目次
はじめに
はじめに
宗教的表現について
研究者の方々へ - 検証中の仮説
外部リンクの表記、Android対応、訂正箇所のご指摘のお願い
概略
現在の症状
息子の誕生
さらに遠い通院へ
知らされなかった検査結果
アミノ酸分画検査結果
タンデムマス検査結果
合っているかもしれない仮説
閑話休題:創作話 トリケラお母さんの悲劇(# ゚Д゚)
DNA検査の実体験と仕組み
ミトコンドリアDNAの検査
ヒットカウント分析および共起性分析
23andMeのDNAアレイによる検査 - 販売停止命令に至る経緯
遺伝病とコモンディジーズの違い - 優性遺伝と劣性遺伝
ヒトはヒトであるが故にヒトの病を患う
コモンディジーズの検査方式 - アバウトなGWAS
23andMeの深刻な検査結果 - 統計の改善による影響
23andMeのその他の結果
エクソームシーケンシング
コモンとレアの重症度分布 - アレル頻度とエフェクトサイズ
個人向け遺伝子検査の選び方 - 罹患人口カバー率指標
閑話休題:製作物 DNAツリー
希少疾患と難病の制度および数値
希少疾患と難病の違いと制度的起源 - 日米欧比較
赤信号みんなで渡れば - 真面目な日本人の最悪の集団行動
もっとも希少な希少疾患 - 70億人にたった一人
もっとも正確な希少疾患の数 - 毎日約1つ希少疾患が増える?
希少疾患全体の罹患率 - 全部合わせると10~14人に一人
診断に至るまでの年数、または遅延 - 28年?!
GINA(ジーナ) - DNA検査時代の国民、患者を守る法制度
国民皆保険の功罪 - 患者をチェリーピッキングする医師達
節としてまとまらなかった事柄
希少疾患と感染症
感染症と希少疾患の関係 - 未診断の希少疾患という重症化因子
予防接種の健康被害としての未診断の希少疾患
希少疾患としての感染症 - 米国のAIDSの歴史
見えないところに死体の山
医師に頼らない因果関係の追求 - 脳症の本当の原因
更に複雑な感染症の話
医療訴訟が生み出す二次被害 - 無過失賠償制度の必要性
辛い記憶
両親を批判することについて
両親への間違った説明
辛かった学校生活
体育の次の時間に倒れてしまう
電車とバス
繰り返し運動による寝られぬほどの筋肉痛
食事の前後の発作
進化と感染症の間の遺伝性疾患
進化と感染症の間の遺伝性疾患
仮説の更なる展開 - 発見され増加を続ける希少疾患
卵子と精子の間の変異の導入の違い
感染症と遺伝性疾患で重度となる役割 - 男性淘汰進化説
絶滅のシナリオ - 感染症と遺伝性疾患の袋小路
進化のスピード調節 - もっとも強く訴えたいこと
進化と遺伝性疾患の「必然性の枠内の偶然性」
ダーウィンのUNdiagnosed
そして各論へ
遺伝学用語の混乱
遺伝学用語の混乱:genetic、遺伝か起源か
de novo変異 - 両親から受け継がれない優性遺伝の変異
個人向け遺伝子検査のガイドラインの乖離
みんなが保因者の劣性遺伝病? - 平均約10個の遺伝的荷重
劣性病的変異の健常者への影響 - 遺伝子プールの浄化説
あとがき
あとがき
これ以降分冊予定
▲▼そして各論へ
検証実験の山 - バッチ型検証実験の提案
希少疾患の中の更なる希少な患者群についての予測
環境因子か遺伝因子か
代謝異常についての進捗
遺伝子検査の2つの嘘
生まれの平等性または不平等性
▲▼生まれの平等性または不平等性
新型出生前診断と着床前診断 - 技術的に◯、倫理的に☓
生まれる前のDNA検査 - 科学的因果関係の追求ライン
技術としてのNIPT - 生まれのDNA検査の技術予測
我が子に故意に良くない遺伝因子を許容する親の罪
ディストピアな未来像 - 生まれの平等性が崩れた世界
不妊という社会問題 - 男性不妊と父性年齢効果
中絶による母体へのダメージ - 次の妊娠がうまくいく確率
着床前診断の問題点 - NIPTとの倫理的違和感
不妊治療としてのPGD - 不妊としての遺伝性疾患
生殖医療のリアルの写真
男女産み分けの国際比較 - 海外での生殖補助医療のリアル
着床前診断の潜在的なリスク - 子と女性へのリスク
フィルターされた人々による生まれの平等性、不平等性の支配
遺伝学用語の混乱:variation、多様性か変化性か
人権に基づく多様性、人権に基づく変化性
男性不妊と劣性遺伝病の完全予防 - 22世紀の精子起源工学
その他 - うまく分類できずとも価値のあるトピック
DNA検査の結果の公開 - シーケンシング機会の平等性
進化における神の概念
mtDNAとY染色体の永代性 - 未来の血縁者の不利益
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コモンディジーズの検査方式 - アバウトなGWAS

 本節では、遺伝性疾患が進化の犠牲者だということを振り返ったのち、世間で遺伝子という用語が曖昧に理解されていることに載っかって、「遺伝子検査」と銘打って販売されている「個人向け遺伝子検査」が、検査結果としてアバウトな情報しか返さず、4つといった信頼性が最高ランクとして示されている検査項目しか意味が無い理由を述べる。

 

 世間では「進化」という用語が、なんとなく科学的なニュアンスを含むようで大人気である。しかし、世間で使われている意味と、科学的というべきか、遺伝性疾患の患者が真剣に診断を求める時の意味は、大きく異なる。[合っているかもしれない仮説]の節で、遺伝病が進化の犠牲であると述べたが、別の節で遺伝性疾患が単一遺伝子疾患と染色体異常症を含むと定義したので、ここでもう一度確認しておくと、正確には遺伝性疾患全般が進化の犠牲と考えられる。染色体異常症が高齢妊娠によって増えるという現象は、自然環境で考えれば男女が40歳近くまで出会わないという絶滅寸前の状態であり、環境に適応できていない状況である。そういった状況において染色体異常症は変化を促進しようとしているように見える。これは最初、染色体の不分離という不都合なエラーであったが、そのエラーが抑制されずにヒトのダウン症候群の形で残っているのは、進化の速度を調節するのに都合がよかったためであろう。環境に適応できれば健常な個体数を増やして他の種に対する自らの種の勢いを高め、適応できなければ遺伝性疾患の個体を増やしてでも変化を促進するというのは、巻き込まれた患者にとっては余りにも過酷な状況だが、結果的にその仕組みがヒトを46本の染色体を持つまでに進化させたものと・・・一応の仮説が立てられる。

 

 このように考えると「進化」の裏側に「遺伝性疾患」という犠牲があるので、本来は進化という用語は遺伝性疾患の患者に対して何の配慮もなしに無頓着に用いるべきではないと思う。「進化は、現在もまだ人類においても進行中の無慈悲で過酷な自然現象」で、必然的にその影で膨大な数の遺伝性疾患の個体が死に続けていることを意味する。進化が自然現象であるという観点から見れば、進化を称えるのは、東日本大震災の津波で15000人を超える死亡者、6000人を超える負傷者が出たことを称えているのと同じなのである。しかも、進化の場合は天に召される死亡者のうち、非常におおざっぱに言っておよそ半数が新生児である。東日本大震災を生き残った負傷者はそれほど年齢に依存していないが、遺伝性疾患で生き残っている患者は、非常におおざっぱに言って半数が未成年である。東日本大震災でも地殻のストレスが解消されて、地球の状態は本来あるべき姿に向かったと考えられるが、誰もそのことを称えたりなどしない。それ以上に、ヒトの進化のことを無批判に称えるのは、科学的かつ倫理的に違和感を覚えるのである。

 

 しかし実際は、進化という用語が世間で乱用された結果、本来の生物学的定義から離れて、単純に「発展」という意味合いを含み始めている。そのため、何を言ったところで乱用が止まることなどなさそうに思えることもあり、それほど目くじらを立てる必要もないと思っている。

 

