目次
はじめに
はじめに
宗教的表現について
研究者の方々へ - 検証中の仮説
外部リンクの表記、Android対応、訂正箇所のご指摘のお願い
概略
現在の症状
息子の誕生
さらに遠い通院へ
知らされなかった検査結果
アミノ酸分画検査結果
タンデムマス検査結果
合っているかもしれない仮説
閑話休題:創作話 トリケラお母さんの悲劇(# ゚Д゚)
DNA検査の実体験と仕組み
ミトコンドリアDNAの検査
ヒットカウント分析および共起性分析
23andMeのDNAアレイによる検査 - 販売停止命令に至る経緯
遺伝病とコモンディジーズの違い - 優性遺伝と劣性遺伝
ヒトはヒトであるが故にヒトの病を患う
コモンディジーズの検査方式 - アバウトなGWAS
23andMeの深刻な検査結果 - 統計の改善による影響
23andMeのその他の結果
エクソームシーケンシング
コモンとレアの重症度分布 - アレル頻度とエフェクトサイズ
個人向け遺伝子検査の選び方 - 罹患人口カバー率指標
閑話休題:製作物 DNAツリー
希少疾患と難病の制度および数値
希少疾患と難病の違いと制度的起源 - 日米欧比較
赤信号みんなで渡れば - 真面目な日本人の最悪の集団行動
もっとも希少な希少疾患 - 70億人にたった一人
もっとも正確な希少疾患の数 - 毎日約1つ希少疾患が増える?
希少疾患全体の罹患率 - 全部合わせると10~14人に一人
診断に至るまでの年数、または遅延 - 28年?!
GINA(ジーナ) - DNA検査時代の国民、患者を守る法制度
国民皆保険の功罪 - 患者をチェリーピッキングする医師達
節としてまとまらなかった事柄
希少疾患と感染症
感染症と希少疾患の関係 - 未診断の希少疾患という重症化因子
予防接種の健康被害としての未診断の希少疾患
希少疾患としての感染症 - 米国のAIDSの歴史
見えないところに死体の山
医師に頼らない因果関係の追求 - 脳症の本当の原因
更に複雑な感染症の話
医療訴訟が生み出す二次被害 - 無過失賠償制度の必要性
辛い記憶
両親を批判することについて
両親への間違った説明
辛かった学校生活
体育の次の時間に倒れてしまう
電車とバス
繰り返し運動による寝られぬほどの筋肉痛
食事の前後の発作
進化と感染症の間の遺伝性疾患
進化と感染症の間の遺伝性疾患
仮説の更なる展開 - 発見され増加を続ける希少疾患
卵子と精子の間の変異の導入の違い
感染症と遺伝性疾患で重度となる役割 - 男性淘汰進化説
絶滅のシナリオ - 感染症と遺伝性疾患の袋小路
進化のスピード調節 - もっとも強く訴えたいこと
進化と遺伝性疾患の「必然性の枠内の偶然性」
ダーウィンのUNdiagnosed
そして各論へ
遺伝学用語の混乱
遺伝学用語の混乱:genetic、遺伝か起源か
de novo変異 - 両親から受け継がれない優性遺伝の変異
個人向け遺伝子検査のガイドラインの乖離
みんなが保因者の劣性遺伝病? - 平均約10個の遺伝的荷重
劣性病的変異の健常者への影響 - 遺伝子プールの浄化説
あとがき
あとがき
これ以降分冊予定
▲▼そして各論へ
検証実験の山 - バッチ型検証実験の提案
希少疾患の中の更なる希少な患者群についての予測
環境因子か遺伝因子か
代謝異常についての進捗
遺伝子検査の2つの嘘
生まれの平等性または不平等性
▲▼生まれの平等性または不平等性
新型出生前診断と着床前診断 - 技術的に◯、倫理的に☓
生まれる前のDNA検査 - 科学的因果関係の追求ライン
技術としてのNIPT - 生まれのDNA検査の技術予測
我が子に故意に良くない遺伝因子を許容する親の罪
ディストピアな未来像 - 生まれの平等性が崩れた世界
不妊という社会問題 - 男性不妊と父性年齢効果
中絶による母体へのダメージ - 次の妊娠がうまくいく確率
着床前診断の問題点 - NIPTとの倫理的違和感
不妊治療としてのPGD - 不妊としての遺伝性疾患
生殖医療のリアルの写真
男女産み分けの国際比較 - 海外での生殖補助医療のリアル
着床前診断の潜在的なリスク - 子と女性へのリスク
フィルターされた人々による生まれの平等性、不平等性の支配
遺伝学用語の混乱:variation、多様性か変化性か
人権に基づく多様性、人権に基づく変化性
男性不妊と劣性遺伝病の完全予防 - 22世紀の精子起源工学
その他 - うまく分類できずとも価値のあるトピック
DNA検査の結果の公開 - シーケンシング機会の平等性
進化における神の概念
mtDNAとY染色体の永代性 - 未来の血縁者の不利益
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もっとも正確な希少疾患の数 - 毎日約1つ希少疾患が増える?

 米国の希少疾患当局が6800疾患と述べていることの根拠を推測しながら、もっとも正確な希少疾患の数を調べた。直接的に希少疾患当局に尋ねてもみたが、回答として既に読んだことのあるウェブページしか示されなかった。米国のような率直な国が根拠をあまり明確にしない場合は、それなりの理由があるのであろうと推測される。はっきり言ってしまうとこの数が大きければ大きいほど、予算を確保するのに有利であろうという推測が成り立つ。その数が小さくなるような根拠は示さない方が都合がいいのではないか。そういう見方で厳しい見方から検討を行った。結論として、6800疾患は大袈裟と思えるが、5000疾患を超えていて、ほぼ毎日1つ表現型がOMIMというデータベースに登録され、その多くが希少疾患なのは、ほぼ間違いないものと思われる。つまり、現時点で、エクソームシーケンシングなどにより、大変な勢いで希少疾患の発見が加速されているように見受けられる。

 

 疾患の分類方法は、OMIMICDという2つの世界標準が存在する。他にもGeneReviewsおよびその日本語版、GeneTestsといったものがあるが、なるべく包括的に何でもかんでも登録されているという意味からすると、OMIMICDであろうと思われる。実質的に、一般人が覚えておいて得なのはこの2つのみで、希少疾患の患者であればGeneReviews日本語版もとても役に立つ。しかし、GeneReviews日本語版は、医療従事者以外からの利用に関して神経質なようなので、ここではリンクを示さない。いずれにせよ検索すれば表示される。GeneReviews日本語版が気にしているのは、おそらく2点で、データベースに書いてあることを鵜呑みにして医療的判断を患者が勝手に行ってしまった場合の責任の所在、および、患者からの問い合わせ窓口があるように見えてしまうと膨大な数の問い合わせがきて重要な医療機関からの問い合わせが見落とされやすくなることである。極力、この2点を念頭においてご利用いただきたい。

 

 OMIMは、"Online Mendelian Inheritance in Man"の略であり、日本語にあえて訳せば「ヒトにおけるメンデル継承・オンライン版」となると思われる。ただし、このメンデル継承の部分は、おそらく生物学の翻訳者の間で頻繁に問題になる部分であり、geneticsが遺伝学、heredityが遺伝と、英語では明らかに異なるのに日本語では1文字付け足されただけとなるため、英語のニュアンスが日本語訳に反映されないということが頻繁に起こっている。[遺伝学用語の混乱:genetics、遺伝か起源か]でふれる。

 

 話を戻すと、OMIMは日本人としてはオーエムアイエムと読むのが普通のようだ*。一方で、OMIMの公式ビデオチュートリアルを再生したところ、オーミムに近い発音をしている。日本人同士ならどちらでも通じるのではないかと思われ、外国人に対してはなるべくチュートリアルの発音を真似るのがよいのではないだろうか。OMIMは、後々の節でGenetic Allianceという米国の患者会の連合組織について述べる際に、この組織を設立した人物の一人、ジョンズ・ホプキンス大学のビクトル・マキュージック元教授が中心となって収集し、現在では著作権としてはジョンズ・ホプキンス大学に残したまま、予算的には米国政府の担当となり、米国生物工学情報センター(NCBI)の検索サイトと統合されている

 

 日本語によるOMIMの紹介としては、比較的患者向けのものとして以下のものがある。

 

(OMIMとその使用法:』 Tokyo Medical University, Department of Paediatircs, Genetics Study Group, Hironao NUMABE, M.D., 20141023日閲覧より)

 

便宜上,収載された疾患は,常染色体優性(100000番台),常染色体劣性(200000番台)X連鎖性(300000番台),ミトコンドリア遺伝(500000番台)などに分けて番号が付されています.

個々の疾患(遺伝子異常)により来される病態は,clinical synopsisという症状の項目に別項として列記されています.

症状や病態を客観的に正確に診断する能力を有する方(厳しい言い廻しですが,dysmorphologistと呼ばれる,トレーニングを積んだ専門家を指します.日本では「臨床遺伝学認定医」資格保持者などの一部の医師に限られます)でしたら,この項目を利用してデータベース検索して,疾患の診断が可能です.

 

比較的医療者向けの日本語によるOMIMの紹介§もある。

 

 OMIMを利用する上で、把握しておいた方がいい情報がFAQにまとめられており、重要と思われる部分を抜き出すと次のようなことが記されている。

 

("OMIM Frequently Asked Questions (FAQs)" Johns Hopkins University, 20141023日閲覧より)

 

1.3 What do the symbols preceding a MIM number represent?

1.3 MIM番号の前についている記号は何を表しているのですか?

 

An asterisk (*) before an entry number indicates a gene.

エントリー番号の前のアスタリスク(*)は遺伝子を表す。

 

A number symbol (#) before an entry number indicates that it is a descriptive entry, usually of a phenotype, and does not represent a unique locus. The reason for the use of the number symbol is given in the first paragraph of the entry. Discussion of any gene(s) related to the phenotype resides in another entry(ies) as described in the first paragraph.

