目次
はじめに
はじめに
宗教的表現について
研究者の方々へ - 検証中の仮説
外部リンクの表記、Android対応、訂正箇所のご指摘のお願い
概略
現在の症状
息子の誕生
さらに遠い通院へ
知らされなかった検査結果
アミノ酸分画検査結果
タンデムマス検査結果
合っているかもしれない仮説
閑話休題:創作話 トリケラお母さんの悲劇(# ゚Д゚)
DNA検査の実体験と仕組み
ミトコンドリアDNAの検査
ヒットカウント分析および共起性分析
23andMeのDNAアレイによる検査 - 販売停止命令に至る経緯
遺伝病とコモンディジーズの違い - 優性遺伝と劣性遺伝
ヒトはヒトであるが故にヒトの病を患う
コモンディジーズの検査方式 - アバウトなGWAS
23andMeの深刻な検査結果 - 統計の改善による影響
23andMeのその他の結果
エクソームシーケンシング
コモンとレアの重症度分布 - アレル頻度とエフェクトサイズ
個人向け遺伝子検査の選び方 - 罹患人口カバー率指標
閑話休題:製作物 DNAツリー
希少疾患と難病の制度および数値
希少疾患と難病の違いと制度的起源 - 日米欧比較
赤信号みんなで渡れば - 真面目な日本人の最悪の集団行動
もっとも希少な希少疾患 - 70億人にたった一人
もっとも正確な希少疾患の数 - 毎日約1つ希少疾患が増える?
希少疾患全体の罹患率 - 全部合わせると10~14人に一人
診断に至るまでの年数、または遅延 - 28年?!
GINA(ジーナ) - DNA検査時代の国民、患者を守る法制度
国民皆保険の功罪 - 患者をチェリーピッキングする医師達
節としてまとまらなかった事柄
希少疾患と感染症
感染症と希少疾患の関係 - 未診断の希少疾患という重症化因子
予防接種の健康被害としての未診断の希少疾患
希少疾患としての感染症 - 米国のAIDSの歴史
見えないところに死体の山
医師に頼らない因果関係の追求 - 脳症の本当の原因
更に複雑な感染症の話
医療訴訟が生み出す二次被害 - 無過失賠償制度の必要性
辛い記憶
両親を批判することについて
両親への間違った説明
辛かった学校生活
体育の次の時間に倒れてしまう
電車とバス
繰り返し運動による寝られぬほどの筋肉痛
食事の前後の発作
進化と感染症の間の遺伝性疾患
進化と感染症の間の遺伝性疾患
仮説の更なる展開 - 発見され増加を続ける希少疾患
卵子と精子の間の変異の導入の違い
感染症と遺伝性疾患で重度となる役割 - 男性淘汰進化説
絶滅のシナリオ - 感染症と遺伝性疾患の袋小路
進化のスピード調節 - もっとも強く訴えたいこと
進化と遺伝性疾患の「必然性の枠内の偶然性」
ダーウィンのUNdiagnosed
そして各論へ
遺伝学用語の混乱
遺伝学用語の混乱:genetic、遺伝か起源か
de novo変異 - 両親から受け継がれない優性遺伝の変異
個人向け遺伝子検査のガイドラインの乖離
みんなが保因者の劣性遺伝病? - 平均約10個の遺伝的荷重
劣性病的変異の健常者への影響 - 遺伝子プールの浄化説
あとがき
あとがき
これ以降分冊予定
▲▼そして各論へ
検証実験の山 - バッチ型検証実験の提案
希少疾患の中の更なる希少な患者群についての予測
環境因子か遺伝因子か
代謝異常についての進捗
遺伝子検査の2つの嘘
生まれの平等性または不平等性
▲▼生まれの平等性または不平等性
新型出生前診断と着床前診断 - 技術的に◯、倫理的に☓
生まれる前のDNA検査 - 科学的因果関係の追求ライン
技術としてのNIPT - 生まれのDNA検査の技術予測
我が子に故意に良くない遺伝因子を許容する親の罪
ディストピアな未来像 - 生まれの平等性が崩れた世界
不妊という社会問題 - 男性不妊と父性年齢効果
中絶による母体へのダメージ - 次の妊娠がうまくいく確率
着床前診断の問題点 - NIPTとの倫理的違和感
不妊治療としてのPGD - 不妊としての遺伝性疾患
生殖医療のリアルの写真
男女産み分けの国際比較 - 海外での生殖補助医療のリアル
着床前診断の潜在的なリスク - 子と女性へのリスク
フィルターされた人々による生まれの平等性、不平等性の支配
遺伝学用語の混乱:variation、多様性か変化性か
人権に基づく多様性、人権に基づく変化性
男性不妊と劣性遺伝病の完全予防 - 22世紀の精子起源工学
その他 - うまく分類できずとも価値のあるトピック
DNA検査の結果の公開 - シーケンシング機会の平等性
進化における神の概念
mtDNAとY染色体の永代性 - 未来の血縁者の不利益
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赤信号みんなで渡れば - 真面目な日本人の最悪の集団行動

 [希少疾患と難病の違い...]の節で述べた、スモンをきっかけとした薬事審査の厳格化といった現象を、本節では医原被害反動硬直現象と称して他の事例を調べ、日本人が真面目であるが故に、欧米ではありえない集団行動、集団的見て見ぬふりにより新たな被害を引き起こしている現状を述べる。

 

 スモンの場合のように、医師達、政府、企業が、自らの過失を素直に認めるのが遅れて、多くの被害者を出し、その結果より厳しい法律やガイドラインが作られて、それによって国際基準から外れた医療が成立し、そしてその独自性故に思わぬところで新しい被害者が出ても気が付きにくい、そういう悪循環のようなものが、欧米よりも日本の方で多くみられる。といっても、欧米の例をそれほど知っているわけではないので、ものすごく自信があるわけではない。ただ、日本でざっと数えただけでも3つ、このパターンの事例がある。その一つがスモンと薬事法、抗がん剤の関係である。

 

 一応、この3つの事例のことを「医原被害反動硬直現象」と本著では呼ぼうと思う。スモンの場合だと、医原というのがキノホルムの投与で、被害というのがスモン患者、反動というのが薬事法で、硬直というのが抗がん剤が薬事審査を通過する困難さである。スモン患者は難病として扱われることになったが、この現象の影響はコモンディジーズで致死的疾患であるがんにもおよび、抗がん剤の海外からの導入を遅らせ続け、本来ならできる必要のない屍の山を作り続けている。

 

 なぜ医原病と言わずに医原被害と言っているかというと、この現象の2例目として挙げるのは[感染症と希少疾患...]で述べる予防接種だからである。医原というのが注射針を使いまわした予防接種で、被害というのがB型肝炎に感染した患者で、反動というのが予防接種の国際基準からの後退で、硬直というのが感染症で天に召される小児の数が問題になっても予防接種裁判で負け続けた厚労省が円滑に対策をうたないことである。このように、主な被害者はB型肝炎という病ではあるが、注射針を使いまわすという物理的な意味を考えると、必ずしも全員が同じ病気であるはずもなく、当然B型肝炎以外の感染症も含まれるはずである。B型肝炎そのものは針を使いまわした予防接種以外でも感染するので、医原病という表現はあまり適切でないように思われ、被害全体をとらえた方がいいと考え、医原被害とした。

 

 医原被害反動硬直現象の3つ目は、海外での医療目的でない男女産み分けのための着床前診断である。しかしこの場合は、医原については、先述の2つほど悪質ではない。障害をもったお子さんを授かったご両親から、本当はもっとよく超音波をみれば妊娠早期に障害があることが分かったのではないか、などと産婦人科医の方々が責められ、その一方で患者会などから、日本で着床前診断などと障害児を間引くような真似はさせないと、正反対に近い要求をされてきた。ご両親から見れば医原性の被害と言えなくはないが、0歳児のおよそ1%1歳の誕生日を待たずに先天奇形、変形及び染色体異常により、天に召され続けている。このことを、センテナリアンが世界最高の人口比で続出*するほど、成人病の医療が発達した日本なのに、という観点から見れば、社会の努力や研究投資が足りない、また、ガイドラインが十分には整備されていないということになる。しかし、実際には、産婦人科医の個人々々の過誤とまでは言えない場合の方が多いはずである。それでも、ご両親から見れば過誤の大きさが専門用語に阻まれてしまって分からないため、やはり医原被害に近い認識になってしまう。

 

