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僕は飛び起きた。辺りは真っ暗。寝息だけが聞こえる。
相当汗をかいていたらしい。
リュウ・・・残酷な夢。でも僕はもう、リュウやはやみんから卒業しなければ。
現実を見るんだ!
玲音とリードに、僕は必要とされている。もう透明なんかじゃない!
誰かを守るのは、僕だ。

朝方、戸の所に顔色の悪いリードがふらふらと立っているのに気がついた。
泣き叫ぶ声がかすかに聞こえてくる。
「ジュナン、来てくれ。レインが・・・レインが・・・」

「お母ちゃん、お母ちゃん・・・」
レインが顔を真っ赤にして、白いベッドの上にうずくまり、泣いている。
不憫に思うが、どうしようもない。僕は人の命を生き返らせたりできない。
30代にして両親を失くした、統合失調症で喋ることもままならない玲音。
彼は今、地獄の血の海の中にいるようだった。
「どうして死んじゃったの・・・どうして誰も、誰もかも、僕を置いていくの!!」
リードが床にうずくまり、顔を伏せる。「真夜中からこれで、寝る事もできなかった・・・」
リードの方まで、少し具合が悪いように見えた。
「ぎゃああああああああああああああああ!!!!!」玲音がもう吠えるような声で
叫んだ。
「ジュナン・・・助けてくれ、助けて」リードは不精ヒゲを放置したままで、寝起きそのままの
髪型で、僕にしがみついた。リードは必死だった。

 


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大切な事を伝えたい時。僕にはこれしか思いつかなかった。
「レイン・・・ちょっと顔をあげてくれ」
「ジュナン・・・よくも、よくもお母ちゃんを殺してくれたな」玲音の中ではそういう妄想に
なっていたらしい。
「恨むぞ・・・死ね、この野郎!!!」
僕は、顔をあげてベッドから下り、ぐちゃぐちゃの赤い顔で、涙と鼻水だらけの顔で
僕に手を上げようとする玲音の手を下ろさせ、ぎゅっと抱きしめた。
大切な事を伝えたい時、僕ならハグをする。
リュウとはやみんと、してきたように。これが答えだ。
僕の体温が自分に伝わるのを玲音は変な表情で見ていた。辺りをきょろきょろ見回して
いた。
「うう、ジュナン、申し訳ないがあとは頼む。鬱で死にたくなってきた・・・リスパダール
飲んでくる」
リードはふらつきながら部屋を出た。
「でも、おまえが、おまえが・・・!」玲音はまだ理解していないようだった。
「それは違うんだ。よく話を聞いてくれ、レイン」
Tシャツ一枚で冷え切っていたレインの体があたたまってきた。
「両親を失くしたのは、本当に辛い事だと思う。そういう経験のない僕みたいな
ガキに慰められるものじゃない。でもこれだけは分かってほしい。僕は関係ないよ、
何もしてない。絶対に何もしてない」
「・・・じゃあ、何で死んだの?」玲音が半信半疑で言った。
「その話は僕は知らないけど。少なくとも僕が殺したんじゃないよ、僕はお前を守ろうと
してんだ。分かってくれ」
こんなに抱きしめているのに。
まだ、分からないのか・・・?


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「いいから聞け!」僕は怒鳴り声に近い声で言った。怒鳴り声に近い、ありったけの優しさ
をこめた声で。「お前は愛されるだろう。お前は大切にされるだろう。でも今のままじゃ
無理だ。病気のせいだけじゃない。お前が・・・」
玲音が僕の腕をすごい勢いで払いのけた。「黙れ、人殺し!!!!僕はちゃんと知ってんだぞ、
おまえがどうやってお母ちゃんを殺したか・・・」
「説明できるものなら、してみるんだな」僕は負けじと言い放った。
「やめろ!!」少しかすれた声。後ろから聞こえた。
「リード・・・」大声を出すのもやっと、という感じの、弱ったリード。戸のところに手をつき、
何とか立っている。
「もう何でもいいだろ。そのくらいにしておけ。まだわからないのか。ジュナンはそんな
事、決してしない」
「リード・・・わかったよ」玲音が頭を抱えて、床にうずくまった。「じゃあお母ちゃんは、
何で死んだの・・・?」
「それはお前しか知らないはずだ。お前は何も言わなかったから」リードは真ん中の
ベッドに倒れるように寝た。

