目次
はじめに
はじめに
宗教的表現について
研究者の方々へ - 検証中の仮説
外部リンクの表記、Android対応、訂正箇所のご指摘のお願い
概略
現在の症状
息子の誕生
さらに遠い通院へ
知らされなかった検査結果
アミノ酸分画検査結果
タンデムマス検査結果
合っているかもしれない仮説
閑話休題:創作話 トリケラお母さんの悲劇(# ゚Д゚)
DNA検査の実体験と仕組み
ミトコンドリアDNAの検査
ヒットカウント分析および共起性分析
23andMeのDNAアレイによる検査 - 販売停止命令に至る経緯
遺伝病とコモンディジーズの違い - 優性遺伝と劣性遺伝
ヒトはヒトであるが故にヒトの病を患う
コモンディジーズの検査方式 - アバウトなGWAS
23andMeの深刻な検査結果 - 統計の改善による影響
23andMeのその他の結果
エクソームシーケンシング
コモンとレアの重症度分布 - アレル頻度とエフェクトサイズ
個人向け遺伝子検査の選び方 - 罹患人口カバー率指標
閑話休題:製作物 DNAツリー
希少疾患と難病の制度および数値
希少疾患と難病の違いと制度的起源 - 日米欧比較
赤信号みんなで渡れば - 真面目な日本人の最悪の集団行動
もっとも希少な希少疾患 - 70億人にたった一人
もっとも正確な希少疾患の数 - 毎日約1つ希少疾患が増える?
希少疾患全体の罹患率 - 全部合わせると10~14人に一人
診断に至るまでの年数、または遅延 - 28年?!
GINA(ジーナ) - DNA検査時代の国民、患者を守る法制度
国民皆保険の功罪 - 患者をチェリーピッキングする医師達
節としてまとまらなかった事柄
希少疾患と感染症
感染症と希少疾患の関係 - 未診断の希少疾患という重症化因子
予防接種の健康被害としての未診断の希少疾患
希少疾患としての感染症 - 米国のAIDSの歴史
見えないところに死体の山
医師に頼らない因果関係の追求 - 脳症の本当の原因
更に複雑な感染症の話
医療訴訟が生み出す二次被害 - 無過失賠償制度の必要性
辛い記憶
両親を批判することについて
両親への間違った説明
辛かった学校生活
体育の次の時間に倒れてしまう
電車とバス
繰り返し運動による寝られぬほどの筋肉痛
食事の前後の発作
進化と感染症の間の遺伝性疾患
進化と感染症の間の遺伝性疾患
仮説の更なる展開 - 発見され増加を続ける希少疾患
卵子と精子の間の変異の導入の違い
感染症と遺伝性疾患で重度となる役割 - 男性淘汰進化説
絶滅のシナリオ - 感染症と遺伝性疾患の袋小路
進化のスピード調節 - もっとも強く訴えたいこと
進化と遺伝性疾患の「必然性の枠内の偶然性」
ダーウィンのUNdiagnosed
そして各論へ
遺伝学用語の混乱
遺伝学用語の混乱:genetic、遺伝か起源か
de novo変異 - 両親から受け継がれない優性遺伝の変異
個人向け遺伝子検査のガイドラインの乖離
みんなが保因者の劣性遺伝病? - 平均約10個の遺伝的荷重
劣性病的変異の健常者への影響 - 遺伝子プールの浄化説
あとがき
あとがき
これ以降分冊予定
▲▼そして各論へ
検証実験の山 - バッチ型検証実験の提案
希少疾患の中の更なる希少な患者群についての予測
環境因子か遺伝因子か
代謝異常についての進捗
遺伝子検査の2つの嘘
生まれの平等性または不平等性
▲▼生まれの平等性または不平等性
新型出生前診断と着床前診断 - 技術的に◯、倫理的に☓
生まれる前のDNA検査 - 科学的因果関係の追求ライン
技術としてのNIPT - 生まれのDNA検査の技術予測
我が子に故意に良くない遺伝因子を許容する親の罪
ディストピアな未来像 - 生まれの平等性が崩れた世界
不妊という社会問題 - 男性不妊と父性年齢効果
中絶による母体へのダメージ - 次の妊娠がうまくいく確率
着床前診断の問題点 - NIPTとの倫理的違和感
不妊治療としてのPGD - 不妊としての遺伝性疾患
生殖医療のリアルの写真
男女産み分けの国際比較 - 海外での生殖補助医療のリアル
着床前診断の潜在的なリスク - 子と女性へのリスク
フィルターされた人々による生まれの平等性、不平等性の支配
遺伝学用語の混乱:variation、多様性か変化性か
人権に基づく多様性、人権に基づく変化性
男性不妊と劣性遺伝病の完全予防 - 22世紀の精子起源工学
その他 - うまく分類できずとも価値のあるトピック
DNA検査の結果の公開 - シーケンシング機会の平等性
進化における神の概念
mtDNAとY染色体の永代性 - 未来の血縁者の不利益
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遺伝病とコモンディジーズの違い - 優性遺伝と劣性遺伝

 23andMeの検査結果について述べる前に、DNA検査の結果を読みとる際に必要な用語として、遺伝病とコモンディジーズの違いと、遺伝パターンとしての優性遺伝、劣性遺伝について図を含めて示したい。23andMeの検査自体はコモンディジーズと呼ばれる、糖尿病やがんなどの普通の疾患が主な対象だが、日本ではまだまだ高価と言えるDNA検査の結果を読み取るにあたって、多少幅広く用語を理解していないと、価格相応の応用をすることができない。

 

 優性遺伝と劣性遺伝という用語について、誤解を招きやすいために日本語としての表現を改めようという動きが過去にあったようだ。知る限り身近なところの誤解としては、『メタルギアソリッド』というアクションゲームの中で、主人公は(クローン元の)父から優性遺伝子を受け継ぎ、敵は劣性遺伝子を受け継いでいると思い込んだ敵が、劣等感のあまり主人公を攻撃するが、最後には主人公の方が劣性遺伝子を受け継ぎ、敵の方が優性遺伝子を受け継いでいたと判明する下りがある。優性遺伝子という表現自体が、ヒトに対する用語としてほとんど用いられないので、そこまで真に受けるべきではないが、なるべくなら混乱は少ない方がいい。ともかくメタルギアソリッドは爆発的に売れてしまったため、このゲームにより勘違いを起こした人々は多いようだ。

 

 優性遺伝劣性遺伝という表現は優れていたり劣っていたりする意味ではなく、遺伝病に関して言えば、その遺伝子に生じた病的変異が、父母由来の2本の染色体のうちどちらか片方にあるだけで疾患を引き起こすか、両方に病的変異がないと疾患を生じないかという意味である。これは、あてずっぽうかもしれないが直感的には、優性遺伝の方は変異によって毒が作られるイメージで、劣性遺伝の方は変異があると正常なタンパクの生産が失われるイメージを持っている。より科学的には機能獲得型変異と機能欠失型変異として説明されるようだ。先天性代謝異常症を引き起こす遺伝子に関しては、酵素という代謝を補助するタンパク質へと翻訳される場合が多く、酵素の量はフィードバック制御*で多すぎず少なすぎない量に調整されることが多いので、例外はあるものの、1本の染色体の遺伝子が正常であれば問題ないことが多い。先天性代謝異常症に分類される希少疾患のほとんどが劣性遺伝である。優性遺伝子と劣性遺伝子について、当初、私は誤解していてメタルギアソリッドでの造語だと思っていた。思い込みとは恐ろしいものである。ヒトの場合でほとんど用いられていないだけで、植物といった場合には用いられていることを、[遺伝学用語の混乱]の節に補足した。

 

 前の節で述べたように、本著ではリファレンス配列からの変異のうち、疾患の原因であると検証されたものを「病的変異」と呼び、疾患の原因とならないものを「良性の多型」と呼ぶようにしている。後者は、英語では"benign polymorphism"だが、健常者を対象としていることが明らかな場合には、文献の中で、単に多型(polymorphism)やSNP(スニップ)Single Nucleotide Polymorphismの略)、または複数形としてSNPs(スニップス)と記されていることが多い。しかし、その習慣に従うと分野が違う者には分かりにくくなることが、私自身の経験上多かったので、多少冗長に響くかもしれないが「良性の多型」という表現をなるべく用いる。

 

 後の節でDNA検査の分類の観点から述べるが、「遺伝子」という用語に関しても誤解が多いようだ。遺伝子という日本語の響きの良さのあまり、生物学的な定義を外れて、何でもかんでも遺伝情報を含むものなら遺伝子と呼んでしまいそうになる。現時点の生物学での共通の認識としては、遺伝子というのはタンパク質へ翻訳されるDNA上の区切りのことである。タンパク質という体内物質へと翻訳されるのだから、特定の遺伝子に病的変異があれば、特定のタンパク質に病気の原因となる変化が現れる。希少疾患のほとんどが、特定の病気や症状と原因となる遺伝子が11に対応した単純明快な、「単一遺伝子疾患」である。実際には、単一遺伝子病といった別の呼称もあるため、グーグルを用いたヒットカウント分析を示しておく。201411月現在の結果である。