 反動としては、着床前診断を法ではなく、とりあえず学会の自主基準で制限する方向にことが運んだ結果、着床前診断に必要な重症度基準が明文化されずに、一回々々審査することになった*。硬直としては、医療目的でない男女産み分けなどという、赤ちゃんの健康ではなくご両親の利便性に重点をおいた目的で、富裕層だけが海外に出てまで着床前診断を受けるという、返って悪い結果となっている。本来は、着床前診断は、先述の天に召される患児を減らすために、遺伝性疾患の家系に対して行われるべきなのに、制度の壁に阻まれてしまっている。着床前診断はヒトの生まれに関する問題であるため、非常に本質的で、特に因果関係が込み入っているため、後々の節で詳述することにしたい。

 

 スモンと予防接種という、医原被害反動硬直現象の2つの例を見てお分かりになるように、これは医師や厚労省のお役人達だけの問題では決してない。医療といった欧米と頻繁に比較される分野では、どう隠そうとしても目立ってしまう、日本人としての文化心理学的な悪癖なのである。我々日本人全員がこの悪癖の特徴をとらえ、自ら意識して対処する必要がある。

赤信号、みんなで渡れば恐くない

これは、現在の北野武監督こと、ビートたけしとビートきよしによる漫才コンビであるツービートが、1980年、昭和55年に「笑ってる場合ですよ!」といったお笑いバラエティ番組を通じて流行させたブラックユーモアである。これがブラックユーモアで、むしろ真似をしてはいけないという意味で用いられたのは、この言葉を口にしたのがボケ役のたけしで、それに対して、「よしなさいって」と止めたのがツッコミ役のきよしであるという記述*がみられることから、ほぼ確かだろうと思われる。それにも関わらず、この言葉は流行し、ブラックユーモアであることを忘れて用いられるようになり、やがてこれがギャクであったことさえも忘れて、本来の意味とは多少誤解して何か諌めるための真面目な標語であるかのように理解する人も出るようになり*、かつて毒ガス標語で知られた北野武のあまりの変わり様に説明して信じてもらうのが面倒なので使われなくなっていった。現在では日本よりも中国で流行っているというのは文化心理学的に実に興味深いが、今はそんなことはどうでもいい。念のために断っておくが、これは別に私が初めてここまで真面目に調べているわけではなく、故人であられる数学者の森毅さんも『ひとりで渡ればあぶなくない』を出版される前に同じことを真面目に調べたはずである。

 

 集団心理を面白おかしく皮肉ったこのブラックユーモアが流行語となったのは、やはり日本国内における世相を反映していたと言えるだろう。日本人は円が強くなってジャンボジェット機の運賃が安価となるにともなった国際化時代を前にして、自分達のことを、特に欧米人と比較した場合に、集団行動を得意とする一方で、個人が正しいことをすることがあまりない民族であると認識していたのだと思う。しかし、詳しく調べてみると、英語でも同じ表現がないわけではない。

"(There is) Safety in numbers.""

 

Wikipedia英語版で"Safety in numbers"の曖昧さ回避のページのトップに挙がっているのは、同じ交通安全でも、集団登下校が子供の安全に役立つことの仮説についての、少なくとも29件に昇る参考文献の束であった。一部、誘拐や変質者といった交通以外の恐れも含んでいるかのように書かれているが、基本的には交通安全について述べられている。よく考えれば、横断歩道をみんなで渡るよりも、普通に登下校を集団でやった方が安全なのはわかりきっているのである。むしろ、日本ではそんなことが議論になるのがバカバカしいぐらい当たり前のことなのに、個人を重視する欧米人たちは、わざわざWikipediaCriticism(批判)の節まで作って議論をしている。ということは、やはり日本では集団で行動するのが当たり前だと思っている事柄でも、欧米ではその前に集団で行動することの有効性が議論になるのである。

 

 "Safety in numbers"の大もとの出所は、決してコメディなどではなく聖書である。よく知られているOxford Dictionaryと同じ出版社と思われるサイトの検索結果として、17世紀後期にできたことわざであり、推測だが高い確率で、聖書の箴言1114節の中の次の暗喩からとられたようだと表示される。

"In the multitude of counsellors there is safety"

 

この箴言というのは、どうやらヘブライ語聖書およびキリスト教の旧約聖書の一部のことを指し、日本語訳としては次のものが得られた。

 

指導者がなければ民は倒れ、助言者が多ければ安全である。

 

また、246節にも同じような文言が登場するが、先述の検索結果として1114節だけが示された理由はよく分からない。

 

良い指揮によって戦いをすることができ、勝利は多くの議する者がいるからである。

 

 この他にも、Mark Shieldsによる"There is always strength in numbers."がこの部分だけだと「細き流れも大河となる」と日本語で紹介されているようだが、全体を細かく訳してみたころ、おそらく次のような訳ができると思われる。

 

"There is always strength in numbers. The more individuals or organizations that you can rally to your cause, the better."

「数多ければ常に頼もし。同じ志に集う友また組、多ければ尚よし。」

 

この他にも、"Two wrongs make a right.""が日本の「赤信号・・・」のニュアンスに最も近いのではないかと思われるが、結局のところ、どれもこれも「赤信号・・・」ほど面白くないのである。「赤信号・・・」が面白かったのは、やはりその風刺していた対象が我々日本人の身近なところにあって、それが信号というたいていの人々が毎日頻繁に出くわす小さな判断、つまり、待つか、走るか、さらには、より足の遅そうな人、幼児や高齢者によって場合分けして、いれば待つし、いなければ走る。そういう人間性やそのときの心理がさりげなく表に出てしまう行為であると、皆が知っていたからこそ面白かったのだろう。それをツービートという一見間抜けな人たちによって突かれたことで、皆がここで笑うと考えられる部分となり、実際、皆がいっしょに笑ったのである。

 

 「赤信号・・・」で笑った直接の原因が社会心理学でいう同調現象であれば、風刺していた対象ももちろん、集団心理である。もっとも酷いが頻繁に起きているのがいじめであり、ちょっと変わった生徒がいると、あいつは足が遅いから誘わないとなる。更には、何か教室の物品が壊れる、たとえば、花瓶が割れ、その原因が所謂クラスヒエラルキーの上位の生徒であった場合、皆でそれとなく口止めをする。先生からの追求を受けて話してしまった奴は鈍足といっしょにいじめの対象なるから、みんな必死だ。そして、追求が長引いた場合、最後には、皆が目を逸らしながら一部の者が告げ口をして鈍足のせいになるのである。これがスケープゴートという現象である。ここまで明確であることは少ないが、これに似た経験をほとんどの日本人がしているはずだ。そして傍観者に徹するというか、見て見ぬふりをする方が得だという思考を、叩き込まれるのである。

 

 最近は日本でも米国風の考え方が映画やドラマを見た人口から取り入れられ、いじめに耐えながらでも内部告発をする者が増えてきた。米国の考え方だと、ドラマや映画で出てくるヒーローそのもので、普段はクラーク・ケントピーター・パーカーみたいに地味だが、いざとなれば一人正義を通す方が、特に男子としては好まれるのである。逆に我を通して悪事を働くものも多いため、犯罪発生率としては高いのだが。いずれにしても傍観者に対しては卑怯者に近い考え方だ。日本の組織で何か都合の悪いコトが起こると、傍観者が卑怯者として扱われることはほとんどないぐらいに、たくさんの人口が傍観者となる。これが社会心理学でいうコーシャスシフトという現象であり、さらに一歩踏み出して悪いと分かっていながら自分も行為に加わるのがリスキーシフトである。ただし、私は本格的に心理学を勉強したわけではないので、厳密性に欠けるのはお見逃し願いたい。いずれにせよ、実際に多少なりとも「赤信号を渡った」経験を日本人が持っているからこのブラックユーモアが実に面白かったのである。さらには、これが本来は笑ってはいけないほどシビアな結果、つまり、血まみれの交通事故を引き起こす、それを不謹慎にも笑うということ自体が、ブラックユーモアとして秀逸だった。そして一人で笑うのではなく、みんなで笑うことにより、その笑い自体が赤信号をみんなで渡ることに相当し、自己言及的であったという意味で、北野武はおそらく当時から天才だったのだろう。

 

 一般的に日本人は「フェアでない」とか「卑怯者」として呼ばれることに鈍感で、米国人の方が敏感なようだ。「フェア」という表現が米国でよく用いられるのは、おそらく議論好きな国民性からきていて、自分にとって不利な点があっても、相手が握っていないと思われる情報を出し惜しみせず、相手に反論の機会を与えて、議論を有意義なものにする考え方である。この事自体が、たとえ議論に負けても、良い議論をしたという意味できっと彼らには楽しいのだろう。少なくともフェアでないやり方をして議論に負けるよりも、フェアなやり方をして負けることの方が価値があると思われる。

 