エントリー番号の前のシャープ(#)記号は、それが記述的なエントリーであり、通常は表現型についてのもので、特定の座位を表すものではないことを示す。シャープ記号を用いることの理由は、エントリーの最初の段落に記されている。その表現型に関係するあらゆる遺伝子についての検討は、その最初の段落で述べられるように、別のエントリーの中に位置する。

 

A plus sign (+) before an entry number indicates that the entry contains the description of a gene of known sequence and a phenotype.

エントリー番号の前のプラス記号は、そのエントリーが既知の配列および表現型をもつ遺伝子の記述を含むことを示す。

 

A percent sign (%) before an entry number indicates that the entry describes a confirmed mendelian phenotype or phenotypic locus for which the underlying molecular basis is not known.

エントリー番号の前のパーセント(%)記号は、そのエントリーが、根本となる分子的基礎が知られていない、確認済みのメンデル表現型(mendelian phenotype)または表現型座位(phenotypic locus)を記していることを示す。(訳注:少し分かりにくいですが、メンデルが行ったエンドウの形質継承実験と同じ実験を行って、メンデル継承のパターンに合致してることを確認済みだが、それがどの座位だがおおざっぱにしか分かっていないという意味だと思います。)

 

No symbol before an entry number generally indicates a description of a phenotype for which the mendelian basis, although suspected, has not been clearly established or that the separateness of this phenotype from that in another entry is unclear.

エントリー番号の前に記号がないのは、一般的には、メンデル的基礎として、疑わしいものがあるものの、明確には確立されていない表現型の記述、または、この表現型をもう一つ別のエントリー中の表現型から区別するのが不明瞭であることを意味する。

 

A caret (^) before an entry number means the entry no longer exists because it was removed from the database or moved to another entry as indicated.

エントリー番号の前のカレット(^)は、そのエントリーがもはや存在しないことを意味する。記されているように、それがデータベースから削除されたが、他のエントリーへと移動されたためである。

 

See also the description of symbols used in the disorder column of the OMIM Gene Map and Morbid Map.

OMIM遺伝子マップおよびMorbidマップの疾患欄中で用いられる記号についての記述も参照されたい。

()

1.5 What is the OMIM Gene Map and Morbid Map?

1.5 OMIM遺伝子マップおよびMorbidマップとはなんですか?

 

The OMIM Gene Map and Morbid Map present the cytogenetic locations of genes and disorders, respectively, that are described in OMIM. Only OMIM entries for which a cytogenetic location has been published in the cited references are represented in the Gene Map and Morbid Map.

OMIM遺伝子マップおよびMorbidマップは、それぞれ、遺伝子および疾患の染色体上の位置を表す。染色体上の位置が引用文献中で公開されたOMIMエントリーだけが、遺伝子マップおよびMorbidマップに表される。

 

The OMIM Gene Map can be searched by gene symbol (e.g., "SOD1"), chromosomal location (e.g., "5", "1pter", "Xq" ), or by disorder keyword (e.g., "alzheimer").

OMIM遺伝子マップは、遺伝子シンボル(例、"SOD1")、染色体上の位置(例、"5", "1pter", "Xq" )、または、疾患キーワード(例、"alzheimer"(「アルツハイマー」))により検索することができる。

 

こういったOMIMの表記法にしたがって、OMIMに登録されている疾患数の統計を探してみる。

 

("OMIM Gene Map Statistics" より)

 

OMIM Gene Map Statistics:

OMIM遺伝子マップ統計:

 

OMIM Morbid Map Scorecard (Updated October 17th, 2014) :

OMIM Morbidマップスコアカード(20141017日更新):

Number of phenotypes* for which the molecular basis is known 5,341

分子的基礎が既知の表現型*の数 5,341

Number of genes with phenotype-causing mutation 3,293

表現型を引き起こす変異がある遺伝子 3,293

 

* Phenotypes include single-gene mendelian disorders, traits, some susceptibilities to complex disease (e.g., CFH and macular degeneration, 134370.0008), and some somatic cell genetic disease (e.g., FGFR3 and bladder cancer, 134934.0013)

* 表現型には、単一遺伝子メンデル疾患、形質、何種類かの複合病への感受性(例、CFHおよび黄斑変性, 134370.0008)、および、何種類かの体細胞遺伝性疾患(例、FGFR3および膀胱がん, 134934.0013)が含まれる。

 

5341という数値は、6800にかなり近いものの、疾患だけでなく形質までをも含んでいる。その一方で、遺伝子マップに含まれるエントリーは、FAQにあったように、染色体上の位置の同定が済んでいると考えられるため、形質さえ除くことができれば、それなりに信用ができる数値のはずである。しかし、染色体上の位置が同定されるだけではなく、遺伝子が同定される必要があるので、もっと絞られた数値を探すと、まだ形質を含んだ状態ではあるが、分子的基礎が既知の表現型として、以下のように、201317日時点で3674という数値を見つけた。

 

("OMIM Statistics for January 7, 2013" より)

 

OMIM Statistics for January 7, 2013

Number of Entries

 

Autosomal

X-Linked

Y-Linked

Mitochondrial

Total

* Gene with known sequence

13370

651

48

35

14104

+ Gene with known sequence
and phenotype

124

4

0

2

130

# Phenotype description,
molecular basis known

3371

271

4

28

3674

% Mendelian phenotype or locus,
molecular basis unknown

1627

133

5

0

1765

Other, mainly phenotypes with
suspected mendelian basis

1765

125

2

0

1892

Total

20257

1184

59

65

21565

 

 

この数値は、201317日のものである。その一方で、OMIMのサイトの統計のメニューから、同じ意味の数値を探すと、20141021日更新の統計として、4,270という数値が得られた。ざっと計算すると、この652日間に、(4270-3674)/652=0.914となり、「ほぼ毎日1個」、表現型、その多くは疾患の登録が増え続けていることになる。形質と疾患を分離した統計が見つけられないという歯がゆさが残るが、重症化しないと希少疾患は診断できない、だから診断を得られない患者が必ず存在してしまうという、本著でこれまでに記してきた大前提で考えると、やはり生死や予後に関係のない形質よりも重度の疾患の方が登録されやすいであろうと考えられる。

 

 一応、上記の表からより広くとれば、下3段を合計することにより、3674+1765+1892=7331という数値となる。これは今までに検討した中で6800に最も近い数値であり、おそらく、これに形質を除いて疾患だけ抽出するための補正を行って6800としたのではないかと推測できる。OMIMについて述べている文献を探すと、2004年と少し古いため毎日1件表現型が追加される状況だと、どのぐらい現状に当てはまるのか分からないが、はっきりと疾患と限定した形で記されているものがあった。

 

Hamosh, Ada, et al. "Online Mendelian Inheritance in Man (OMIM), a knowledgebase of human genes and genetic disorders." Nucleic acids research33.suppl 1 (2005): D514-D517.

 

The Morbid Map is an alphabetical tabular listing of all mapped disorders.

Morbidマップは、アルファベット順の表の形式とした全てのマップされた疾患のリストである。

As of September 13, 2004, there were at least 3659 disorders spread across 2558 loci.

2004913日の時点で、少なくとも3659の疾患が2558座位に広がって存在していた。

In 2563 of these disorders, the molecular basis has been identified at the DNA level.

これらの疾患のうち2563は、分子的基礎がDNAレベルで同定済みである。

These 2563 disorders of known molecular basis are distributed over the 1651 loci with at least one allelic variant; many genes are the site of more than one mutation causing phenotypically distinct disorders (e.g. cystic fibrosis and congenital bilateral absence of the vas deferens caused by different mutations in CFTR).

分子的基礎が既知のこれら2563疾患は、少なくとも1個のアレルを有して、1651座位にわたって分布している。そのうち多くの遺伝子は、表現型的に異なった疾患を引き起こす2つ以上の変異を有するサイトである(例、嚢胞性線維症および先天性両側精管欠損症は、CFTR遺伝子の異なった変異により引き起こされる)(訳注:サイトとは変異が起こる場所のことだと思われます)

 

2004年時点でOMIMの中を数えれば、確実に疾患といえる分子的基礎が確立したものだけ拾うと、2563である。これを強引だが現在の日付まで増加させると、3690日なので、およそ6000疾患となる。やはり6800はこの辺りを根拠としている可能性が高い。

 

 ICDの方についても、少し触れたい。ICDは、疾病及び関連保健問題の国際統計分類と呼ばれるWHOが策定している分類法であり、何度も改訂され拡張されて、現在ではICD-10(2003)と呼ばれるものが用いられている。結論を言ってしまうと、2017年に施行を予定されているICD-11には、[希少疾患と難病...]の節でオーファンドラッグの国際ネットワークとして述べたOrphanetのデータベースに登録されているおよそ5850疾患が、なるべく幅広くICD-11に取り込まれるように活動が行われている。現在Orphanet上でどこにこの数値があるのか探しても見つからないものの、ヨーロッパの患者会の連合組織であるEURORDISのサイトのプレゼン資料であるため、信ぴょう性は高いと思われる。したがって、ICDについて調べた限りは、Orphanetの方についても同じ結論として、Orphanet上で検索できるはずの5850疾患である。

 

 OMIMICDOrphanetの結論として、診断の中に分子的基礎、つまりDNA検査で病的変異が見つかったかどうかで、学術論文に記されている症例の信頼性が異なり、どうやら、2004年時点で2563疾患というのが、分子的基礎が確立されたものだけを拾った、最も控えめな数値と思われる。これに相当する現在の数値が得られれば、それがもっとも正確な希少疾患の数と言えるであろう。

 

