目次
はじめに
はじめに
宗教的表現について
研究者の方々へ - 検証中の仮説
外部リンクの表記、Android対応、訂正箇所のご指摘のお願い
概略
現在の症状
息子の誕生
さらに遠い通院へ
知らされなかった検査結果
アミノ酸分画検査結果
タンデムマス検査結果
合っているかもしれない仮説
閑話休題:創作話 トリケラお母さんの悲劇(# ゚Д゚)
DNA検査の実体験と仕組み
ミトコンドリアDNAの検査
ヒットカウント分析および共起性分析
23andMeのDNAアレイによる検査 - 販売停止命令に至る経緯
遺伝病とコモンディジーズの違い - 優性遺伝と劣性遺伝
ヒトはヒトであるが故にヒトの病を患う
コモンディジーズの検査方式 - アバウトなGWAS
23andMeの深刻な検査結果 - 統計の改善による影響
23andMeのその他の結果
エクソームシーケンシング
コモンとレアの重症度分布 - アレル頻度とエフェクトサイズ
個人向け遺伝子検査の選び方 - 罹患人口カバー率指標
閑話休題:製作物 DNAツリー
希少疾患と難病の制度および数値
希少疾患と難病の違いと制度的起源 - 日米欧比較
赤信号みんなで渡れば - 真面目な日本人の最悪の集団行動
もっとも希少な希少疾患 - 70億人にたった一人
もっとも正確な希少疾患の数 - 毎日約1つ希少疾患が増える?
希少疾患全体の罹患率 - 全部合わせると10~14人に一人
診断に至るまでの年数、または遅延 - 28年?!
GINA(ジーナ) - DNA検査時代の国民、患者を守る法制度
国民皆保険の功罪 - 患者をチェリーピッキングする医師達
節としてまとまらなかった事柄
希少疾患と感染症
感染症と希少疾患の関係 - 未診断の希少疾患という重症化因子
予防接種の健康被害としての未診断の希少疾患
希少疾患としての感染症 - 米国のAIDSの歴史
見えないところに死体の山
医師に頼らない因果関係の追求 - 脳症の本当の原因
更に複雑な感染症の話
医療訴訟が生み出す二次被害 - 無過失賠償制度の必要性
辛い記憶
両親を批判することについて
両親への間違った説明
辛かった学校生活
体育の次の時間に倒れてしまう
電車とバス
繰り返し運動による寝られぬほどの筋肉痛
食事の前後の発作
進化と感染症の間の遺伝性疾患
進化と感染症の間の遺伝性疾患
仮説の更なる展開 - 発見され増加を続ける希少疾患
卵子と精子の間の変異の導入の違い
感染症と遺伝性疾患で重度となる役割 - 男性淘汰進化説
絶滅のシナリオ - 感染症と遺伝性疾患の袋小路
進化のスピード調節 - もっとも強く訴えたいこと
進化と遺伝性疾患の「必然性の枠内の偶然性」
ダーウィンのUNdiagnosed
そして各論へ
遺伝学用語の混乱
遺伝学用語の混乱:genetic、遺伝か起源か
de novo変異 - 両親から受け継がれない優性遺伝の変異
個人向け遺伝子検査のガイドラインの乖離
みんなが保因者の劣性遺伝病? - 平均約10個の遺伝的荷重
劣性病的変異の健常者への影響 - 遺伝子プールの浄化説
あとがき
あとがき
これ以降分冊予定
▲▼そして各論へ
検証実験の山 - バッチ型検証実験の提案
希少疾患の中の更なる希少な患者群についての予測
環境因子か遺伝因子か
代謝異常についての進捗
遺伝子検査の2つの嘘
生まれの平等性または不平等性
▲▼生まれの平等性または不平等性
新型出生前診断と着床前診断 - 技術的に◯、倫理的に☓
生まれる前のDNA検査 - 科学的因果関係の追求ライン
技術としてのNIPT - 生まれのDNA検査の技術予測
我が子に故意に良くない遺伝因子を許容する親の罪
ディストピアな未来像 - 生まれの平等性が崩れた世界
不妊という社会問題 - 男性不妊と父性年齢効果
中絶による母体へのダメージ - 次の妊娠がうまくいく確率
着床前診断の問題点 - NIPTとの倫理的違和感
不妊治療としてのPGD - 不妊としての遺伝性疾患
生殖医療のリアルの写真
男女産み分けの国際比較 - 海外での生殖補助医療のリアル
着床前診断の潜在的なリスク - 子と女性へのリスク
フィルターされた人々による生まれの平等性、不平等性の支配
遺伝学用語の混乱:variation、多様性か変化性か
人権に基づく多様性、人権に基づく変化性
男性不妊と劣性遺伝病の完全予防 - 22世紀の精子起源工学
その他 - うまく分類できずとも価値のあるトピック
DNA検査の結果の公開 - シーケンシング機会の平等性
進化における神の概念
mtDNAとY染色体の永代性 - 未来の血縁者の不利益
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国民皆保険の功罪 - 患者をチェリーピッキングする医師達

 [希少疾患全体の罹患率...]の節で、希少疾患全体としての罹患率として、EU7%に基づくと全日本国民うち900万人、米国の10%に基づくと1300万人という膨大な人口として示された。この膨大な人口をどうやって診断するのか、そのために何が足りず、いままでの医療は何を間違っていたのだろうか。本説では、EUでさえ典型的な症例の診断に28年かかっている希少疾患があるのに、なぜ、日本ではそれが問題にならないのか、国民皆保険の診療報酬点数制度によりコモンディジーズに特化しすぎた日本の医療の、構造上の問題を指摘する。ひいては、患者のチェリーピッキングが当たり前にように行われている日本の医療現場を改善するため、これから強く批判していくべき医師の行動を具体的に限定する。

 

 急激な経済発展を経験した日本では、元々比較的安定に発展していた欧米諸国と比較した場合、未だに平等性は効率性と並んだ場合に後ろに来るという考え方が続いていて、比較的効率が問題とならない場合は欧米諸国を後追いする形で男女均等が推進されるが、いったん効率性の方が優先という暗黙の合意が形成されると、[赤信号みんなで渡れば...]の節で述べた「赤信号...」のパターンに合致し、見事なぐらい男女均等の機会が失われるのが特徴である。次の図は正規雇用の男女の報酬の差を%で表したもので、Wikimedia Commonからパブリックドメインのものを貼った。日本は左から二番目である。米国を基準にすると、倍とはいかないが見たところ約1.7倍である。これは男女賃金差と呼ばれるようだが、他にも類似の傾向を示す報告が多数ある**。このぐらいの差で済んでいるのはまだいい方で、女性管理職の割合では米国と約4倍の差がある。効率性が大きく要求されるために、暗黙の合意が形成されていると思われる。管理職と同じように比較的効率が要求される職業である医師については、女性医師の割合が2004年について日本14.3%、米国21.8%と、米国が悪いため米国との比としては想像していたほど悪くないが、比較に示された24カ国中24位である。しかし、小児科・産婦人科・外科と、眼科・皮膚科・耳鼻咽喉科で女性医師の割合に際立った差があり、推測だが、より効率が要求される診療科だけで米国と比較すればやはり相当に悪いと思われる。こうして、医師に関して男女差を比較したのは、効率が絡むと医師はいとも簡単に「赤信号」を渡って差別をする存在であると、医師自身についての統計によって示すためである。そしてそれは米国との比較において顕著であり、米国であっても14年かかって遺伝情報差別禁止法(GINA、ジーナ)を成立させる必要があったのだから、日本で米国と同様にDNA検査に基づく先進的予防医療を普及させようとするならば、よりいっそう効率の名の元に遺伝情報差別が生じないようにしなければならない。そしてそれは、GINAが主な対象とした医療保険と雇用だけでなく、なるべくなら生命保険と医療そのものも対象とすべきである。医療そのものを遺伝情報差別禁止法の対象とすべきというのは、医師による遺伝病患者の差別という、米国ではあまり考慮する必要がなかった部分が大きな問題になると考えられるからである。なにしろ、米国で10人に一人、EU14人に一人、希少疾患の患者がいると言っているのに、日本の医師の間では何人に一人いるのかさえ認識されていないぐらい、希少疾患の患者の存在を無視し続けてきたのである。そして、これは、日本の国民皆保険の悪い部分が表れているという意味で、医師達が認識を改めればよくなるという性質のものではない。制度と効率が絡んで根が深いという意味で、女性医師がなかなか増えない、増えても定着しないという問題と非常に性質が似ている。

