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荷物をまとめ、カーゴのような大きな鉄の荷台に乗せて、第一病棟に入った。後ろで
金属製の重い扉のガチャンと閉まる音がした。ああ、僕の人生は終わった。
規則を、よく知らなかった。行為はもちろんダメだと分かっていたが、キスまでダメ
とは知らなかった。それとも誤解されているのだろうか。
看護師に「どっちが最初に?」と聞かれた。僕は迷ったが「僕です」と答えた。
はやみんにまで罪をかけたくなかった。
たぶん、僕が悪かったんだ。
そして僕は閉鎖に降り、はやみんはどうなったんだろう・・・

時計をなくしたので時間がわからないが、夕方であるようだ。
ここにはカーテンがあり、閉まっている。外の景色は分からない。
僕はついに家畜になったのだ。
カフェテリア前でコップを蹴りまくって怒鳴っているオヤジがいて本当に怖かった。

部屋はブッチャー、レノ、竜牙、僕の4人部屋だった。リハビリ室ですでに顔見知りの
メンバーだったので、自己紹介をする必要もなかった。
というより、僕は心労で疲れてしまっていて、書く気力が失せてしまったので、
今日はこのあたりでやめておこう。


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「なんだ、お前ら全員同じ部屋だったのか」僕は安心して言った。
「おうよ、俺が解放(病棟)に行くって話が出てたけど、俺は始めからその気無かった」
竜牙が空いてる隣のベッドに来る話は、確かに一度出ていた。僕は来ないと知って
やけに残念だったのを覚えている。
「もう少し早く来ればよかったのによ。あんなジジイだらけのところにいたんだろ、
お前」
竜牙は、30代半ばくらいのがっしりした体型の長髪の男で、この病室ではほぼリーダーの
役目を持っているようだった。
「かわいいやつだな」
「やめてくれよ」僕はいつの間にか、竜牙のベッドに一緒に座って会話していた。
話しやすい。誰の兄貴にでもなってしまう。そんな男なのだ。

カフェテリアに行くと、意味のわからない事を叫んでる人はいるし、大爆笑してる
人はいるし、怖い。でも数日前の僕もきっとあんなだっただろうな。
これが、僕の仲間のキ○ガイたち。なんとか夕食を飲み込み、クスリを飲んだ。
ずっと震えてた。竜牙のベッドに座って、恐怖をまぎらわすために必死で話しかけた。
時折聞こえる叫び声にビクッとする。僕は、何かの罰を受けているようだ。
リスパダール飲んで、早く寝たい。さっきからカフェテリアで誰かがケンカばかりしている。
聞きたくないよ。

アゲハもこんな所の中に閉じ込められて苦しんでるんだよな。なら僕も耐えてみせる。
もやしから雑草になってやる・・・!おやすみ

 


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僕は、このキ○ガイ病棟の中ではマシな方の患者であるようだった。
前の病棟のレベルが高過ぎたのか。
でもこのくらいが意外とあっているのかもしれなかった。昨日の午後はわけの
わからない4人部屋にぶち込まれ、どうなるかと思ったが、3人は今のところ
他人行儀でも優しくしてくれている。現に僕は今のところ正気で、生きている。
クスリの飲み方も簡単になったし、掃除もないと聞いた。

リハビリ室で顔をあわせていたブッチャーはかなり年上のおっさんで、変わった
髪型をしていた。レノは物静かで表情に乏しいが、かなりのイケメンだ。まだ20代
だろう。
僕と一番気が合いそうなのが、竜牙。
しばらくすると、誰か知らない若者が部屋に飛び込んできたのでげっ、と思ったが、
竜牙の友人であるらしかった。玲音(レイン)という名前だと教えてもらった。
玲音はいつも相談する時、部屋に飛び込んでくるらしい。
玲音は竜牙の事を親しげに「リュウ」と呼んでいた。
「僕も『リュウ』って呼んでいいか」僕は尋ねた。
「いいぜ、何とでも呼びな」竜牙の表情はまさに兄貴そのものだった。

ここに、第一病棟三兄弟が成立することになった。
一番上が竜牙、次兄が僕、弟が玲音。年齢順ではないが、いつの間にか
僕らは兄弟になっていた。

 


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物を干す場所が少なく、外を散歩もできない。窓は10センチしか開かない。
廊下は鉄格子。誰かが戸を蹴りまくっている。
これが、閉鎖病棟。人間動物園の観賞用グッピーになった気分だ。
が、今日の気分はこれでも安定している。
トイレの大の方に行くと、トイレットペーパーが16個積んであった。
さすがに、こんなにはいらないだろう。

今日の朝食は、クロワッサンで美味かった。昨日より他の同室の人々も
落ち着いた雰囲気だった。
ムカつく看護師がいると、僕は逆にやる気になるようだった。売店で菓子を
買ったら「名前を書きなさい!」とサインペンを渡されて怒鳴られ、不思議と
生きてる感じが一瞬だけ戻るのは、僕がMだからなのだろうか。

解放病棟に入院すると言ったのは、僕だ。でも閉鎖までは望んでいなかった。
何で今は閉鎖病棟のベッドの上でこれを書いているのだろう。ここは地の果て、
地獄だ。
叫び声が聞こえるなんて当たり前、暴れる人がいたり、看護師がやたら厳しかったり・・・
僕も家畜だよ、父さん、母さん、姉さん・・・


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夕食前の閉鎖病棟はまるで人間動物園だ。家畜が「放送入った!?」と繰り返し
怒鳴る。叫ぶ。恐ろしいことこの上ない。そのうえ、老人が暴言を吐いてケンカが
始まる。コップの水が辺りに撒き散らされる。
竜牙のあとをずっとついていった。席も隣に座った。僕は今までの生活で、こんなに
ひどい叫び声を聞いたのは初めてだった。遠くの病棟から悪魔のような高笑いが
聞こえてくる。

入院患者には、すさまじく汚いコップを持っている人もいる。
でも僕はわりと几帳面なので、毎日コップをティッシュで拭いている。もったいないので
2枚に分けてね。
前のベッドのブッチャーが死んでるように見えて、リアルに怖かった。

竜牙のベッドの脇に座って話している時間だけが、僕のささやかな癒しだった。
「入院して困ったことって、何かあるか。俺は浴槽に入れねえことかな。
浴槽の中で便を漏らしやがる奴がいるらしい。それを聞いてから、一度も
入ってねえけど、更衣室が寒いぜ」
「僕は、・・・そうだなあ、ぶっちゃけ、4人部屋だとオナニーできないこと」
「ははは」竜牙は僕の肩をポンと叩いた。「お前、上品そうな顔して面白れーな。
いいぜ、何やってても。向こう向いてるからよ」
「僕は理性的な人間でありたいんだよ。失敗ばかりしてるけど。
プライドというものが・・・」
「はっはっは、俺までオナニーしたくなってきたぜ。お前本当面白れーな!
これからよろしく頼むぜ」
「おう、よろしく頼む」



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