 念のため、付け加えておくが、これはDNA検査で疑わしい変異が見つからなければ、すべて診断しなくていいということを推奨するものではない。確実な診断のために積極的に大型のDNA検査を活用し、そして変異が見つかるに越したことはないが、それでも症状と一部の検査値が一致するのであれば診断を出すべきだと思っている。過去にはDNA検査なしで診断を行っていたのに、ほんの数年を境にして、現在ではDNA検査で変異が見つからなければ診断しないというのは私から見るとフェアではない。

 

 ICDについて、逸話として興味深いのは、あの、小学生の時に伝記で読んだ方も多いであろう、伝説的な看護師であるナイチンゲールが出発点の一つということである。ただし、WHOによる公式のICDの歴史によるとあくまでその一つという扱いである。その理由としては、ナイチンゲールが実際に戦場の看護師をしたのはたった2年間で、その間に英国による戦意高揚のための広告塔として有名になり、そののちはずっと統計学者として活躍したという、小学校で伝記で読んだよりも複雑な歴史があるということのようだ。その2年間に、あまりにも多くの死を見て、そして看護師としての自分の行動との因果関係を統計的に追求しすぎたため、それ以上看護師を続けるのがためらわれたのではないかと思う。ブルセラ症脊椎炎を患っていたという説もあるが、基本的にはうつ症状を間欠的に示していたそうである

 

 ナイチンゲールについて述べたところで、OMIMと女性との関係で気になることは、Online Mendelian Inheritance in Manというように、最後にHumanではなくManと、暗に男性を意識させる表現になっていることである。なぜこれが女性の権利の活動が活発な米国で問題になっていないのか多少不思議であったが、よく考えれば、これには多少科学的な裏付けがないでもない。男性特有の伴性遺伝病は知られているが、女性特有の伴性遺伝病というのは、ほとんど知られていない。調べた限り、レット症候群**のみである。優性遺伝のX染色体の遺伝子による疾患に限って、病的変異を有するX染色体を持つ男子が流産するほど重度であり、女子でも重度に発症するということのようだ。しかし、いずれにしろ、すでに1つはそういった疾患が発見されているので、いずれ、OMIMOMIHなどになるのかもしれない。


希少疾患全体の罹患率 - 全部合わせると10~14人に一人

 

 希少疾患全体としての罹患率として、米国の患者会の連合組織であるNORD10人に一人という非常に大きな数値を出している。これについて直接NORDに問い合わせたところ、NIH内のNCATS(米国先進トランスレーショナル科学センター)による罹患人口2500万人(8%)、同じくNIH内のNHGRIによる罹患人口25003000万人(89%)、以下の論文中の25003000万人(812%)3点を根拠として示された。

 

Griggs, Robert C., et al. "Clinical research for rare disease: opportunities, challenges, and solutions." Molecular genetics and metabolism 96.1 (2009): 20-26.

 

NHGRI9%というのは、2014年現在の米国人口3.16億人から計算したものである。Griggsらが論文中で示している12%というのは大きすぎるような気がするが、2009年には人口比でそうだったのだろうと考えるしかない。全てNIH系の根拠なのは気になるが、一応、これだけ大きな数値が出ていても部局によって違いがないということは、本当のことなのだろう。米国の希少疾患の基準として20万人未満の感染症も含めれば。

 

 [もっとも正確な希少疾患の数...]で調べたように、米国の6800疾患というのはEUよりも大きな見積りであった。同じように、米国の10人に一人というのはEUよりも幅広くとっていると思われ、日本の基準と照らし合わせるとEU68%の方がよく当てはまるという結論になるものと思われる。以下に記すように、EUの患者会の連合組織であるEURORDISによる68%を検証しようとしたところ、どこまで信用していいのかわからなくなる部分が多少あった。そういう事情で、結論が予想できる割に細かな問題が生じた。EUでの希少疾患全体の罹患率として68%、間をとって7%14人に一人という数値を、本著で日本の罹患率を予測する場合に採用する。EURORDISに問い合わせて、現在も書き足しているのが本節の現状である。

 

 希少疾患全体の罹患率について、他のソースを参照しながら、検証したい。まずは、EUの患者会の連合組織である、EURORDISからの希少疾患の政治的啓蒙用の文書である。

 

("Rare Diseases: understanding this Public Health Priority" EURORDIS, November 2005 より)

 

In order to be considered as rare, each specific disease cannot affect more than a limited number of people out of the whole population, defined in Europe as less than 1 in 2,000 citizens (EC Regulation on Orphan Medicinal Products).

希少と考えられるためには、各特定の疾患は、全人口の中で限られた人口を超えて罹患することはできない。ヨーロッパでは、2000人の市民に一人未満であると定義されている(EC希少医薬品規制)。

This figure can also be expressed as 500 rare disease patients out of 1 million citizens.

この数値は、100万人の市民に対して500人の希少疾患の患者と同じと表現することもできる。

While 1 out of 2,000 seems very few, in a total population of 459 million citizens this could mean as many as 230,000 individuals for each rare disease.

2000人に一人というのは非常に少ないように思われるけれども、全人口で45900万人の中だと、これは各希少疾患あたりで23万人もの個人を意味しうる。

It is important to underline that the number of rare disease patients varies considerably

from disease to disease, and that most people represented by the statistics in this field suffer from even rarer diseases, affecting only one in 100,000 people or less.

希少疾患の患者数は、疾患から疾患へと著しく変化するのに留意するのが重要である。この分野での統計によると、多くの人々は更に希少な疾患に苦しめられ、それは10万人に一人以下のみが罹患するという希少さなのである。

Most rare diseases do only affect some thousands, hundreds or even a couple of dozens patients.

多くの希少疾患は、数千人、数百人、あるいは数十人の患者のみに罹患する。

These “very rare diseases” make patients and their families particularly isolated and vulnerable.

これらの「超希少疾患」は患者達とその家族を、特に孤独で被害を受けやすい状況に追い込むのである。

It is worth noting that most cancers, including all cancers affecting children, are rare diseases.

小児に罹患する全種類のがんを含んで、多くのがんが希少疾患であることも特筆すべきだ。

Despite the rarity of each rare disease, it is always surprising for the public to discover that according to a well-accepted estimation, “about 30 million people have a rare disease in the 25 EU countries”3, which means that 6% to 8% of the total EU population are rare disease patients. This figure is equivalent to the combined populations of the Netherlands, Belgium and Luxembourg.

めいめいの希少疾患の希少性にも関わらず、受け入れられている算定方法によると、「25EU諸国の中で約3千万人の人々が希少疾患を有している」(脚注3)ということに人々はいつも驚きを示す。これは全EU人口の6%8%が希少疾患の患者であることを意味する。この数字は、実にオランダ、ベルギー、およびルクセンブルグを合わせた人口と同じなのである。

()

2.2. Paradox of rarity

2.2. 希少性のパラドックス

The above-mentioned figures mean that even though the “diseases are rare, rare diseases patients are many”. It is therefore “not unusual to have a rare disease”.

先述の算定が意味するのは、たとえ「疾患が稀なものでも、希少疾患の患者数としては実は多い」ことである。それゆえに「希少疾患の有するのは全く異常なことなどではない」のである。

It is also not unusual to “be affected by” a rare disease, as the whole family of a patient is indeed affected in one way or another: in this sense it is “rare” to find a family where nobody is - or no ancestor has been - affected by a rare (or “unknown”, “unexplained”, “strange”) disease.

希少疾患に「影響を受ける」こともまた異常なことではない。ある患者の全家族が実に何らかの方法で影響を及ぼされているからである。この意味では、ただの一人も - 祖先までも含めると - 希少な(または「未知の」「説明できない」「奇妙な」)疾患に罹患していない家族を見つける方が「希少」なのである。(訳注:affectedを当初罹患すると訳しましたが、患者の全家族が何らかの方法で罹患していると突然言い出すのは、科学的に厳密さに欠けるので、この場合は影響を受けるの意味であろうと解釈しました。しかしそれでも最後の文を罹患と訳さざるを得ず、これは英語のaffectedに罹患と影響を受けるの両方の意味があり、日本語でそうではないことによる翻訳の限界です)

A mother tells:

ある母親は語る:

“At the age of 6, Samuel was diagnosed with a rare metabolic disease.

6歳の時、サミュエルは代謝性の希少疾患と診断されました。

Almost three years after Samuel’s death, we are still a family with a rare disease:

サミュエルの死後、約3年で、私達は未だに希少疾患をもった家族のままです。

I have discovered that I have symptoms linked to the fact that I am a carrier, my marriage broke down due to the stress of losing a child and my daughter was unable to sit her A level exams due to the grief of losing her little brother and her father leaving”.