 つまり、ここまで社会心理学、文化心理学的に詳述して何が言いたいかというと、先述の3点、スモン、予防接種、着床前診断の医原被害反動硬直現象に加えて、もっと大きな被害が発生しようとしていて、希少疾患が米国NIHでは6800疾患あると言っているのに日本では今までに出ている最大の数値でも705疾患となっていて、残りは患者数が更に数が少ないから見捨てていいのだという現象自体が、リスキーシフトであり、赤信号をみんなで渡ろうとしていると言えるだろう。[もっとも正確な希少疾患の数...]で述べるように、欧米で希少疾患が新たに発見され続けるほど、スモンや予防接種の様に欧米との対応の差が明らかになり、[希少疾患全体の罹患率...]で示すように、欧米の人口比を用いると日本でも900万人~1300万人の患者人口が存在し、[合っているかもしれない仮説]で示したように進化と遺伝の基本さえ知っていれば、そこに診断不可能なぐらい疾患を起こすのが稀な遺伝子が存在することぐらい簡単に推測できるのだから、やはり日本での疾患数の認識は余りにも少なすぎるのだ。

 

 ただ、それと同時に、日本人は、非常に深く反省をするというよい面があることも認めなくてはならない。医原被害反動硬直現象について、最後の硬直の部分は、行き過ぎた反省から来ているとも言える。このこと自体は美点であるが、反省した結果が、あまりにも国際基準と違ったやり方になった時点で、何かおかしいと考えるべきなのだ。この「おかしい」を事情を知る立場になればなるほど言い出さないところもコーシャスシフトなのだろう。「反省」を理由にすれば、日本人同士で何か分かり合える気がするため、国際基準と違っていても心情的に正当化できてしまっている。おそらく、円が強くなって久しく、また日本でセンテナリアンがたいへんな人口比率で生み出され続けていることにより、日本人は自信過剰になり、特に医療分野で国際基準に合わせなければならないという感覚が、何十年かのうちに麻痺してきていて、その意味で、状況はより悪くなっているのかもしれない。[更に複雑な感染症の話]の節で指摘したように、センテナリアンが世界最高の人口比率で生み出され続けているのは、おそらく日本の感染症対策が国際基準と比較して天然の状態に近いからであり、感染症対策が国際基準よりもすぐれているためではない。

 

 日本では何か大きな人的被害が出ると、ヒューマンエラーや人災という用語は用いられるが、「赤信号...」というコーシャスシフトによる集団心理的な面は追求しても仕方がないとされ、集団の利益というような雰囲気に基づいて、トカゲの尻尾きりのように、ミスを個人レベルに限定しようとする力が働く。もっと正確には、日本人以外でもそういった傾向はあるが、「赤信号...」からも分かるように、日本の場合はコーシャスシフトの一員として参加する人数が多いのが特徴である。

 

 

 20151月施行の難病法についても、うがった見方をすれば、多少リスキーシフト的なところがある。自分達よりも患者数の少ないグループは無視していいのだという、患者数の少ない群が、さらに患者数の少ない群を切り離して助成を受けるという、実に日本的な解決に向かおうとしている。だが、こういった動きは今に始まったわけではない。1972年の特定疾患調査研究事業以来、ずっとこうしてきたのだ。


もっとも希少な希少疾患 - 70億人にたった一人

 Wikipedia英語版に地球上でたった一人の患者しかいなかった希少疾患について記されている。この場合は患児で、こういった希少疾患には疾患名の日本語訳さえ存在しないことが多いのだが、幸い、京大のある研究室がリボース5-リン酸イソメラーゼ欠損症としてくださっているので、今後英語名ではなくこの日本語名を使おうと思う。しかし、ある意味、この名前を覚えようと覚えまいとあまり関係がない。なぜなら、世界人口70億人のうち患者はたった一人で、治療法の研究など全くなされたことがないことに加えて、白質脳症という重度の症状が出たので、おそらく少年期に他界されているからである。今、生きてこの文章を読まれている方々が今後患うことは絶対にない疾患ということでもあるが、それ故に過酷である。

 

 なるべく理解しようと、論文から部分訳を行ったが、正直なところ、重度すぎて気が重くなるのと、複合ヘテロ接合という劣性遺伝の中でも比較的特殊な遺伝パターンで生じている、つまり、よっぽど間が悪くなければ患わないということを、理路整然と述べられてしまうと、何か、やりきれない。天に召されたこのオランダ人と思われる男児は、どうやら論文中で確認できるかぎり14歳まではがんばって生存されたようだ。Wikipedia英語版の希少疾患のページを通じて、一人だけ患った自分の病気の存在が世界中に広まってしまったことを天から見ていて、希少疾患の患児にみんなが振り向いてくれるのに役だったと喜んでいるのだろうか。それとも、こんな死に様を人様にみせたくないと思うのだろうか。そんなことを考えても仕方がない。科学はやはりヒトの心を救うものではなく、体を救うだけなのである。この場合は救ったとは言えないけれども、次に同じ疾患が出た時には、僅かだけでも、どうすれば症状を緩和できるか、我々はこの患児の論文により知っている。

 

 この節の以降では2004年と2010年の学術論文から訳した部分を示すが、おそらく、70億人に一人の疾患について読んでいただいても仕方がないかもしれない。訳している間にもわかりにくい部分が多く、原因不明の代謝異常症のお子さんを持ってられる方々以外には、そこまで情報的意味はないように思われる。なお、70億人に一人を強調してしまったが、70億人に平等に診断を受ける機会が与えられているわけでは全くないので、第三世界で同じ疾患の患児が2人目として天に召されていても、我々は気づく術さえないが。

 

Huck, Jojanneke HJ, et al. "Ribose-5-phosphate isomerase deficiency: new inborn error in the pentose phosphate pathway associated with a slowly progressive leukoencephalopathy." The American Journal of Human Genetics74.4 (2004): 745-751.

 

The present article describes the first patient with a deficiency of ribose-5-phosphate isomerase (RPI) (Enzyme Commission number 5.3.1.6) who presented with leukoencephalopathy and peripheral neuropathy.

本論文は、白質脳症および末梢神経障害を呈した、リボース5-リン酸イソメラーゼ欠損症(RPI)(Enzyme Commission number 5.3.1.6)を有する最初の患者について述べる。

Proton magnetic resonance spectroscopy of the brain revealed highly elevated levels of the polyols ribitol and D-arabitol, which were subsequently also found in high concentrations in body fluids.

脳のプロトン磁気共鳴スペクトロスコピーによりポリオールリビトールおよびD-アラビトールのレベルの上昇を明らかにし、引き続いて体液中にもそれらが高濃度に存在することが見出された。(訳注:proton magnetic resonanceはおそらくNMRのことを意味していて、MRIと区別して強調したいようです)

Deficient activity of RPI, one of the pentose-phosphate-pathway (PPP) enzymes, was demonstrated in fibroblasts.

ペントースリン酸経路(PPP)酵素の一つである、RPIの活性が欠損していることは、線維芽細胞で検証された。

RPI gene–sequence analysis revealed a frameshift and a missense mutation.

RPI遺伝子のシーケンシング解析により、フレームシフトおよびミスセンス変異が見出された。

Recently, we described a patient with liver cirrhosis and abnormal polyol levels in body fluids, related to a deficiency of transaldolase, another enzyme in the PPP.

近年、我々は肝硬変および体液中の異常ポリオールレベルを有する患者について述べたが、その症例はPPPのもう一つの酵素であるトランスアルドラーゼの欠損を持っていた。

RPI is the second known inborn error in the reversible phase of the PPP, confirming that defects in pentose and polyol metabolism constitute a new area of inborn metabolic disorders.

RPIは、PPPの可逆相における先天性異常として知られる2番目のものである。ペントースおよびポリオールの代謝の欠損により、先天性代謝異常症の新領域を形成するものである。

 

 

Wamelink, Mirjam MC, et al. "The difference between rare and exceptionally rare: molecular characterization of ribose 5-phosphate isomerase deficiency."Journal of molecular medicine 88.9 (2010): 931-939.

 

It manifests with progressive leukoencephalopathy and peripheral neuropathy and belongs, with one sole diagnosed case, to the rarest human disorders.

これは、進行性の白質脳症および末梢神経障害を呈し、たった一人の診断された症例のみ存在する、もっとも希少なヒトの疾患である。

()

Taken together, our results demonstrate that RPI deficiency is caused by the combination of a RPI null allele with an allele that encodes for a partially active enzyme which has, in addition, cell-type-dependent expression deficits.

考え合わせると、我々の結果は、RPI欠損症が、RPIヌルアレルが、部分的に活性な酵素をコードするアレルと、組み合わさることにより引き起こされたと証明するものである。更に、そのコードするアレルは、Cell-type-dependent(細胞タイプ依存性)発現欠損を有している。

We speculate that a low probability for comparable traits accounts for the rareness of RPI deficiency.