 

"single gene disorder" 約 43,000

"mendelian disease" 約 41,900

"monogenic disease" 約 41,800

"mendelian disorder" 約 25,900

"monogenic disorder" 約 24,900

"single gene disease" 約 18,600

"単一遺伝子疾患" 約 5,140

"単一遺伝子病" 約 4,190

"メンデル遺伝病" 約 3,170

"メンデル遺伝性疾患" 約 1,330

"単一遺伝病" 約 902

"メンデル遺伝疾患" 約 607

"単因子遺伝病" 約 228

"単一遺伝疾患" 約 202

"単遺伝子疾患" 約 87

"単因子遺伝疾患" 約 43

"単遺伝子病" 10

"単遺伝病" 5

"単一因子遺伝病" 2

 

メンデルが発見した優性遺伝と劣性遺伝の法則に従うため、メンデル遺伝病とも呼ばれているようだ。本著ですでに述べた単一遺伝子疾患として、私のSCN4Aという遺伝子に変異があって、それが病的なものかどうか評価してくれる研究者を探しているというのは、骨格筋ナトリウムチャネルというタンパク質の1823番のアミノ酸を正常な野生型から別のものに置き換えているので、この部分の機能さえ検証実験をやれば、先天性パラミオトニーという単一遺伝子疾患の原因かどうか白黒がはっきりするという話である。

 

 過去にDNAの二重螺旋構造が発見される前は、遺伝子の概念がもっと抽象的で、現在報道や宣伝で遺伝情報全般という意味で用いられている遺伝子の意味に近い時代があった。重度の病気や、耳の形といった形質を遺伝させる何かがあることは分かっていたのだが、それがどんな物質か調べる方法がなかった時代の話である。そのメンデルが指摘した何かのことをヨハンセンが最初に"gene"と呼んだ。この"gene"のことを、語源学的にはあまり適切ではないが、日本語では遺伝子と呼んでいる。しかし、いったんDNAの二重螺旋構造が発見されてDNA上に遺伝情報が載っていることが分かってからは、遺伝子の意味はDNA上の一部を意味するようになり、更にヒトのDNAの長さが31億塩基対もあることが分かってからは、バイオインフォマティクスによる情報的、IT的な取り扱いが必要になってきた。そこで、DNAと言えば物質としての意味合いを強調し、遺伝子と言えば情報的な意味合いが強調される用語となった。したがって、DNAや遺伝子を構成する、ATCGという4種類の塩基の詳細な物理的意味まで考える必要がない我々患者や一般人としては、ATCGを単に文字として認識し、遺伝子をタンパク質へと翻訳される一区切りのATCG文字列の連なりとして扱うだけで十分である。むしろ、そのぐらい単純に考えておかないと現在も遺伝子の定義が変わり続けているために、混乱してしまう。現在まだ完全には合意がとれていないようだが、将来的に高校生物の教科書に書かれる遺伝子の定義として一番ありうるのは、"a union of genomic sequences encoding a coherent set of potentially overlapping functional products"*であり、かろうじて訳すと、「あるひとくくりのタンパク質をコードするゲノム配列の一単位」である。結局のところ、DNA上で連続している単位を遺伝子と再定義してタンパク質を調べていたら、同じATCGの文字列から違うタンパク質ができていたり(選択的スプライシング)DNA上の位置も染色体も違うATCGの文字列を継ぎ合わせて、一つのタンパク質ができているといった、想定外の例が見つかったので、もう一度タンパク質の分類を中心に遺伝子を再定義しようとしているのが現状と思われる。ある意味、少しだけ抽象的な意味に向かって戻るのだが、問題はすでに遺伝子という表現がいろいろな商品の宣伝や名称に使われていることである。この状態ではどの時点の遺伝子の意味かはっきりさせておかないと、詐欺的な消費者被害が起こると予想されるため、ここまで詳細に渡って記している次第である。

 

 したがって、本著で用いる遺伝子の意味は、タンパク質へと翻訳されるDNA上の単位のことで、選択的スプライシングまでは後々の節で登場するが、それよりも複雑な部分には全く触れていない。DNA検査を選んで購入するのに重要なのは、物理的側面よりも情報的側面なので、ATCGから成るただの文字列とみなしたほうが都合がよく、実際、将来、お子さんが遺伝性疾患を患ったのではないかと調べたり、有名人のハプログループを調べている人たちと自分の家系の先祖が徳川吉宗とどのぐらい近かったか情報交換する用途には、この理解で十分なはずである。Wikipedia英語版の歴史の節を読めばかなり深くまで記されているが、お勧めはしない。後の[遺伝学用語の混乱]の節で述べるように、また先述の優性遺伝、劣性遺伝についての誤解からも分かるように、日本語の用語に英語からの誤訳、誤解を招きやすい要素、ニュアンスの違いがみられ、素人が生物学者の揚げ足を取ることはいくらでもできても、一つ々々の用語についてヒットカウント分析を行わないと、はっと気がつくとマイナーな方の用語に引きずられて、適切なインターネット検索ができていないことがあまりにも多い。本著でヒットカウント分析を多用するのは、こういう事情である。なお、遺伝子の接尾辞である、日本語の「子」は、学術用語として物理的、情報的の両方の意味合いで用いられ*、遺伝子が模倣子、ミームとの対比で述べられる際には、情報的側面の方が強調されていると思われる。

 

 単一遺伝子疾患とは反対の特徴を持つ疾患として、成人病など、長く生きた結果発症する傾向の病気には、遺伝の影響(遺伝因子)だけでなく、環境の影響(環境因子)を受けるものが多く存在している。具体的には、大部分のがんや、2型糖尿病、アルツハイマー病といった疾患である。23andMeDNAアレイによる検査や、2014年現在日本で販売されているDNA検査は、5000種類もあるような単一遺伝子疾患ではなく、こういった「コモンディジーズ」(普通の病気)を主な対象としたものである。コモンディジーズという表現だと遺伝の影響が含まれない疾患も含まれてしまうではないかと指摘されるかもしれないが、遺伝の影響が全く含まれない疾患というのは、我々がヒトである限りは、もともと存在しない。最も極端な例は骨折やケロイドだと思うが、これらも治癒の速さは遺伝因子により各人で異なる。感染症の罹患しやすさや重症度も遺伝因子に影響される。後の[ヒトはヒトであるが故にヒトの病を患う]の節で述べるが、あらゆる疾患について、何らかの遺伝の影響があると考える方が常識となりつつある。どのぐらいが遺伝因子で、どのぐらいが環境因子なのか、どちらの影響の方が大きくて、どうすればその影響を数値として測定できるか、というパラダイムにすでに移行していているのである。だから、コモンディジーズと表現するだけで、単一遺伝子疾患ほどではないが、遺伝因子がある程度は含まれることが前提になっている。希少疾患は外来語表記するとレアディジーズとなり、コモンディジーズの対義語なので、希少疾患について説明しやすいことも利点である。しかし、近年DNA検査の普及にともなって、用いられることが増えた用語なので、グーグルを用いたヒットカウント分析を行う。

 

"common diseases" 約 801,000

"common disease" 約 648,000

"common disorder" 約 419,000

"common disorders" 約 416,000

"コモンディジーズ" 11,400

"コモンディジージズ" 2

"ありふれた疾患" 8,020

"一般疾患" 9,730

"普通疾患" 5,370

(参考) "通常疾患" 1,490 (「通常、疾患」を含む)

(参考) "一般病" -"一般病理学" -"一般病型" -"一般病棟" 約 119,000 (一般病~の様々なヒットを含む)

 

"multifactorial disease" 約 186,000

"multifactorial disorder" 約 55,900

"多因子疾患" 約 15,600

"多因子性疾患" 約 4,300

"multifactorial genetic disease" 約 3,070

"多因子遺伝性疾患" 約 2,640

"多因子遺伝病" 約 2,590

"multifactorial genetic disorder" 約 1,610

"多因子遺伝疾患" 約 1,240

"多因子遺伝子疾患" 約 188

 

"polygenic disease" 約 49,300

"polygenic disorder" 約 28,500

"多遺伝子疾患" 約 1,150

"多遺伝子病" 約 370

"多遺伝子遺伝病" 約 310

"多遺伝子遺伝性疾患" 6

"多遺伝子遺伝疾患" 5

 

"polygene disease" 約 444

"polygene disorder" 約 98

 

"complex disease" 約 515,000

"complex disorder" 約 264,000

"complex genetic disease" 約 39,300

"complex genetic disorder" 約 36,300

"複合遺伝性疾患" 約 3,860

"複合遺伝疾患" 約 55

"複合遺伝病" 9

 

"多要素疾患" 6

 

これだけ多くの種類の表現が、コモンディジーズとほぼ同じ意味を持っている。

 

 重要な注意事項として、厳密には、膠原病といった稀な自己免疫疾患は、多因子遺伝性疾患でありながら、コモンディジーズではなく、希少疾患に含まれる。しかし、本著の範囲では、そこまで詳しくはふれず、人生に与える影響を重視して、主に小児期に発症する遺伝病と成人してから発症の多いコモンディジーズに分けることにしたい。