私が保因者である事実に関連して、私に症状が出ていることに気が付きました。子を失ったストレスにより、私の結婚生活は終わりを告げました。私の娘は幼い弟を失い、父親が出ていった悲しみにより、卒業試験を受けることもできません」

 

包括的に数値が出ているので、ある程度は検証することができる。2000人に一人という希少疾患の条件は人口比0.05%である。500/1000000=0.05%で一致している。人口45900万人の時点なので、459000000*0.05/100=22950023万人と一致している。30000000/459000000=6.5%となり、6.5%1桁へと四捨五入して7%であり、6%8%の間で一致している。

 

 訳文中で脚注3とした文献を検索しても、すでに更新版に置き換えられているようで、相当する記述を見つけられないものの、いずれにせよEUの患者会の統合組織であるEURORDISのサイトからのものなので、全EU人口の68%が希少疾患を患っているということの信ぴょう性は高いと思われる。ただし、1桁で表すとすれば7%であり、68%と幅をもたせている理由はこの文書だけでは分からない。米国で人口比0.06%の条件で10%EUで人口比0.05%の条件で7%というのも、両方の数値がEUで小さいため食い違いはなく、米国人口にアジア人やアフリカ人が混じっていてもそう大きく変わっているとは思えない。日本でもEUと同じ0.05%の人口比をとると、やはり7%付近の罹患率になるのではないかと期待される。

 

 反面教師的な体験談については、最後の夫が出て行った理由は、子を失ったストレスだけと考えるのは無理がある。情報が少ないので苦しいが、まず、もっとも可能性の高い場合を考えてみる。子が6歳付近で亡くなったということは、先天性代謝異常症であろうと思われる。この場合、2つのアレルのうちどちらかだけ機能すれば酵素として役割を果たすことができるため、ほとんどの場合常染色体劣性遺伝である。妻と夫、両方共が保因者である可能性が高い。生殖細胞系列でのde novo変異という例外はあるが、確率としては極めて小さい。「我々夫婦の男女としての相性が生物学的に悪かったのだ」と、特にインターネットで中途半端に知識を仕入れた父親の方が考え始めるというのは、今日では頻繁に起こっている現象である。そして、男女としての生物学的相性が悪かったというのは、まさに科学的事実なのである。「別の女性とさえ結婚していれば、サミュエルは死なずに済んだのに、この女と結婚したばかりにこんなことになった」と考えたいのである。おおざっぱに言って、ヒトの半分は遺伝的存在であり、半分は環境的存在なので、別の女性と結婚した場合のサミュエルは、その女性のDNAにより顔形は違うサミュエルになっただろうが、父親にとっては同じ自分のDNAと愛情を受け入れるサミュエルという存在には代わりがないはずだ。だから、サミュエルはあの女のせいで亡くなった、そう考えたがるものなのである。

 

 しかし実際には、妻だけでなく夫の方も劣性変異の保因者なので、責任としては妻も夫も同等なのだが、私が知る限り、女性よりも男性の方がこのように自己中心的な考えに逃避する傾向が強い。その一方で、この妻の方は何も調べなかったがために、おそらく劣性遺伝の疾患が、片方だけのアレルでも自覚できるほどの症状を起こすと勘違いをしている。[みんなが保因者の劣性遺伝病...]で述べるように、確かに、劣性遺伝のアレルがヘテロ接合の場合、ヒトで生死に関わる実験などできないので証明はされていないものの、マラーのハエの実験により遺伝的荷重として生存率に影響すると言われている。しかし、非常におおざっぱに言うとホモ接合で発症した場合の5%未満である。そんなわずかな症状は老化や更年期の症状に覆い隠されて通常の手段では自覚することなどできない。つまり、夫に責められたがために、サミュエルが病気で亡くなったのは自分のせいだと思い込んでしまい、さらに自分にもそういう症状があるのだと、ただの老化を代謝異常症の症状だと勘違いした可能性が高い。[ミトコンドリアDNAの検査]で述べたように、老化したら代謝異常症に近い状態になっていくのは当たり前の話なのである。

 

 この場合、実際には、大変なリスクにさらされているのは、この卒業試験に身が入らないなどとのんきな様子が記されている娘の方なのである。夫の方が科学的な考え方に慣れているのであれば、医師とのやりとりを夫がしていて、劣性遺伝なので娘の方にも25%のリスクがあるという話を聞いたのが夫だけの可能性がある。しかし、夫は妻のせいにしたいのだから、妻には、劣性遺伝なので生物学的責任が男女平等にあるということを知らせていないはずである。ということは、妻は、劣性遺伝による兄弟姉妹25%のリスクを知らない可能性が高い。だから、娘はホモ接合の保因者の可能性があり、女子では男子よりも軽度で発症も遅いことが、例外はあるが、遺伝性疾患の大まかな特徴であるため、単に現在まで発症していなかっただけなのかもしれない。そうだとすれば、単にいつ発症するか分からない状態であるだけでなく、登下校中に自動車にひかれて緊急手術となったときに、筋弛緩剤や麻酔薬で逆に生命の危険に陥る可能性さえある。

 

 仮に、常染色体劣性遺伝ではなく、伴性劣性遺伝の先天性代謝異常症だと考えてみる。X染色体は男子で1本なので、この場合は確かに妻の方だけが保因者で、夫の方は保因者ではない。そして娘にもリスクはない。ただし、妻の方にも同じ理由でリスクはない。妻に代謝性疾患の症状が出たというのは、やはり思い込みということになる。Y染色体による限定遺伝の場合には、妻が保因者ではないので、今回は当てはまらない。

 

 仮に、mtDNAの変異によるミトコンドリア病であると考えると、この場合は分類の仕方によって代謝性疾患の中に入れないことも多いが、入れている場合もある。この場合は妻にも症状が出うる。同様に娘にも出うる。やはり娘の検査に言及せずに、のんきに卒業試験などと言っているのは奇妙である。

 

 仮に、常染色体優性遺伝または伴性優性遺伝と仮定する。妻からの優性遺伝だと確かに妻に症状が出る。娘にも50%の確率で継承される。よりいっそう高い確率なのに、娘の検査に言及せずに卒業試験に言及しているのはちぐはぐだ。調べた範囲では常染色体優性遺伝の先天性代謝異常症として該当するのは瀬川病だけである。伴性優性遺伝の先天性代謝異常症は、調べた限り見つけられなかった。

 

 これは、最初から謎かけのつもりで作られた話なのだろうか?どう仮定しても、話としてどこかがちぐはぐである。最初は希少疾患は普通のことだよ、というのを説明するための反面教師としての体験談だと思ったのに、詰めてみると、決して、患者会が啓蒙のために紹介するような話ではない。それとも、劣性遺伝の変異の保因者であるというだけで、自覚症状を感じてしまうほど思いつめてはいけないという、反面教師的な教訓なのだろうか?いや、まずどう考えてもDNA検査で娘の方のリスクを同定する方が最優先だろう。わからない。

 

 これはサミュエルというのを、男性名だと勝手に勘違いするなというフェミニスト運動か何かなのかと思って、サミュエルが女性名である場合を調べたが、サマンサが女性名として広まっているので、わざわざサミュエルを女性名として使う意味はあまりない。

 

 結局考えに考えた結果、今のところは、妻は娘のDNA検査を思いつくことなく、自分にありもしない自覚症状を覚えるほど、心を病んでしまった、こんなことはあってはならない。そういうよくないパターンの例として、編集に関わった医師や研究者はこの記述を許容しているのだろうと思う。これを記述した人物はもちろん、これが妻が心を病んでいると考えない限りあり得ない例であることに気が付かずに書いてしまった可能性が高い。問題は、なぜ編集段階で訂正されなかったである。

 

・・・一見単純なのに、本当にこの家族の今後のことを案じたなら、ここまで複雑な話になるというのを、書いた人物に納得してもらえなかったのかもしれない。いや、率直にそんなことを言えば、書いた人物が家族の今後を案じていないかのようなので、言い出せなかったのかもしれない。

 

 20141216日追記として、EURORDISに問い合わせていたところ、次のように古い文書だからよく分からないとの回答をいただいた。

 

For your second question, we are not sure what the mother of Samuel means in her statement.  However, this document is 9 years old and much more is known today about diagnosing and treating rare diseases. 

 

これ以上考えても仕方なく、EUの希少疾患全体の罹患率として7%14人に一人というのを採用する。しかし、[診断に至るまでの年数、または遅延 - 28年?!]で示すEUの各希少疾患の罹患率を、罹患率の大きなものから加算していけば、おそらく7%となる根拠がさらに示すことができると思われるため、まだ、更に検証する余地は残されている。


診断に至るまでの年数、または遅延 - 28年?!

 EURORDISによる大規模なアンケート調査の結果、12000人の希少疾患の患者の声が報告にまとめられている。本節では、同報告から、典型的な患者で最も診断に時間のかかる疾患は、エーラス・ダンロス症候群(EDS)の発症から診断まで28年であることを示す。

 

 この報告書300ページにも上るものなので、今後の引用では、PDFの中でページ番号として示されている数値を参照先として示す。

 

 まず、診断に至るまでの平均年数について調べる。

 

(42ページ)

 

For many of the survey participants affected by a rare disease, the quest for a correct diagnosis signified a long and significant challenge.

希少疾患に罹患した多くのアンケート回答者にとって、正しい診断を求めての探求は、長く遠大なチャレンジを意味していた。

Before having obtained their diagnosis they consulted many specialists, underwent numerous medical exams and often received incorrect diagnoses along the way.

診断を得る前に、彼らは多くの専門家に相談し、多くの検査を受け、その途中でしばしば間違った診断を受けている。

This journey was not only troublesome and taxing, as patients often travelled long distances and used their own savings, but also often led to deleterious consequences for patients and their families.

この道程は、患者がしばしば長距離を通院し自分の貯金を切り崩しているように、トラブルが多くて骨が折れるだけでなく、しばしば患者やその家族にとって有害な結果を引き起こしさえしている。

Overall, patients were left with no choice but to seek answers on their own, with little help from healthcare systems, in many cases.

全体として、患者はただ一人答えを探し求める以外に選択の余地などなく、多くの場合は、一般的な医療機関からの助けはほとんど得られなかった。

Even if obtained, diagnoses were often announced under inappropriate circumstances, where the gravity of the announcement and the subsequent consequences for the patients and their families were not considered.

たとえ診断が得られたとしても、その内容はしばしば不適切な状況で口に出され、患者および家族にとってのその内容の重みと引き続く結果が考慮されていなかった。(訳注:引き続く結果とは本人の予後だけでなく家族への遺伝の恐れを指していると思われます)

 

The Quest for Diagnosis

診断を求める探求

 

When presented with a symptom or set of symptoms, it is logical that a rare disease would not be the first proposed cause by a health professional.

症状が出たとき、または複数の症状が出た時、医療従事者により最初に提案される病因として、希少疾患があがらないのはもっともなことである。

For the same reason, it is not surprising that the time it takes to diagnose a rare disease might be longer than for a common one.

