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ご挨拶

皆様こんにちわ、天見谷行人でございます。

「映画に宛てたラブレター2014年4月号」をお届けします。

毎月5日発行と謳っておきながら、発行日が一日遅れました事を深くお詫び申し上げます。私の友人が進めております、住まいに関するプロジェクトが、ある雑誌の眼に止まり、取材を受ける事になりました。プロジェクトの広報担当の私も、この週末からドタバタしてしまいました。今ようやく自宅に帰りまして、この映画レビュー集を取り急ぎ、発行している有様です。

また詳しい事は来月ぐらいに発表出来ると思います。

それでは今月の映画レビューをお楽しみくださいませ。なお、今月号は邦画部門がございません。来月号、魅力的な邦画に出会えるのを私も楽しみにしております。あしからずご了承くださいませ。 

2014年4月6日 天見谷行人

 


アナと雪の女王

2014年3月17日鑑賞

「人を想う心」は凍らせないよ

 

第86回アカデミー長編アニメ映画部門で、宮崎駿監督の「風立ちぬ」を抑えて、見事オスカーを勝ち獲った本作。いったいどれほどの素晴らしい出来映えなのか? 2D版を劇場で鑑賞して参りました。

とある王国でのお話。

美しい二人の王女がおりました。

妹の名はアナ(声優 神田沙也加)お姉ちゃんはエルサ(声優 松たか子)この王位継承権をもったエルサには秘密があります。

ある魔法を使えるのです。急逝された国王に代わって、王位につく事になったエルサ。彼女は心配でたまりません。

もし、自分の魔法が国中の人々に知られてしまったらどうしよう……。

そんな事も知らぬ妹アナは、姉の戴冠式に招かれた、12人兄弟の末っ子の王子に一目惚れ。いきなり、この初対面の王子と結婚する、と言い出します。それを知ったエルサは激怒します。

「何考えてるの? 絶対にダメ!! 私は許しません!」

その怒りが、固く封じ込めていた魔法の封印を破ってしまいました。激情は幾千の氷の刃となり、人々を驚かせます。王宮はもとより、噴水までもが、一瞬で凍り付きます。エルサの魔法は国中を吹雪にしてしまいます。戴冠式は正に一瞬で凍り付きました。エルサは王宮から逃げ出し、たったひとりぼっちで険しい山に籠ってしまいます。

妹のアナは心配でたまりません。姉が封じ込めていた魔法を使わせてしまった。その原因を作ってしまったのはアナなのです。姉さんは私より、もっと、もっと、辛いに違いない。そう思ったアナは猛吹雪の中、姉エルサが魔法で作りあげた、凍てつく氷の宮殿を目指すのでした……。

と言う訳で、この作品、ミュージカル仕立てなんですね。

劇中歌を歌う、神田沙也加さんと松たか子さんの歌声。

これが、あまりに素晴らしすぎて、私みたいな中年おじさんは「う~ん?!」と首を傾げてしまうんですね。こんなに歌えるヴォーカリストは、ミュージカル専門の劇団でも、そうそういないでしょう。そう思って、疑り深いおじさんは、早速、お二人の別の楽曲を聴いてみたのです。

衝撃!! 

「ああ~、やっぱり、歌、上手かったのね~!」

ようやく納得。神田沙也加様、松たか子様に、お詫びの意味もこめて音楽は☆☆☆☆☆五つ星です!!

