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キツネ君 大受難っ!

パーン パーンッ
 

 

どこか遠くで、ライフル銃を打つ、乾いた銃声音が響いています。
 

 

パーン  パーンッ パパーンッ
 

 

今朝はその音で目が覚めました。
 

キツネを駆除するため、ハンターがまたこの辺りへ

やって来ているようです。
 

最近、うちの家の周りでも頻繁にキツネの姿を見かけるようになっていました。
庭に埋めた残飯などを、時々掘り返していることがあります。
人を警戒している様子が無く、私の姿を見てもちっとも逃げようとしません。
 
以前うちのネコと一緒にエサを食べていたキツネ君でしょうか。

はた又、粘着式のネズミ捕りにくっついたキツネ君でしょうか。
 
それはよくわからないのですが、随分と人の住居近くで
生息の場を深めていることは確かです。
 
この周辺で、時々牧場の子牛がキツネにかじられるという話を
幾度か聞いたことがありました。
 
ほかにもいろいろと悪さをするということで、時折ハンターが
こうしてキツネを駆除しに来ているのです。
 
こんな時、私は何だか気持ちがドキドキして居ても立ってもいられなくなり、
今日もまた急いで外へ飛び出して行ったのでした。
 
私が出て行ったところで、何の意味も無いのですが、
キツネ君の身に危険が迫っているということに、
ただじっとしていることが出来ないだけです。
 
たしかに、大切に育てている家畜をかじられたりなんかしたら
飼っているひとは大変でしょう。
 
一方キツネも生きていくのに必死です。ことに冬は餌も無く
なんだってかじっちゃいたくなるのでしょう。
 
ただ、ひとつはっきり言えることは、
人間は動物たちから、その棲みかと生きる場である

広大な自然を奪い破壊してきたという事実です。
 

 

雪解けが進み、昨日まで黒々と表土を見せていた周りの畑も
今朝方降った雪で、また一面真っ白な銀世界に変わっていました。
 
これではキツネも、歩いていればその姿がハンターの眼に
ハッキリ映ってしまいます。
 
気の毒に・・・。もちろん、こういう時を狙って相手方も
やって来ているのでしょうが・・・。
 
「あっ、あそこにハンターがっ」
 
家の前の道路に立ってみると、そこから少し行った所にある
小さな雑木林の周りに、数台の車とハンターらしき人影が
ありました。
 
その雑木林は、昨日散歩をしていた時
ウサギが跳ね回っているのを見た場所でした。
 
「まさかウサギを撃っているんじゃっ!? 行ってみようっ!」
 
かわいいウサギちゃんを、そしてキツネさんを守りたいっ、
そんな思いがわぁーっと沸いてきて、いつの間にか
私は小走りになって駆けていました。
 
「ウサギを撃っているんですかっ!!?」
 
キモチが熱くなっていたのと、ずんずん駆けて来たのとで、
湯気が上がりそうなくらい、すっかり私は体中がぽかぽか状態でした。
 
「えっ、ウサギっ?」
 
優しそうな感じのハンターが、微笑むように言いました。
 
「まさかっ。この辺りでそんなことをしたら怒られちゃうよ」
 

「あっ、いたぞっ!向うへ走って行ったーっ!」
 

「追えーっ!」
 
茂みの中に隠れるようにしていたもう一人のハンターがそう叫ぶと、
みんなバタバタとそれぞれの車に乗り込みました。
 
そして畑の中を、遠く一目散に走っていくキツネを追って
挟み撃ちをするようにそれぞれの車が左右に別れ、狭い農道を
ブオォーッとぶっ飛ばして追いかけて行きました。
 
「キツネくーんっ、負けるなーっ! 絶対に撃たれたらダメだよーっ!」
 
私はキツネ君が走って行った方向を見つめながら、ぐっと唇をかみ締めつつ
心の中でそう叫んだのでした。
 
家の近くにやって来るいつものキツネ君は、どこかひょこひょことした

ちょっとクセのある歩き方をしています。
 
ですが、今必死になって逃げていくあの姿からは、いつものキツネ君かどうかは
わかりませんでした。
 
「ひょっとして私、ここに居たら撃たれるっ!? 危ないかもっ。
さっきの車、もう向うに回って、車内からこっち向きに銃を構えてるっ」
 
流れ弾にでも当ったらコワイので、私はもと来た道をトボトボと引き返し、
悔しいけれど、何か遠くの方で大声を上げながらキツネを追っている

そんな光景を、ただ横手に見ながら戻ってきたのでした。
 
「あぁ、こんなこと無きゃいいのに・・・」
 
家に入ってからも、キツネのことが気がかりで、私は窓辺に立ったまま
じっと外の光景を眺めていたのでした。
 
庭の中で、ネコのメダマ君がぽっちゃりとしたその体つきで、
ぶきっちょそうな格好をして、スズメを捕まえようとしながら
逆にからかわれていました。
 
小さい時、キツネ君と仲良くエサを食べていたネコです。
 
「メダマ君、君もキツネに生まれていたら、今ごろ鉄砲玉の飛んでくる中を
逃げ回っていたかもしれないんだよ・・・」
 
そんなやるせない思いを抱きながら、私はいつまでも窓辺に立ったまま
ため息をついていたのでした。
 
「んっ? あれは、さっきの車・・・」
 
窓から見える遠くの広い農道を、さっきの車がゆっくりゆっくり
走っては止り走っては止りしていました。
 
キツネが逃げていった方とは正反対の方向です。
 
「キツネ君、うまく逃げたんだなっ。やったねっ! あっ、でもそうとは言えないよね。
他のキツネを追っているのかもしれないし・・・」
 

外へ飛び出し家の前の道へ歩いていくと、その車がゆっくりと道を折れて
私のいる道へと走ってきました。
 

ノロノロ運転をしながら、キツネがいないかを探しているふうです。
 
やがて私の前をゆっくり走りながら、さっきの人とは別な人が
苦笑いをしながらこちらを睨んでいるようにも見えたのでした。
それは、私がめい一杯睨み返していたからなのかもしれませんが。
 