同じ理由から、希少疾患を診断するのにコモンディジーズよりもより長くかかるのは、驚くにあたらない。

With each clinical event, the time it takes to reach a diagnosis will depend upon the disease in question and the complexity of diagnostic needs.

めいめいの臨床的イベントで、診断に達するのにかかる時間は、問題となっている疾患、および、診断が必要とする複雑さに依存するであろう。(訳注:「めいめいの臨床的イベント」と直訳しましたが平たく言うと「各患者」だと思います)

These delays, difficult enough to accept for individuals with common diseases (let alone healthy individuals), represent only the first obstacle for rare disease patients.

健康な方々はもちろんのこと、コモンディジーズの患者の方々にとっては理解しがたいことだろうが、これらの遅延は、希少疾患の患者にとっては、最初の障害にすぎないのだ。

The delays in diagnosis for the eight investigated diseases are presented below (Table 1).

調査した8つの疾患についての診断の遅延を、以下に示す(1)

Within disease groups, delays in diagnosis varied greatly.

疾患のグループの範囲内で、診断の遅延は著しく異なっている。

A small percentage of respondents experienced very short delays in diagnosis and another small percentage of respondents experienced very long delays.

回答者のうち小さな割合が診断において非常に短い遅延を経験し、その一方で、別の小さな割合の回答者が、非常に長い遅延を経験した。

However, the majority of patients within each disease group experienced delays somewhere in between.

しかしながら、各疾患グループの範囲内で、患者の大多数は、その中間の遅延を経験した。

As a result of this range in delays, the median delays in diagnosis were calculated based on the responses of half (50%) of the respondents in each disease group as well as for three-fourths (75%) of respondents in each disease group.

遅延が分布する範囲についての結果として、各疾患グループの回答者の半分(50%)の回答、および、各疾患グループの回答者の4分の3(75%)の回答に基いて、診断に要した遅延の中央値が計算された。

For example, for half of respondents affected by CF, diagnosis was determined 1.5 months after the first appearance of symptoms.

例として、CFに罹患した回答者の半分が、診断は最初に症状が出てから1.5ヶ月で決定された。

When including the 25% of respondents affected by CF that experienced the longest delays, the median increased dramatically, to at least 15 months of delay following the first appearance of symptoms.

CFにに罹患した回答者のうち、最も長い遅延を経験した25%を含むと、中央値は劇的に増加し、最初に症状が出てから少なくとも15ヶ月の遅延となる。(訳注:無作為に25%を足したわけではないように読めるのですが、この分野の統計としてこれは普通のことなのでしょうか?本当のところは各疾患をページを後で調べる予定です)

 

Source of information Delay in diagnosis for 50%of patients Delay in diagnosis for 75%of patients

情報の元 患者の50%にとっての診断遅延 患者の75%にとっての診断遅延

CF 1.5 months 15 months

cystic fibrosis 嚢胞性線維症

TS 4 months 3 years

tuberous sclerosis 結節性硬化症

DMD 12 months 3 years

Duchenne muscular dystrophy デュシェンヌ型筋ジストロフィー

CD 12 months 5.8 years

Crohn’s disease クローン病

PWS 18 months 6.1 years

Prader-Willi syndrome プラダー・ウィリー症候群

MFS 18 months 11.1 years

Marfan syndrome マルファン症候群

FRX 2.8 years 5.3 years

Fragile X syndrome 脆弱X症候群

EDS 14 years 28 years

Ehlers-Danlos syndrome エーラス・ダンロス症候群

Table 1 Median time elapsed between the first symptoms and a correct diagnosis.

1 最初の症状から正しい診断までの経過時間の中央値

 

The results in Table 1 not only illustrate the great differences in delays between disease groups but also between patients with the same disease.

1の結果は、疾患グループの間で遅延に大きな違いがあることを示すだけでなく、同じ疾患でも患者の間で大きな違いがあることを示す。

For example, half of respondents (50%) affected by MFS reported a delay of at least 18 months between the first appearance of symptoms and obtaining a correct diagnosis.

例として、MFSに罹患した回答者の半数(50%)が、最初に症状が出てから正しい診断を得るまでに、少なくとも18ヶ月の遅延を回答した。

An additional 25% of respondents from this same disease group did not receive a correct diagnosis until an average of at least 133 months (more than 11 years) after the first appearance of symptoms.

同じ疾患グループからの追加された25%の回答者は、最初に症状が出てから、平均して少なくとも133ヶ月(11ヶ月以上)まで正しい診断を受けていない。

As the aim of this survey was not to criticise the diagnosis process in general, but rather to investigate the consequences and factors associated with longer delays, these aspects are presented below in order to help propose solutions that could ultimately lead to an improvement in the health and quality of life of rare disease patients.

このアンケートの狙いは、広く診断の過程を批判するものではなく、長い遅延をもたらしている要素と結果を調査することにある。以下に、希少疾患の患者の健康とQOLについて非常な向上をもたらす解決策を提案するのを助けるため、以下にこれらの側面について掘り下げる。 

 

特にエーラス・ダンロス症候群(EDS)の50%中央値14年、75%中央値28年が極めて長い。 

 

 訳注として「無作為に25%を足したわけではないように読めるのですが、この分野の統計としてこれは普通のことなのでしょうか?本当のところは各疾患をページを後で調べる予定です」とした部分について、CFについて調べた。

 

(125ページ)

 

Neonatal diagnoses were obtained in 36% of patients, 45% of which resulted from disorders observed during pregnancy or at birth, 31% of which were made following neonatal testing and 17% linked to other cases in the family.

新生児診断が36%の患者で得られ、そのうち45%が妊娠中または出産中にみられた疾患からのもので、そのうち31%が新生児スクリーニング、17%が家族の他の患者に関連するものである。

For non-neonatal diagnoses, the time elapsed between the first clinical manifestations to diagnosis was nine months for 50% of patients (and as long as three years for 25% of those diagnosed the latest).

新生児診断でない場合については、最初の臨床症状から診断までの時間経過は50%の患者で9ヶ月である(25%の最も遅く診断された患者らについては3年の長きにわたる)

 

やはり、最も遅く診断された25%を追加して75%としたようだが、新生児診断の割合が大きいために、比較しにくくなってしまっている。逆に新生児診断症例のないEDSについて調べる。

 

(136ページ)

 

A period of 14 years elapsed between the first clinical manifestations of the disease and diagnosis for half of patients (28 years for 25% of the latest diagnoses).

最初の臨床症状から診断までの経過時間は半数で14年である(最も遅い診断の25%28年である)

 

最も遅い25%28年というのと、75%28年というのが、同じになってしまっているので、25%の中でも特に遅い患者、70歳とかの症例が効いているのかもしれない。CDについてみてみる。

 

(121ページ)

 

The time elapsed between the first clinical manifestations and diagnosis was 12 months for 50% of patients (nearly six years for 25% of the latest diagnoses).

最初の臨床症状から診断までの経過時間は患者の50%12ヶ月である(最も遅い診断の25%6年近い)

 

どうやら最も遅い25%を追加して75%としているとみて、間違いなさそうだ。では、先に述べられている50%の患者の方は、最も早い50%なのだろうか?いや、そんなことは記されていなかった。しかし、最も遅い25%をすでに除いているので、真ん中の50%か、最も早い50%か、2つに一つしかないはずだ。これは、なぜ、平均値と標準偏差で示さなかったのだろうか。おそらく、最も遅い25%がものすごく遅いということを強調したかったのだと思われるが、その強調に見合わないほど、話が後で検証するのに複雑になって、信ぴょう性が落ちている。せめて、50%25%を足して75%とすることさえなければ、もう少しわかりやすかったかもしれない。おそらく、何か過去につくられた資料と比較できるように、このようになってしまったのだろう。しかし、私が統計に慣れていないだけで、こういう方法が普通なのかもしれないので、どなたか日本語で解説したウェブページをご存知ならお教えいただけるとありがたい。

 

 

 ともかく、調査された範囲ではエーラス・ダンロス症候群(EDS)の患者の75%、または、最も遅い25%の、発症から診断まで28年というのが、最長である。


GINA(ジーナ) - DNA検査時代の国民、患者を守る法制度

 米国ではDNA検査の結果により雇用と医療保険の差別を禁止する遺伝情報差別禁止法(GINA、ジーナ)が施行されている。日本ではまだ法律という段階ではなく、ガイドライン止まりである。この違いを生み出しているのは、単純に米国がDNA検査の先進国であるというだけでなく、希少疾患の診断においても先進国だからである。しかし、日本には保険業界の良心により、遺伝性疾患の家系に不利とならないよう、家族の病歴(家族歴)の記入が省略されたという、米国では考えられないような、驚くべき倫理観の高さも一部において見受けられる。皮肉なことに、家族歴の記入が省略されたが故に、国民の多くが遺伝性疾患のことを自分達とは関係のない稀な疾患だと考えるようになってしまった。前の節で示したように、7%10%の国民が希少疾患ひいては遺伝性疾患を患っていると考えられるにも関わらずである。本節では主に保険の観点からGINAについて調べ、次の節の、医師による差別のトピックへとつなぐ。

 

 本著のテーマであるDNA検査の検査結果は、究極の個人情報とも呼ばれて、特に厳重な管理が必要と考えられている。2012年に冨田勝教授が実名でご自分の全ゲノムシーケンシング結果を公開された§。私も一応匿名という形だがエクソームシーケンシングの結果その他を公開している。

 

 私の場合は、健常者ではなく認められぬ病の患者なので、確定診断を得ることが、シーケンシング結果を秘密にするよりも利益になると判断しての公開である。それでも、著作権上の問い合わせを行った先には、普通に名乗っているので、かなりの人口が私の本名を知っているという状況がある。親のDNA検査の結果は、DNAの半分を引き継ぐ子の遺伝形質を推測するのに利用できるため、その点が将来不安でないかというと、もちろん不安なのである。特に保険加入や就職といった場合に、本著といっしょになってマイナスに働いてしまう可能性は否定できない。こういった問題に対してDNA検査が日本よりも普及している米国では、2008年に遺伝情報差別禁止法(GINA、ジーナ)§を成立させることで、一応の対策を打った。

