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ケヴィンとは、最近よく話している。おっさんたちの間に一人だけ青年がいるので、
話しかけてみたら「42歳」ということでびっくりした。見た目が、本当に若い。
彼は、面白い人間だと思う。「君は、統合失調症に就職したの!だから年金もらえてるの!」
他にも、名言がいろいろ飛び出すのだが、残念な事に僕は忘れてしまった。
僕が話したのは、「自分の将来を考えると、死んでるか、自殺するか、精神病院
にいるか、作業所でも行ってるか、しかないよな」という内容だった。
現世の会話から離れすぎだ。わかってる。
「そういえば、○○がここ退院して彼女つくる予定だって」僕が切り出した。少し笑って、
「そんなに統合失調症は甘いもんじゃないよな」
「ああ」ケヴィンも何もかも知っているような顔で言った。

具合がかなり悪いのに掃除当番だったのが原因で、僕はついにキレてしまった。
机をひっくり返し、食事を散らかし、椅子を思い切り蹴った。他の食事中の
人には、今思うと大層迷惑だっただろう。
若い青年が奇声を発しながら机を蹴りまくる光景。マッドとしか言いようがない。
閉鎖落ちを覚悟したが意外とおとがめはなく、後で逆に仲間に励まされた。

確かに、虚ろな目をしている人もいる。でも全員じゃない。
何十年にもわたり入院しながら、未来へ希望をもって生きている人がいる。
自分も真似すべきだな。
というか一番虚ろなのは僕じゃないのか、周りから見て。
ああ、いっそう鬱になる。
鏡見ても分かる。目の焦点が、明らかに合ってない。

 


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今日は運動会。ふざけんなよ。
昨日はぐったりして寝た僕は、よく寝れた。朝5時、コーヒーを買う。
カロリーメイトをボリボリかじって、これを書いている。一番好きなのはフルーツ味。
次がメープル。でもどれも最高の味だ。
今日は運動会なので、もしも学校のように救護室などあればそこで寝ていたい。
看護師に尋いてみよう。
コーヒーの缶を開けた時、こぼしてしまった。着替えたばかりのトレーナーに、
べっとりコーヒーがついた。朝からこれか、嫌な予感しかしない。
しかし、さっきから雨が降っているような気がするのだが。中止になるかな?
風がないからまず大丈夫だと思うが、洗濯物は干しっぱなしだ。取り込む
気さえ起こらなかった。

昨日机を蹴って暴れといてなんだけど、僕はできるだけ善良な人でありたいんだよ。
はやみんに抱きつく気ももうないし、過去は変えられないけど、そういう思いはある。
病気が邪魔するんだよ。でも、病気に勝ちたい。少なくとも、成長したい。
愚者らしく、失敗からしか学べないけど、それでいいじゃん。背も低いし、弱いし、
マイナス思考でダメダメだけど、せめて善良な人になりたいよ。


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運動会は中止になり、明日に延期されることになった。
僕の中には今、いろいろな複雑な感情があるけれども、統合失調しているものを
あえてまとめて言えば、「疲れた」に近い。食器の返却の仕方がわからないほど
疲れている。これでは運動会も参加できなかったに違いない。

疲れきって自販機にミルクティーを買いに行ったら、ぼんやりして「あったか~い」
を買ってしまった。僕は熱い飲み物が苦手で、がっくりきた。いや、こういうときこそ
なんとか買いにこれた自分を褒めてやらなければ。

でも缶を開けたとき、すごくいい匂いがしたんだ。懐かしいミルクティーの香り。
コップに注いで飲むことにした。熱くても美味しい飲み物もあるのだなあ。
今日はミルクティーに浮気してしまった。でも僕の本命はコーヒーちゃんだから、
明日は買うからね!僕の初恋はコーヒーちゃんだったかもしれない。小学4年の時に
初めて飲んで、それ以来飲まずにはいられなくなった。

今日の午後は気分がいい。
そして珍しく「生きたいな」と思った。今日の夕食に出た切り干し大根の
人参と煮たやつがめっちゃ美味しかった。生きて、病気に勝ってこの料理を
作れるようになるんだ。男の料理。僕は実は得意なんだぜ。

すばらしい人間や、ノーベル賞をとれるような人間・・・もうなりようがない。
僕ももう24になろうとしている。でも作業所に通って美味しいお菓子を作る
人間になるなんて、夢の見すぎではないだろう?
今日は何か前向きな事を書いてしまった。僕の目の前を覆っていた霧が晴れて、
少しだけ未来が見えるようになった気がする。今夜は。

 


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実は、はやみんとはあまり会っていない。僕の大好きだったアイドルが、何か
訳の分からない精霊の話をしたり、暴れたり、そうやってどんどん苦しみにはまって
ゆくのが、耐えられない。見ていて辛い。
高校生だった頃の僕は、初めて買ったCDにキスしたっけ。あのときは若かったな。
もうそんなに経つんだな、あれから。もう今のはやみんは抜け殻なんだ。ここにいて、
いない。ドキドキしなくなってしまったのが、もっと辛い。
淡い黄色のドレスを着て、あの儚くも叙情的な声でで僕の心をグラグラ揺さぶってくるはやみんと、
優等生だった昔の僕。昔に帰りたいよ。

カフェテリアで夜、はやみんに会った。僕は心が痛いのを我慢して、勇気を出して、
近寄った。
「月が、ドイツとイギリスの間にあるの。でね、南京大虐殺はあたしのことなんだ。
ジュナン、どう思う?」
「・・・」僕は話をあわせる事にした。「いいんじゃないか」
「そうだよね、キャハハ、あたしもそいつらも疲れてんの」
少し笑うはやみん。ここに来た頃おしゃれだった髪型はいつの間にかボサボサに
なっている。でも・・・
その笑顔にわずかにキュンとなるのはなぜだろう。

 


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部屋に帰って少し泣いたけど、もう大丈夫だよ。黒い霧が晴れて、
あとは夜が明けて樹海から脱出するのを待つだけだ。いや待っていても助けは
来ないな。どんなに苦しく、痛くても歩いてゆかなければ・・・ずっと死にたいんだと
思ってた。でも、僕はずっと生きたくてもがいてきたんだよな。

月日はただ過ぎていく、僕の心を置き去りにしたままで・・・ああ虚しい・・・
夜明けを見ながらコーヒーを飲むのが僕の日常で、地上で唯一の幸せ。
でも今日は朝までとっておこう。5時過ぎまで寝れた。

そうだ、こんなにコーヒーちゃんが恋しくなるのは、音楽を聴いていないからに
違いない!エルレかいつものワンオクでも聴こう。ワンオクのライブにいつか行けたら
な。幻聴があるから、音に怯えてる僕の持てる夢ではないのかもしれないけど。
幻聴でぐちゃぐちゃでもいいや。ワンオクのライブ、行きたいな・・・
幻聴だらけのワンオクを聴いているうちに、だんだん怖くなってきた。知らない
女の声のハモリが入っていたり、笑い声が遠くでしたり・・・やはり僕の持てる夢では
ないのか・・・2曲でやめた。



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