目次
はじめに
はじめに
宗教的表現について
研究者の方々へ - 検証中の仮説
外部リンクの表記、Android対応、訂正箇所のご指摘のお願い
概略
現在の症状
息子の誕生
さらに遠い通院へ
知らされなかった検査結果
アミノ酸分画検査結果
タンデムマス検査結果
合っているかもしれない仮説
閑話休題:創作話 トリケラお母さんの悲劇(# ゚Д゚)
DNA検査の実体験と仕組み
ミトコンドリアDNAの検査
ヒットカウント分析および共起性分析
23andMeのDNAアレイによる検査 - 販売停止命令に至る経緯
遺伝病とコモンディジーズの違い - 優性遺伝と劣性遺伝
ヒトはヒトであるが故にヒトの病を患う
コモンディジーズの検査方式 - アバウトなGWAS
23andMeの深刻な検査結果 - 統計の改善による影響
23andMeのその他の結果
エクソームシーケンシング
コモンとレアの重症度分布 - アレル頻度とエフェクトサイズ
個人向け遺伝子検査の選び方 - 罹患人口カバー率指標
閑話休題:製作物 DNAツリー
希少疾患と難病の制度および数値
希少疾患と難病の違いと制度的起源 - 日米欧比較
赤信号みんなで渡れば - 真面目な日本人の最悪の集団行動
もっとも希少な希少疾患 - 70億人にたった一人
もっとも正確な希少疾患の数 - 毎日約1つ希少疾患が増える?
希少疾患全体の罹患率 - 全部合わせると10~14人に一人
診断に至るまでの年数、または遅延 - 28年?!
GINA(ジーナ) - DNA検査時代の国民、患者を守る法制度
国民皆保険の功罪 - 患者をチェリーピッキングする医師達
節としてまとまらなかった事柄
希少疾患と感染症
感染症と希少疾患の関係 - 未診断の希少疾患という重症化因子
予防接種の健康被害としての未診断の希少疾患
希少疾患としての感染症 - 米国のAIDSの歴史
見えないところに死体の山
医師に頼らない因果関係の追求 - 脳症の本当の原因
更に複雑な感染症の話
医療訴訟が生み出す二次被害 - 無過失賠償制度の必要性
辛い記憶
両親を批判することについて
両親への間違った説明
辛かった学校生活
体育の次の時間に倒れてしまう
電車とバス
繰り返し運動による寝られぬほどの筋肉痛
食事の前後の発作
進化と感染症の間の遺伝性疾患
進化と感染症の間の遺伝性疾患
仮説の更なる展開 - 発見され増加を続ける希少疾患
卵子と精子の間の変異の導入の違い
感染症と遺伝性疾患で重度となる役割 - 男性淘汰進化説
絶滅のシナリオ - 感染症と遺伝性疾患の袋小路
進化のスピード調節 - もっとも強く訴えたいこと
進化と遺伝性疾患の「必然性の枠内の偶然性」
ダーウィンのUNdiagnosed
そして各論へ
遺伝学用語の混乱
遺伝学用語の混乱:genetic、遺伝か起源か
de novo変異 - 両親から受け継がれない優性遺伝の変異
個人向け遺伝子検査のガイドラインの乖離
みんなが保因者の劣性遺伝病? - 平均約10個の遺伝的荷重
劣性病的変異の健常者への影響 - 遺伝子プールの浄化説
あとがき
あとがき
これ以降分冊予定
▲▼そして各論へ
検証実験の山 - バッチ型検証実験の提案
希少疾患の中の更なる希少な患者群についての予測
環境因子か遺伝因子か
代謝異常についての進捗
遺伝子検査の2つの嘘
生まれの平等性または不平等性
▲▼生まれの平等性または不平等性
新型出生前診断と着床前診断 - 技術的に◯、倫理的に☓
生まれる前のDNA検査 - 科学的因果関係の追求ライン
技術としてのNIPT - 生まれのDNA検査の技術予測
我が子に故意に良くない遺伝因子を許容する親の罪
ディストピアな未来像 - 生まれの平等性が崩れた世界
不妊という社会問題 - 男性不妊と父性年齢効果
中絶による母体へのダメージ - 次の妊娠がうまくいく確率
着床前診断の問題点 - NIPTとの倫理的違和感
不妊治療としてのPGD - 不妊としての遺伝性疾患
生殖医療のリアルの写真
男女産み分けの国際比較 - 海外での生殖補助医療のリアル
着床前診断の潜在的なリスク - 子と女性へのリスク
フィルターされた人々による生まれの平等性、不平等性の支配
遺伝学用語の混乱:variation、多様性か変化性か
人権に基づく多様性、人権に基づく変化性
男性不妊と劣性遺伝病の完全予防 - 22世紀の精子起源工学
その他 - うまく分類できずとも価値のあるトピック
DNA検査の結果の公開 - シーケンシング機会の平等性
進化における神の概念
mtDNAとY染色体の永代性 - 未来の血縁者の不利益
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節としてまとまらなかった事柄

 本章のまとめと、ここまでに1節の形にまでまとめられなかった内容を記す。

 

 診断を得るのに28年という歳月が普通の希少疾患があるということには、調べてみて驚いた。多少、分からない部分がありながらも、EURORDISが、これだけ豊富な情報をまとめてくれたことに感謝せざるを得ない。

 