劇中、アナと一緒に氷の宮殿を目指す事になる、山男のクリストフとトナカイ、それに雪だるまの「オラフ」

この道化役であり「雪の精」とも言えるオラフは、かなりのハイテンションな演技。まさか声優が、ピエール瀧さんだったとは気がつきませんでした。

もちろん、本作はディズニー製作のアニメだけあって、子供から大人まで楽しめます。

ウィキペディアで調べたら、ピクサーってディズニーに2006年買収されているのですね。本作の総指揮はジョン・ラセター氏が担当。

彼が手がけた、世界初のフルCGアニメ「トイ・ストーリー」は大ヒットしましたね。

しかし、当初、僕は「しょせん、コンピュータで作った、人工的な画面」とタカをくくっていたのです。しかし、後にピクサーの「レミーのおいしいレストラン」を劇場で鑑賞したとき、衝撃を受けました。

あまりに美しい、パリの夜景に素直に感動いたしました。

本作での作画技法は、絵画の領域とは別の、CGでしか表現できない領域に達したのでは? と思わせるほどの出来映えです。

僕が最も感動したのは「氷」の表現でした。

湖の氷を切り出すシーンがあります。切った氷の断面に光が通り抜けてゆきます。その複雑な光の屈折。実写でも、ここまで見事に氷の質感と透過する光を、カメラに収めるのは至難の業でしょう。更には凍り付いた床の表現では、その表面に、うっすらと、きめ細かな霜がついているところまで分かりますね。また、エルサの宮殿では、クリスタルのような、きらめき輝く、壮麗で精緻な氷の建築を観る事が出来ます。

エルサはこの誰も近づけない、氷で閉ざされたお城に、一人閉じこもります。彼女の”孤独”と”閉ざした心”を象徴するもの。それがまさしく凍てつく「氷」なんですね。

その氷を溶かし、エルサの心に春を呼ぶものは……。

僕が映画を観るとき、いつも注目すること。

「この映画は、どういう精神、どういう哲学の元につくられているか?」

本作は「人を想う心」を大切にしたい、という作り手の”固い信念”が感じられます。そこは大変明快に、子供達にも分かるように描かれております。

過去、一連のピクサー・ディズニーアニメ作品。

「Mr・インクレディブル」では元ヒーロー達の悲哀を感じました。

「レミーのおいしいレストラン」では「フランスのエスプリ」を楽しませてくれました。「ウォーリー」では、おんぼろロボットが主人公。彼は人間によって出された命令を忠実に守って、何百年もの間、もくもくと廃棄物処理を続けてきたのです。この作品には哲学的な香りさえ感じました。そして、最新のCGテクノロジーは、本作「アナと雪の女王」で、美しさの極限にまで達したように感じます。

僕は2D版で鑑賞しましたが、3Dでも観てみたいものです。まだまだ、映画の進化は止まらないのでしょうね。

 

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆

配役 ☆☆☆☆☆

演出 ☆☆☆☆

美術 ☆☆☆☆☆

音楽 ☆☆☆☆☆

 

総合評価 ☆☆☆☆

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作品データ

 

監督     クリス・バック、ジェニファー・リー

日本語版声優 神田沙也加、松たか子、ピエール瀧   

製作     2013年 アメリカ

上映時間   102分

 

予告編映像はこちら

 

https://www.youtube.com/watch?v=fO2IfRohYaw


それでも夜は明ける

2014年3月21日鑑賞

歴史の闇に埋もれた黒人奴隷の魂に

 

いい映画ってのは、必ずと言っていいほど、オープニングシーンが眼に焼き付くんです。本作も良いですよぉ。

一列にずらりと並んだ黒人奴隷達。彼らはじっとスクリーンから、我々、観客を見つめています。そこに表情はありません。

「なにをやっても、無駄だ」というあきらめと絶望感が、このオープニングシーンのワンカット一つだけで表現されているんですね。

時は1841年。アメリカがまだ南北戦争に入る前のお話。

主人公ソロモン(キウェテル・イジョホー)は黒人ヴァイオリニストです。演奏の腕はいい。それなりに稼ぎもあり、妻と子供、一戸建ての家まで持っています。彼は黒人としては当時珍しい「読み書き」もできました。白人とも対等につきあっている様子は、まさに当時のエリート黒人層です。それはなにより、彼が奴隷制に批判的であった、アメリカ北部で暮らしていたからに他なりません。そんな平穏で順風満帆な「自由黒人」という暮らしから、ソロモンは突然、引きはがされてしまいます。

