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閉鎖の看守って、何でこうもキレ気味な人ばかりなんだろう?話しかけるとたいてい
「はあ?何ですか?」と返ってくる。キレ気味な人ばかりだ。結構怒る時の声がデカいし。

竜牙が退院してから、部屋にエルという30代後半くらいのおっさんが入ってきた。
気がつくと僕はここのベテランになっていたので、色々と説明した。関わってはいけない
連中の事とか。

缶コーヒーの匂い。いい香りだ。鼻を近づけてそのほろ苦い香りにきゅんとなる。
僕のコーヒーちゃん。3時のおやつで何か食べようと思ったら、待ちきれずに
結局コーヒーを買ってしまった。ブラックの小さめの缶のやつだ。
冷たい缶が僕の心を不思議と温めてくれる。恋の魔法だね。とか言っちゃったりして。
コーヒーの飲める所ならどこでも暮らしていけるような気さえもする。

今日はカラオケをやった。エルレのSpace Sonicを歌った。歌い終わったら
玲音やリードが拍手してくれた。名前も知らないみんなも。そんなに上手かった
とも思えないのだが。
B'zの曲を歌ったおっさんがとてもたくましく、みんな大爆笑してた。
そのうち別の一人がエアギターを始めた。
みんな笑ってた、久しぶりにいいな、この雰囲気。


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待ちに待ったあの日が近づいてくる。水の月27日。
僕の誕生日。偶然、その日が退院の日になった。
ここともそろそろお別れだ。

僕は家に帰るんじゃない、新たな場所に旅立つんだ。
とかカッコいい事を言っておいて、僕は少し寂しい思いでいる。
家に置いてきたものがいっぱいある。父さん、母さん、連絡のとれない姉さん、
僕の部屋、積み重なったアルバム、小さい頃からの思い出・・・
でもここに置いていくものもまた、たくさんある。解放と閉鎖のみんな、叫び声、
閉じ込められた生活、その苦い思い出。
苦い思い出も、思い出は思い出として帰りの車に持ち込めたらいいのに。
できないんだよ。

叫び声が聞こえて、誰かが「すみませんでした!」と怒鳴る!幻聴か?
怖いけど、誰も僕を傷つけようとする人なんかいない。そう信じて少し早いが寝る
事にしよう。就寝薬はもちろんもらうけど。その時は君が起こしてよ。

 


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月日が何事もなく過ぎてゆく。今日の朝は何もないのでヒマだ。
ここの人々の生活は、規則正しいが、どこか狂っている。
病室の戸を蹴る人。床に寝転がる人。独り言をぶつぶつと言って自分の世界に入って
しまってる人。突然奇妙な声で大爆笑しだす人。廊下に全部の荷物を置いてずっと
座ってる人。キ○ガイばかりだ。

唯一マシなのはリードだけに思えた。リードが青ざめた顔で言ってた。
「どうにかしてくれよ。前に俺がいた病院には鬱の奴もいっぱいいたのに、ここの病院は
まともに会話通じるのがお前しかいないんだよ。どうにかしてくれよな」
つまり、彼は「怖い」と言いたかったのだろう。年下に向かっては言いにくいようだった。
だから前からいたジュナンに救いと癒しを求めにきたようだ。
「前の病院はこんなんじゃなかったさ。病棟に鍵がかけられるなんて、そんなの」
「家畜、だな」僕はもはや余裕で返した。僕の表情はきっと、微笑んでさえいただろう。
「それに・・・レイン。あいつも可哀想な奴だよな。唯一の親族にも見捨てられてんだろ」
「レインか」僕は話題を変えた。「前お前のカフェテリアで座ってる席には、竜牙っていう
男が座ってたんだ。その話は聞いたか」
「そういえば、あいつリュウがいなくて何とかって言ってたな。そのリュウの事か」
「そうだ。そのリュウは、なぜレインが2年もここから出られないかを正確に見抜いてた」
「なぜ?」
「レインは被害妄想も強いけど、それ以上に繊細で、そしてもう一つ・・・」

 


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僕はリードの目をまっすぐ見た。影をたたえた、陰鬱な目。どこかぼんやりした目。
でも、この男、それだけじゃない。
「リュウは言ってた、レインは自分が見えてないって。自分が人の目にどう映るか、
見えていないって。だから、ガキみたいな殴り合いをしたり、人前で尻を見せたり
するんだって」
「それを俺に言うかい」リードがうつむいて、ますます寂しげになった。「俺は鬱だから
、普通に喋れるが、けど誰かを守れる余裕なんてないさ」
「別に、守れなくても構わないんだ。ただ、あいつは確実に、一人ではやっていけない。
僕の退院は27日だ」
「!」リードが目を見開いた。「すぐじゃないか」
「そう。だからその後は、お前が・・・せめて、レインの友達になって、支えあって
やっていってくれないかな」
リードはとても苦しそうな表情をしていた。僕はリードがまたパニック発作を
起こすかもしれないな、と思った。やはり、ここに来たばかりの病人には重過ぎる
のだろうか。
でもレインには、誰かが今すぐ、必要だ。

「リード、点呼の時間だから帰るよ」玲音が呼びにきた。「ここでは8時が点呼なんだ」
「ああ、待ってくれ」
「点呼か」僕はベンチを立って、廊下へコップを持って歩き出した。
「待ってくれ、ジュナン」リードの悲痛な声が聞こえる。

行かないで・・・


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朝、外でしまぞうが鳴いている。僕はタバコの時間で部屋に誰もいない事を確認し、
勝手に水色のカーテンを開けた。ミャーオ、ミャーオ・・・
悲しそうな声だった。しまぞう、どうしてそんな風に鳴くんだ?お前と出会った時の
事、抱き上げた時の事、思い出してしまうじゃないか。

病気の事をエルと話していたら、「君って、中卒?それとも、高卒?」なんて
聞かれた。大卒だよ!バカにしやがって。この男、40近くにもなって礼儀というものを
知らないようだ。
他にも、エルは言った。「あれ見てみな。絶対洗濯してないよ」
ブッチャーのぐちゃぐちゃに丸めてあるTシャツの山を指差しての事だった。確かに
僕はエルは嫌いだが、あのTシャツの山が洗濯を一度でもしてあるようには見え
なかった。ブッチャーは洗濯の仕方を本当に知っているのか?それすら疑問に
思える。

寒い。手がかじかんでくる。手に息を吐いて温めても、また冷えてくる。北日本は
もう雪が降るころかな。寒いけど、ここはコタツとか暖房はないのだろうか。
家に帰りたいな。ここにコタツや暖房を求めるわけじゃなくて、ただ家に帰りたい。
家に帰って、誰かと喋りたい。ここの人は温もりがないから。
と書いて驚く。僕にも喋りたい時があったのだなあ。

 



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