 しかし、そんなに診断に時間がかかっている間に、検査を受けられる病院までの通院距離が、検査が詳細に渡るほど延々と遠ざかって行くのだ。ACAD9欠損症を日本で診断したという記事を20143月現在目にした覚えがないので、理屈としてはACAD9欠損症はヨーロッパまで通院しないと診断できないということになってしまうのかもしれない。

 

 こういった状況を解決する方法として期待できるのが、エクソームシーケンシングなどのDNA検査技術の進歩であるが、これもやはり日本では全体的に普及が遅いように見受けられる。私もぶち当たって苦しんでいる英語の壁というものがあって、致し方(いたしかた)ない部分も多いのだろうと思われる。

 

 しかし、英語の壁は、米国がNIHパブリックアクセス義務化を始めてから、医師だけに特有の問題ではなくなった。患者も英語圏の人たちは普通に学術論文を読む時代に突入したのである。なにしろ、政府が法に基いて今後はなるべく無料で公開させるようにするとまで言うのだから。論文を読まないと結局、患者の知識レベルも国際基準よりも劣るとみなされる、そういう時代が始まったのである。

 

 やはりどうしてもある程度英語力を鍛えないと、どうにもならない世界だと思う。S研究所を退職した後、しばらくの間は、まだスタミナが比較的長く保てていたので、医学用語に慣れるために英日翻訳の仕事を引き受けていた時期があった。しかしフリーランスの翻訳業界では顧客の都合で期限が設定されるため、納期が日本の朝であったり、米国時間の朝であったり、つまり徹夜の仕事が多すぎるという問題があった。結局、スタミナを失った患者に、健常者と同じだけの徹夜はこなせないわけで、だんだんと仕事を引き受けることができなくなった。

 

 医学英語を含めて、もっと系統的に勉強しようと医学部編入学の宛を探していた時期もあったが、気付いた時には、そこまでの能力は残っていなかった。実際、とある私大の医学部編入学を受験したものの、一次試験は合格したものの面接で落とされてしまった。やはりこれも無理があった。

 

 過去には、温かい国の永住権を取得して英語を鍛えようとしていていた時期もあったが、これはとてもお金がかかる上に、多少聴力に問題があるようで、英会話にとても難渋した。後になって、スタミナの病気は基礎代謝の増す日本の冬で体調を大きく崩すことがとても多いことに気付いたので、温かい国で冬を越すのはそれほど悪いアイデアではなかったのだが、英会話が辿々(たどたど)しいとP国では治安の悪い地域でとても不安になることが多かった。

 

 このようにして、結局のところ日本でひたすら家族に世話になりながら、一部家事をやりつつ、できる限りの力で確定診断を目指しているのだが、それさえも無理があると思えることがある。理屈を言えば、EUによる希少疾患全体の罹患率として人口の7%が希少疾患に罹患しているという記述を信頼する限り、二つの希少疾患に同時に罹患する患者も無視できない人口として存在することになる。それどころか、1/(0.07^4)という計算により、4万人に一人は4重罹患している計算にさえなるのだ。複数の希少疾患に同時に罹患すれば、それぞれ診断基準を満たさない、低い重症度の疾患であっても、一人の人間としては中程度の重症度の症状を示す場合もありうるだろう。この場合、それなりの重症度を示しながらも永久に診断されることがない、という症例が存在することになる。・・・多くは胎児の段階で流産すると思われるが、理屈の上では3重罹患ぐらいまでは生き残っていることもありうる。

 

 そして、実際に2重罹患までは症例報告されている。英国の患者で、エピソード性運動失調と先天性パラミオトニーを併発した例があげられる。

 

Rajakulendran, S., et al. "A patient with episodic ataxia and paramyotonia congenita due to mutations in KCNA1 and SCN4A." Neurology 73.12 (2009): 993-995.

 

 もしかして、私も極軽度の代謝異常症と、極軽度の先天性パラミオトニーを合併していて、どちらも診断可能な閾値に超えないのではないだろうか? 互いにアトロフィ(筋が細くなる)とハイパートロフィ(筋が緊張しすぎて太くなる)を埋め合わせているために、筋の太さとしては見かけ上正常に見えるのではないか。

 

 そういった場合、我々は何を頼りに確定診断を目指せばいいのだろうか? それとも、私が倒れてしまった9年前のように、中ば自分はもう死んでもいいと諦めるのだろうか? 能動的にそういう行為をとれば自殺ということになり、日本人の自殺率の高さと、非常に融通の効かない診断基準の厳密さの間には、相関があるように思われてならない。私は自分自身としては、先天性代謝異常症という総称として確定診断が出てもいいように思われるのだ。その場合、「病型不明」なりそういった付帯条件はつくであろうが、少なくとも周囲の理解を得るのは容易になるだろうし、医療制度の外側に死に絶えるまで放置されることはないはずだ。

 

 ここより後の希少疾患と感染症の関係についての節は、難解な部分が混じることをお詫びしたい。それでも希少疾患は人口の7%を占めるのである。読んでいただいている中の14人に一人、または日本全国で約900万人が軽度なり重度なり希少疾患を患っているはずだ。こういった人口が、診断されない希少疾患という、感染症や予防接種の重症化因子に晒されていることはまぎれもない事実である。

 

 感染症の章が終われば、その後しばらくは私自身の過去の苦労を紹介することになる。つまり闘病記的な部分である。感染症の節が不必要に難解と思われた方々は、闘病記の章へと、読み飛ばしていただきたい。