奴隷商人に拉致され、南部の綿花農場へ「商品」として売り渡されてしまうのです。

農場主のもとには、直接奴隷達を監視する「監督者」が置かれています。綿花の採取が少ない黒人奴隷、あるいは命令をきかない黒人奴隷は容赦なく、この監督者が罰します。ソロモンは何度か「転売」されます。いつかは家族の待つ、北部の我が家へ帰りたい……。そう思うソロモンは、ある日、カナダから来た白人労働者バス(ブラッド・ピット)に出会います。彼は奴隷制度に反対していた人物でした。ソロモンは、奴隷には決して許されていない「手紙」を書き、白人労働者バスに託します。この一通の手紙。自分がかつて住んでいた、北部の街に届いてくれれば……。ソロモンはかすかな望みを託すのでした。

本作では、映画作品として、描かねばならない事は眼を背けず、しっかりと描ききってます。観客として、観ているこちらまで辛い気持ちになるシーンもあります。

無理やり拉致され、商品として売買されてきた黒人奴隷達。彼らを監視する、白人監督。奴隷をいたぶる事を楽しむかのように、激しくムチ打つシーンがあります。更に白人監督はソロモンに、掟に背いた仲間の奴隷に対し「鞭打ち」を命じたりします。

また、女性の黒人奴隷の中には、白人から性的虐待を受ける者もでてきます。

農場主にしてみれば、費用は奴隷を買う時だけ。後は最低限の衣食住さえ与えておけば「労働力」は無料で手に入る。こんなうまい話はない訳です。そういう無料の奴隷労働力を使って、綿花や、さとうきびを生産する。19世紀のアメリカ南部は、いわば、奴隷労働で発展してきたという側面もあると思います。

本作「それでも夜は明ける」は、アメリカ合衆国の「闇の歴史」黒人奴隷制度を真正面から描きました。

しかし本作の魅力は、社会派映画的な側面だけではありません。

僕が特に印象的だったのは、本作の「絵の切り取り方」でした。スクリーンと言うフレームの中の構図、陰影の付け方。大変、絵画的で印象的なシーンがいくつもありました。

なお、音楽は「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのハンス・ジマーさん。今まで、圧倒的迫力で、全面に主張しまくる音楽を作ってきた人だと思ってました。本作では違うんです。

実はこの映画、ほとんど音楽を使っていないのです。

アメリカ南部の風景の音。木々のざわめき。

その中に黒い肌を切り刻む「ムチの音」が響くのです。

そして対照的な、静かで救いを感じる音楽。

これはスティーブ・マックウィーンと言う、才気あふれる黒人監督のなせる技なのでしょうね。

圧倒的な迫力を持つストーリー、映像、音楽、その三位一体感。

これが正に映画芸術なのだと思います。

最後に、歴史に埋もれた、多くの救われなかった黒人奴隷の魂にエイメン。

 

***以下余談

 

1977年、僕は黒人奴隷に関する、連続ドラマシリーズを観ました。アフリカの大地から、白人達が獣を扱うように、黒い肌の人類を網で捕まえ、帆船に積み込む。船の底に”丸太”のように縛り付けられ、見知らぬアメリカ大陸に運ばれる彼ら。

囚われた黒い肌の若者。彼は誇り高い部族の戦士になるはずでした。船旅の途中、激しい船酔いが襲います。同じく囚われた部族の先輩が励まします。

「しっかりしろ、誇りを持て!お前は部族の戦士なんだ!!」

この先輩も同じく、船倉に荒縄で”丸太のように”縛り付けられているのです。やがて彼らは「新大陸」アメリカに上陸。そこで奴隷として「売り買い」されてゆきます。

忘れもしない、このドラマのタイトルこそ

「ルーツ」

この連続ドラマは当時大変な話題となり、ちょっとした社会現象になりました。このドラマ以降「~のルーツは」という言い回しが、日本でも広まり、現在に至っています。

ちなみに邦画でも人身売買、奴隷を扱った映画が存在します。それが有名な溝口健二監督の名作「山椒大夫」です、ご参考まで。

 