 

 用語が変節を経たようで、英語でさえ表現に一貫性がない部分があるが、それはこの分野の学術的進歩が速すぎて用語の統一が追いつかないことの現れではないかと思われる。コモンディジーズでは遺伝的影響をもたらす遺伝子が単一ではなく複数であることは確かだが、ほとんどの場合特定できない。多遺伝子疾患とも呼ばれながらも、検索結果数が少ないのは、遺伝子が特定できないことによると思われる。今後、本著では、「コモンディジーズ」で統一したい。

 

 コモンディジーズという表現には、多少日本語として違和感を感じる面もあるので、細部について述べると、英語では複数形で用いられることの方が多いが、日本語になると単数で扱われる外来語のパターンのようだ。検索が普及していなければ一般病で通るのだろうが、現在のように検索が普及してしまうと一般病理学といった部分的ヒットと混じってしまって不便なので、当面コモンディジーズと表記するのが無難と思われる。後で気付いて上記のヒットカウント分析に付け足したのだが、一般疾患というのはコモンディジーズと意味が一貫していることが多い。しかし、その病院で診ている特殊な疾患(精神科、神経内科)に対して普通の内科を一般疾患と呼んでいる場合もあるようなので、やはり本著では、ぎこちなくとも英語と一貫して使える安全性の高い表現の方を採用したい。

 

 本著では「遺伝病」という表現を「単一遺伝子疾患」の略称として用いる。日本語として多用されている割に、3文字と短すぎるため、科学的用語として用いるには定義を明確にする必要がある。遺伝というのが3文字のうち2文字を占めるので、特に遺伝性が高いという意味合いである。「遺伝性疾患」という中間の長さの呼称は、遺伝病に加えて、染色体異常症を含む場合に用いる。染色体異常症の患者の多数がダウン症候群である。文献によっては、本著の遺伝性疾患の意味で遺伝病と遺伝性疾患を区別せずに述べていたり*、本著の遺伝病、染色体異常症、コモンディジーズの3つを合わせて遺伝性疾患と述べていたり*、様々であるため、多少仔細に至りすぎかもしれないが、ここで定義をはっきりさせた。

 

 ここまでの整理として、疾患の区別をもう一度挙げておく。

 

遺伝病=単一遺伝子疾患、メンデル遺伝(優性遺伝、優性遺伝)する。

コモンディジーズ=遺伝因子+環境因子、広義にはヒトの全疾患だが、遺伝因子の割合は様々。

遺伝性疾患=遺伝病+染色体異常症。

 

次の図は遺伝病とコモンディジーズの違いをまとめたものである。いたるところで使用されている図だが、大元は次の文献によるようだ。

 

Peltonen, Leena, and Victor A. McKusick. "Dissecting human disease in the postgenomic era." Science 291.5507 (2001): 1224-1229.

 

遺伝子と変異の表記が単純すぎると思われたので、DNA検査の実情に合うように描いた。遺伝病の場合は、病的変異が見つかると、ほとんどの場合は遺伝子が既に分かっている。優性遺伝か劣性遺伝のはっきりした遺伝パターンをとる。家系図の中で、が男性で、が女性、黒塗りのが患者で、半分黒塗りが劣性遺伝の保因者である*。ここでは元の文献に合わせて半分黒塗りを斜め半分で描いたが、実際には上下半分の場合が多い。文献によっては劣性遺伝の保因者のことをヘテロ接合体、患者のことをホモ接合体と述べているものもある*。この例では、父母が共に保因者で、3人の子のうち、長男と次女が罹患し、長女は罹患も保因もしていない。罹患する場合は、中途半端に罹患することは通常無く、劣性遺伝病の病的変異を父と母の両方から受け継ぐと100%罹患する。他の患者についても同様で、罹患する場合はほぼ100%罹患する。逆に罹患しない場合は0%である。

 

 図の右半分に描いたコモンディジーズについては、病的変異ASNPBからDと挙げたように、特に影響が大きな変異についてのみ遺伝子が特定されて病的変異と呼ばれることがあるが、通常は影響が小さいためSNPと呼ばれることが多い。影響の小さな複数のSNPが関係するので、遺伝パターンは複雑である。ここでは健常者を、患者をではっきり分けているが、これはアルツハイマー病の場合にうまく当てはまるが、2型糖尿病では未診断糖尿病隠れ糖尿病と呼ばれる未診断の巨大患者人口が存在するように、はっきり白黒が区別できない疾患もある。こういった場合は文献によって灰色にしたり、斜線を塗り入れたりして軽度の患者を区別しているものがある。ただし右上から左下への大きな斜線は故人を意味する。罹患確率への影響としては、病的変異AからSNPBCDまでの影響が足しあわされるような形になる。これら遺伝因子だけでなく、食生活や運動不足といった環境因子の影響も加算されるが、遺伝因子も環境因子もあまり正確には測定できない。後々の節でも述べるが、コモンディジーズについてDNA検査を受ける場合には、病的変異Aといった特に影響の大きな変異の影響を予測することしかできない。他の患者、健常者では、病的変異ASNPBからDによって影響が変わる。

 

 実際上は、ほぼ遺伝性疾患と希少疾患を同じと考えていいはずなので、少し細かい点になるが、遺伝病と希少疾患の関係については、本著では、ヨーロッパの希少疾患ネットワークであるOrphanetの考え方を採用して、全ての遺伝病を希少疾患と考えるが、希少疾患が全て遺伝病とは限らないと考える。希少疾患の中には、稀な感染症や稀な自己免疫疾患を含むからである。染色体異常症が希少疾患に含まれるかどうかは、基本的には含むと考える。[希少疾患と難病...]の節で述べるように、国によって希少疾患の定義が違うため、希少疾患用の薬剤の開発については、ダウン症候群が対象となるかどうかはよく分からない。米国のダウン症候群人口が250700で、米国の希少疾患の条件である20万人未満を超えていると思われる部分もあれば、Orphanetの希少疾患のデータベースに登録があったりする。少なくとも日本ではダウン症候群は難病法の対象となっている。ダウン症候群だけが特に患者数が多いはずなので、他の染色体異常症は希少疾患に含まれるはずである。その前提で、EUの患者会EURORDISの考え方を採用して、希少疾患の80%が遺伝病や染色体異常症といった遺伝性疾患と考える。

 

 念のため記すが、Wikipedia日本語版での"遺伝子疾患"という用語は、現在ほど検索が普及してしまうと、"単一遺伝子疾患"に対する部分的ヒットを含むため、特異性が小さく使い勝手が悪く、しかも、遺伝子という用語の乱用に巻き込まれて、染色体異常症までヒットするため、本著では意図的に用いていない。しかし、一般には、遺伝病に加えて、本節で後述するがんを含めた疾患を遺伝子疾患や遺伝子病と呼んでいる場合が多い。特異性が小さいのは英語表記の場合も同様で、single gene disorderだけでなく、BRCA1 gene disorderといった、遺伝子を特定的に述べる文脈でもヒットしている。

 

"遺伝子疾患 89,600

"遺伝子疾患" -"単一" 78,700

"遺伝子病 63,500

"遺伝子病" -"単一 57,200

"gene disorder"  60,600

"gene disorder" -"single"  10,700

"gene disease"  173,000

"gene disease" -"association" -"associations"  47,900

 

単一遺伝子疾患という長い名称の概念が、遺伝子疾患という短い名称の概念の特殊化なので、部分的ヒットについては一貫性がとれているとも考えられるが、遺伝子という用語の混乱と、遺伝性疾患という同じ4/5文字の用語を用いるため、本著では遺伝子疾患という用語を避けることとする。

 

 遺伝病とコモンディジーズの例を挙げるために、アンジェリーナ・ジョリーとスティーブ・ジョブズという二人の有名人のがんを引き合いに出したい。

 

 がんがDNAの変異により引き起こされるという知識が普及するにつれて、遺伝病と混同される状況が発生している。特に、米国で活躍する女優のアンジェリーナ・ジョリー(以降ではアンジー)が2013年にDNA検査を受けて乳がんの変異を持っていることが分かり、予防のために乳房を切除して以来、この混同は増していると思う。

 

 ここで補足しておかなくてはならないのは、アンジーが予防的乳房切除術を受けたのはDNA検査会社の宣伝のためだったのではないかという疑惑が持ち上がり、更には、本当に予防的乳房切除術を受けたのかどうかさえ噂に昇っていて*、それらの噂が201411月現在まで明確には否定されていないように見受けられる点だ。個人的には、DNA検査会社の宣伝という面はありうるが、全部が演技だったというのはほぼあり得ないだろうと思う。

 

 全てのがんが変異により発生するのは事実である。しかし、がんの直接の原因は、卵子や精子といった生殖細胞系列の変異ではなく、がんを患う体の部分で体細胞の変異が発生することによる*