感染症と希少疾患の関係 - 未診断の希少疾患という重症化因子

 [合っているかもしれない仮説]の節で、第三世界においてマラリアといった感染症の病名で、診断されない1億人の患児が生殖年齢までに天に召され続けていると述べたが、実は、日本でも同じことが起きている。日本は先進国の中では例外的に予防接種の普及率が低い国である。その原因は予防接種ワクチン禍の中で、B型肝炎を予防接種により感染させてしまうという医療過誤に対して過去に大きな集団訴訟が起こり勝訴したことの他に、予防接種による他の原因不明の健康被害も多いからである。おそらく、これは日本で希少疾患の診断が軽視されているのと関連している。つまり、確かに過去においては杜撰な予防接種が多々あったが、現時点にいたっては、予防接種で健康被害を起こした人々のうち、非常におおざっぱに言って半数は、診断されていなかった軽度の希少疾患によると推測できるのだ。予防接種がらみの裁判で行政が負け続けたことによってこの国の感染症対策は完全におかしくなってしまった。エボラに立ち向かうどころではなく、もっと感染力の低い感染症さえ制圧することができない。そのことが悪循環でまた我々、疾患を持って免疫的・体質的に弱者として暮らしている者達の首を締めているのである。あまりにも酷い状況なので、この章に関してはリアルを緩和するための宗教的表現を一貫して使う余裕もないことをお許しいただきたい。

 

 上記で予防接種による健康被害と記したが、最初に用語の普及率の確認を行いたい。グーグルを用いた共起性分析を行う。

 

"副作用" "予防接種" 約 759,000

"副反応" "予防接種" 約 253,000

"健康被害" "予防接種" 約 152,000

"有害事象" "予防接種" 約 18,000

"有害反応" "予防接種" 約 4,810

 

このうち、副反応と有害事象は明確に区別されている。

 

(『予防接種後の有害事象と副反応』§ 大谷清孝, 小児感染免疫 Vol.25 No.4 481, 2013 より)

 

予防接種後に生じる生体にとって不利益な反応を総じて「有害事象」と称し,その事象とワクチンとの因果関係の有無は問われない.一方,「副反応」とは,ワクチンによる本来の目的以外の作用とされている.一般には,有害事象は副反応も含み,さらにワクチンとは無関係な種々雑多な医学的に好ましくない事象などが紛れ込んでいる.ワクチンとの因果関係を考慮し「真の副反応(健康被害)」と「偽の副反応(紛れ込み)」を明確に区別することは,接種直後のアナフィラキシーや接種部位の局所反応を除けば,実際には非常に困難である.

 

Wikipedia*からも、副反応の方が範囲が狭いので、患者の立場からは有害事象の方が適切と思われる。また、副作用は予防接種の場合は副反応と称するそうなので、これも採用しない。有害反応はおそらく、有害事象と副反応を合わせて称する意図でこのように呼ばれるか、または、両者を混同しているかであり、両方がインターネット上で混在して区別できない。混乱を避けるためにこれも採用しない。健康被害は予防接種法に関係する文脈でしか用いられていないが、実際には救済という患者にとって最も気になる部分であり、本著では健康被害という表現を用いることとしたい。副反応でもいいのではないかと意見があるかもしれないが、予防接種法の文言には一度も副反応という表現は登場しない。また、厚生労働省が副反応という表現を用いているが、これは分かりやすくするため健康被害に至る過程についての補足的説明と考えられる。

 

(予防接種健康被害救済制度厚生労働省, 20141024日閲覧より)

 

予防接種の副反応による健康被害は、極めて稀ですが、不可避的に生ずるものですので、接種に係る過失の有無にかかわらず、予防接種と健康被害との因果関係が認定された方を迅速に救済するものです。

 

当初本著でもよく確認せずに、有害反応という用語を用いていたが、これは救済が絡んでいる文脈で用いるには曖昧すぎた。今後は健康被害という表現に置き換えたい。科学的な文脈では副反応という表現も用いるかもしれないが、我々患者にとって一番重要なのは「副反応という科学的な過程」よりも「健康被害という結果」である。繰り返しになるが、法的には副反応ではなく健康被害と述べられているし、厚生労働省も少なくとも救済に関しては健康被害という用語の方が強調されている。副反応という、有害事象を除いた狭い範囲の用語は過程として述べているのみである。なるべく広く救済する「疑わしきは救済」というモットーが呼びかけられているようで、これは非常によいことだと思われる。しかし、後述するが、日本は諸々の事情により、疑わしきは救済がそれほど実行に移されているわけではない。だからこそ、そういった普及運動が存在するものと思われる。

 

 インフルエンザ脳症ライ症候群で天に召された、また、障害をもたれた患児のご両親にはさぞ無念とご胸中をお察しする。下熱のためにアセチルサリチル酸を投与されてしまった場合は、これは明らかに医療過誤なので、裁判になるのは仕方がない。しかし、そうでなければ、近年になって、一部の希少疾患がインフルエンザ脳症の重症化因子であることが明らかになった。[エクソームシーケンシング]の節で脂肪酸代謝異常症の年表を描いたが、その中にCPT2という病型が含まれている。このCPT2欠損症という代謝の疾患は、代謝の疾患全般に言えることだが、発症の閾値がはっきりとは決まっていないので、軽度であれば、短く走っても疲労しやすい体質や、長く走っても疲労しにくい体質があるように、個人差によって体育の成績が極端に違っている中に埋もれてしまって、非常に目につきにくい。とても激しく疲労したり、脂肪性の食物を食べて嘔吐した患児だけが、大学病院で診断を与えられるのである。そのほか大勢は疲れやすい体質の人として普通に暮らしていると推測される。こういったCPT2欠損症の普段はほぼ無症状例がインフルエンザの重症化因子であることが明らかになったのは、以下の論文以来なので、およそ2005年以降の話であり、まだ決して早期に診断できるわけではないようなのだが、それでも代表的な変異については、いずれ市販のDNA検査の項目として含まれてくると予想できる。

 

Chen, Y., et al. "Thermolabile phenotype of carnitine palmitoyltransferase II variations as a predisposing factor for influenza-associated encephalopathy."FEBS letters 579.10 (2005): 2040-2044.