我々は、同等の形質が低い確率が、RPI欠損症の希少性をもたらしたと推測する。

()

The facts that no individual homozygous for RPI null alleles has been detected, and the RKI1 knock-out is lethal for yeast, allows speculation that cases with a complete lack of RPI activity are not viable.

RPIヌルアレルについてのホモ接合体の個体が未だ検出されたことがなく、RKI1ノックアウトがイーストにおいて致死的であったという事実から、RPI活性が完全に失われた症例は生存不可能であろうと推測できる。

Consequently, RPI deficiency is penetrating rarer as the natural occurrence of null alleles.

結果として、RPI欠損症は、ヌルアレルが自然発生するよりもより希少な罹患率となる。(訳注:penetrating rarerはこれよりも厳密な訳があるかもしれません)

This fact, however, does not exclude the possibility that other genetic factors, cell-type-dependent modifiers for instance, are contributing to the rare occurrence of RPI deficiency.

 

しかしながら、他の遺伝学的要素、例えばcell-type-dependent modifiersが、RPI欠損症が希にしか起こらないことに寄与している可能性もある。


もっとも正確な希少疾患の数 - 毎日約1つ希少疾患が増える?

 米国の希少疾患当局が6800疾患と述べていることの根拠を推測しながら、もっとも正確な希少疾患の数を調べた。直接的に希少疾患当局に尋ねてもみたが、回答として既に読んだことのあるウェブページしか示されなかった。米国のような率直な国が根拠をあまり明確にしない場合は、それなりの理由があるのであろうと推測される。はっきり言ってしまうとこの数が大きければ大きいほど、予算を確保するのに有利であろうという推測が成り立つ。その数が小さくなるような根拠は示さない方が都合がいいのではないか。そういう見方で厳しい見方から検討を行った。結論として、6800疾患は大袈裟と思えるが、5000疾患を超えていて、ほぼ毎日1つ表現型がOMIMというデータベースに登録され、その多くが希少疾患なのは、ほぼ間違いないものと思われる。つまり、現時点で、エクソームシーケンシングなどにより、大変な勢いで希少疾患の発見が加速されているように見受けられる。

 

 疾患の分類方法は、OMIMICDという2つの世界標準が存在する。他にもGeneReviewsおよびその日本語版、GeneTestsといったものがあるが、なるべく包括的に何でもかんでも登録されているという意味からすると、OMIMICDであろうと思われる。実質的に、一般人が覚えておいて得なのはこの2つのみで、希少疾患の患者であればGeneReviews日本語版もとても役に立つ。しかし、GeneReviews日本語版は、医療従事者以外からの利用に関して神経質なようなので、ここではリンクを示さない。いずれにせよ検索すれば表示される。GeneReviews日本語版が気にしているのは、おそらく2点で、データベースに書いてあることを鵜呑みにして医療的判断を患者が勝手に行ってしまった場合の責任の所在、および、患者からの問い合わせ窓口があるように見えてしまうと膨大な数の問い合わせがきて重要な医療機関からの問い合わせが見落とされやすくなることである。極力、この2点を念頭においてご利用いただきたい。

 

 OMIMは、"Online Mendelian Inheritance in Man"の略であり、日本語にあえて訳せば「ヒトにおけるメンデル継承・オンライン版」となると思われる。ただし、このメンデル継承の部分は、おそらく生物学の翻訳者の間で頻繁に問題になる部分であり、geneticsが遺伝学、heredityが遺伝と、英語では明らかに異なるのに日本語では1文字付け足されただけとなるため、英語のニュアンスが日本語訳に反映されないということが頻繁に起こっている。[遺伝学用語の混乱:genetics、遺伝か起源か]でふれる。

 

 話を戻すと、OMIMは日本人としてはオーエムアイエムと読むのが普通のようだ*。一方で、OMIMの公式ビデオチュートリアルを再生したところ、オーミムに近い発音をしている。日本人同士ならどちらでも通じるのではないかと思われ、外国人に対してはなるべくチュートリアルの発音を真似るのがよいのではないだろうか。OMIMは、後々の節でGenetic Allianceという米国の患者会の連合組織について述べる際に、この組織を設立した人物の一人、ジョンズ・ホプキンス大学のビクトル・マキュージック元教授が中心となって収集し、現在では著作権としてはジョンズ・ホプキンス大学に残したまま、予算的には米国政府の担当となり、米国生物工学情報センター(NCBI)の検索サイトと統合されている

 

 日本語によるOMIMの紹介としては、比較的患者向けのものとして以下のものがある。

 

(OMIMとその使用法:』 Tokyo Medical University, Department of Paediatircs, Genetics Study Group, Hironao NUMABE, M.D., 20141023日閲覧より)

 

便宜上,収載された疾患は,常染色体優性(100000番台),常染色体劣性(200000番台)X連鎖性(300000番台),ミトコンドリア遺伝(500000番台)などに分けて番号が付されています.

個々の疾患(遺伝子異常)により来される病態は,clinical synopsisという症状の項目に別項として列記されています.

症状や病態を客観的に正確に診断する能力を有する方(厳しい言い廻しですが,dysmorphologistと呼ばれる,トレーニングを積んだ専門家を指します.日本では「臨床遺伝学認定医」資格保持者などの一部の医師に限られます)でしたら,この項目を利用してデータベース検索して,疾患の診断が可能です.

 

比較的医療者向けの日本語によるOMIMの紹介§もある。

 

 OMIMを利用する上で、把握しておいた方がいい情報がFAQにまとめられており、重要と思われる部分を抜き出すと次のようなことが記されている。

 

("OMIM Frequently Asked Questions (FAQs)" Johns Hopkins University, 20141023日閲覧より)

 

1.3 What do the symbols preceding a MIM number represent?

1.3 MIM番号の前についている記号は何を表しているのですか?

 

An asterisk (*) before an entry number indicates a gene.

エントリー番号の前のアスタリスク(*)は遺伝子を表す。

 

A number symbol (#) before an entry number indicates that it is a descriptive entry, usually of a phenotype, and does not represent a unique locus. The reason for the use of the number symbol is given in the first paragraph of the entry. Discussion of any gene(s) related to the phenotype resides in another entry(ies) as described in the first paragraph.

エントリー番号の前のシャープ(#)記号は、それが記述的なエントリーであり、通常は表現型についてのもので、特定の座位を表すものではないことを示す。シャープ記号を用いることの理由は、エントリーの最初の段落に記されている。その表現型に関係するあらゆる遺伝子についての検討は、その最初の段落で述べられるように、別のエントリーの中に位置する。

 

A plus sign (+) before an entry number indicates that the entry contains the description of a gene of known sequence and a phenotype.

エントリー番号の前のプラス記号は、そのエントリーが既知の配列および表現型をもつ遺伝子の記述を含むことを示す。

 

A percent sign (%) before an entry number indicates that the entry describes a confirmed mendelian phenotype or phenotypic locus for which the underlying molecular basis is not known.

エントリー番号の前のパーセント(%)記号は、そのエントリーが、根本となる分子的基礎が知られていない、確認済みのメンデル表現型(mendelian phenotype)または表現型座位(phenotypic locus)を記していることを示す。(訳注:少し分かりにくいですが、メンデルが行ったエンドウの形質継承実験と同じ実験を行って、メンデル継承のパターンに合致してることを確認済みだが、それがどの座位だがおおざっぱにしか分かっていないという意味だと思います。)

 

No symbol before an entry number generally indicates a description of a phenotype for which the mendelian basis, although suspected, has not been clearly established or that the separateness of this phenotype from that in another entry is unclear.

エントリー番号の前に記号がないのは、一般的には、メンデル的基礎として、疑わしいものがあるものの、明確には確立されていない表現型の記述、または、この表現型をもう一つ別のエントリー中の表現型から区別するのが不明瞭であることを意味する。

 

A caret (^) before an entry number means the entry no longer exists because it was removed from the database or moved to another entry as indicated.

エントリー番号の前のカレット(^)は、そのエントリーがもはや存在しないことを意味する。記されているように、それがデータベースから削除されたが、他のエントリーへと移動されたためである。

 

See also the description of symbols used in the disorder column of the OMIM Gene Map and Morbid Map.

OMIM遺伝子マップおよびMorbidマップの疾患欄中で用いられる記号についての記述も参照されたい。

()

1.5 What is the OMIM Gene Map and Morbid Map?

1.5 OMIM遺伝子マップおよびMorbidマップとはなんですか?

 

The OMIM Gene Map and Morbid Map present the cytogenetic locations of genes and disorders, respectively, that are described in OMIM. Only OMIM entries for which a cytogenetic location has been published in the cited references are represented in the Gene Map and Morbid Map.