 前の節で「遺伝子」について世間での意味と科学的な定義は違うと述べたが、それに引きずられて、「遺伝子検査」と世間で呼ばれている検査と、大学病院などで行われている遺伝子検査の内容は異なっている。しかも、進化という用語の意味合いの違いで実害は発生しないことと比較すると、遺伝子検査の意味合いの違いは、消費者がDNA検査を購入する際に実害が発生する恐れが高い。繰り返しになるが、遺伝子というのは、タンパク質へと翻訳される機能的単位のことである。だから、機能を考慮せずに統計的処理だけで、特定のSNPの組み合わせを持っている人が将来アルツハイマー病になる確率が14%だというのは、厳密に言えば遺伝子検査ではない。本著では大学病院による遺伝子検査と区別するために「個人向け遺伝子検査」と呼んでいる。詳しくは[個人向け遺伝子検査のガイドラインの乖離]の節でふれる。

 

 こういった「個人向け遺伝子検査」は、販売している検査会社は「遺伝子検査」と呼んでいるが医療機関での遺伝子検査よりも一般的には小型のDNA検査であり、1万~5万円といった、富裕層の消費者が気軽に手の届く価格に設定された結果、現在のところDNAアレイの方式による検査であり、コモンディジーズの罹患確率を予測するために、統計的処理に重きを置いた、平たく言えばアバウトな検査結果を返すものである。もう一度、前の節の図を示すと、あくまでの図の右側の範囲である。「罹患確率への影響」に示したように、各病的変異やSNPの影響が重なりあっているので、コモンディジーズの罹患確率を予測することは複雑な手順である。それに対して、大学病院などによる遺伝子検査は、例外もあるが主には、[ミトコンドリアDNAの検査]の節で述べたような、シーケンシングにより単一遺伝性疾患の病的変異を見つけ出す、図の左側の範囲である。シーケンシングの範囲としては、付記されない限り、文字通り、遺伝子の全長をシーケンシングするものである。単一遺伝子疾患が対象であるため、一旦、病的変異であることが検証されれば、優性遺伝か劣性遺伝の遺伝パターンにより、陽性となった患者はほぼ100%罹患する。決してアバウトではなく、単純でありながら、断定的で決定的な遺伝子検査なのである。ミトコンドリアDNAの場合だけは、ヘテロプラスミーにより、遺伝パターンが母性遺伝であることを、念のため、ここでも補足しておく。

 

 このため、個人向け遺伝子検査のことを、日本人類遺伝学会などが中心となって、DTC遺伝学的検査と呼ぶ傾向がある。DTCとは"Direct-to-Consumer"(「消費者直結型」)の略記である。また、日本人類遺伝学会は、補足的に体質遺伝子検査という呼称も用いている*。以下に、ヒットカウント分析を行う。20141121日の結果である。

 

"個人向け遺伝子検査" 9,270

"体質遺伝子検査" 5,340

"DTC遺伝子検査" 3,040

"OTC遺伝子検査" 389

"DTC遺伝学的検査" 369

"個人遺伝子検査" 116

"DTC検査" 105

"パーソナル遺伝子検査" 73

"体質遺伝子診断"10

"パーソナルゲノム検査"10

"消費者直結型遺伝子検査"9

"DTC遺伝学的診断"8

"DTC遺伝子診断"8

"民間遺伝子検査"8

"消費者直結型遺伝学的検査"3

"DTC遺伝学検査"1

 

(参考) "DNA検査" 約 563,000

(参考) "DNA診断" 約 26,100

"体質DNA検査" 約 16,300

(参考) "遺伝子DNA検査" 約 4,860

(参考) "DNAマイクロアレイ検査" 約 2,610

(参考) "マイクロアレイ検査" 約 822

"個人向けDNA検査" 約 86

(参考) "DNAアレイ検査" 6

"民間DNA検査" 6

"個人DNA検査" 4

"パーソナルDNA検査" 3

 

「(参考)」と記したのは、シーケンシングによるDNA検査を含んでいると考えられるものである。結果としては、非常に意外なことに、"体質DNA検査"がトップだが、これは"ヒト体質DNA検査""メタボ体質DNA検査"という商品名かもしれない用語に引きずられているようだ。これを特定の商品と関連付けられるため不適切と判断すれば、"個人向け遺伝子検査"がトップである。"DTC遺伝学的検査""個人向け遺伝子検査"に対してたった4%の検索結果数しか示さず、数値を調べると、日本医学会が遺伝子検査という用語を認める*ように、"遺伝子検査"という用語は既成標準になってしまっている。ただし、医師を通さない場合は、"遺伝子検査"の前に"個人向け"と分かりやすい補足を付けることが、推奨されるべきであろう。

 

 上記のヒットカウント分析で、"遺伝子検査"の表記系列から1行空けて、"DNA検査"の表記系列を列挙したが、本著では、迷ったら全てまとめてDNA検査と呼ぶことにしている。DNA検査というのは、上記のヒットカウント分析から分かるように、様々な呼称が乱立する状況では、便利な用語である。ヒトが検査対象だと、よほど研究的な目的の検査を例外として、物質としてDNAを検査することは間違いないので、検査の範囲によって頻繁に呼称を変えるよりも、DNA検査と呼んだほうが容易である。DNA検査と呼んだ場合は、DNAアレイによるDNA検査なのか、シーケンシングによるDNA検査なのか、なるべく具体的な方式に言及することにしている。ひいては、医療機関による遺伝子検査の場合にも呼称を工夫して、遺伝子検査という混同を引き起こす用語はなるべく用いずに、代わりにシーケンシングと呼んでいる。そのシーケンシングの範囲を付け足して、mtDNAシーケンシングや、エクソームシーケンシングなどと呼ぶ。

 

 後々の節で示すように、既に欧米では高額の個人向け遺伝子検査ではエクソームシーケンシングの方式に移行しつつあるため、一部の遺伝子の更にほんの一部しか検査しなかった状況から、全部の遺伝子の全長を検査する方向へと近づいている。だから、「個人向け遺伝子検査」という用語は、将来的により理にかなった名称となるであろう。多少冗長な響きは気になるが、現在のところは、これが最も混乱が少ない呼称であろうと思われる。

 

 個人向け遺伝子検査の検査結果として、一例を挙げると、アルツハイマー病といったコモンディジーズに対して統計的に罹患確率を予測した数値が得られるが、この予測の手法のことをGWAS(ジーヴァス)(Genome Wide Association Study)と呼ぶ。GWASはあくまで「統計的」な「予測」である。だから、その予測の統計的な信頼性が大問題なのだ。GWASによる予測の確からしさ、あるいは、曖昧さは統計に用いる母集団としてどの人種・民族について何百人を調査したものなのかにより、占い程度の場合もあれば、どういった成人病の医療保険に加入すべきか示唆するようなかなり正確な場合もあるのである。

 

 2014年現在、日本で個人向け遺伝子検査と呼ばれているものは、知る限り全てGWASによる罹患予測確率が検査結果として表示されるものである。ほんの少しだけ例外があるのは、単一遺伝子疾患の病的変異も検査対象としてわずか含まれている点であるが、数としては少ないため、それに期待してこういった検査を購入するべきではない。残念ながら、そういった病的変異をごく一部だけ個人向け遺伝子検査の中に含むのは、検査項目の数を多く示したいという、主に商業的な理由によると思われる。そういった単一遺伝子疾患の広い範囲の検査に向いているのはエクソームシーケンシングなので、それについては後々の節で述べたい。

 

 個人向け遺伝子検査として具体的には、私が受けた23andMeが世界的に知られているが、日本では20158月現在、株式会社ジーンクエストによるGenequest、株式会社DeNAライフサイエンスによるMYCODEなどがあり、これらと23andMeについて、後の節でいくらか比較を行っている。前者が「大規模遺伝子解析」、後者が「遺伝子検査」と記されていて、やはりどちらも遺伝子を宣伝文句に用いていてその意味では良心的でない。また、GenequestOEMとみられるHealthData Labは「ゲノム解析」と表記してある。今回調べた中では、表記方法としては最後のものが最も良心的に思える。繰り返しになるが、「個人向け遺伝子検査」と「個人向け」さえ付記すれば、インターネット検索の既成標準に合致して、消費者に誤解を与えないように、医療機関による遺伝子検査とうまく区別することができる。

 