 

 こういった研究が始まったのは、ある記事によると2001年頃と思われるが、インフルエンザ脳症で天に召されたある少女の献体を、ご両親が重症化の解明を望んで提供したことがきっかけだそうだ。当初、CPT2の遺伝子に変異が見つかったものの、良性の多型と考えられていたようだ。しかし、その後、変異したCPT2の酵素活性が温度依存性を持つことが分かって、インフルエンザの重症化因子であることが実験的に証明された。CPT2は、脂肪酸代謝異常症の一部の患者で症状を引き起こしているのと同じ酵素である。なぜ多少回りくどい表現になるかというと、CPT2のこのタイプの変異が、子供達の普段の生活にどの程度影響しているかは測定することができないのだ。軽度すぎるのである。[コモンとレアの重症度分布...]の節の図で言うと、左下の三角のUndiagnosedの領域に埋まってしまうのだ。もしも過去に症状を示したことがあるとすれば、それは出産直後の新生児の時であると推測できる。新生児の間は、ほんのちょっとしたことでも重症化するために、大きくなってからでは分からないような僅かな体の異常が敏感に血液検査などの測定値に反映される。しかし、通例としては、出産直後に何か大きな症状があったとしても山を超えてしまえば、ご両親にとっては忘れたい思い出だし、産婦人科医や小児科医の方々も、保育園、幼稚園や小学校で感染症を拾って来るような年齢になれば、他の亡くなりかけている患児の方に必死になるうちにすっかり忘れていることの方が多いのである。

 

 決してご両親が誕生の時の診療録を開示請求して、熱が出て医師の診察を受ける際に提示しておくべきだったと言っているわけではない。しかし、医師が母子手帳に書き込んでくれていた、または、ご両親ご自身で書き込んでいたなら、それに越したことはない。母子手帳に記入がなければ、現在の制度では、残念ながら円滑な解決策というのはない。これは電子カルテの共有システムの普及が遅れている制度的限界と考えられる。すべて電子カルテ化されてしまえば、過去の将来重要になるかもしれない検査結果だけをハイライトさせて病院の間で共有し、法的に10年でも20年でも保存義務を課すことができるが、予算的に無理な病院がある以上は、電子カルテは今後も鈍い普及を示すだろう。社会的にそういう状況である以上は、インフルエンザ脳症やライ症候群で亡くなったお子さんのことを、特に目立った過誤があった場合を例外として、現場にいた医師の責任にすることは、言ってみれば身に覚えのない罪を着せているだけで、決してよい結果を生まないのである。特定の医師を裁判で訴えるよりも、地域に電子カルテの普及を促進する活動と、インフルエンザ脳症やライ症候群を経験した患児達に大型のDNA検査を受けさせて、将来同じ目にあう前に先手を打って軽度の希少疾患まで診断する活動をした方が、今後同じような思いをする患児やご両親を出さないために有効であろうと思われる。

 

 この他にも、CPT2欠損症とは別の希少疾患として、免疫系の劣性遺伝病であるICF (Immunodeficiency with Centromeric instability and Facial anomalies)症候群*§があげられる。

 

 私は診断してくれない医師達を激烈に批判する側の立場に立っているが、アセチルサリチル酸を投与されていないインフルエンザ脳症とライ症候群についてだけは、間違った相手を被告に指定して裁判を起こしている場合の方が多いとしか思えないのだ。と言っても、統計が見当たらないので、どのぐらいの割合かは分からない。

 

 

 もう一点、触れておきたいのは、インフルエンザ脳症となるようなCPT2の変異を持つ、脂肪酸代謝異常症を患っていても普段は軽度で特別な状況下でしか重症化しない患者は、熱中症重症化患者の半数を占めるという研究報告である。2011年、今から3年前に明らかにされたが、もちろん、半数というのは、想像していなかった多さである。リンクしたウェブページ中では面倒を避けるために脂肪酸代謝異常症という表現も希少疾患という表現も避けているが、患者から見た場合には、このタイプの特異体質だとやはり脂肪酸代謝異常症の特徴を備えるはずで、脂肪性の食物を食べた後、ビタミン不足の患者の方が高熱の条件で発症している症例が多いのではないかという推測も成り立つ。熱中症というのは、希少疾患というよりもコモンディジーズと考えられてきたが、重症例に限れば、半数で変異が認められるので、言わば熱中症重症型という区分で、実は遺伝性の希少疾患であったと言ってもいいのではないだろうか。