 

 保険会社が遺伝性疾患といった人口に対して加入拒否といった差別的な行為をすると、利益性の高い人口ばかりを選んでいるためクリームスキミングと呼ばれて非難されるのだが、それ以上に患者の情報を握っている医師や病院が行えば、なおさら強い非難の対象とすべきである。医師による場合は日本ではチェリーピッキングと呼ばれ、以前から医師や病院の間で臨床試験と診療報酬点数の両方の観点から問題になってはいるが、DNA検査が普及して罹患予測ができるようになると、遺伝情報差別という形で、よりいっそう深刻な問題になるはずだ。全体像を把握するために、グーグルを用いた共起性分析を行った。

 

("医師" OR "病院") "チェリーピッキング" 約 9,920

("医師" OR "病院") "クリームスキミング" 約 2,820

("生命保険" OR "医療保険") "クリームスキミング" 約 1,360

("生命保険" OR "医療保険") "チェリーピッキング" 約 1,040

("医師" OR "病院") "チェリーピッキング" "遺伝" 約 889

("医師" OR "病院") "クリームスキミング" "遺伝" 約 182

("生命保険" OR "医療保険") "クリームスキミング" "遺伝" 約 99

("生命保険" OR "医療保険") "チェリーピッキング" "遺伝" 約 81

("医師" OR "病院") "チェリーピッキング" "遺伝情報差別" 1 件(この1件は関係ない文脈でした)

("医師" OR "病院") "クリームスキミング" "遺伝情報差別" 0

("生命保険" OR "医療保険") "クリームスキミング" "遺伝情報差別" 0

("生命保険" OR "医療保険") "チェリーピッキング" "遺伝情報差別" 0

 

"遺伝情報差別" 約 1,250

 

チェリーピッキングとクリームスキミングはほとんど同じ意味で用いられ、似たようなヒットカウントを示している。医師や病院が行えばチェリーピッキングと呼ばれることが多く、生命保険や医療保険で行えばクリームスキミングと呼ばれることが多いようだ。遺伝情報差別という用語自体、まだあまり普及していない。 

 

 医師や医療機関の場合は、保険会社と違って、診療録の形で患者の健康上の詳細を知り得る立場にあり、しかも、実質的には、いつでも患者の血液をDNA検査に出すことができる。診療録の検査値やDNA検査などから、遺伝性疾患傾向のない患者だけを選べば、その病院だけ収益性が上がるのは当たり前の話なのだ。遺伝性疾患というのは必然的に希少疾患を意味し、希少疾患であるかぎりは種類が多すぎるので検査ばかりで治療まで進まないことが多い。手間がかかる割に儲からない患者なのである。それが他の医療機関へ流れていくのだから、結局のところ、他の医療機関に利益にならない患者を押しつけて、自分の利益性だけを追求するという行為である。希少疾患の患者総人口の推定値として、EUの希少疾患の罹患率統計を日本に当てはめれば、日本人口の約7%、およそ900万人を遺伝病疑いというだけで診ないということになり、極めて反社会的な行為であるといわざるをえない。何しろ、やってきた患者のうち14人に一人を弾いているのだから。

 

 しかし、一つの問題は、保険診療か自由診療かどっちなのか診断が出るまで分からないような健康保険制度にもあると言える。遺伝性疾患疑いという場合になるべく保険診療にしましょうという合意を作っていく必要があるのではないだろうか。実際に大学病院ではそうやっているのだが、どの疑いの場合にどの保険点数項目を使いましょうという、現場的な合意があまり大学病院の外には知られていない。合意ないままクローズドにしていることに大きな問題があるのであって、これは患者が声を上げれば自然と何らかの情報交換が行われていくものと思われる。20151月に施行が迫っている難病法に見るように、いままで診断された患者で構成される患者会が強く声を上げた部分は改善されてきたので、まだ診断されていない患者の方も声を上げていくことが必要なのだろう。なにしろ一部の遺伝性疾患では、診断を得るまで典型的な患者で28年かかっているという調査結果が存在するのだ。その間に声を上げなかったこれまでの方が、むしろおかしいのだ。

 

 おそらく、日本は米国よりも国民皆保険が圧倒的早くに普及し、米国の方がむしろ非常に遅いということが、点数制度によるチェリーピッキングが日本で問題となって米国でまだそれほど問題になっていない理由である。実際、米国の健康保険の一種であるMedicareProspective payment systemと呼ばれる診療報酬点数制度を採用している場合には、チェリーピッキングが問題になっている。

 

("The Economic Evolution of American Health Care: From Marcus Welby to Managed Care" David Dranove, 52 CHAPTER 3, ISBN 0-691-10253-8, 0-691-00693-8, Princeton University Press, 2002. より)

 

PPS Perversities

PPS(Prospective Paymayment System)での問題行為

()

Some hospitals transfer patient whose costs are expected to exceed the HCFA payment for their DRG, a practive that is derisively called "dumping." The opposite practice, in which hospitals treat only profitable patients, is called "cream skimming."

病院によっては、コストがDRGに対するHCFA支払いを超えると思われる患者を転院させる。この行為は嘲笑的に「ダンピング」と呼ばれる。これと反対の行為、つまり利益性の高い患者だけを治療する病院の場合は、「クリームスキミング」と呼ばれる。

 

ダンピングと呼ばれるのが初診料を頻繁に得ようと患者をうろうろさせるといった行為で、日本で意図的にやられている例は少ないはずだが、意図的でなくても結果的にその地域の病院で利益は向上しているはずだ。また、米国ではクリームスキミングと呼ばれるようだが、日本ではチェリーピッキングと言われている行為である。

 

 英国でもクリームスキミングと呼ばれ、健康保険制度が改革されてから問題となった。

 

Matsaganis, Manos, and Howard Glennerster. "The threat of ‘cream skimming’in the post-reform NHS." Journal of health economics 13.1 (1994): 31-60.

 

On the other hand, policy changes aimed to introduce elements of capitation funding, although welcome, raise the spectre of ‘cream skimming’. The paper explores the potential for protection against ‘cream skimming’ offered by incorporating chronic health factors into the formula.

