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イラーによれば、ここは周囲から「キ○ガイ病院」と呼ばれているらしい。
「確かに、キ○ガイだらけだな、ここは。何言ってるかまるでわかんなくて、正常な
頭まで話聴いてるだけでオカシくなっちゃうような奴ばっか」僕は声をあげて笑った。
「一般ピ-ポーには目のキラキラしてる人っているよね。でもここにはいないね」
「ああ、僕らは空っぽの器。虚ろな奴らばかりだよ。
タイラー、自分のどこがキ○ガイだと思う?」
「ここに入院してる時点でキ○ガイだよ」
「あはは、僕もそう思う」
僕はタイラーのどこかゆっくりした空気が好きで、退院するまでこんな生活が
ずっと続くと思っていた。
「ねえ」タイラーが視線をお茶に落として聞いた。「ジュナンは自分のどこがキ○ガイ
だと思う?」
「僕の目を見ればわかるだろ」
タイラーは子供でも見るようにそっと微笑んで、熱いお茶を飲み干した。
ウォーターサーバーでまたお茶をもらってた。何杯飲むつもりなのだろう?


108

今日はわりと落ち込みの少ない日だったと思う。明日は微糖コーヒーを飲めるかな。
診察もあるから、頑張らないと。誰かの遠い話し声を聞くと、自分の事を言っているようで
怖い。早く寝てしまおう。おやすみ

(1日後)

昨日もヤケ、今日もヤケ、明日もヤケなんだろうな・・・そんな感じだ。
一日の始まりは、ヤケだ。でも昨夜睡眠薬を三つも飲んだからよく寝れた。
僕は惨めで不幸なんだろうと思う。でも世の中にはもっと不幸な人達もいる。僕くらい
のレベルで死にたいとか言ってちゃダメだよな。

頭の中が騒がしい。何人かが会話している。ほんの小さな声なのに、とても
邪魔に感じる。
黒い今日着るシャツをぼんやり見ていると、あれ、ハートマークのシャツなんて
持ってたっけ?
よく見るとドット柄だった。目が、かなり乱れて見えているようだ。

そういえば、閉鎖落ちしたアゲハはどうなったんだろう?話は聞かない。
閉鎖は女子病棟で鍵をかけられているから、情報が伝わってこない。
閉鎖はうるさいところだと聞いた。怖いなあ。

最近、僕には分かってきた事がある。
一見、何がいいのか、何の役に立つのか分からないような人達がいる。(僕も
その一人かもしれないが)
犯罪者、僕らのような精神病者、高齢者、知的障害者・・・
でもそういう人達にもいいところがあって、そういう人達を愛する人もいるのだと
いうこと。だからむやみやたらに嫌って差別して、敵をつくるべきではないということ。
24年もかかって、ようやく一つの事を学習したよ。
自分が障害者にならなければ、一生分からなかったかもしれないな。

 


109

今日はリハビリ室で塗り絵と書道の日。どうせあっという間に終わってしまうだろう。
次は海の色を何で塗ろうかな?赤で血の海?黒?黄色?それもいいかもしれない。
思い切り、サイケな絵にしよう。

絵は意外とまとまってしまい、残念だった。というより、不思議な色使いだが、なぜか
優しい心や愛を思わせるような、美しい塗り絵になった。僕の心の中の風景が、
本当はこうなんだろうか。

窓の外から男の叫び声が聞こえてくる。ああ、あれは数日前の僕なのだ。うるさいと
いうより、むしろかわいそうでならない。あのときの気持ちをありありと思い出す。
もうやめて、苦しむのはもうやめてくれよ。いたたまれない。苦しかった事全部
思い出してしまう。

 


110

隣の部屋のオヤジが僕に何か怒鳴ってきた。ろれつが回らず、まるで何を言っているか
わからない。疲れたが、珍しく鬱にはならなかった。

部屋に冷蔵庫などもちろん無い。ホテルじゃあるまいし。
でも放置して生ぬるくなった牛乳と一緒にカロリーメイトを食べるのは、家で冷えた
牛乳を飲むよりもっとうまい。牛乳、家ではあまり飲まなかった。
今はどうしても飲みたくなる時がある。

オヤジが何で怒っていたかわかった。僕が掃除の時使ってはいけないバケツを
雑巾で汚してしまったらしい。僕がバケツの水を替えると、あっさり許してくれた。
そんなに悪い人ではなさそうだった。

売店でインスタントコーヒーを買おうとしたのだが、頭がどうも回らなくてなかなか
決められず、生活費の半分以上をぼったくられてしまった。これからどうしよう・・・
とりあえず熱いお湯をウォーターサーバーで注いで、水を注いで、飲んだら甘さが
少し足りなくて、クリープを入れた。白いクリープが島のようにアイスコーヒーに浮いて
いる。頭を壊すって、こういう事なのだ。


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リベンジした。今度はコーヒーの量を減らして、クリープを増やした。
薄味になった。もう生きてる実感がない。でも、生きなければ。
木に必死にしがみついてる落ち葉に、さらに必死にしがみついてる人のように
崖っぷちで、どうしようもなく、虚しさが募るけど、でも生きなければ。
死んでは、いけない。どうして始めからそう思っていたのに、死にたいなんて言って
ごまかしてきたんだろう。Gに言われたのを、忘れたのか。僕は自分に嘘をついてたんだよ。
生きたくて、生きたくて、もがいてるのに、周りは僕をどんどん地獄へ落とそうとする・・・

診察があった。どうして閉鎖じゃなかったのか尋ねると、先生は「閉鎖は叫んでる人が
いっぱいいるから、音に怯えてる蒼月君には向かない」とのことだった。
「ここで頑張ってみな」と励まされ、少しやる気が出てきた。今日は気分が本当に
いい。



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