予防接種の健康被害としての未診断の希少疾患

 おそらく、[感染症と希少疾患の関係...]で述べた、未診断の希少疾患がインフルエンザの重症化因子であるのと似たような理由から、予防接種によって健康被害を起こした患児も、アナフィラキシーや、ギラン・バレー症候群の他に、大型のDNA検査で調べればCPT2といった希少疾患と同じ遺伝子によるものが存在するのではないかと推測できる。ただ、温度依存性という意味では、それほど発熱していない予防接種の状態でCPT2が影響するとは考えにくい。しかし、CPT2と似て異なる代謝経路の疾患で、重症度があまり閾値によらず軽度まで可変なものとして、私の場合も疑ったようにミトコンドリア病がよく当てはまると思う。

 

 特定の患者さんの症例ばかりを何度も引き合いに出して申し訳ないが、[ミトコンドリアDNAの検査]の節で述べた診断されていなかったミトコンドリア病患者が、2001年に報じられた有名な「仙台筋弛緩剤事件」にからんで、筋弛緩剤の投与で死亡しかける医療過誤が起こったのも、これが筋弛緩剤ではなくインフルエンザワクチンであってもそれほど不自然ではない気がする。予防接種でもサイトカインという物質によりミトコンドリア内での代謝回路が大きく切り替わるので、そのタイミングで何か悪いことが重なれば、ミトコンドリア病を発症した状態になるのではないだろうか。なお、このミトコンドリア病患者は、詳しい状況は分からないが、現在も適切な治療を受けられていないようだ。このことも、軽度のミトコンドリア病の診断は、そういった患者の存在を理屈の上で推測することはできても、実際問題として遠い大学病院やNCNPの一部の医師しか出せないことを表していると言えるだろう。ただ、おそらく数値として潜在的なミトコンドリア病の罹患率を推定することは可能だ。そういったことをしてくださる研究者がいれば、インフルエンザワクチンについての悪い評判によって無用に医師が攻撃されるのを緩和する一助となるだろう。

 

 CPT2がインフルエンザの重症化因子であることが近年になってようやく明らかになったこと、ミトコンドリア病が診断されずに薬剤で重度の有害事象を起こしていること、この2点を考え合わせると、インフルエンザワクチンでアナフィラキシーでない健康被害を起こした患児が大型のDNA検査を受ければ、非常におおざっぱに言って半数で、何らかの疑わしき変異が検出されると思われる。その病因性を証明するのは時間がかかるだろうが、将来のことを考えると受けさせないよりは受けさせておいた方がいいに決まっている。もっと幅広く考えると、やはりサイトカインによりミトコンドリア内の代謝回路が切り替わることはどのワクチンでも同様だと思われるので、あらゆる予防接種の健康被害の中に、ミトコンドリア病由来のものが混在しているという推測が成り立つ。ミトコンドリアDNAのヘテロプラスミーによる障害は、重度のミトコンドリア病から単なる老化まで重症度が幅広いので、予防接種の健康被害として代表的な、ギラン・バレー症候群の中にもミトコンドリアの障害が紛れ込む可能性はありうる。

 

 その場合、極軽度のミトコンドリア病であってもギラン・バレー症候群の重症化因子となるであろうことは想像に難くない。なぜならギランバレー症候群の自己免疫疾患の抗原であるガングリオシドもまた、糖脂質としてミトコンドリアによる代謝の対象と・・・思われるからだ。あまり自信がないので共起性を調べるとそれらしき結果*が得られる。ガングリオシドの一つのタイプであるGD3などに限っているようだが、そられしき学術論文GD3などに限っているようだが、そられしき学術論文も出版されている。また、英語でミトコンドリアとギラン・バレーの共起性を評価すると、20141217日時点で約 784,000 といった強い関係性が示される。[ミトコンドリアDNAの検査]で調べたように、mtDNAがヘテロプラスミーとして僅か変異すると、代謝が悪くなって活性酸素がまし、増した活性酸素によってmtDNAの変異がより促進されるという悪循環が存在するので、極軽度のミトコンドリア病をもともと患っていた場合は、ギラン・バレーを発症してガングリオシドがミトコンドリア内に蓄積されている急性期に、mtDNAの損傷が進んで特に神経細胞で著しく老化が促進された状態となり、その程度がもともと健常者であった場合よりも大きいのではないかと推測される。

 

 実際、子宮頚がんワクチンでミトコンドリア病を発症したというような主張が重度の健康被害を負ってしまわれた患者の間にあるようだ。こういった場合は、極軽度のミトコンドリア病をもともと患っていて、それが予防接種によるギラン・バレー発症により重症化したと考えた方が適切ではないだろうか。ただ、学術報告ではないため詳細は分からず、リンク先のサイトで限られた人がツイッターなどにもミトコンドリア病と子宮頸がんワクチンの関係を送信しているようにも見受けられる。先述のGD3およびGM1の学術論文の方が、信ぴょう性が高いと思われる。20153月時点までに調べた範囲では、子宮頸がんワクチンについては、感染症のワクチンとは事情が異なり、感染症がシーズン前に打たないと効果がないのに対して、そもそもがんという対策の緊急性が要求されない年単位のタイムスパンの疾患に対する接種である。もっと丁寧に問診し、接種前の検査を拡大する余裕はあったように思われる。

 

 いずれにせよ、感染症の予防接種の前に、極軽度の希少疾患の稀なリスクについて、医師が説明しなかったとすればその点については責任があるが、そういった希少疾患をその場で診断すること自体はDNA検査の普及なしには不可能であることを「仙台筋弛緩剤事件」の記事や報道から我々はよく知っている。繰り返しになるが、子宮頸がんワクチンに関しては例外で、感染症ほど緊急性がないので、もっと丁寧に接種前の検査を行う必要があるのではないだろうか。