OMIM遺伝子マップおよびMorbidマップは、それぞれ、遺伝子および疾患の染色体上の位置を表す。染色体上の位置が引用文献中で公開されたOMIMエントリーだけが、遺伝子マップおよびMorbidマップに表される。

 

The OMIM Gene Map can be searched by gene symbol (e.g., "SOD1"), chromosomal location (e.g., "5", "1pter", "Xq" ), or by disorder keyword (e.g., "alzheimer").

OMIM遺伝子マップは、遺伝子シンボル(例、"SOD1")、染色体上の位置(例、"5", "1pter", "Xq" )、または、疾患キーワード(例、"alzheimer"(「アルツハイマー」))により検索することができる。

 

こういったOMIMの表記法にしたがって、OMIMに登録されている疾患数の統計を探してみる。

 

("OMIM Gene Map Statistics" より)

 

OMIM Gene Map Statistics:

OMIM遺伝子マップ統計:

 

OMIM Morbid Map Scorecard (Updated October 17th, 2014) :

OMIM Morbidマップスコアカード(20141017日更新):

Number of phenotypes* for which the molecular basis is known 5,341

分子的基礎が既知の表現型*の数 5,341

Number of genes with phenotype-causing mutation 3,293

表現型を引き起こす変異がある遺伝子 3,293

 

* Phenotypes include single-gene mendelian disorders, traits, some susceptibilities to complex disease (e.g., CFH and macular degeneration, 134370.0008), and some somatic cell genetic disease (e.g., FGFR3 and bladder cancer, 134934.0013)

* 表現型には、単一遺伝子メンデル疾患、形質、何種類かの複合病への感受性(例、CFHおよび黄斑変性, 134370.0008)、および、何種類かの体細胞遺伝性疾患(例、FGFR3および膀胱がん, 134934.0013)が含まれる。

 

5341という数値は、6800にかなり近いものの、疾患だけでなく形質までをも含んでいる。その一方で、遺伝子マップに含まれるエントリーは、FAQにあったように、染色体上の位置の同定が済んでいると考えられるため、形質さえ除くことができれば、それなりに信用ができる数値のはずである。しかし、染色体上の位置が同定されるだけではなく、遺伝子が同定される必要があるので、もっと絞られた数値を探すと、まだ形質を含んだ状態ではあるが、分子的基礎が既知の表現型として、以下のように、201317日時点で3674という数値を見つけた。

 

("OMIM Statistics for January 7, 2013" より)

 

OMIM Statistics for January 7, 2013

Number of Entries

 

Autosomal

X-Linked

Y-Linked

Mitochondrial

Total

* Gene with known sequence

13370

651

48

35

14104

+ Gene with known sequence
and phenotype

124

4

0

2

130

# Phenotype description,
molecular basis known

3371

271

4

28

3674

% Mendelian phenotype or locus,
molecular basis unknown

1627

133

5

0

1765

Other, mainly phenotypes with
suspected mendelian basis

1765

125

2

0

1892

Total

20257

1184

59

65

21565

 

 

この数値は、201317日のものである。その一方で、OMIMのサイトの統計のメニューから、同じ意味の数値を探すと、20141021日更新の統計として、4,270という数値が得られた。ざっと計算すると、この652日間に、(4270-3674)/652=0.914となり、「ほぼ毎日1個」、表現型、その多くは疾患の登録が増え続けていることになる。形質と疾患を分離した統計が見つけられないという歯がゆさが残るが、重症化しないと希少疾患は診断できない、だから診断を得られない患者が必ず存在してしまうという、本著でこれまでに記してきた大前提で考えると、やはり生死や予後に関係のない形質よりも重度の疾患の方が登録されやすいであろうと考えられる。

 

 一応、上記の表からより広くとれば、下3段を合計することにより、3674+1765+1892=7331という数値となる。これは今までに検討した中で6800に最も近い数値であり、おそらく、これに形質を除いて疾患だけ抽出するための補正を行って6800としたのではないかと推測できる。OMIMについて述べている文献を探すと、2004年と少し古いため毎日1件表現型が追加される状況だと、どのぐらい現状に当てはまるのか分からないが、はっきりと疾患と限定した形で記されているものがあった。

 

Hamosh, Ada, et al. "Online Mendelian Inheritance in Man (OMIM), a knowledgebase of human genes and genetic disorders." Nucleic acids research33.suppl 1 (2005): D514-D517.

 

The Morbid Map is an alphabetical tabular listing of all mapped disorders.

Morbidマップは、アルファベット順の表の形式とした全てのマップされた疾患のリストである。

As of September 13, 2004, there were at least 3659 disorders spread across 2558 loci.

2004913日の時点で、少なくとも3659の疾患が2558座位に広がって存在していた。

In 2563 of these disorders, the molecular basis has been identified at the DNA level.

これらの疾患のうち2563は、分子的基礎がDNAレベルで同定済みである。

These 2563 disorders of known molecular basis are distributed over the 1651 loci with at least one allelic variant; many genes are the site of more than one mutation causing phenotypically distinct disorders (e.g. cystic fibrosis and congenital bilateral absence of the vas deferens caused by different mutations in CFTR).

分子的基礎が既知のこれら2563疾患は、少なくとも1個のアレルを有して、1651座位にわたって分布している。そのうち多くの遺伝子は、表現型的に異なった疾患を引き起こす2つ以上の変異を有するサイトである(例、嚢胞性線維症および先天性両側精管欠損症は、CFTR遺伝子の異なった変異により引き起こされる)(訳注:サイトとは変異が起こる場所のことだと思われます)

 

2004年時点でOMIMの中を数えれば、確実に疾患といえる分子的基礎が確立したものだけ拾うと、2563である。これを強引だが現在の日付まで増加させると、3690日なので、およそ6000疾患となる。やはり6800はこの辺りを根拠としている可能性が高い。

 

 ICDの方についても、少し触れたい。ICDは、疾病及び関連保健問題の国際統計分類と呼ばれるWHOが策定している分類法であり、何度も改訂され拡張されて、現在ではICD-10(2003)と呼ばれるものが用いられている。結論を言ってしまうと、2017年に施行を予定されているICD-11には、[希少疾患と難病...]の節でオーファンドラッグの国際ネットワークとして述べたOrphanetのデータベースに登録されているおよそ5850疾患が、なるべく幅広くICD-11に取り込まれるように活動が行われている。現在Orphanet上でどこにこの数値があるのか探しても見つからないものの、ヨーロッパの患者会の連合組織であるEURORDISのサイトのプレゼン資料であるため、信ぴょう性は高いと思われる。したがって、ICDについて調べた限りは、Orphanetの方についても同じ結論として、Orphanet上で検索できるはずの5850疾患である。

 

 OMIMICDOrphanetの結論として、診断の中に分子的基礎、つまりDNA検査で病的変異が見つかったかどうかで、学術論文に記されている症例の信頼性が異なり、どうやら、2004年時点で2563疾患というのが、分子的基礎が確立されたものだけを拾った、最も控えめな数値と思われる。これに相当する現在の数値が得られれば、それがもっとも正確な希少疾患の数と言えるであろう。

 

 念のため、付け加えておくが、これはDNA検査で疑わしい変異が見つからなければ、すべて診断しなくていいということを推奨するものではない。確実な診断のために積極的に大型のDNA検査を活用し、そして変異が見つかるに越したことはないが、それでも症状と一部の検査値が一致するのであれば診断を出すべきだと思っている。過去にはDNA検査なしで診断を行っていたのに、ほんの数年を境にして、現在ではDNA検査で変異が見つからなければ診断しないというのは私から見るとフェアではない。

 

 ICDについて、逸話として興味深いのは、あの、小学生の時に伝記で読んだ方も多いであろう、伝説的な看護師であるナイチンゲールが出発点の一つということである。ただし、WHOによる公式のICDの歴史によるとあくまでその一つという扱いである。その理由としては、ナイチンゲールが実際に戦場の看護師をしたのはたった2年間で、その間に英国による戦意高揚のための広告塔として有名になり、そののちはずっと統計学者として活躍したという、小学校で伝記で読んだよりも複雑な歴史があるということのようだ。その2年間に、あまりにも多くの死を見て、そして看護師としての自分の行動との因果関係を統計的に追求しすぎたため、それ以上看護師を続けるのがためらわれたのではないかと思う。ブルセラ症脊椎炎を患っていたという説もあるが、基本的にはうつ症状を間欠的に示していたそうである

 

 ナイチンゲールについて述べたところで、OMIMと女性との関係で気になることは、Online Mendelian Inheritance in Manというように、最後にHumanではなくManと、暗に男性を意識させる表現になっていることである。なぜこれが女性の権利の活動が活発な米国で問題になっていないのか多少不思議であったが、よく考えれば、これには多少科学的な裏付けがないでもない。男性特有の伴性遺伝病は知られているが、女性特有の伴性遺伝病というのは、ほとんど知られていない。調べた限り、レット症候群**のみである。優性遺伝のX染色体の遺伝子による疾患に限って、病的変異を有するX染色体を持つ男子が流産するほど重度であり、女子でも重度に発症するということのようだ。しかし、いずれにしろ、すでに1つはそういった疾患が発見されているので、いずれ、OMIMOMIHなどになるのかもしれない。


希少疾患全体の罹患率 - 全部合わせると10~14人に一人

 

 希少疾患全体としての罹患率として、米国の患者会の連合組織であるNORD10人に一人という非常に大きな数値を出している。これについて直接NORDに問い合わせたところ、NIH内のNCATS(米国先進トランスレーショナル科学センター)による罹患人口2500万人(8%)、同じくNIH内のNHGRIによる罹患人口25003000万人(89%)、以下の論文中の25003000万人(812%)3点を根拠として示された。

 

Griggs, Robert C., et al. "Clinical research for rare disease: opportunities, challenges, and solutions." Molecular genetics and metabolism 96.1 (2009): 20-26.