 

(『【ライフサイエンス特集】政策遺伝子解析遺伝情報差別禁止法が成立(米国) § 翻訳・編集:桑原未知子, NEDO海外レポートNO.1025, 2008.7.2 より)

 

医療保険会社や雇用主が個人の遺伝情報に基づいて米国民を差別することを禁じる法案が米国下院を通過した。

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同法案は、雇用主および医療保険会社が所有する個人遺伝情報を不正な利用から守るための厳しいガイドラインを定めたものである。

 「遺伝子検査の普及が進めば、寿命が延びる可能性や、病気による衰弱から開放される可能性が高くなる。しかし多くの米国民は、遺伝子検査の結果のせいで失業したり医療保険の資格を失ったりすることを恐れて、検査の受診をためらっている。」下院教育・労働委員会(Committee on Education and Labor)の委員長を務めるジョージ・ミラー議員(民主党・カリフォルニア州)はこのように言う。「遺伝情報差別禁止法は、米国民の個人遺伝情報が保護され、差別的な用途に利用されないことを保証する法律となる。」

 「今回、遺伝情報差別禁止法案が議会を通過したことにより、遺伝子検査の受診を拒否したことを理由に就職できなかったり、解雇あるいは降格されたりすること、また医療保険の対象から除外されたりすることがあってはならないという点で国内の意見が一致しているということが証明された。」健康、雇用、労働、年金に関する小委員会(Subcommittee on Health, Employment, Labor and Pensions)の委員長であるロブ・アンドリュース議員(民主党・ニュージャージー州)は言う。「スローター議員とビガート議員による例外的な超党派のパートナーシップにより、米国市民は重要な権利を獲得した。この法律は、遺伝情報のプライバシー保護を実現するだけでなく、我々の生活や愛する人々に影響を及ぼすさまざまな病気に対する治療方法の発見に取り組む科学者や医師達を後押しするものとなるだろう。」

 

遺伝情報差別禁止法は、雇用主が従業員の雇用、解雇、職場配置、昇降格の決定を下す際に個人の遺伝情報を利用することを禁じている。また、特定疾病にかかりやすい遺伝子を持っているというだけの理由で、団体医療保険や医療保険会社が健康な人を保険対象から除外したり、それらの人に高額な保険料を課したりすることも禁じている。

()

 現在米国では、41 の州で個人向けの医療保険市場における差別を禁止する法律が州議会を通過している。また、34 の州では職場における遺伝差別が禁じられている。

 

しかしGINAは、2008年に成立直後こそDNA検査時代の幕開けかのように取り沙汰されたが、カバーしている範囲が狭いことに対してと、逆に広すぎることの両面から批判が上がっている。新規性の高い法律の宿命と思われる。正直なところ、たとえ日本版GINAが成立したところで私のように法の成立以前に公開している場合は、私自身については、保護の対象にはならない可能性の方が高い。これは不必要にカバーする範囲を広くして物議を醸すのを避けるため、仕方のないことなのかもしれないが、それよりも問題なのは子について保護されるかどうかである。ただ、まだ成立していないものについて考えても仕方がなく、むしろ日本版GINAがどういったものになるかを調べる。

 

(『米国遺伝子情報差別禁止法(GINA)』§ 丸山英二(神戸大学大学院法学研究科), 2014112日閲覧より)

 

ひるがえって,このことから,わが国において GINA のような法律が必要か,ということを考えると,公的健康保険で疾患や障害の治療のために必要となる費用がカバーされる限りにおいては,GINA の第1編に相当する法律は必要がないことになる。雇用分野での差別禁止については検討の必要性は高いが,その際には,人種や性別による差別を禁じた公民権法の伝統を有する米国とは法的環境が大きく異なることを弁えることが重要である。

 

多少、この著者の観点と異なって、私は健康保険制度がGINA成立以前の大問題だと思っている。GINAはコモンディジーズの罹患予測確率の高い人口だけでなく、遺伝性疾患、遺伝病の患者を保護するためのもののはずだが、日本では診療報酬点数に基づく健康保険制度自体が遺伝病、必然的に希少疾患に対応していない。ほとんどコモンディジーズに対する点数ばかりで、希少疾患に対しては、点数が決まっていないため、悪くすると全額自己負担になるのである。大学病院ではこれに対して点数を読み替えて対応しているが、一般の病院ではどうやって読み替えているのか詳しい情報がないため、希少疾患はよりひどい扱いとなっている。だから、制度が米国並みに希少疾患に対応すればGINAの第1編は不必要だが、希少疾患に対して健康保険制度が対応していない以上、言ってみればそれ以前の問題である。

 

 ただし、米国の場合、希少疾患とコモンディジーズを日本ほどの制度的な差別なく扱ってきたのは事実だが、患者が健康保険に加入しておらず、かつ貧乏な場合は、希少疾患もコモンディジーズも差別なく、診療しなかったのである。近年になってようやく、オバマケアが成立する以前は。

 

 3省によるヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針がガイドラインとして知られている中で、私はこの節で扱う事柄について調べ始めるまであまり注目していなかったが、経済産業省による個人遺伝情報保護ガイドライというのが、もっともGINAに近い存在と考えられる。しかし、ガイドラインなので法的拘束力としては弱く、末端の現場では認識されていないようなアンケート結果§も得られている。

 

 GINAの代わりと言っては妙な言い方になるが、日本では欧米と違って伝統的に保険加入に際して家族の病気の告知義務が免除されてきたようだ。金融庁からと思われる研究報告に記載がある。

 

宮地朋果. "遺伝子検査と保険."§ FSA リサーチ・レビュー 2005 (2005): 109-130.

 

昭和49年までわが国の告知書には、実父母、実子、配偶者についての家族歴の欄が設けられていたが、現在は業界の自己規制により情報収集されていない。

 

逆に業界によるこの善意の行動が、日本において、遺伝病に対する関心の薄さを形成しているのかもしれない。しかしそれはそれでよい面も多少はあったと思う。遺伝によって体のパフォーマンスが決まると考えてしまうと、ひょっとすると日本人の勤勉さというのは、それほど顕著でなかったかもしれないのだ。ただし、現在こういったことが言えるのも、予防的医療を目指して、DNA検査が普及する前の段階だから言えるのである。DNA検査が普及して予防的医療が具体化してくれば、自ずとDNA検査による罹患予測が漏れて、生命保険、医療保険、就職採用、結婚といった人生における重要決定に波及するリスクが問題となる。技術の進歩とともに世界全体がこの方向へ流れていて、誰も止めることはできない。無理に止めたところで、他国の医療との差がついて平均寿命ナンバーワンの座を日本が降りたときには、結局批判が起こって遅れながら国際基準に合わせるからである。

 

 

 いずれにしても、日本においてもGINAに相当する法律を成立させるべきである。これはコモンディジーズの中心である高齢者と、希少疾患の中心である小児の両方について言え、差別されないことを保証した上で、積極的にDNA検査を受けさせないと、最終的に、日本の医療は米国の医療技術に置き換えられ、雇用の問題にまで波及するであろう。もはや航空運賃の低下により国境はとても曖昧になりつつあるのだから。


国民皆保険の功罪 - 患者をチェリーピッキングする医師達

 [希少疾患全体の罹患率...]の節で、希少疾患全体としての罹患率として、EU7%に基づくと全日本国民うち900万人、米国の10%に基づくと1300万人という膨大な人口として示された。この膨大な人口をどうやって診断するのか、そのために何が足りず、いままでの医療は何を間違っていたのだろうか。本説では、EUでさえ典型的な症例の診断に28年かかっている希少疾患があるのに、なぜ、日本ではそれが問題にならないのか、国民皆保険の診療報酬点数制度によりコモンディジーズに特化しすぎた日本の医療の、構造上の問題を指摘する。ひいては、患者のチェリーピッキングが当たり前にように行われている日本の医療現場を改善するため、これから強く批判していくべき医師の行動を具体的に限定する。

 

 急激な経済発展を経験した日本では、元々比較的安定に発展していた欧米諸国と比較した場合、未だに平等性は効率性と並んだ場合に後ろに来るという考え方が続いていて、比較的効率が問題とならない場合は欧米諸国を後追いする形で男女均等が推進されるが、いったん効率性の方が優先という暗黙の合意が形成されると、[赤信号みんなで渡れば...]の節で述べた「赤信号...」のパターンに合致し、見事なぐらい男女均等の機会が失われるのが特徴である。次の図は正規雇用の男女の報酬の差を%で表したもので、Wikimedia Commonからパブリックドメインのものを貼った。日本は左から二番目である。米国を基準にすると、倍とはいかないが見たところ約1.7倍である。これは男女賃金差と呼ばれるようだが、他にも類似の傾向を示す報告が多数ある**。このぐらいの差で済んでいるのはまだいい方で、女性管理職の割合では米国と約4倍の差がある。効率性が大きく要求されるために、暗黙の合意が形成されていると思われる。管理職と同じように比較的効率が要求される職業である医師については、女性医師の割合が2004年について日本14.3%、米国21.8%と、米国が悪いため米国との比としては想像していたほど悪くないが、比較に示された24カ国中24位である。しかし、小児科・産婦人科・外科と、眼科・皮膚科・耳鼻咽喉科で女性医師の割合に際立った差があり、推測だが、より効率が要求される診療科だけで米国と比較すればやはり相当に悪いと思われる。こうして、医師に関して男女差を比較したのは、効率が絡むと医師はいとも簡単に「赤信号」を渡って差別をする存在であると、医師自身についての統計によって示すためである。そしてそれは米国との比較において顕著であり、米国であっても14年かかって遺伝情報差別禁止法(GINA、ジーナ)を成立させる必要があったのだから、日本で米国と同様にDNA検査に基づく先進的予防医療を普及させようとするならば、よりいっそう効率の名の元に遺伝情報差別が生じないようにしなければならない。そしてそれは、GINAが主な対象とした医療保険と雇用だけでなく、なるべくなら生命保険と医療そのものも対象とすべきである。医療そのものを遺伝情報差別禁止法の対象とすべきというのは、医師による遺伝病患者の差別という、米国ではあまり考慮する必要がなかった部分が大きな問題になると考えられるからである。なにしろ、米国で10人に一人、EU14人に一人、希少疾患の患者がいると言っているのに、日本の医師の間では何人に一人いるのかさえ認識されていないぐらい、希少疾患の患者の存在を無視し続けてきたのである。そして、これは、日本の国民皆保険の悪い部分が表れているという意味で、医師達が認識を改めればよくなるという性質のものではない。制度と効率が絡んで根が深いという意味で、女性医師がなかなか増えない、増えても定着しないという問題と非常に性質が似ている。