 

 また、風邪の罹患や薬の内服などを契機として亜急性に四肢脱力、嚥下障害を発症するミトコンドリアミオパチーの一種があり、MIMECKmitochondrialmyopathy with episodic hyper-CK-emia)と命名されたそうである。こちらも残念ながら詳細が入手できず、学術論文の本文がオープアンアクセスになっていないのが非常に残念だ。風邪の罹患や薬の内服という二つの条件を、予防接種はかなり満たしていると思われるので、予防接種を契機として発症するのに不思議はないように思われる。

 

 このように考えると、感染症の予防接種による健康被害の半分ぐらいは、その場に立ち会った医師ではなく、希少疾患という特異体質を診断できなかったそれ以前の成長過程における医療にあると、そういう風にも考えることができるのである。現在の段階ではDNA検査がまだ大型化していないのであまり関係がないが、数年後に大型のDNA検査が普及すれば、そういった医療をご両親が積極的に受けさせてきたかどうかという点も、過失割合の争点になっていくであろうと思われる。理想を言えば、希少疾患の診断はたとえ軽度であっても、人生の初期であればあるほど有益なのだ。そういったリスクを考えずに、いきあたりばったりに予防接種を受けるという時代は早くに終わらせた方がよいに決まっている。しかしリアルとしては、あまりにも予防接種が裁判にのぼりすぎたために、いきあたりばったりに受けられるほどの種類の感染症の予防接種は、すでに日本に残っていないのである。たとえDNA検査で全く疑わしい変異がないと分かっても、国際基準の予防接種を受けたければ韓国に行かなくてはならない国になってしまった。もちろん、万が一飛行機の中で発熱しては間が悪いとエボラ患者といっしょに隔離されかねないので、そんなかえってリスキーなこと実際問題できるわけがない。

 

 感染症と希少疾患は正反対の概念ではないかと思われていた方も多いと思うが、実は診断できない希少疾患が、感染症の重症化因子であったり、ワクチンで重度の健康被害を引き起こすであろうという点で、両者は強く関係している。恒常性の中では希少疾患としては軽度でも、医療行為により恒常性が崩れれば当然重度で発症するのである。そしてその責任はまっさきに恒常性を崩す行為を行った医師の方に向かう。稀だからといって無視していいというわけでは全くない。実は、ミトコンドリア病患者の例で分かるように筋弛緩剤や麻酔薬とも関係しているのだが、「仙台筋弛緩剤事件」の経緯としてすでに一度は別の節でふれたので、ここでは触れない。

 

 

 何度も繰り返すが、子宮頸がんワクチンに関しては、感染症の予防接種と異なって、現在知られているほど大規模な健康被害が出る前に、問診と検査を拡大する時間的な余裕があったはずである。


希少疾患としての感染症 - 米国のAIDSの歴史

 [感染症と希少疾患...]の節で、診断されていない希少疾患が感染症の重症化因子であると述べたが、本節では、特に米国において罹患率の低い感染症が希少疾患として扱われていることを、AIDSの場合を例として述べる。また、AIDSについて、オーファンドラッグ過剰保護問題との関連を述べている記事を示す。

 

 最初に、用語の揺らぎを押さえるため、ヒットカウント分析を行う。

 

オーファンドラッグ

"orphan drug"  478,000

"オーファンドラッグ 36,400

"希少疾病用医薬品 34,100

"希少疾病医薬品 2,170

"希少疾患用医薬品 1,560

"希少疾患医薬品 397

 

AIDS

"AIDS"  288,000,000

"エイズ 5,330,000

"後天性免疫不全症候群 160,000

 

顧みられない病気

"neglected disease"  133,000

"顧みられない病気 3,230

"neglected drug"  2,380

 

(グーグル検索、20141218)

 

 顧みられない病気についても調べたのは、AIDS、エボラと、途上国から持ち込まれる感染症が先進国でも大問題になることが多いのに、途上国での感染症対策に先進国からの支援が意外なほど少ないことを示すためである。要するに、国境なき医師団という団体に任せきりである。最初に発生した時点でコントロールできないことにより、地球規模的感染、つまりパンデミックとなってしまうリスクが増しているのであって、先進諸国が最初から途上国の感染症対策にもっと協力するべきなのである。もちろん、協力を受け入れる体制があればの話で、かと言って、米国ほどの軍事力によるゴリ押しはいけないことだが。途上国からの感染症が先進諸国でも問題になるのは、お互いに一様なDNAを持っていることの証明である。ヒトは感染症と闘うにはあまりにも均一なDNAを持ちすぎてしまった。[ミトコンドリアDNAの検査]の最後に示したように、あまりにも単一起源、同一家系すぎるのである。同一家系であるからこそ、同じ感染症が大問題となるのであって、それこそが、同じ巨大家族の一員として、先進諸国がより大きな支援を組むべきことの証明なのではないだろうか。

 

 米国の法令での希少疾患の定義を用いると、患者人口20万人未満という、とても画一的な条件なので、AIDSといった今では一般的な感染症でも、性感染で米国人口に広がる前のステージでは、アフリカから持ち込まれた、頻度は低いが重症度の高い感染症という希少疾患だった。おそらく、これは米国という国がツーリズムや人類学的調査研究などの文化を通じて、第三世界から未知の病原体に暴露して帰ってくる、つまり、現在米国がエボラ対策に自国とアフリカの両方で必死になっているのと関係がある。

 