 GWASの原理を、次の図に示す。この図は、後に示す米国NHGRIからの図を改変して含んでいる。採血して白血球の中にある染色体を調べると、GWASにより、図の右下に示した染色体のどの部分が、右上のコモンディジーズの各疾患に関係しているか、およその検討がつく。この「およそ」の部分は、実際には限られた患者数の限られたSNPしか調べることができないことにより発生する曖昧さである。これが各検査会社で検査結果の信頼性が異なっている大もとの原因である。よりたくさんの患者を調べて、より多くのSNPを調べれば、より信頼性の高い罹患予測確率が出せるのだが、もちろんよりコストがかかる。その上、人種や民族で分けた方が信頼性が上がるので、全体的にヨーロッパ人を対象にしたGWASの学術論文の方が多い中で、日本人でどれだけ多くの患者を、どれだけ多くのSNPについて調べたかが最も重要な部分である。

 

 具体的には、次の図に示すように、患者の人数とDNAの遺伝型から、ある疾患に関係しそうなSNPを探す場合を考えてみる。SNP1について、3人の患者を調べると、遺伝型としてC2人、G1人であったとする。同じように健常者を調べるとC2人、G1人である。SNP2について患者C3人、G0人、健常者C2人、G1人である。SNP1SNP2ではどっちがこの疾患に関係していると言えるだろうか。SNP1は患者と健常者でCGの割合が全く同じであるため、全く役に立たない。その一方で、SNP2の方は患者でC100%、健常者でC66%なので、SNP2としてCを持っていれば、Gを持っているよりも、いくらか疾患に罹患する確率が高いということになる。したがって、SNP2の方がSNP1より役に立つ。しかし、これは、統計からの比較の問題であり、調べた人数やSNPが少ないと、かなりアバウトな結果しか得られない。その一方で調べるSNPを多くすると結局シーケンシングと同じぐらいコストがかさむことになってしまう。

 

 DNAアレイとGWASによる検査の原理を知ってしまうと、アバウトさに失望された方もおられると思うが、これはあくまで一例である。実際には、後述するように、検査会社は、十分な患者数、十分なSNP数が得られ、信頼性の高い結果が返せる検査項目については、信頼性を最高ランクとして4つといったように分かりやすく表示すべく工夫している。はっきり言ってしまうと最高ランクとして示されている検査項目以外はアバウトすぎて役に立たない。

 

 ともかく、この方法だと、ありとあらゆる疾患の罹患予測確率を出すことができるため、次の図のように、染色体上のGWAS地図が描かれ、年々詳しくなっている。

なぜ遺伝子そのものに言及せずに、SNPを使うのかについては、コモンディジーズでは複数の遺伝子の影響が絡み合って、遺伝子の特定が困難であるからである。このため、疾患と強く関係していると判明したSNPは、マーカーと呼ばれ、マークする物、という名前の通り、その近くに疾患の原因遺伝子の一つがあると思われるけれども、近くにあるということしか分からないため、とりあえずマークだけ付けた状態と考えられる。だから、個人向け遺伝子検査の宣伝文句に登場するSNPやマーカーというのは、決して遺伝子そのものではない。原因遺伝子の近くにあるであろうと思われる、単なるSNPである。そのSNPがどのぐらい遺伝子の近くにあるかというのが、検査会社が示す検査項目の信頼性に反映されるため、購入者が知りたい検査項目の信頼性がどんな記述になっているかが、非常に重要である。できることなら、購入前に調べた方がいいが、残念ながら、[コモンとレアの重症度分布...]の節で比較する例外を除いて、購入してからしか分からないことの方が多い。


23andMeの深刻な検査結果 - 統計の改善による影響

 この節では、23andMeから得た私の検査結果のうち、健康上のリスクをもたらす重要な検査項目について紹介する。それと同時に、その中に後で検査結果が大きく変更されたものがあったため、そういったことがDNAアレイとGWASに基づくDNA検査では簡単に起こることを紹介する。ただし、基本的には検査結果がより正確になっていくのは非常によいことである。

 

 次の図に示すのは、約2年半前の検査結果である。20123月の時点での23andMeによる私のアルツハイマー病(Alzheimer's Disease)の罹患予測確率は14.2%で、母集団の平均が7.2%であった。

 

 同じものを、20148月現在に表示させると、次の図に示すように、罹患予測確率は10.1%で、母集団の平均が4.0%である。この結果表示は"Health Overview"(健康上の概要)と名付けられているもので、健康に関する全体的な結果がまとめられていて、後々別のトピックで役立つと思われるため同ページの結果全体を示しておく。

 

 "See all 122 risk reports..."(全部で122あるリスクレポートを見る...)をクリックすると、次の図に示すように、"Health Risks"(健康上のリスク)のページが表示され、"CONFIDENCE"(信頼性)などの表記が追加されている。同じウェブページの中で上から"Elevated Risk"(平均より上昇したリスク)"Decreased Risk"(平均より減少したリスク)"Typical Risk"(平均的なリスク)に分かれている。

 2年半でアルツハイマー病の罹患予測確率が40%低下しているだけでなく、母集団の平均値も下がっている。2年半前の詳細が入手できないので、推測だが、これは当初主に白人を大多数として母集団を組んでいたのではないかと思われる。23andMeのブログによると、この期間に一度、20139月に、アルツハイマー病の検査結果を出すのに用いている学術論文を改めて、より正確なものに切り替えたことが記されている。現在では、詳細を表示させると、アジア人で母集団を組んでいることが表示された。詳細のページは複数のイラストを含んでいて意匠権が生じるかもしれないので画面をコピーするのは避けたい。

 

 後になって気付いたが、"Health Overview"や、"Elevated Risk"のウェブページ右上に"SEE NEW AND RECENTLY UPDATED REPORTS »"(新規および最近更新されたレポートを表示)というリンクがあって、開くとそういった検査項目だけをまとめたウェブページが表示される。

 

 "Elevated Risk"(平均より上昇したリスク)の画面の中で、一見して分かるように、どの医療保険に入るか決めるなど、実際に役立ちそうな検査項目は非常に限られている。私の場合は、上位に表示されている次の3つだけである。

 

Type2 Diabetes 4 46.5% 平均27.8%

2型糖尿病

Gout 4 35.7% 平均22.8%

痛風

Alzheimer's Disease 4 10.1% 平均4.0%

アルツハイマー病

 

これより下は、1型糖尿病*2.1%などと、2.11倍と確かに平均と比較すると大きな数値になっているのだが、患った覚えもないし、患ったとしても遺伝因子の影響が3%未満ということが検査結果として具体的に示されたわけで、環境因子の方が大きいであろうと思われるため、実質的には役に立たない数値と考えていいはずである。いや、遺伝因子がそんなに小さな影響しか及ぼさないことを知るのに、役に立ったと言えなくはないが。

 

 "CONFIDENCE"は、罹患予測確率の信頼性を示すの数による4段階評価である。表示した範囲で"abdominal aortic aneurysm"(腹大動脈瘤)以降は3と、一段階低い信頼性となっている。をクリックすると以下のように解説が表示された。

 

Research Confidence

研究の信頼性

 

★★★★

Established Research.

確立された研究。

At least two studies examined more than 750 people with the trait or condition and/or the associations are widely accepted in the scientific community.

この形質または疾患を有する750人を超える人口を調査した研究が複数ある、または、科学コミュニティで関係性が広く認められている。

The reports may cover rare conditions or include variants that do not greatly influence a person's absolute lifetime risk for a condition.

ただしその研究の被験者には、生命に大きな影響を及ぼすほど重症でない希少疾患や変異を含みうる。

 

★★★

Preliminary Research.

予備的な研究。

More than 750 people with the condition were studied, but the findings still need to be confirmed by the scientific community in an independent study of similar size.

750人を越える人口を対象として調査したが、まだ、同規模の独立した研究で、科学コミュニティにより結果を確認する必要がある。

 

★★

Preliminary Research.

予備的な研究。

Fewer than 750 people were studied. Multiple large studies are needed to confirm these findings.

750人未満の人口を対象として調査。これらの結果を確認するために、複数の大きな調査が必要である。

 

Preliminary Research.

予備的な研究。

Fewer than 100 people were studied. Multiple large studies are needed to confirm these findings.

