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僕は、このキ○ガイ病棟の中ではマシな方の患者であるようだった。
前の病棟のレベルが高過ぎたのか。
でもこのくらいが意外とあっているのかもしれなかった。昨日の午後はわけの
わからない4人部屋にぶち込まれ、どうなるかと思ったが、3人は今のところ
他人行儀でも優しくしてくれている。現に僕は今のところ正気で、生きている。
クスリの飲み方も簡単になったし、掃除もないと聞いた。

リハビリ室で顔をあわせていたブッチャーはかなり年上のおっさんで、変わった
髪型をしていた。レノは物静かで表情に乏しいが、かなりのイケメンだ。まだ20代
だろう。
僕と一番気が合いそうなのが、竜牙。
しばらくすると、誰か知らない若者が部屋に飛び込んできたのでげっ、と思ったが、
竜牙の友人であるらしかった。玲音(レイン)という名前だと教えてもらった。
玲音はいつも相談する時、部屋に飛び込んでくるらしい。
玲音は竜牙の事を親しげに「リュウ」と呼んでいた。
「僕も『リュウ』って呼んでいいか」僕は尋ねた。
「いいぜ、何とでも呼びな」竜牙の表情はまさに兄貴そのものだった。

ここに、第一病棟三兄弟が成立することになった。
一番上が竜牙、次兄が僕、弟が玲音。年齢順ではないが、いつの間にか
僕らは兄弟になっていた。

 


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物を干す場所が少なく、外を散歩もできない。窓は10センチしか開かない。
廊下は鉄格子。誰かが戸を蹴りまくっている。
これが、閉鎖病棟。人間動物園の観賞用グッピーになった気分だ。
が、今日の気分はこれでも安定している。
トイレの大の方に行くと、トイレットペーパーが16個積んであった。
さすがに、こんなにはいらないだろう。

今日の朝食は、クロワッサンで美味かった。昨日より他の同室の人々も
落ち着いた雰囲気だった。
ムカつく看護師がいると、僕は逆にやる気になるようだった。売店で菓子を
買ったら「名前を書きなさい!」とサインペンを渡されて怒鳴られ、不思議と
生きてる感じが一瞬だけ戻るのは、僕がMだからなのだろうか。

解放病棟に入院すると言ったのは、僕だ。でも閉鎖までは望んでいなかった。
何で今は閉鎖病棟のベッドの上でこれを書いているのだろう。ここは地の果て、
地獄だ。
叫び声が聞こえるなんて当たり前、暴れる人がいたり、看護師がやたら厳しかったり・・・
僕も家畜だよ、父さん、母さん、姉さん・・・


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夕食前の閉鎖病棟はまるで人間動物園だ。家畜が「放送入った!?」と繰り返し
怒鳴る。叫ぶ。恐ろしいことこの上ない。そのうえ、老人が暴言を吐いてケンカが
始まる。コップの水が辺りに撒き散らされる。
竜牙のあとをずっとついていった。席も隣に座った。僕は今までの生活で、こんなに
ひどい叫び声を聞いたのは初めてだった。遠くの病棟から悪魔のような高笑いが
聞こえてくる。

入院患者には、すさまじく汚いコップを持っている人もいる。
でも僕はわりと几帳面なので、毎日コップをティッシュで拭いている。もったいないので
2枚に分けてね。
前のベッドのブッチャーが死んでるように見えて、リアルに怖かった。

竜牙のベッドの脇に座って話している時間だけが、僕のささやかな癒しだった。
「入院して困ったことって、何かあるか。俺は浴槽に入れねえことかな。
浴槽の中で便を漏らしやがる奴がいるらしい。それを聞いてから、一度も
入ってねえけど、更衣室が寒いぜ」
「僕は、・・・そうだなあ、ぶっちゃけ、4人部屋だとオナニーできないこと」
「ははは」竜牙は僕の肩をポンと叩いた。「お前、上品そうな顔して面白れーな。
いいぜ、何やってても。向こう向いてるからよ」
「僕は理性的な人間でありたいんだよ。失敗ばかりしてるけど。
プライドというものが・・・」
「はっはっは、俺までオナニーしたくなってきたぜ。お前本当面白れーな!
これからよろしく頼むぜ」
「おう、よろしく頼む」


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 腹に緊張感があり、吐き気がする。でも今日はよく寝た方だと思う。
4人部屋が知らない高齢者ばかりだったら嫌だけど、顔見知りなので
よかった。
僕は不器用で正直だから、隠すことなどできなかった。すべてを隠すことなど。
こうなるのは当然の成り行きだった。はやみんが悪いんじゃない。僕がはやみんの
温もりを忘れられなかったんだ。

今日は風呂の日。風呂に入るのはいつも怖いし、浴槽に入れないので寒い。
何とか保護室に行かないようにしたいのだが・・・
一日が、とっても短く感じる。車なら、こんな速度で捕まらないのかな?
と思うほど速い。もう昼の12時30分。短すぎる。
淡い水色のカーテンの隙間から光がこぼれて、ブッチャーのベッドのあたりに
反射する。きららは今頃何してるかな?病院の仕事ってどんなものだろう。
いつか、壊れてしまった僕を治してくれるかな・・・?

 


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閉鎖はトイレは綺麗だけど、人間というか一人の大人としては扱ってもらえない。
カフェテリアに食事に入ったとたん、鍵が閉められる。病棟の方へは戻れない。
小屋に閉じ込められる鶏や牛みたいな生き物だ。
カミソリも、使わせてくれない、面会のときにしろ、と言われた。

いつものように、廊下から叫び声が聞こえてくる。僕はキツい看護師をもう看守と
呼ぶことにした。つまり、看守に怒鳴られて、少し凹んでる。何かもう、嫌になる。
でも不思議な事に、それは死にたい気持ちと違った。生きたくてもがいてる小さな
小さな虫のような気持ちになった。ふざけんなよ、と叫びたくなるけど、コーヒー
でも飲んでゆっくり考えよう。

モーニング・ショットというコーヒーを買ってみた。病棟が変わってみたら、金の
微糖のアイスコーヒーがなかった。頭がぼんやりしていてホットを買ってしまった。
金の微糖には及ばないが、コーヒーを飲んでいる気にはなる。



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