 米国の希少疾患の歴史に登場する感染症の中で、特に存在感があると思われるのはAIDSである。この疾患について述べたいのは、米国の希少疾患の幅広い定義では、日本の難病の比較的狭い定義とは違った問題を生じていることである。つまり、AIDSはやがて希少疾患の条件を外れて、20万人以上が患う疾患となった。2011年のものと思われる調査結果で、1,155,792人がAIDSと診断されたとCDCのウェブページにあるHIV感染ではなくAIDSと記されているので発症済みの統計のはずである。日本の平成266月の未発症のHIV感染込みで23,699人という統計§と比較すると、世間で言われているように多少の違和感を感じるが、感染研のウェブサイトでも日本の患者人口は同じような数値*になっている。日本と米国は米軍が日本に駐留していることもあり、とても国際結婚が多いのに、100万対(多くても)2万と罹患率は少なくとも50倍違いで、こんなに米国の性感染症が日本に入ってこないのは不自然だが、日本の複数の感染症当局は一致してこのように主張しているため、その数値を日本の罹患率として信頼する以外に方法がない。もしかすると、同性愛者にAIDSが多いという偏見に基づいて、保守的な伝統の米軍でAIDS感染者を厳しく排斥しているという効果なのかもしれない。米国人口3.2億人*、日本人口1.3億人*、米国で希少疾患として認められる人口比200000/320000000=0.06%、日本でHIV/AIDSの人口比23699/130000000=0.02%となるので、0.06%>0.02%により、すでに米国ではAIDSは希少疾患の範囲を大きく外れているにも関わらず、もしも日本で米国の希少疾患の基準を用いるなら、AIDSは日本で希少疾患ということになる。架空の場合の比較であるが、要するに日本と米国は、難病と希少疾患にものすごく違う基準を用いていることを、数値として確認した。基本的には米国の方がドライで透明性が高く民主主義的な基準だが、同時に、AIDSといった場合は問題を生じた。それが、オーファンドラッグの過剰保護の問題である。

 

("Orphan Drug Law Spurs Debate" ANDREW POLLACK, Published: April 30, 1990 より)

 

Amgen Inc.'s new drug for anemia, the latest biotechnology blockbuster, might set an industry record for first-year sales. Yet Amgen is shielded from competition by a law meant to encourage development of drugs for which there is supposed to be only a small market.

アムジェン社の貧血症に対する新薬、近年のバイオテクノロジーのヒット作、は初年の売上として産業レコードを打ち立てるかもしれない。小さな市場しかないと思われる薬剤の開発を奨励しなければならない法律により、アムジェン社が競争から保護されているにも関わらずである。

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''You can't look at three drugs and throw out the baby with the bathwater,''said Abbey S. Meyers, the executive director of the National Organization for Rare Disorders in New Fairfield, Conn., a lobbying group representing patients with rare diseases.

3つの薬剤を大事にせずに、無用なものといっしょに捨ててしまおうとしているんです」とAbbey S. Meyers、コネチカット州ニューフェアフィールドにある米国希少疾病団体(NORD)の執行役員は言う。NORDは希少疾患の患者を代表するロビーグループである。

 

She was referring to three drugs at the center of the controversy.

彼女は議論の最中にある3つの薬剤を引き合いに出そうとしていた。

One is Amgen's drug, known as E.P.O., which is used to treat anemia in patients with kidney failure. Treatment costs $4,000 to $8,000 a year. First-year sales of the drug, which came on the market last June, are headed toward $200 million.

一つはアムジェンの薬剤、E.P.O.として知られるもので、腎不全患者の貧血症を治療するのに用いられる。治療費は年間$4,000から$8,000にのぼる。昨6月に市場に登場した同薬剤の初年の売上は、2億ドルに登ろうとしている。

Another is human growth hormone, marketed in different forms by Genentech Inc. and by Eli Lilly & Company; it is used to treat dwarfism in children. A year's treatment can cost $10,000 to $30,000, depending upon the size of the child.

2つ目はヒト成長ホルモンで、Genentech社およびEli Lilly社により異なった形で市場に供給されている。小児の低身長症を治療するのに用いられる。年間の治療費は小児の身長によって$10,000から$30,000にのぼる。

The third is pentamidine, sold by Lyphomed Inc. of Rosemont, Ill.; it is used to fend off pneumonia associated with AIDS. Since Lyphomed began selling the drug in 1984, it has quadrupled the price to more than three times what it sells for in Britain.

3つ目がペンタミジンで、イリノイ州ローズモントにあるLyphomed社により販売されている。AIDSに併発する肺炎の発生を防ぐものである。Lyphomed1984年に同薬剤の販売を開始し、英国で売られている価格の3倍を超えて、当初の価格から4倍の価格へと引き上げた。

AZT, used to treat AIDS, is also an orphan drug, despite being one of the best-selling drugs in the pharmaceutical industry. The manufacturer, the Burroughs Wellcome Company, has been the target of protests from AIDS patients and has twice reduced the price, from $10,000 a year to $6,500 a year. But AZT has not called as much attention to the Orphan Drug Act because the North Carolina-based Burroughs has a patent that would allow it to retain exclusivity even if the orphan status were revoked.