その一方で、キャピテーションファンディングの要素を導入することを目的とした政策の変更は、基本的には歓迎すべきなのだが、「クリームスキミング」の範囲を拡大するのもまた事実である。本論文は、この方式の中に慢性的な健康要素が含まれることにより提起される「クリームスキミング」に対する守備についての可能性を模索する。

 

英国の健康保険制度は紆余曲折して何度も変革されてきており、率直なところこれがどの時点での制度なのかよくわからない。ともかく、各国での診療報酬点数という健康保険制度の方式と、米英でのクリームスキミング、日本のチェリーピッキングは強く関係している。米英では、クリームスキミングを医師の悪質な診療行為に対して、チェリーピッキングを悪質な臨床試験に対して用いることで使い分けているように思えるが、今のところ本著ではチェリーピッキングで統一したい。

 

 もっと直接的に医師による患者差別を問題にしている記事もある。

 

("Discrimination in the Doctor-Patient Relationship" Posted on September 7, 2012 by Holly Fernandez Lynch より)

医師患者関係の中での差別

 

Nir Eyal’s post below has teed up the issue of doctors refusing to accept patients for reasons that seem to be pretty questionable.  The latest example has to do with obesity, but there are plenty of others having to do with vaccination status, sexual orientation, and the like. 

Nir Eyalの以下の投稿は、大いに疑問があると思われる理由により、医師が患者の受け入れを拒否することについて議論する土台を提供した。最新の例は肥満に対して当てはまるはずだが、予防接種、同性愛傾向などについても当てはまるはずの例も多数ある。

 

ここで挙げられている例はどこまで当てはまるのか、多少疑問に思わない点がないでもないが、予防接種を受けていない患者を診ないというのが、確かに予防接種が普及した米英ではありうるかもしれない。

 

 日本の診断されない希少疾患の患者は、チェリーピッキングの現状に対して、体の痛みをかかえながら我慢をし続けているが、本当のところは裁判を一度起こせばすっかりこんなことはなくなると思われる。なぜなら、診断されないということ自体が

「そんな病気はうちでは診れないから!」

という言い訳を正当性のないものにするからだ。診断できないのに、診れないというのは、そもそも主張として自己矛盾しているのである。いったい何を診断できなくて何を診れないと言っているのか、患者は病名として「そんな」と言われても、医師が何が言いたいのか全く分からないのである。今後こういった行為は保険会社以上に悪質な医師によるチェリーピッキング行為として批判していくべきである。

 

 しかしそれでも、検査値として基準値外れが出ている場合には、多少は状況は緩和される。基準値外れから、どういった病気を疑っているか、およその検討がつくし、病名としても口にできるからである。しかし、基準値外れが出ている場合でも、それが他の病院を紹介できるような基準値外れであったことは、私の場合はほとんどなかったし、実際に一度も紹介もされなかった。アミノ酸分画で基準値外れが確かに出たが、何度も言うようにこれは特異度のない検査であり、複数回測定して系統的に基準値外れを比較しないと、一度だけの測定では健常者と区別できず何も分からない性質のものである。このようにして根拠を積み重ねて初めて、他の専門の医療機関へと患者を紹介できるのであって、それ以外の理由の分からない診療拒否はすべて医師による利益性の追求にほかならない。要するに楽をして金持ちになりたいがために、遠くの病院へと利益性が悪くリスクばかりが高い患者を追いやって、疲労により更に重度の症状を引き起こそうとしているのだ。知られているように、病院というのは同じ診療科が近くに建つことは経済性の原理からあまりない。したがって高齢者や障害者の増加に対処するため、高齢者や障害者も応分に努力すべきという社会的合意の元に、自立支援法などを始めとして社会全体を「自立」の方向へと促してきた通り、なるべく患者が他人の手を借りずに自分一人で通院できる距離を基準として、ある程度その地域では独占市場なのが普通である。それでも数値的根拠なく他の病院へ紹介状なしに他の病院へと患者を送ろうとするのは、EBM、根拠に基づいた医療の観点から医師達のコミュニティの中でも批判されるべきではないだろうか。

 

 更に言うと、GINAに相当する法がない現状では、患者に黙ってDNA検査を行うことは倫理の観点から主に学会により規制されているが、法的に禁止されているわけではないため、同じように法で禁止されず学会により規制されている、後々の節で述べる着床前診断でさえ一部の病院だけで行っているように、患者に黙ってDNA検査も一部の病院では既に行っているのではないかという推測さえ成り立つ。たとえ単一遺伝子疾患を検出できるほど大型のDNA検査でなくとも、安価なDNAアレイの検査で、近い将来、2型糖尿病になりそうな患者のみを集めれば、ルーチン的な治療ばかりでリスクが少なく利益率が上がる。更には、臨床試験のデータ捏造が一つ々々取り上げるときりがないので、検索結果そのものへのリンクとして示さねばならないほど問題となっているが、これも予め時間をかけてDNAアレイで特定の傾向の患者のみを特定の病院に集めておけば、非常に目につきにくい形で臨床試験の成績を向上させることは可能である。数値的根拠なく患者を遠ざけようとする病院の場合、まず、その疑いも含めて調査する必要があると思われる。

 

 しかし、医師によるチェリーピッキングを批判する行動を起こした結果、おそらく真っ先に改善されるのは、どう考えても設備的に診れそうにない診療科を不適切な医師が標榜していることかもしれない。はっきり言ってしまうと各診療科で希少疾患を扱わなければ、かなりの広さで診療科を標榜できてしまうのである。ほんの一部のまれな症例だけが、知識と技術と設備を要求するのが医療の常であり、だからこそ医師という専門資格が存在するのである。すべて商業的にチェリーピッキングを行えばいいのであれば、医師になるのに倫理を学ぶ必要などないのだ。逆に考えれば、このような倫理と相互信頼に依っている制度の下でチェリーピッキングを行うことは、自らが医師であることさえ否定しており、単なる商業的な技術サービスである。

「あなたの買ったポンコツのこの製品は、ポンコツ過ぎて当社ではもうとっくの昔に修理対象ではありません」

と言う代わりに、

「あなたのポンコツの体は、ポンコツの具合が稀すぎてうちの病院の診療対象ではありません」

と言っているも同然なのだ。だったら、なぜ最初から看板にその病院の診療対象は希少疾患や遺伝病を含まないことを正直に記さないまま経営を続けているのだ、という話である。もちろん、14人に一人、そして軽度の症例も含んで、希少疾患の可能性なんて誰でもあるのに、そんなことを記しては、誰も診てもらいに来なくなるからである。自分が経営的に困るようなことを書かずに、逆に間口が広いようなことを記す。そしてやってきた患者の中から利益性の高いものだけを残して、後は弾く。だから診療科を実質よりも幅広く標榜することは、チェリーピッカーにとっての常套手段なのである。

 

 更に言うと、看板に設備もないような診療科を並べるのは、いざ裁判か何かで評判が悪くなってネットの噂に敏感な若い患者が全く来なくなった時に、診療科を選ばない近所の高齢者を幅広く診る形でも経営をもたせようとするための布石であるようにさえ思える。何よりも見苦しい上に信用出来ない感じがする。そんな診療科名を並べるのであれば、なるべく書体や形式を統一して専門医資格を記すべきだ。

 

 こう考えると、法的に改善するのはすぐには無理かもしれないが、一体何が診れて何が診れないのか、自分は何の専門医の資格があるのか、医師達がまずはインターネットや看板での表記を実情に合ったものに修正し、診れない時には同じ市内ではどの病院にどんな専門医がいるのか、患者に説明する努力を開始するのではないだろうか。専門医資格も含めて、看板、電話帳、インターネットへの掲載形式を統一すべきではないのかという議論も始まるであろう。それだけでも、かなり即効性が期待できる成果であろうと思われる。

 

