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あの障害の重さで、年金をもらっていない・・・!ジュナンには想像がつかなかった。
両親もいない。兄と連絡がとれない。こんな小汚いブタ箱の中で苦しそうな息を
して生きてる。本当なんだ、たまにシューッっていう苦しそうな息の音が聞こえる・・・
まともに喋る事もできない。聴いているだけで、健康な人の頭が混乱してくる
ような喋り方しかできないのだ。

嗚咽の止まらない玲音の肩に手をまわして、何も言わない竜牙。本当に心が
通じ合っているのだろう。僕はあんな風にはなれない。玲音のぼさぼさの茶色い
髪の毛とガサガサの肌を「汚い」と思ってしまう僕がどこかにいて、でも「助けて
あげたい」と思う心も一方でどこかにあって、せめぎ合っている。
竜牙の退院日が決まったらしい。後に残された僕は、本当に玲音を守れるのか?
僕が誰かを守る?そんな事ができるのだろうか。

さて、今日はお金の事ばかり考えていたから、お金の幻聴が聞こえるように
なってしまった。「おい、金出せ」みたいな。
事務所に金を振り込む手続きもあって、相当疲れてしまった。
そんな事イカれた奴にできるわけないだろ!早く寝るね。


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誰かにしょっちゅう名前を呼ばれるんだけど、誰もいない。
振り返ってみると誰もいない。どうしてだろう。
一気に寒くなってきたな。テレホンカードで公衆電話から電話して、母に
服の冬物を持ってきてくれるように頼んだ。

自分がしっかりしなきゃ。ここでは誰も支えてくれない。
二本の足で、しっかり立つんだ。
そう言いながら、食事の並ぶ列のところでいつも座り込んでしまう僕。
本当に自立できるのか?

とりあえずRed Hotを大音量で聴いてみた。昔の曲なのに古くないのは
どうしてだろう。僕の頭が2000年代でストップしているからかな。
アイドルにははやみんを除いてついていけないや。キャピキャピしてるの嫌いだ。
同性の曲の方が落ち着く。

一週間ぶりに風呂に入った。前回はサボタージュしていたから。着替えもいい加減な
感じで、下着は替えてるけど、上の服を替える気力がないほど鬱なときがよくある。
下もね。
今日は入浴にすべての気力を使い果たしてしまった。もう寝たいよ。
午後3時だけど。

 


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薬剤師と面談があり、長い時間かけて失ったものを再構築するために、
筋力が落ちているだろうから少しずつ運動を始めろと言われた。
なるほど、僕は筋力がないので、列に並んでいても座り込んでしまう。
それを何年もかけてまた作れというらしい。アホか。
やる気の失せるありがたーいお言葉だったわけだ。

部屋にいた時だ。しまぞうが外から鳴いてる。高いコンクリートの塀があり、どの
猫かまではわからないが、あれはしまぞうに違いない。
しまぞう、もう僕はそこには行けないんだって。ここは閉鎖病棟。外へは出れない。
お別れなんだよ。二度とおまえに会う事はできないんだ。ここは開かない窓の中
だから。本当に悲しいね、残酷だね。

水色のカーテンを開ける。ブッチャーやレノがタバコの時間でいないので、思い切り開けた。
塀の向こう側は見えないが、しまぞうは今日もどこかで鳴いている。
もう一度お前を抱き上げたいよ。でも、できないんだ。


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エルレのSalamanderはいつ聴くのが一番いいかと思ったら、夜聴くと一番しっくり来る気が
した。朝とか明るい時間帯にはあまり向かないようだ。
Salamanderを聴いて一日が終わる。今日はいろいろあったけど、楽しい事もあったな。全体的に
生きてる感じがあった。ただ寝てるだけじゃ、生きてる実感なんてないよ。色々と
不愉快な事も含めて起こるから、それが僕を目覚めさせ、やる気にさせてくれる。
明日も充実した日になるといいな。

神様から与えられた宿題なんてさ、やればいいんだよ。
赤点でもいいんだよ。ただ最後までやらないと。
僕はこういう、ごく当たり前の事に今まで気付かずにきた。
投げ出して逃げることばかり考えてたさ。でも逃げられなくなってようやく
気付いたんだよ。認めて乗り超えなければならない宿題がたまってるって。
完璧にできなくてもいいから、逃げちゃいけないんだよ。

ブッチャー、レノ、竜牙の3人が、タバコから帰ってきた。
「お前、何聴いてんだ」竜牙が言った。
「エルレだよ、ELLEGARDEN」
「それって有名なの?」ブッチャーがまばたきした。レノは「なんとなく知ってるかもしんないっす」
竜牙は「もしかしてお前、洋楽ロックとか好きな方?」
「ああ、洋楽も聴くな」
「俺、リンキンパークとかグリーンデイ好きだぜ」竜牙がフフッと笑った。
「僕もリンキンパーク好きだ。Numbとか」
「おお、それカラオケで歌った事ある」竜牙が目を輝かせて言った。
「I become so numb! あとなんだっけ」竜牙が笑うと、僕も楽しい。
「続き忘れたけどな」
「いろいろ知ってるっすね。ウォークマン見せてくれっす」レノが覗きこんだ。
「うわぁ・・・洋楽ばっかり、こんなにたくさん」ブッチャーも仰天していた。
「すげえっす。ある意味尊敬するっす。何曲になるんすか」
「容量いっぱいまで入ってるよ」
「紙に書いてメモっとくから、いいバンド教えてよ」
ブッチャーたち三人は紙に何かメモしたようだった。

竜牙・・・
ほんとにあと数日で、いなくなっちゃうんだな。
こんな夜は永遠に続きそうに感じるのに。
いつの間にか別れの朝が来て・・・

まだ、僕にはやり残した事がある。

 


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今日は同室のブッチャーと竜牙の調子が悪いようで、ブッチャーは何か
必死に質問をしてしがみついてくるのだが、まるで意味がわからないし、
竜牙は頭が痛いといって朝からずっと寝ている。休日なので、遊ぶ相手も
いないし、朝からずっとヨガでもやっていた。あんまり覚えてないけど、
他のみんなもそうだろう。
あとはストレッチ。言われた通りに、徐々に筋力を取り戻していこうと思う。

一番年長のブッチャーがさっきから布団に伏せて泣いているのだが、
どうすればいいのだろう。僕みたいなガキが軽々しく慰めたところで、怒られる
だけじゃないだろうか。

久し振りにコーヒーを飲まなかった。ミルクティーを買った。コーヒーを飲むように
なる前、子供の頃は自販機でミルクティーしか買わなかったほど、好きだった。
コーヒーの美味しい微糖のやつが閉鎖の自販機には無い。でもミルクティーが
美味しかったので、僕はコーヒーなしでもやっていけるのかな、と少しだけ思った。



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