100人未満の人口を対象として調査。これらの結果を確認するために、複数の大きな調査が必要である。

 

最後の1まで訳したが、実際には重要なのは43の違いである。この部分は、後々の節で23andMeと検査項目の比較をするGenequestによると、次のようになっている。「★★★★当該項目に関して750人以上を対象としており独立した研究を2つ以上含む報告があるもの、または科学研究コミュニティーにおいてデータの信頼性が広く認められているもの。★★★当該項目に関して750人以上を対象とした試験による研究報告があるもの。」 23andMeGenequestでほぼ同じ説明であり、この750人が何かの基準で決まっているのかと思って調べているのだが、とにかくGWASの学術文献として750人を対象にしたものが多いということのようである。誰かが特に決めたわけではなく、以前の有名な学術文献より統計的精度が落ちないようにするために、750人という基準が引き継がれている状態のようだ。

 

 「平均より上昇したリスク」の他に「平均より減少したリスク」および「平均的なリスク」についても、4を完全に含む形でスクリーン・ショットを示しておく。ただしこれらは「平均より上昇したリスク」に比較すると重要とは考えられない割に、詳細を検討するのに時間がかかるため、参考程度に示すのみである。平均よりも減少したり、平均と同程度のこれらの検査項目は、各検査項目を開いて参考文献をクリックし、その英文の学術論文の中身を読まないと、本来どのぐらい個人差がある数値なのか分からない。実は個人差がたいしてなくて、統計的な分散が小さいのに4になっているということもありうる点に留意する必要がある。

 

 また本著で頻繁に用いている罹患予測確率という用語は、私が23andMeの検査結果を説明するのに、"Risk"をリスクと訳しただけでは、具体的に何のことか分からないので、23andMeのいうRiskをなるべく誤解がないように訳を作ったものである。23andMeRiskの意味を、各疾患についての詳細のページで説明していて、アルツハイマー病の場合は、次のように非常に具体的に述べられている。

 

10.1 out of 100 men of Asian ethnicity who share * *'s genotype will develop Alzheimer's Disease between the ages of 60 and 79.

10.1%というRiskの意味は) * *さんと同じ遺伝型を持つアジア人男性の、100人のうち10.1人が、60歳から79歳までの間に、アルツハイマー病を発症するでしょう。

 

Riskのことを罹患予測確率と訳しているのは、誤解を招かないように多少冗長な表現になってしまっているため、もし日本の複数の学会で共通の呼称があればそれに読み替えていただきたい。

 

 私のアルツハイマー病の検査結果が2年半で大きく変わったことが示しているのは、母集団が細分化される等でより正確な研究成果が得られた場合に、23andMeはより正確な方の結果を提供していると思われるため、その意味では非常に良心的である。ただし、記憶している限りは、結果が更新されたことの通知は受け取っていない。後になって、23andMe"ACCOUNT SETTINGS"(アカウント設定)"Notifications"(通知)の項目が細かく用意されているのを知った。

この中で、"Health Updates"(健康上の更新)が実は極めて重要だったのだが、メール通知が多いとメールボックスが混乱することに頭を悩ませていたので、"Ancestory Updates"(祖先についての更新)という項目だけ読んで、引き続く項目はそれ以下の重要性しかないから読む必要がないと思ったのだと思う。英語を読むのが遅いので読み飛ばしてしまうのは、大きなデメリットであり、検査は日本語で提供されるに越したことはない。当時、ほぼ全てのチェックを外した状態だった。現在全部のチェックが入れてあるのは、Gmailでプロモーションタブができて素早く分けられるようになったためと、23andMeが販売停止の状態がいつまで続くのか、少しでも情報を得るためである。

 

 後になって、人種、年齢、性別、既往症などで母集団を分けた、以前より詳しい統計が出てくることは、年々起こりうる話になってきている。23andMeは、顧客に対して健康状態の詳細なアンケートを実施することで、外部の研究者と協力して顧客を対象にして研究し、新たな統計を作り上げようとしていた。このようにすれば、検査結果をより正確なものに近づけられるため、顧客に対して頻繁にアンケートに参加するよう宣伝していた。このように、私も確かに研究についての同意書にはオンラインで同意を示したし、同意することによって、耳の形やらいろいろと興味深い未確定の検査結果まで表示されるようになったので、面白いのは面白いのだが、とは言え、個人情報を含まないよう匿名化されているとは言っても、顧客にとってどこでどのように使われるか分からないアンケートについては、以前から根強い批判がある。手厳しい言葉を使うなら、これはヒトにおけるバイオプロスペクティング*行為というものに該当する。さらに対象者が患者でその患者のためになる研究という医療機関での研究と異なり、圧倒的に安価とはいえ99ドル(約1万円)という料金を支払った顧客からの情報を売り物にして行うのも、消費者保護上の何らかの規制に抵触するのではないかとも考えられる。23andMeが現在FDAから販売停止命令を受けている主な理由は、医師を通さずにアルツハイマー病といったかなりシビアな検査項目まで含んで販売した結果、顧客から検査の精度に関するクレームが予想以上に多かったという事情が主であるが、多少はバイオプロスペクティング的な部分も皆が神経質になっているということなのではないかと思われる。

 

 ともあれ、消費者の常として、99ドルという程の低価格を示されてしまうと、それに惹かれてしまう人口が圧倒的に多いもので、言ってみればアンケートを収集して検査結果の統計として業界トップを維持し、バイオプロスペクティングに対する警戒を解くための低価格と言える。はっきり言ってしまうと、現在の日本ではDTCDNA検査が黎明期であるから、価格の高い検査会社であっても検査項目の信頼性が高ければ、購入すべきである。しかし、今までに2008年の米国カリフォルニア州における規制強化を生き残った2社の中でも、Navigenetics23andMeとの価格競争に敗れたと思われる形でシーケンサーのメーカーに買収されている。さらに23andMeが大量のクレームを受けてFDAから販売停止命令を受けた現状をみると、最終的に価格競争と規制の間で生き残って、顧客の検査項目に対して継続的に統計を更新し続け、本当に買ってよかったと思える検査会社は非常に限られるという予測が成り立つ。

 

 現状では規制による市場からの撤退については、各遺伝子の長さの数%未満しか検査しないのに「個人向け」と述べずに「遺伝子検査」と宣伝している検査会社には早めに撤退して欲しいものだと私は思っているが、それ以外はどの検査会社もほぼ同じ条件であろうと思われる。したがって、薄利多売の価格競争に突入しても、生き残るであろう、資本系列の大きな検査会社の検査を購入するのが、「寄らば大樹の陰」「長い物には巻かれろ」「勝てば官軍」みたいで、格好良くはないが、最も賢明な選び方と言えるだろう。ただ、そうなってしまうと、市場が1社ほぼ独占となるのを許容してしまって、いろいろと悪いことが次々に起こると予想される。その会社が規制に抵触しそうなことを行った結果、クレームが多いと当局が止めることは今回のFDAによる介入で明らかになった。日本でも同じことが起こるだろう。しかし、バイオプロスペクティング行為については、止めた時点で既に顧客から得たデータはその検査会社の資産なので、後から無効にすることは困難である。1社独占によるバイオプロスペクティング行為を促進しないためには、複数の検査会社が存在し、互いに倫理面でも問題点を指摘し合う方が健全である。結局のところ、お金がある人たちは比較的小さな検査会社のものまで複数購入して比較し、各検査項目について信頼性の高い検査会社の方を自分の検査結果として利用すればいいが、貧乏な我々は寄らば大樹を探し続けなければならないだろう。お金のある人たちが比較的小さな検査会社からも購入して、信頼性の高い検査項目だけ拾ってくれれば、小さな検査会社についても、将来生き残っていく可能性が生まれる。

 

 こういう苦い現実的な見方をすると、一番巻かれたい長いものというのは、もちろん、グーグルの資本系列である23andMeなのだが、FDAによる販売停止命令をくらってしまった。米国がだめなら規制の緩い他国としてカナダをターゲットに据えているという記事があるが、日本には当分来ることはないだろう。DNA検査の結果は、統計が改善されれば変わるが、しかし基本のDNA配列は一生不変のものなので、やはり何十年も付き合っていける検査会社の方がいいに決まっている。現在は「量より質」が重要だが、すぐに薄利多売の競争となって中国へ解析を外注することになるだろう。その中で生き残っていくのは、ちょうどグーグルが唯一のインターネット検索アド大手として、薄利とみられるのに、スマホにまで手を広げてきた姿とかぶっている。だから、グーグルと同じ資本系列の23andMeが現在のようなことにさえならなければ、多くの世界人口にとってとてもよかったはずなのだが、やはり最大手の常か、米国政府と大きな衝突を招いてしまって現在に至る。さっきは23andMe1社独占と批判し、ここでまた持ち上げる理由は、23andMeでなければ、もっと酷いことになっていただろうと思えるからである。23andMe1社独占とは言え、いろんな会社が不祥事にまみれているこの世の中では、かなり不祥事が少ないはずである。実際、後々の節で述べる新型出生前診断のDNA検査会社シーケノム社は、5年前に大きな不祥事を起こしながら現在も最大手として幅をきかせている*