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆☆☆

配役 ☆☆☆☆☆

演出 ☆☆☆☆☆

美術 ☆☆☆☆

音楽 ☆☆☆☆

 

総合評価 ☆☆☆☆

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作品データ

 

監督   スティーヴ・マックウィーン

主演   キウェテル・イジョホー、マイケル・ファスベンダー

     ブラッド・ピット

音楽   ハンス・ジマー

製作   2013年 アメリカ

上映時間 134分

 

予告編映像はこちら

 

https://www.youtube.com/watch?v=OKlE31ROTk0

 


大統領の執事の涙

2014年3月22日鑑賞

合衆国に給仕し続けた男

 

ハリウッドで活躍する黒人俳優の中でも、最も異彩を放つ「くせ者」それがフォレスト・ウィテッカー氏でしょう。

彼の演技をスクリーンでぜひ堪能したい。それが本作を観に行ったきっかけでした。

結論から言うと……。

フォレスト・ウィテッカーの「演技」は、それはもう、十分堪能出来る作品です。

ただしねぇ~。これは僕の好みだけど、演出が良くないのね。脚本は割とちゃんと出来てます。

主人公の少年時代から青年期、成人へと、いわゆる「順撮り」で映画は構成されてます。最近よくみかける、時間軸を行ったり来たり、という作品ではないので、その辺り「見やすい」「ストーリーの流れを追いやすい」のは評価出来ます。

ただしですね。インパクトに欠けるんですね。

主人公は後にその給仕の腕を買われて、あのホワイトハウスの給仕係として務める事になるのですが、僕が監督なら映画の冒頭、その給仕を引退する日から始めたいですね。

引退の日の朝。永かった、何十年も給仕一筋に勤め上げてきた、その仕事にお別れをする日。まさに万感、胸に迫る想いでしょう。老いを感じる自分に、おもわず、過酷だった少年の日々がよみがえる。

ここで少年時代のエピソードへ……。

なんて言う流れだと、それほど違和感なく、観客も自然にストーリーに入っていけるのでは? と思うんですが。

まあ、これは監督の趣味や手腕の問題です。

さて、主人公セシル・ゲインズ(フォレスト・ウィテッカー)は南部に生まれ育ちました。家族は広大な畑で黙々と綿を摘む。当たり前のように、そこを牛耳るのは、白人です。農場主の息子は黒人なんか、家畜、虫けらぐらいにしか思ってない。セシルはやがてその農場を逃げ出します。お金も持ってない。食べるものもない。彼は街をさまよいます。ひもじさには勝てません。彼はあるレストランに盗みに入り、捕まってしまいます。しかし、彼の幸運は皮肉にも、この「盗み」から始まるのです。腹を空かせた、ひもじいセシルを捕らえたのは、そのレストランに勤める、熟練の黒人給仕でした。彼に救われたセシルは、盗みに入ったそのレストランで、給仕見習いとして働き始めます。やがてセシルは、有能な給仕として抜群の働きを見せるようになります。

その後、首都ワシントンの一流レストランに転職したセシル。そこに二つ目の幸運が舞い込みます。たまたま、そこにいたホワイトハウス関係者が、彼の給仕の腕を見込んで

「ちょうど今、給仕に欠員があるんだ。君、ホワイトハウスで働いてみないか?」

もうこのお話、まさに黒人版のシンデレラストーリーなんですね、ここまでは……。

物語の時代背景は、1950年代、アイゼンハワー大統領の時代からレーガン政権までを中心に描きます。

ホワイトハウスでの給仕と言う仕事。当然の事ながら、そこは世界を牛耳るアメリカ大統領が、正に目の前で合衆国、そして世界政治を動かしている。その歴史の現場を目撃する訳ですね。当然、トップシークレット。だからセシルは自宅に帰っても、奥さんや子供に、仕事の事は絶対に話せません。