 医師の中にいるチェリーピッカーに対する私の主張をまとめると、EUの基準で14人に一人、米国の基準で10人に一人、希少疾患を患っていると言われている以上、どの希少疾患、難病、遺伝病も診ない医師という存在はあってはならない。限られた何か一つは専門性を限定した上で診るべきだし、実際、ほとんどの医師は罹患率の非常に少ない疾患を診ているはずである。その専門性とは、標榜する診療科だけでなく、専門医の資格といったより具体的な内容とすべきで、どんな医師でも大学時代にはそういった専門性が存在したはずである。また近年になるほど技術が進歩すれば専門性が詳細になっていくのは当たり前の話で、専門性を詳細化しないというのは、技術についていっていないということである。実際、大学病院の医師ほど詳細に自分の専門性を病院のウェブページで記すことが多い。標榜する診療科を多数並べるものの、専門性を明らかにせず、やってきた多数の患者の中から、診やすい患者だけを診て、時間や手間がかかる患者は弾くという行為は、これまで常習的に行われてきたが、先に述べた14人に一人、10人に一人という数値が出ている以上、こういった行為は徹底的に批判していくべきである。根拠に基づく医療、EBMを総合的に推進するにあたって、何ら専門性に関する根拠、また、検査値といった数値的根拠なく、診ないという行為そのものが害なのである。逆に根拠に基づく他の専門医の紹介は、より積極的に行うべきである。しかし、患者から見て、特定の病院だけ専門性が広いかのように見えてしまうと、その病院のみ経営上ますます有利という状況が出来上がってしまう。したがって、医師の専門性を明らかにするというのは、全ての病院で推進すべきであり、その意味からも、専門性を明らかにしない病院や医師をチェリーピッカーと称して糾弾するのは、多少ラジカルではあるが、必要不可欠と思われる。

 

 即効性ではなく根本的なことを言うと、チェリーピッカーを完全に排除するためには、いくら批判したところで限界があり、やはり遺伝性疾患の患者を法的に守るべきであろうと思われる。難病法が成立して間もないので、何を忙しいことをとお思いになるかもしれないが、逆に考えれば、難病法によって遺伝性疾患の患者の存在が法的に公的に認められたのである。ただし、難病法と矛盾なく存在する形でしか実現しないということでもある。いずれにしても、私自身は難病法にあまり詳しくなく、他の方々もそういう場合が多いと思うので、今後、難病法が成立した経緯について調べ記していくことが、日本版GINAへの早道なのかもしれない。

 

・・・といっても、米国でさえGINA成立まで14年かかっているのである。取り組むのは早いに越したことはない。私が思うに、この問題は制度と効率が絡むという点で、医師自身による女性医師割合の問題と非常に似ている。女性医師割合の場合は、制度としては不必要なぐらい画一的な医師制度であり、効率としては不規則勤務である。チェリーピッキングの場合は、制度としては不必要なぐらい画一的な健康保険の診療報酬点数制度であり、効率としては希少疾患である。女性医師割合の問題が短時間正職員制度によって改善されてきているように、チェリーピッキングの方も制度的に改善していくべきであろうと思われる。医師は一般人口よりも画一的であるが故に、制度ということに対しては非常に敏感である。遺伝情報差別禁止法を医師によるチェリーピッキング対策を対象に成立させるとまではいかずとも、希少疾患を診る場合の診療報酬点数として、明文化した形でどの点数項目をどれに読み替えるか決めれば、改善されていくのではないかと思われる。

 

 

 大学病院で行われているように現場的な点数項目の読み替えで一般病院が対応した場合に、保険組合が点数項目の読み替えについて医師にクレームを付けるのが増えるであろうと予想されるが、逆に考えると、頻繁に支払われる初診料などから、保険組合は組合員がチェリーピッキングに会っているということが検討がついているはずである。医師にクレームを付ける前に市のケースワーカーに連絡する、そしてケースワーカーから、その患者が通院する中に大きな病院が含まれていればその病院の医療ソーシャルワーカーに連絡するといったことを考慮すべきではないだろうか。ケースワーカーによる介入というのは、ある意味、ほんの少しの制度の変更で、既存の制度を有効利用できるようになるわけだから、もしかするととてもよいことなのかもしれない。ただ、患者としてはケースワーカーは公務員と考えるので、管轄が違うと言われればそれまでと思って、患者側から連絡をとることは少ないであろうと思われる。14人に一人、10人に一人という、希少疾患全体を合わせるととんでもなく大きな人口が患っていると見込まれる以上、ケースワーカーが対応している社会的困窮者の多数が実は潜在的な希少疾患の患者である可能性もあるのだから、今後はケースワーカーの方々にも希少疾患の事情を考慮いただく必要はあると思われる。


節としてまとまらなかった事柄

 本章のまとめと、ここまでに1節の形にまでまとめられなかった内容を記す。

 

 診断を得るのに28年という歳月が普通の希少疾患があるということには、調べてみて驚いた。多少、分からない部分がありながらも、EURORDISが、これだけ豊富な情報をまとめてくれたことに感謝せざるを得ない。

 

 しかし、そんなに診断に時間がかかっている間に、検査を受けられる病院までの通院距離が、検査が詳細に渡るほど延々と遠ざかって行くのだ。ACAD9欠損症を日本で診断したという記事を20143月現在目にした覚えがないので、理屈としてはACAD9欠損症はヨーロッパまで通院しないと診断できないということになってしまうのかもしれない。

 

 こういった状況を解決する方法として期待できるのが、エクソームシーケンシングなどのDNA検査技術の進歩であるが、これもやはり日本では全体的に普及が遅いように見受けられる。私もぶち当たって苦しんでいる英語の壁というものがあって、致し方(いたしかた)ない部分も多いのだろうと思われる。

 

 しかし、英語の壁は、米国がNIHパブリックアクセス義務化を始めてから、医師だけに特有の問題ではなくなった。患者も英語圏の人たちは普通に学術論文を読む時代に突入したのである。なにしろ、政府が法に基いて今後はなるべく無料で公開させるようにするとまで言うのだから。論文を読まないと結局、患者の知識レベルも国際基準よりも劣るとみなされる、そういう時代が始まったのである。

 

 やはりどうしてもある程度英語力を鍛えないと、どうにもならない世界だと思う。S研究所を退職した後、しばらくの間は、まだスタミナが比較的長く保てていたので、医学用語に慣れるために英日翻訳の仕事を引き受けていた時期があった。しかしフリーランスの翻訳業界では顧客の都合で期限が設定されるため、納期が日本の朝であったり、米国時間の朝であったり、つまり徹夜の仕事が多すぎるという問題があった。結局、スタミナを失った患者に、健常者と同じだけの徹夜はこなせないわけで、だんだんと仕事を引き受けることができなくなった。

 

 医学英語を含めて、もっと系統的に勉強しようと医学部編入学の宛を探していた時期もあったが、気付いた時には、そこまでの能力は残っていなかった。実際、とある私大の医学部編入学を受験したものの、一次試験は合格したものの面接で落とされてしまった。やはりこれも無理があった。

 

 過去には、温かい国の永住権を取得して英語を鍛えようとしていていた時期もあったが、これはとてもお金がかかる上に、多少聴力に問題があるようで、英会話にとても難渋した。後になって、スタミナの病気は基礎代謝の増す日本の冬で体調を大きく崩すことがとても多いことに気付いたので、温かい国で冬を越すのはそれほど悪いアイデアではなかったのだが、英会話が辿々(たどたど)しいとP国では治安の悪い地域でとても不安になることが多かった。

 

 このようにして、結局のところ日本でひたすら家族に世話になりながら、一部家事をやりつつ、できる限りの力で確定診断を目指しているのだが、それさえも無理があると思えることがある。理屈を言えば、EUによる希少疾患全体の罹患率として人口の7%が希少疾患に罹患しているという記述を信頼する限り、二つの希少疾患に同時に罹患する患者も無視できない人口として存在することになる。それどころか、1/(0.07^4)という計算により、4万人に一人は4重罹患している計算にさえなるのだ。複数の希少疾患に同時に罹患すれば、それぞれ診断基準を満たさない、低い重症度の疾患であっても、一人の人間としては中程度の重症度の症状を示す場合もありうるだろう。この場合、それなりの重症度を示しながらも永久に診断されることがない、という症例が存在することになる。・・・多くは胎児の段階で流産すると思われるが、理屈の上では3重罹患ぐらいまでは生き残っていることもありうる。

 

 そして、実際に2重罹患までは症例報告されている。英国の患者で、エピソード性運動失調と先天性パラミオトニーを併発した例があげられる。

 

Rajakulendran, S., et al. "A patient with episodic ataxia and paramyotonia congenita due to mutations in KCNA1 and SCN4A." Neurology 73.12 (2009): 993-995.