 

 多少細かい話になるが、上記では2型糖尿病、痛風、アルツハイマー病にしか触れていないが、胃癌といった食生活と強く関連している疾患は、日本の検査会社の方が、23andMeよりも圧倒的に信頼性の高い検査結果を出せるはずである。日系人の23andMe購入者は750人を超えていると思うが、胃癌の患者として日系人だけを750人も確保するのは困難と思われ、それに日系人の食生活もまた日本より欧米化しているだろう。DNA検査はあまり関係がなくて、アンケートからの寄与が多くなるのかもしれないが、食生活から胃癌の罹患率といった数値を出して、食事指導をするといったことは、日本の検査会社でしかできないことである。

 

 もう一つ、23andMeと日本の検査の現時点での違いは、祖先や家系をたどる機能を重視する点である。[23andMeのその他の結果]で少しだけスクリーン・ショットで示すが、具体的には家系図を描く機能がウェブ上で提供されたり、家族全員の検査結果を家族の一人がまとめて管理する機能が提供されている。これは人種のるつぼと呼ばれる米国での需要に応じたもので、日本ではこういった需要はほとんどないはずだ。近縁者が検査を受けるのには、生物学的に特別な意味があって、近縁者同士でよく似たDNA配列を比較し、さらに両者のアンケート結果を比較すると、比較的稀な多型であってもその影響を推測しやすくなる。

 

 ここまでが23andMeの検査結果の中から特に重要なものを紹介し、それが統計により後で変わった例である。希少疾患、薬剤反応、祖先といった、検査項目については、この次の節で紹介する。


23andMeのその他の結果

 前の節で23andMeの健康に関する結果のうち、一番重要と思われるところを示した。23andMeの結果の全体像が分かるように、その他の結果についても示したいと思う。全て2014年9月時点のスクリーン・ショットである。

 

 23andMeでは、結果は"HEALTH"(健康)と"ANCESTRY"(祖先)に分かれている。前の節では、"HEALTH OVERVIEW"(健康上の概要)と"HEALTH RISKS"(健康上のリスク)を示した。次に示すのは"DRUG RESPONSE"(薬剤応答)である。

 

 実際にはもっと下の方までウェブページが続いているが、研究の信頼性を表す★印が少ない項目ばかりなので示さない。水色の各項目をクリックすれば詳細が表示される。私の場合は血液抗凝固剤であるワルファリンに対する感受性が高いようだ。よく見るとこのウェブページの最後に小さなフォントで「研究と教育目的の情報で、診断用ではない」という旨の注意書きが付されている。医療機関でワルファリンを投与されるときに23andMeの結果を考慮するかどうかは、顧客の自己責任ということのようだ。

 

 次に示すのは"INHERITED CONDITIONS"(遺伝病)である。

 単一遺伝子疾患を中心にして、BRCAのがんの変異も一応含まれており、私の場合は全て"Variant Absent"(変異無し)と記されている。ただし、あくまでシーケンシングではなくDNAアレイなので、よく知られた一部の変異についてのみ検査した点に留意する必要がある。ここで「変異無し」となっていても、シーケンシングすれば疑わしい変異が見つかる可能性が存在する。各項目をクリックすればどの変異を検査した結果なのか表示される。BRCAについては以下の3つのみである。女性の場合もっとたくさん検査している可能性もあるかもしれないが、男性も女性も同料金の99ドルなのであまり期待しない方がいいと思われる。

 

 TRAIT(形質)を以下に示す。

 "ALCOHOL FLUSH REACTION"(アルコール赤面反応)をクリックすると以下のように詳細が表示された。なお、イラスト、検査結果の条件、ALDH2遺伝子の説明を黒塗りにしたのは、ウェブページの最下行で23andMeが著作権を主張しているためである。しかし、購入者が自分の遺伝型を他の遺伝型と比較しながら他人に説明するのに最低限必要な表現だけは、購入して料金を支払った限りはスクリーンショットとして示しても構わないだろうと考えた。

 検査結果の条件には、ALDH2遺伝子の1つのSNPだけを検査したので、アルコール赤面反応のもう一つの原因として知られるADH1B遺伝子にSNPがあってアルコール赤面反応を起こしやすい場合もあると記されている。ALDH2遺伝子のSNPというのが座位としてどこのことなのか具体的には記されていないが、"Citations"(参考文献)を調べれば分かるようだ。

 

 "HEALTH"の最後として"HEALTH TOOLS"(健康の工具箱)というウェブページがある。以下のように記載があり、今のところABO血液型など3項目が示されている。ABO血液型を表示させるとAO+という私の血液型がたしかに表示されるが、これがなぜ実験的と述べられているのか、詳細をよく読むと書いてあるのかもしれない。

 

23andMe Tools are features that may still be in development, require specialized knowledge or appeal to only some of our customers. We encourage you to try them out and let us know what you think!

23andMeツールはまだ開発中の機能です。専門的な知識を必要としており、お客様の中で一握りの方々だけにご利用いただきたいと考えております。ぜひお試しいただいてご感想をご連絡いただけると幸いです。

 

 次に"ANCESTRY"(祖先)に移ると、"ANCESTRY OVERVIEW"(祖先の概要)、"MATERNAL LINE"(母系)、"PATERNAL LINE"(父系)、"NEANDERTHAL ANCESTRY"(ネアンデルタール人の祖先)、"ANCESTRY TOOLS"(祖先の工具箱)と、5つのウェブページに分かれている。

 

 "ANCESTRY OVERVIEW"(祖先の概要)を次に示す。

 全体的に健康のコーナーよりも祖先のコーナーの方が凝ったイラストが多いので、コピーして貼るのはここまでに留めておきたい。ともかく、私は88.2%日本人で、12親等の血縁者が23andMeの顧客に5人いて、父も母も東南アジア由来で、ネアンデルタール人由来のSNPsが計算上は2.9%が含まれていて、日本人以外で遺伝学的に近いのは中国人とフィリピン人の順だそうである。

 

 なお、12親等の血縁者が23andMeの顧客に5人いるといったように、自分が他の顧客に表示されてしまうというプライバシーに関わる設定は、次に示す"MY PROFILE"(マイプロファイル)にある"Edit Profile"(プロファイルの編集)タブでかなり細かく切り替えることができるようだ。

 あまり使い込んでないので細かい部分はよく分からない。次のように"SETTINGS"(設定)のウェブページにある"Privacy/Consent"(プライバシー/同意)タブの"Sharing Options"(シェアする設定)というのもあって、ソーシャルな楽しみ方ができる仕組みのようだ。

 こういったプライバシーやシェアの設定が反映されるソーシャルなコーナーとして、"FAMILY AND FRIENDS"(家族と友人)というコーナーが用意されているが、私はあまり使い込んでいない上に、他の顧客の情報が部分々々に含まれるので、英語によるヘルプページへのリンクを示すのみとしたい。


エクソームシーケンシング

  本節では、1個人を対象にしたDNA検査として全ゲノムシーケンシングに次いで大掛かりなエクソームシーケンシングについて、稀な遺伝病を対象にした近年の応用のされ方や、次世代シーケンサーの原理の一つを紹介しながら述べる。

 

 mtDNA検査として、ミトコンドリアDNAの全長をシーケンシングはできたものの、病原性の高い変異と思われるものは、当時までにMITOMAPという米国にある変異のデータベースに登録されていた範囲では、見つけることができなかった。そこで、当時ヨーロッパのみに患者が存在していた比較的軽度の脂肪酸代謝異常症であるACAD9欠損症に疑いを絞った。少なくともタンデムマス検査でグルタル酸血症2型という陽性が出ているので、脂肪酸代謝異常症という同じ分類の疾患で、日本ではそれほど重度でないと見做されて診断からこぼれ落ちているのではないかと考えたのだ。2007年にACAD9欠損症の同定に至るまでのおよそ40年間の脂肪酸代謝異常症の年表を描いた。

数値による年数だけでは、イメージが全く沸かなかったため、テクノロジー分野でよく知られる出来事を比較対象として並べた。基本的には、この年表は図中に参考として示した以下の文献のものと同じである。

 

Gregersen, Niels, et al. "Mitochondrial fatty acid oxidation defects—remaining challenges." Journal of inherited metabolic disease 31.5 (2008): 643-657.