そのうち車の動きが慌ただしくなってきました。

 

わたしのいる道を挟むように、南に走る道と北を走る道路とに
何台もの車が走っては止り、動いては引き返したりをしています。
 
そして車から降りるなり、ハンターが道路わきの茂みに向けて
何発もライフルを発射していました。
 
私には良く見えませんが、この広い一角の中のどこかに
キツネ君がいるようなのでした。
 
遠く離れていますが、私も前と後ろから挟まれた格好です。
 
私とキツネ君、ピンチッ!
 
しかし、人がそこにいる以上むやみやたらに
撃ったりなんかはしないでしょう・・・たぶん・・・。
 
こうなったら邪魔してやれ~っ。(^^  コワイけど・・・。
 
案の定、車が一台こちらにやって来ました。
 
「ここにいたら危ないですよぉ~っ」
 
サングラスのおじさんがやんわりとそう私に言いました。
 
「私は毎日ここで体操するんですょ」
 
と言いながら、私がいつまでもそこで体をのびのびさせたりしていたので、
やがておじさんは、他の車と一緒に雑木林の方へ行ってしまいました。
 
と、思っているうち、私の家の裏あたりからキツネが突然現れ、
すごいスピードでこちらへ向かって走って来るではありませんか!
 
「あっ、だめだよ、キツネ君っ、今姿を現しちゃっ!まだ向うにいるんだ
見つかっちゃうっ!」
 
いつもだと、わたしの姿を見つけても、じっと逃げずにこちらを見ていたのに、
今は殺気走ったすごい眼をして、キツネ君は、両手を広げて止めようとしている
私の脇近くを猛然と突っ切って行ったのでした。
 
「あっ」
 
そのまま畑の中を突っ走っていくキツネ君を私が振り返って見た時、
獲物の姿をすかさず捉えたハンターたちの車が、
駆けて行くキツネ君をすごい勢いで追跡するように走っていきました。
 
そして畑の中を行ったり来たり、必死に走って逃げ惑うキツネ君を
何台もの車が徐々に徐々に追い詰めるようにしながら、
やがて、またあの雑木林の方へと両者がなだれ込む形となりました。
 
そして、
 
パーン パーン  パパパパパーーンッ 
 
乱れ撃ちに撃ち続くライフル音が、林の中でこだまになって炸裂し、
その後し~んとなりました。
 
「・・・キツネ…くん・・・」
 
やがてハンターたちは車に乗り込むと、ゆっくりノロノロ
またそれぞれ左右の道に分かれて走っていきます。
 
どうなったんだろう・・・。
 
私は、遠くからしばらくその様子を見ていましたが、
ハンターたちは、何度も首を傾げる様なしぐさをしながら、
どこかすっきりしない素振りを見せつつ、
日が暮れかかってきた辺りの様子を見回すと
これ以上は危険と判断したのか、( 私がチョロチョロしているし・・・)
今日のところはこれで帰ろう~、みたいなことを言いながら
やがて、連なるように走り去って行ったのでした。
 
「キツネ君は、どうなっただろう・・・」
 
私は雑木林の方へ行ってみようと途中まで歩いて行ったのですが、
やがて歩みを一歩一歩進めるたびに、何だか悲しく切なくなってきて、
それ以上前へ歩いて行くことが出来無くなったのでした。
 
そこに生えていた大きな木の幹に寄りかかり、

私は沈んでいく夕日をしばらくじっと眺めたまま

瞼の中に浮かんでくるキツネ君の小さかった頃の姿を

いつまでも心の中で追っていたのでした。
 

と、その時、
 
「あっ!」
 
畑の中をひょこひょこと歩いてくるキツネの姿がっ。
 
( やったっ、やったっ、生きてたんだっ!生きてたんだっ! )
 
立派な冬毛をふかふか揺らし、精悍な顔つきのキツネが
ひょひょいと小走り気味に、私のすぐ目の前を
横切っていくではありませんか。
 
( キツネ君だっ、絶対にうちに来るキツネ君だっ )
 
木の陰になっていて、キツネ君は私に気が付かないようでした。
あのひょこひょこと歩くクセは、間違いなくキツネ君です。
 
「良かったぁ、無事で・・・」
 
夕日に染まった橙色の畑の上を、キツネ君はうつむき加減で
どこまでもトボトボと走って行きました。

 

キツネ君.png

追いに追われて、肝を冷やし、つらかっただろうなぁ。
 

ずっと逃げ通しだったから、きっと何も食べられず、おなかも減っているだろうなぁ・・・。
 
キツネ君、今日一日おつかれ様でした・・・。
 
今度追いかけられたら、ネコの小屋の戸を開けっ放しにしておくよ。
 
そこに逃げ込めばいいっ。私の家の戸も全開にしておくからっ。
 
どこへでも飛び込んでおいでっ。絶対だよっ。
 
 
キツネ君の姿はやがて小さな黒い影となって
藍色に包まれた遠くの景色に溶け込み
消えていきました。
 

 

「たとえみんなが悪者扱いをしても、私は絶対に君の見方だからねっ!」
 

 


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