 

 もしかして、私も極軽度の代謝異常症と、極軽度の先天性パラミオトニーを合併していて、どちらも診断可能な閾値に超えないのではないだろうか? 互いにアトロフィ(筋が細くなる)とハイパートロフィ(筋が緊張しすぎて太くなる)を埋め合わせているために、筋の太さとしては見かけ上正常に見えるのではないか。

 

 そういった場合、我々は何を頼りに確定診断を目指せばいいのだろうか? それとも、私が倒れてしまった9年前のように、中ば自分はもう死んでもいいと諦めるのだろうか? 能動的にそういう行為をとれば自殺ということになり、日本人の自殺率の高さと、非常に融通の効かない診断基準の厳密さの間には、相関があるように思われてならない。私は自分自身としては、先天性代謝異常症という総称として確定診断が出てもいいように思われるのだ。その場合、「病型不明」なりそういった付帯条件はつくであろうが、少なくとも周囲の理解を得るのは容易になるだろうし、医療制度の外側に死に絶えるまで放置されることはないはずだ。

 

 ここより後の希少疾患と感染症の関係についての節は、難解な部分が混じることをお詫びしたい。それでも希少疾患は人口の7%を占めるのである。読んでいただいている中の14人に一人、または日本全国で約900万人が軽度なり重度なり希少疾患を患っているはずだ。こういった人口が、診断されない希少疾患という、感染症や予防接種の重症化因子に晒されていることはまぎれもない事実である。

 

 感染症の章が終われば、その後しばらくは私自身の過去の苦労を紹介することになる。つまり闘病記的な部分である。感染症の節が不必要に難解と思われた方々は、闘病記の章へと、読み飛ばしていただきたい。


感染症と希少疾患の関係 - 未診断の希少疾患という重症化因子

 [合っているかもしれない仮説]の節で、第三世界においてマラリアといった感染症の病名で、診断されない1億人の患児が生殖年齢までに天に召され続けていると述べたが、実は、日本でも同じことが起きている。日本は先進国の中では例外的に予防接種の普及率が低い国である。その原因は予防接種ワクチン禍の中で、B型肝炎を予防接種により感染させてしまうという医療過誤に対して過去に大きな集団訴訟が起こり勝訴したことの他に、予防接種による他の原因不明の健康被害も多いからである。おそらく、これは日本で希少疾患の診断が軽視されているのと関連している。つまり、確かに過去においては杜撰な予防接種が多々あったが、現時点にいたっては、予防接種で健康被害を起こした人々のうち、非常におおざっぱに言って半数は、診断されていなかった軽度の希少疾患によると推測できるのだ。予防接種がらみの裁判で行政が負け続けたことによってこの国の感染症対策は完全におかしくなってしまった。エボラに立ち向かうどころではなく、もっと感染力の低い感染症さえ制圧することができない。そのことが悪循環でまた我々、疾患を持って免疫的・体質的に弱者として暮らしている者達の首を締めているのである。あまりにも酷い状況なので、この章に関してはリアルを緩和するための宗教的表現を一貫して使う余裕もないことをお許しいただきたい。

 

 上記で予防接種による健康被害と記したが、最初に用語の普及率の確認を行いたい。グーグルを用いた共起性分析を行う。

 

"副作用" "予防接種" 約 759,000

"副反応" "予防接種" 約 253,000

"健康被害" "予防接種" 約 152,000

"有害事象" "予防接種" 約 18,000

"有害反応" "予防接種" 約 4,810

 

このうち、副反応と有害事象は明確に区別されている。

 

(『予防接種後の有害事象と副反応』§ 大谷清孝, 小児感染免疫 Vol.25 No.4 481, 2013 より)

 

予防接種後に生じる生体にとって不利益な反応を総じて「有害事象」と称し,その事象とワクチンとの因果関係の有無は問われない.一方,「副反応」とは,ワクチンによる本来の目的以外の作用とされている.一般には,有害事象は副反応も含み,さらにワクチンとは無関係な種々雑多な医学的に好ましくない事象などが紛れ込んでいる.ワクチンとの因果関係を考慮し「真の副反応(健康被害)」と「偽の副反応(紛れ込み)」を明確に区別することは,接種直後のアナフィラキシーや接種部位の局所反応を除けば,実際には非常に困難である.

 

Wikipedia*からも、副反応の方が範囲が狭いので、患者の立場からは有害事象の方が適切と思われる。また、副作用は予防接種の場合は副反応と称するそうなので、これも採用しない。有害反応はおそらく、有害事象と副反応を合わせて称する意図でこのように呼ばれるか、または、両者を混同しているかであり、両方がインターネット上で混在して区別できない。混乱を避けるためにこれも採用しない。健康被害は予防接種法に関係する文脈でしか用いられていないが、実際には救済という患者にとって最も気になる部分であり、本著では健康被害という表現を用いることとしたい。副反応でもいいのではないかと意見があるかもしれないが、予防接種法の文言には一度も副反応という表現は登場しない。また、厚生労働省が副反応という表現を用いているが、これは分かりやすくするため健康被害に至る過程についての補足的説明と考えられる。

 

(予防接種健康被害救済制度厚生労働省, 20141024日閲覧より)

 

予防接種の副反応による健康被害は、極めて稀ですが、不可避的に生ずるものですので、接種に係る過失の有無にかかわらず、予防接種と健康被害との因果関係が認定された方を迅速に救済するものです。

 

当初本著でもよく確認せずに、有害反応という用語を用いていたが、これは救済が絡んでいる文脈で用いるには曖昧すぎた。今後は健康被害という表現に置き換えたい。科学的な文脈では副反応という表現も用いるかもしれないが、我々患者にとって一番重要なのは「副反応という科学的な過程」よりも「健康被害という結果」である。繰り返しになるが、法的には副反応ではなく健康被害と述べられているし、厚生労働省も少なくとも救済に関しては健康被害という用語の方が強調されている。副反応という、有害事象を除いた狭い範囲の用語は過程として述べているのみである。なるべく広く救済する「疑わしきは救済」というモットーが呼びかけられているようで、これは非常によいことだと思われる。しかし、後述するが、日本は諸々の事情により、疑わしきは救済がそれほど実行に移されているわけではない。だからこそ、そういった普及運動が存在するものと思われる。

 