AIDSの治療に用いられるAZTもまた、製薬産業の中で最もよく売れた薬剤の一つであるにも関わらず、オーファンドラッグである。その製薬会社、Burroughs Wellcome社は、AIDS患者からの抗議の対象となり続け、価格を年間$10,000から$6,500へと2度にわたって引き下げた。しかし、AZTは希少医薬品法に対する関心を呼ばなかった。なぜなら、ノールキャロライナに本拠地を置くBurroughs社はたとえオーファンドラッグとしての扱いが取り消されたとしても、独占的を可能にする特許を有しているからである。

 

 

平たく言うと、製薬業界の一部にとって有利な方向に資本主義的なやり方で過剰に保護された結果、企業間での不公平が生じたのである。特にAIDSの場合には、その性感染力により、完全に希少疾患の希少の条件を上回ったので、不公平感は大きかったであろうと思われる。このことが未だに続いている、オーファンドラッグ保護無用論の根っこを作ったのかもしれない。


見えないところに死体の山

 AIDSといった感染症と戦ってきた国、また現在エボラと戦っている国、米国から見た時に、日本の感染症対策がどれだけ信用できないかというのは、想像に難くない。予防接種が国際基準から後退するということは、天に召される国内の患児の数に直接的に影響を及ぼし、ひいては、高齢者や、近隣諸国の患児の死亡率にさえ潜在的に貢献してしまっていると考えられるからだ。日本人はきれい好きなどと恥ずかしげもなく言えたのは既に過去の話で、米国や韓国の感染症当局から見れば、日本人というのは、「ばっちい国」から来た「ばっちい迷惑な観光客」なのである。日本人の購買力をあてにしている観光当局に言われて、いやいや受け入れているだけに過ぎない。米国では日本が麻疹輸出国の第1なのだ。こんなことは日本を含めて近隣諸国で、感染症を診ている医師の方々の間では常識なのだが、目に見えない感染という現象について数値で説明して理解を得るのが大変なので、患者の不安を煽って逆にマスク無しで頻繁に病院にやってこられては困るから黙っているだけなのだ。病院はある意味、感染症の集積所なのである。

 

 LCCの登場で航空機運賃が安価になり、海外旅行者数が平成25年(2013年)の統計で1,747万人に上った。のべ人数を無視してざっくり試算すると実に国民の13%1年間に一度は海外に出ていることになる。安いアジア旅行が売りだされる現在では、海外旅行でたくさんの人口が出かける国の感染症対策と足並みを揃える必要がある。はっきり言ってしまうと、遺伝性の希少疾患に関しては、他の国と足並みを揃える必要は感染症ほどではない。遺伝性の希少疾患を軽視してくれるなということは訴え続けるつもりだが、それでも、近年になればなるほど、国外から持ち込まれる感染症で、大きな屍の山が築かれてしまうリスクの方が増している。近隣諸国の方が日本から入ってきたらBSL-4が運用できない国だからややこしいことになると警戒していると思うが。遺伝性の希少疾患によって天に召される患児の人数は、相変わらず新生児は酷いことになっているはずだが、それには診断率の向上によって統計が正確になりつつある影響もあるだろう。感染症ほど危機的に今になって大問題というわけではない。

 

 日本の感染症対策を近隣諸国が信用していないのと同時に、日本で予防接種を批判している方々は、欧米の資本主義的なワクチンビジネスに強い不信感をいだいている。これも過去のB型肝炎訴訟や、MMRワクチン訴訟をみれば不信感を抱くのも無理なからぬところだ。何しろ、政府が危険性を認識しながら注射針の使い回しを放置していたのは、実に40年もの長きに渡るのである。これで無条件に信用せよという方が無理である。政府が40年間見捨ててきたなら、国民も40年間政府を無視して当然という数値的根拠さえ与えてしまっている。

 

 将来、予防接種前にかならず大型のDNA検査を受けさせる、または過去に受けた大型のDNA検査の結果を予防接種前に参照する体制が整備できれば、希少疾患や特異体質をいくらかは診断して、現状よりは改善されると思われる。それでも、せいぜい半数がいいところで、ゼロには程遠いはずである。報道や記事で言われているように、なによりもまず、小児のインフルエンザなど任意接種の救済金額を、定期接種や臨時接種となるべく同額まで引き上げ、最終的には、どんな予防接種でも種類を気にせず受けられて、たまたま予防接種を頼まれただけの医師が訴訟を起こされてしまうケースを減らすために無過失補償制度へと移行べきであろう。診断できない希少疾患が存在する以上は犠牲者は絶対にゼロにはならない。健康被害に対してすばやく幅広く救済が行われることだけが、唯一の救いと考えられる。

 

 日本で希少疾患が5000以上もあることが認識されていないことの影響は、欧米と比較して、おそらく予防接種で健康被害を起こす症例数と、インフルエンザで重症化する症例数の両方を引き上げている。しかし、どのぐらい引き上げているのか見積もるのは、おそらく非常に時間がかかるため、別の機会としたい。

 

 

 日本の病院での感染症対策はみんなが監視しあっている大学病院ではまともだが、末端の病院ほど酷いことになっている。軽度のCPT2欠損症や軽度のミトコンドリア病といった希少疾患の患者が、診断されない間に次々に亡くなるのは今後も避けられないと思われる。この節のタイトルに含めた「見えないところに死体の山」とはそういう意味である。統計には絶対に出てこないが、軽度の希少疾患の患者は現在も別の病名で亡くなり続けている。この推測に辿り着いてからは、正直私自身も怖くなった。そんな感染症などという病名で突然死ぬなど、いったい何のために確定診断を得ようとこんな著書まで書いて努力しているのだろうか。想像するだけでも、虚しくてやっていられない。



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