というよりも、がんというのは、変異して勝手に大増殖を始めてしまったヒトの体細胞そのものである。アンジーの場合には、乳がんとしての体細胞の変異を引き起こしやすい、別の変異がDNA検査で明らかとなった。DNA検査で調べたのは、乳がんに対して間接的に影響をおよぼす変異であり、乳がんの直接的な原因となる変異とは別のものである。アンジーの予防的乳房切除術が報道された中では、この間接的に影響を及ぼす変異のことを、通称としてBRCA1という遺伝子の名前で呼び、DNA検査の名前としてもBRCA1と呼ばれている。

 

 アンジーのBRCA1の変異は87%の確率で乳がんを発生させると本人が語ったように、決して100%ではない。乳がん全体としては、環境因子、つまり平たく言えば食べ物などの影響を受ける、コモンディジーズである。BRCA1の変異はがんの直接的な原因となる変異を発生しやすくするが、BRCA1だけが乳がんを引き起こすわけではなく、BRCA1に変異がなくとも、たとえば閉経後の肥満といった生活習慣など環境因子諸々をトータルして乳がんを患ってしまうこともある。しかし、BRCA1が引き起こす乳がんについてのみ考えると、平均寿命の患者で87%というのはかなり高い数値だし、長生きすればするほど100%に近づいていくと思われるので、優性遺伝の遺伝病として扱うのが適切と思う。しかし現在の技術水準では、BRCA1の変異の保有者が乳がんを発症しても、その乳がんの直接的変異がBRCA1の変異により引き起こされたのか、別の原因で生じたのかは区別することができないし、現在の技術水準では区別することで治療が大きく変わるわけでもない。このように、コモンディジーズの中に部分的に遺伝病が含まれる場合は相当数あると思われるが、分類できそうにない場合は条件の緩い方の群に含むしかないので、乳がん全体としてコモンディジーズと考えるのが適切と思われる。

 

 いずれにしても、あくまでBRCA1の影響は間接的なので、それゆえにBRCA1の変異による87%の罹患予測確率という数値と、母親をがんで亡くしたという家族歴だけで、まだ乳がんを患っていないにも関わらず、乳房を切除するに至ったアンジーの決断が話題を呼んだ。

 

 アンジー母子の場合が示すようにBRCA1の変異は親から子へとかなりの確率で遺伝する。もっとも多いパターンは父か母のどちらかが、2本の染色体のうち1本にBRCA1の変異を有している場合だと思うので、父か母から50%の確率で遺伝することになる。BRCA1は性染色体ではなく常染色体の上にあるので、母だけでなく父からも子へと同じ確率で遺伝する。また、BRCA1変異により男性の乳がん罹患予測確率も女性ほどではないが大きくなるようだ。調べた限りでは男性の場合はBRCA2の変異の方が問題らしい。BRCA1の変異は優性遺伝のパターンで遺伝するが、がんの直接の原因である体細胞の大増殖を引き起こす変異が遺伝することはない。

 

 がんの遺伝について、見つけられた限り最も分かりやすい図は、国立がん研究センターがん対策情報センターによる図2であった。

 

 本著でいう遺伝病とは単一遺伝性疾患のことを指すので、がんは全体としては遺伝病に含まないが、BRCA187%という非常に浸透率の高い変異に関してのみ述べる際は、遺伝病に含めることにしたい。

 

 アンジーの他にもう一人、アンジーほど有名ではないがDNA検査を受けたことで報道されたのは、アップル社のスティーブ・ジョブズである。故人であられるので、まず最初に、この偉大な起業家のご冥福をお祈りしたい。

 

 ジョブズの場合は、最初はすい臓がんであったが、代替医療に頼っているうちに、肝臓などに転移してしまったそうだ。ジョブズが受けたDNA検査は、全ゲノムシーケンシングと呼ばれ、これは本人の正常な体細胞と、がんの細胞の両方に対して行なわれたとのこと§。つまり、アンジーの場合と同じ採血による通常のDNA検査の他に、がんの直接的原因としての変異を特定するために、がんそのものの一部を手術により切り出して、DNA検査にかけたということだと思われる。がん自体を直接的に調べて正常な体細胞との違いから大増殖を引き起こしている変異を同定し、その種類のがんに対してどのような治療が有効かを調べたようだ。

 

 全ゲノムシーケンシングの場合には、アンジーが受けたBRCA1を含む乳がんの数個の遺伝子だけの検査よりも遥かに大掛かりで、ヒトの全遺伝子が対象である。ヒトの遺伝子数は約23000個なので、遺伝子1個を調べるのに比べてざっと23000倍ということになるのだろうか。私が受けたエクソームシーケンシングも23000個を対象にしているはずだが、全ゲノムシーケンシングでは、エクソン領域だけでなくイントロン領域も含んでいる。そのため、全ゲノムシーケンシングは、ヒトのあらゆるDNA検査の中で最大のもので、検査結果の解釈という作業も考慮すると、ジョブズが受けた2011年当時では、ジョブズのような大金持ちでない限り支払うことのできない費用がかかったはずである。

 

 乳がんの一部がBRCA1の変異の形で親から子へと遺伝するのと同様に、すい臓がんの場合も、PRSS1といった遺伝子の変異が遺伝して、家族性膵炎を引き起こし、悪くすればすい臓がんを発症するようだ。乳がんの場合と同様に、すい臓がんはコモンディジーズの中に部分的に遺伝病が含まれる形である。しかし、ジョブズの場合に限っては、家族性膵炎を患っていたり親族がすい臓がんを多発したという話はないようなので、コモンディジーズと考えられる。

 

 

 すい臓がんの詳細については専門家によるご説明に譲りたい。


ヒトはヒトであるが故にヒトの病を患う

 述べたいことは、すべての病気に遺伝的影響がいくらかは関係しているということである。実は遺伝と無関係な病気というのは、本質的に存在しない。遺伝的影響が極めて明確で大きいものを、いわゆる「遺伝病」と呼んでいるだけで。コモンディジーズという用語が古くは遺伝性を前提にせずに定義されていたため、感染症や免疫疾患を診ていながら欧米の研究論文を読んでいない現場の医師を中心に、本著で全てのコモンディジーズについて強弱の違いはあれども遺伝性を前提に話を進めることに、強い違和感を唱える方々がおられるだろうと考え、短いが記憶に残りやすい一文を示すために本節をもうける。

 

 ヒトはヒトであるが故にヒトの病を患う

 

 ヒトが魚や植物の病気にかかったりするわけではない。

 それが当然であるように、子は親から産まれるが故に、親と同じ病気にかかる傾向がある。

 たとえ感染症であっても、トリガーは感染という現象だが、罹患しやすさとどのぐらい重症化するかにはやはり遺伝が深く関係している。

 

 我々がヒトとして病を患うが故に

 

 私の様に子に疾患が遺伝したのではないかと心配しすぎるのも身を破滅させる。一方で、子の長所については遺伝だと考える一方で、短所は遺伝でないと拒絶する人々もいる。さらに短所は、全て努力という環境因子で解決できると盲信している人々もいる。

 

 我々は極端に走ることなくバランスをとって生きていかなくてはならないのだろう。

 

 

 しかし実際には、「ヒトが魚や植物の病気にかかったりするわけではない」というのは、レトリックとしての否定であって、科学的には正確ではない。

 

 厳密に言えば、遺伝的に共通の部分については、ヒト、魚、植物の間で同じ病気を患う。系統として近ければ近いほど、同じように患う病気が増えていく。例えば、植物でもミトコンドリア病という病気は存在する。

 

秋光和也. 大谷耕平. 尾谷. 今日の話題 植物のミトコンドリア病の謎に迫る--プロセッシングの有無が宿主特異的ACR毒素に対する感受性のカギを握る.  化学と生物 : 日本農芸化学会会誌 : 生命・食糧・環境 / 日本農芸化学会.. 42(2) (通号 483) 2004.2. 8184 ISSN 0453-073X

 

ヒトのミトコンドリア病とはかなり異なるのかもしれないが、ミトコンドリアという仕組みを持っていて、それが遺伝的に親から子へ継承される限りは、どんな真核生物でもミトコンドリア病という種類の病気を患うと考えられる。これが魚になれば、脊椎動物としてヒトと同じ脊椎の病気が存在するだろうし、さらにイヌになれば、アルツハイマー病を患っているイヌもいると言われるほど、ヒトと共通の病気がとてもたくさん存在する。

 

中山裕之.   動物にアルツハイマー病はあるのか--老齢犬の脳病変から老化の進化を考える.  獣医畜産新報 / 文永堂出版株式会社 [].. 58(9) (通号 1010) 2005.9. 757764 ISSN 0447-0192

 

このように種を超えて俯瞰しても、系統として近いほど、同じ病気を患う傾向があると思われる。同じ種の親子であれば尚更である。

 

