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日のリハビリ室での勉強会では、幻聴や妄想について話し合った。眠かったけど、頑張って
発言した。自分の心の中の声が幻聴に近いものである事を聞けてよかった。
疲れてトイレに入ろうとしたとき、「トイレの守り神様」に服をつかまれた。
そんなに強い勢いでひっぱられたら、お気に入りのセーターが伸びてしまう。はじめ、
「やめて、やめてください」と言っていた僕も、ついに堪忍袋の緒が切れた。
僕は体術を習ったことがないので回し蹴りなんかはできないが、守り神様を両手で
つき飛ばし、更に繰り返し蹴った。手をグーにして殴った。「こいつになら勝てる」
という勝算があった。
守り神様をボコボコにしたところで、ようやくトイレに行く事ができた。

疲れて、しかもボケ老人にしがみつかれてヘトヘトな状態の僕だけど、僕は
何かしらの夢を見つけられるような気がしている。
閉鎖病棟。そんな所にも光は少ないながらも届き、僕はなんとか生きてるよ、
きらら、はやみん、G,アゲハ・・・!


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まだ若い、経験のない僕は入院すればすべて楽になって、穏やかに療養できるのだと
思っていた。ところが全然違うんだよ。

こうも休めないうるさい環境で、怒鳴り声と罵声、奇声ばかりの環境で、何が療養
だよ。ノイローゼになりそうだよ。クスリは僕に合ったけど、それだけ。家に帰りたい・・・

あの雷の日から、外は快晴のときも、どんよりした曇り空のときも、僕は夕方になると
透明な窓の前のベンチに座って、外を眺めるようになった。あれは、姉さんだったんだ。
姉さんだったんだ・・・!僕を忘れないでいてくれたんだ!
立ち上がって窓の外を見回すが、今日も誰もいない、日が沈み、辺りは少し暗くなりかけて
きていた。
林がざわめいて、音は聞こえないが、冷たい風が吹いている事は容易に想像できる。
こんな寒いところを、しかし解放病棟の人はたまに上着を着て通るのだった。
顔見知りもいたが、タイラーにはまだ一度も会えていない。会いたいな・・・

タイラーとずっと、このまま退院までいられると思ってた。しかし、入院はそんなに甘くなかった。
タイラー、寂しいよ・・・
窓の外は群青色になって、ほぼ誰も見えなくなった。夕食のアナウンスが入ったので、
トイレへ行って鍵の中に閉じ込められよう。夕食の時間だ。


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おはよう、朝だよ・・・こんな僕の所にも日が昇る。
夜明けとかは無論、見えない。カーテンをブッチャーたちが閉め切ってしまっている。
一人部屋のようにはいかないんだ。
朝は平等だな・・・外で見上げて空気を吸い込むなんてできないけど。

ラジオ体操をおバカな小学生よりずっと真剣にやった。
僕は真面目にやるのが好きで、かっこつけた中学生がたらたらやってるのを
見るのが嫌いだ。みっともないな。

話題変わるけど、何か一つを選ぶ事ってすごく勇気のいる事でないかい?
健常者のフリを捨てて、入院する事。世間の目を捨てて、障害者になる事。
凄く勇気の要る事を僕はすべて乗り越えてきた。そのかわりに得られたものも大きいし、
捨てたものについて後悔はしてないよ。僕はたくさんのものを捨てて、別のものを手に入れた。
まだ入院の途中だけど、なんとかなりそうだ。

昼食の頃、玲音がまた泣き叫んでいた。正直、自分の部屋にいても聞こえた。
何事があったのかと思って、玲音の部屋まで行ったが、他人の部屋には勝手に
入ってはいけない事になっている。それが、規則。
ベッドの上にうずくまる玲音を見ていた。「ジュナン、来てくれたの・・・?」
玲音は大声を出しつくして枯れた声で答えた。

竜牙にあとでその話をすると、「あいつ、実はな、障害年金もらってねんだよ・・・
大声ではいえないけどな。兄さんがいなきゃ本当に強制退院になるぜ。
申請が手遅れなのか、頭がやられててやり方が分からないのか、どっちかだな。
不公平だよな。あいつの方が障害重いのに。
せめて、両親がいりゃなんとかなったのにな・・・」

 


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あの障害の重さで、年金をもらっていない・・・!ジュナンには想像がつかなかった。
両親もいない。兄と連絡がとれない。こんな小汚いブタ箱の中で苦しそうな息を
して生きてる。本当なんだ、たまにシューッっていう苦しそうな息の音が聞こえる・・・
まともに喋る事もできない。聴いているだけで、健康な人の頭が混乱してくる
ような喋り方しかできないのだ。

嗚咽の止まらない玲音の肩に手をまわして、何も言わない竜牙。本当に心が
通じ合っているのだろう。僕はあんな風にはなれない。玲音のぼさぼさの茶色い
髪の毛とガサガサの肌を「汚い」と思ってしまう僕がどこかにいて、でも「助けて
あげたい」と思う心も一方でどこかにあって、せめぎ合っている。
竜牙の退院日が決まったらしい。後に残された僕は、本当に玲音を守れるのか?
僕が誰かを守る?そんな事ができるのだろうか。

さて、今日はお金の事ばかり考えていたから、お金の幻聴が聞こえるように
なってしまった。「おい、金出せ」みたいな。
事務所に金を振り込む手続きもあって、相当疲れてしまった。
そんな事イカれた奴にできるわけないだろ!早く寝るね。


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誰かにしょっちゅう名前を呼ばれるんだけど、誰もいない。
振り返ってみると誰もいない。どうしてだろう。
一気に寒くなってきたな。テレホンカードで公衆電話から電話して、母に
服の冬物を持ってきてくれるように頼んだ。

自分がしっかりしなきゃ。ここでは誰も支えてくれない。
二本の足で、しっかり立つんだ。
そう言いながら、食事の並ぶ列のところでいつも座り込んでしまう僕。
本当に自立できるのか?

とりあえずRed Hotを大音量で聴いてみた。昔の曲なのに古くないのは
どうしてだろう。僕の頭が2000年代でストップしているからかな。
アイドルにははやみんを除いてついていけないや。キャピキャピしてるの嫌いだ。
同性の曲の方が落ち着く。

一週間ぶりに風呂に入った。前回はサボタージュしていたから。着替えもいい加減な
感じで、下着は替えてるけど、上の服を替える気力がないほど鬱なときがよくある。
下もね。
今日は入浴にすべての気力を使い果たしてしまった。もう寝たいよ。
午後3時だけど。

 



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