 

NHGRI9%というのは、2014年現在の米国人口3.16億人から計算したものである。Griggsらが論文中で示している12%というのは大きすぎるような気がするが、2009年には人口比でそうだったのだろうと考えるしかない。全てNIH系の根拠なのは気になるが、一応、これだけ大きな数値が出ていても部局によって違いがないということは、本当のことなのだろう。米国の希少疾患の基準として20万人未満の感染症も含めれば。

 

 [もっとも正確な希少疾患の数...]で調べたように、米国の6800疾患というのはEUよりも大きな見積りであった。同じように、米国の10人に一人というのはEUよりも幅広くとっていると思われ、日本の基準と照らし合わせるとEU68%の方がよく当てはまるという結論になるものと思われる。以下に記すように、EUの患者会の連合組織であるEURORDISによる68%を検証しようとしたところ、どこまで信用していいのかわからなくなる部分が多少あった。そういう事情で、結論が予想できる割に細かな問題が生じた。EUでの希少疾患全体の罹患率として68%、間をとって7%14人に一人という数値を、本著で日本の罹患率を予測する場合に採用する。EURORDISに問い合わせて、現在も書き足しているのが本節の現状である。

 

 希少疾患全体の罹患率について、他のソースを参照しながら、検証したい。まずは、EUの患者会の連合組織である、EURORDISからの希少疾患の政治的啓蒙用の文書である。

 

("Rare Diseases: understanding this Public Health Priority" EURORDIS, November 2005 より)

 

In order to be considered as rare, each specific disease cannot affect more than a limited number of people out of the whole population, defined in Europe as less than 1 in 2,000 citizens (EC Regulation on Orphan Medicinal Products).

希少と考えられるためには、各特定の疾患は、全人口の中で限られた人口を超えて罹患することはできない。ヨーロッパでは、2000人の市民に一人未満であると定義されている(EC希少医薬品規制)。

This figure can also be expressed as 500 rare disease patients out of 1 million citizens.

この数値は、100万人の市民に対して500人の希少疾患の患者と同じと表現することもできる。

While 1 out of 2,000 seems very few, in a total population of 459 million citizens this could mean as many as 230,000 individuals for each rare disease.

2000人に一人というのは非常に少ないように思われるけれども、全人口で45900万人の中だと、これは各希少疾患あたりで23万人もの個人を意味しうる。

It is important to underline that the number of rare disease patients varies considerably

from disease to disease, and that most people represented by the statistics in this field suffer from even rarer diseases, affecting only one in 100,000 people or less.

希少疾患の患者数は、疾患から疾患へと著しく変化するのに留意するのが重要である。この分野での統計によると、多くの人々は更に希少な疾患に苦しめられ、それは10万人に一人以下のみが罹患するという希少さなのである。

Most rare diseases do only affect some thousands, hundreds or even a couple of dozens patients.

多くの希少疾患は、数千人、数百人、あるいは数十人の患者のみに罹患する。

These “very rare diseases” make patients and their families particularly isolated and vulnerable.

これらの「超希少疾患」は患者達とその家族を、特に孤独で被害を受けやすい状況に追い込むのである。

It is worth noting that most cancers, including all cancers affecting children, are rare diseases.

小児に罹患する全種類のがんを含んで、多くのがんが希少疾患であることも特筆すべきだ。

Despite the rarity of each rare disease, it is always surprising for the public to discover that according to a well-accepted estimation, “about 30 million people have a rare disease in the 25 EU countries”3, which means that 6% to 8% of the total EU population are rare disease patients. This figure is equivalent to the combined populations of the Netherlands, Belgium and Luxembourg.

めいめいの希少疾患の希少性にも関わらず、受け入れられている算定方法によると、「25EU諸国の中で約3千万人の人々が希少疾患を有している」(脚注3)ということに人々はいつも驚きを示す。これは全EU人口の6%8%が希少疾患の患者であることを意味する。この数字は、実にオランダ、ベルギー、およびルクセンブルグを合わせた人口と同じなのである。

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2.2. Paradox of rarity

2.2. 希少性のパラドックス

The above-mentioned figures mean that even though the “diseases are rare, rare diseases patients are many”. It is therefore “not unusual to have a rare disease”.

先述の算定が意味するのは、たとえ「疾患が稀なものでも、希少疾患の患者数としては実は多い」ことである。それゆえに「希少疾患の有するのは全く異常なことなどではない」のである。

It is also not unusual to “be affected by” a rare disease, as the whole family of a patient is indeed affected in one way or another: in this sense it is “rare” to find a family where nobody is - or no ancestor has been - affected by a rare (or “unknown”, “unexplained”, “strange”) disease.

希少疾患に「影響を受ける」こともまた異常なことではない。ある患者の全家族が実に何らかの方法で影響を及ぼされているからである。この意味では、ただの一人も - 祖先までも含めると - 希少な(または「未知の」「説明できない」「奇妙な」)疾患に罹患していない家族を見つける方が「希少」なのである。(訳注:affectedを当初罹患すると訳しましたが、患者の全家族が何らかの方法で罹患していると突然言い出すのは、科学的に厳密さに欠けるので、この場合は影響を受けるの意味であろうと解釈しました。しかしそれでも最後の文を罹患と訳さざるを得ず、これは英語のaffectedに罹患と影響を受けるの両方の意味があり、日本語でそうではないことによる翻訳の限界です)

A mother tells:

ある母親は語る:

“At the age of 6, Samuel was diagnosed with a rare metabolic disease.

6歳の時、サミュエルは代謝性の希少疾患と診断されました。

Almost three years after Samuel’s death, we are still a family with a rare disease:

サミュエルの死後、約3年で、私達は未だに希少疾患をもった家族のままです。

I have discovered that I have symptoms linked to the fact that I am a carrier, my marriage broke down due to the stress of losing a child and my daughter was unable to sit her A level exams due to the grief of losing her little brother and her father leaving”.

私が保因者である事実に関連して、私に症状が出ていることに気が付きました。子を失ったストレスにより、私の結婚生活は終わりを告げました。私の娘は幼い弟を失い、父親が出ていった悲しみにより、卒業試験を受けることもできません」

 

包括的に数値が出ているので、ある程度は検証することができる。2000人に一人という希少疾患の条件は人口比0.05%である。500/1000000=0.05%で一致している。人口45900万人の時点なので、459000000*0.05/100=22950023万人と一致している。30000000/459000000=6.5%となり、6.5%1桁へと四捨五入して7%であり、6%8%の間で一致している。

 

 訳文中で脚注3とした文献を検索しても、すでに更新版に置き換えられているようで、相当する記述を見つけられないものの、いずれにせよEUの患者会の統合組織であるEURORDISのサイトからのものなので、全EU人口の68%が希少疾患を患っているということの信ぴょう性は高いと思われる。ただし、1桁で表すとすれば7%であり、68%と幅をもたせている理由はこの文書だけでは分からない。米国で人口比0.06%の条件で10%EUで人口比0.05%の条件で7%というのも、両方の数値がEUで小さいため食い違いはなく、米国人口にアジア人やアフリカ人が混じっていてもそう大きく変わっているとは思えない。日本でもEUと同じ0.05%の人口比をとると、やはり7%付近の罹患率になるのではないかと期待される。

 