 結局のところ、ヒト、魚、植物の間でも、系統樹の根本は現代で言う古細菌のような原核生物から始まっているはずなので、その時点から存在する疾患もあるはずだ。意外なことにバクテリアよりも特に極限環境を活躍の場とする古細菌の方が、我々ヒトに系統として近いようだ。思いつく限り、古細菌がヒトと共通に患っていると言える疾患は、アミノ酸代謝異常症、糖原病といった何らかの先天性代謝異常症ではないかと思われる。ヒトと古細菌の多くで同じ酵素名の欠損で起こりそうな疾患を探そうとしたが、分からなかった。ヒトで極めて重度の先天性代謝異常症を胚が患っても、妊娠として認識しないことには全て不妊という病名になるとの同様に、古細菌でも分裂の際に完全に細胞膜が仕切られた瞬間から2個体と数えることにすると、古細菌では比較的多くの先天性代謝異常症で瞬時に死滅すると推測されるため、疾患として測定不可能で、ただの死滅として測定されるであろうと思われる。要するに、生物種が離れるほど、ヒトと似た疾患を患うと推測することはできても、罹患した状態として測定する手段が違い過ぎるため、測定系の工夫次第である。その意味では、やはり古細菌が技術水準の限界のはずで、ウイルスでウイルス自身が患う異常状態があったとしても、おそらく古細菌よりもいっそう測定困難である。


コモンディジーズの検査方式 - アバウトなGWAS

 本節では、遺伝性疾患が進化の犠牲者だということを振り返ったのち、世間で遺伝子という用語が曖昧に理解されていることに載っかって、「遺伝子検査」と銘打って販売されている「個人向け遺伝子検査」が、検査結果としてアバウトな情報しか返さず、4つといった信頼性が最高ランクとして示されている検査項目しか意味が無い理由を述べる。

 

 世間では「進化」という用語が、なんとなく科学的なニュアンスを含むようで大人気である。しかし、世間で使われている意味と、科学的というべきか、遺伝性疾患の患者が真剣に診断を求める時の意味は、大きく異なる。[合っているかもしれない仮説]の節で、遺伝病が進化の犠牲であると述べたが、別の節で遺伝性疾患が単一遺伝子疾患と染色体異常症を含むと定義したので、ここでもう一度確認しておくと、正確には遺伝性疾患全般が進化の犠牲と考えられる。染色体異常症が高齢妊娠によって増えるという現象は、自然環境で考えれば男女が40歳近くまで出会わないという絶滅寸前の状態であり、環境に適応できていない状況である。そういった状況において染色体異常症は変化を促進しようとしているように見える。これは最初、染色体の不分離という不都合なエラーであったが、そのエラーが抑制されずにヒトのダウン症候群の形で残っているのは、進化の速度を調節するのに都合がよかったためであろう。環境に適応できれば健常な個体数を増やして他の種に対する自らの種の勢いを高め、適応できなければ遺伝性疾患の個体を増やしてでも変化を促進するというのは、巻き込まれた患者にとっては余りにも過酷な状況だが、結果的にその仕組みがヒトを46本の染色体を持つまでに進化させたものと・・・一応の仮説が立てられる。

 

 このように考えると「進化」の裏側に「遺伝性疾患」という犠牲があるので、本来は進化という用語は遺伝性疾患の患者に対して何の配慮もなしに無頓着に用いるべきではないと思う。「進化は、現在もまだ人類においても進行中の無慈悲で過酷な自然現象」で、必然的にその影で膨大な数の遺伝性疾患の個体が死に続けていることを意味する。進化が自然現象であるという観点から見れば、進化を称えるのは、東日本大震災の津波で15000人を超える死亡者、6000人を超える負傷者が出たことを称えているのと同じなのである。しかも、進化の場合は天に召される死亡者のうち、非常におおざっぱに言っておよそ半数が新生児である。東日本大震災を生き残った負傷者はそれほど年齢に依存していないが、遺伝性疾患で生き残っている患者は、非常におおざっぱに言って半数が未成年である。東日本大震災でも地殻のストレスが解消されて、地球の状態は本来あるべき姿に向かったと考えられるが、誰もそのことを称えたりなどしない。それ以上に、ヒトの進化のことを無批判に称えるのは、科学的かつ倫理的に違和感を覚えるのである。

 

 しかし実際は、進化という用語が世間で乱用された結果、本来の生物学的定義から離れて、単純に「発展」という意味合いを含み始めている。そのため、何を言ったところで乱用が止まることなどなさそうに思えることもあり、それほど目くじらを立てる必要もないと思っている。

 

 前の節で「遺伝子」について世間での意味と科学的な定義は違うと述べたが、それに引きずられて、「遺伝子検査」と世間で呼ばれている検査と、大学病院などで行われている遺伝子検査の内容は異なっている。しかも、進化という用語の意味合いの違いで実害は発生しないことと比較すると、遺伝子検査の意味合いの違いは、消費者がDNA検査を購入する際に実害が発生する恐れが高い。繰り返しになるが、遺伝子というのは、タンパク質へと翻訳される機能的単位のことである。だから、機能を考慮せずに統計的処理だけで、特定のSNPの組み合わせを持っている人が将来アルツハイマー病になる確率が14%だというのは、厳密に言えば遺伝子検査ではない。本著では大学病院による遺伝子検査と区別するために「個人向け遺伝子検査」と呼んでいる。詳しくは[個人向け遺伝子検査のガイドラインの乖離]の節でふれる。

 

 こういった「個人向け遺伝子検査」は、販売している検査会社は「遺伝子検査」と呼んでいるが医療機関での遺伝子検査よりも一般的には小型のDNA検査であり、1万~5万円といった、富裕層の消費者が気軽に手の届く価格に設定された結果、現在のところDNAアレイの方式による検査であり、コモンディジーズの罹患確率を予測するために、統計的処理に重きを置いた、平たく言えばアバウトな検査結果を返すものである。もう一度、前の節の図を示すと、あくまでの図の右側の範囲である。「罹患確率への影響」に示したように、各病的変異やSNPの影響が重なりあっているので、コモンディジーズの罹患確率を予測することは複雑な手順である。それに対して、大学病院などによる遺伝子検査は、例外もあるが主には、[ミトコンドリアDNAの検査]の節で述べたような、シーケンシングにより単一遺伝性疾患の病的変異を見つけ出す、図の左側の範囲である。シーケンシングの範囲としては、付記されない限り、文字通り、遺伝子の全長をシーケンシングするものである。単一遺伝子疾患が対象であるため、一旦、病的変異であることが検証されれば、優性遺伝か劣性遺伝の遺伝パターンにより、陽性となった患者はほぼ100%罹患する。決してアバウトではなく、単純でありながら、断定的で決定的な遺伝子検査なのである。ミトコンドリアDNAの場合だけは、ヘテロプラスミーにより、遺伝パターンが母性遺伝であることを、念のため、ここでも補足しておく。

 

 このため、個人向け遺伝子検査のことを、日本人類遺伝学会などが中心となって、DTC遺伝学的検査と呼ぶ傾向がある。DTCとは"Direct-to-Consumer"(「消費者直結型」)の略記である。また、日本人類遺伝学会は、補足的に体質遺伝子検査という呼称も用いている*。以下に、ヒットカウント分析を行う。20141121日の結果である。

 

"個人向け遺伝子検査" 9,270

"体質遺伝子検査" 5,340

"DTC遺伝子検査" 3,040

"OTC遺伝子検査" 389

"DTC遺伝学的検査" 369

"個人遺伝子検査" 116

"DTC検査" 105

"パーソナル遺伝子検査" 73

"体質遺伝子診断"10

"パーソナルゲノム検査"10

"消費者直結型遺伝子検査"9

"DTC遺伝学的診断"8

"DTC遺伝子診断"8

"民間遺伝子検査"8

"消費者直結型遺伝学的検査"3

"DTC遺伝学検査"1

 

(参考) "DNA検査" 約 563,000

(参考) "DNA診断" 約 26,100

"体質DNA検査" 約 16,300

(参考) "遺伝子DNA検査" 約 4,860

(参考) "DNAマイクロアレイ検査" 約 2,610

(参考) "マイクロアレイ検査" 約 822

"個人向けDNA検査" 約 86

(参考) "DNAアレイ検査" 6

"民間DNA検査" 6

"個人DNA検査" 4

"パーソナルDNA検査" 3

 

「(参考)」と記したのは、シーケンシングによるDNA検査を含んでいると考えられるものである。結果としては、非常に意外なことに、"体質DNA検査"がトップだが、これは"ヒト体質DNA検査""メタボ体質DNA検査"という商品名かもしれない用語に引きずられているようだ。これを特定の商品と関連付けられるため不適切と判断すれば、"個人向け遺伝子検査"がトップである。"DTC遺伝学的検査""個人向け遺伝子検査"に対してたった4%の検索結果数しか示さず、数値を調べると、日本医学会が遺伝子検査という用語を認める*ように、"遺伝子検査"という用語は既成標準になってしまっている。ただし、医師を通さない場合は、"遺伝子検査"の前に"個人向け"と分かりやすい補足を付けることが、推奨されるべきであろう。

 

 上記のヒットカウント分析で、"遺伝子検査"の表記系列から1行空けて、"DNA検査"の表記系列を列挙したが、本著では、迷ったら全てまとめてDNA検査と呼ぶことにしている。DNA検査というのは、上記のヒットカウント分析から分かるように、様々な呼称が乱立する状況では、便利な用語である。ヒトが検査対象だと、よほど研究的な目的の検査を例外として、物質としてDNAを検査することは間違いないので、検査の範囲によって頻繁に呼称を変えるよりも、DNA検査と呼んだほうが容易である。DNA検査と呼んだ場合は、DNAアレイによるDNA検査なのか、シーケンシングによるDNA検査なのか、なるべく具体的な方式に言及することにしている。ひいては、医療機関による遺伝子検査の場合にも呼称を工夫して、遺伝子検査という混同を引き起こす用語はなるべく用いずに、代わりにシーケンシングと呼んでいる。そのシーケンシングの範囲を付け足して、mtDNAシーケンシングや、エクソームシーケンシングなどと呼ぶ。