「可哀想に、こいつは裏切られてばかりきたんだな」
リードのベッドの横で、僕は子守唄でも歌うように言った。
リードはぐったりしていた。話などあまり聞いていないようだった。
玲音は泣きじゃくって、「ごめんね、ジュナン、ごめんね」と繰り返していた。
「裏切られて、騙されて、また裏切られて。それで人をとことん疑うようになったんじゃない
かな。僕の勝手な推測だけど」
水色のカーテンから入ってくるやわらかい光が心地良い。

 


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今日はレノの様子が夜になってから変だ。
突然部屋の連中に自己紹介をしてきたり、よくわからない。
「俺、レノ。よろしくっす」
玲音の件で疲れ果てていた僕は、よく眠れた。

(一日後)

今日は買い物があったが、牛乳一本しか買わなかった。
どのみち冷蔵庫は無いし、牛乳が恋しいから買っただけ。小さい頃に捨ててて
本当にごめん。
あと何日も残っていないから、別にお菓子はいらない。

今日カフェテリアで会って、美貌の貴公子にびっくりした。
リード。ヒゲを剃っただけじゃなくて、いつものただのグレーのパジャマから、細身の
ジーンズに着替えていた。虚ろな目もなんとなく、いつもよりは力があるように思えた。
あとから玲音も来た。よく見ると、リードと腕を組んでいた。うらやましいな。
いつの間にそんなに仲良くなったんだ?
「病気はだいぶ良くなったみたいだな、リード」
「おお、ジュナンじゃないか。おはよう」リードが微笑んだ。
「ジュナン、おはよう」玲音も昨日の妄想はどこへやら、元気になっていた。

閉鎖だから虚ろというわけじゃないんだな。
閉鎖にもまだ諦めない人達がいっぱいいて、それぞれに個性があって、ケンカも
するけど、毎日を不自由ながらもなんとかして楽しもうとしてる。雑草だな。
水路の。水かさが増えると簡単に水没するような、雑草。でも生きようとしてる。壊れて
しまった毎日をなんとか組み立てようとする人々。たくましいな。力強いな。


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そういえば、最近僕の心の中の声が何も言わなくなったな。以前はよく僕を
殺そうとして善の声と闘い、僕の頭の中をぐちゃぐちゃにしていたのに、そういう
事は自然となくなった。順調に回復してきているのか。実感はないけど。

トイレの守り神様が話しかけてくるけど、何を言っているかまるでわからない。
どう答えたらいいのだろう。
内容じゃなく、滑舌が悪くて何を言っているかわからないお年寄りが多い。
古い抗精神病薬を使っていたせいかな。それとも僕もいずれそうなるのか?
でも、内容が分かっても怖いだけかもしれないけれど。

僕のベッドはエアコンに一番近く、暑い。我慢しなきゃな。
他の人は丁度良いと言っているから、僕一人の都合で温度は変えられない。
僕はもう24歳なんだ!自分の都合だけ主張していればいい時代は終わったんだよ。

とかいって暖房に耐えていたら、具合が悪くなってしまった。
熱があるかと思って、体温計をナースステーションに借りにきた。
「ようジュナン、大丈夫か」玲音といつも一緒にいるようになってから、リードの目には
力がいくぶん戻ってきていた。
部屋の人に暖房を切ってもいいかと尋ねたところ、OKだったので切ってもらったが、
8時過ぎにいつの間にか入っていた。看守、裏切り者・・・

 



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