 

違っている点として、HADHAHADHBETFDHという3種類の遺伝子についてアスタリスクが付いているのは、脂肪酸代謝異常症の既知のタイプに、別の遺伝子によると判明したものも、年表に記したためである。疾患のタイプの名前ではなく、遺伝子名として図中に追加した。

 

 結局のところ、病気を引き起こしている変異が、どの遺伝子に載っているか分かってくると、遺伝病や希少疾患というのは、遺伝子を同定しないと学術論文として掲載されなくなっている。この傾向は、2003年の「ヒトゲノム一段落」と、2008年の「NGS(次世代シーケンシング)へ本格移行」が発表されていっそう強くなりつつある。しかし、昔は遺伝子を同定しなくても症例報告だけで掲載されたから診断して、現在は遺伝子が不明のままでは掲載されないから研究予算も出ないし診断せずに放置するというのでは、倫理として矛盾しているため、実際には遺伝子が同定されなくても、現場的に便宜的な診断名をつけて対処している医師も多いはずである。おそらく昔は診断基準が緩かったことを知っている高齢の医師にこういった例が多く、若い医師の方は頑なに遺伝子が同定できない限り診断しようとしない場合が多いはずである。「ヒトはヒトであるが故にヒトの病を患う」わけなので、医学生物学の根本原理から言えば、後者の方が本来の姿なのだが、前者の存在がなければ医師は自らの人間性を否定することになるだろう。しかし、便宜的に診断名をつける例はそもそも統計に出ないか間違った統計に含まれているため、調べても分からない。

 

 しかし遺伝子が同定されなかったり、診断が曖昧な要素を含みながらも、重症度などの条件を満たせば、分からない部分を分からないままに記しながら診断を出しておける場合もあって、特に新生児で「病型未定」「分類不能」とされている場合がそうである。新生児の先天性副腎過形成で病型未定というチェック欄§があったり、主に成人と思われるが脊髄小脳変性症の統計に病型未定が2*いたりしている。ただし、基本的にはあくまで例外扱いなので、それなりの重症度を持っていること、診断のための数値的根拠が固いこと、いままで病型未定でない診断を多数重ねてきた医師であること、などの条件がついてしまうはずで、主に新生児を大学病院で診断するときしかこういった扱いをしていないはずである。私個人としては、今までのようにガチガチに限られた範囲でしか「病型未定」を使えないというのは、「病型未定」という言葉が現在使われているという事実と自己矛盾を起こしていると思う。おそらく、希少疾患の特に稀な症例を稀だから診断できずに死んでもしょうがないよね、と考えずに診断するためには、疾患によらず重症度を客観的に評価する指標が必要なのだが、そういう特に複雑な指標を医師が専門性の垣根を超えてまで構築する気がないため、いわゆるタニマー的な患児は、これからも診断を与えられないまま、あるいは、恩着せがましくあまり関係のない診断名を与えられて、天に召されていくことになるのだろう。だから、自分の専門性に自信と誇りを持ち、年十年後かに自分の専門として診断すべき症例と考えたなら、思い切り良く「病型未定」や「分類不能」で診断して下さる医師が、普遍的な重症度指標が何十年後かに実現するまでの長い間、たった一つの希望と言ってもいいだろう。

 いや、もう1つ希望があった。たとえすぐには診断できなくても、それほど重度でない場合は逆に考えれば十分に時間があるわけだから、疑わしい変異を具体的に絞り込むことはできる。それがこの節で述べるエクソームシーケンシングである。

 

 ACAD9欠損症についての論文を検索すると、その多くにエクソームシーケンシングという言葉が登場している。もっとも有名な文献としては、Nature Geneticsという学術雑誌に掲載されている以下の文献と思われる。

 

Haack, Tobias B., et al. "Exome sequencing identifies ACAD9 mutations as a cause of complex I deficiency." Nature genetics 42.12 (2010): 1131-1134.

引用元 130 (201412月時点)

エキソーム:エキソームの塩基配列を決定したところ、 ACAD9 変異は呼吸鎖複合体Iの欠損であることが判明した

 

残念なことにウェブページの下にスクロールすると本文を読みたければ40000円支払うか、3300円支払うか、どちらかのボタンをクリックするよう促されている。ACAD9欠損症をエクソームシーケンシングで同定した文献として、代わりのものを探すと、先述の文献をうまくまとめて紹介しているものが見つかった。

 

Huang, K. "Exome sequencing expedites disease gene discovery." Clinical genetics 80.2 (2011): 133-134.

 

For the past several decades, genes underlying Mendelian disorders have been identified through traditional positional cloning strategies which often have reduced power because of the marked locus heterogeneity, small kindred sizes, or substantially reproductive disadvantage (1).

ここ何十年かの間、メンデル遺伝病の原因となる遺伝子は、伝統的なポジショナルクローニング戦略を通じて同定されてきたが、顕著な座位異質性(一つの単一遺伝子疾患に別々の遺伝子による患者がいること)、血縁者の数が少ないこと、実質的な生殖頻度の制限(substantially reproductive disadvantage)により、有効性を減じられてきた(1)

()

The authors went on and screened 120 additional complex I-defective index cases for ACAD9 mutations. Two additional unrelated cases and a total of five pathogenic ACAD9 alleles were identified; further supporting mutations in ACAD9 are associated with a mitochondrial disorder dominated by severe and generalized complex I deficiency.

著者らは引き続き、ACAD9変異を求めて、120もの更なる複合体Iインデックス症例をスクリーニングした。その結果2つの家系的関与のない症例、および、全部で5つの病原性のあるACAD9アレルが同定された。ACAD9中の更なる支持的な(supporting)変異は、重度で、一般に知られている意味での複合体I欠損症が主であるミトコンドリア病に関与している。

()

Follow-up clinical trial is needed to establish the efficacy of a supplementation with vitamins and cofactors in individuals with ACAD9 mutations. Albeit a very new technique, exome sequencing has already expedited disease gene discovery.

ACAD9変異を有する患者において、ビタミンおよび補因子サプリメントの効能を確立するために、フォローアップとしての臨床試験が必要とされる。非常に新しい技術にも関わらず、エクソームシーケンシングは、すでに病因遺伝子発見を加速している。

 

ポジショナルクローニングと言っているのは、平たく言うと家系を辿りながら、染色体を比較して病的変異を見つけることである。私も漠然としか理解していなかったので、ものすごく具体的な例で演習を行ってみることにした。[ダーウィンのUNdiagnosed]の節で詳しく触れるが、進化論を唱えたダーウィンその人が患った亡くなるまでに適切に診断されることがなかった病についての病的変異の探索である。ポジショナルクローニングの大まかな流れは遺伝研のウェブページにマウスの場合の解説がある。

 

"連鎖解析" 約 36,000

"ポジショナルクローニング" 約 11,200

"罹患同胞対法" 約 1,290

 

(グーグル、20141218)

 

特定の優性遺伝の疾患を想定しようとしたのだが、ダーウィンが疑われた疾患の中に分かりやすい優性遺伝のものがなく、よく考えれば分かりやすければ正しく診断されているはずなので、多少、ダーウィンのご一家には患ったわけでもない発症パターンを当てはめて失礼なのだが、それも有名税ということで、もしも優性遺伝で嘔吐症状が起こった場合を考えたい。嘔吐症状自体はダーウィンが患っているが、優性遺伝でも劣性遺伝でもなくmtDNAによる母性遺伝説が有力なようだ。

 

 ウィリアムとアンがチャールズ・ダーウィンと同じ嘔吐症状を患い、組換えという子の個性を作るための働きでチャールズの2本がほぼランダムな位置でつぎはぎされて子に伝わるので、チャールズと3人の子の染色体を調べたら、染色体のどの位置に変異が載っているか推測できる。幸い、ヘンリエッタが発症していないので、青い染色体の上半分と緑の下半分には変異はない。ウィリアムが発症していることから、青の半分から下1/4の間に変異がある。アンが発症していることから、青の下3/8から下1/4の位置にある。このように、ある程度範囲を絞り込んでからなら、従来のサンガー法といった遅いシーケンシングでも疑わしい範囲だけをシーケンシングすることができる。

 