 

 後々の節で示すように、既に欧米では高額の個人向け遺伝子検査ではエクソームシーケンシングの方式に移行しつつあるため、一部の遺伝子の更にほんの一部しか検査しなかった状況から、全部の遺伝子の全長を検査する方向へと近づいている。だから、「個人向け遺伝子検査」という用語は、将来的により理にかなった名称となるであろう。多少冗長な響きは気になるが、現在のところは、これが最も混乱が少ない呼称であろうと思われる。

 

 個人向け遺伝子検査の検査結果として、一例を挙げると、アルツハイマー病といったコモンディジーズに対して統計的に罹患確率を予測した数値が得られるが、この予測の手法のことをGWAS(ジーヴァス)(Genome Wide Association Study)と呼ぶ。GWASはあくまで「統計的」な「予測」である。だから、その予測の統計的な信頼性が大問題なのだ。GWASによる予測の確からしさ、あるいは、曖昧さは統計に用いる母集団としてどの人種・民族について何百人を調査したものなのかにより、占い程度の場合もあれば、どういった成人病の医療保険に加入すべきか示唆するようなかなり正確な場合もあるのである。

 

 2014年現在、日本で個人向け遺伝子検査と呼ばれているものは、知る限り全てGWASによる罹患予測確率が検査結果として表示されるものである。ほんの少しだけ例外があるのは、単一遺伝子疾患の病的変異も検査対象としてわずか含まれている点であるが、数としては少ないため、それに期待してこういった検査を購入するべきではない。残念ながら、そういった病的変異をごく一部だけ個人向け遺伝子検査の中に含むのは、検査項目の数を多く示したいという、主に商業的な理由によると思われる。そういった単一遺伝子疾患の広い範囲の検査に向いているのはエクソームシーケンシングなので、それについては後々の節で述べたい。

 

 個人向け遺伝子検査として具体的には、私が受けた23andMeが世界的に知られているが、日本では20158月現在、株式会社ジーンクエストによるGenequest、株式会社DeNAライフサイエンスによるMYCODEなどがあり、これらと23andMeについて、後の節でいくらか比較を行っている。前者が「大規模遺伝子解析」、後者が「遺伝子検査」と記されていて、やはりどちらも遺伝子を宣伝文句に用いていてその意味では良心的でない。また、GenequestOEMとみられるHealthData Labは「ゲノム解析」と表記してある。今回調べた中では、表記方法としては最後のものが最も良心的に思える。繰り返しになるが、「個人向け遺伝子検査」と「個人向け」さえ付記すれば、インターネット検索の既成標準に合致して、消費者に誤解を与えないように、医療機関による遺伝子検査とうまく区別することができる。

 

 GWASの原理を、次の図に示す。この図は、後に示す米国NHGRIからの図を改変して含んでいる。採血して白血球の中にある染色体を調べると、GWASにより、図の右下に示した染色体のどの部分が、右上のコモンディジーズの各疾患に関係しているか、およその検討がつく。この「およそ」の部分は、実際には限られた患者数の限られたSNPしか調べることができないことにより発生する曖昧さである。これが各検査会社で検査結果の信頼性が異なっている大もとの原因である。よりたくさんの患者を調べて、より多くのSNPを調べれば、より信頼性の高い罹患予測確率が出せるのだが、もちろんよりコストがかかる。その上、人種や民族で分けた方が信頼性が上がるので、全体的にヨーロッパ人を対象にしたGWASの学術論文の方が多い中で、日本人でどれだけ多くの患者を、どれだけ多くのSNPについて調べたかが最も重要な部分である。

 

 具体的には、次の図に示すように、患者の人数とDNAの遺伝型から、ある疾患に関係しそうなSNPを探す場合を考えてみる。SNP1について、3人の患者を調べると、遺伝型としてC2人、G1人であったとする。同じように健常者を調べるとC2人、G1人である。SNP2について患者C3人、G0人、健常者C2人、G1人である。SNP1SNP2ではどっちがこの疾患に関係していると言えるだろうか。SNP1は患者と健常者でCGの割合が全く同じであるため、全く役に立たない。その一方で、SNP2の方は患者でC100%、健常者でC66%なので、SNP2としてCを持っていれば、Gを持っているよりも、いくらか疾患に罹患する確率が高いということになる。したがって、SNP2の方がSNP1より役に立つ。しかし、これは、統計からの比較の問題であり、調べた人数やSNPが少ないと、かなりアバウトな結果しか得られない。その一方で調べるSNPを多くすると結局シーケンシングと同じぐらいコストがかさむことになってしまう。

 

 DNAアレイとGWASによる検査の原理を知ってしまうと、アバウトさに失望された方もおられると思うが、これはあくまで一例である。実際には、後述するように、検査会社は、十分な患者数、十分なSNP数が得られ、信頼性の高い結果が返せる検査項目については、信頼性を最高ランクとして4つといったように分かりやすく表示すべく工夫している。はっきり言ってしまうと最高ランクとして示されている検査項目以外はアバウトすぎて役に立たない。

 

 ともかく、この方法だと、ありとあらゆる疾患の罹患予測確率を出すことができるため、次の図のように、染色体上のGWAS地図が描かれ、年々詳しくなっている。

なぜ遺伝子そのものに言及せずに、SNPを使うのかについては、コモンディジーズでは複数の遺伝子の影響が絡み合って、遺伝子の特定が困難であるからである。このため、疾患と強く関係していると判明したSNPは、マーカーと呼ばれ、マークする物、という名前の通り、その近くに疾患の原因遺伝子の一つがあると思われるけれども、近くにあるということしか分からないため、とりあえずマークだけ付けた状態と考えられる。だから、個人向け遺伝子検査の宣伝文句に登場するSNPやマーカーというのは、決して遺伝子そのものではない。原因遺伝子の近くにあるであろうと思われる、単なるSNPである。そのSNPがどのぐらい遺伝子の近くにあるかというのが、検査会社が示す検査項目の信頼性に反映されるため、購入者が知りたい検査項目の信頼性がどんな記述になっているかが、非常に重要である。できることなら、購入前に調べた方がいいが、残念ながら、[コモンとレアの重症度分布...]の節で比較する例外を除いて、購入してからしか分からないことの方が多い。


23andMeの深刻な検査結果 - 統計の改善による影響

 この節では、23andMeから得た私の検査結果のうち、健康上のリスクをもたらす重要な検査項目について紹介する。それと同時に、その中に後で検査結果が大きく変更されたものがあったため、そういったことがDNAアレイとGWASに基づくDNA検査では簡単に起こることを紹介する。ただし、基本的には検査結果がより正確になっていくのは非常によいことである。

 

 次の図に示すのは、約2年半前の検査結果である。20123月の時点での23andMeによる私のアルツハイマー病(Alzheimer's Disease)の罹患予測確率は14.2%で、母集団の平均が7.2%であった。

 

 同じものを、20148月現在に表示させると、次の図に示すように、罹患予測確率は10.1%で、母集団の平均が4.0%である。この結果表示は"Health Overview"(健康上の概要)と名付けられているもので、健康に関する全体的な結果がまとめられていて、後々別のトピックで役立つと思われるため同ページの結果全体を示しておく。

 

 "See all 122 risk reports..."(全部で122あるリスクレポートを見る...)をクリックすると、次の図に示すように、"Health Risks"(健康上のリスク)のページが表示され、"CONFIDENCE"(信頼性)などの表記が追加されている。同じウェブページの中で上から"Elevated Risk"(平均より上昇したリスク)"Decreased Risk"(平均より減少したリスク)"Typical Risk"(平均的なリスク)に分かれている。

 2年半でアルツハイマー病の罹患予測確率が40%低下しているだけでなく、母集団の平均値も下がっている。2年半前の詳細が入手できないので、推測だが、これは当初主に白人を大多数として母集団を組んでいたのではないかと思われる。23andMeのブログによると、この期間に一度、20139月に、アルツハイマー病の検査結果を出すのに用いている学術論文を改めて、より正確なものに切り替えたことが記されている。現在では、詳細を表示させると、アジア人で母集団を組んでいることが表示された。詳細のページは複数のイラストを含んでいて意匠権が生じるかもしれないので画面をコピーするのは避けたい。

 

 後になって気付いたが、"Health Overview"や、"Elevated Risk"のウェブページ右上に"SEE NEW AND RECENTLY UPDATED REPORTS »"(新規および最近更新されたレポートを表示)というリンクがあって、開くとそういった検査項目だけをまとめたウェブページが表示される。

 

 "Elevated Risk"(平均より上昇したリスク)の画面の中で、一見して分かるように、どの医療保険に入るか決めるなど、実際に役立ちそうな検査項目は非常に限られている。私の場合は、上位に表示されている次の3つだけである。

 

Type2 Diabetes 4 46.5% 平均27.8%

2型糖尿病

Gout 4 35.7% 平均22.8%

痛風

Alzheimer's Disease 4 10.1% 平均4.0%

アルツハイマー病

 

これより下は、1型糖尿病*2.1%などと、2.11倍と確かに平均と比較すると大きな数値になっているのだが、患った覚えもないし、患ったとしても遺伝因子の影響が3%未満ということが検査結果として具体的に示されたわけで、環境因子の方が大きいであろうと思われるため、実質的には役に立たない数値と考えていいはずである。いや、遺伝因子がそんなに小さな影響しか及ぼさないことを知るのに、役に立ったと言えなくはないが。

 

 "CONFIDENCE"は、罹患予測確率の信頼性を示すの数による4段階評価である。表示した範囲で"abdominal aortic aneurysm"(腹大動脈瘤)以降は3と、一段階低い信頼性となっている。をクリックすると以下のように解説が表示された。

 

Research Confidence

研究の信頼性

 

★★★★

Established Research.