 インフルエンザ脳症ライ症候群で天に召された、また、障害をもたれた患児のご両親にはさぞ無念とご胸中をお察しする。下熱のためにアセチルサリチル酸を投与されてしまった場合は、これは明らかに医療過誤なので、裁判になるのは仕方がない。しかし、そうでなければ、近年になって、一部の希少疾患がインフルエンザ脳症の重症化因子であることが明らかになった。[エクソームシーケンシング]の節で脂肪酸代謝異常症の年表を描いたが、その中にCPT2という病型が含まれている。このCPT2欠損症という代謝の疾患は、代謝の疾患全般に言えることだが、発症の閾値がはっきりとは決まっていないので、軽度であれば、短く走っても疲労しやすい体質や、長く走っても疲労しにくい体質があるように、個人差によって体育の成績が極端に違っている中に埋もれてしまって、非常に目につきにくい。とても激しく疲労したり、脂肪性の食物を食べて嘔吐した患児だけが、大学病院で診断を与えられるのである。そのほか大勢は疲れやすい体質の人として普通に暮らしていると推測される。こういったCPT2欠損症の普段はほぼ無症状例がインフルエンザの重症化因子であることが明らかになったのは、以下の論文以来なので、およそ2005年以降の話であり、まだ決して早期に診断できるわけではないようなのだが、それでも代表的な変異については、いずれ市販のDNA検査の項目として含まれてくると予想できる。

 

Chen, Y., et al. "Thermolabile phenotype of carnitine palmitoyltransferase II variations as a predisposing factor for influenza-associated encephalopathy."FEBS letters 579.10 (2005): 2040-2044.

 

 こういった研究が始まったのは、ある記事によると2001年頃と思われるが、インフルエンザ脳症で天に召されたある少女の献体を、ご両親が重症化の解明を望んで提供したことがきっかけだそうだ。当初、CPT2の遺伝子に変異が見つかったものの、良性の多型と考えられていたようだ。しかし、その後、変異したCPT2の酵素活性が温度依存性を持つことが分かって、インフルエンザの重症化因子であることが実験的に証明された。CPT2は、脂肪酸代謝異常症の一部の患者で症状を引き起こしているのと同じ酵素である。なぜ多少回りくどい表現になるかというと、CPT2のこのタイプの変異が、子供達の普段の生活にどの程度影響しているかは測定することができないのだ。軽度すぎるのである。[コモンとレアの重症度分布...]の節の図で言うと、左下の三角のUndiagnosedの領域に埋まってしまうのだ。もしも過去に症状を示したことがあるとすれば、それは出産直後の新生児の時であると推測できる。新生児の間は、ほんのちょっとしたことでも重症化するために、大きくなってからでは分からないような僅かな体の異常が敏感に血液検査などの測定値に反映される。しかし、通例としては、出産直後に何か大きな症状があったとしても山を超えてしまえば、ご両親にとっては忘れたい思い出だし、産婦人科医や小児科医の方々も、保育園、幼稚園や小学校で感染症を拾って来るような年齢になれば、他の亡くなりかけている患児の方に必死になるうちにすっかり忘れていることの方が多いのである。

 

 決してご両親が誕生の時の診療録を開示請求して、熱が出て医師の診察を受ける際に提示しておくべきだったと言っているわけではない。しかし、医師が母子手帳に書き込んでくれていた、または、ご両親ご自身で書き込んでいたなら、それに越したことはない。母子手帳に記入がなければ、現在の制度では、残念ながら円滑な解決策というのはない。これは電子カルテの共有システムの普及が遅れている制度的限界と考えられる。すべて電子カルテ化されてしまえば、過去の将来重要になるかもしれない検査結果だけをハイライトさせて病院の間で共有し、法的に10年でも20年でも保存義務を課すことができるが、予算的に無理な病院がある以上は、電子カルテは今後も鈍い普及を示すだろう。社会的にそういう状況である以上は、インフルエンザ脳症やライ症候群で亡くなったお子さんのことを、特に目立った過誤があった場合を例外として、現場にいた医師の責任にすることは、言ってみれば身に覚えのない罪を着せているだけで、決してよい結果を生まないのである。特定の医師を裁判で訴えるよりも、地域に電子カルテの普及を促進する活動と、インフルエンザ脳症やライ症候群を経験した患児達に大型のDNA検査を受けさせて、将来同じ目にあう前に先手を打って軽度の希少疾患まで診断する活動をした方が、今後同じような思いをする患児やご両親を出さないために有効であろうと思われる。

 

 この他にも、CPT2欠損症とは別の希少疾患として、免疫系の劣性遺伝病であるICF (Immunodeficiency with Centromeric instability and Facial anomalies)症候群*§があげられる。

 

 私は診断してくれない医師達を激烈に批判する側の立場に立っているが、アセチルサリチル酸を投与されていないインフルエンザ脳症とライ症候群についてだけは、間違った相手を被告に指定して裁判を起こしている場合の方が多いとしか思えないのだ。と言っても、統計が見当たらないので、どのぐらいの割合かは分からない。

 

 

 もう一点、触れておきたいのは、インフルエンザ脳症となるようなCPT2の変異を持つ、脂肪酸代謝異常症を患っていても普段は軽度で特別な状況下でしか重症化しない患者は、熱中症重症化患者の半数を占めるという研究報告である。2011年、今から3年前に明らかにされたが、もちろん、半数というのは、想像していなかった多さである。リンクしたウェブページ中では面倒を避けるために脂肪酸代謝異常症という表現も希少疾患という表現も避けているが、患者から見た場合には、このタイプの特異体質だとやはり脂肪酸代謝異常症の特徴を備えるはずで、脂肪性の食物を食べた後、ビタミン不足の患者の方が高熱の条件で発症している症例が多いのではないかという推測も成り立つ。熱中症というのは、希少疾患というよりもコモンディジーズと考えられてきたが、重症例に限れば、半数で変異が認められるので、言わば熱中症重症型という区分で、実は遺伝性の希少疾患であったと言ってもいいのではないだろうか。


予防接種の健康被害としての未診断の希少疾患

 おそらく、[感染症と希少疾患の関係...]で述べた、未診断の希少疾患がインフルエンザの重症化因子であるのと似たような理由から、予防接種によって健康被害を起こした患児も、アナフィラキシーや、ギラン・バレー症候群の他に、大型のDNA検査で調べればCPT2といった希少疾患と同じ遺伝子によるものが存在するのではないかと推測できる。ただ、温度依存性という意味では、それほど発熱していない予防接種の状態でCPT2が影響するとは考えにくい。しかし、CPT2と似て異なる代謝経路の疾患で、重症度があまり閾値によらず軽度まで可変なものとして、私の場合も疑ったようにミトコンドリア病がよく当てはまると思う。

 

 特定の患者さんの症例ばかりを何度も引き合いに出して申し訳ないが、[ミトコンドリアDNAの検査]の節で述べた診断されていなかったミトコンドリア病患者が、2001年に報じられた有名な「仙台筋弛緩剤事件」にからんで、筋弛緩剤の投与で死亡しかける医療過誤が起こったのも、これが筋弛緩剤ではなくインフルエンザワクチンであってもそれほど不自然ではない気がする。予防接種でもサイトカインという物質によりミトコンドリア内での代謝回路が大きく切り替わるので、そのタイミングで何か悪いことが重なれば、ミトコンドリア病を発症した状態になるのではないだろうか。なお、このミトコンドリア病患者は、詳しい状況は分からないが、現在も適切な治療を受けられていないようだ。このことも、軽度のミトコンドリア病の診断は、そういった患者の存在を理屈の上で推測することはできても、実際問題として遠い大学病院やNCNPの一部の医師しか出せないことを表していると言えるだろう。ただ、おそらく数値として潜在的なミトコンドリア病の罹患率を推定することは可能だ。そういったことをしてくださる研究者がいれば、インフルエンザワクチンについての悪い評判によって無用に医師が攻撃されるのを緩和する一助となるだろう。

 