奥さんは、自分の夫がホワイトハウスに勤めている事は知っている。

黒人層としては、かなり裕福な生活も送れている。だけど夫の帰りはいつも遅い。これではまるで母子家庭のよう。自分だって、夫が勤めるホワイトハウスに一度は行ってみたい。ケネディ大統領の奥さん、ジャッキーにも会ってみたい。だけど、そんな希望も叶えられない。欲求不満から、奥さんは酒浸りの毎日。

セシルには息子が二人います。長男ルイスは大学へ進学。やがて政治活動に参加するようになっていきます。ホワイトハウスに務める黒人給仕の息子が政治活動?! それも当時、合衆国をゆるがした公民権運動に参加している。

父親であるセシルは、永年、給仕としてのトレーニングをしてきました。もう頭のてっぺんから、つま先まで「給仕」という仕事が染み付いている。その「枠」で自分を律しています。給仕の鉄則の一つ。

「自分はその部屋の空気であると思え」

空気は政治に関係しません。自分の意見も持ちません。ましてや、大統領のプライベートな発言も「聞かなかった事」にしなければなりません。そんな給仕としての自分も、家庭に帰れば、やはり一人の父親です。

奥さんの酒浸り。息子の政治活動。心配な事、気が滅入る事ばかりです。そんな複雑な心境の父親像を、フォレスト・ウィテッカーが実に丹念に、丹念に、演じ上げております。

せっかくのこれだけの演技。

本作で僕が最も残念に思うのは、演出面なんですね。

この物語はホワイトハウスに勤める、給仕の眼を通したアメリカ合衆国、正にその現代史なんですね。

時代には必ず重要なターニングポイントがあります。

我々が知っているような、ケネディ暗殺事件、ベトナム戦争、ウォーターゲート事件等など。本作では「ここであの事件が来るぞ」と言うときに、登場人物の説明セリフで、時代の大きな流れを進行させてしまうのです。これはちょっとねぇ……。

さて、本作はそのアメリカ現代史の側面、特に黒人がどのように「人間としての尊厳」を獲得していったのか? その歴史が語られていきます。多くの迫害されてきた黒人たちの想いは、一つの成果となって実を結びました。アメリカ合衆国の大統領に、アフリカ系アメリカ人、バラク・オバマ氏が就任。今や「黒人でも大統領になれる」という時代がやってきました。

永年ホワイトハウスに給仕として勤め、そして引退したセシル。彼はその功労を認められ、ホワイトハウスに「ゲスト」として正式に招待されます。彼の胸に込み上げてきたのは、いったいどんな想いだったでしょうか?

 

***以下余談

 

映画と言うのは基本、人物や、物の動きを見せるエンターテイメント、ないしは芸術であると思います。

一つ例を挙げましょう。

僕の好きな作品に、ロン・ハワード監督の「アポロ13」があります。実際に起こった、アポロ13号の宇宙空間での爆発事故を元にした作品です。

いよいよロケット打ち上げが迫ってきたとき、NASAは乗組員の一人に、感染症の疑いがある事を発見。急遽バックアップの乗組員と入れ替える事にします。その電話がバックアップ・クルーの一人にかかってきます。彼はちょうど、恋人と一緒にシャワーを浴びている真っ最中。

風呂上がり、受話器をとる予備の乗組員。緊急の連絡。いったい何が起こったんだ? と言うような不安な表情。眼は左右に泳ぎます。

キャメラは電話のある、広い部屋全景を”引きの画”で映します。その部屋の中、呆然と突っ立ったままの彼。腰にはバスタオルを一枚まとっただけ。

そして一言

「はい、分かりました」

彼は静かに電話をおきます。

キャメラはまだ、部屋全景を映しています。次の瞬間

「うぉぉぉぉー」

全身の力を振り絞ってガッツポーズ。彼は雄叫びを挙げます。

今までしょせん、自分はバックアップクルー。正規の乗組員と同じ訓練をしながらも、様々な雑用にこき使われてきました。しかし彼は、突然、アポロ13号の正規乗組員になりました。本当に自分は