 

 保険会社が遺伝性疾患といった人口に対して加入拒否といった差別的な行為をすると、利益性の高い人口ばかりを選んでいるためクリームスキミングと呼ばれて非難されるのだが、それ以上に患者の情報を握っている医師や病院が行えば、なおさら強い非難の対象とすべきである。医師による場合は日本ではチェリーピッキングと呼ばれ、以前から医師や病院の間で臨床試験と診療報酬点数の両方の観点から問題になってはいるが、DNA検査が普及して罹患予測ができるようになると、遺伝情報差別という形で、よりいっそう深刻な問題になるはずだ。全体像を把握するために、グーグルを用いた共起性分析を行った。

 

("医師" OR "病院") "チェリーピッキング" 約 9,920

("医師" OR "病院") "クリームスキミング" 約 2,820

("生命保険" OR "医療保険") "クリームスキミング" 約 1,360

("生命保険" OR "医療保険") "チェリーピッキング" 約 1,040

("医師" OR "病院") "チェリーピッキング" "遺伝" 約 889

("医師" OR "病院") "クリームスキミング" "遺伝" 約 182

("生命保険" OR "医療保険") "クリームスキミング" "遺伝" 約 99

("生命保険" OR "医療保険") "チェリーピッキング" "遺伝" 約 81

("医師" OR "病院") "チェリーピッキング" "遺伝情報差別" 1 件(この1件は関係ない文脈でした)

("医師" OR "病院") "クリームスキミング" "遺伝情報差別" 0

("生命保険" OR "医療保険") "クリームスキミング" "遺伝情報差別" 0

("生命保険" OR "医療保険") "チェリーピッキング" "遺伝情報差別" 0

 

"遺伝情報差別" 約 1,250

 

チェリーピッキングとクリームスキミングはほとんど同じ意味で用いられ、似たようなヒットカウントを示している。医師や病院が行えばチェリーピッキングと呼ばれることが多く、生命保険や医療保険で行えばクリームスキミングと呼ばれることが多いようだ。遺伝情報差別という用語自体、まだあまり普及していない。 

 

 医師や医療機関の場合は、保険会社と違って、診療録の形で患者の健康上の詳細を知り得る立場にあり、しかも、実質的には、いつでも患者の血液をDNA検査に出すことができる。診療録の検査値やDNA検査などから、遺伝性疾患傾向のない患者だけを選べば、その病院だけ収益性が上がるのは当たり前の話なのだ。遺伝性疾患というのは必然的に希少疾患を意味し、希少疾患であるかぎりは種類が多すぎるので検査ばかりで治療まで進まないことが多い。手間がかかる割に儲からない患者なのである。それが他の医療機関へ流れていくのだから、結局のところ、他の医療機関に利益にならない患者を押しつけて、自分の利益性だけを追求するという行為である。希少疾患の患者総人口の推定値として、EUの希少疾患の罹患率統計を日本に当てはめれば、日本人口の約7%、およそ900万人を遺伝病疑いというだけで診ないということになり、極めて反社会的な行為であるといわざるをえない。何しろ、やってきた患者のうち14人に一人を弾いているのだから。

 

 しかし、一つの問題は、保険診療か自由診療かどっちなのか診断が出るまで分からないような健康保険制度にもあると言える。遺伝性疾患疑いという場合になるべく保険診療にしましょうという合意を作っていく必要があるのではないだろうか。実際に大学病院ではそうやっているのだが、どの疑いの場合にどの保険点数項目を使いましょうという、現場的な合意があまり大学病院の外には知られていない。合意ないままクローズドにしていることに大きな問題があるのであって、これは患者が声を上げれば自然と何らかの情報交換が行われていくものと思われる。20151月に施行が迫っている難病法に見るように、いままで診断された患者で構成される患者会が強く声を上げた部分は改善されてきたので、まだ診断されていない患者の方も声を上げていくことが必要なのだろう。なにしろ一部の遺伝性疾患では、診断を得るまで典型的な患者で28年かかっているという調査結果が存在するのだ。その間に声を上げなかったこれまでの方が、むしろおかしいのだ。

 

 おそらく、日本は米国よりも国民皆保険が圧倒的早くに普及し、米国の方がむしろ非常に遅いということが、点数制度によるチェリーピッキングが日本で問題となって米国でまだそれほど問題になっていない理由である。実際、米国の健康保険の一種であるMedicareProspective payment systemと呼ばれる診療報酬点数制度を採用している場合には、チェリーピッキングが問題になっている。

 

("The Economic Evolution of American Health Care: From Marcus Welby to Managed Care" David Dranove, 52 CHAPTER 3, ISBN 0-691-10253-8, 0-691-00693-8, Princeton University Press, 2002. より)

 

PPS Perversities

PPS(Prospective Paymayment System)での問題行為

()

Some hospitals transfer patient whose costs are expected to exceed the HCFA payment for their DRG, a practive that is derisively called "dumping." The opposite practice, in which hospitals treat only profitable patients, is called "cream skimming."

病院によっては、コストがDRGに対するHCFA支払いを超えると思われる患者を転院させる。この行為は嘲笑的に「ダンピング」と呼ばれる。これと反対の行為、つまり利益性の高い患者だけを治療する病院の場合は、「クリームスキミング」と呼ばれる。

 

ダンピングと呼ばれるのが初診料を頻繁に得ようと患者をうろうろさせるといった行為で、日本で意図的にやられている例は少ないはずだが、意図的でなくても結果的にその地域の病院で利益は向上しているはずだ。また、米国ではクリームスキミングと呼ばれるようだが、日本ではチェリーピッキングと言われている行為である。

 

 英国でもクリームスキミングと呼ばれ、健康保険制度が改革されてから問題となった。

 

Matsaganis, Manos, and Howard Glennerster. "The threat of ‘cream skimming’in the post-reform NHS." Journal of health economics 13.1 (1994): 31-60.

 

On the other hand, policy changes aimed to introduce elements of capitation funding, although welcome, raise the spectre of ‘cream skimming’. The paper explores the potential for protection against ‘cream skimming’ offered by incorporating chronic health factors into the formula.

その一方で、キャピテーションファンディングの要素を導入することを目的とした政策の変更は、基本的には歓迎すべきなのだが、「クリームスキミング」の範囲を拡大するのもまた事実である。本論文は、この方式の中に慢性的な健康要素が含まれることにより提起される「クリームスキミング」に対する守備についての可能性を模索する。

 

英国の健康保険制度は紆余曲折して何度も変革されてきており、率直なところこれがどの時点での制度なのかよくわからない。ともかく、各国での診療報酬点数という健康保険制度の方式と、米英でのクリームスキミング、日本のチェリーピッキングは強く関係している。米英では、クリームスキミングを医師の悪質な診療行為に対して、チェリーピッキングを悪質な臨床試験に対して用いることで使い分けているように思えるが、今のところ本著ではチェリーピッキングで統一したい。

 

 もっと直接的に医師による患者差別を問題にしている記事もある。

 

("Discrimination in the Doctor-Patient Relationship" Posted on September 7, 2012 by Holly Fernandez Lynch より)

医師患者関係の中での差別

 

Nir Eyal’s post below has teed up the issue of doctors refusing to accept patients for reasons that seem to be pretty questionable.  The latest example has to do with obesity, but there are plenty of others having to do with vaccination status, sexual orientation, and the like. 