 CPT2がインフルエンザの重症化因子であることが近年になってようやく明らかになったこと、ミトコンドリア病が診断されずに薬剤で重度の有害事象を起こしていること、この2点を考え合わせると、インフルエンザワクチンでアナフィラキシーでない健康被害を起こした患児が大型のDNA検査を受ければ、非常におおざっぱに言って半数で、何らかの疑わしき変異が検出されると思われる。その病因性を証明するのは時間がかかるだろうが、将来のことを考えると受けさせないよりは受けさせておいた方がいいに決まっている。もっと幅広く考えると、やはりサイトカインによりミトコンドリア内の代謝回路が切り替わることはどのワクチンでも同様だと思われるので、あらゆる予防接種の健康被害の中に、ミトコンドリア病由来のものが混在しているという推測が成り立つ。ミトコンドリアDNAのヘテロプラスミーによる障害は、重度のミトコンドリア病から単なる老化まで重症度が幅広いので、予防接種の健康被害として代表的な、ギラン・バレー症候群の中にもミトコンドリアの障害が紛れ込む可能性はありうる。

 

 その場合、極軽度のミトコンドリア病であってもギラン・バレー症候群の重症化因子となるであろうことは想像に難くない。なぜならギランバレー症候群の自己免疫疾患の抗原であるガングリオシドもまた、糖脂質としてミトコンドリアによる代謝の対象と・・・思われるからだ。あまり自信がないので共起性を調べるとそれらしき結果*が得られる。ガングリオシドの一つのタイプであるGD3などに限っているようだが、そられしき学術論文GD3などに限っているようだが、そられしき学術論文も出版されている。また、英語でミトコンドリアとギラン・バレーの共起性を評価すると、20141217日時点で約 784,000 といった強い関係性が示される。[ミトコンドリアDNAの検査]で調べたように、mtDNAがヘテロプラスミーとして僅か変異すると、代謝が悪くなって活性酸素がまし、増した活性酸素によってmtDNAの変異がより促進されるという悪循環が存在するので、極軽度のミトコンドリア病をもともと患っていた場合は、ギラン・バレーを発症してガングリオシドがミトコンドリア内に蓄積されている急性期に、mtDNAの損傷が進んで特に神経細胞で著しく老化が促進された状態となり、その程度がもともと健常者であった場合よりも大きいのではないかと推測される。

 

 実際、子宮頚がんワクチンでミトコンドリア病を発症したというような主張が重度の健康被害を負ってしまわれた患者の間にあるようだ。こういった場合は、極軽度のミトコンドリア病をもともと患っていて、それが予防接種によるギラン・バレー発症により重症化したと考えた方が適切ではないだろうか。ただ、学術報告ではないため詳細は分からず、リンク先のサイトで限られた人がツイッターなどにもミトコンドリア病と子宮頸がんワクチンの関係を送信しているようにも見受けられる。先述のGD3およびGM1の学術論文の方が、信ぴょう性が高いと思われる。20153月時点までに調べた範囲では、子宮頸がんワクチンについては、感染症のワクチンとは事情が異なり、感染症がシーズン前に打たないと効果がないのに対して、そもそもがんという対策の緊急性が要求されない年単位のタイムスパンの疾患に対する接種である。もっと丁寧に問診し、接種前の検査を拡大する余裕はあったように思われる。

 

 いずれにせよ、感染症の予防接種の前に、極軽度の希少疾患の稀なリスクについて、医師が説明しなかったとすればその点については責任があるが、そういった希少疾患をその場で診断すること自体はDNA検査の普及なしには不可能であることを「仙台筋弛緩剤事件」の記事や報道から我々はよく知っている。繰り返しになるが、子宮頸がんワクチンに関しては例外で、感染症ほど緊急性がないので、もっと丁寧に接種前の検査を行う必要があるのではないだろうか。

 

 また、風邪の罹患や薬の内服などを契機として亜急性に四肢脱力、嚥下障害を発症するミトコンドリアミオパチーの一種があり、MIMECKmitochondrialmyopathy with episodic hyper-CK-emia)と命名されたそうである。こちらも残念ながら詳細が入手できず、学術論文の本文がオープアンアクセスになっていないのが非常に残念だ。風邪の罹患や薬の内服という二つの条件を、予防接種はかなり満たしていると思われるので、予防接種を契機として発症するのに不思議はないように思われる。

 

 このように考えると、感染症の予防接種による健康被害の半分ぐらいは、その場に立ち会った医師ではなく、希少疾患という特異体質を診断できなかったそれ以前の成長過程における医療にあると、そういう風にも考えることができるのである。現在の段階ではDNA検査がまだ大型化していないのであまり関係がないが、数年後に大型のDNA検査が普及すれば、そういった医療をご両親が積極的に受けさせてきたかどうかという点も、過失割合の争点になっていくであろうと思われる。理想を言えば、希少疾患の診断はたとえ軽度であっても、人生の初期であればあるほど有益なのだ。そういったリスクを考えずに、いきあたりばったりに予防接種を受けるという時代は早くに終わらせた方がよいに決まっている。しかしリアルとしては、あまりにも予防接種が裁判にのぼりすぎたために、いきあたりばったりに受けられるほどの種類の感染症の予防接種は、すでに日本に残っていないのである。たとえDNA検査で全く疑わしい変異がないと分かっても、国際基準の予防接種を受けたければ韓国に行かなくてはならない国になってしまった。もちろん、万が一飛行機の中で発熱しては間が悪いとエボラ患者といっしょに隔離されかねないので、そんなかえってリスキーなこと実際問題できるわけがない。

 

 感染症と希少疾患は正反対の概念ではないかと思われていた方も多いと思うが、実は診断できない希少疾患が、感染症の重症化因子であったり、ワクチンで重度の健康被害を引き起こすであろうという点で、両者は強く関係している。恒常性の中では希少疾患としては軽度でも、医療行為により恒常性が崩れれば当然重度で発症するのである。そしてその責任はまっさきに恒常性を崩す行為を行った医師の方に向かう。稀だからといって無視していいというわけでは全くない。実は、ミトコンドリア病患者の例で分かるように筋弛緩剤や麻酔薬とも関係しているのだが、「仙台筋弛緩剤事件」の経緯としてすでに一度は別の節でふれたので、ここでは触れない。

 

 

 何度も繰り返すが、子宮頸がんワクチンに関しては、感染症の予防接種と異なって、現在知られているほど大規模な健康被害が出る前に、問診と検査を拡大する時間的な余裕があったはずである。


希少疾患としての感染症 - 米国のAIDSの歴史

 [感染症と希少疾患...]の節で、診断されていない希少疾患が感染症の重症化因子であると述べたが、本節では、特に米国において罹患率の低い感染症が希少疾患として扱われていることを、AIDSの場合を例として述べる。また、AIDSについて、オーファンドラッグ過剰保護問題との関連を述べている記事を示す。

 

 最初に、用語の揺らぎを押さえるため、ヒットカウント分析を行う。

 

オーファンドラッグ

"orphan drug"  478,000

"オーファンドラッグ 36,400

"希少疾病用医薬品 34,100

"希少疾病医薬品 2,170

"希少疾患用医薬品 1,560

"希少疾患医薬品 397

 

AIDS

"AIDS"  288,000,000

"エイズ 5,330,000

"後天性免疫不全症候群 160,000

 

顧みられない病気

"neglected disease"  133,000

"顧みられない病気 3,230

"neglected drug"  2,380

 

(グーグル検索、20141218)

 

