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洗濯をしているどころではない。やる気も出ないが。目の前に積もっているのは
大量の洗濯物。僕は認めたくないが几帳面だから、ゴミ捨て、洗濯、掃除は
大好きだ。でも今日は何だか凹んでしまう。
干していると、何だかわからないが少しだけさっぱりした気分になった。
散歩に行こう。そうすればもっとさっぱりできるだろうか。

外は曇り空。グレーの雲がわりと低いところを覆っていたが、傘など持っていないのでそのまま
行った。財布だけを持って。
入り口を出たところでばったり担当の先生と会った。今の症状をお伝えしたところ
「そういうときは深呼吸」と笑顔でおっしゃったので、少し安心した。別に
クスリは増やさなくてもいいらしい。


100

ケヴィンとは、最近よく話している。おっさんたちの間に一人だけ青年がいるので、
話しかけてみたら「42歳」ということでびっくりした。見た目が、本当に若い。
彼は、面白い人間だと思う。「君は、統合失調症に就職したの!だから年金もらえてるの!」
他にも、名言がいろいろ飛び出すのだが、残念な事に僕は忘れてしまった。
僕が話したのは、「自分の将来を考えると、死んでるか、自殺するか、精神病院
にいるか、作業所でも行ってるか、しかないよな」という内容だった。
現世の会話から離れすぎだ。わかってる。
「そういえば、○○がここ退院して彼女つくる予定だって」僕が切り出した。少し笑って、
「そんなに統合失調症は甘いもんじゃないよな」
「ああ」ケヴィンも何もかも知っているような顔で言った。

具合がかなり悪いのに掃除当番だったのが原因で、僕はついにキレてしまった。
机をひっくり返し、食事を散らかし、椅子を思い切り蹴った。他の食事中の
人には、今思うと大層迷惑だっただろう。
若い青年が奇声を発しながら机を蹴りまくる光景。マッドとしか言いようがない。
閉鎖落ちを覚悟したが意外とおとがめはなく、後で逆に仲間に励まされた。

確かに、虚ろな目をしている人もいる。でも全員じゃない。
何十年にもわたり入院しながら、未来へ希望をもって生きている人がいる。
自分も真似すべきだな。
というか一番虚ろなのは僕じゃないのか、周りから見て。
ああ、いっそう鬱になる。
鏡見ても分かる。目の焦点が、明らかに合ってない。

 


101

今日は運動会。ふざけんなよ。
昨日はぐったりして寝た僕は、よく寝れた。朝5時、コーヒーを買う。
カロリーメイトをボリボリかじって、これを書いている。一番好きなのはフルーツ味。
次がメープル。でもどれも最高の味だ。
今日は運動会なので、もしも学校のように救護室などあればそこで寝ていたい。
看護師に尋いてみよう。
コーヒーの缶を開けた時、こぼしてしまった。着替えたばかりのトレーナーに、
べっとりコーヒーがついた。朝からこれか、嫌な予感しかしない。
しかし、さっきから雨が降っているような気がするのだが。中止になるかな?
風がないからまず大丈夫だと思うが、洗濯物は干しっぱなしだ。取り込む
気さえ起こらなかった。

昨日机を蹴って暴れといてなんだけど、僕はできるだけ善良な人でありたいんだよ。
はやみんに抱きつく気ももうないし、過去は変えられないけど、そういう思いはある。
病気が邪魔するんだよ。でも、病気に勝ちたい。少なくとも、成長したい。
愚者らしく、失敗からしか学べないけど、それでいいじゃん。背も低いし、弱いし、
マイナス思考でダメダメだけど、せめて善良な人になりたいよ。


102

運動会は中止になり、明日に延期されることになった。
僕の中には今、いろいろな複雑な感情があるけれども、統合失調しているものを
あえてまとめて言えば、「疲れた」に近い。食器の返却の仕方がわからないほど
疲れている。これでは運動会も参加できなかったに違いない。

疲れきって自販機にミルクティーを買いに行ったら、ぼんやりして「あったか~い」
を買ってしまった。僕は熱い飲み物が苦手で、がっくりきた。いや、こういうときこそ
なんとか買いにこれた自分を褒めてやらなければ。

でも缶を開けたとき、すごくいい匂いがしたんだ。懐かしいミルクティーの香り。
コップに注いで飲むことにした。熱くても美味しい飲み物もあるのだなあ。
今日はミルクティーに浮気してしまった。でも僕の本命はコーヒーちゃんだから、
明日は買うからね!僕の初恋はコーヒーちゃんだったかもしれない。小学4年の時に
初めて飲んで、それ以来飲まずにはいられなくなった。

今日の午後は気分がいい。
そして珍しく「生きたいな」と思った。今日の夕食に出た切り干し大根の
人参と煮たやつがめっちゃ美味しかった。生きて、病気に勝ってこの料理を
作れるようになるんだ。男の料理。僕は実は得意なんだぜ。

すばらしい人間や、ノーベル賞をとれるような人間・・・もうなりようがない。
僕ももう24になろうとしている。でも作業所に通って美味しいお菓子を作る
人間になるなんて、夢の見すぎではないだろう?
今日は何か前向きな事を書いてしまった。僕の目の前を覆っていた霧が晴れて、
少しだけ未来が見えるようになった気がする。今夜は。

 


103

実は、はやみんとはあまり会っていない。僕の大好きだったアイドルが、何か
訳の分からない精霊の話をしたり、暴れたり、そうやってどんどん苦しみにはまって
ゆくのが、耐えられない。見ていて辛い。
高校生だった頃の僕は、初めて買ったCDにキスしたっけ。あのときは若かったな。
もうそんなに経つんだな、あれから。もう今のはやみんは抜け殻なんだ。ここにいて、
いない。ドキドキしなくなってしまったのが、もっと辛い。
淡い黄色のドレスを着て、あの儚くも叙情的な声でで僕の心をグラグラ揺さぶってくるはやみんと、
優等生だった昔の僕。昔に帰りたいよ。

カフェテリアで夜、はやみんに会った。僕は心が痛いのを我慢して、勇気を出して、
近寄った。
「月が、ドイツとイギリスの間にあるの。でね、南京大虐殺はあたしのことなんだ。
ジュナン、どう思う?」
「・・・」僕は話をあわせる事にした。「いいんじゃないか」
「そうだよね、キャハハ、あたしもそいつらも疲れてんの」
少し笑うはやみん。ここに来た頃おしゃれだった髪型はいつの間にかボサボサに
なっている。でも・・・
その笑顔にわずかにキュンとなるのはなぜだろう。

 



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