「月に行けるんだぁぁぁ〜!!」

その喜びを表現した見事なワンシーンでした。このシーンでのセリフは「はい、分かりました」と「うぉぉぉぉ~」のふたつしかないんですね。でもロン・ハワード監督は、彼の天にも昇る喜びを、十二分に表現しました。これが映画の醍醐味なんですね。

 

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆☆

配役 ☆☆☆☆

演出 ☆☆☆

美術 ☆☆☆☆

音楽 ☆☆☆

 

総合評価 ☆☆☆

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作品データ

 

監督   リー・ダニエルズ

主演   フォレスト・ウィテッカー、オブラ・ウィンフリー

製作   2013年 アメリカ

上映時間 132分

 

予告編映像はこちら

 

https://www.youtube.com/watch?v=QJ3C6JCewAQ


ウォルト・ディズニーの約束

2014年3月24日鑑賞

ウォルトの魔法はいかがです?Mrs.トラヴァース

 

トム・ハンクスがついにウォルト・ディズニーを演じる!! どんな素敵な映画なんだろう? 予告編を観た時から期待で胸がいっぱいになりましたね。

本作はディズニーのミュージカル映画「メアリー・ポピンズ」の制作の裏側を描く物です。

実はこの映画、あくまでも主役は「メアリー・ポピンズ」の原作者、ミセス・トラヴァース(エマ・トンプソン)なのです。

彼女はディズニーから永年、熱いラブコールを送られ続けていました。

「メアリー・ポピンズ」を映画化したい!!

しかし、彼女の返事は「NO,NO,ノー!」

格式高い”英国人”ミセス・トラヴァースは、アメリカ人が好むディズニー映画を「子供騙しのマンガ映画」として、それこそ”忌み嫌って”いたらしいことがこの作品から伺えます。

彼女の元には、ディズニー側から既に映画化の契約書まで届いている。あとは彼女がサラサラッと、一行、サインをするだけ。

契約すれば大きなお金も入ってくる。自分の新作小説はなかなか筆が進まない。生活は苦しい。見かねた出版社の代理人は

「いかがです? ディズニー側と会うだけ会ってみれば?」

嫌なら、サインしなければいい。それだけの話。結局、彼女は権威と格式高い大英帝国から、お金と乱痴気騒ぎの大好きな無節操な国、アメリカに向かいます。

ウォルト・ディズニー氏は、当時既に広大なディズニーランドを築き上げていました。そこでは、様々なアトラクションや、スクリーンから飛び出したミッキー達と直に触れ合える。まさにウォルトが思い描いた夢の王国なのです。

「ようこそ!! ディズニーランドへ!!」

両手を広げて満面の笑みをたたえる成功者、アメリカンドリームの象徴、ウォルト・ディズニー氏(トム・ハンクス)

やがて格式高い”英国人”ミセス・トラヴァースは「メアリー・ポピンズ」映画化に向けて打ち合わせを始めます。

ところが、音楽担当のシャーマン兄弟にとっては、ミセス・トラヴァースはトラブルメーカー、まさに天敵。彼女は、この後、ディズニー・スタッフと丁々発止の大激論をかわすことになるのです……。

この作品、一見華やかで楽しそうに見えるんですが、実は、原作者のミセス・トラヴァースとウォルト・ディズニー氏の生い立ちや、幼い頃に受けた心の痛み、それが図らずも、映画化の打ち合わせを通して、露になってくる、と言う構成なんですね。