 顧みられない病気についても調べたのは、AIDS、エボラと、途上国から持ち込まれる感染症が先進国でも大問題になることが多いのに、途上国での感染症対策に先進国からの支援が意外なほど少ないことを示すためである。要するに、国境なき医師団という団体に任せきりである。最初に発生した時点でコントロールできないことにより、地球規模的感染、つまりパンデミックとなってしまうリスクが増しているのであって、先進諸国が最初から途上国の感染症対策にもっと協力するべきなのである。もちろん、協力を受け入れる体制があればの話で、かと言って、米国ほどの軍事力によるゴリ押しはいけないことだが。途上国からの感染症が先進諸国でも問題になるのは、お互いに一様なDNAを持っていることの証明である。ヒトは感染症と闘うにはあまりにも均一なDNAを持ちすぎてしまった。[ミトコンドリアDNAの検査]の最後に示したように、あまりにも単一起源、同一家系すぎるのである。同一家系であるからこそ、同じ感染症が大問題となるのであって、それこそが、同じ巨大家族の一員として、先進諸国がより大きな支援を組むべきことの証明なのではないだろうか。

 

 米国の法令での希少疾患の定義を用いると、患者人口20万人未満という、とても画一的な条件なので、AIDSといった今では一般的な感染症でも、性感染で米国人口に広がる前のステージでは、アフリカから持ち込まれた、頻度は低いが重症度の高い感染症という希少疾患だった。おそらく、これは米国という国がツーリズムや人類学的調査研究などの文化を通じて、第三世界から未知の病原体に暴露して帰ってくる、つまり、現在米国がエボラ対策に自国とアフリカの両方で必死になっているのと関係がある。

 

 米国の希少疾患の歴史に登場する感染症の中で、特に存在感があると思われるのはAIDSである。この疾患について述べたいのは、米国の希少疾患の幅広い定義では、日本の難病の比較的狭い定義とは違った問題を生じていることである。つまり、AIDSはやがて希少疾患の条件を外れて、20万人以上が患う疾患となった。2011年のものと思われる調査結果で、1,155,792人がAIDSと診断されたとCDCのウェブページにあるHIV感染ではなくAIDSと記されているので発症済みの統計のはずである。日本の平成266月の未発症のHIV感染込みで23,699人という統計§と比較すると、世間で言われているように多少の違和感を感じるが、感染研のウェブサイトでも日本の患者人口は同じような数値*になっている。日本と米国は米軍が日本に駐留していることもあり、とても国際結婚が多いのに、100万対(多くても)2万と罹患率は少なくとも50倍違いで、こんなに米国の性感染症が日本に入ってこないのは不自然だが、日本の複数の感染症当局は一致してこのように主張しているため、その数値を日本の罹患率として信頼する以外に方法がない。もしかすると、同性愛者にAIDSが多いという偏見に基づいて、保守的な伝統の米軍でAIDS感染者を厳しく排斥しているという効果なのかもしれない。米国人口3.2億人*、日本人口1.3億人*、米国で希少疾患として認められる人口比200000/320000000=0.06%、日本でHIV/AIDSの人口比23699/130000000=0.02%となるので、0.06%>0.02%により、すでに米国ではAIDSは希少疾患の範囲を大きく外れているにも関わらず、もしも日本で米国の希少疾患の基準を用いるなら、AIDSは日本で希少疾患ということになる。架空の場合の比較であるが、要するに日本と米国は、難病と希少疾患にものすごく違う基準を用いていることを、数値として確認した。基本的には米国の方がドライで透明性が高く民主主義的な基準だが、同時に、AIDSといった場合は問題を生じた。それが、オーファンドラッグの過剰保護の問題である。

 

("Orphan Drug Law Spurs Debate" ANDREW POLLACK, Published: April 30, 1990 より)

 

Amgen Inc.'s new drug for anemia, the latest biotechnology blockbuster, might set an industry record for first-year sales. Yet Amgen is shielded from competition by a law meant to encourage development of drugs for which there is supposed to be only a small market.

アムジェン社の貧血症に対する新薬、近年のバイオテクノロジーのヒット作、は初年の売上として産業レコードを打ち立てるかもしれない。小さな市場しかないと思われる薬剤の開発を奨励しなければならない法律により、アムジェン社が競争から保護されているにも関わらずである。

()

''You can't look at three drugs and throw out the baby with the bathwater,''said Abbey S. Meyers, the executive director of the National Organization for Rare Disorders in New Fairfield, Conn., a lobbying group representing patients with rare diseases.

3つの薬剤を大事にせずに、無用なものといっしょに捨ててしまおうとしているんです」とAbbey S. Meyers、コネチカット州ニューフェアフィールドにある米国希少疾病団体(NORD)の執行役員は言う。NORDは希少疾患の患者を代表するロビーグループである。

 

She was referring to three drugs at the center of the controversy.

彼女は議論の最中にある3つの薬剤を引き合いに出そうとしていた。

One is Amgen's drug, known as E.P.O., which is used to treat anemia in patients with kidney failure. Treatment costs $4,000 to $8,000 a year. First-year sales of the drug, which came on the market last June, are headed toward $200 million.

一つはアムジェンの薬剤、E.P.O.として知られるもので、腎不全患者の貧血症を治療するのに用いられる。治療費は年間$4,000から$8,000にのぼる。昨6月に市場に登場した同薬剤の初年の売上は、2億ドルに登ろうとしている。

Another is human growth hormone, marketed in different forms by Genentech Inc. and by Eli Lilly & Company; it is used to treat dwarfism in children. A year's treatment can cost $10,000 to $30,000, depending upon the size of the child.

2つ目はヒト成長ホルモンで、Genentech社およびEli Lilly社により異なった形で市場に供給されている。小児の低身長症を治療するのに用いられる。年間の治療費は小児の身長によって$10,000から$30,000にのぼる。

The third is pentamidine, sold by Lyphomed Inc. of Rosemont, Ill.; it is used to fend off pneumonia associated with AIDS. Since Lyphomed began selling the drug in 1984, it has quadrupled the price to more than three times what it sells for in Britain.

3つ目がペンタミジンで、イリノイ州ローズモントにあるLyphomed社により販売されている。AIDSに併発する肺炎の発生を防ぐものである。Lyphomed1984年に同薬剤の販売を開始し、英国で売られている価格の3倍を超えて、当初の価格から4倍の価格へと引き上げた。

AZT, used to treat AIDS, is also an orphan drug, despite being one of the best-selling drugs in the pharmaceutical industry. The manufacturer, the Burroughs Wellcome Company, has been the target of protests from AIDS patients and has twice reduced the price, from $10,000 a year to $6,500 a year. But AZT has not called as much attention to the Orphan Drug Act because the North Carolina-based Burroughs has a patent that would allow it to retain exclusivity even if the orphan status were revoked.

AIDSの治療に用いられるAZTもまた、製薬産業の中で最もよく売れた薬剤の一つであるにも関わらず、オーファンドラッグである。その製薬会社、Burroughs Wellcome社は、AIDS患者からの抗議の対象となり続け、価格を年間$10,000から$6,500へと2度にわたって引き下げた。しかし、AZTは希少医薬品法に対する関心を呼ばなかった。なぜなら、ノールキャロライナに本拠地を置くBurroughs社はたとえオーファンドラッグとしての扱いが取り消されたとしても、独占的を可能にする特許を有しているからである。

 

 

平たく言うと、製薬業界の一部にとって有利な方向に資本主義的なやり方で過剰に保護された結果、企業間での不公平が生じたのである。特にAIDSの場合には、その性感染力により、完全に希少疾患の希少の条件を上回ったので、不公平感は大きかったであろうと思われる。このことが未だに続いている、オーファンドラッグ保護無用論の根っこを作ったのかもしれない。



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