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校長先生のヘッド

 

 

 ルルミの横顔を眺めると、その美しさに同性ながら溜息が出る

 

 すっきり通った鼻筋

 

 これ以上ないほど見事なアヒル唇

 

 嘘くさいほど長い睫毛

 

 彼女が、芸能人だと言われても、誰も疑いを持たない

 

 にもかかわず、ルルミはそういう世界に興味がない

 

 興味があるのは、もっと違うことだ

 

 

 

 

 たとえば、校長先生

 

 校長先生を見つけると、ルルミの様子がおかしくなる

 

 ウズウズ

 

 そんな気がしてならない

 

 何故、そうなるのか

 

 校長先生に恋でもしているのか

 

 あり得ない妄想に戸惑いながら、私は経過を見守っていた

 

 

 

 

 

 その理由を、ルルミが突然語りだしたのは、夏休みも目前の頃だった

 

 もう、汗ばむ季節ね

 

 ルルミは、そう漏らした

 

 

 何のこと?

 

 

 私が聞き返すと、ルルミは自分の両手をじっと見た

 

 たぶん、ダメだわ

 

 失敗する

 

 

 

 何のこと??

 

 私には、さっぱりわからない

 

 あれを、跳ぶの

 

 ルルミは、真面目な顔で答えた

 

 

 

 あれって?

 

 彼女の視線の先には、校長先生が歩いているだけだった

 

 だから、あれよ

 

 まさか……

 

 ルルミは悪戯っぽく笑う

 

 そう、そのまさか

 

 ダメよ、絶対

 

 

 

 

 

 常識を超えていた

 

 ルルミのやろうとしていることは……

 

 校長先生の頭上越えにちがいない

 

 先生の頭に両手をつき、跳び箱のように超えるつもりだ

 

 絶対ダメっ

 

 そんなことしたら、退学だよ

 

 

 

 するわけない

 

 常識的に、するわけない

 

 だけど、私にはルルミが跳ぶ姿を容易に想像できてしまう

 

 校長先生の頭に手をつき、颯爽と跳ぶルルミ

 

 スカートを翻し、それは白鳥にも負けない優雅な姿

 

 

 

 でも……

 

 

 

 ルルミの心配が理解できた

 

 見事なまでのスキンヘッドに、玉のように浮く汗

 

 それが、ルルミの試みを邪魔する怖れあった

 

 もしも、汗で手が滑ったら……

 

 

 

 ルルミは、白鳥にはなれない

 

 単なる突進者だ

 

 それに……

 

 

 手の置きどころが悪ければどうなる?

 

 校長先生の首を変な方向に捻ってしまう可能性がある

 

 だらしなく舌を出して、あらぬ方向を向く校長先生の顔

 

 そうなれば、ルルミは殺人者だ

 

 校長越えの欲求が、世間一般に理解されるのだろうか

 

 

 

 女子高生、校長を殺害す

 

 

 

 

 週刊誌の表紙を飾るショッキングな見出し

 

 目線を隠されたルルミの写真が世間に晒され、ルルミの一生は台無しとなる

 

 ああぁ

 

 止めなければならない

 

 それが、親友である私の務めだ

 

 

 

 

 必死の説得

 

 初夏の強い日差しが目に痛い

 

 ルルミの強固な欲求を、私の言葉が崩していく

 

 とりあえず時期が悪かろうということで落ち着いて、

 

 ルルミはアイスを買いに行った

 

 

 

 

 

 戻ったルルミが差し出したアイスは、甘酸っぱいオレンジの味だった

 

 私は空を仰ぎ、流れ行く白雲を追う

 

 冬までに、新たな説得材料を探さなければ…… 

 

 そんな心配をよそに

 

 ルルミはアイスを舐めていた

 

 こいつぅ

 

 私が肩を小突くと、ルルミは無邪気に笑った

 

 

 


奥付



女子高生ルルミのマジカルな日常


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著者 : 奇怪伯爵
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