当然のように、回想シーンが随所に出てきます。その都度、ミセス・トラヴァースの幼少期と、1960年代を行ったり来たり。はっきり言って、かなりとっ散らかってます。

おまけに、格式高い”英国人”ミセス・トラヴァースの性格。とにかく頑固と言うか、偏屈と言うか、神経質な面があります。

英国とアメリカでは紅茶の入れ方にまで違いがある。

「まずミルクを入れなさい。その後、紅茶を注いで」

その紅茶を紙コップで差し出された「格式高い英国人」ミセス・トラヴァースは、

「とんでもないわ! 紙コップで紅茶を飲むなんて! 紅茶に対する冒涜よ!!」

改めてティーカップに入れさせます。まあ、こんな性格の人ですから、映画化に関する打ち合わせも、すべてテープレコーダーで録音させる徹底ぶり。

自分が愛する「メアリー・ポピンズ」を金の亡者、ウォルト・ディズニーに好き勝手させてたまるもんですか!!という姿勢なのです。

本作を観る限り、彼女は子供の頃から想像力豊かであったようです。そんな彼女を愛してくれた父親は、銀行に勤めていました。しかし勤務態度に問題があり、何度も転職。おまけにアルコールに溺れます。家の暮らしは傾き、ついには都市を離れ、一家は人も寄り付かないような田舎の一軒家で暮らします。

子供の眼に焼き付いた、父親の転落人生と悲劇。そして本当は英国生まれではない、自分の出自。彼女はいろんなコンプレックスを抱えていたようです。

打ち合わせでやってきたアメリカのホテル。ベッドサイドに並べられる、何種類もの薬の瓶。おそらく、誘眠剤や精神安定剤なのでしょう。

こんな過去を持つ彼女を、どう説き伏せ、映画化のサインをもらうか?

そこでウォルトは、格式高い”英国人”ミセス・トラヴァースと付き合うには、映画の話よりも、まず人として認め合う、理解し合う事が大切だと判断します。

ウォルトも決して幸せな少年時代を過ごして来た訳ではありませんでした。人間対人間で話し合う、ウォルトとトラヴァース。

「子供の頃、新聞配達をしていてね。寒い冬だ。雪は背丈ほど積もるんだよ……。君がメアリー・ポピンズを愛するように、僕も”ミッキー”ってネズミを愛してる……」

このシーン必見ですよ。

名優トム・ハンクスとエマ・トンプソンの、がっぷり四つに組んだ演技を堪能してください。

僕はこの作品、前半は正直、イライラするぐらいでした。

格式高い”英国人”ミセス・トラヴァースは、ディズニーの映画スタッフがどんな提案をしても、答えは決まって

「No、No、ノー!!」

いったいこの映画、どうやって着地させるんだろうと、心配になってきます。映画を観ると言う行為は、観客にとって、ある種のカタルシスや、高揚感を期待する訳ですね。本作では終盤になって、とうとうそれが実現します。

映画は紆余曲折を経て遂に完成。

「メアリー・ポピンズ」ワールドプレミア上映会。

レッドカーペットを歩くスター達。カメラマンのフラッシュの嵐。

その中を原作者として歩く、ミセス・トラヴァースとウォルト。

なんだか、僕たち観客まで報われたような気分になる作品でありました。

なお、本作のエンドロールは注目。

原作者と映画スタッフ達の、肉声を記録したテープレコーダー。

その実際のやり取りが、録音された当時そのままに再生されます。

最後まで観ないと絶対に損ですよ。

 

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆

配役 ☆☆☆☆

演出 ☆☆☆

美術 ☆☆☆☆

音楽 ☆☆☆☆

 

総合評価 ☆☆☆

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作品データ

 

監督   ジョン・リー・ハンコック

主演   エマ・トンプソン、トム・ハンクス

製作   2013年 

上映時間 126分

 

予告編映像はこちら

https://www.youtube.com/watch?v=iJrsmAdVFKA

 

 



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