 しかし、これは都合よく最初から優性遺伝の疾患と分かっていて、綺麗に父親からの染色体がうまい位置で組換わり、母親の方は無関係な特別な例である。実際には、エマはチャールズのいとこなので、チャールズと共通の染色体部分による劣性遺伝まで疑う必要があり、5人の家族の中だけでは、いくらも絞り込めない場合の方がはるかに多い。これに対して、言ってみれば力任せに最初からシーケンシングするのがエクソームシーケンシングである。しかし、エクソームシーケンシングにしても、家系内の発症パターンを考慮した方がはるかに検証実験が少なくて済むので、変異が載っている範囲を絞り込む考え方はとても重要である。

 

 なお、組換えとは、遺伝子組換え大豆の組換えと日本語では同じだが、英語では、RecombinationGenetically ModifiedGM)と述べられ、それなりに区別されている。日本語では前者は遺伝的組換えと記されていることも多いが、そうすると遺伝子組換えと混同しやすいため、本著ではただ単に組換えとしたい。

 

 ACAD9欠損症の論文に頻繁に登場するエクソームシーケンシングについて調べるうちに、この奇妙な名前の検査ではエクソンと呼ばれる、意味の解釈しやすいDNAの領域だけを効率よく検査できることが分かってきた。

DNA上にはタンパク質へと翻訳される単位として遺伝子が存在し、その遺伝子はエクソンという部分とイントロンという部分でできている。しかし、イントロンはタンパク質に翻訳される際に省かれるため、エクソンの方が重要である。たいていの疾患ではエクソンだけを検査すれば済むことの方が遥かに多い。しかも、エクソンはイントロンよりも非常に短い。これらエクソンだけを集めてシーケンシングする技術がエクソームシーケンシングと呼ばれている。Wikipedia日本語にはまだページがないので、英語版と、ある検査会社による日本語の案内を示しておく§。ゲノム全体に対して1%の長さしかないエクソームをシーケンシングするだけで、遺伝病の85%の病的変異が見つかるとされている

 

 日本語としてあまり普及しているとは言えない用語のため、この検査の名称としては様々なパターンがあるが、本著ではエクソームシーケンシングという名称で統一したい。念のためグーグルでヒットカウントを分析すると、以下の件数の順となった。

 

"エクソームシーケンシング" 1,190

"エキソームシーケンシング" 264

"エクソームシーケンス" 230

"エクソーム・シーケンシング" 167

"エクソーム・シーケンス" 100

"全エクソームシーケンシング" 10

 

 なお、最後に全エクソームシーケンシングと示したように、本著でエクソームシーケンシングは、ヒトのおよそ23000個ある全ての遺伝子のエクソンを対象にしたい。パネルと呼ばれる多数の遺伝子の組み合わせを対象とするエクソームシーケンシング*も存在するが、あまり普及していない割に話がとても複雑になるためである。また、シーケンスについては、確かに英語の"sequence"は動詞としても用いられるが、名詞で用いられる場合のことが多いため、動詞であることを強調するためにシーケンシングとしたい。

 

 エクソームシーケンシングより大型のDNA検査は、イントロンの部分を含んでいる全ゲノムシーケンシングである。これは2014年現在まだ100万円近い金額だが、「1000ドルゲノム」の掛け声の元に、世界で安価に大量処理できる次世代シーケンサーの開発競争が続いている。英語による1000ドルゲノムの解説Wikipediaから示しておきたい。

 

 ゲノム、エクソーム、プロテオームといった、見かけ上ギリシャ語的な接尾辞を持つ英語は、バイオ分野で頻繁に用いられるが、ギリシャ語というよりも英国のケンブリッジを中心とした有名な生物学研究室のバイオインフォマティシャンが流行らせた造語で、コンピュータにより大量の情報として取り扱うのに価値のある生物学的まとまりのことを、次々にこのように名付けている、ということのようだ。さらにこれに学問分野としての接尾辞がついて、ゲノミクス、プロテオミクスという用語もあるが、これらにもギリシャ語由来の深い意味はないようだ。ゲノムと哲学は共起表現であるかのような印象さえある*が、これは先に何かがあったわけではなく、現在我々が、生命倫理に絡んでゲノムと哲学の整合性をとる必要があるために、みんなが思い悩んでいるということなのだろう。読み進んでいただくにつれ、医療目的でない男女産み分けのための着床前診断の罪、ダウン症候群の未来、新型出生前診断が将来特定の塩基配列を持つ胚を間引くのに使われるであろうことの功罪といった、生命倫理の深みに入ってしまうことを、この辺りで予めお知らせしておきたい。哲学や宗教による主張ばかりで科学技術を全く扱わない方々とはなるべくなら距離をおきたいと考えているが、新型出生前診断も着床前診断も基本はDNA検査であり、また検査対象が遺伝性疾患なので、本著で、これらの話題はどうしても避けられない。

 

 エクソームシーケンシングや全ゲノムシーケンシングは、従来の1遺伝子ごとに行なっていたシーケンシングよりも、何百倍から何万倍のデータ量を扱うので、並列化により処理能力を向上させた装置が用いられる。従来の方法と区別するために、一口には次世代シーケンシング(Next Generation SequencingNGS)と呼ばれているが、装置のメーカーによって世界に何社かの間で方式の違った高速化の手段がとられているおそらくだが、次世代シーケンシングという抽象的な言葉は、ゲノムはヒトの本質に関わるため将来巨額の富や求人を生むと、装置開発に莫大な投資が行われた結果、類似の違った方式が大量にありすぎて個別に呼んでいられないためにまとめることに意味があるのだと思われる。

 

 次にポンチ絵として示す次世代シーケンシングの方法は、イルミナ社のものだが、自分がシーケンシングしてもらった装置の方式しか知らずに描いたもので、あくまで1例である。基本的には従来のスキャンする様なシーケンシングの方法と、DNAアレイによる複雑だが効率のよい方法の両方の特徴を組み合わせている。DNAアレイに近い考え方で容器の内側に固定した後にスキャンを行っている。1塩基ずつATCGを読みながら、最後のステップを繰り返すことで、下に向かって最後まで読む。

 ここまでマンガ的に描いてしまうと、こんな装置に人類の未来の医療がかかっているということが信じられないかもしれないので、世界最大級のDNA検査会社である中国のBGI社のラボがどんな様子か写真で示しておく。(By Scotted400 (Own work) [CC-BY-3.0], via Wikimedia Commons))これは香港支社のもので、冷蔵庫のような白い箱とその横の少し小さい黒い箱で1台のシーケンサーを成し、部屋の奥に向かって無数に並んでいる1台々々が1億円近い価格のシーケンサーである。一緒に写っている椅子の大きさと比較すると、机1個分ぐらいの大きさしかなくて、密集して配置することが前提の形状をしている。なお、妙な言い方だが、2014年現在、次世代シーケンサーの世代交代が起こっているので、20133月のこの写真では比較的古い型式のものが写っている。

 

 残念なことに、ゲノム全体をシーケンシングするより小規模だとは言っても、T助教にはエクソームシーケンシングといった手間のかかる検査までは面倒をみることができないと言い渡されてしまった。この検査を消費者直結型(DTC)として提供しようとしているのが、23andMeであった。その時点で、23andMeは、既存の顧客に限定した999ドルのエクソームシーケンシングの試験販売を、ちょうど締めきったところであった。募集に気づくのが、もう少し早ければと臍を噛みながら、とりあえず23andMeの顧客になるために、DNAアレイによるDNA検査を受けた。

 

 エクソームシーケンシングを実行に移す転機は思わぬ形でやって来た。2013年の歳末の候、DNA検査に関係するサイトだけでなく、日本でも多くの報道機関がFDAによる23andMeの販売停止命令を伝えた。唯一の主力商品で健康に関する情報提供が禁止され、祖先に関する情報を提供する目的でしか販売できなくなり、エクソームシーケンシングへと手を広げるどころではなくなったのである。

 

 23andMeがエクソームシーケンシングの販売を再開するのは、考えていたよりも時間がかかる様子となった。販売再開に期待をかけていた私は、結局2年ほど無駄に待ってしまったことになる。慌てて他の会社を探したところ、あくまで研究用と銘打ってはいるが、検体の採取方法として採血だけでなくオムニスワブを選択できる検査会社がたった一つだけ見つかった。そこはミトコンドリアDNAの検査を行った会社と同じ資本系列の検査会社で、当時はDNADTCという社名であった。現在ではグループ内の統合によりGene By Geneという社名となっている。

 

 実質的に選択肢はなくなったので、すぐに発注を行った。検査の料金が895ドルで、アライメントというデータ処理のオプションとして250ドルだった。合わせて、およそ11万円であるが、この金額が高いか安いかは人により意見が分かれるだろう。

