね。
【樹崎】
めちゃくちゃおかしい理論ですよ(笑)
太宰治さん読んで誰が得するんですか。
【ヒカル】
昔の小説ではえげつない表現がありなのに、漫画で人の腕が吹き飛ぶ表現がアウトになるなんて説明になってないですよね。
【樹崎】
そうなると、三島由紀夫さんだって「大事なモノは火をつけて燃やしてしまえ」とか言うてるんですよ(笑)
大江健三郎さんは、死体を沈めるバイトの話を描いているけど、実際はそんなことないんだよね。だから現実を知って、その小説を読むと「おい!そんな死体を沈めるバイト実際何かないじゃないか。大嘘つきめ!」とは思いもするけど、小説もそういう実際はそんなことないことを描くから面白いんですよね(笑)
【ヒカル】
漫画だって同じですよね。人の手からは普通、かめはめ波は出ないし……人の手刀で腕は吹き飛んだりしない。でも、そこが面白い。
【樹崎】
ねぇ……腕が吹き飛ぶ描写なんて金閣寺に火をつける描写よりマシじゃないですか(笑)。太宰治なんて女と自殺しようとして、女だけ死ぬような話を書いてるだけじゃなくて実際やってるんですよ。
「そんな話がありで、漫画で殴り合いで腕が吹き飛ぶという、どう見ても架空の話がアウトなの?」って思いますよ。まぁそもそも違うジャンルですから、比較するのもおかしな話ですけどね。詰まるところ、何でもありでいいと思うんです。
ダメって言われたら、それで作家は燃えるのでそれもいいとは思いますけどね。
【ヒカル】
ここから先は規制は激しくなるでしょうし、作家さんの工夫が試されますね。
【樹崎】
その工夫が楽しいですよね。工夫さえ封じる世の中じゃ終わりですけど、
僕もジャンプ連載中も規制の壁に突き当たったことがあったんです。
「これは表現のしようがないなぁ」と思いました。
悪者が市民を陥れる言葉で「たかが●●のくせに」という言葉の「たかが」がアウトだったんです。これを言われると、表現のしようがないんです。「百姓」って言葉を作品に使おうとしても差別表現として「農民」という言葉に変更されたり、昔の人は農民なんて言葉使わないですからね。
【ヒカル】
時代背景的に「百姓」という言葉を使わないと、違和感を感じるとは思いますし……話が飛躍すると教科書の「百姓一揆」という単語はオッケーなのか。「時代劇はどうなんだ」という話にまで飛び火しますよね。
違う表現を使うと言葉のニュアンスが変わったり幼稚な発言になってしまいます。意図しないところで作品の質が下がってしまう。そこを含めて漫画業界で考えて行く問題かもしれません……。
漫画業界は貸本時代から見るともう少し長い歴史ですけど、今の形になったのは戦後から現在まで。大体70年くらいですから、まだまだ100年経っていない、まだまだ動いていきますね?
【樹崎】
もう20年もすれば漫画をずっと読んでいた世代が中心になりますから、表現に関しても多少は変化すると思います。実際に時間が経たないと何とも言えないですけどね。何かしらの宗教に負けることもあるでしょうし(笑)
【ヒカル】
漫画家さんで表立って意見を公表できる人材があまり多くないですよね。そもそも漫画家さんは忙し過ぎて、政治まで干渉できないですから。
【樹崎】
そうですね……。政治まで参加してるのは赤松先生くらいなもんですよ。
【ヒカル】
スポーツから政治家になる人がいるくらいですし、漫画家からも政治家が出る時代が来ても良いかと。
【樹崎】
ちばてつや先生としても、もっと若い人に意見を求めてるんだよね。本当は若い漫画家さんが声を出さなきゃいけないんだけど……若い人は飯を食うのに精一杯で、影響力のあるヒット作家は時間がないんだよね(笑)
漫画家ほど、時間がない職業あんまりないんだよね。そうして漫画界では椅子取りゲームが始まって……椅子が減る一方だけど、何もできずにいるっていう人が多い現状ですよね。
【ヒカル】
漫画家をサポートできる人が必要なワケですね。それが恐らく、現状では赤松先生くらいしかいないのかもしれません(勿論、僕が知らないだけで他にもいるかもしれません)。ただ、そういう人材には法律にも精通した知識や弁論術も必要になってきますから難しいですよね。そういう人は一般でも多くないですし。
新人作家へのメッセージ
Q:新人さんへ向けたメッセージ
【ヒカル】
では最後に、新人さんに「こういう風に行きていってくれ!」……というメッセージを頂いてもよろしいでしょうか?
【樹崎】
うーん。各自、自由に生きてもらえればいいんですけどね(笑)
僕の時代と今の時代は随分、人間性が違うと思うので。今の時代の子は確実に性格が良いし、幸せに育ってます。僕らの時代のはろくでもない子もいっぱいいましたから。
【ヒカル】
今は学校の窓ガラス割るような子は減りましたね。
一部の学校とかにそういう子が集合してはいますけど。
【樹崎】
子供の性格とかは昔に比べて桁違いに良くなってますよ。それはとても良い事です。そうなると、モノの考えも変化していて近頃ヒットする漫画でも僕には理解できない作風の作品も増えましたけど、それはドラマも規模が小さいんですよね。
「俺の人生のがドラマチックだぞ」とか思いはするんですけど、それはそれでいいんです。今の時代に必要とされているモノだと思うので。そういう意味では僕もジジイになったなぁと思うんだけど(笑)
でも、まだ世界戦線から考えれば僕の方が新人さんよりも欲されていると思うんで前向きですが(笑)
【ヒカル】
若者も先生に負けないように、必要なことを学んでいけば自ずと良い風に変わっていくということですね。
【樹崎】
専門学校や大学に行けば良い先生・悪い先生がいて、出版社に行けばまた色んな編集さんもいるんだけど……自分の一番芯になっている本質の部分は譲らないでもらえたらと思いますね。
――以上、樹崎先生からの貴重なインタビューでした。
先生、本当にありがとうございました!