 反面教師的な体験談については、最後の夫が出て行った理由は、子を失ったストレスだけと考えるのは無理がある。情報が少ないので苦しいが、まず、もっとも可能性の高い場合を考えてみる。子が6歳付近で亡くなったということは、先天性代謝異常症であろうと思われる。この場合、2つのアレルのうちどちらかだけ機能すれば酵素として役割を果たすことができるため、ほとんどの場合常染色体劣性遺伝である。妻と夫、両方共が保因者である可能性が高い。生殖細胞系列でのde novo変異という例外はあるが、確率としては極めて小さい。「我々夫婦の男女としての相性が生物学的に悪かったのだ」と、特にインターネットで中途半端に知識を仕入れた父親の方が考え始めるというのは、今日では頻繁に起こっている現象である。そして、男女としての生物学的相性が悪かったというのは、まさに科学的事実なのである。「別の女性とさえ結婚していれば、サミュエルは死なずに済んだのに、この女と結婚したばかりにこんなことになった」と考えたいのである。おおざっぱに言って、ヒトの半分は遺伝的存在であり、半分は環境的存在なので、別の女性と結婚した場合のサミュエルは、その女性のDNAにより顔形は違うサミュエルになっただろうが、父親にとっては同じ自分のDNAと愛情を受け入れるサミュエルという存在には代わりがないはずだ。だから、サミュエルはあの女のせいで亡くなった、そう考えたがるものなのである。

 

 しかし実際には、妻だけでなく夫の方も劣性変異の保因者なので、責任としては妻も夫も同等なのだが、私が知る限り、女性よりも男性の方がこのように自己中心的な考えに逃避する傾向が強い。その一方で、この妻の方は何も調べなかったがために、おそらく劣性遺伝の疾患が、片方だけのアレルでも自覚できるほどの症状を起こすと勘違いをしている。[みんなが保因者の劣性遺伝病...]で述べるように、確かに、劣性遺伝のアレルがヘテロ接合の場合、ヒトで生死に関わる実験などできないので証明はされていないものの、マラーのハエの実験により遺伝的荷重として生存率に影響すると言われている。しかし、非常におおざっぱに言うとホモ接合で発症した場合の5%未満である。そんなわずかな症状は老化や更年期の症状に覆い隠されて通常の手段では自覚することなどできない。つまり、夫に責められたがために、サミュエルが病気で亡くなったのは自分のせいだと思い込んでしまい、さらに自分にもそういう症状があるのだと、ただの老化を代謝異常症の症状だと勘違いした可能性が高い。[ミトコンドリアDNAの検査]で述べたように、老化したら代謝異常症に近い状態になっていくのは当たり前の話なのである。

 

 この場合、実際には、大変なリスクにさらされているのは、この卒業試験に身が入らないなどとのんきな様子が記されている娘の方なのである。夫の方が科学的な考え方に慣れているのであれば、医師とのやりとりを夫がしていて、劣性遺伝なので娘の方にも25%のリスクがあるという話を聞いたのが夫だけの可能性がある。しかし、夫は妻のせいにしたいのだから、妻には、劣性遺伝なので生物学的責任が男女平等にあるということを知らせていないはずである。ということは、妻は、劣性遺伝による兄弟姉妹25%のリスクを知らない可能性が高い。だから、娘はホモ接合の保因者の可能性があり、女子では男子よりも軽度で発症も遅いことが、例外はあるが、遺伝性疾患の大まかな特徴であるため、単に現在まで発症していなかっただけなのかもしれない。そうだとすれば、単にいつ発症するか分からない状態であるだけでなく、登下校中に自動車にひかれて緊急手術となったときに、筋弛緩剤や麻酔薬で逆に生命の危険に陥る可能性さえある。

 

 仮に、常染色体劣性遺伝ではなく、伴性劣性遺伝の先天性代謝異常症だと考えてみる。X染色体は男子で1本なので、この場合は確かに妻の方だけが保因者で、夫の方は保因者ではない。そして娘にもリスクはない。ただし、妻の方にも同じ理由でリスクはない。妻に代謝性疾患の症状が出たというのは、やはり思い込みということになる。Y染色体による限定遺伝の場合には、妻が保因者ではないので、今回は当てはまらない。

 

 仮に、mtDNAの変異によるミトコンドリア病であると考えると、この場合は分類の仕方によって代謝性疾患の中に入れないことも多いが、入れている場合もある。この場合は妻にも症状が出うる。同様に娘にも出うる。やはり娘の検査に言及せずに、のんきに卒業試験などと言っているのは奇妙である。

 

 仮に、常染色体優性遺伝または伴性優性遺伝と仮定する。妻からの優性遺伝だと確かに妻に症状が出る。娘にも50%の確率で継承される。よりいっそう高い確率なのに、娘の検査に言及せずに卒業試験に言及しているのはちぐはぐだ。調べた範囲では常染色体優性遺伝の先天性代謝異常症として該当するのは瀬川病だけである。伴性優性遺伝の先天性代謝異常症は、調べた限り見つけられなかった。

 

 これは、最初から謎かけのつもりで作られた話なのだろうか?どう仮定しても、話としてどこかがちぐはぐである。最初は希少疾患は普通のことだよ、というのを説明するための反面教師としての体験談だと思ったのに、詰めてみると、決して、患者会が啓蒙のために紹介するような話ではない。それとも、劣性遺伝の変異の保因者であるというだけで、自覚症状を感じてしまうほど思いつめてはいけないという、反面教師的な教訓なのだろうか?いや、まずどう考えてもDNA検査で娘の方のリスクを同定する方が最優先だろう。わからない。

 

 これはサミュエルというのを、男性名だと勝手に勘違いするなというフェミニスト運動か何かなのかと思って、サミュエルが女性名である場合を調べたが、サマンサが女性名として広まっているので、わざわざサミュエルを女性名として使う意味はあまりない。

 

 結局考えに考えた結果、今のところは、妻は娘のDNA検査を思いつくことなく、自分にありもしない自覚症状を覚えるほど、心を病んでしまった、こんなことはあってはならない。そういうよくないパターンの例として、編集に関わった医師や研究者はこの記述を許容しているのだろうと思う。これを記述した人物はもちろん、これが妻が心を病んでいると考えない限りあり得ない例であることに気が付かずに書いてしまった可能性が高い。問題は、なぜ編集段階で訂正されなかったである。

 

・・・一見単純なのに、本当にこの家族の今後のことを案じたなら、ここまで複雑な話になるというのを、書いた人物に納得してもらえなかったのかもしれない。いや、率直にそんなことを言えば、書いた人物が家族の今後を案じていないかのようなので、言い出せなかったのかもしれない。

 

 20141216日追記として、EURORDISに問い合わせていたところ、次のように古い文書だからよく分からないとの回答をいただいた。

 

For your second question, we are not sure what the mother of Samuel means in her statement.  However, this document is 9 years old and much more is known today about diagnosing and treating rare diseases. 

 

これ以上考えても仕方なく、EUの希少疾患全体の罹患率として7%14人に一人というのを採用する。しかし、[診断に至るまでの年数、または遅延 - 28年?!]で示すEUの各希少疾患の罹患率を、罹患率の大きなものから加算していけば、おそらく7%となる根拠がさらに示すことができると思われるため、まだ、更に検証する余地は残されている。


診断に至るまでの年数、または遅延 - 28年?!

 EURORDISによる大規模なアンケート調査の結果、12000人の希少疾患の患者の声が報告にまとめられている。本節では、同報告から、典型的な患者で最も診断に時間のかかる疾患は、エーラス・ダンロス症候群(EDS)の発症から診断まで28年であることを示す。

 

 この報告書300ページにも上るものなので、今後の引用では、PDFの中でページ番号として示されている数値を参照先として示す。

 

 まず、診断に至るまでの平均年数について調べる。

 

(42ページ)

 

For many of the survey participants affected by a rare disease, the quest for a correct diagnosis signified a long and significant challenge.

希少疾患に罹患した多くのアンケート回答者にとって、正しい診断を求めての探求は、長く遠大なチャレンジを意味していた。

Before having obtained their diagnosis they consulted many specialists, underwent numerous medical exams and often received incorrect diagnoses along the way.

診断を得る前に、彼らは多くの専門家に相談し、多くの検査を受け、その途中でしばしば間違った診断を受けている。

This journey was not only troublesome and taxing, as patients often travelled long distances and used their own savings, but also often led to deleterious consequences for patients and their families.

この道程は、患者がしばしば長距離を通院し自分の貯金を切り崩しているように、トラブルが多くて骨が折れるだけでなく、しばしば患者やその家族にとって有害な結果を引き起こしさえしている。

Overall, patients were left with no choice but to seek answers on their own, with little help from healthcare systems, in many cases.

全体として、患者はただ一人答えを探し求める以外に選択の余地などなく、多くの場合は、一般的な医療機関からの助けはほとんど得られなかった。

Even if obtained, diagnoses were often announced under inappropriate circumstances, where the gravity of the announcement and the subsequent consequences for the patients and their families were not considered.