 

 20131126日に発注をして、mtDNAの時と全く同じ方法で検体を採取・発送した。検体が到着したか検査会社に尋ねて、到着したと回答があったのは1211日であった。検査結果が出たのは、およそ12週後になる201433日であった。予定納期が810週間なので、mtDNAの時と同様に、予定納期より少し時間がかかったことになる。

 

 検査結果はFASTQBAMVCFという3種類のファイル形式で、FTPサーバから直接ダウンロードする形で提供された。そしてこの後、T助教が手間がかかるので無理とおっしゃったことの意味を、身を持って噛みしめることになってしまった。

 

 思っていた以上に人に尋ねないと分からないことだらけだったし、公称のカバレージという精度の指標として80xと示されていた割には、実質的な検査の精度は悪いことが分かって来た。カバレージを決定するエクソーム抽出キットとして希少疾患にあまり向かないものを使っているためかもしれない。いずれにしても、他に選択肢はなかったのだと自分を納得させながら、もっとも宛にしていたACAD9の遺伝子の変異がVCFファイルに含まれているか調べても、含まれていなかった。

 

 それでも、Gene-Talkというサイトのお陰で、歴史上今まで見つかった全ての変異のデータベースである、dbSNPと、私の変異の一覧との対照はとてもやりやすくなっているのを利用しながら、代謝異常を引き起こしそうな変異を数個に絞り込むとすれば、COA5UGGT1のそれぞれの変異からではないかと、とりあえずの検討をつけた。具体的には、人口頻度0.1%未満、劣性遺伝、OMIMに記載のあるものといった条件を適用した。ただ、この時点で、やはり今回のエクソームシーケンシングは、ちゃんとしたルートで医師を介して行えるように日本でも整備されるべきだと考えを改めるようになっていた。患者自身が、自分はどの病気に合うだろうか、といろいろな病気の悲惨な症状を見比べる、そしてエクソームシーケンシングの場合には膨大な量を見比べる必要があるというのは、精神的に無理があったのだ。

 

 すっかり良くなっていたはずのうつ状の症状を再発し、気がつけばアルコールを欲する様になっていた。なにしろ、目を覆うばかりの悲惨な症状ばかりを見比べたところで、自分が診断されるのは何十年も先かもしれないのだ。珍しい疾患の症状ばかり見比べるというのは、極端な話、このような世界だったのである。クリックされる前に、抗うつ剤を処方されている方々は処方量を守っていることを確認することをおすすめしたい。また、"rare diseases"で画像検索してあるが、決して希少疾患ばかりというわけでなく、文字通りの珍しい病という意味で感染症も多く含まれている。なぜセーフサーチオフのままでも、かなり残酷な症例が表示される仕様をグーグルがとっているのかについては、後の節で、推測を示したい。

 

 結局のところ、エクソームシーケンシングの将来性を学ぶことはできたが、これで診断ができるというのは先天性代謝異常症の中で、軽度とみられる私の場合、ずっと先のことになるだろうと思われた。それでも、もしかすると日本国内で上記の2つの遺伝子について臨床よりの研究をしている方がいるかもしれない。そう考えて、ここではダウンロードページを示しておく。もしもそういった研究者の方がおられればぜひご参照いただきたく思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。


コモンとレアの重症度分布 - アレル頻度とエフェクトサイズ

 本節では、コモンディジーズと希少疾患(レアディジーズ)の間の重症度分布を示し、結局コモンディジーズと希少疾患の間には希少性が連続して存在していて、中間の疾患も存在することを述べる。

 

 「希少疾患」とは、患者数が少ないことを特徴とする多くの疾患の総称であり、日本では伝統的に希少疾患の代わりに「難病」という名称が用いられてきたが、英語圏の文献を探す際には難病のことを希少疾患と読み替えて良いようだ。詳細は[希少疾患と難病...]の節でもう一度触れる。非常におおざっぱに言えば、コモンディジーズでないものは、全て希少疾患や難病であり、そもそも患者数が少ないのに種類がやたら多いものを、一般人が分類して覚えたり数えようとすることに無理があるのだろう。このことをDNA検査との関係で説明するために、次の図を描いた。

 

 横軸が変異の珍しさで、縦軸が変異の影響力である。もっと科学的には、横軸がアレル頻度、縦軸をエフェクトサイズとして描かれたものが様々な論文や研究室のサイトでみられる*。コモンディジーズと呼ばれている疾患は、2型糖尿病やアルツハイマー病など、人口の何割というほど罹患率の高い疾患のことで、一番下に示した通院の指標で言えば近い病院で済む疾患である。横軸として「関係する変異」と記したが、希少疾患や難病の場合は病的変異、コモンディジーズについては良性の多型、つまりSNPと読み替えていただきたい。

 

 コモンディジーズに関係するSNPについて補足しておかないといけないのは、1つのSNP当たりの影響としては軽症でも、たくさんのSNPが関係しているので、1個人としてはそれなりの重症度を持ってしまうということで、縦軸は一応1つのSNP当たりの影響なので軽症としているが、たとえばアルツハイマー病が進行するともちろん決して軽度では済まない。それに対して、難病や希少疾患の方は、単純に1つの病的変異当たりの影響が重度と考える。そして希少になればなるほど遠い大学病院に通院することになる。私が疑わしい変異はあれこれと見つかるものの、診断できなくて困っているのは、左下の水色の三角の領域である。この部分に入ってしまうと1つの疾患当たりの検査値としてはなかなか陽性が出ない割に、変異の検証実験に時間をかけないと病的変異と断定できないという、とてもやっかいな状況になる。この著作の主なテーマであるUNdiagnosedの状態である。複数併発してしまうと1個人としての重症度は中度でも、日本の現在の医療では放置される。右上の三角の領域は、誰でも保有する変異が重度の疾患を引き起こす場合で、そういう集団は、他の集団よりも生存率が低いために、過去において進化的に淘汰されてしまったので、今生きている我々にはあまり関係がない。

 

 コモンディジーズという呼称は、"rare"(レア)と"common"(コモン)を、変異の希少性と共通性、希少疾患とコモンディジーズにそれぞれ対応させてうまく説明したこういった図とともに普及したと思われる。元の用法としては、ありふれた疾患共通変異仮説から来ているようだ。日本語による解説*もある§。コモンディジーズは、近年DNA検査の普及にともなって、従来から用いられてきた普通の病気というニュアンスを含みながら、SNPの共通性に対応するべく再定義されて、用いられることが増えた用語である。

 

"common disease common variant hypothesis"  8,140

"ありふれた疾患共通変異仮説 213

"CDCV仮説 112

"Common disease-common variant仮説 104

"コモンディジーズコモンバリアント仮説" 2

 

(グーグル、20141218)

 

 ありふれた疾患共通変異仮説が主張しているのは、みんなが持っているSNPが、みんなが患う普通の病気に影響を及ぼしているという、一見すると当たり前の原理である。これは[23andMeの深刻な結果...]で述べた、個人向け遺伝子検査の4の検査項目に該当する。しかし、3以下といった、同じ750人という人数を対象に調査しても、うまくGWASで罹患確率が予測できない場合が存在する。これらの中で親子で同じ疾患の例がないものは遺伝因子の影響が弱くて環境因子が支配的であると言えるのだが、親子で同じ疾患を患う例は、コモンディジーズが稀な変異により引き起こされていると考えられる。本著で既出の例を挙げると、[遺伝病とコモンディジーズの違い...]で述べたアンジェリーナ・ジョリーにより知られるようになったBRCA1の変異による乳がんが該当するようだ。乳がんのDNA検査としてDNAアレイによる検査では十分ではなく、比較的高価なシーケンシングを必要とすると言われる理由である。稀な変異はシーケンシングでしか調べることができない。こういったコモンディジーズの稀な変異は、先述の図の中で希少疾患とコモンディジーズの中間に位置すると考えられる。

 

 

 DNA検査を受けて罹患予測確率が分かる疾患ということで、コモンディジーズのうち2型糖尿病とアルツハイマー病だけを図に記したが、広く考える場合には感染症なども含まれる。アレルギーや感染症といった免疫系の疾患についても、アレルギー性鼻炎が親や兄弟姉妹と似たような抗原で似たような症状を示すように、発症のトリガーとしては花粉であっても、罹患しやすさと重症度は遺伝因子の影響を受ける。

 



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