確立された研究。

At least two studies examined more than 750 people with the trait or condition and/or the associations are widely accepted in the scientific community.

この形質または疾患を有する750人を超える人口を調査した研究が複数ある、または、科学コミュニティで関係性が広く認められている。

The reports may cover rare conditions or include variants that do not greatly influence a person's absolute lifetime risk for a condition.

ただしその研究の被験者には、生命に大きな影響を及ぼすほど重症でない希少疾患や変異を含みうる。

 

★★★

Preliminary Research.

予備的な研究。

More than 750 people with the condition were studied, but the findings still need to be confirmed by the scientific community in an independent study of similar size.

750人を越える人口を対象として調査したが、まだ、同規模の独立した研究で、科学コミュニティにより結果を確認する必要がある。

 

★★

Preliminary Research.

予備的な研究。

Fewer than 750 people were studied. Multiple large studies are needed to confirm these findings.

750人未満の人口を対象として調査。これらの結果を確認するために、複数の大きな調査が必要である。

 

Preliminary Research.

予備的な研究。

Fewer than 100 people were studied. Multiple large studies are needed to confirm these findings.

100人未満の人口を対象として調査。これらの結果を確認するために、複数の大きな調査が必要である。

 

最後の1まで訳したが、実際には重要なのは43の違いである。この部分は、後々の節で23andMeと検査項目の比較をするGenequestによると、次のようになっている。「★★★★当該項目に関して750人以上を対象としており独立した研究を2つ以上含む報告があるもの、または科学研究コミュニティーにおいてデータの信頼性が広く認められているもの。★★★当該項目に関して750人以上を対象とした試験による研究報告があるもの。」 23andMeGenequestでほぼ同じ説明であり、この750人が何かの基準で決まっているのかと思って調べているのだが、とにかくGWASの学術文献として750人を対象にしたものが多いということのようである。誰かが特に決めたわけではなく、以前の有名な学術文献より統計的精度が落ちないようにするために、750人という基準が引き継がれている状態のようだ。

 

 「平均より上昇したリスク」の他に「平均より減少したリスク」および「平均的なリスク」についても、4を完全に含む形でスクリーン・ショットを示しておく。ただしこれらは「平均より上昇したリスク」に比較すると重要とは考えられない割に、詳細を検討するのに時間がかかるため、参考程度に示すのみである。平均よりも減少したり、平均と同程度のこれらの検査項目は、各検査項目を開いて参考文献をクリックし、その英文の学術論文の中身を読まないと、本来どのぐらい個人差がある数値なのか分からない。実は個人差がたいしてなくて、統計的な分散が小さいのに4になっているということもありうる点に留意する必要がある。

 

 また本著で頻繁に用いている罹患予測確率という用語は、私が23andMeの検査結果を説明するのに、"Risk"をリスクと訳しただけでは、具体的に何のことか分からないので、23andMeのいうRiskをなるべく誤解がないように訳を作ったものである。23andMeRiskの意味を、各疾患についての詳細のページで説明していて、アルツハイマー病の場合は、次のように非常に具体的に述べられている。

 

10.1 out of 100 men of Asian ethnicity who share * *'s genotype will develop Alzheimer's Disease between the ages of 60 and 79.

10.1%というRiskの意味は) * *さんと同じ遺伝型を持つアジア人男性の、100人のうち10.1人が、60歳から79歳までの間に、アルツハイマー病を発症するでしょう。

 

Riskのことを罹患予測確率と訳しているのは、誤解を招かないように多少冗長な表現になってしまっているため、もし日本の複数の学会で共通の呼称があればそれに読み替えていただきたい。

 

 私のアルツハイマー病の検査結果が2年半で大きく変わったことが示しているのは、母集団が細分化される等でより正確な研究成果が得られた場合に、23andMeはより正確な方の結果を提供していると思われるため、その意味では非常に良心的である。ただし、記憶している限りは、結果が更新されたことの通知は受け取っていない。後になって、23andMe"ACCOUNT SETTINGS"(アカウント設定)"Notifications"(通知)の項目が細かく用意されているのを知った。

この中で、"Health Updates"(健康上の更新)が実は極めて重要だったのだが、メール通知が多いとメールボックスが混乱することに頭を悩ませていたので、"Ancestory Updates"(祖先についての更新)という項目だけ読んで、引き続く項目はそれ以下の重要性しかないから読む必要がないと思ったのだと思う。英語を読むのが遅いので読み飛ばしてしまうのは、大きなデメリットであり、検査は日本語で提供されるに越したことはない。当時、ほぼ全てのチェックを外した状態だった。現在全部のチェックが入れてあるのは、Gmailでプロモーションタブができて素早く分けられるようになったためと、23andMeが販売停止の状態がいつまで続くのか、少しでも情報を得るためである。

 

 後になって、人種、年齢、性別、既往症などで母集団を分けた、以前より詳しい統計が出てくることは、年々起こりうる話になってきている。23andMeは、顧客に対して健康状態の詳細なアンケートを実施することで、外部の研究者と協力して顧客を対象にして研究し、新たな統計を作り上げようとしていた。このようにすれば、検査結果をより正確なものに近づけられるため、顧客に対して頻繁にアンケートに参加するよう宣伝していた。このように、私も確かに研究についての同意書にはオンラインで同意を示したし、同意することによって、耳の形やらいろいろと興味深い未確定の検査結果まで表示されるようになったので、面白いのは面白いのだが、とは言え、個人情報を含まないよう匿名化されているとは言っても、顧客にとってどこでどのように使われるか分からないアンケートについては、以前から根強い批判がある。手厳しい言葉を使うなら、これはヒトにおけるバイオプロスペクティング*行為というものに該当する。さらに対象者が患者でその患者のためになる研究という医療機関での研究と異なり、圧倒的に安価とはいえ99ドル(約1万円)という料金を支払った顧客からの情報を売り物にして行うのも、消費者保護上の何らかの規制に抵触するのではないかとも考えられる。23andMeが現在FDAから販売停止命令を受けている主な理由は、医師を通さずにアルツハイマー病といったかなりシビアな検査項目まで含んで販売した結果、顧客から検査の精度に関するクレームが予想以上に多かったという事情が主であるが、多少はバイオプロスペクティング的な部分も皆が神経質になっているということなのではないかと思われる。

 

 ともあれ、消費者の常として、99ドルという程の低価格を示されてしまうと、それに惹かれてしまう人口が圧倒的に多いもので、言ってみればアンケートを収集して検査結果の統計として業界トップを維持し、バイオプロスペクティングに対する警戒を解くための低価格と言える。はっきり言ってしまうと、現在の日本ではDTCDNA検査が黎明期であるから、価格の高い検査会社であっても検査項目の信頼性が高ければ、購入すべきである。しかし、今までに2008年の米国カリフォルニア州における規制強化を生き残った2社の中でも、Navigenetics23andMeとの価格競争に敗れたと思われる形でシーケンサーのメーカーに買収されている。さらに23andMeが大量のクレームを受けてFDAから販売停止命令を受けた現状をみると、最終的に価格競争と規制の間で生き残って、顧客の検査項目に対して継続的に統計を更新し続け、本当に買ってよかったと思える検査会社は非常に限られるという予測が成り立つ。

 