Nir Eyalの以下の投稿は、大いに疑問があると思われる理由により、医師が患者の受け入れを拒否することについて議論する土台を提供した。最新の例は肥満に対して当てはまるはずだが、予防接種、同性愛傾向などについても当てはまるはずの例も多数ある。

 

ここで挙げられている例はどこまで当てはまるのか、多少疑問に思わない点がないでもないが、予防接種を受けていない患者を診ないというのが、確かに予防接種が普及した米英ではありうるかもしれない。

 

 日本の診断されない希少疾患の患者は、チェリーピッキングの現状に対して、体の痛みをかかえながら我慢をし続けているが、本当のところは裁判を一度起こせばすっかりこんなことはなくなると思われる。なぜなら、診断されないということ自体が

「そんな病気はうちでは診れないから!」

という言い訳を正当性のないものにするからだ。診断できないのに、診れないというのは、そもそも主張として自己矛盾しているのである。いったい何を診断できなくて何を診れないと言っているのか、患者は病名として「そんな」と言われても、医師が何が言いたいのか全く分からないのである。今後こういった行為は保険会社以上に悪質な医師によるチェリーピッキング行為として批判していくべきである。

 

 しかしそれでも、検査値として基準値外れが出ている場合には、多少は状況は緩和される。基準値外れから、どういった病気を疑っているか、およその検討がつくし、病名としても口にできるからである。しかし、基準値外れが出ている場合でも、それが他の病院を紹介できるような基準値外れであったことは、私の場合はほとんどなかったし、実際に一度も紹介もされなかった。アミノ酸分画で基準値外れが確かに出たが、何度も言うようにこれは特異度のない検査であり、複数回測定して系統的に基準値外れを比較しないと、一度だけの測定では健常者と区別できず何も分からない性質のものである。このようにして根拠を積み重ねて初めて、他の専門の医療機関へと患者を紹介できるのであって、それ以外の理由の分からない診療拒否はすべて医師による利益性の追求にほかならない。要するに楽をして金持ちになりたいがために、遠くの病院へと利益性が悪くリスクばかりが高い患者を追いやって、疲労により更に重度の症状を引き起こそうとしているのだ。知られているように、病院というのは同じ診療科が近くに建つことは経済性の原理からあまりない。したがって高齢者や障害者の増加に対処するため、高齢者や障害者も応分に努力すべきという社会的合意の元に、自立支援法などを始めとして社会全体を「自立」の方向へと促してきた通り、なるべく患者が他人の手を借りずに自分一人で通院できる距離を基準として、ある程度その地域では独占市場なのが普通である。それでも数値的根拠なく他の病院へ紹介状なしに他の病院へと患者を送ろうとするのは、EBM、根拠に基づいた医療の観点から医師達のコミュニティの中でも批判されるべきではないだろうか。

 

 更に言うと、GINAに相当する法がない現状では、患者に黙ってDNA検査を行うことは倫理の観点から主に学会により規制されているが、法的に禁止されているわけではないため、同じように法で禁止されず学会により規制されている、後々の節で述べる着床前診断でさえ一部の病院だけで行っているように、患者に黙ってDNA検査も一部の病院では既に行っているのではないかという推測さえ成り立つ。たとえ単一遺伝子疾患を検出できるほど大型のDNA検査でなくとも、安価なDNAアレイの検査で、近い将来、2型糖尿病になりそうな患者のみを集めれば、ルーチン的な治療ばかりでリスクが少なく利益率が上がる。更には、臨床試験のデータ捏造が一つ々々取り上げるときりがないので、検索結果そのものへのリンクとして示さねばならないほど問題となっているが、これも予め時間をかけてDNAアレイで特定の傾向の患者のみを特定の病院に集めておけば、非常に目につきにくい形で臨床試験の成績を向上させることは可能である。数値的根拠なく患者を遠ざけようとする病院の場合、まず、その疑いも含めて調査する必要があると思われる。

 

 しかし、医師によるチェリーピッキングを批判する行動を起こした結果、おそらく真っ先に改善されるのは、どう考えても設備的に診れそうにない診療科を不適切な医師が標榜していることかもしれない。はっきり言ってしまうと各診療科で希少疾患を扱わなければ、かなりの広さで診療科を標榜できてしまうのである。ほんの一部のまれな症例だけが、知識と技術と設備を要求するのが医療の常であり、だからこそ医師という専門資格が存在するのである。すべて商業的にチェリーピッキングを行えばいいのであれば、医師になるのに倫理を学ぶ必要などないのだ。逆に考えれば、このような倫理と相互信頼に依っている制度の下でチェリーピッキングを行うことは、自らが医師であることさえ否定しており、単なる商業的な技術サービスである。

「あなたの買ったポンコツのこの製品は、ポンコツ過ぎて当社ではもうとっくの昔に修理対象ではありません」

と言う代わりに、

「あなたのポンコツの体は、ポンコツの具合が稀すぎてうちの病院の診療対象ではありません」

と言っているも同然なのだ。だったら、なぜ最初から看板にその病院の診療対象は希少疾患や遺伝病を含まないことを正直に記さないまま経営を続けているのだ、という話である。もちろん、14人に一人、そして軽度の症例も含んで、希少疾患の可能性なんて誰でもあるのに、そんなことを記しては、誰も診てもらいに来なくなるからである。自分が経営的に困るようなことを書かずに、逆に間口が広いようなことを記す。そしてやってきた患者の中から利益性の高いものだけを残して、後は弾く。だから診療科を実質よりも幅広く標榜することは、チェリーピッカーにとっての常套手段なのである。

 

 更に言うと、看板に設備もないような診療科を並べるのは、いざ裁判か何かで評判が悪くなってネットの噂に敏感な若い患者が全く来なくなった時に、診療科を選ばない近所の高齢者を幅広く診る形でも経営をもたせようとするための布石であるようにさえ思える。何よりも見苦しい上に信用出来ない感じがする。そんな診療科名を並べるのであれば、なるべく書体や形式を統一して専門医資格を記すべきだ。

 

 こう考えると、法的に改善するのはすぐには無理かもしれないが、一体何が診れて何が診れないのか、自分は何の専門医の資格があるのか、医師達がまずはインターネットや看板での表記を実情に合ったものに修正し、診れない時には同じ市内ではどの病院にどんな専門医がいるのか、患者に説明する努力を開始するのではないだろうか。専門医資格も含めて、看板、電話帳、インターネットへの掲載形式を統一すべきではないのかという議論も始まるであろう。それだけでも、かなり即効性が期待できる成果であろうと思われる。

 

 医師の中にいるチェリーピッカーに対する私の主張をまとめると、EUの基準で14人に一人、米国の基準で10人に一人、希少疾患を患っていると言われている以上、どの希少疾患、難病、遺伝病も診ない医師という存在はあってはならない。限られた何か一つは専門性を限定した上で診るべきだし、実際、ほとんどの医師は罹患率の非常に少ない疾患を診ているはずである。その専門性とは、標榜する診療科だけでなく、専門医の資格といったより具体的な内容とすべきで、どんな医師でも大学時代にはそういった専門性が存在したはずである。また近年になるほど技術が進歩すれば専門性が詳細になっていくのは当たり前の話で、専門性を詳細化しないというのは、技術についていっていないということである。実際、大学病院の医師ほど詳細に自分の専門性を病院のウェブページで記すことが多い。標榜する診療科を多数並べるものの、専門性を明らかにせず、やってきた多数の患者の中から、診やすい患者だけを診て、時間や手間がかかる患者は弾くという行為は、これまで常習的に行われてきたが、先に述べた14人に一人、10人に一人という数値が出ている以上、こういった行為は徹底的に批判していくべきである。根拠に基づく医療、EBMを総合的に推進するにあたって、何ら専門性に関する根拠、また、検査値といった数値的根拠なく、診ないという行為そのものが害なのである。逆に根拠に基づく他の専門医の紹介は、より積極的に行うべきである。しかし、患者から見て、特定の病院だけ専門性が広いかのように見えてしまうと、その病院のみ経営上ますます有利という状況が出来上がってしまう。したがって、医師の専門性を明らかにするというのは、全ての病院で推進すべきであり、その意味からも、専門性を明らかにしない病院や医師をチェリーピッカーと称して糾弾するのは、多少ラジカルではあるが、必要不可欠と思われる。

 

 即効性ではなく根本的なことを言うと、チェリーピッカーを完全に排除するためには、いくら批判したところで限界があり、やはり遺伝性疾患の患者を法的に守るべきであろうと思われる。難病法が成立して間もないので、何を忙しいことをとお思いになるかもしれないが、逆に考えれば、難病法によって遺伝性疾患の患者の存在が法的に公的に認められたのである。ただし、難病法と矛盾なく存在する形でしか実現しないということでもある。いずれにしても、私自身は難病法にあまり詳しくなく、他の方々もそういう場合が多いと思うので、今後、難病法が成立した経緯について調べ記していくことが、日本版GINAへの早道なのかもしれない。

 

・・・といっても、米国でさえGINA成立まで14年かかっているのである。取り組むのは早いに越したことはない。私が思うに、この問題は制度と効率が絡むという点で、医師自身による女性医師割合の問題と非常に似ている。女性医師割合の場合は、制度としては不必要なぐらい画一的な医師制度であり、効率としては不規則勤務である。チェリーピッキングの場合は、制度としては不必要なぐらい画一的な健康保険の診療報酬点数制度であり、効率としては希少疾患である。女性医師割合の問題が短時間正職員制度によって改善されてきているように、チェリーピッキングの方も制度的に改善していくべきであろうと思われる。医師は一般人口よりも画一的であるが故に、制度ということに対しては非常に敏感である。遺伝情報差別禁止法を医師によるチェリーピッキング対策を対象に成立させるとまではいかずとも、希少疾患を診る場合の診療報酬点数として、明文化した形でどの点数項目をどれに読み替えるか決めれば、改善されていくのではないかと思われる。

 

 

 大学病院で行われているように現場的な点数項目の読み替えで一般病院が対応した場合に、保険組合が点数項目の読み替えについて医師にクレームを付けるのが増えるであろうと予想されるが、逆に考えると、頻繁に支払われる初診料などから、保険組合は組合員がチェリーピッキングに会っているということが検討がついているはずである。医師にクレームを付ける前に市のケースワーカーに連絡する、そしてケースワーカーから、その患者が通院する中に大きな病院が含まれていればその病院の医療ソーシャルワーカーに連絡するといったことを考慮すべきではないだろうか。ケースワーカーによる介入というのは、ある意味、ほんの少しの制度の変更で、既存の制度を有効利用できるようになるわけだから、もしかするととてもよいことなのかもしれない。ただ、患者としてはケースワーカーは公務員と考えるので、管轄が違うと言われればそれまでと思って、患者側から連絡をとることは少ないであろうと思われる。14人に一人、10人に一人という、希少疾患全体を合わせるととんでもなく大きな人口が患っていると見込まれる以上、ケースワーカーが対応している社会的困窮者の多数が実は潜在的な希少疾患の患者である可能性もあるのだから、今後はケースワーカーの方々にも希少疾患の事情を考慮いただく必要はあると思われる。



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