たとえ診断が得られたとしても、その内容はしばしば不適切な状況で口に出され、患者および家族にとってのその内容の重みと引き続く結果が考慮されていなかった。(訳注:引き続く結果とは本人の予後だけでなく家族への遺伝の恐れを指していると思われます)

 

The Quest for Diagnosis

診断を求める探求

 

When presented with a symptom or set of symptoms, it is logical that a rare disease would not be the first proposed cause by a health professional.

症状が出たとき、または複数の症状が出た時、医療従事者により最初に提案される病因として、希少疾患があがらないのはもっともなことである。

For the same reason, it is not surprising that the time it takes to diagnose a rare disease might be longer than for a common one.

同じ理由から、希少疾患を診断するのにコモンディジーズよりもより長くかかるのは、驚くにあたらない。

With each clinical event, the time it takes to reach a diagnosis will depend upon the disease in question and the complexity of diagnostic needs.

めいめいの臨床的イベントで、診断に達するのにかかる時間は、問題となっている疾患、および、診断が必要とする複雑さに依存するであろう。(訳注:「めいめいの臨床的イベント」と直訳しましたが平たく言うと「各患者」だと思います)

These delays, difficult enough to accept for individuals with common diseases (let alone healthy individuals), represent only the first obstacle for rare disease patients.

健康な方々はもちろんのこと、コモンディジーズの患者の方々にとっては理解しがたいことだろうが、これらの遅延は、希少疾患の患者にとっては、最初の障害にすぎないのだ。

The delays in diagnosis for the eight investigated diseases are presented below (Table 1).

調査した8つの疾患についての診断の遅延を、以下に示す(1)

Within disease groups, delays in diagnosis varied greatly.

疾患のグループの範囲内で、診断の遅延は著しく異なっている。

A small percentage of respondents experienced very short delays in diagnosis and another small percentage of respondents experienced very long delays.

回答者のうち小さな割合が診断において非常に短い遅延を経験し、その一方で、別の小さな割合の回答者が、非常に長い遅延を経験した。

However, the majority of patients within each disease group experienced delays somewhere in between.

しかしながら、各疾患グループの範囲内で、患者の大多数は、その中間の遅延を経験した。

As a result of this range in delays, the median delays in diagnosis were calculated based on the responses of half (50%) of the respondents in each disease group as well as for three-fourths (75%) of respondents in each disease group.

遅延が分布する範囲についての結果として、各疾患グループの回答者の半分(50%)の回答、および、各疾患グループの回答者の4分の3(75%)の回答に基いて、診断に要した遅延の中央値が計算された。

For example, for half of respondents affected by CF, diagnosis was determined 1.5 months after the first appearance of symptoms.

例として、CFに罹患した回答者の半分が、診断は最初に症状が出てから1.5ヶ月で決定された。

When including the 25% of respondents affected by CF that experienced the longest delays, the median increased dramatically, to at least 15 months of delay following the first appearance of symptoms.

CFにに罹患した回答者のうち、最も長い遅延を経験した25%を含むと、中央値は劇的に増加し、最初に症状が出てから少なくとも15ヶ月の遅延となる。(訳注:無作為に25%を足したわけではないように読めるのですが、この分野の統計としてこれは普通のことなのでしょうか?本当のところは各疾患をページを後で調べる予定です)

 

Source of information Delay in diagnosis for 50%of patients Delay in diagnosis for 75%of patients

情報の元 患者の50%にとっての診断遅延 患者の75%にとっての診断遅延

CF 1.5 months 15 months

cystic fibrosis 嚢胞性線維症

TS 4 months 3 years

tuberous sclerosis 結節性硬化症

DMD 12 months 3 years

Duchenne muscular dystrophy デュシェンヌ型筋ジストロフィー

CD 12 months 5.8 years

Crohn’s disease クローン病

PWS 18 months 6.1 years

Prader-Willi syndrome プラダー・ウィリー症候群

MFS 18 months 11.1 years

Marfan syndrome マルファン症候群

FRX 2.8 years 5.3 years

Fragile X syndrome 脆弱X症候群

EDS 14 years 28 years

Ehlers-Danlos syndrome エーラス・ダンロス症候群

Table 1 Median time elapsed between the first symptoms and a correct diagnosis.

1 最初の症状から正しい診断までの経過時間の中央値

 

The results in Table 1 not only illustrate the great differences in delays between disease groups but also between patients with the same disease.

1の結果は、疾患グループの間で遅延に大きな違いがあることを示すだけでなく、同じ疾患でも患者の間で大きな違いがあることを示す。

For example, half of respondents (50%) affected by MFS reported a delay of at least 18 months between the first appearance of symptoms and obtaining a correct diagnosis.

例として、MFSに罹患した回答者の半数(50%)が、最初に症状が出てから正しい診断を得るまでに、少なくとも18ヶ月の遅延を回答した。

An additional 25% of respondents from this same disease group did not receive a correct diagnosis until an average of at least 133 months (more than 11 years) after the first appearance of symptoms.

同じ疾患グループからの追加された25%の回答者は、最初に症状が出てから、平均して少なくとも133ヶ月(11ヶ月以上)まで正しい診断を受けていない。

As the aim of this survey was not to criticise the diagnosis process in general, but rather to investigate the consequences and factors associated with longer delays, these aspects are presented below in order to help propose solutions that could ultimately lead to an improvement in the health and quality of life of rare disease patients.

このアンケートの狙いは、広く診断の過程を批判するものではなく、長い遅延をもたらしている要素と結果を調査することにある。以下に、希少疾患の患者の健康とQOLについて非常な向上をもたらす解決策を提案するのを助けるため、以下にこれらの側面について掘り下げる。 

 

特にエーラス・ダンロス症候群(EDS)の50%中央値14年、75%中央値28年が極めて長い。 

 

 訳注として「無作為に25%を足したわけではないように読めるのですが、この分野の統計としてこれは普通のことなのでしょうか?本当のところは各疾患をページを後で調べる予定です」とした部分について、CFについて調べた。

 

(125ページ)

 

Neonatal diagnoses were obtained in 36% of patients, 45% of which resulted from disorders observed during pregnancy or at birth, 31% of which were made following neonatal testing and 17% linked to other cases in the family.

新生児診断が36%の患者で得られ、そのうち45%が妊娠中または出産中にみられた疾患からのもので、そのうち31%が新生児スクリーニング、17%が家族の他の患者に関連するものである。

For non-neonatal diagnoses, the time elapsed between the first clinical manifestations to diagnosis was nine months for 50% of patients (and as long as three years for 25% of those diagnosed the latest).

新生児診断でない場合については、最初の臨床症状から診断までの時間経過は50%の患者で9ヶ月である(25%の最も遅く診断された患者らについては3年の長きにわたる)

 

やはり、最も遅く診断された25%を追加して75%としたようだが、新生児診断の割合が大きいために、比較しにくくなってしまっている。逆に新生児診断症例のないEDSについて調べる。

 

(136ページ)

 

A period of 14 years elapsed between the first clinical manifestations of the disease and diagnosis for half of patients (28 years for 25% of the latest diagnoses).

最初の臨床症状から診断までの経過時間は半数で14年である(最も遅い診断の25%28年である)

 

最も遅い25%28年というのと、75%28年というのが、同じになってしまっているので、25%の中でも特に遅い患者、70歳とかの症例が効いているのかもしれない。CDについてみてみる。

 

(121ページ)

 

The time elapsed between the first clinical manifestations and diagnosis was 12 months for 50% of patients (nearly six years for 25% of the latest diagnoses).

最初の臨床症状から診断までの経過時間は患者の50%12ヶ月である(最も遅い診断の25%6年近い)

 

どうやら最も遅い25%を追加して75%としているとみて、間違いなさそうだ。では、先に述べられている50%の患者の方は、最も早い50%なのだろうか?いや、そんなことは記されていなかった。しかし、最も遅い25%をすでに除いているので、真ん中の50%か、最も早い50%か、2つに一つしかないはずだ。これは、なぜ、平均値と標準偏差で示さなかったのだろうか。おそらく、最も遅い25%がものすごく遅いということを強調したかったのだと思われるが、その強調に見合わないほど、話が後で検証するのに複雑になって、信ぴょう性が落ちている。せめて、50%25%を足して75%とすることさえなければ、もう少しわかりやすかったかもしれない。おそらく、何か過去につくられた資料と比較できるように、このようになってしまったのだろう。しかし、私が統計に慣れていないだけで、こういう方法が普通なのかもしれないので、どなたか日本語で解説したウェブページをご存知ならお教えいただけるとありがたい。

 

 

 ともかく、調査された範囲ではエーラス・ダンロス症候群(EDS)の患者の75%、または、最も遅い25%の、発症から診断まで28年というのが、最長である。



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