 現状では規制による市場からの撤退については、各遺伝子の長さの数%未満しか検査しないのに「個人向け」と述べずに「遺伝子検査」と宣伝している検査会社には早めに撤退して欲しいものだと私は思っているが、それ以外はどの検査会社もほぼ同じ条件であろうと思われる。したがって、薄利多売の価格競争に突入しても、生き残るであろう、資本系列の大きな検査会社の検査を購入するのが、「寄らば大樹の陰」「長い物には巻かれろ」「勝てば官軍」みたいで、格好良くはないが、最も賢明な選び方と言えるだろう。ただ、そうなってしまうと、市場が1社ほぼ独占となるのを許容してしまって、いろいろと悪いことが次々に起こると予想される。その会社が規制に抵触しそうなことを行った結果、クレームが多いと当局が止めることは今回のFDAによる介入で明らかになった。日本でも同じことが起こるだろう。しかし、バイオプロスペクティング行為については、止めた時点で既に顧客から得たデータはその検査会社の資産なので、後から無効にすることは困難である。1社独占によるバイオプロスペクティング行為を促進しないためには、複数の検査会社が存在し、互いに倫理面でも問題点を指摘し合う方が健全である。結局のところ、お金がある人たちは比較的小さな検査会社のものまで複数購入して比較し、各検査項目について信頼性の高い検査会社の方を自分の検査結果として利用すればいいが、貧乏な我々は寄らば大樹を探し続けなければならないだろう。お金のある人たちが比較的小さな検査会社からも購入して、信頼性の高い検査項目だけ拾ってくれれば、小さな検査会社についても、将来生き残っていく可能性が生まれる。

 

 こういう苦い現実的な見方をすると、一番巻かれたい長いものというのは、もちろん、グーグルの資本系列である23andMeなのだが、FDAによる販売停止命令をくらってしまった。米国がだめなら規制の緩い他国としてカナダをターゲットに据えているという記事があるが、日本には当分来ることはないだろう。DNA検査の結果は、統計が改善されれば変わるが、しかし基本のDNA配列は一生不変のものなので、やはり何十年も付き合っていける検査会社の方がいいに決まっている。現在は「量より質」が重要だが、すぐに薄利多売の競争となって中国へ解析を外注することになるだろう。その中で生き残っていくのは、ちょうどグーグルが唯一のインターネット検索アド大手として、薄利とみられるのに、スマホにまで手を広げてきた姿とかぶっている。だから、グーグルと同じ資本系列の23andMeが現在のようなことにさえならなければ、多くの世界人口にとってとてもよかったはずなのだが、やはり最大手の常か、米国政府と大きな衝突を招いてしまって現在に至る。さっきは23andMe1社独占と批判し、ここでまた持ち上げる理由は、23andMeでなければ、もっと酷いことになっていただろうと思えるからである。23andMe1社独占とは言え、いろんな会社が不祥事にまみれているこの世の中では、かなり不祥事が少ないはずである。実際、後々の節で述べる新型出生前診断のDNA検査会社シーケノム社は、5年前に大きな不祥事を起こしながら現在も最大手として幅をきかせている*

 

 多少細かい話になるが、上記では2型糖尿病、痛風、アルツハイマー病にしか触れていないが、胃癌といった食生活と強く関連している疾患は、日本の検査会社の方が、23andMeよりも圧倒的に信頼性の高い検査結果を出せるはずである。日系人の23andMe購入者は750人を超えていると思うが、胃癌の患者として日系人だけを750人も確保するのは困難と思われ、それに日系人の食生活もまた日本より欧米化しているだろう。DNA検査はあまり関係がなくて、アンケートからの寄与が多くなるのかもしれないが、食生活から胃癌の罹患率といった数値を出して、食事指導をするといったことは、日本の検査会社でしかできないことである。

 

 もう一つ、23andMeと日本の検査の現時点での違いは、祖先や家系をたどる機能を重視する点である。[23andMeのその他の結果]で少しだけスクリーン・ショットで示すが、具体的には家系図を描く機能がウェブ上で提供されたり、家族全員の検査結果を家族の一人がまとめて管理する機能が提供されている。これは人種のるつぼと呼ばれる米国での需要に応じたもので、日本ではこういった需要はほとんどないはずだ。近縁者が検査を受けるのには、生物学的に特別な意味があって、近縁者同士でよく似たDNA配列を比較し、さらに両者のアンケート結果を比較すると、比較的稀な多型であってもその影響を推測しやすくなる。

 

 ここまでが23andMeの検査結果の中から特に重要なものを紹介し、それが統計により後で変わった例である。希少疾患、薬剤反応、祖先といった、検査項目については、この次の節で紹介する。


23andMeのその他の結果

 前の節で23andMeの健康に関する結果のうち、一番重要と思われるところを示した。23andMeの結果の全体像が分かるように、その他の結果についても示したいと思う。全て2014年9月時点のスクリーン・ショットである。

 

 23andMeでは、結果は"HEALTH"(健康)と"ANCESTRY"(祖先)に分かれている。前の節では、"HEALTH OVERVIEW"(健康上の概要)と"HEALTH RISKS"(健康上のリスク)を示した。次に示すのは"DRUG RESPONSE"(薬剤応答)である。

 

 実際にはもっと下の方までウェブページが続いているが、研究の信頼性を表す★印が少ない項目ばかりなので示さない。水色の各項目をクリックすれば詳細が表示される。私の場合は血液抗凝固剤であるワルファリンに対する感受性が高いようだ。よく見るとこのウェブページの最後に小さなフォントで「研究と教育目的の情報で、診断用ではない」という旨の注意書きが付されている。医療機関でワルファリンを投与されるときに23andMeの結果を考慮するかどうかは、顧客の自己責任ということのようだ。

 

 次に示すのは"INHERITED CONDITIONS"(遺伝病)である。

 単一遺伝子疾患を中心にして、BRCAのがんの変異も一応含まれており、私の場合は全て"Variant Absent"(変異無し)と記されている。ただし、あくまでシーケンシングではなくDNAアレイなので、よく知られた一部の変異についてのみ検査した点に留意する必要がある。ここで「変異無し」となっていても、シーケンシングすれば疑わしい変異が見つかる可能性が存在する。各項目をクリックすればどの変異を検査した結果なのか表示される。BRCAについては以下の3つのみである。女性の場合もっとたくさん検査している可能性もあるかもしれないが、男性も女性も同料金の99ドルなのであまり期待しない方がいいと思われる。

 

 TRAIT(形質)を以下に示す。

 "ALCOHOL FLUSH REACTION"(アルコール赤面反応)をクリックすると以下のように詳細が表示された。なお、イラスト、検査結果の条件、ALDH2遺伝子の説明を黒塗りにしたのは、ウェブページの最下行で23andMeが著作権を主張しているためである。しかし、購入者が自分の遺伝型を他の遺伝型と比較しながら他人に説明するのに最低限必要な表現だけは、購入して料金を支払った限りはスクリーンショットとして示しても構わないだろうと考えた。

 検査結果の条件には、ALDH2遺伝子の1つのSNPだけを検査したので、アルコール赤面反応のもう一つの原因として知られるADH1B遺伝子にSNPがあってアルコール赤面反応を起こしやすい場合もあると記されている。ALDH2遺伝子のSNPというのが座位としてどこのことなのか具体的には記されていないが、"Citations"(参考文献)を調べれば分かるようだ。

 

 "HEALTH"の最後として"HEALTH TOOLS"(健康の工具箱)というウェブページがある。以下のように記載があり、今のところABO血液型など3項目が示されている。ABO血液型を表示させるとAO+という私の血液型がたしかに表示されるが、これがなぜ実験的と述べられているのか、詳細をよく読むと書いてあるのかもしれない。

 

23andMe Tools are features that may still be in development, require specialized knowledge or appeal to only some of our customers. We encourage you to try them out and let us know what you think!

23andMeツールはまだ開発中の機能です。専門的な知識を必要としており、お客様の中で一握りの方々だけにご利用いただきたいと考えております。ぜひお試しいただいてご感想をご連絡いただけると幸いです。

 

 次に"ANCESTRY"(祖先)に移ると、"ANCESTRY OVERVIEW"(祖先の概要)、"MATERNAL LINE"(母系)、"PATERNAL LINE"(父系)、"NEANDERTHAL ANCESTRY"(ネアンデルタール人の祖先)、"ANCESTRY TOOLS"(祖先の工具箱)と、5つのウェブページに分かれている。

 

 "ANCESTRY OVERVIEW"(祖先の概要)を次に示す。

 全体的に健康のコーナーよりも祖先のコーナーの方が凝ったイラストが多いので、コピーして貼るのはここまでに留めておきたい。ともかく、私は88.2%日本人で、12親等の血縁者が23andMeの顧客に5人いて、父も母も東南アジア由来で、ネアンデルタール人由来のSNPsが計算上は2.9%が含まれていて、日本人以外で遺伝学的に近いのは中国人とフィリピン人の順だそうである。

 

 なお、12親等の血縁者が23andMeの顧客に5人いるといったように、自分が他の顧客に表示されてしまうというプライバシーに関わる設定は、次に示す"MY PROFILE"(マイプロファイル)にある"Edit Profile"(プロファイルの編集)タブでかなり細かく切り替えることができるようだ。

 あまり使い込んでないので細かい部分はよく分からない。次のように"SETTINGS"(設定)のウェブページにある"Privacy/Consent"(プライバシー/同意)タブの"Sharing Options"(シェアする設定)というのもあって、ソーシャルな楽しみ方ができる仕組みのようだ。

 こういったプライバシーやシェアの設定が反映されるソーシャルなコーナーとして、"FAMILY AND FRIENDS"(家族と友人)というコーナーが用意されているが、私はあまり使い込んでいない上に、他の顧客の情報が部分々々に含まれるので、英語によるヘルプページへのリンクを示すのみとしたい。



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